プロローグ：理不尽で不条理なゲーム　作：ヒラーズ

『いや！海理！海理ぃ！！』
一人の女性が息絶えた乳児を抱いて泣いている。
――――あれ……何だろう…？何でお母さん、泣いてるの？―――――

『ああっ！そんな！！海理と陸也が…「呪われた子供」だなんて！！』
一人の男性が悲劇の運命に取り憑かれた乳児を見て焦る。
――――呪われた……子供？何を言ってるの…？――――

『そうか……俺に、死んだ姉がいるんだな…』
成長した一人の少年が、涙を流し、墓を見つめる。
――――あなたが……私の弟？何で泣いてるの……？いるよ？ずっと近くに―――――

『せめて……この世界を追放される前に、姉の姿を…見たかったな。さぞかし美人だったんだろうな…。海理姉さん…さようなら…もし生まれ変わっているなら他の男性と結ばれて……幸せに…なって欲しい』
手錠をつけられ、異次元の裂け目に放り投げられる、軍服を着た少年。
―――――いやっ！！陸也！行かないで！！私を置いて、行かないで！！――――

あまりにも残酷な現実を知った海理は泣きながらこの世界の醜さを呪う。
――――いやっ！一人は……いやっ！！―――――
その時だった。
【これは…あまりにも不条理でとても理不尽な神々の遊び…勝機はほぼないに等しいでしょう……】
――――何っ！？誰っ！？――――

突然謎の声が海理のいる空間に響く。
その声はまるで自分を助けるような声だった。
―――――あなたは……誰？―――――

【もし…この声があなたに聞こえているなら……まだ勝機があります】
―――――勝機……？―――――

【真の救世者として立ち上がり、あなたの奇跡を…世界に示しなさい…】
―――――真の…救世者（メサイア）……―――――

海理は目の前に飛ぶ光輝く蝶蝶を追いかけ、一つの扉の前に立つ。
【ここは転生の扉、ここに入ればあなたは救世者として転生するでしょう…】
どことなく扉を見つめる。
少しして再び蝶蝶の方に向き、喋る。
―――――もし…救世者としての役目が終わったらどうなるの…？―――――

【……その先の事は分かりません。けど…あなたが望む願い事なら叶うと思います…】
海理は考え、扉の取っ手に手をかける。
【立ち上がると…言うのですね？】

―――――私は……陸也に会って…一緒に暮らしたい！―――――


―――――私は……救世者になる！！もう、誰も…悲しませたくない！―――――

そう言って扉を開け、中に入る。
【立ち上がり、ゲームに勝ちなさい。欠番の救世者…「白き救世者（ホワイト・メサイア）」……】












「はっ！」
少女は目を覚まし、辺りを見渡す。
辺りは電車の中で、乗客はほぼ満員の状態で、東京の通勤ラッシュを思わせる。
少女は運良く席に座っていたらしく腕にはディスクらしき物を装着していた。
「…何であの時の夢を見たんでしょう…救世者…なれるものなのでしょうか？」
少女は溜息を吐いたとたん、電車内のアナウンスを聞く。
『えー次は…東京都…「クロノヴェイル」、「クロノヴェイル」でございます』
電車は駅に止まり、少女は電車を降りる。
「……ここが…時計の都市「クロノヴェイル」……割と広いのね……」
少女は目的地に向かって歩き出したのであった。












「遅い…何をしているんだ！」

ある入試試験の会場にて、ある女性が困り果てた表情をしていた。
彼女はデュエルアカデミア・クロック・ジャパンの現校長、天光 雪子（てんこう ゆきこ）である。
校長に就任される前はプロデュエリストとして名を轟かせた、女性デュエリストである。

「試験当日に遅刻は許さないぞ…」
「校長、このままでは1日の試験に支障が出ます。彼女は諦めて――――」
その瞬間、何もないところから少女が現れる。
腰まで伸びている白髪、若干明るそうな蒼目、ミニスカートからすらりと伸びている綺麗な脚、間違いなく海理であった。
「海理君！遅いぞ…！！」
「おはようございます……天光さん」

海理は深々と頭を下げ、校長に謝る。
「すいません、20分も遅刻してしました」
「全くだ！早く行きなさい」
それを聞いた海理は急いで会場に向かって走って行った。

「校長…彼女は？」
「ああ彼女か？彼女は『白皇 海理（はくおう かいり）』、凄腕のデュエリストであり「呪われた子供」、そして不思議な力を持つ、「奇跡の子」だ」
「先程の力は…？」
天光は会場に向かって歩き出しながら、説明する。
「あれは心理学的に言うのであれば『瞬間移動』だ」
「彼女は…サイキック何ですか？」
天光はフフと笑い、続ける。
「強いて言えば違う。私はその力に興味があるのだよ…」
「は…はぁ」






その頃、会場内では…

「次、試験者番号49番、海理」
「はい！」
海理は呼ばれた通り、デュエルフィールドに立ち、ディスクを構える。
「お互いLPは8000、ルールはリミットブレイクを適用する」
リミットブレイクルール、それはメインモンスターゾーンの上にEXモンスターゾーンが設置され、ペンデュラムゾーンがメインモンスターゾーンの左右に置かれる。特殊ルール…と言うよりこの時代では当たり前のルールである。
先攻ドローが可能で、EXモンスターゾーンはリンクモンスターしか召喚できない（リンク召喚以外の方法でモンスターを特殊召喚した場合、そのモンスターはメインモンスターゾーンに特殊召喚される）。
魔法・罠ゾーンとメインモンスターゾーンは5ヵ所と変わらない。



「「デュエル！！」」



試験官　LP8000
手札5

海理　LP8000
手札5