12話：魔王少女、覚醒　作：ヒラーズ

「どうした？急に頭を抱え始めたが…？」
謎の声が魔奈の頭の中に響き、頭痛となる。
「ア…アアッ…！」
魔奈は頭を抱え、バランスを崩す。
――――力がいるんだろう？ならば契約だ。

溢れ出る汗、時折混ざる血。
それは海理と同じ状況と似ていた。
「が…あっ…！」
――――どうせ消しえぬ汚名なら、旗に掲げてひと暴れ…

もだえ苦しむ中、その声は響き渡り、次第には涙までも溢れる。
――――お前の中の『もう一人のお前』が、そう望んでいる…

「ぐああ…！」
――――我は汝、汝は我…我は精霊界より追放された賊精霊なり…

「…！」
――――覚悟して背負え…これより、暴君魔王の力が貴様の旗だ！

突然頭痛が治まり、魔奈は立ち上がる。
その時だった。

ｶﾞｻｶﾞｻｯ…！

「…！ブランクカードが…！！」
海理の鞄にしまってあった白紙のカードが魔奈のEXデッキに入り、丁度1枚目のカードとして収まる。
「不可思議な力で何が出来るんだい？」
「これで良い、罠カード『奇跡の残照』を発動！戦闘で破壊されたディアボロスを蘇生！さらに魔法カード『悪夢再び』を発動し、墓地からリリスとアフリマを回収、リリスを召喚し、リリース！効果チェーンでもう1体のディアボロスを特殊召喚し選べ！」

『死のデッキ破壊ウイルス』
『仁王立ち』
『闇の閃光』

「無駄だ！『仁王立ち』を伏せろ！」
「そうか…まだ分からぬなら教えてやる！俺様の真エースを！！我が未来を導くサーキット！アローヘッド確認！召喚条件は闇属性モンスター2体以上！俺様はトークンと2体の闇黒の魔王をリンクマーカーにセット！サーキットコンバイン！！“精霊世界から追放された邪悪なる皇よ！今この場に君臨し、救世の助け船となりて、その力を振るわん！我は汝、汝は我！！”目覚めよ！闇黒の魔皇神ブルーク・フーデ！！」
黒い物体が3体のモンスターを吸い込み、マーカーにセットされる。
魔奈が召喚するのは間違いなくリンクモンスター。
取り出したブランクカードに色がついていき、デザインとイラストが表示され、マーカーも描かれる。
しかしよく見てみるとリンクマーカーの数が1つ多い。
それを見た海理は驚く。
「リンク3じゃない…リンク…『4』！？」

闇黒の魔皇神ブルーク・フーデ／Original Card
LINK-4/闇属性/ドラゴン族／リンク／効果　ATK3300　マーカー：上/右下/下/左下
闇属性トークンを含めた闇属性モンスター2体以上
このカードがリンク召喚に成功した時、相手はデッキの上からカードを3枚めくり、その中にモンスターカードがあった時、相手に２０００のダメージを与える。
①：1ターンに1度、自分の墓地から闇属性モンスター1体を選択し、そのモンスターをこのカードのリンク先に特殊召喚する。
②：このカードはカード効果の対象にならず、相手はこのカードをリリースできない。
③：自分フィールドのこのカード以外の闇属性モンスターをリリースして発動できる。このターン、このカードの攻撃力は倍になり、相手のカード効果を受けない。
④：このカードが存在する限り、自分はこのカード以外「1ターンに1度しか使用できない」効果を無視して発動できる。

現れたのはさらに邪悪さを増した謎のドラゴン族のリンクモンスター。
体中に謎の模様が刻まれ、模様が青く光る。
「何だ…この効果は…！？」
（これって…！）
――――間違いない…こやつは…！
――――『賊霊使い』に…覚醒した！！

「これが…俺様に宿る『賊霊』…！こいつはいい…この力があれば、姉上の仇も取れるし、始芽に借りを返せる…！」
魔奈はにやりと笑い、始芽に指をさしながら言った。
「待たせてしまったな…海理！ここから逆転するぞ！！」
「何をとぼけた事を言うんだい？」
「このターンで終わるからだ始芽！ブルーク・フーデの効果発動！このカードのがリンク召喚に成功した時、お前はデッキトップからカードを3枚めくり、その中にモンスターがあった時、お前に2000のダメージを与える！」
始芽はデッキトップからカードを3枚めくる。

『ダーク・リゾネーター』
『機械複製術』
『チューニング・サポーター』

「んなっ！？」
「2枚か…2000のダメージを受けて貰うぞ！」
始芽　LP7000→5000

「さらに！1ターンに1度、墓地から闇属性モンスター1体を特殊召喚する！悪王アフリマを特殊召喚！③の効果を発動！俺様の場の闇属性モンスター1体をリリースし、このターンのみこのモンスターの攻撃力は倍になり、相手のカード効果を受けん！しかもこのカードが存在する限り、1ターンに1度にしか発動できない効果は適用されず、何度も発動できる！制限はない！覚悟しろ！」

アフリマが墓地に送られ、攻撃力を強めていく闇黒の魔皇神、効果チェーンでディアボロスが無限に特殊召喚され、3回墓地送りを繰り返した。

闇黒の魔皇神ブルーク・フーデ　ATK3300→6600→13200→26500

「攻撃力…26500！？」
「歯を食いしばれ！闇黒の魔皇神ブルーク・フーデで攻撃！効果で海理のモンスターの攻撃力を奪っても無駄だぞ！魔皇拳・滅！！」
ブルーク・フーデの剛拳が鉄の天使を砕き、爆風で始芽を吹き飛ばす。
始芽　LP5000→0（－21500）

「ぐあああっ！！」

You WIN！
海理
魔奈

You Lose…
始芽














「ま…待ってくれ！僕は見返りが欲しかっただけなんだ！！僕の頑張りで人が得する中で自分だけが得しない事が許せなかったんだよ！！」
始芽は腰を抜かし、引き下がる。
しかしそれを聞かなかったかのように、魔奈は指をポキポキと鳴らし、近寄り殺意が漏れ出した。
「今更になって命乞いか…！姉上は同じ気持ちでずっと居たのだぞ！！それを…お前が聞かずに追い詰めたのだ！」
魔奈は腕から魔力球を生成し、始芽に向かって投げつける。
「魔奈さん！！」
海理はそれを止めようとしたとたん…

ﾄﾞｶﾞｧ！

魔力球が始芽の頬をかすり、近くの机に直撃し爆発。
「ひいいっ！！」
「お前が死んでしまったら罪を償えなくなる！きっちり刑務所に行って貰うぞ！！」
「魔奈さん…」
「フン、後は警察を呼べば十分だ」

（処刑竜、今のうちに…！）
――――うむ、任せよ。

処刑竜が半実体化し、始芽の体に手を入れ、歪んだ欲の核を取って握り潰す。
その反動で始芽は膝を床につけ、倒れ込む。
――――後は我だな。

メサイア・ドラゴンの力で闘いに敗れた精霊のカードを1枚のブランクカードに変え、力を奪う。
「…」
処理が済んだ後、海理が後ろを振り向く。
魔奈がメンバーたちに囲まれ、感謝されたり、褒められてたりしていた。
「格好良かったよ！」「変態プロデューサー撃退だね！」
「さすがリーダーの妹ね！」「これでもう体罰はなくなるね！！」

（私はこれで用済みですね）
――――そのようだな。
――――では帰ろう。

「いや…これは海理の協力のおかげ…って海理？」
気がつくとそこにはやや廃人化している始芽しかおらず、海理の姿はなかった。
「…あいつ…礼を聞かずに帰るとはな…」















あれから2日後、朝早く起きた海理は満員電車に揺られながらネットニュースを開き、確認する。

ニュース
『人気アイドルに体罰！？クロッカーズ事務所のプロデューサー逮捕　NEW
昨日午前11時、人気アイドルグループ「クロッカーズ」のプロデューサー「反旗 始芽」氏が自首し、現行犯逮捕された。始芽氏は「自分は大きな罪を犯しました。僕は裁かれなければならない」と供述しており、取り調べによるとアイドルグループのリーダーに体罰を繰り返し、飛び降りにまで追い詰めたと自白した。警察は余罪があると想定し、調べを進めている。そして「クロッカーズ」の活動は休止するという報告も出され、多くのファンに影響をもたらした』

「大変ですね、魔奈さん」
海理はスマートフォンのアプリを閉じ、目的地の駅に着いたと同時に電車を降りる。
アカデミアに到着したとたん
「海理！」
遠くから魔奈の声が聞こえ、振り向いた。
どうやら同じ時間帯に魔奈も到着し、合流したのだった。
「魔姫先輩の調子は…？」
「ああ、後1ヶ月もすれば退院だ」
その言葉を聞きホッとする。
「良かったですね！」
「全くだ、活動休止は免れなかったがな」

「「……」」

互いに数秒間沈黙した。
しかし次に出たのは喧嘩ではなく…。

「ふふっ…」
「ははは…アーッハッハッハッハッ！！」
笑いだった、魔奈の笑いはこの時だけ純粋な乙女に見えたのであった。
それと同時に…。
ｷｰﾝ､ｺｰﾝ､ｶｰﾝ､ｺｰﾝ…

「「あっ…！」」
チャイムが鳴り響く。
気づいた時、時刻は授業まで5分は切っていた。
「…！大変！早く教室に向かわないと！」
「お…俺様もだ！」

海理達は走り出し教室に急いだのだった。






序章：転生者　完