第111話：油断　作：光芒

「先攻は私ね。私はスケール1のオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンをPゾーンにセット。そして手札から魔法カード、デュエリスト・アドベントを発動」

　Pゾーンにペンデュラムモンスターを置き、デュエリスト・アドベントでペンデュラム召喚を可能にするスケールのペンデュラムモンスターをサーチする、というのは遊大の常套戦術だ。
　スケール1のオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンと対になるスケールのモンスターとして遊大が主に利用するのがスケール8のオッドアイズ・ミラージュ・ドラゴンもしくは竜穴の魔術師であり、その2体を揃えればレベル2から7までのモンスターがP召喚できる。

（紫苑め、さっそくP召喚をねらってくるか……だが、遊大とおなじことをしたとしてももうわたしにはつうようしないぞ！）

　遊大の得意戦術と同じ、ということはその親友である留奈もそれを理解している。ただのP召喚であれば、恐れるに足らず。留奈はそう思っていた。紫苑がデュエリスト・アドベントでサーチしたカードを見るまでは。





―――私が手札に加えるのはスケール8の……《オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン》。そしてこのカードをもう片方のPゾーンに発動―――





　紫苑が手札に加えたのは、見たことのないオッドアイズだった。真紅の鱗が鮮やかなオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンに比べて、そのオッドアイズの身体はまるで石のような鼠色をしており、同じオッドアイズでありながら、抱かせる印象はだいぶ違ってくる。

「オッドアイズ……アークペンデュラム・ドラゴンだと？ なんだそのカードは！？ そんなカードみたこともきいたこともないぞ！！」
「そんなリアクションになるのも無理ないわね。だってこのカードは私が初めて使うんだもの。これは私から遊大君へのプレゼント、みたいなものかしら？」

　もし紫苑の言う言葉が本当であれば、このカードは精霊の力によってもたらされたカードということになる。これまで遊大が精霊の力によって得た覇王眷竜ダーク・リベリオン、覇王眷竜クリアウィングもそういったカードであるため、その2枚と比肩するだけの力を持っていると見て間違いないだろう。

「手札からフィールド魔法、天空の虹彩を発動し、ペルソナ・ドラゴンを対象にその効果を発動。Pゾーンのペルソナ・ドラゴンを破壊してデッキからオッドアイズカード1枚を手札に加えるわ。私はオッドアイズ・ファントム・ドラゴンを手札に加える。そしてPゾーンのアークペンデュラムの効果を発動」

《オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン》
ペンデュラム・通常モンスター
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2700/守2000
【Pスケール：青8/赤8】
このカード名のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：自分フィールドの「オッドアイズ」カードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。自分の手札・デッキ・墓地から「オッドアイズ」モンスター1体を選んで特殊召喚する。
【モンスター情報】
雄々しくも美しき、神秘の眼を持つ奇跡の龍。その二色に輝く眼は、天空に描かれし軌跡を映す。

「アークペンデュラムのP効果。1ターンに1度、私のフィールドのオッドアイズカードが破壊された場合に発動できる。手札・デッキ・墓地からオッドアイズモンスター1体を選んで特殊召喚するわ。私が特殊召喚するのはレベル8の《EMオッドアイズ・ディゾルヴァー》よ」

《EMオッドアイズ・ディゾルヴァー》
ペンデュラム・効果モンスター
星8/闇属性/魔法使い族/攻2000/守2600
【Pスケール：青4/赤4】
(1)：1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールドから、ドラゴン族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
【モンスター効果】
このカード名の(1)のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：自分のPモンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、その自分のモンスターはその戦闘では破壊されない。
(2)：自分メインフェイズに発動できる。融合モンスターカードによって決められた、このカードを含む融合素材モンスターを自分フィールドから墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。その際、自分のPゾーンに存在する融合素材モンスターも融合素材に使用できる。

「デッキからオッドアイズを特殊召喚だと！？」
「私はこのターンまだP召喚を行っていない。私は手札のスケール4、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンをPゾーンにセット。そして手札のレベル7、オッドアイズ・ファントム・ドラゴンとEXデッキのレベル5、オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンをP召喚。更に手札のチューナーモンスター、貴竜の魔術師はフィールドのレベル7以上のオッドアイズモンスターのレベルを3つ下げることで、手札から特殊召喚できるわ」

オッドアイズ・ファントム・ドラゴン　星7→星4

　P召喚を絡め、フィールドには4体のモンスターが一度に現れる。遊大のデッキはその性質上、大量展開が得意ではあるが、それでも手札もしくはEXデッキに必要なカードが無ければ何もできないことも多かった。しかし、その弱点の一つが、アークペンデュラムによるデッキからの特殊召喚で補われたとなれば、話は別である。

「さて、ここからが本番よ。まず私はレベル4となったオッドアイズ・ファントム・ドラゴンにレベル3のチューナーモンスター、貴竜の魔術師をチューニング。“二色の眼持つ幻惑の竜よ。貴き力を以て雄々しきも美しき翼持つ竜となりなさい。” シンクロ召喚！ 駆け抜けるのよ。《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》！」

《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》
シンクロ・効果モンスター
星7/風属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
チューナー＋チューナー以外のモンスター1体以上
(1)：1ターンに1度、このカード以外のフィールドのレベル5以上のモンスターの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。
(2)：1ターンに1度、フィールドのレベル5以上のモンスター1体のみを対象とするモンスターの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。
(3)：このカードの効果でモンスターを破壊した場合、このカードの攻撃力はターン終了時まで、このカードの効果で破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

「更にEMオッドアイズ・ディゾルヴァーの効果を発動。融合モンスターカードによって決められたこのカードを含むフィールドの融合素材モンスター2体を墓地に送ることで、EXデッキから融合モンスター1体を特殊召喚するわ。私はEMオッドアイズディゾルヴァーとオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンを墓地に送って融合モンスター1体を融合召喚する。 “二色の眼持つ竜よ。二色の眼持つ魔術師よ。今一つとなりて、旋風の力駆りし翡翠の竜となって生まれ変わりなさい！” 融合召喚！《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》！」

《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》
融合・効果モンスター
星7/風属性/ドラゴン族/攻2500/守3000
「オッドアイズ」モンスター＋Pモンスター
「オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールドの表側攻撃表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを持ち主の手札に戻す。
(2)：このカード以外のモンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。自分のエクストラデッキから表側表示のPモンスター1体をデッキに戻し、その発動を無効にし破壊する。

「……まあPモンスターなんだから融合素材になった2体が送られるのはEXデッキなんだけど。私はこれでターンエンド。そしてターン終了時にPゾーンのオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの効果が発動。このカードを破壊し、デッキから攻撃力1500以下のPモンスター1体をサーチするわ。サーチするのはスケール6の《EMオッドアイズ・シンクロン》よ」


紫苑　LP8000　手札1枚
デッキ：31　モンスター：2（オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン、クリアウィング・シンクロ・ドラゴン）魔法・罠：1（天空の虹彩）墓地：1　Pゾーン：青/赤8（オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン）除外：0　エクストラデッキ：13（4）
留奈　LP8000　手札5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　Pゾーン：青/赤　除外：0　エクストラデッキ：15（0）


（留奈のデッキは融合召喚で大型のモンスターを展開する。クリアウィング・シンクロ・ドラゴンでレベル5以上のモンスターの効果を封じ、オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴンでカードの効果を封じる。美鈴の時もそうだけど、高海君は紫苑になっていても私たちのデッキの対策は済ませているのね）


☆TURN02（留奈）

（……まさか1ターン目で融合召喚とシンクロ召喚をきめてくるとはな。おまえもレベルアップしているということか。だが、そのていどのモンスターでわたしはとめられない！）
「わたしのターン、ドロー！ わたしは手札からブラック・ホールを発動する！ フィールドのモンスターをすべて破壊するぞ！」
「それは通させないわ。オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴンの効果を発動」

チェーン2（紫苑）：オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン
チェーン1（留奈）：ブラック・ホール

「チェーン2のオッドアイズ・ボルテックス・ドラゴンの効果。エクストラデッキに表側表示で存在するEMオッドアイズ・ディゾルヴァーをデッキに戻してブラック・ホールの発動を無効にして破壊するわ」
「チェーン1のブラック・ホールの発動は無効になって破壊される。だが、これでおまえはもううごけない！ わたしは手札から永続魔法、炎舞-「天キ」を発動！ デッキからレベル4以下の獣戦士族モンスター1体を手札にくわえるぞ！ 手札にくわえるのは月光彩雛。そしてこの月光彩雛を召喚！」

　月光彩雛はデッキまたはEXデッキからムーンライトモンスター1体を墓地に送り、自身をその同名カードとして融合素材にすることができる。融合素材に融合モンスターを指定するムーンライトの融合モンスターを容易に融合召喚するために必要不可欠なモンスターだ。

月光彩雛　ATK1400→ATK1500

「月光彩雛の効果を発動！ EXデッキから月光舞猫姫を墓地に送り、融合する場合に月光舞猫姫としてあつかうことができる！ そしてわたしは手札から魔法カード、融合を発動！ フィールドの月光舞猫姫としてあつかう月光彩雛と、手札の月光紅狐を融合する！ “月明りに舞い踊る美しき野獣よ。月光の下で駆け抜ける真紅の狐よ。今その命その力を一つとし、しなやかなる舞踏であらゆるものを切り刻め！” 融合召喚！ こい！ 月光舞豹姫！ 融合素材として墓地におくられた月光彩雛と月光紅狐の効果を発動する！」

チェーン2（留奈）：月光彩雛
チェーン1（留奈）：月光紅狐

「チェーン2の月光彩雛の効果で墓地の融合を手札にもどし、チェーン1の月光紅狐の効果でクリアウィング・シンクロ・ドラゴンの攻撃力を0にするぞ！」

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン　ATK2500→0

　月光紅狐のレベルは月光彩雛と同じ4。そのためクリアウィングの効果の対象外であった。

「さらにわたしは手札のPモンスター、月光狼をPゾーンにセット！ そして月光狼の効果！ 墓地の月光彩雛と月光紅狐をゲームから除外し、月光舞猫姫を融合召喚する！」

　留奈のフィールドには天キの効果でそれぞれ攻撃力を2900と2500に上昇させた月光舞豹姫と月光舞猫姫が存在する。対して紫苑のフィールドは攻撃力2500のオッドアイズ・ボルテックス・ドラゴンと攻撃力0のクリアウィング・シンクロ・ドラゴン。
　留奈のデッキの対策として立てた2体であるが、それすらも彼女はあっさりと踏み越えてみせた。障壁があるのであれば、打ち崩してしまえばいい。それが舞原 留奈というデュエリストのポリシーなのだ。

「月光舞豹姫の効果を発動する！ このターン、相手モンスターはそれぞれ1度だけ戦闘では破壊されず、このカードはすべての相手モンスターに2回攻撃できる！」
「その効果にチェーンしてクリアウィングの効果を発動よ」

チェーン2（紫苑）：クリアウィング・シンクロ・ドラゴン
チェーン1（留奈）：月光舞豹姫

「1ターンに1度、レベル5以上のモンスターが発動した効果を無効にして破壊するわ」
「効果の発動は無効になる。だが、月光舞豹姫は破壊されないぞ！ よってクリアウィングの攻撃力はあがらない！ バトルだ！ 月光舞猫姫でクリアウィング・シンクロ・ドラゴンを攻撃！ 攻撃宣言したときに月光舞猫姫の効果を発動！ 相手に100ダメージをあたえる！」

紫苑　LP8000→7900

月光舞猫姫　ATK2500　VS　クリアウィング・シンクロ・ドラゴン　ATK0

紫苑　LP7900→5400

「っ……」
「そして月光舞豹姫でオッドアイズ・ボルテックス・ドラゴンを攻撃！ 月光黒豹乱舞！」

月光舞豹姫　ATK2900　VS　オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン　ATK2500

紫苑　LP5400→5000

「このカードがバトルで相手モンスターを破壊したとき、月光舞豹姫の効果を発動する！ 月光舞豹姫の攻撃力を200ポイントアップさせるぞ！ このデュエル、もらったぞ！」

　紫苑のモンスターは全滅し、残りライフは5000。対してこちらには効果で破壊されない月光舞豹姫と戦闘で破壊されない月光舞猫姫が存在する。P召喚による大量展開が得意とはいえ、全体的に攻撃力が低めのオッドアイズでは留奈のムーンライトモンスターを突破するのは難しい。





「いったい……何を貰ったのかしら？」





　留奈は、自分の見通しが甘かったことを思い知らされた。何故なら、たった今月光舞豹姫の攻撃で破壊したはずのオッドアイズ・ボルテックス・ドラゴンが紫苑のフィールドに舞い戻り、そして破壊した側であるはずの月光舞豹姫がいつの間にかに消えていたのだから。