130話 新たな旅立ち　作：紅瑠璃

蜜柑はタカミネからの伝言を真保に伝え終えた。真保の反応は安心したような顔をしていた。何せ諦めずに皆に楽しみを与えようとしているからだ。それを伝えると逆に真保からこんなことを言われた。

「2週間後の9:00にアストライアー本部に来てって宇佐見さんがいってたよ。それまでに遊戯王のデッキを組めって…なんだろうね。」

今回の件を終え、皆にこんなことがあったと伝えたが確かに何故遊戯王のデッキが必要なのかは理解できない…まぁあの人のことだ考えはあるのだろう。もうそろそろ入院されていた風那や夢月は退院できるだろうからそちらの様子も見に行きたいものだ。

～4日後～

現代の技術力と言うのは驚くばかりだ…あれほど荒れていた瓦礫の町が既に3分の2は瓦礫が撤去され、綺麗にされている。また、3分の1は新たに家が建っている。もう…蕪木様はこの街を出ていってしまったのか…。恩を返せたのだろうか？いや、今は目の前の事に集中だ…。これだけ被害が大きいということはそれだけ怪我人、死者が多いということだ。私は町を歩きながらそんなことを思っていた。ふと、とある家の前に俯きながら立っている女を見つけた。近づいてみると桐谷真澄だった。

「ふぁぁ！？…む、夢月さん…退院おめでとうございます。」
「桐谷殿…ここはお主の家なのか？」

桐谷が頷いた家は倒壊し家であったのかわからないほど酷かった。私は桐谷殿に「両親は？」と聞いてみたがそれがいけない質問だとは彼女の言葉を聞くまで思わなかった。

「逃げ遅れました…。もう居ません。お父さんもお母さんも…今までと変わらず一人ぼっちです。」
「あぁ…す、すまない。このような質問はしてはいけなかった。」
「良いんですよ♪どんなに酷いことをする人でも親であるのには変わらない…それなのに守れなかった私のせいです。」
「…そうだな。桐谷殿…共に住まぬか？一人だとあの屋敷は広すぎる。桐谷殿も住む家なければ生きて行けぬ。」
「その…ち、ちいさな部屋でも良いので…」
「うむ。この夢月暦に任せよ。」

桐谷は夢月の屋敷…いや、蕪木様の屋敷だが。いざ、屋敷に向かうと気配はなかった。屋敷は見覚えがある…壊れているとこはないが蕪木様の気配はない。やはり、この町を出ていったのか…。実感すると悲しくなる…その時には遅いものだ。

～さらに３日後～

もう既に町の9割りがなおってきている…。それに久しぶりにアストライアーのメンバーが揃った。黄蜂三咲、夢月暦、桐谷真澄、神無月風那、藍野鈴菜、弧山朱音、猫山蜜柑、伊月十夜。集まった場所はやはり、弧山家だ…弧山朱音の両親は快く迎えてくれた。さらに鈴木千聖、ネア、黒羽梓、藤崎優衣も来てくれた。とは言えすることやることは会話やお菓子を食べる…ゲーム位だ。弧山家の両親は仕事があると出ていった。

「つーかさこんなメンツで何故俺を呼ぶ？一人男って辛いからさ…帰って…」
「伊月殿っ♪」

12人中一人が男で嫌気がさしたので帰ろうとしたとき夢月が腕に抱いてくるもんで帰れない…なるほど俺を呼んだのは夢月か。しばらく居座るとゲームをし始めた。電車のゲームなのか…あぁ夢月にボ○ビーがついた。

「ぬわぁ！？す、鈴木殿！ま、またボン○ーを私につけおって！」
「私…ゲームになると陰湿で悪どいから」

確かにポケ〇ンでは状態異常ややどりぎを使い回しじわじわと削ってくる戦法。格ゲーでは壁ハメで攻撃させてくれない。とある射撃ゲームではリスポーン地点で待ち伏せし生き返れば撃つ…また、生き返れば撃つとポイントを稼ぐ…。また、特撮を見れば「主人公より悪役がカッコいいわね！こう言うのって華あるのは悪役よ。主人公ってのは最後の美味しいとこだけを取るのよ。私…なるなら悪役がいい。」何て言っていた。朱音は車椅子に座り皿を下げたりするが蜜柑が引き止め朱音の車椅子にロックをする。鈴菜は…おかしいどこにもいない。黄蜂もいない。

～手洗い場～

私は何かと弧山家のトイレに縁があるのか…不運を与える怪異によりここにはいった際、尻がはまって出られなかったりドアノブが外れたりとあるが今は違う。私は水と混ざりあう血を眺めながら左手を見ていた。別に女の子の日とか可愛らしいものではない吐血…口から血を吐き出しているのだ。ノックの音がする。

「今入っているのですけど？」
「今吐いているの間違いじゃない？藍野鈴菜。」
「その声…黄蜂か。何用？」
「あんた…もう体がもたないんじゃない？吐血…さらに左手の小指の動きが鈍ってる。」

その通りだ…左手を眺めていたのは小指の動きが鈍ってる…そう感じてきたからだ。思い当たる節はある…それは黄蜂にもわかっている。

「亜人でもないあんたが何故死から蘇ったのかあえて聞かないけど…それが原因よ。今は小指だけですんでいるけど次第に左手…右手…内臓って行き、介護ベットでの生活へとなるわね」
「そうね…でも治せないじゃん。それに、あの状況の加奈人君や朱音の事考えるとそうするしかなかったし…当然の報いよ。」

トイレから鈴菜が出てきてた。表情は暗い…楽しめる時間が短いからだろう。そして何くわぬ顔で朱音達がいる部屋に行き、何事もなかったかのように話をしている。私としては複雑な気分だ。さて、そろそろいい時間だ。意味もわからない会は御開きとなった。みなに会うのはそれから宇佐見さんの言われた日付になったときの事だった。

～それから一週間後～

「ふみゃぁ…」
「蜜柑…遅いよ。」
「ミカじゃにゃくてシユの支度が…。」

アストライアー本部に集合し宇佐見さんの案内により蜜柑には見覚えのある機械がおいてある部屋にたどり着いた。その装置はオスクリタが向かった世界の扉を開けることができるらしい。原理を説明していたが多分理解しているのはいないだろう。

「京子にこの門を潜らせようとしたけど弾かれちゃってね…。そこで当時の不審点を考え、真保と蜜柑に来てもらったわけ。他のみなは…見送りとか…かな。」
「そんなん為に呼ばれたのか。」
「黄蜂…仲間の見送りとは大事ではないのか！」

夢月と黄蜂が言い合うなかそれほど常識的な朱音が質問をする。「何故真保ちゃんと蜜柑なのですか？」って…。

「真保…地下から脱出するとき、何かあったのよね？」
「はい。光に包まれて…。」
「蜜柑はホープを助けるとき何かあったのよね？」
「ミカも光に包まれて…。」
「つまり、あなたたち二人は何かしらの力を受けたはずよ…。」

真保と蜜柑は互いに顔を見合せ考えたがピンと来なかった。それでも話は進められた。

「さて、真保と蜜柑にはこの門を潜ってもらうけどそのままでは人体に影響を出すかもしれないから…こんなものをつくりましたッ！」

ライトアップされた物を見てみると
タイムカプセルのような物体が二つあった。宇佐見さんはそれに乗り込めと言う…。さらに宇佐見さんはこの世界と向こうの世界との経過時間には違いがあると話した。

「ざっくり半日ほどあちらが速いわ。さて、数日分の食料と水も入れておいたわ…後は二人ともデッキはある？」
「あ、はい！」
「ミカもあるよ！」

宇佐見は二人をカプセルにいれると発射台の前に立った。朱音達がカプセルの回りに集まるのが見えた。仲間、友達とのしばしの別れは悲しい…自分もそんな風に思えたらと考えた。

「さぁ！発射するよ！離れなさい。3…2…1…発射っ！」

蜜柑と真保を乗せたカプセルは無事に門を潜った。本当に通れた…やはり自分の目に狂いはない。