15話：酷くなる悪夢、悪意たる噂　作：ヒラーズ

海理は夢をみる。それは珍しく悪夢ではなく、心が温まる優しい夢。
目の前には失う前の少年、弟の陸也が無邪気な笑顔を見せ、共に笑って遊ぶそんな夢だった。
『姉さん…大きくなったら何になりたいの？』
――――そうね…お母さんのように、すごいお嫁さんになりたい！――――

その言葉に陸也は「ふふっ」と笑い、褒める。
心地の良い夢、だがその夢は次に言った言葉で悪夢に変わった。
――――じゃあ陸也は何になりたいの？――――

問いに陸也は顔を下に向ける。
『俺の夢は…もう叶わない』
――――……？どうして？――――

陸也は自身の手を海理に見せ、涙目になる。
その手は白くなく、真っ赤に染まった血の色へと変色していた。
『見てくれ、俺の手…。いっぱい人を殺り過ぎたんだ…だからもう叶わない』
――――そんな……きっと怪我をしただけよ！必ず直せるよ！――――

『ごめんね、本当は双子として生まれるはずがこんな目に…』
――――違う…！双子じゃなくてもいいのに…どうして謝るの！？――――

否定するだが自分の死は完全に自分のせいだと言っている陸也は謝る。
『本当は…俺が死んだ方が良かったかも知れないって…今でも思うよ』
――――やめて！陸也のせいじゃない！！――――

突然辺りの背景が赤い火に囲まれ、銃声や断末魔の叫び声が響き渡る。
陸也の体はたちまち軍服を着た少年兵のような姿に変わり、最後の言葉のように優しく語った。
『さよなら、海理姉さん…俺、逝ってくるよ…』
そう言って陸也は銃を持ち、炎の中に消えていった。
それを認めれない海理は手を伸ばし、弟の名を呼びながら叫ぶ。
――――いや…！陸也！行かないで！！一人にしないで！！――――















ﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟｯ！
「…はっ！」
時計のアラーム音で海理は目を覚ます。ガバリと起き上がり、辺りを見渡しアラームを止める。汗はあまりかいていないものの、日に日に悪夢はひどくなっていく。夢の陸也は姉を…家族を愛しながらも自身を憎む。そんなのは見たくない。だが自分が先に死んでしまったのは事実。
「…何で私は…死んでしまったのでしょう…分からない…」
毎朝、自分の転生に後悔を抱く海理はやや寝不足の顔となりながらも洗面所で顔を洗い、髪型を整える。
そして食堂で朝食を済ませ、部屋に戻ると風花が挨拶を交わしてきた。
「おはようッス！今日は良い天気ッスねぇ、こんな日は二度寝するのが一番ッスよ！」
「いや…二度寝したら遅刻しますよ…風花さん」
「冗談ッスよ！ほらほら、元気を出すッス！どんなデュエルも元気がなくちゃ面白みがないッス！」
そうやって雑談をしていると、どこかで喧嘩している声が廊下に響く。
場所的に男女共同の娯楽室、海理と風花はやれやれと言いながら娯楽室のドアを開ける。
その先には水樹と魔奈が男子生徒5名と掴み掛かっていた。
「てめぇ…！女だからと下手に出りゃあ調子に乗りやがって！！ぶち殺 すぞ！」
「おうおう！やってみろよ！！アタシらを舐めてかかった罪はでけぇぞ！謝るまで許す気は無ぇ！！」
「同じくだ！在りもしない噂を流しおって…！覚悟するがいい！！」
「上等だ！！」

男子生徒達は水樹達を取り囲み殴り合いになる。
入学してから1ヶ月が立ったと言うのにもかかわらず喧嘩沙汰になるのは正直言って今後の学園生活に負担がかかる。
それを察知していたのか、ハルが教頭である「カズイ・クォーター」を連れ、喧嘩をやめさせた。

「お前達！何をしているんだ！！」
「あっ…教頭！」
「ちっ…先公かよ」

何とか大事になる前に殴り合いは止めれたものの、理由を聞き出した。
「こいつが俺達の駄弁を邪魔してきたんだ！」
「はぁ？てめぇ何を言ったのか分かって言ってるのか？ボケナスが！」
「そうだ！俺様達が聞こえてないとでも思ったのか！！」
「何だと！？あれは事実を言っただけだろ！」
その言葉に水樹がキレ、怒鳴る。
「事実だぁ？あんなのが事実と言えるのか？ハッタリだ！ハッタリ！」
「ハッタリ？在りもしない噂？」
海理はその事について聞くと魔奈が答えた。

「…海理は救世主だが世界を滅ぼす魔王とか、俺様が姉上の名を使った卑劣な合格手段を用いた裏口入学、水樹はこのアカデミアを支配する計画を立ててるとか…」
（人を救えるのなら滅ぼすのも容易いと考えているなんて…）

――――なんとも低レベルの悪い噂なのだ…聞いただけで相手が哀れだ。
（本当にそれですよ）

しかしその中でもショックが大きいのは紛れもなく海理だけだった。
人を救ったとはいえ生徒に同学年にそのような言われように精神が大きく揺れる。賊霊たる魔王真竜にも言われるぐらい低いのかと海理は思い、誰が先に手を上げたのかを聞き出す。
「…俺様だ、聞き捨てならんかったから魔力を込めた拳で殴った」
「それに続いてアタシも殴った」
「ほう？認めると？」

手を出したのは認めている。
だが、それに追い打ちをかけるかのように男子生徒が言った。
「じゃあ謝れよ！」
「そうだそうだ！！」
「だぁれが謝るか！」
「第一、そんな噂流した奴は誰だ！そいつを出せ！」

そうやってまた喧嘩になりかけたとたん、教頭の檄が飛ぶ。
一時辺りは静まり返り、教頭が処分を言い渡した。

「今日から4日間、自室謹慎しディスクを没収する！デッキはそのままにしておくが、お前達にとって4日間はきついだろう？そこでだ、禍根を残さないためにも手打ちとしてデュエルを1戦行ってもらう！」

「え…？」
「どう言う対処ッスか！？」
意外な手打ち処分で海理達が驚く。
教頭の話によると、こういう喧嘩沙汰はこれに限ると校長からの提案だったらしい。やけに渋い顔をしているが、これが善策だろうという事だ。

「デュエルで白黒つけると言う訳か…」
「フン、いいだろう。俺様の実力をその目に焼き付けるが良い！」
「いいぜ！返り討ちにしてやる！」
「なーにが総長だ！何が魔王様だ！負けりゃあタダの女子だろうが！」

ただならぬ闘志と殺意がぶつかる中、遠くから様子を見ていた校長である天光はニヤリと笑いつつ、デュエルフィールドへ繋がる扉の鍵を開ける。

「フッ…さすがだ…喧嘩沙汰は誤算だったが、賊霊使いの実力を見れるんだ。これほど都合の良い誤算はない」
そう言いつつ、扉を開け、案内させる。
時刻は8時過ぎとは関わらずデュエルフィールドの観戦席はすぐに満席になり、大きな盛り上がりを見せていた。






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