79話 神隠し　作：紅瑠璃

黄蜂と鈴菜がいなくなった。二人だけじゃない。学校でも複数人いなくなったし、高校以外でも社会人、小学生等がいなくなった。そのせいで来週の球技大会が再来週になった。そして、アストライアーの本部に朱音と蜜柑が来ていた。

「あら。いつもの二人ね。」
「宇佐美さん…レイが…」

宇佐美の眼には朱音の涙が写った。そして、宇佐美から驚きの言葉が出た。「新しくアストライアーに入隊した子が今回の件を知ってる」だ。もちろん宇佐美はすでに聞いたらしい。というか、新たに入隊した人がいると言うことが最初の驚きだった。

「んやぁ？先輩方々、初めましてですねぇ～。」
「にゃ？誰？」
「んやぁ？高校生がにゃ？って…まぁあなたの事は聞いてますが…私は神無月 風那。よろしくお願いしますね。」
「この子が新たに入隊した子よ。」

見た目は中学生。犬のパピヨンを思わせるフワフワの髪をしたショートヘアー。まぁ宮野 空のこともあるからそこまでは驚かなかった。

「今回の件…神隠しって言う怪異のせいと見ました。」
「ま、まって…両親とか承諾してるの？」
「んやぁ？承諾してないのに入隊するわけないじゃないですかぁ～私は怪異に育てられたのでね」

怪異に育てられた。その言葉はまた宮野と朱音を驚かせた。風那は赤ん坊の時に捨てられ、それを拾ったのが怪異の夫婦だと言う。怪異が人に害をもたらすのなら退治をし、害をもたらさないのなら共存させる。それがアストライアー…。人に育てられた、だが、風那は怪異に育てられた。だから怪異についてはよく知ってる。怪異の父親の兄の3人兄弟の末っ子が怪異専門家であるのでそこからも話を聞いている。よく黒コートの高校生の話をするのだが、それは絶対に黄蜂の事だろう。とにかくその子との一夜も話すのでうんざりしているそうだ。

「とりあえずどうすればいいのかにゃ？」
「魚住に古びた祠…ありましたよね？行きましょうよ。」

魚住。本部から徒歩で1時間。車でもそれなりの時間がかかる。そのため宇佐美が提案したのは風那に刀を渡すこと。刀には魂が宿っているためその魂の力を借りるそうだ。しかし、注意点がある。その武器は長く、重たいため振り回すのに上下左右に幅を使う。つまり大型の怪異を相手にする専用の刀である。今回はレンタルという事で高校生になったら正式に入隊を許可する方針らしい。

「屋上は寒いわね。風那。その刀の名前は「殻蜻蛉」…心を研ぎ澄まし、話しかけてみて。」
「シユ～…寒いよぉ」
「しーっ。静かに」
「…殻蜻蛉…。」

目を閉じて殻蜻蛉と繋がる。扱う側ではなく、扱われる側が許可しなければ使えない。本部の屋上は涼しく寒い。が、風那の顔には汗がにじみ出ていた。刀と繋がることは容易くない。そして瞳をあけ、語る。刀の名前を…名前を呼ぶ。

「飛んで…殻蜻蛉！」

その武器の長さ…7m…重さ4t…端にはハンマー。もう片方には刃。それを軽く持ち上げることができるので見たとこ自身の重さを変化する。かと思ったが、宇佐美は訂正した。
自身と、回りの重さを変化させることができ、食べた相手の能力を殻蜻蛉が消化するまで使える。

「それじゃとべにゃいんじゃ…？」
「そうね。別の名前を呼んであげて」

魂が宿っている刀は三段階変化する。つまりあと二段階変化可能なのだ。

「天風乱れし天津の衣、振り抜く風は我が伊吹…鬼門殻蜻蛉」

その姿…武器ではなく怪異。17mの体背中には羽。

「これなら乗れそうね。私は仕事があるから、あとは任せた。」

「はいっ！」

鬼門殻蜻蛉に乗って移動している間神隠しの事を聞いていた。人を隠す怪異。怪異じみた神。神隠し。普段はその祠にいるのだが、祠が壊れたことで外に出歩けるようになったらしい。神である以上簡単に退治ができない。神を痛め付けるとバチが当たる…らしい。という間に着いた。人の気がない田舎…それよりも田舎。まるで無人村にいる気分だが、別に無人って訳ではない。

「あっ…あの祠？」
「んやぁ？見つけるのが早いですねぇ～。神隠しさーん！」

祠はボロボロになって壊れていた。祠に貼ってあったであろうお札が地面に落ちている。

「とりあえず綺麗にした方がいいよね。ミカ、そこら辺の民家から束子とか、バケツを持ってきてくれる？」
「えー。わかったよ～。」

しぶしぶ言って、戻ってきた。数件中の確認もしたが影も形も声も気もなかったらしい。祠の掃除をしたところさっきよりは綺麗になった。そしてお札を貼ったところ、来た。何かはわからない…何かが現れた。

「君たちが綺麗にしてくれたの？」

声がする。

「あなたが神隠し…ですか？ 」

風那が問う。そうだ。と、帰って来た。神隠しのようだ。

「みんなを返してもらうことって…」
「僕の遊び相手が消えてしまう。」
「ですが、遊ばれると困ります。」

神隠しは神。人を隠す…。何を話していたのかはわからないが神隠しが押されたようだ。

「仕方ない。解放するよ～ 」

結局何だったんだと思いながらも解決した。

～数日後～
鈴菜も黄蜂も無事に戻ってきた。学校には貧血と捜査に協力してるで通してたらしい。そんなことよりも今日は球技大会。バスケットボールの試合だ。