第163話 世界樹の子供　作：ヒラーズ

「陸也くーん！ヒントはあったかね？」
「駄目だ！どの民家に入っても見当たらない」
カナダに着いた俺達は、手当たり次第、民家や特別な建物に入っては探索を行っていた。
しかし、予想外の事が起きたのか機械らしきものが何一つ見当たらない。
「参ったねぇ・・・あと残るとすれば」
「ショッピングモールか・・・悪い予感しかしないんだが・・・」
俺達はカナダのショッピングモールへ足を踏み入れていた。










ショッピングモール内1F
辺りはガラスや瓦礫が散乱し、かなり悲惨な状況を物語っていた。
「先ずは1階から潰すぞ」
「なるほど！」
俺達は各自散開し、探索を始めた。
そして30分後・・・。

「服の売ってる店や、ゲームセンターにもいないか・・・トイレにも居なかった」
「食品売り場に行っても居なかったよ、ついでに2階と3階、屋上と見てきたけど・・・後は劇場エリアだけになったねぇ」
1度集合し、劇場エリアの扉前に俺達は話し合っていた。
「よし、怪しいところはここだけだ、俺が先行する」
「良い肉壁、頼んだよ」
誰が肉壁だ・・・捨て駒じゃないぞ。
「はぁ・・・いくぞ」
俺は扉を蹴破り、劇場の中に入る。
中はだいぶ崩壊しており、地面が大きく割れ、やや地盤沈下している。
何があったんだここ・・・。
「酷いねぇ・・・これは自然災害以上の被害だ」
「気をつけて歩かないとな・・・ん？」
「どうしたんだい？」
いや・・・何か、人影のようなものが見えたような・・・。
「・・・今、人の影のようなものが見えた」
「気のせいじゃない？私は見えなかったけれど・・・？」
気のせいならまだいい、確かに見えたような・・・。
「そう言えば君、超能力者だから幽霊見えるんだったね」
「・・・」
俺は人影が去った方に足を進ませ、奥に入る。
中は衣装や化粧道具が散乱した部屋となっていた。
「・・・衣装部屋か・・・」
「ここにも居ないねぇ・・・」
俺は辺りを見渡し、カーテンに隠れた扉を見つける。
咄嗟に扉を開けると、地下に通じる階段を見つけた。
「・・・どうやら災害だけじゃないな」
「人的災害もあり得たっと言うことかねぇ・・・興味深い」
嫌な予感がする・・・正直降りたくないな。
それに・・・嗅いだことがある臭いがするし・・・。

ｸﾞﾁｬﾘ…ｸﾞﾁｬﾘ…

「いいねぇ！血生臭く死肉を食い散らかす音も聞こえ・・・音？」
ほれ見ろ、勘が当たった。
絶対下に何かいるだろ・・・。
「ネズミの類の化け物か・・・ましてやバイオテクの副産物で完成した生物兵器か・・・」
「陸也君、それは映画かゲームだけにして置いた方が良いよ。ここに居る人類は皆無に等しいんだ、その可能性は考えない方が良いよ」
その時だった。
「れか・・・助け・・・て・・・」
「・・・！？」
「生存者の声！？」
確かに聞こえた・・・少年のような声、襲われてる！？
「行くぞネクロ！」
「面倒くさいねぇ・・・！」
俺達は階段を滑るように降り、声のした方に走る。
「この部屋からだ！」
「機械整備室・・・油断できないよ！」
俺達は扉を破り、中に入る・・・。
すると・・・。
「むっ！」
「げっ！？」
俺達が見たのは巨大なカマキリのような虫、腕である鎌は血にぬれ、今部屋の隅で震えている10歳くらいの子供の体を切ろうとする姿を目撃した。
正直俺は虫が嫌いなんだが・・・。
「ちぃ・・・！」
俺は電磁鈍槌を取り出し、巨大な虫を殴る。
「ｷﾞｷﾞｨ…！？」
「え―――――」
巨大な虫は左の壁まで吹っ飛ばされ、動かなくなる。
「大丈夫か？」
「ええと・・・お兄さん達は？」
「お話は後にしよう、脱出だ！」
俺は子供を抱き上げ、地下への入り口まで走った。













「こ・・・ここまで来れば良いだろう・・・」
連れ出した子供・・・少年の姿は・・・緑髪のショートに青と黒の混じったローブを着て、下には黒色の長ズボンを履いている。靴は・・・軍で使われる靴だろうか？スパイクみたいなのがついているが・・・。
「あの・・・お兄さん達誰？」
「そうだねぇ・・・じゃあまずその怪我を治してからだ」





「そう・・・レンギアさんを探しに来たんだ・・・」
「知ってるのか！？」
「知ってるけど・・・ろくおんでーたを探しに来たんだよね？」
そうだが・・・。
「ごめん・・・そのでーただけど・・・壊しちゃった・・・」
・・・は？
「なんてこったい・・・貴重なヒントを・・・」
「・・・この子は悪くない、責めるのは大人げないぞネクロ」
「でも、行き先は知ってる・・・フランスに行くと言ってた」
どうやらこの少年、レンギアとの関わりがえらくありそうだ。
「随分と遠くまで移動したねぇ・・・」
「聞いてなかったが、少年・・・名は？」
「ぼく・・・？」
少年は少し黙った後、小さい声で喋る。
「ハル・・・、「ハルバード・リンクス」・・・」
「ハルか・・・良い名だな」
俺はハルを少しだけ休憩させた後、ハルを立たせ、事情を聞く。
「色々聞きたい事があるが、いいか？」
「・・・いいよ」
「じゃあ・・・お前さんはどこから来たんだ？」
「・・・イギリス、・・・なくなったけど」
なるほど・・・カナダに滞在中の英国人だったのか。
にしては若いが・・・。
「次だ、何で汚染されたこの世界をロクな装備なしで生きているんだ？」
「わからない・・・けど、ぼくだけ平気なのは変わらない」
この子は特殊な体質があるのだろうか？
「けど、皆ぼくに対して変な事を言うんだ・・・」
「・・・？どんな？」
「・・・「世界樹の子供」とか、「人外もどき」とか言われる・・・」
何かすごいワードが出てきたんだが、気のせいにしておこう。
「親やお友達は？」
「皆・・・あの大きな虫に食べられちゃった・・・」
「「！！」」
この子はあまりにも酷い惨劇を見てしまったらしいな・・・可哀想に・・・。
「陸也さん達も行っちゃうの・・・？」
「ああ、レンギアを探さなくてはいけないからな」
ハルは顔を下に向け、がっかりした声で言う。
「そう・・・行っちゃうんだ・・・また・・・一人になっちゃうんだね、ぼく・・・・」

「・・・（ちょっと陸也君？まさかだと思うけど・・・）」
「・・・（そんなのは俺の勝手だ、ネクロには関係ないだろ）」
「・・・」
俺はハルの前に近づき、手を差し出す。
「・・・別にお前さんを置いていくとは言ってないだろ？」
「え―――――」
「子供を1人廃墟に取り残す阿呆がどこに居る？こんな危険な場所に取り残す大人なんぞ教育がなっていない証拠だ、簡単に言うと・・・レンギア捜索に手伝ってくれるか？」
その言葉でハルの表情が明るくなり、差し出した手を握った。
まるで無邪気な子供に戻ったような笑顔を俺達に見せた。
「・・・うん！」
「あのー・・・お二人さん、私空気になってるんだけど・・・」
ああ済まん、ついつい話が進みすぎてしまってな・・・。
「次はフランスだったな。テレポートで移動する、俺に触れててくれ」
旅は道連れ世は情けとはこの事とはな・・・。
「じゃあ行くぞ、転移中に気絶するなよ？」
俺は能力を使い、フランスへ転移したのだった。














同時刻、ダークテラのフランスでは・・・。
「おや・・・？新しいお客様がおいでのようですね・・・魔法生物ではないが、何やら強い力を感じる・・・」
一人のネクロマンサーが杖を持ち、ふらふらと歩き、立ち止まる。
「ククク・・・この感覚・・・ああ！超能力者と同業者に世界樹の子供が来るのですか！何とも素晴らしい・・・！ゾクゾクします・・・」
ネクロマンサーは再び歩き出し、獲物を求めて、フランス国内を歩き出したのであった。








次回、世界樹への道
※タイトルが変わる可能性があります。