18話：決めるべき目的　作：ヒラーズ

「フン、多少骨のある奴で良かったな」
「はっ！出直してきな！」
勝利してやや自慢する魔奈達だが、負けた男子生徒は海理と魔奈の前に来る。
そして頭を下げて謝った。
「すんませんでした！あんなくだらない噂を信じるなんて思いませんでした！」
「……」
意外な謝りに海理はしばらく黙る。
別に許さないとは言っていない。所詮は噂というだけで信じて良いものか悪いものか微妙なだけである。
「分かれば…いいですよ」
「あ…ありがとうございます！」
優しい対応に魔奈と水樹も頷き、ディスクを教頭に渡す。
割とあっけなく解決したものの、4日間の自室謹慎は正直辛い日を魔奈達は覚悟したのであった。












3日後、放課後にて…
海理はハルや風花と一緒に図書室で読書に明け暮れていた。
ハルは世界の歴史や世界地図などが載った本、風花は詰めデュエルに対抗できるようにこの校を卒業した学生の戦術を載せた資料を読み、海理はノートを取り出し、科学や物理学などの難しい分野の書類を読みつつ、ノートに書き写す。
「…」
「…」
「…」
互いに沈黙し、読み漁り、ペラペラとページをめくる音だけが響く。
途中でチャイムが鳴ると一斉に本や資料を片付け、図書室から出る。
そして校舎を出た直後だった。
「明後日からからテスト期間…」
「私は問題ありませんが…フーカさんは？」
「正直自信ないッス…赤点は出来れば避けたいッス！」

ただのデュエル好きの風花は頭を抱え、悩む。
特に苦手な項目は科学が苦手らしい。
「…分かりました、私のノートを貸しますので写して暗記して下さいね」
「恩に着るッス！」
「ぼくのノートも貸す？」
「おおっ…！アンタら二人は天使ッスか！ありがとうッス！」
優しさに風花は涙を流し、感謝の言葉を述べる。
本当は自分で暗記して覚えるものだが、ルームメイトのピンチを見過ごせない性格の海理はあえて貸すことにしたのである。
女子寮に戻る前にスマートフォンのネットニュースを確認し、黙読する。

ニュース
『またしても辞任！総理大臣交代ラッシュ　NEW
複数の有名人が逮捕されているこの頃、またしても総理大臣が辞任。
1週間事に交代しているものの、1ヶ月も経たずに交代している謎多き事件が続いている。交代した元総理大臣は「精神障害事件の解決は出来たものの、他の事件が解決しておらず、処理しきれない」と供述している。警察も動くが原因が不明になっている以上、調査の進みようがないと事件調査を保留としている』


「…おかしいですね…総理大臣は早々簡単に辞任されるような職務じゃないような気が…」
そう言ってスマートフォンを閉じ、女子寮に戻る。
自室に戻った海理達は水樹がスマートフォンを弄って何かを見ている姿を確認する。
「水樹さん、何を見てるんですか？」
「ああ？これだよ『白い救世者様お願いチャンネル』、クロノヴェイルが中心とした匿名サイトだが…、誰が作ったんやらだな」
「…『白い救世者様お願いチャンネル』？」
水樹の言われた通りのサイトを開いたとたん、謎多き掲示板に白き救世主に解決して欲しい悩み相談やアンケート、コメントの書き込みなどが貼られていた。

――――これは…！
（どれもロクな事がないものばかりですね）

試しに海理は適当な悩み相談の載ったページを開いた。
内容を確認した。
「…むしろ「正体が知りたい」とはストレートに書き込まれてますね…」
「他にもこんな書き込みがあるな。『あなたは白い救世者を信じますか？』とか表示されているな。まぁ…07.45％しかねぇがな」

派手にやった覚えはない。だが嬉しいことにアイドル体罰事件に自分のやったことは報道されていおらず、目撃情報が表示されていない。
「…何か変なことしたでしょうか？」
「そういえば、魔奈から聞いたぜ。アイドル事務所の事件、関わったんだな」

海理は「だから何でしょうか？」と言いスマートフォンを閉じ、二段ベッドの上で横になる。
「お前に折り入って頼みがあるんだ」
「…」
「近頃、謎の宗教団体がクロノヴェイルの住人から金をぶんどる事件が立て続けに続いてんだ。そのせいで多くの住人の夢や心が砕かれている」
「…」
「ここも例外じゃねぇ、上級生の二人が架空の請求で苦しんでいる。返したくても返せねぇ借金。今でも被害が続いてんだ、警察も動かねぇし、治安も悪化していく一方なんだ」

被害が拡大、相当危ない宗教団体だと知ったからには考え、水樹に問う。
「被害件数は…？」
「乗ってくれるのか！？」
「内容によりますが」
「去年合わせて120件だ」

120件も出ているにも関わらず、警察が動かない。
どんな宗教だと聞くと「サイトを見てくれ」と言われ、渋々とサイトをチェックする。
『電車事故を解決した救世者（メシア）様へ
市役所の役員さん＞去年から多くの被害を出している謎の宗教団体「プレシャ魔法科学宗教団体」の正体を暴き、解決して下さい。これを野放しにすればまた被害が出てしまいます。どうか解決をお願いします』

「…」
――――実にうさんくさい宗教だな。
（金をむしり取るほど怪しい何かをやってるのでしょうか？）
――――後日の行動では良いのではないか？弟の情報が拾えるかも知れぬ。
（…考えときます）

そう思い、水樹に「時間があれば」と言って一足先に眠りにつく。
















その頃、校長室では…天光が別の人物と通話していた。
「何…？あれは精霊じゃなくて「賊精霊」だと？何かの間違いではないのか？」
『いえ、間違えなく草薙 水樹の使ったカードは精霊ではなく賊精霊です。とてつもなく強い力でした』
「…」
天光は唇を噛みつつ、話を続ける。
「それで？次は？」
『次に…FOE（フォース・アンチ・イピアランス）が動きました』
それを聞いた天光はガタリと校長席から立ち上がり、焦り始めた。
「馬鹿な！！何故今更になって動き始めた！？」
『分かりません、ですがこの情報だけは入手しました。奴らの狙いは我々の研究ではなく、このアカデミアにいる「賊精霊のカード」とその使い手が狙いだと思います』
「……！」
『しかし、奴ら事態はそんなに動きを見せません。少しずつ潰してくるかと』
「そうか…引き続き監視を続けてくれ」
天光は通話を切り、再び椅子に座る。
「…海理君、君の弟は当分見つけられそうはない。この不条理なゲームを勝利しない限りは……な」
そう言って天光は、別の所に電話をかけ、話す。
「《フォーマル・ハウト》と《ヘ・イズ》は？」
『只今、培養槽内で最後の調整を行っています。後…7日はかかるかと…』
「1週間もかかるのか、所詮は消滅した精霊の残りカスと消滅した別世界のエンストロピーを合わせて出来上がった生命体か…。人でもなければ、精霊でもない……人間に似せた怪物…不老不死者（イモータル）か…」
天光は通話を切り、溜息を吐く。
机の上に乗っている写真立てに入った写真をじっと見て喋る。
「…善の神はいない…そう言ってくれたのはお前だった。時元 遊（じげん ゆう）前校長…お前の勘は本当に鋭い…本当に起きたのだな…あまりにも無慈悲な悪神が考えたゲームが…」