第112話：浸食　作：光芒

「なっ……！？」
「月光舞豹姫の効果にチェーンしてPゾーンのアークペンデュラムの効果を発動。オッドアイズが破壊された時、デッキ・手札・墓地からオッドアイズ1体を特殊召喚できるわ。その効果で戦闘破壊されたボルテックスを特殊召喚したのよ。チェーンの関係で月光舞豹姫の攻撃力は200アップするけど、その処理終了後に特殊召喚に成功したボルテックスの効果で舞豹姫をバウンスさせて貰ったわ」

　オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴンは融合召喚成功時ではなく、特殊召喚成功時に攻撃表示モンスター1体をのバウンスを行う。そのため、仮に除去されたところでアークペンデュラムの効果で蘇生すれば毎ターンそのバウンス効果を発動することができるのだ。

「ぐっ……守備力のたかいボルテックスを攻撃表示にしていたのも……」
「そう。あなたの攻撃を誘発するためよ。留奈ならきっと攻撃してくると思ったからね」
「……わたしはバトルフェイズをしゅうりょう。これでターンエンドだ」


紫苑　LP5000　手札1枚
デッキ：32　モンスター：1（オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン）魔法・罠：1（天空の虹彩）墓地：2　Pゾーン：青/赤8（オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン）除外：0　エクストラデッキ：13（3）
留奈　LP8000　手札2枚
デッキ：33　モンスター：1（月光舞猫姫）魔法・罠：1（炎舞-「天キ」）墓地：2　Pゾーン：青1（月光狼）/赤　除外：2　エクストラデッキ：13（0）


☆TURN03（紫苑）

「私のターン、ドロー。さて、後が詰まっているからそろそろ締めに入らせてもらうわ。私は天空の虹彩の効果を発動。ボルテックスを破壊し、デッキから2体目のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを手札に加える。そしてアークペンデュラムの効果で破壊したボルテックスを蘇生。そして特殊召喚されたボルテックスの効果。舞猫姫にもお帰り頂こうかしら」

　舞い戻ったボルテックスの起こした旋風に吹き飛ばされる形で舞猫姫が留奈のエクストラデッキに戻される。天空の虹彩の効果でアドバンテージを稼ぎつつ、相手の攻撃表示モンスターを的確にバウンスするという戦法は打点の低い遊大のデッキの弱点を見事にカバーしていたのだ。

「ぐっ……紫苑、ひとつききたいことがある」
「何かしら？」
「それもいわゆる精霊のちからというものなのか？」
「……精霊の力は精々アークペンデュラムくらいよ。この力を強く作用させるもさせないも元のデッキ次第。故にこのカードの力を引き出せているのはあくまで遊大君の力が大きいわ。そしてその力はまだまだ成長を続けている」

　その言葉を聞いて留奈はもちろん味方である林檎も息を飲んだ。紫苑が与えたのはほんのわずかのきっかけに過ぎないのだが、そのきっかけを得て遊大のデッキは更なる飛躍を遂げようとしている。それは同時に遊大というデュエリストの中に眠っている底知れぬ力の存在を示唆させるものであった。

「さて、デュエルを再開するわよ。手札のEMオッドアイズ・シンクロンをPゾーンにセッティング」

《EMオッドアイズ・シンクロン》
ペンデュラム・チューナー・効果モンスター
星2/闇属性/魔法使い族/攻200/守600
【Pスケール：青6/赤6】
(1)：1ターンに1度、自分フィールドの「EM」モンスターまたは「オッドアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、その表側表示モンスターをチューナーとして扱い、レベルは1になる。
【モンスター効果】
EXデッキから特殊召喚したこのカードは、S召喚に使用された場合に除外される。
(1)：このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル3以下の、「EM」モンスターまたは「オッドアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
(2)：1ターンに1度、自分のPゾーンのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを効果を無効にして特殊召喚し、そのカードとこのカードのみを素材としてSモンスター1体をS召喚する。

「これで私はレベル7のモンスターをP召喚できるようになったわ。手札のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン、そしてEXデッキのオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンとオッドアイズ・ファントム・ドラゴンをP召喚」

　このトーナメントのルールでは相手のライフを0にした時、メインフェイズの2をスキップして強制的にエンドフェイズになってしまう。紫苑は少し勿体ないと思いながらも、次のデュエルに備えることにした。

「私はレベル7のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン2体でオーバーレイ。“二色の眼持つ竜よ。真紅の瞳に灼熱の炎を燃やし、全てを圧する黒竜となりなさい。” エクシーズ召喚。ランク7の真紅眼の鋼炎竜。そしてバトルフェイズ。オッドアイズ・ファントム・ドラゴンでダイレクトアタック。“夢幻のスパイラル・フレイム”」

オッドアイズ・ファントム・ドラゴン　ATK2500

留奈　LP8000→LP5500

「ぐああっ！！」
「そしてオッドアイズ・ファントム・ドラゴンの効果を発動。P召喚したファントム・ドラゴンが相手に戦闘ダメージを与えた場合、自分のPゾーンに存在するオッドアイズの数×1200のダメージを与えるわ。Pゾーンのオッドアイズは2枚。よって2400のバーンダメージを受けてもらうわ」

留奈　LP5500→LP3100

「ばかな、こんなことが……」
「こんなことが起きるのがデュエルなのよ。真紅眼の鋼炎竜でダイレクトアタック。ダークネス・メタル・フレイム」

真紅眼の鋼炎竜　ATK2800

留奈　LP3100→LP300

「これで最後。オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴンでダイレクトアタック。“旋風のボルテックス・バースト”」

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン　ATK2500

留奈　LP300→LP0





＊





「……まさかここまで上手く行くとは自分でも思わなかったわ。終わりよ。覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴンでダイレクトアタック。“憤激のデストラクション・バースト”」

覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン　ATK3600

ダンス部部員D　LP400→LP0





『なんということでしょうか！ 合唱部先鋒の留学生、リーラ・紫苑選手！ 優勝候補のダンス部五人を一人で撃破してしまいました！！ 今年の部活対抗トーナメントは波乱の幕開けとなりそうです！！』

　紫苑も出来過ぎで精々三人抜きくらいだろう、と思っていたが、まさか一人でダンス部の部員五人を倒してしまうとは思っていなかった。
　留奈相手にワンショットキルを決めた彼女は、天空の虹彩とアークペンデュラムの効果で蘇生のたびにバウンス効果を発動できるボルテックスと効果で破壊されず、カードの発動に対してバーンダメージを与える鋼炎竜で優位に立ちつつ、大将相手には切り札である覇王烈竜でトドメを刺したのである。

（……元々のポテンシャルが高いとはいえ、この出来はさすがに想定外だわ。思っている以上に浸食が激しい。このままでは……）
「おい」
「……留奈？」
「おめでとう、わたしのかんぱいだ。だがな、これだけはわすれるなよ？」
「？」
「わたしには……陸がいるんだからな！！ 陸たちサッカー部のやつらにかたきをとってもらうんだからな！！ うわあああん！ 陸ぅぅぅ！！」

　そう言って泣きべそをかきながらダッシュで立ち去っていく留奈。その姿に紫苑は「かわいい」という感想を抱くことしかできなかった。

「……紫苑、なんかありがとね」

　一方で林檎は勝ったにも関わらず、何処か一歩引いた様子だった。最も苦戦必至と思われていた留奈らダンス部に五タテを決めるのだから、その態度も納得できる。

「なんかって何よなんかって」
「いや、ちょっと強すぎて軽く引いてる。でもさっき言ってたようにこれって高海君の力がほとんどなんだよね？」
「ええ。彼の潜在能力が高いからこそ、この結果になったと言ってもいいわね」
（ってことは高海君次第ではもっと強くなれる、ってことか……そうなると高海君はどこまで行っちゃうのかな。天都先輩やエヴァ先輩超え……はないよね？）
（……遊大君にはもう少し眠っていて貰った方がいいかもしれないわね。これ以上浸食がすすむと……）

　紫苑も林檎も共に複雑な思いを抱きながらトーナメントの駒を進める。二回戦も紫苑が一人で対戦相手を三タテし勝ち上がった中、紫苑と林檎の三回戦の相手が決まった。

「……どうしてあなたが合唱部にいるんですか」
「林檎に頼まれたのよ。合唱部の一員として参加してほしいって」
「そうですか……もしあなたが遊大さんのままだったら、私は平静ではいられなかったでしょう。しかし、紫苑さんが相手であれば容赦はしません。あの時の借りをここで返します！」

　三回戦の相手は美鈴の所属する茶道部。相手が林檎のいる合唱部と知った美鈴はデュエルの前に挨拶がてらの二人の下を訪れていた。しかし、紫苑がいるとは思っていなかったようで、彼女の姿を目にした美鈴の瞳には闘志の炎がメラメラと燃え上がってしまっていた。
　もしここにいたのが遊大だったら何故美鈴がそこまでやる気になっていたのかは理解できなかっただろう。最も紫苑と林檎は一人盛り上がる美鈴を見てなんとも純粋で微笑ましいことか、と思っていたのだが。

「言っておくけど、今回の先鋒は私だからね？ この二戦デュエルしてないんだもん」
「そうね……私もデュエルばっかりでさすがに頭が疲れちゃったから今回は大将を務めさせてもらうわ。頑張ってね」

　先鋒たる美鈴と対峙したのは「大和撫子」という言葉をそのまま擬人化したかのような女子生徒であった。身長は留奈より少し高い程度、という少女は小さな身体をさらに折り曲げて深々と礼をする。

「初めまして。茶道部の先鋒を務めさせて頂きます。藪北 香織（やぶきた かおり）と申します。此度はよきでゅえるができるように粉骨砕身努力をさせて頂きたく思います」
「ええっと、音無 林檎と申します。よ、よろしくおねがいいたします」

　見た目だけではなく、言葉遣いまでも大和撫子な香織に自然と引っ張られる林檎。デュエルの前とはいえ、個性の塊とも言える彼女にペースを乱されるのは決していい流れとは言えなかった。そしてその流れがデュエルディスクにまで伝染してしまったのか、先攻後攻の決定権は香織へと渡る。

「では私は先攻を所望いたします」
「では私が後攻になりますね。よろしくお願いいたします」
「ちょっと、林檎。口調がおかしくなってるわよ」
「……あっ、つい釣られちゃって。えっと、口調は釣られちゃったけどデュエルは負けないから！」
「望むところでございます。それでは……でゅえる！」


先攻：香織
後攻：林檎


香織　LP8000　手札5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　Pゾーン：青/赤　除外：0　EXデッキ：0（0）
林檎　LP8000　手札5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　Pゾーン：青/赤　除外：0　EXデッキ：15（0）


☆TURN01（香織）

「私のたーんです。私は手札よりもんすたーをせっと致します。そしてかーどを2枚せっとしてたーんえんどです」


香織　LP8000　手札2枚
デッキ：35　モンスター：1　魔法・罠：2　墓地：0　Pゾーン：青/赤　除外：0　EXデッキ：0（0）
林檎　LP8000　手札5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　Pゾーン：青/赤　除外：0　EXデッキ：15（0）

（EXデッキ0枚……どんなデッキなんだろう。でも私は自分のデュエルをするだけだよね）