第３４話：四面楚歌の会議　作：チュウ

　俺達はエルフの森を一旦後にして赤の国の首都であるヴァーミリオンに帰って来た。エルフの森への援助は継続するとして、目下の問題であるエルフ救出のため、その居場所をまずは突き留めなくてはならなかった。俺と戦った異世界人の大圓寺正義曰く、青の国のほど近い場所に位置する村に俺とシャイニーが追いかける人物……モディファーがいたと言っていた。また、司が青の国へ行くと言っていた事からも、青の国には何らかの手がかりがあると見たフレアは青の国へ向かう準備に奔走している。だが……上手くいかないのがお国事情というヤツらしい……

　「ですから！青の国への使者の派遣と国防衛の為に人員の確保含めて協力をお願いしたいのです！」

　フレアは今、赤の国の貴族達と会議をしている。今回の会議の議題は闇の尖兵の脅威に対する対策と青の国への対応とフレアは事前に言っていた。俺は会議には参加できないし、しても力には慣れない……だからこうして会議をしている扉の外で待機をしていた。少しでも現状を俺なりに把握したいと思ったからだ。

　「だが、確たる証拠がないのだろう？それで何時来るかも分からない敵に備えろと言ってもねぇ～……それに青の国が関係しているとも言えないだろう？」

　「そもそも国民からも我々国を支える貴族に非難の声が多数届いている！外に金をばら撒くくらいなら、自分達に配るのが先だろみたいな陳情がな！」

　なんだかフレアを攻め立てているように聞こえる。フレアのやっている事ってそんなに駄目な事なのか？

　「その陳情が来るレベルまで放ったらかしたのは何処の誰ですか！それにエルフ達とは不可侵協定を結んでいます。有事の際はお互いに協力するという条項……今回は我らが国王の命に関わる一大事であり、条約に十分当てはまります！それにエルフ族側も森を焼かれ、剰え同胞を捉えられるという危機に瀕しています。互いに条約に当てはまる要件ならば手を差し伸べるのは当然ではありませんか？」

　扉の奥からフレアが何時になく怒っている声が聞こえる……それ程、他の貴族に対して思うところがあるって事なんだろうか。

　「エルフの森に植生しているエーテルという秘薬か……確かに国王が助かる見込みはありそうだが……」

　歯切れの悪そうな貴族の声が聞こえる。

　「我々はロッソ領の問題で手一杯なのだよ」

　「ロッソ領……ここ最近になって噂だっている奴隷売買の件ですね」

　ロッソ領ってところで奴隷売買？が行われているのかよ……確か前にフレアが自国内にも奴隷制度が密かにあるって言ってたか……

　「そうなのだよ！我が国は奴隷売買を禁止にしている！赤の国の首都であるこのヴァーミリオン領内では我々が目を光らせているため、そう安々とは隠れて売買はできん。だが、他の領内では中々厳しい現状がある。今までは鳴りを潜めていたが、ここ最近になって大きく動く事が目立ってきた……これは我が国にとっての一大事であり恥なのだよ！」

　「ですが、国王不在の状態は非常に不味いです。まずはこちらから改善しなければなりません！」

　国王がいなくなったら不味いんじゃないのか？エーテルを貰う条件もエルフ救出だから何とかして青の国に行って情報を集めないと手遅れになっちまうぞ？

　「そうだ！では同時に取り掛かるというのは如何でしょう？フレア様はロッソ領の件を、我々が青の国の情報収集に努めましょう」

　「何故そうなるのですか？」

　「ロッソ領の問題は恐らく荒事にも発展する恐れもある……不甲斐ない話しですが、この国で一番デュエルの腕が立つ者はフレア様です。ご存じの通り、武力による介入を試みても強制決闘の魔法により、直接的な戦いが意味を成しません……数で攻めようともそれは同じ事……ならば最初からデュエルの強い者を送り込むのが定石！青の国に関しては情報収集に徹すれば無用な戦いは避けられる筈です！これが最善策かと……」

　「理解はできますが……」

　フレアの声が何となく納得していない様に聞こえた。

　「素晴らしい！その案で行きましょうぞ！」

　「うむ！」

　次々と他の貴族達の賛成の声が大きく広がっていく。まるでフレアの味方がいない事を表しているかのように俺には思えた。

　「おや？そこにいるのはユウキ様ではないですか？」

　扉の前で会議の話しを聞いていた俺に声を掛けて来た人物がいた。

　「ギュンターさん？」

　「こんな所でどうしましたか？」

　「フレアが会議中で待っているんですよ」

　「そうでしたか……まぁ、会議の内容を口外しなければ別段ここにいても構いませんけどね」

　うぐっ……まぁ普通に釘刺されるよな……

　「気をつけます……」

　「ハハッ！信頼していますので大丈夫ですよ。それと丁度良かった」

　ん？なんだろうか？

　「以前に取引した事を果たしに来ました」

　「あら？ようやく聞けるのね」

　突然シャイニーが現れた。時々デッキの中で寝ていて、こうやって突然の様に顔を見せに来るからその時ちょっと心臓に悪いんだよな……

　「と言っても……どうやらさきのエルフの森での事件である程度情報を掴んだとフレア様より伺っております」

　青の国に俺達が探しているモディファーと司、闇の妖精クロリムがいるって掴んだからな。もしかしてギュンターさんの情報も同じなのか？

　「私が掴んだ情報は青の国周辺で闇の尖兵を頻繁に見かけるという情報でした。なので、ユウキ様達が掴んだ情報よりも劣っていますかね……」

　確かに……こっちは主犯格を見つけてるからな。

　「これでは取引が成り立たないので、新たに情報を仕入れて参りました」

　「殊勝な心がけね。それで情報とやらはどんなものなのです？」

　「フレア様やユウキ様が持ち帰った情報から改めて青の国に斥候を放ち、少しではありますが情報収集をしました。その結果色々な事が少し分かってきました」

　色々な事？

　「青の国は現在かなり内情が不安定のようです。経済状況の悪化、民衆からも非難の声が多く上がっているようです。おまけに魔族の領地や黄の国への進攻もしていたりと周辺からの印象は最悪、城内には闇の尖兵らしき姿も確認されていますし確実に黒ですね……恐らくはユウキ様達が求めている人物もいるのではと思われます」

　成程、完全に黒だな。

　「でもわざわざありがとうございます。調べ直してくれたんですね」

　「当然です。取引を反故にする訳にはいきませんからね……それではユウキ様私はこれで失礼致します」

　ギュンターさんは去って行った。

　「さて、フレアを待つとしますか」