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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第22話:昔話し

第22話:昔話し 作:チュウ

 「見えてきましたね、あれがエルフの森です」

 フレアが俺に説明すると、俺は窓から森のある方向へ視線を向けた。

 「めちゃくちゃ広そう……」

 「一応街道が途中まで引いてあるので、そこまでは大丈夫です。あとはエルフの出方次第ですね」

 「どういう事だ?」

 「一応赤の国とエルフは不可侵の協定を結んでいるのです。有事の際以外は接近禁止なんですが、今回は有事ですので、協力要請の手紙を事前に送っているのです」

 そこまでエルフ達は人間と関わりたくないのか……

 「なんでエルフ達は人間と関わりたくないんだ?過干渉しろとは言わないが、別に行き来するくらい……」

 「エルフ達はどちらかと言えば精霊側の者達なんです」

 精霊側っていうとシャイニーが言ってた人間が裏切ったって話しか?

 「シャイニー、その辺俺は分からないんだが教えてくれないのか?」

 正直、精霊やエルフと人間の仲が悪い理由が分からないから話しにも付いていけてない事が多いんだよな……

 「そうですね……まぁ、いいでしょう。ユウキも巻き込んでしまいましたから、部外者扱いするのも違いますしね」

 シャイニーはどうやら説明してくれるみたいだ。

 「この世界を女神様が作ったのは今から1000年程前とされています。世界創世の最初期以外では人間や亜人の他に精霊も一緒にこの世界で暮らしていました」

 1000年も前って想像もつかない昔の話しだな。てか、精霊も一緒に暮らしてたのか……

 「亜人って?」

 「獣の特徴を色濃く残した人間種や悪魔の特徴がある人間種、精霊の特徴をを受け継いだ人間種と様々ですが……それぞれ、獣人族・魔人族・エルフ族と今は呼称されてますね。そこに普通の人間族がいるのです」

 エルフの他にもいるんだな……この辺は本当にファンタジー世界だよな。

 「そしてこの世界が誕生してから500年の時が流れました。文明は発達し生活の質は格段に向上しました。ですが……これも定めなのか、種族間での抗争が徐々に表面化していきました……」

 それってつまり……

 「種族間での戦争時代に突入したのです」

 やっぱり……

 「最初の火種は簡単な主張でした。獣人族と魔人族の扱いが悪いと、人間族に対して抗議がありました」

 「なんで扱いが悪かったんだ?」

 「その話しをする前に順を追って話しましょうか……この世界が誕生してから生まれた動物以外の種は、最初人間族と精霊だけでした。エルフ族は後から人間族の中から自然発生していった種族なので、まぁ、人間の突然変異……と言っても間違いではないでしょう。それを言うと今のエルフは激怒するでしょうけどね……」

 「なんで急にエルフが誕生したんだ?」

 「詳しい原因は不明です。恐らくは、人間が精霊と深く長い時間関わった事が原因だと思います。精霊は人間とは比較にならない程の魔力量がありますから、人間がそれに当てられたのでしょう……そうして人間の中で人体が変異してエルフという種族に変化し、徐々にその数を増やしていったという感じです」

 成程……あれ?獣人族と魔人族は何処に行った?

 「ユウキの今考えている事はこれから話しますよ……こほん!この世界の誕生から300年経った頃、今から700年前ですが……ある人間が禁忌を犯したのです」

 禁忌?

 「当時、人間族の間で領有権の争いが徐々に起きていた時代でした。理由は資源や魔力の恩恵を受けやすい場所、住みやすい土地など様々でした。人間達は力を求めて精霊に各々協力を求めました。戦いは拮抗していました……そんな中、兵器開発のような事をした人物がいました。その名はディモンド……精霊の力を引き出すために大量の精霊を実験に使用した大罪人です」

 ディモンド……

 「更に精霊だけでなく、人間すらも実験に使用する倫理観もなにもない人物でした。その実験の結果、生まれたのが魔人族でした」

 種族を人為的に生み出したのか!? 

 「魔人族はエルフ族よりも驚異的な魔力量を誇り、身体能力もずば抜けていました。当時、エルフ族は人間との交流はありましたが、領有権に関しては関わりたくないというのが彼らの主張でしたので、森に隠れてしまったのです。エルフ族を味方につけられれば、その陣営は大きく他よりも優位に経てたでしょうが、協力しないとなれば代わりを用意しようと思ったのでしょうね……ディモンドがやったのは、エルフになり替わる物を作る事だったのです」

 正直ここまで酷い事ができる奴がいるなんて信じられない自分がいる……

 「そうしてディモンドは勢力を拡大しましたが、それを良しと思わなかった人間と精霊が大勢いました。そこで、脅威に対抗するために、精霊達は協力してある魔法を完成させました」

 「ある魔法ってなんだ?」

 「決闘(デュエル)です!」

 デュエルだって!?あれが魔法!?

 「正確には私と闇の妖精が別世界を覗いて、それを参考にして組み上げたシステムです。このデュエル中であれば危害を加える事ができないため驚異的な魔力量や、身体能力は関係ありませんから」

 な、成程。

 「デュエルによって、精霊達の力を人間達に使わせて、ディモンド率いる魔人族の軍団を排除する事ができました」

 デュエルができるようになった経緯が戦争だったなんて信じられないな……

 「しかし、戦争が作った傷跡は大きかった……エルフ族はこれを皮切りに、人間達との交流を遮断しました。理由は簡単でいつ同じ目に合うか分からないから、野蛮だからとかがありました」

 まぁ、そう思うのも仕方ないよな……

 「精霊達はまだ人間達と交流を続けていました。理由は精霊達は魔力がないと生きていけないのです……自然発生する魔力だけでは我々は少々生き永らえる程度ですが、人間や他種族と契約してその魔力の恩恵を受けるとより強い力を発揮し、永遠に近い時間を生きる事ができるのです」

 「人間の俺が言うのもあれだが、その時にエルフと一緒に人間を見限って森に住むじゃダメだったのか?」

 エルフも魔力はあるだろうし、何より人間より多いみたいだしな。

 「これは精霊側の都合ですが、エルフ族は魔力量が多い代わりに種族としての総数が少ないです。出生率が極端に低くて契約できる者が少ないのです。しかし、人間は魔力量こそエルフに劣るものの、数は多いので契約者に困りません。なので、我々精霊は人間との関係を継続していこうと思う者が多くいました。それに……”当時はデュエルが人間しかできない”というのが思いのほかネックでした……精霊達は当時から危惧していました。デュエルが悪用される事を……」

 悪用?

 「人間族は他の種族と比べてそれ程強くないです。ただ、適応力や応用力、発明などは人間族が圧倒的に勝ってました。例えば戦争が種族間で起きれば、人間側は窮地に追いやられる可能性がありましたが、力の差を簡単にデュエルでなくしてしまったのです」

 そうか……デュエル中は危害を加えられないから、力の弱い奴でもデュエルが強ければ勝てるのか!

 「そして危惧していた事が起き始めました。発端は種族同士に優劣が生じていた事です。ディモンドの件から年月が経ち、生き残った魔人族もこの世界に根付き始めていました。しかし、想像以上に人間達に虐げられていました。なにせ、争いの首班と大きく関わりがあった種族です。受け入れられる筈もありませんでした……」

 生まれてきたくて生まれた訳じゃないのに……

 「程なくして獣人族が誕生しました。この種族はエルフ族の時と少し似ていて、今度は魔人族の突然変異で誕生したのです」

 「なんでそんな突然変異が起きたんだ?」

 「恐らくは、魔人族の出生率の低さが招いた事だと思います。エルフ族と同じで魔人族も種を残す能力が人間に比べて低いのです。劣悪な環境に身を置き続けたからなのか、その突然変異が急速に起き始め、獣人族が急速に増えていきました。それにより、獣人族は自分達は魔人族ではないと主張する者が増え始め、魔人族から独立し始めていき、ちょっとした争いとなりました。当時の事は獣魔戦争と呼ばれているみたいですね」

 なんだか戦争ばっかしてるな……

 「結果、両者痛み分けとなり、魔人族は獣人族を追放……獣人族は新天地で独立を果たした……となってます」

 「痛み分けって獣人族もやっぱり強いのか?」

 「魔力量が大きく減った代わりに、身体能力が向上し、繁殖能力も人間並みにまでなりました。なので、力にものを言わせたら種族の中で一番強いでしょうね」

 やっぱり獣人族は力が強いのか。俺の中のイメージ通りだな。

 「ここで終わればよかったのですが……人間達との確執は魔人族も獣人族も変わらずあって、度々問題となってました。領有権もそうですが、人間達は2つの種族を種とは認めず、物のように扱い始めました……他種族奴隷制度の開始です」

 ど、奴隷!?

 「奴隷制度なんてあるのかよ!?」

 「お恥ずかしいですが、事実です……赤の国の首都であるヴァーミリオンでは廃止してますが、赤の国が治める他の町では、密かに存在しているようで……黄の国以外の他国も似たような感じと伺ってます。因みに黄の国は獣人族が治めている国です」

 フレアが補足の説明をしてくれた。
 黄の国にはないのは、そもそも獣人族が治めているからか、そりゃそうだ。

 「話しを戻します。劣悪な環境や対応から抗議が2つの種族から出ました。しかし、それを聞き入れる人間は殆どいませんでした……そうして、この世界が誕生してから500年が経ち、いよいよ最初の方で話した種族間戦争になります」

 いよいよ……

 「最初に起きた戦争は、獣人族と魔人族達が手を組み、人間族を滅ぼそうというものでした。ですが、ほぼ人間族の圧勝のような形で収束しました。当然でしょう……彼らは満足にデュエルができませんでしたから。ただ問題はそこからです……」

 問題?

 「人間達はこの戦争の勝利で考えてしまったのです……エルフ族も倒せると」

 ま、まさか……

 「種族間戦争は何の関係もないエルフ族も巻き込んでいきました……しかし、精霊達も流石にこれ以上は協力できないと人間達に苦言を呈しました。まぁ、それ以前から色々言ってはいたのですがね……」

 精霊達とも険悪になっていったのか……

 「人間達は他の種族よりも貪欲である意味賢いです……人間達は精霊を思いのままにするために、今までは精霊を召喚するだけでしたが……カードを作ってその中に精霊を封印する仕組みを作り上げました」

 「元々はカードゲームしゃなかったのか?」

 「参考にしたものはカードゲームでしたが、カードにはしませんでした。あくまでも精霊と契約して呼び出す……といった方法を取りましたので……」

 「なら、なんでカードなんて出て来るんだ?人間はそれを知らない筈だろ?知っているのは精霊側にしか……まさか!」

 「はい……お察しの通りです。そしてそれをしたのが、私です」

 どういう事だ!?

 「私が昔、人間の前である時言ってしまったのです……別の世界の事を……カードの事を!それを覚えていた人間がいたのでしょうね……カードに封印されれば私達は言う事を聞かなければならない……瞬く間にカードと言う方式は人間達の中で広まりました。結果、人間族のひとり勝ちのような状態になりつつありました」

 どうなるんだよこの戦争……

 「世界のパワーバランスが大きく崩れてしまったため、とうとう女神様が動いたのです。ここからが、この世界でもよく伝承として書かれている”女神の裁き”になります」

 女神の裁き……

 「女神様はその力で無差別に人間達に向けて雷を降らせ続けました。世界を巻き込んだ大魔法だったのか、その攻撃は狙った場所に撃てる訳もなく様々な種族も甚大な被害を受けました……私達精霊も同様に」

 もう言葉も出ない……

 「そして女神様はこの世界に残った全ての精霊を精霊の世界という場所に移しました。これにより、簡単に精霊と契約できなくしました。人間達も女神様の怒りに触れたと考え戦争は収まりました」

 だから精霊達は……

 「苦言を呈したにも関わらず、人間達は私達精霊を最後は道具のように扱いました。なので精霊達は人間を嫌ってます。ですが、魔力がなければ生きていけないのは変わらない……精霊達の間でも未だに物議が出ますが、大半は人間との契約を受け入れます。それもそのはず、今でこそ他種族もデュエルができますが、魔力量や種族内での総数を考えた時、どうしても人間が一番精霊にとって都合がいい存在となってしまうのです。だから、精霊達は諦めたんです……人間達が私達をどう扱おうと、他の種族をまた敵に回そうとも、深く干渉せずに恩恵だけ貰えればいいと……」

 そんな事があったのか……

 「……大昔の文献は古くから存在するヴァーミリオン家でもあまり残ってません。シャイニー様の話しが本当の歴史であれば、私達はまた同じような過ちを繰り返しているのですね」

 フレアさんの一族は古くからいるのか……同じ事って……

 「人間族の中でも取り分け、貴族が魔力を有し、精霊と契約できるようになったのは恐らくは遥か昔からの事なんでしょうね……住んでた精霊が精霊の世界へ行ってしまい、”精霊との契約がし辛くなった”……これが原因で既得権益を守りたい者が寄り集まり、今の現状を作ったのでしょうね」

 確かにフレアさんの予想は当たってるのかもしれない。昔は結構な人がデュエルできたみたいだし、その数が減るのはおかしいもんな……

 「私から言えば、予想通りと言わざるを得ないですね。人間族の数が他の種族より多くても、デュエルができる人数が減れば種族としての強さも下がってくる……そうすれば、他種族とのパワーバランスも保たれますから。まぁ、最初の思惑は違ったのかもしれませんが、時の流れに人間は特に逆らえませんからね……いつかは私の予想通りになると思ってました」

 織り込み済みって事か……なんだか気が重たくなってきたな……エルフ達ともひと悶着あったみたいだし、上手く事が進めばいいけど。
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