第二十四話　作：KOUBOU（旧名：光芒）

「さて、今日の壮行デュエルは散々な結果でしたが……」
「えへへ、それほどでも☆」
「褒めてません」
「ですよねー」

　遊希たちとのデュエルを終えた遊舞たちは結衣の主導のもと、学内の生徒用会議室に集まっていた。学年最強クラス、と名高い遊舞もいたものの終わってみれば全敗という有様。故に普段は底抜けに明るい遊舞も普段の明るさは鳴りを潜め、気まずそうな顔で苦笑いをすることしかできずにいた。

「ですが、この結果を必要以上に重く受け止める必要はありません」
「はい！！」
「はい、セリーナさん」
「それでも誰も勝てなかったというのはちょっとまずいと思います！！」

　ちょっとかよ、というツッコミの視線が結衣以外からセリーナに向けられたのは言うまでもない。結衣はふう、と小さく息を吐いた。

「確かに結果自体はお世辞にもよかったとは言えません。ですが考えてみてください。今回の相手はいずれも私たちより遥かに格上でした。５人のうち２人は現役のＳランクプロデュエリスト、３人は大学リーグで活躍しています。デュエルモンスターズには絶対はありませんが……普通に考えれば絶対に勝てない相手なんです」

　結衣の言葉は厳しいが、同時に５人を慰める言葉でもあった。確かに遊希たちが手札事故を起こしていれば５人にもチャンスがあったかもしれない。しかし、そんなアクシデントの時であっても平然に、冷静に対応してくるのが遊希たちなのである。真正面からぶつかって勝てる見込みはそもそも０に限りなく近かったのだ。

「だから皆さんが悪いということはありません。むしろ得るものは多かったのではないでしょうか」
「得るもの……？」
「お恥ずかしながら私もプロデュエリストではありますが、遊希さんとエヴァさんには勝つ自信はありません。星乃先輩たちなら一縷の望みがある、といったところだと思います。そう言った相手とのデュエルだからこそ、相手のプレイングはもちろんデュエル中の所作もよく観察するようにしていました。負けというものは勝ちよりも多くのことを学べます」

　遊舞たち学校代表に選ばれた生徒たちと遊希たちＯＧチームとのデュエルをセッティングしたのは遊大である。遊大も昨年は（本来の力の１０分の１くらいしか発揮できていなかったとはいえ）遊希に挑んでは負け、挑んでは負けと多くの敗北を繰り返してきた。しかし、いくら跳ね返されても諦めなかったからこそ今の遊大が存在する。
　結衣は遊大の真意こそ知らないが、遊大が今後のセントラル校を、デュエルモンスターズを担う者として遊舞たちには大きく羽ばたいてほしいという想いがあるからこそ、遊希たちに乗り越えるべき試練として立ちはだかってほしいと思っていたのだろう。結衣はそう捉えていた。

「幸いまだ時間はあります。本番までに私も含めてデッキの構築、戦法の組み立て、プレイングを練り直しましょう。ただ、今年の相手チーム……ユニオンは昨年の雪辱を晴らすべく気合が入っているという噂です」
「ユニオン……ノース校、イースト校、ウエスト校、サウス校の４校の連合チームだっけ」
「はい。昨年日本国内に新設された４つの地方校……まだ生徒数が少ないために各校から代表を選出し連合チームを組んでセントラル校にやってきます。私たちが６人なので、あちらからも選抜された６人の精鋭がやってくると見ていいでしょう」
「へっ、どんな奴が相手だって構いやしねえ。全員ぶっ倒してやるまでだぜ！」

　ヴィルヘルムの一言をきっかけに盛り上がる遊舞たち。とはいえ、学校を背負っているということに対するプレッシャーは少なからず存在するのだが。





＊





　一方の遊希。セントラル校を後にした彼女たちは、夕食を共にしたのだが、綾香たちに囃される形で遊大と二人きりにされてしまった。世界を飛び回る彼女は数日間宿泊するホテルの一室に遊大を招き入れた。

「あっ……そこは……そんなところさわら……」
「ここが気持ちいいんですね？」
「そ、そうだけど……」
「じゃあ……力を抜いてくださいね」
「あっ……そこはっ……！ ちょっと力強いわよ。もっと優しく押して」
「遊希さん、注文が多くないですか？ マッサージだったらプロにやってもらえればいいじゃないですか」

　ベッドにうつ伏せになった遊希の身体を指圧する遊大。トッププロデュエリストである遊希はとにかく多忙である。そのためまだ１８歳ながらも疲れが蓄積していたのだ。

「……こうでもしないと二人になれないじゃない」
「何か言いました？」
「別に。ちょっと最近疲れやすくなっているのかしら……歳は取りたくないものね」
「俺と２つしか変わらないのに何言ってるんですか」
「そういうのじゃないわ。前よりデュエルの後は疲れがたまるというか、寝ても疲れが取れにくい？そういう感じなの」
「精霊の力の副作用とかでしょうか。肉体的な疲労でないなら心因性のものとか……」
「かもしれないわね。だからこそ、こうして二人きりで過ごす時間を大事にしたいのよ」
「……無理だけはしないでくださいね。俺にできることがあれば、何でもやりますから」
「……今何でもするって言ったわよね？」

　失言した、との遊大の後悔も時すでに遅し。次の日も学校があるのだけど、と思いつつ緊急で外泊許可を出さざるを得なくなってしまったのだった。