第十二話・1　作：KOUBOU（旧名：光芒）

　大型連休が終わり、デュエルアカデミアには平時の賑わいが戻る。そして、連休明けの生徒たちには休みを懐かしむ暇もない。むしろ、その休みを懐かしむものなどいない。昨年から始まったこの時期の恒例行事。全新入生たちが一斉に臨むアトラクション形式の試験だ。
　デュエル委員を遊希から引き継いだ形となる遊大は、新入生を講堂に集めて試験について説明する。

「今年の試験はＶＲを利用した仮想空間でのデュエルです。新入生の皆さんには一人一台、ＶＲゴーグルが貸与されます。皆さんには仮想空間にログインしてもらい、その空間でデュエルをしてもらいます」

　遊大の提案した新試験『ＶＤＬ（バーチャル・デュエル・ラビリンス）』の司祭は以下の通りである。

・試験は特設サーバーに設けられた仮想空間内で行われる
・各自初期ライフは８０００
・各自スタート地点は生徒一人一人、仮想空間内でランダムな場所に設定される
・ステージは３ステージ制
・課せられたミッションをクリアすることで次のステージへと進める
・次ステージへ進むためのミッションは２つ
　①：対人戦で２勝する
　②：ＮＰＣの出す課題を４つクリアする

　そして、この試験の一番の特色はというと。

・自分のデッキは使用不可

　試験開始と同時に各生徒には３つの構築済みデッキが渡され、その中から１つを選んで使うことになる。そしてデッキを選ぶ際にそのデッキの中を見ることができず、選んだ後に変えることはできない。そのため、選んでから実際に使うまでの短い時間でそのデッキの特色から勝ちパターンを理解しなければならないのだ。最も、その辺りは普段の学習ぶりが反映されると言えるだろう。

・他生徒とデュエルした後、その生徒とデッキを交換することができる（交換を持ちかけられるのは勝者側のみ）

　更に、他の生徒とデュエルをした場合、勝った方は負けた方にデッキの交換を持ちかけることができる。デュエルをしていて自分のデッキよりも相手のデッキの方が自分のデュエルスタイルに合っている、完成度が高い、などと思った場合はデッキを交換することができるのだ。最もそれを提案できるのは勝者側で、提案された場合敗者側は基本的に断ることはできない。そのため、自分の気に入ったデッキを守りたいのであれば、デュエルを避けるもしくは勝つしかない。そこにはアカデミア特有の実力主義ではある。

「大まかではありますが、説明は以上です。何か質問などはありますか？」

　新入生たちはざわざわと近くに座る友人たちと話し始める。説明が難しかったか、と遊大が少しばかり己の口下手を後悔しかけた時だった。

「はーい☆ 質問がありまーす！」

　それは遊大にとっては耳にタコができるほど聞いたであろう直属の後輩の声だった。遊舞と結衣はデュエル委員であるが、彼女たちは新入生である以上この試験を受ける立場にある。そのため、彼女たちはこの試験の内容を全く知らされていなかった。

「風花さん、どうぞ」
「えっと、アタシたちはＶＲ使って仮想空間にログインしてデュエルするんですよね？」
「そうだね」
「アタシたち結構な人数いるけど、サーバーが落ちたりしない？落ちちゃったらどうするの？」

　遊大は思いの外真面目な遊舞の質問に思わず舌を巻く。ＳＦやライトノベルにおいて仮想空間に閉じ込められる、仮想空間内で命を落としたら現実でも命を落とす、というストーリーは王道ともいえる展開だ。

「今回の試験には海馬コーポレーション、Ⅰ２（インダストリアル・イリュージョン）社、アースランド・テクノロジーなど、世界各国のＩＴ企業が関わっています。テストプレイ時では最大２００人までのログインができるようになっています。ただ、物事に絶対はないので、もしサーバートラブルが起きた場合は全員の成績に一定の加点します。そのことは先生方からの了承を得ています」
「じゃあ、成績は保障されてるんだ。じゃオッケーでーす☆」

　真面目な質問の割に、軽い返事ではあったが、大事な質問だったために遊大はもちろん他の生徒たちも緊張がほぐれたようだった。





＊





　そしてそんな説明会から一週間後、ついに試験の本番を迎えた。ＶＲゴーグルが生徒一人一人に貸与されるため、教室に行かずとも自室で受けることができるのもこの試験のメリットとも言えた。自室の机に座った遊舞と結衣は時計を見ながら試験開始の時間を待っていた。

「時間なのでそろそろログインしましょうか」
「……」
「風花さん？」
「ゆいゆい、二人で合格しようね」
「……タッグを組むルールではないですし、出会った場合はあなたともデュエルすることになるでしょう。ですが、健闘は祈りますよ」

　そう言って二人はゴーグルをセットし、スイッチを入れた。まるで何かに吸い込まれるかのような没入感に襲われる。そして目を開けた瞬間、二人の目の前には真っ白な城のようなものが聳え立っていた。



―――オーッホッホッホッホ！！



　そしてこの空間全体に響き渡る高笑い。城の上空にはデュエリストならば誰もが一度は見たことがあるだろう、あるデッキのエースモンスターの姿が大きく浮かび上がっていた。



―――前途あるデュエリストたちよ。ようこそ、我が城へ。お待ちしておりましたわ。



―――わたくしの名は《白銀の城のラビュリンス》！ その手に栄光を掴みたいのであれば、数多の試練を乗り越え、わたくしの元へ辿り着いてみなさい！ お待ちしておりますわよ！ オーッホッホッホッホ！！