第94話 魔女の涙　作：ヒラーズ

「広いですね・・・」
「まぁ、本の大半は異世界での任務の戦利品だがな」
クォーツ達の前に広がっていたのは沢山の本棚と大量の書物、片付けられているもののどれも他言語を用いた本や巻物ばかりだった。
「俺はお前さんらのお望みものを探しているから、適当に本を読んで待っててくれ」
そう言って陸也は書斎の奥に消えた。
「・・・どうします？」
「そうですねぇ・・・」
「ボク・・・ラテン語なんて読めないよ」
そう言って話していると・・・。
「・・・間違いない！この本・・・実物だ！」
ノイエが動物の皮で出来た本を見ている。
「ノイエさん、その本は？」
「ん？ああ、これか？これは伝説の魔道書の一つ、『エイボンの書』だ」
その言葉にクォーツ達は首を傾げる。
「魔道・・・書？」
「それに『エイボンの書』？」
「そうだ、我々魔女にとっては大変貴重な書物で、魔法を覚える際に使う書物だ」
「それに本物って・・・」
「・・・信じたくないが、ここにある魔道書は全て本物だ」
その時、シャルは思いついた、前世の百騎兵はどこから来たのかを調査してみようかと・・・。
一方、クォーツとノイエは陸也の書斎の魔道書を漁っていた。

「むむむっ！これは『イオドの書』！何故ここに！？」
「これは何だろう・・・『エルトダウン・シャーズ』？」
「なにもかもすごいぞ！『怪物とその眷属』、『カルナマゴス遺言』、『クタート・アクアディンゲン』、『グハーン断章』、『グラーキの黙示録』・・・全巻揃ってるし、全て本物だ！」
ノイエが謎に興奮してる時、クォーツは下の段の本を調べていた。
「・・・『狂える修道士クリタナスの懺悔』、『黄衣の王』、『屍食教典儀』、『セラエノ断章』、『ドジアンの書』、『ナコト写本』、『ナコティカ』、『ナト史』、『フサンの謎の七書』・・・中国語で書かれてる・・・」
「！こっちはえらいものを見つけたぞ・・・『ポナペ教典』、『魔術の真理』、『ルルイエ異本』、『無名祭祀書』、etc.・・・。沢山ありすぎて目が回るな・・・」




一方、シャルとリュウカは百騎兵の前世の人がどこから来たのかを探るべく、クォーツ達とは反対の方の本棚を調べていた。
「駄目、ここにもないよ」
「こっちは良い物を見つけましたよ」
シャルとリュウカは1冊の本を開き、ページに目を通す。
「これって・・・」
「はい、陸也のちょっとした日記ですね」

内容（重要な部分のみ）
陸也（ところどころかけていて陸也の後ろの名が分からない）、1970年、軍事業務執行妨害及び反逆罪として世界に追放される。
なお、彼は不老不死者のため極刑するのが困難と見なし、この世界を追放する刑を執行する。
1月20日
追放世界に来て初日、俺はこの国を統べる王兼神に呼ばれた。
正直、宗教事は嫌いだが、どうやらこの世界では宗教事はない、より社会人らしい仕事を貰った。初の仕事が発明とは少し驚いた。なんとか仕事を終わらせたが、この世界の影響か事故が起きても死なないし、疲労も感じなければ痛みも感じない。
この世界を解明するには多大な時間を食いそうだな。

2月18日
ずっと気になっていた追放世界の神を調べてみたが、どうやらこの国を統べている神は最上位の神格らしい。幾度か検索をかけてみると、この世界を創った神は3人いるという事だ。俺のいる国を統べている神の名は「レクス・マキナ＝プロトコル」という、やや小学生くらいの男の子の姿をした神らしい。
いつも車椅子に乗って行動してるから、少し気にかけると「いつもありがとね」と言われた。別に神だからと言って優しくしてやったわけではない。知ったことはこの神は生まれた頃から体が弱いという事で、足腰の筋肉に影響が出ているようだ。

4月29日
元兵士であったのかよくよく前線に立たされる俺だが、珍しくデスクワークの作業に回された。やれやれ、まともすぎる仕事で良かったが・・・見てみた書類が全て始末書と請求書ばかりだった。「鬼かお前さんは」と言いたくなる1日だった。ある意味では生き地獄を感じたよ畜生・・・。

5月10日
この世界について調べるとすごい事が分かった。この世界に住む住人は「追放者」と呼ばれ、他の世界の住人から嫌われる存在らしい。この世界に来たとたんに影響を受け、体に変異が起きる。あるものは体の部位が変異したり、あるものは体の中身の一部を失うものもいた。
この世界の広さだが、なんと地球の10倍くらいあるらしい・・・でかすぎだ・・・。
その他にも国が2つ存在するが、どこにあるやら・・・。他にも領地化されていない土地は「未開の地」と呼ばれ、なお調査及び探索が進められているらしい。
どんだけでけぇんだよ追放世界は・・・。


以上がシャル達が知った情報だった。


「・・・なるほど、ここは追放世界ですか」
「ところどころ欠けていて、読めないね」
シャルがページをペラペラめくっていると1ページだけ白紙のところがあった。
「？」
「なんか赤文字で書いてある」
その文字を見た瞬間、シャル達に寒気が走った。


『この日記を見ている奴は誰だ？』


その文字に気を取られたのか、背後に陸也がいることを気づかずにぶつかる。
「「・・・っ！」」
「・・・おい、何読んでんだ？探偵さんとお嬢さん」
「いえ・・・その・・・」
言い分けをしようとすると陸也は溜息を吐き、1冊の本をシャルに渡す。
「ほれ、母さんの自作魔道書だ。これの62ページに載ってる」
「・・・いいんですか？」
「正直、探偵さんに渡すのもどうかと思うが仕方あるまい。持ってくかノイエに見せて覚えてもらえよ」
陸也はにこりと笑みを浮かべ、言う。
「この本でお前さんらの世界が救えるなら良い方さ。天国の母さんも喜んでるだろうよ」
その時だった。
「天国だと？貴様、今なんて言った？」
ノイエとクォーツが戻り、陸也の話を聞いていたのだった。




「亡くなったのか？いつ？」
「・・・」
辺りが冷たい空気に包まれ、静まり還る。
「・・・俺が7歳の頃に亡くなったよ。「最後は人間らしく死にたい」ってな」
「っ！！」
突然ノイエの表情が変わり、目から涙がこぼれ出る。
「う・・・嘘を言うな！プラムが死 ぬはずがない！偽りを抜かすな！！」
「真実だ。そうでなければこんな事にもなってない」
陸也の言った真実はノイエにとってショックが強かったのかその場で泣き出す。
「嘘だ！私は・・・・気づくのが遅すぎたと言うのか！」
ノイエは陸也の胸ぐらを掴み、泣きながら怒鳴る。
「教えろ！！いつ頃に亡くなった！何故死んだ！！？」
「・・・それは言えねぇな」
「何だと！！」
だが、ノイエは分かっていた・・・夜会にも入ってない者が自分に死亡報告が来るはずがないと・・・。
ノイエはその場で体勢を崩し、泣き続ける。
「・・・」
彼女の泣き声は書斎に空しく響き、やがては泣き止む。
突然立ち上がり、陸也に背を向けて喋る。
「探偵シャル、本を貸せ」
「・・・え？」
意外な言葉に全員が引く。
「・・・術を覚えてあの忌まわしい月を沈める」




しばらくしてノイエは月を沈める術を得て、書斎を出ようとすると・・・。
「おい待て」
陸也がクォーツ達を止める。
「あの研究所に戻ると言うのか？」
「うん・・・もう・・・帰らなくちゃ」
陸也はどこからか小箱と何やら時計が取り付けられた杖を取り出した。
「コイツを持ってけ」
クォーツに小箱を渡し、ノイエには杖が渡された。
「これは？」
「お前さんらの力になるものだ。それとその杖だが、母さんの杖をお前さんにやるよ」
「・・・っ！」
ノイエはその言葉に戸惑いを見せた。
「・・・良いのか？貴様の母の遺品なんだぞ？」
陸也はノイエの頭を撫で、言った。
「母さんが死 ぬ前に俺にこんな事を言ったよ。『もし、私の弟子に会ったら、これを渡して』とさ・・・」
「！・・・プラムが！？」
「つまりだ」
「ノイエさんの師匠は最後までノイエさんを思ってこれを託したんでしょう」
多少シャルの横槍が入ったが間違いではない。
「・・・ありがとう」
「何、言われたことをやったまでだ。小箱の中は帰った時に開ければいい」
クォーツ達は陸也の家から出て、自分が来た道へ戻り、自分たちが入った扉の前にたどり着く。
「やっと・・・帰れるね」
「ボクはもう少し居たかったけどね」
クォーツが扉を開けると先には自分達がいた客室に戻る。
「後は私の仕事だ。お前達は休んでいてくれ」
「うん・・・」



次回、2日目の旅行

※タイトルが変わる可能性があります。