80話 球技大会　作：紅瑠璃

「神隠しの仕業ってのは知ったけど…。」
「んぁ？どうした黄蜂。」
「…少し考え事よ。まぁ、思い過ごしで終わればいいなって話。」
「それってだいたい正解ってことね」
「そう。だいたいだからまだ正解じゃないのよ。さて、初戦は…夢月のクラスとG組ね。」

今日は球技大会。二つある体育館のうち、１つを男子、もう１つを女子が使う。そして、渚高校はバスケが強いらしい。わざわざ球技大会する必要あるのかという話だが、行事なので仕方がない。試合開始のホイッスルがなる。夢月のクラス…D組にはネアと千聖がいる。

「さすがに強いね～」

黄蜂がおちょくるように話した。体育の時間、混合でやるのだが、黄蜂だけはやる気がない。それをいったら私もだが…。D組が一点を取っていく。ネアと千聖がパスカット、パスをして、夢月が撃つか、状況に合わせて他の人に任せるか。臨機応変、回りを見る目は夢月の方が高い…。また決めた。

「さっきの話。神隠しの取り柄、アイデンティティー「人を隠す」それがない神隠しはどうなる？」

いきなり先程の神隠しの話をしてきた。取り柄がない奴は何もない。そう答えると黄蜂は次の試合の準備をしながら言った。

「なにもなくなった奴は消えるんだよ。消えて、怪異に成り下がる。風那…だっけ？神隠しに人を隠すのをやめろと言ったのは…神隠しは承諾した。いや、承諾してしまった。やはり幼いわね…中学生ってのは。まぁ、神隠しが約束を破って人を隠すようになるのを願いましょ。」

終了のホイッスルが鳴る。夢月のクラスが勝った。次はB組とE組の試合だ。もしも、神隠しが人を隠さなかったら取り柄がなくなり、自然に怪異となる。人間も同じか、生きる希望を失った人間はこの世のなかには生きられない。消える…と言うこと。

「優衣～。」
「黄蜂～いいむ…む…。触らせなさいよ！」
「嫌だよ！何で挨拶する度に胸触るのさ！」
「それよりも、E組のあの子、名前は田沼 美尾。この学年で一番強いってもいいんじゃない？」

正直興味がなかった。が、注意する価値はありそうだ。B組にはバスケットボール部の一二を争うほど強い神田 がいる。もちろんそのライバルは田沼だ。試合開始。

「神田さん！」

あまり運動の出来ない四ッ谷からのパスを受け取り、シュートをしようとするが、田沼が阻止。さすがに一点を取られた。「ごめん！次こそ。」何て言うけど無理な話だ。スポーツ選手問わず誰でも一度失敗すると次に失敗する確率があがる。そして、失敗するとまた次の失敗する確率があがる。連鎖反応のように…簡単には切り替えなんて出来ない。
そして、神田はまた失敗した。そして、また失敗。

「はぁ…優衣。私も～本気出すわ。だってこれ勝てば順位あがるし。」
「そう。頑張ってね」

黄蜂はボールを受けとると、田沼と1対1に出た。普通なら負ける…普通ならの話だが。その光景はコートを見ていた人全てが驚いた。黄蜂が田沼を抜かし、シュートを決める瞬間だった。さらに田沼はしりもちを着くように倒れた。黄蜂は「だ、大丈夫ですか？」何て心にも思ってない空の言葉をいい、立ち上がらせる。
田沼の耳元に黄蜂のスタンドを配置して…。皆もしっての通り、スタンドは普段見えない。そして、何種類かの体質がある。実体体質…これは姿形、大きさが一定の物。質量体質…黄蜂のスタンド体質がこれなのだが、全ての質量が100％だとすると50％ずつで２体。10％ずつで10体。1％ずつで100体出せる。憑依体質…これは普段はスタンドを出せないが、無機物に憑依させることができる物だ。例えば、人形に憑依させると人形がひとりでに動き、車に憑依させると、勝手に走り出す等色々と出来てしまう。黄蜂が行った耳元に小さいスタンドを配置すること。それは煽る事だ。黄蜂は煽るのが好きなのだが、黄蜂のスタンドは10m。長くはない。

「お前、弱い…お前、弱い」

田沼の耳元で囁くスタンド。むきになるが黄蜂のボールに触ることが出来ない。それどころか、先程より動けてない。また一点を取る。また一点を取る。黄蜂と1対1に成る程田沼は素人並みになっていく。あげくの果てには運動が出来ない。四ッ谷のパスをカットすることが出来なくなっていた。一二を争うほどの強い人が一二を争うほどの弱い人になっていた。まぁ、それは争いたくないのだが、それよりも神田の声を先程から無視している事だ。「黄蜂こっち！」知らない。お前は弱い。「黄蜂ナイス！」気安く声かけるな。試合は序盤はひやひやした。が、勝った。ひやひやするのは私の体質だけでいい。いや、私のは冷え冷えだな。

「黄蜂…あなた、田沼に何をしたの？」
「何したって？一点も取れなかった神田さぁん？」
「そのこともよ！」
「はいはい。弱いバスケットボール部の人が吠えないの。」

肩を叩き、その場を離れた。チームメイトは「まぁ、強いし…」、「確かに言葉は酷いとは思うけど～。強いしねぇ」ばかりだ。黄蜂は敵を多く作る。馴れ馴れしくしてほしくないからだ。昔のトラウマと言うべきだろうか。続いてはA組とF組の試合だ。

「藍野さん！お願いします！」
「く、黒羽…みんな…はぁー。わかったよ。出来る限りボールを頂戴ね。」

試合開始。ジャンプボールを制した後、藍野 鈴菜に渡され、シュート。まだ誰も一歩も歩いてないのにゴール。誰もが驚く中、鈴菜にボールを渡し、鈴菜が撃つ。全て、入る。圧勝に終わった。午前の最後…C組とH組の試合が始まろうとしていた。