第167話 恐がりな少女　作：ヒラーズ

廊下に俺の足音だけが響き渡る。
薄暗い廊下を抜け、僅かながら電源のついた部屋に到着する。
恐らくここが実験室だろう。
「待ってろよ、今助ける」
そう言って俺は実験室に入り、辺りを調べる。
「ネクロ！どこだ！」
そう言いつつ、俺は部屋の中をクリアリングしながら調べていく。
すると・・・。
「ここだよ、早いじゃないか・・・」
部屋の端っこでネクロを見つけた。
特にダメージは受けてないが、床に通信機が落ちていた。
俺はそれを拾い、ネクロに渡す。
「・・・何があった？」
「嫌ねぇ・・・先程襲撃に遭ったんだよ」
「誰にだ？お前さんが言ってた女の子か？」
「そうなんだよ！やけに速くてねぇ・・・ハルと同じく緑髪の人間だった。私の呪殺魔法がなかなか当たらなくてねぇ・・・こりゃあ1度撤退を考えたよ」
ハルと同じ緑髪の人間・・・恐らく世界樹の子供だな。
「何て言ってた？」
「いやはや、刃物をちらつかせたらいきなり攻撃してきたんだよ。何でだろうかねぇ・・・」
世界樹の子供は刃物を見ると逃げる・・・逃げるために攻撃してきたのかも知れんな。
「お前さんの言うとおり、ここは撤退だ。今のここは危険すぎる」
「それじゃ回れ右で戻ろうか、事が悲惨な状況にならないうちに」
俺は後ろに振り返り、足を進める。
今襲って来ないなら逃げるが勝ちだろう。
そう言った矢先だった。

ｸﾞｽﾝｯ…ｸﾞｽﾝｯ…

「・・・」
「・・・」
少女のような子供のすすり泣く声が実験室内に響く。
「ネクロ」
「虐めた覚えはないよ？こっちが襲われたし、むしろこっちが被害者だ」
そう言う意味じゃない。
「・・・その少女はどこに？」
「あっちだよ、ほら・・・入り口近くの寝具の下で震えながら泣いてる」
「・・・」
「怖いよぉ・・・切られるのは嫌だよぉ・・・」
俺が見た少女の姿はハルよりも1歳年下っぽい姿をしていた。
緑髪のミディアムで赤と青のオッドアイ。黒いローブを着ており、赤いスカートを履き、小さい足ながらも装甲靴を履いている。
「おい」
話しかけられたのに気づいたのか、少女はこちらを振り向く。
「だ・・・れ？あの怖いお兄さんの仲間？」
「そうになるが、こいつが何かしたのか？」
（え・・・？私が悪い事になってる！？）

「・・・あの・・・その・・・急に攻撃してごめんなさい！」
あっ、普通に謝ったぞ？
「あー・・・大丈夫だ、本人自身は驚いただけだ。何故近づいたんだ？」
「ううぅ・・・折角人に会えると思って近づいたんです・・・」
なるほど、ネクロが反応して刃物を出したから逃げ道を作るため攻撃してきたと言う訳か・・・。
「ははあ・・・つまりお互いが悪いという事か。いやぁ悪かった」
「ごめんなさい・・・」
・・・全くもって人騒がせな奴らだ。来て損したぞ・・・・。
「はぁ・・・お嬢さん、名は？」
少女は寝具の下から出て来て、立ち上がってきてから名を言った。
「セージ・・・、セージ・ルクセンと申します・・・」
「セージ、賢そうな名じゃないか」
「あ・・・私の台詞取られた」
セージは顔を赤くし、俺とネクロにすがり寄る。
「・・・？」
「どうしたんだい？」
「お二人様から・・・いいにおいが香るので、つい・・・」
匂いねぇ・・・俺はそんなの気にしないけど・・・。
「どうするんだい？この子も連れて行くのかい？」
「まぁ待て、セージ、他にお前さんと同じ仲間はいたのか？」
その言葉にセージは顔を下に向け、残念そうに答えた。
「・・・ごめんなさい、その・・・セージは・・・」
嗚呼、「この答え方だと孤立してたのか」っと俺とネクロは同時に思った。
まぁそうだよなと言いつつも、俺とネクロは考えて、セージを連れ出すことにした。















そして、ハルのいるホテルにて・・・。
「・・・」
「・・・」

「あのー陸也君」ﾎﾞｿﾎﾞｿ
何だ？
「あの子達だけにしちゃって良いのかなぁ？途中で喧嘩したりしないよね？」
まぁ確かにこの重い空気だ。多少ああなるだろう。
「私はこのファイルの破損しているページを全て復元させれば良いんだね？1時間かかるけどいいのかい？」
「構わない、今日1日、ハルの疲れがとれるまでの日になるからな。頼む」
俺がそう言うとネクロが「分かったよ」と言って別の部屋でページの復元を行った。
「・・・後は俺で何とかするか」
俺はハルとセージの居る部屋に入り、様子をみる。
「・・・」
「・・・」
相変わらずの沈黙、敵か味方かの警戒か・・・ましてや気が合わないとか・・・。
「・・・喋ったらどうだ？」
「・・・」
「・・・」
まずい、このままでは本当に場の空気が超重力並に重いし暗い・・・。
何とかできないか？
そう考えていた時、最初に口を割ったのはハルだった。
「君も・・・世界樹の子供？」
「うん・・・セージと言います・・・」
顔が赤くなったセージの頭をハルは軽く撫でる。
「・・・可愛い」
「ありがとう・・・」
重くなっている空気が一気に明るくなり、徐々に喋り始める。
「・・・よかった」
俺がそう言ったとたん、ハルが俺に頼み事をしてきた。
「ごめん、陸也さん。またデュエルディスクを貸してくれますか？」
何する気だよ、まぁ言うと思ったけど。
「そう言うと思って帰ってくるついでにこの世界のデュエルディスクを2つほど拾って改修し終わった、好きに使え」
俺がハル達にディスクを渡したとたん、ハル達は喜んでディスクを腕に装着する。
「やったぁ！」
「嬉しいです！」

喜んでくれて何よりだ。
「じゃあ早速だけど」
「うん」
え・・・？何すんの？
ハルとセージはニコニコと笑いながらデッキをセットし、シャッフルする。
そのとたんに目つきが変わった。
まるでそこに敵がいるような眼差しだった。
「ちょっと待て・・・お前さんら！？何をする気だ！？」
なんてことだ！仲良くするどころか争い始めたぞ！？

「「デュエル！！」」


ハル　LP8000
手札5

セージ　LP8000
手札5


「先攻はぼくだ！ドロー！」
ハル
手札5→6

「ぼくは手札のα、β、γ3体の磁石の戦士を墓地に送り、マグネット・バルキリオンを特殊召喚！」
磁石の戦士マグネット・バルキリオン　ATK3500　☆8

「カードを1枚伏せてターンエンド！」
「セージのターン」
セージ
手札5→6

「手札からセイクリッド・ポルクスを召喚しモンスター効果発動！！自分は続けて【セイクリッド】モンスターを通常召喚します！セイクリッド・グレディを召喚し、モンスター効果でアクベスを特殊召喚！効果でセージの場の【セイクリッド】モンスターの打点は500アップします！」
セイクリッド・ポルクス　ATK1700→2200　☆4
セイクリッド・グレディ　ATK1600→2100　☆4
セイクリッド・アクベス　DEF2000　☆4

「永続魔法『セイクリッドの星痕』を発動し、ポルクスとグレディの2体でオーバーレイネットワークを構築！エクシーズ召喚！ランク4、セイクリッド・ビーハイブ！！永続魔法の効果によりカードを1枚ドローします！！」
セージ
手札2→3
セイクリッド・ビーハイブ　ATK2400→2900　ランク4

「バトル！ビーハイブでバルキリオンを攻撃！ビーハイブの効果で素材を一つ取り除いて、打点を1000上げます！」
セイクリッド・ビーハイブ　ATK2900→3900

「させないよ！罠カード『ハーフorストップ』を発動！」
「攻撃をやめます・・・カードを1枚伏せてターンエンド」
何かすごい互角にやり合ってんだけど・・・一応、質問してみるか・・・。
「おい！ハル、セージ！」
声をかけた瞬間、二人の目つきは元に戻り、普通に接してくる。
「？」
「何ですか・・・？」
「・・・！？戻った・・・？」
もしかしてこの子らは同族とのデュエル中はまるで人が変わったかのように言葉と態度が変わるというのか？
「あーいや、喧嘩じゃなければいいんだ。続けてくれ」
俺・・・疲れてんだろうか？寝る必要がないんだけど・・・見守ってよう。それが一番だ。
「じゃあ続行するね、ぼくのターン！」
ハル
手札1→2

「手札から永続魔法『冥界の宝札』を発動し、バルキリオンの合体を解除！」
磁石の戦士α　ATK1400　☆4
磁石の戦士β　ATK1700　☆4
磁石の戦士γ　ATK1500　☆4

ハルの場にモンスターが3体並べられ、重量級のモンスターを出す準備が出来た・・・神が来るぞ、これは・・・。
「3体のモンスターを生け贄に、オベリスクの巨神兵を召喚！永続魔法の効果で2枚ドロー！！」
ハル
手札0→2
オベリスクの巨神兵　ATK4000　☆10

「さらに魔法カード『死者蘇生』！墓地のバルキリオンを蘇生し合体を解除！そしてオベリスクの効果発動！2体のモンスターを生け贄に、ソウルエナジーMAX！」
「セージのモンスターが・・・！」
オベリスクの巨神兵　ATK4000→∞

「喰らえ・・・！ゴッドハンド・インパクト！！」
セージ　LP8000→0

「きゃあああっ！！」

You WIN！
ハル

You Lose…
セージ





「ううぅ・・・負けちゃった」
「やったぁ！勝った！」
ひどい勝利を見たがな。
「・・・」
（まぁ、それでいいか。楽しんでるようだしな、俺は俺のやるべき事をやるか）

俺はハルの部屋を出て、ネクロの居る部屋に入る。




「どうだ？復元し終わったか？」
「もう終わったよ・・・さぁ、二人でパンドラの箱を開けようかねぇ」
「・・・」
俺とネクロは復元されたファイルを開き、ページをめくった。









次回、さらなる深淵へ
※タイトルが変わる可能性があります。