第１１２話：会談の前の密談　作：チュウ

　「ここが、ロッソ領主の城か」

　時刻は夕方を過ぎ夜となった時間帯。俺達はロッソ領主の招待に応じるためにこの町で一番大きい領主の城に来ていた。
　門番は直ぐに通してくれたため、特に何の問題もなくすんなりと城に入れた。

　領主だけあって城の中は豪華絢爛と言わざるを得ない。
　中に入るなり、メイドの人に呼び止められて城内を案内してくれた。そして、件のロッソのいる部屋までとうとう辿り着いた。

　「ようやく来たか。思ったより遅かったじゃねぇか」
　「色々あって遅れました……」

　割としょうもない事で揉めていたからな……遅れた理由なんて言える訳がない。

　「まぁいい。でだ、罠使い……ツカサだったか？俺様がお前を呼んだのは他でもない。聞きたい事があるんだよ」
　「聞きたい事？」

　いったい何を俺から聞きたいというのか。

　「単刀直入に聞きてぇが、その前に聞きたい……お前は今の青の国に忠誠を誓っているのか？」

　ロッソ領主の話しの意図が分からない。忠誠云々がどう関係してくるのか……それによって俺の答えも自ずと変わってくる。何て答えるべきか……

　「忠誠を誓っている訳じゃないです。ただ、そうしなければならない事情があるから青の国にいるだけです」

　考えた末、かなり嘘は言わずに抽象的に事情を話した。

　「その事情も知りてぇところだが、お前からすれば俺様の事が信じられない立場にあるからな。無理もねぇ。だがら、俺様もお前に重要な事をこれから言おうと思う」
　「重要な事？」

　ロッソ領主の表情がこれまでにない程真剣なものになった。
　そして、少しの間の後にロッソ領主は口を開き始めた。

　「もし……俺様が青の国に寝返るって言ったらお前は俺様を擁護してくれるか？そこの青の国のお姫様も含めてだ」

　あまりの内容に驚きを隠せなかった。
　もしもの話しとは言え、赤の国を裏切ると宣言したって事だ。

　「……ツカサの味方をするなら私はいいわ」

　フィオラが一瞬何かを考えた後そう話した。

　「おい、いいのか？そんな簡単に決めて……」
　「……私にとって大事なのはツカサだけなの。ツカサの味方が増えるのは寧ろ歓迎よ」

　国どうこうの前に俺が優先って……まぁ、これまでのフィオラの態度を見ていれば納得の言動だが……

　「俺様的には後ろ盾が得られればいいからなぁ。歓迎してくれるのであれば何でも構わねぇよ」
　「……でも、私は国での立場がないから直ぐにとはいかない」
　「その辺も調査済みだよ。だがな、今の国王やお前の兄に付いて行く気にはなれない。まぁ、ここでの話はもしもの時の話をしたかっただけだ。心の中に留めておいてくれや」

　もしもの話しの内容が大げさ過ぎるだろ……だが、何でこんな話をしたのかは気になるな。

　「ロッソ領主、何故赤の国を裏切ろう何て考えているのですか？」
　「まぁ……疑問に思うわな。今の赤の国は潰れる寸前に立たされている。現国王は病に臥せっているし、その後継者の第一王女のクレア様は身勝手の権化だ。どんな無茶苦茶をするか分かったもんじゃねぇ」

　この国のトップもかなりの問題を抱えているのか。
　青の国もヤバい状況だが、これはどっちもどっちに見える。

　「第二王女のフレア様が矢面に立ってくれたらいいんだが、何せ立場が弱いし敵も多い。真面目にやろうって奴ほど叩かれるのが、今のこの国のトップの現状さ」
　「ロッソ領主は第一王女よりも第二王女の味方って事ですか？」
　「いや、中立さ。ただの領主風情じゃ何にも変えられない。だから、自分の町は自分で守ろうと、奴隷まで買って戦力を整えようとしているのさ」

　領主が奴隷を買うなんてどんな腐った町なんだと思ったが、そういう理由があったのか。厳つい見た目や粗暴な言葉使いからは想像できない程思慮深い人だな。

　「……青の国も赤の国より優れているとは思えないけど」
　「そこには俺様も同意だ。だがな、乗っている船を無理やりに乗り換えてでもしないといけない事情ができたんだよ」

　裏切る理由がトップの腐敗以外にあるって言うのか？

　「俺様が掴んだ情報だと、近々赤の国と青の国が国境付近で戦争をし始めるみたいでな。その時に赤の国が負けるとこの町が戦場になるからな。勝ち馬に乗りたいのよ」

　戦争！？青の国は黄の国を滅ぼしたばかりだというのにもう次の戦争を始めるのか。自国の疲弊を考えないのか……

　「だが、赤の国が負けると決まった訳じゃないんでしょう？」
　「負ける可能性が大きいからこんな話をしてるんじゃねーか。俺様は自分の町を守る義務があんだよ。俺様は勝つためなら手段なんて気にしねーからよ、裏切りもこうやって視野に入れてんのさ」

　大胆というか何というか……
　だが、手段はどうあれ、領民を守る心があるのには感心する。これまで碌な貴族に会ってこなかったからな。もちろんフィオラは除外して話しだ。

　「まぁ、考えておいてくれよ。俺様としては前向きに考えて欲しいところだがな。おっと、そろそろアイツらも来る頃だな」

　アイツら？あ～……そういえば、俺以外に招待していたっけか。遊輝達を……正直、今は会いたくないというのが本音だ。だが、そうも言っていられない。

　「因みに俺はこれから来る奴に会わなくてもいいとかあります？」
　「んな訳いくかよ。ちゃんと出席してもらうからな」

　だよな……

　「そうだ。くれぐれも俺様と事前に会っていた事は言うなよ？これからやる話し合いは俺様の思い描いている通りの段取りで勧めてーんだよ。だから、ツカサには俺様とは初対面ですって感じで話して貰いてーんだよ」
　「演技をしろって事か……まぁ、構いませんが……」
　「なんだよ、セコイとでも思ってんのか？」

　有体に言ってしまえばそう思っている。

　「頭脳派と言って欲しいところだな。とにかく頼んだぞ？事前に会ってたなんて分ったら印象悪いからな」
　「分りましたよ。そうだ、フィオラには後ろで控えていて貰いたい。何かあった時にいつでも逃げられるように後方支援してくれる人が欲しい」

　これから会うのは遊輝だけじゃない。エルフ族の人に赤の国の第一王女も居るんだ。トラブルになった時に手が出せる人が一人居るだけで安心感が違う。

　「……分かった」

　フィオラからの了承は得られたな。

　「妾はどうするんじゃ？」
　「シャルルは……一応俺と一緒に居てくれ」
　「分かったのじゃ。せいぜい、ツカサの奴隷らしく大人しくしとるかの」

　言い方……いや、奴隷なのは変わらないのか？奴隷売買所で買った扱いだからな。料金はロッソ領主持ちになったから出費ゼロで王女様を買ったとか……かなりいけない事をしている気がする……

　「はぁ……とにかく、行くぞ」

　俺とシャルルはロッソ領主と一緒に遊輝達と待ちあう会場へ向かった。





※この後で４２話に繋がります。