第十八話・2　作：KOUBOU（旧名：光芒）

　生徒会室を出た遊希たちは、数か月ぶりにセントラル校のデュエルフィールドへと姿を現した。この春まではここで数えきれないほどデュエルを続けてきた。プロの世界で活躍する遊希とエヴァ、大学リーグで鎬を削る綾香たちからしてみれば随分と狭く感じるフィールドではあるが、三年間ここで過ごしただけあって、デュエルの前だというのに言い切れないような郷愁に駆られていた。
　だが、この五人にノスタルジーに浸る暇などなかった。スタジアム状のデュエルフィールドには観客席を埋め尽くさんとばかりに詰め寄せたセントラル校の在校生たち、遊希たちからしてみれば後輩にあたる生徒たちが彼女たちの帰還を今か今かと待ちわびていたのである。

「すごい熱気ね。大学リーグ以上よこれ」
「私にはぴったりの大舞台ね！」
「まさか在校生たちがここまで私たちのことを心待ちにしてくれていたなんて……」

　熱気あふれるスタジアムに早くも飲み込まれそうになる綾香たちではあるが、そんな三人を遊希とエヴァが現実へと連れ戻す。二人はプロであり、綾香たち大学生はおろか遊大たち高校生とも違う。アマチュア相手であろうと彼女たちは後輩たちに花を持たせる気などまるで無かったのだ。

「皆サン、こういう時こそアレやっちゃいませんカ？」
「アレって何よアレって……まあ付き合ってあげるわ」

　フン、と鼻息を鳴らすエヴァの肩を呆れた様子で抱く遊希。そんな二人を見てエヴァが何をしたいのかを理解した三人はサッと準備をし、肩を組みあう。

「よーし！ せっかく五人集まれたんだし、全力で行っちゃうわよー！」

　そう言って気合を入れる遊希たち。厳しいデュエルの世界で生きているからこそ、遊希たちはこうして束の間の青春を思い出しているのかもしれない。そんな様子を見て、心中穏やかじゃないのが遊希たちとデュエルをする五人であった。

「うわ～、すっごく仲いいねあの人たち☆」
「まあ三年間ずっと一緒だったからね。それに比べて僕たちはまだ２カ月ちょい」

　とはいってもマイペースな遊舞と柊人は緊張こそすれど、比較的いつもの自分を保てていると言える。しかし、他の三人―――ヴィルヘルム、那々、セリーナはそうはいかない。

「那々さん、だだだ大丈夫ですよ！ わ、私たちはきっとやれますすって！」
「セリーナちゃん緊張しすぎだよ～、こういう時こそチルタイム。ほら、この栄養満点のゼリーを食べれば……」
「それ昆虫用ゼリーですよぉ！？」
「……スゥー」

　まるで漫才コンビのようなやり取りをする那々とセリーナに、一人今にも寿命が尽きそうなほど土気色の顔をしたヴィルヘルム。この三人は誰が見てもわかるほど追い込まれていた。

「ねえ、那々ちゃんとセリーナちゃんはいつもあんな感じだけど、ヴィルくんはどうしたの？ 妙に顔が白いけど……？」
「ああ、あいつああ見えてコミュ障でチキンなんだよ。普段のでかい態度は自分を大きく見せるためにやってるんだ」
「なるほど、じゃあ普段のヴィルくんはエリマキトカゲみたいなものかな？」
「……威嚇するミナミコアリクイみたいな感じ？ いや、必死に吠えるポメラニアン？」

　せっかくの壮行試合だというのに、これではデュエルどころではない。そんな五人をまとめるべく、六人目のセントラル校代表である結衣がパン、と手を叩いた。

「皆さん、まずは落ち着きましょう」
「あれ、ゆいゆいどうしてここにいるの？ 今日はデュエルしないんじゃ」

　遊希たちは五人であるのに対し、セントラル校代表は六人。一人溢れてしまうため、プロデュエリストとして大舞台に慣れている結衣が外れる形となり、今回はデュエルをしない予定だった。しかし、せっかくの機会だというのにデュエルできないのは忍びないのではないか、と遊希たちの提案により急遽結衣も参加することになったのである。

「そのつもりでしたが、皆さんの様子を見ていたらいてもたってもいられなくなってしまいました。私が先鋒を務めるので、その間に心を落ち着かせてください」
「さすがゆいゆい！ できる女は違うね☆」
「でも誰が相手を……？」

　すると、円陣を解いたはずの遊希たちの輪の中に一人だけ混じるセントラル校の制服が見えた。まさかここにきて遊大が結衣のデュエルの相手になるのでは、と思った五人の前には遊大とは別の見知った顔が現れた。

「……あの時を思い出しますね」
「そうですね。あの時は私は中学三年生、あなたが中学一年生でしたね」

　あの時、というのは四年前の夏の出来事。セントラル校が主催した生徒と中学生以下のデュエリストの交流会。その場で結衣はこれからデュエルをする相手―――ベアトリスと出会ったのだ。

「それが今や同じ学校で先輩後輩の間柄。ああ、結衣さんの師匠は遊希先輩で、私の師匠はエヴァ先輩でもありますね。プロでライバル同士の二人、そんな二人の弟子がこうしてデュエルをする」
「つまり代理戦争、というわけですね」
「そんな物騒な言い回しはしたくないですけど……今日はエヴァ先輩が見てくれています。なので、本気を出しますね」
「奇遇ですね。私もそう思っていたところです！」
「「デュエル！！」」

　壮行試合の一戦目、急遽追加されたマッチアップの火ぶたが切って落とされた。


結衣　ＬＰ８０００　手札５枚
デッキ：３５　メインモンスターゾーン：０　ＥＸゾーン：０　魔法・罠：０　墓地：０　除外：０　ＥＸデッキ：１５
ベアトリス　ＬＰ８０００　手札５枚
デッキ：３５　メインモンスターゾーン：０　ＥＸゾーン：０　魔法・罠：０　墓地：０　除外：０　ＥＸデッキ：１５