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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第54話:不可能への挑戦

第54話:不可能への挑戦 作:

ヴェルテクス・デュエリア ドミノタウン予選 決勝戦。
仕掛けた罠を遊次に見破られダメージを負った譲は、
血を吐きながら、生きるために戦うこととなった原点を思い出した。
願いを力へと変えた譲は、炎と水、2体のSモンスターを召喚し、遊次を追い詰める。

--------------------------------------------------
【譲】
LP5200 手札:3(ファリナ)

①冽灼の宴陽 ソリグナ ATK2700
②冽灼の赫鎧 バルグレン ATK6000
③冽灼の水盾 ナルディエル ATK3000
④冽灼の環紗 ネアス DEF1600

EXデッキ(表):ナムリオ、ヴォルヴ、ネアス
Pゾーン:冽灼の燐珠 ピオナ、冽灼の流糸 ネリュス
伏せカード:冽灼の噴濫

【遊次】
LP3800 手札:3(儀式の予告状、ナンゴウ)

①妖義賊-雲龍のリヘイ ATK2300

EXデッキ(表):カルメン、キク、アカホシ
--------------------------------------------------


「なんと完璧なフィールドでしょうかッ!!
ナルディエルにより、神楽選手はPゾーンの水属性『ネリュス』の守備力…2400以下の守備力を持つモンスター効果は全て無効!」

「そしてPゾーンの炎属性『ピオナ』の攻撃力900以上の攻撃力のモンスターは攻撃できず、ソリグナのモンスター効果無効と、破壊効果に対してカウンターを行う罠カードも健在!
P効果によって虹野選手のモンスターとPスケールは対象に取る事もできない!」

実況の多口伝助は、上にピンと立った頭を掻きむしりながら絶望的な盤面を解説する。

「遊次さん、さすがにまずいんじゃ…」
観客席の星弥もフィールドを心配そうに見つめる。

「おい遊次!怜央の兄貴の仇を取るんだろ!負けんじゃねえ!」
リアムが立ち上がって大声を張り上げるも、すぐにダニエラに頭を押さえられる。

(今回こそはヤバい…何度そう思ったかわからないが、遊次はそれを乗り越えてきた。
しかし、今度こそは本当に…)

イーサンは遊次へ真剣な眼差しを送る。
しかし当の遊次は頭の上に手を置き、少年のような笑顔を浮かべていた。

「すげーな、お前のモンスター!
そいつらがいれば、すげー心強いだろ?」

「…あぁ、本当に」
譲も柔らかな表情で自身の前に並び立つ2体のSモンスターを車椅子から見上げる。

普通なら嘲笑されるような遊次の言葉を、譲は笑わなかった。
遊次は、眼前に立ち塞がる2体のSモンスターを見つめる。

(肌が痛ェ…あのモンスター達が放つオーラが、全部伝わってくる。
これがアイツの願いの強さなんだ。でも…)

遊次は左斜め上方の観客席に視線を移す。
そこには、記憶を失う前の遊次を知る"おばちゃん"の姿があった。

「でも…俺も負けるわけにはいかねえ。
立ち止まってたら…その分、また誰かが苦しむんだ」

その言葉を口にした遊次の脳裏に浮かんだ1枚の情景。

(よかった…!生きていたんだね…!本当に…よかった…!!)
それは瓦礫を背に自分を抱きしめる、見知らぬ男の涙。

そして次に浮かんだのは、さらにその奥にあるもの。
やつれ、痩せ細り、目から光を失った、"父"の姿。

(俺はもう…誰も苦しませたくないんだ)




14年前のあの日。
俺が目覚めたら、目の前に大きな機械がずらっと並んでいた。
赤と青のランプがうるさいくらいにチカチカ光ってた。
天井からは管がいくつも垂れ下がってて、その中を何かが流れてるのが見えた。
床は金属で、ゴウンって振動が体に伝わってきた。

思い返せば多分どこかの施設だったのだろうが、そんなことは、当時の俺にはどうでもよかった。

「痛ッ…!」
固い鉄の寝台から起き上がった瞬間、体中に激痛が走った。
よく見たら、体中に包帯が巻かれていた。

俺の声に気付いて、白い服を着てオレンジ色の髪と髭を生やした男が駆け寄ってきた。

「遊次…!遊次ッ!!」

その人は、涙を流して抱きしめた。
でも俺は、今起きている全てを何も理解できなかった。

「……おじさん、誰?」

そう弱々しく呟いた俺の顔を、"オレンジ色の髪の男"が目を大きく見開いて見つめる。
その人の心が、希望から絶望に変わっていくのが、何もわからない俺にもわかった。

すると、突然、頭が割れるように痛くなった。

「う…うあああぁあああ…!!!!」
俺は頭を押さえて声を上げる。
周りの大人達も、何が起きたのかわからない様子だった。

「ァァアァアアアアアアアア!!!!!」

頭に、変な映像が一気に流れ込んできた。
何百、何千の映像が、フラッシュバックみたいに。

一瞬見えた映像の中には、空を舞う龍とか、悪魔みたいな、明らかに人間じゃない存在が数えきれないほどいた。
その中には人間もいたが、鎧を纏っていたり、魔法使いのような恰好をしていた。

記憶がない俺にもわかった。
これは、この世界のものじゃない。

「ァアアアアア!!!!アアアアアアア!!!」

俺は頭を押さえて鉄の寝台でのたうち回る。
どうすればいいかわからず焦った表情をしていたオレンジ色の髪の男の人は、はっとひらめいたように、何かを持ってきた。

それは、赤い大きな宝石のついたネックレスだった。
その男がネックレスを俺の首にかけた途端、頭の痛みが段々と引いてきた。
頭の中を駆け巡っていた映像も、見えなくなった。

オレンジ色の髪の男は、大きく息を吐いて、安心した表情になった。
でも、すぐに暗い顔に戻って、俯き、虚ろな目で呟いた。

「…失敗だ」

彼の後ろで、紫色のくるくるの髪をした若い男の人が、
歯を食いしばって、オレンジ色の髪の男の背中を複雑な瞳で見つめていた。


体の大きさに見合わないネックレスをつけたまま、俺はオレンジの髪の人と紫の髪の人と一緒に外に出た。
目の前に広がっていたのは、ぐちゃぐちゃになった町だった。
でも、当時の俺には、それがおかしい事だということすらわからなかった。

遠くに、大柄な男の人が、瓦礫の山を呆然と見つめているのを見つけた。
焦げた木材、ねじれた鉄骨、看板の残骸。何も言わず、ただ黙ったまま。
ただ茫然と、その崩れさった建物を見つめていた。

俺は、何がなんだかわからないまま、ずっとその人を見つめてた。
すると、その大柄な男の人は振り返って、俺を見つけた。

「…遊次くん!!無事だったのか…!!」

先ほどまで魂を失ったように呆然としていた男は、
自分の姿を見るなり、こちらへ駆け寄り、勢いよく抱きしめた。

「よかった…!生きていたんだね…!本当に…よかった…!!」

男は大粒の涙を流し、俺を抱きしめ続けた。
何もわからなかったが、ただ彼の温もりだけが伝わって来た。
なぜか俺の目からも、自然と涙が溢れてきた。


それから、オレンジ色の髪をした男の家に連れていかれた俺は、その人から全てを聞いた。

そのオレンジ色の髪の男は、俺の父さんだということ。
名前は「神楽天聖」。
俺は、神楽遊次という名前であること。
父さんはなんとかっていう研究所で、デュエルに関することを研究をしているらしいこと。

この町は、ドミノタウンという場所で、父さんや俺が生まれ育った場所だということ。
その町が今日、とある災害で一瞬にして崩壊したこと。
町の人は、黄金の鎧のデカいモンスターが町を壊したと言っていた。
信じられなかったけど、皆が口を揃えてそう言うから、多分本当なんだろうと思った。
だって、自分の家を壊されて、家族を亡くした人もいて、そんなウソつくわけないから。

瓦礫の前で呆然としていた人は、惣菜屋のおじさんらしい。
家族3人ともよく通っていたため、仲良くしていたようだ。
でも、その店は彼の前で瓦礫と化していた。

俺はその災害に巻き込まれて瀕死状態となったけど、なんとか一命を取り留めた。でも精神的ショックからか、記憶を全て失っているらしい。
頭が割れるように痛くなって、別世界のような記憶が流れ込んでくる現象も、"父さん"がくれた赤い宝石のネックレスをつけていれば、なぜか起きなかった。


俺には、母さんがいないらしい。
数年前に病気死んでしまったと、父さんは苦しそうに言った。

「…ごめん」

気付いたら、俺はそう口にしていた。
俺が記憶を失わなかったら、この人に苦しい記憶を思い出させずに済んだのに。
そう思ってしまったのだろう。

「な…なぜ遊次が謝る!お前は生き…生きてたんだ!
それだけで、俺は…!」

父さんが強く僕を抱きしめた。

「また1から始めればいい……!」

その言葉を体現するように、父さんは俺に、色んなことを教えてくれた。
大事な家族の思い出も、友達のことも、何もかも忘れてしまったことに、父さんはやっぱり堪えてたみたいだ。
たまに悲しそうな顔をするから、すぐにわかった。
それでも父さんはめげずに、明るく振舞ってくれた。
俺を悲しませないように。

町を歩くと、笑顔で声をかけてくる人がいっぱいいた。
でも、俺はその人を覚えてなくて。
どうしたらいいかわからなくて黙ってると、父さんは明るく事情を説明してくれた。
町の人たちも、心から俺のことを心配してくれた。
涙を流してくれる人もいた。
記憶を失う前の俺が、皆に大事にされてたのがよくわかった。
何も覚えてなくても、この人達にお返ししたいと心から思った。


特にデュエルのことは、俺の空っぽの頭にズドンと入り込んだ。
記憶をなくす前から使ってたらしい妖義賊デッキは、考えることがいっぱいあるけど、それがデュエルの楽しさなんだと感じた。
すぐに俺は夢中になって、父さんとデュエルをしまくった。
その時だけは、2人とも不安も悲しさも忘れて、ただ、戦いを楽しんだ。
やっぱりデュエルは最高だ。


「なあ父さん。父さんにも、モンスターの声が聞こえるのか?」

「…ん?どういうことだ?」
父さんは俺の言っていることを理解できない様子だった。

「たまにモンスターが何を思ってるかとか、わかるんだよ。皆もそうなのかなって」

父さんは口をしばらくぽかんと空けていたが、すぐに真剣な表情に戻った。

「…それは、本当か?はっきりと、感じるのか?」

「うん。いつもじゃないけど…なんか、伝わってくるんだ」

父さんはまたしばらく何かを考えている様子だった。
考えてるということは、記憶を失う前の俺は、そうじゃなかったということだ。
その後、父さんは俺の頭をぽんぽんと撫でて、優しい笑顔で言った。

「それは"神様"からの贈り物かもな」

デュエリストにも色んな人がいて、モンスターに特別な愛着を持ってる人もいれば、ただのソリッドヴィジョンとしか思っていない人もいるそうだ。
父さんも自分のモンスターのことが大好きで、だから声が聴ける俺を羨ましがってるみたいだった。


デュエルの他にも、父さんが大好きなものがあった。
それは、病死した俺の母さんのことだ。
神楽芽愛という名前で、父さんは写真や動画を毎日のように見せてくれた。
茶色い長い髪で、なんとなく強そうな雰囲気の顔立ちだった。
明るくていつも笑顔な父さんとは真逆のイメージだった。

母さんのことを語る父さんは、いつも笑顔だった。

「芽愛はな、美しくて、なにより理知的で、それはそれはクレヴァーでな…」

「その話、前も聞いたっての!
あとなんだよ、リチとか、くればーって!」

「とにかく賢いってことだ!それもただ賢いだけじゃないぞ。そう、ズル賢いんだ。大学時代に俺の私物のPCが盗まれちまってな。それが学内で行われたオークションに出品されたんだ。それに芽愛は怒ってくれてな。他のオークション参加者を全員丸め込んで、結果、芽愛以外の誰もオークションに参加しなかった。どんな方法か未だにわからないがな。で、彼女が俺のPCを最安値で取り返してくれた。その知性と優しさに…俺の心は奪われちまったわけだ」

「だからその話も聞いたって!なあそんなことより早く風呂いこーぜ…」
同じ話を何度もする父さんに呆れもしたが、父さんが幸せそうな笑顔でいてくれるのは、純粋にうれしかった。

「どこか捻くれてるとこもあるんだが、そこもまたイイんだ。お前も…」
父さんは俺と目が合った瞬間はっとして、言葉を途中で切った。

「…でも、曲がったことが嫌いで、何より…優しかった。
お前も、そんな母さんのことが大好きだった。
お前にも、会わせてやりたいよ。…本当に」

話し終わった後の父さんは、いつも寂しそうだった。
胸がちくりとした。


父さんは母さんの死から何年経っても、その苦しみを忘れられなかったんだ。
おまけに俺も全部記憶がなくなって、自分が生まれ育った町もぐちゃぐちゃになって。
まともな精神でいられるわけがない。

最初はなんとか笑顔で接してくれてたけど、その笑顔も日に日に減っていった。
俺が忘れたことが、あまりにも多すぎたんだ。
父さんが昔の事を語る度、それを俺が覚えていないことに、明らかに虚しい表情をしてた。

俺は、なんで何も覚えてないんだろう。
なんで、忘れてしまったんだろう。
大好きだった、母さんのことさえ、何もかも。

俺は何もわからないのに、俺が父さんを苦しめてる。
だから、俺も苦しかった。

そして災害から数か月後、ただの日常の1ページをきっかけに、父さんは完全に変わっちまった。



朝、俺が目を覚まして部屋の扉を開けると、下から何かを焼く音が聞こえた。
父さんが、キッチンで朝ごはんを作っているみたいだ。
父さんは料理下手で、いつもはシリアルで済ませてたから、珍しくて俺は笑顔で階段を降りた。

「おはよー父さん!何作ってんだ?」

父さんはエプロンを身に着けて、笑顔で振り向いた。

「おはよう遊次。待ってろよ、今日は父さんお手製の朝食だ」

「うおぉー!楽しみにしてるぜ!」
俺は目を輝かせて、テーブルに着いた。

父さんは鼻歌混じりにコンロの火を消して、フライパンから料理を更に移す。
それを得意げに俺の目の前に運んだ。

「…なんだ、これ…」

目の前に置かれたのは、真っ黒な何かだった。
ところどころ黄色が見え隠れしていて、卵料理であることはわかるが、到底、食べ物とは思えなかった。

「ど、どうだ…?」
父さんは伺うように俺の顔を見つめた。

わざわざ珍しく作ったのにこれかという気持ちもあったけど、それよりも父さんの表情が、俺にはなんだか愛おしかった。
せっかく俺のために作ってくれたんだしな。

「…ありがとな、父さん!今度は俺も手伝うぜ!」
俺は笑顔でそう言った。

その瞬間、父さんが手に持っていたフォークを床に落とした。
耳障りな鉄の音が、キッチンに響く。

父さんの俺を見つめる瞳からは、光が消えていた。
俺は今でも、その眼を忘れることができない。

その眼は、息子を見るには冷たすぎたから。

「ど、どうしたんだよ父さん…」
何か変なこと言っちまったか?でも全然思い当たらない。

沈黙が流れる。
数秒後、父さんがはっとしたように、落ちたフォークを拾った。

「わ、悪い。すぐに洗う」
父さんの態度は何故だか、すごくよそよそしく聞こえた。

それからだ、父さんがあまり俺と口を利かなくなったのは。

父さんはコラプスでなくなった研究所を建て直そうとしてるらしい。
だから忙しかったんだろう。
俺は、そう考えた。考えようとした。

それから数ヶ月経って、小学校が再開した。
そこでも俺の記憶がなくなったことで、友達だった奴からも避けられるようになった。
でも、父さんには言えなかった。
父さんをこれ以上苦しませたくなかったから。

父さんが完全に冷たくなったわけじゃなかった。
俺にも普通に接してくれようとしてたし、俺にとっては家が唯一の心の拠り所だったのは確かだ。
でもあの瞬間から何かが"切れた"のも、また確かだった。

それから、どんどん父さんはやつれていった。
笑顔もほとんどなくなって、デュエルもあまりやらなくなった。

でも、父さんは悪くない。
父さんは色んなものをずっと1人で抱えて、苦しいんだ。
俺はその苦しみをちょっとでも取ってあげたかった。

コラプスから1年が経ったある夜のこと。
俺は、父さんに話しかけた。

「なあ、父さん。なんか悩んでるんだろ」

「…ん?あ、あぁ…そう見えるか?
研究所のこともあるし、最近ちょっと疲れてるからな」

父さんは、少しだけ口角を上げてみせた。
違う。誤魔化してる。

「…嘘、つくなよ。
父さんは、母さんがいなくなっちまって寂しいんだろ。
そんな時に"コラプス"があって、町はめちゃくちゃになって、俺も記憶をなくしちまって…」

「なのに父さんは、俺にはいつも笑顔を見せてくれてた。
頑張って、笑顔を作ってたんだろ。
でも…辛い時に、笑えるわけねえんだよ!」

俺の目から、自然に涙が溢れていた。
父さんも、はっとした表情で俺を見つめてる。

そして、父さんの目から一筋の雫が落ちた。
せき止めていた何かが決壊した様に、涙はとめどなく溢れた。

「……俺は…何もかも失ったんだ……!」

父さんは、喉から込み上げるような声で、そう言った。
俺の、目の前で。

俺の心に、その言葉は深く突き刺さった。
その言葉は、あまりに残酷だった。

でも、それが父さんがずっと抱えてた気持ちだったんだ。

苦しさと哀しさが入り混じった涙を、俺は腕で拭い続けてた。
悩みを聞くと言っておきながら、俺は何も言葉を吐くことができなかった。

「芽愛…っ…会いたいよ……」

父さんは、子供のように泣きじゃくった。
その姿はまるで…"過去"に戻りたいと言っているように見えた。



それが、俺が見た父さんの最後の姿だった。
泣き疲れていつの間にか眠ってしまった俺が目を覚ました時には、もう父さんはいなかった。
そしてその日の夜、イーサンという男が俺の前に現れることとなる。


父さんが失踪して、イーサンが俺の親代わりとなってから数年後。
イーサンからある事実が伝えられた。


「遊次、お前に言っておかなきゃならないことがある」

「え、俺いま忙しいんだけど…」
ベッドの上でおもむろにカードを広げていた俺は、面倒くさそうに答えた。

「…大事な話なんだ」
イーサンは静かに言った。
いつもと雰囲気の違うイーサンに、俺も真剣になる。

「なんだよ、話って」

「…天聖さんが、死んだ」

父さんは海外で病死したと、イーサンは俺に伝えた。

数日後、俺とイーサンだけで、ちっちゃい葬儀をした。
着慣れない小さな黒いスーツを着ながら、墓標の前で俺は呆然と立ち尽くしていた。

結局、俺はあの日から一度も、父さんに会えなかった。
俺が最後に見た父さんは、あの泣きじゃくる姿だった。

俺は、何もできなかった。
父さんを、笑顔にできなかった。

…俺は、無力だ。
悔しくて握った拳に血が滲んだ。

あの痛みを、俺は今でも覚えている。




遊次は、目の前の2体のSモンスターを、強い眼差しで見つめる。

「今もこの町の人たちは、哀しみの中にいるんだ。
"そこ"に長く居続けたら…いつか限界が来ちまう」

遊次は記憶を失ってすぐに出会った、惣菜屋のおじさんのことを思い出す。
店を失った彼は数年後、自ら生きることを諦めてしまった。
そのことがずっと遊次には心残りだった。
自分のために涙を流してくれた人を、もう、何人も失った。
だから。

「俺が今負けたら…また皆を、4年も待たせちまうんだよ」

天聖はわずか1年の間に、次第に心を失っていった。
最後にはそれが決壊した。

ドミノタウンの人達を救うには、ヴェルテクス・デュエリア優勝による大規模な救済が必要。
しかし次の大会は4年後だ。
ここで優勝を逃せば、それだけの時間、また多くの人を苦しみ続けることになる。

「立ち止まったら、失っちまうんだ。
だから、俺は前に進み続けなきゃならねえ…!」

遊次はデュエルディスクを掲げる。

「…来なよ、神楽遊次クン。僕を、楽しませてくれ」

譲はすぐに気付いた。遊次の眼差しに覚悟が宿ったことに。
彼は、この突破不可能の盤面に挑もうとしている。
自らの命を脅かす存在であるはずの遊次に、譲は期待感を抱いていた。
次は、どんなデュエルを見せてくれるのだろうと。

--------------------------------------------------
【譲】
LP5200 手札:3(ファリナ)

①冽灼の宴陽 ソリグナ ATK2700
②冽灼の赫鎧 バルグレン ATK6000
③冽灼の水盾 ナルディエル ATK3000
④冽灼の環紗 ネアス DEF1600

EXデッキ(表):ナムリオ、ヴォルヴ、ネアス
Pゾーン:冽灼の燐珠 ピオナ、冽灼の流糸 ネリュス
伏せカード:冽灼の噴濫

【遊次】
LP3800 手札:3(儀式の予告状、ナンゴウ)

①妖義賊-雲龍のリヘイ ATK2300

EXデッキ(表):カルメン、キク、アカホシ
--------------------------------------------------

遊次がデッキトップに指をかけ、力強くカードを引く。

「俺のターン…ドロー!!」
遊次は引いたカードを見つめ、思考する。

「スタンバイフェイズ、『冽灼の水盾 ナルディエル』の効果発動!君はこのターン、僕のPゾーンの炎属性以上の攻撃力で攻撃できず、僕のPゾーンの水属性以下の守備力のモンスター効果は無効となる!」

ナルディエルが高らかと剣を掲げると、水の波動がフィールドに広がる。
その瞬間、遊次のフィールドのリヘイが水の輪によって拘束され、効果が無効化される。


(ナルディエルの効果は、発動した時点でターンが終わるまで続く。ナルディエルを倒したところで効果は止まらねえ。
譲のフィールドを突破するには…何重にも条件をクリアしなきゃいけない。そのためには…全部のチャンスを掴まなきゃならねえ)

遊次は引いたカードを表に向ける。

「魔法カード『一攫千金の予告状』発動!」

■一攫千金の予告状
 通常魔法
 ①:このカードは発動後、墓地に送られる。
 このカードの発動後2回目の自分メインフェイズに、このカードを墓地から除外できる。
 ②:自分の手札が1枚以下で、このカードが墓地から除外された場合に発動できる。
 自分はデッキから3枚ドローする。


予告状カードは発動した時点ではただ墓地へ送られ、何も起こらない。
墓地から除外されることで初めて効果を発揮する。

「さらに俺は『妖義賊-夜駆けのシチベエ』をPスケールにセッティング!」


■妖義賊-夜駆けのシチベエ
 ペンデュラムモンスター
 レベル5/地/獣/攻撃力2100 守備力1500 スケール8
 【P効果】
 このカード名の①②のP効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドの「ミスティックラン」Pモンスター1体を対象として発動できる。
 そのカードを自分のPゾーンに置く。
 ②:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合に発動できる。
 デッキから「ミスティックラン」カードまたは「予告状」魔法カード1枚を墓地へ送る。
 【モンスター効果】
 このカード名の①②の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できず、③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分の手札が相手の手札の枚数以上で、このカードが特殊召喚した場合に発動できる。
 自分・相手の手札を全て入れ替える。
 ②:自分・相手の魔法&罠ゾーンにカードが存在し、このカードが特殊召喚した場合に発動できる。
 自分・相手フィールドの魔法&罠ゾーンのカードを全て入れ替える。
 ③:自分メインフェイズに発動できる。このカードを自分のPゾーンに置く。


そのモンスターは、兎の顔を持ちながら二足歩行で立つ獣人だ。
肩には青いマントが掛かり、胸元には飾りの留め具が輝いている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/pZDHsmf
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


「『夜駆けのシチベエ』のP効果発動!
自分フィールドのPモンスターを、Pゾーンに置く。
『妖義賊-雲龍のリヘイ』をPゾーンへ!」

シチベエが手招きすると、リヘイは遊次の頭上へと高く飛び上がる。

「雲龍のリヘイのP効果発動!手札を1枚捨てて、墓地の予告状カードを除外する!
手札の儀式の予告状を捨てて、墓地の一攫千金の予告状を除外!」

「除外された一攫千金の予告状の効果発動!
手札が1枚以下の時、カードを3枚ドローできる!」

遊次が目を瞑り、デッキトップに指をかける。

(譲の盤面を崩すには、まだまだ必要なカードがある。
応えてくれ、俺のデッキ…!)

惣菜屋のおじさん。
父さん。
そして、観客席で両手を握って祈るデュエルショップのおばちゃん。

遊次の願いの原点となった彼らへの思いを1つ1つ確かめるように、遊次は3枚のカードをめくり、勢いよく引く。
遊次は目を開き手札を確認する。

(…来た!まずは1枚…!)

「永続魔法『妖義賊の連携陣』発動!」


■妖義賊の連携陣
 永続魔法
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分の墓地・フィールド・EXデッキの表側から
 「ミスティックラン」カードをそれぞれ1枚ずつデッキに戻し、
 相手フィールドの表側カード1枚を対象として発動できる。
 そのカードがモンスターカードの場合、コントロールを得て、
 魔法・罠カードの場合、自分フィールドに置く。
 ②:元々の持ち主が相手となる自分フィールドのカード1枚を墓地へ送り、
 自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターはこのターン、相手の効果を受けない。
 ③:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する限り、
 自分のモンスターの守備力は倍になる。


「そのカードは…」
譲が眉間に皺を寄せる。
空蝉との戦いでも使用された永続魔法だ。
そしてそれは、譲が最も警戒していたカードでもあった。

「『妖義賊の連携陣』の効果発動!フィールド・墓地・EXデッキの表側から、それぞれ妖義賊カードをデッキに戻すことで、相手フィールドのカードを奪うことができる!Pゾーンのリヘイ、墓地のプロメテ、EXデッキのキクをデッキに戻して、お前の伏せカードを奪う!」

デッキに戻ったリヘイ、プロメテ、キクが半透明の姿で遊次の前に現れると、3体で三角形の紋様を描き、それを指定された永続魔法へと放つ。その攻撃を受けた譲の伏せカードは一瞬にして消え、遊次のフィールドへと置かれた。

「神楽選手が奪った伏せカードは、効果破壊に反応して破壊されたカードを復活させ、さらに相手フィールドのカードを葬る罠カード『冽灼の噴濫』!
P効果によって冽灼モンスターとPカードは効果の対象とならないため、選択肢はこの伏せカードしかない!」

「着実に虹野選手を崩してはいるものの、最大の壁は効果と攻撃を無効にするナルディエルです!神楽選手はどう突破するつもりなのでしょうかぁ!?」


「手札から『妖義賊-鍵破りのグレイシール』を召喚!
このモンスターはレベル5だけど、リリース無しで召喚できる!」


■妖義賊-鍵破りのグレイシール
 効果モンスター
 レベル5/闇/サイバース/攻撃力2000 守備力1600
 このカード名の②の効果はデュエル中に1度しか使用できず、③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードはリリースなしで召喚できる。
 ②:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター1体をリリースし、以下の効果から1つを選択して発動できる。
  ●相手は自身のEXデッキの裏側モンスター1体を選択する。
  そのモンスターを召喚条件を無視して、自分フィールドに効果を無効にして特殊召喚する。
  ●相手のEXデッキの表側モンスター1体を選んで、自分フィールドに効果を無効にして特殊召喚する。
 ③:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合、1~7までの任意のレベルを宣言して発動できる。
 このカードのレベルはターン終了時まで宣言したレベルになる。


現れたモンスターは、黒いフードを深く被ったサイバース族の義賊だ。
顔は鋭角的な意匠を持つ仮面で覆われ、眼窩には緑色の光が灯っている。
上半身はファスナー付きのパーカーで包まれ、その上から金属の装甲が肩や前腕を覆っている。
右手には青白く発光するナイフを構えている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/t0rX0WF
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


「永続魔法『妖義賊の連携陣』は、相手から奪ったカードが俺の場にある時、俺のモンスターの守備力を倍にする。
グレイシールの守備力は倍の3200になるから、ナルディエルの効果無効は受けない!」

ナルディエルの効果はPゾーンの水属性…つまり守備力2400のネリュス以下の守備力を持つモンスター効果を無効にするものだ。
守備力の上がったグレイシールはその効果を受けない。

コイツは凄腕の義賊だぜ。普通じゃ入れねえような場所でも、宝を盗み出しちまう。
『鍵破りのグレイシール』の効果発動!妖義賊を1体リリースして、相手のEXデッキの表側からモンスターを奪うか、EXデッキの裏側から相手が選んだモンスターを奪うことができる!」

「なっ…EXデッキからモンスターを奪う!?」

「ただし効果は無効になるけどな。
俺はグレイシール自身をリリースして、お前のEXデッキの表側から『冽灼の深淵 ナムリオ』をいただくぜ!」

グレイシールは電子の光へと変わり、その光は目にもとまらぬ速さで譲へと向かう。
すぐに光は遊次の元へ戻り、消える。
その瞬間、遊次のフィールドに波のように渦巻き頭に水輪が浮かぶモンスターが現れる。

「さらに『夜駆けのシチベエ』のP効果発動!相手から奪ったカードが場にある時、デッキから予告状か妖義賊カードを墓地に送ることができる!魔法カード『妖義賊の復活』を墓地へ送る!
さらに『妖義賊の復活』の効果発動!このカードを墓地から除外して、墓地の予告状を除外できる!
『儀式の予告状』を除外!」

カードが次々と連鎖していく。

「『儀式の予告状』の効果発動!フィールド・手札からモンスターをリリースして、そのレベル以下の儀式モンスターを、手札かデッキから特殊召喚できる!
俺はさっき奪った『冽灼の深淵 ナムリオ』をリリースして、儀式召喚を執り行う!」

フィールドに1つの灯篭が現れ、ナムリオが光へと消えると、灯篭に炎が灯る。

「桜吹雪の舞う中に、現れたるは荒野の義賊!
儀式召喚!来い、俺の切り札!『妖義賊-ゴエモン』!」


■妖義賊-ゴエモン
 儀式モンスター
 レベル7/地/戦士/攻撃力2500 守備力2000
 「予告状」儀式魔法カードにより降臨。
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:元々の持ち主が相手となるカードが自分フィールドに存在する限り、
 自分フィールドのモンスターは相手の効果の対象にならない。
 ②:相手の墓地のモンスター、または魔法・罠カード1枚を対象として発動する。
 モンスターカードの場合、そのカードを自分フィールドに特殊召喚し、
 魔法・罠カードの場合、自分フィールドにセットする。
 ③:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをリリースして儀式召喚された場合、以下の効果を得る。
 元々の持ち主が相手となる自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動する。
 そのモンスターの元々の攻撃力分、自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力をアップする。


桜吹雪と共に現れたのは、大剣を携えた戦士のモンスター。
メタリックなボディは鉄の装甲で覆われており、鎧には赤の紋様が描かれている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/YnblaqH
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


「出ましたァ!神楽選手の切り札!しかし、このモンスターも虹野選手の切り札の攻撃力に及ばず、ナルディエルの効果によって攻撃できない!」

切り札を呼び出しても未だ譲のフィールドは盤石だ。それを崩す絵を誰も想像できなかった。

「EXデッキで表側の『妖義賊-美巧のアカホシ』の効果発動!自分のPゾーンにカードがある時、このカードをEXデッキから手札に加える!」

「『妖義賊-美巧のアカホシ』の効果発動!除外されてる予告状を任意の数デッキに戻して、このカードを特殊召喚できる!
『一攫千金の予告状』と『儀式の予告状』をデッキに戻して、特殊召喚!」


■妖義賊-美巧のアカホシ
 ペンデュラムモンスター
 レベル7/風/鳥獣/攻撃力2300 守備力2000 スケール8
 【P効果】
 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:元々の持ち主が相手となるモンスター1体を対象とし、1~7までの任意のレベルを宣言して発動できる。
 そのモンスターのレベルはターン終了時まで宣言したレベルになる。
【モンスター効果】
 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分の除外されている「予告状」カードを任意の枚数デッキに戻して発動できる。
 このカードを手札から特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したこのカードは、
 攻撃力がこの効果でデッキに戻した「予告状」カードの枚数×500アップし、
 このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ相手モンスターの効果を受けない。
 ②:自分メインフェイズに発動できる。
 デッキから「ミスティックラン」Pカード1枚を手札に加える。
 自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合、
 この効果で手札に加えるカードは2枚になる。
 ③:このカードがEXデッキに表側で存在し、自分のPゾーンにPカードが存在する場合に発動できる。
 このカードを手札に加える。


現れたのは赤い着物を纏った鳳凰の頭を持つモンスターだ。
腰には長刀を携えている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Beta2kb
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「アカホシはデッキに戻した予告状1枚につき、500攻撃力が上がる」
妖義賊-美巧のアカホシ ATK3300

「さらに永続魔法『妖義賊の連携陣』によって俺のモンスターの守備力を倍になる!」

妖義賊-ゴエモン DEF4000
妖義賊-美巧のアカホシ DEF4000


「でも、譲さんのソリグナは、1ターンに1度モンスター効果を無効にできるよね。結局アカホシは効果を使えないんじゃ…」
観客席のトーマスが子供ながらに盤面を整理し疑問をぶつける。

「心配ねえぜトーマス。見とけよ」
ドモンは腕を組みながら顎でフィールドを指す。


「さらにアカホシは自分の攻撃力以下の攻撃力を持つモンスターの効果を受けない。ソリグナの攻撃力は2700。そいつじゃアカホシを止められないぜ」

「フッ…うまく歯車が嚙み合ったようだね。
でもそのモンスターが効果を受けなかったところで、根本的な解決にはないっていないよ」

ナルディエルとソリグナの二重の効果無効という壁は越えたものの、遊次はまだ譲の盤面に風穴を開けることすらできていない状況だ。譲は余裕の笑みを浮かべている。

「勝利ってのは、1歩ずつ歩いてかなきゃ辿り着けねえもんだ。
これはその1歩目だぜ」

遊次は右手を高らかに掲げる。

「アカホシの効果発動!1ターンに1度、デッキから妖義賊Pモンスターを手札に加える!相手から奪ったカードがある時、手札に加えるカードは2枚となる!俺はデッキから『妖義賊-戴火のプロメテ』と『妖義賊-山嵐のユライ』を手札に加える!」

「手札に加えた『妖義賊-戴火のプロメテ』をPスケールにセッティング!」


■妖義賊-戴火のプロメテ
 ペンデュラムモンスター/チューナー
 レベル4/火/炎/攻撃力1000 守備力200 スケール2
 【P効果】
 このカード名の①②のP効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドに「ミスティックラン」モンスターが存在する場合に発動できる。
 このカードを効果を無効化して自分フィールドに特殊召喚する。
 ②:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合に発動できる。
 自分のデッキの上からカードを5枚めくり、
 その中から「ミスティックラン」カード1枚を選んで手札に加える。
 残りのカードは好きな順番でデッキの一番下に戻す。
 【モンスター効果】
 このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
 ②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在しない場合、
 このカードは手札から特殊召喚できる。
 ②:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター1体をリリースし、
 相手の除外状態のモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
 ③:このカードがフィールドからEXデッキに表側表示で加わった場合に発動できる。
 このカードをPゾーンに置く。


遊次の頭上に一頭身の火の玉のモンスターが浮かび上がる。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/sNrvuKI
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「プロメテのP効果発動!相手から奪ったカードが俺の場にある時、デッキから5枚めくって、その中の妖義賊カードを1枚手札に加える!」

(勝利への2歩目は、ここに懸ってる…!
引き当てなきゃならねえのは、ナルディエルの攻撃制限を下回る、攻撃力800以下のカード…!)

遊次の眼が鋭くなる。ここが正念場だ。
遊次は指に力と想いを込め、5枚のカードを引き、それを表にする。

「…来たッ!俺が手札に加えるのは『妖義賊-悪戯好きのオイレンシュピーゲル』!」
遊次が手札に加えたのは攻撃力700の下級モンスター。

「俺のPスケールは2~8!よってレベル3~7のモンスターを同時に召喚可能!」
遊次は大きく両手を広げる。

「天に弧を描く義の心、その輝きより現れ同胞の声に呼応せよ!
ペンデュラム召喚!来い、俺のモンスター達!」

遊次の頭上の大きな振り子が揺れ、その輝きから4つの光が現れる。

「手札から『妖義賊-剛腕のナンゴウ』、『妖義賊-山嵐のユライ』、『妖義賊-悪戯好きのオイレンシュピーゲル』!EXデッキから『妖義賊-誘惑のカルメン』!」

遊次のフィールドに同時に4体のモンスターが現れる。
ユライとカルメンは守備表示で現れ、それ以外は攻撃表示だ。

「さらに永続魔法によって、守備力は倍になる!」

ナンゴウ:ttps://imgur.com/a/l0XP4F1
ユライ:ttps://imgur.com/a/XAICnJf
オイレンシュピーゲル:ttps://imgur.com/a/ldmy2aw
カルメン:ttps://imgur.com/a/dwkEFaw
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【譲】
LP5200 手札:3(ファリナ)

①冽灼の宴陽 ソリグナ ATK2700
②冽灼の赫鎧 バルグレン ATK6000
③冽灼の水盾 ナルディエル ATK3000
(攻撃力900以上の攻撃無効、守備力2400以下の効果無効)
④冽灼の環紗 ネアス DEF1600

EXデッキ(表):ナムリオ、ヴォルヴ、ネアス
Pゾーン:冽灼の燐珠 ピオナ、冽灼の流糸 ネリュス

【遊次】
LP3800 手札:1

①妖義賊-ゴエモン ATK2500 DEF4000
②妖義賊-美巧のアカホシ ATK3300 DEF4000
③妖義賊-剛腕のナンゴウ ATK2400 DEF3800
④妖義賊-山嵐のユライ DEF4800
⑤妖義賊-悪戯好きのオイレンシュピーゲル ATK700 DEF2400
⑥妖義賊-誘惑のカルメン DEF3800

永続魔法:妖義賊の連携陣
伏せカード:冽灼の噴濫
Pゾーン:妖義賊-戴火のプロメテ、妖義賊-夜駆けのシチベエ
EXデッキ(表):カルメン
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「神楽選手、圧巻のP召喚ですッ!フィールドには一気に6体のモンスターが立ち並びました!
しかも永続魔法によって、全てのモンスターの守備力は倍!神楽選手のほとんどのモンスターが、ナルディエルの効果無効の制約を受けません!」

カードを繋ぎ、1歩ずつ歩みを進めたことで、遊次はナルディエルの効果無効を乗り越えた。
観客達も盛況を見せる。

(…信じられないが、思わざるを得ない。
デッキが、遊次クンの想いに応えている…!)

譲は車椅子の上で口元を両手で覆い、遊次のモンスター達を見つめる。

「デュエリストは自分の勝利しか見てねえもんだ。
俺らと一緒に病気と闘うことなんか、今のお前が考えるわけない。
だから、俺はお前を倒さなきゃならねえ。
俺とお前…2人の願いを叶えるためには」

遊次の瞳に迷いはない。
向かうべき道は、彼の眼にはっきりと映っている。

「墓地の『妖義賊の予定変更』を除外して効果発動!対象とした俺のモンスターが攻撃する間、攻撃対象のモンスターの効果は無効となる!
対象は『妖義賊-美巧のアカホシ』だ!」

「バトル!アカホシは自分の攻撃力以下のモンスターの効果は受けない!ナルディエルの攻撃無効も効かねえ!
アカホシで『冽灼の宴陽 ソリグナ』に攻撃!」

アカホシは長刀を構え、静かに身を沈める。
赤き羽根を揺らしながら踏み込み、鋭い斬撃を放った。
刃は炎を纏う軌跡を描き、ソリグナの胸を切り裂く。
その身体は灼熱の光に呑まれ、破壊された。

「ぐっ…!」
譲 LP5200 → 4600

「ソリグナは水属性がいれば戦闘破壊されない効果を持っていましたが、『妖義賊の予定変更』によってバトルの間その効果は無効となっています!
ついに神楽選手が虹野選手のフィールドに風穴を開けたァ!しかしなおもナルディエルの効果は持続している!
攻撃可能なのは、Pゾーンのピオナの攻撃力900を下回るオイレンシュピーゲルのみ!ここからどう立ち回るのかぁ!」

ナルディエルの効果により、攻撃力900以上のモンスターは攻撃できない状況だ。
しかし実況の声を聞いた遊次はそれに反応して口角を上げる。

「そう、攻撃できるのは攻撃力700のオイレンシュピーゲルだけだ。だから俺はコイツで攻撃するしかねえ。
オイレンシュピーゲルで『冽灼の水盾 ナルディエル』に攻撃!」

その行動に観客達は目を丸くする。
オイレンシュピーゲルは指で銃の形を作り、指先に星型の小さな光を貯めてナルディエルに放とうとしている。

「ナルディエルの効果で、お前のPゾーンの炎属性の攻撃力以上のモンスターは攻撃宣言できない。
でも…攻撃宣言した"後"なら、いくら攻撃力が上がろうが関係ねえよな?」

これこそが遊次の秘策。
譲の完璧とも思える盤面を崩すための一手だった。

「ダメージステップ、『妖義賊-剛腕のナンゴウ』の効果発動!
相手から奪ったカードが俺の場にある時、このカードをリリースして、攻撃するモンスターの攻撃力を2400アップする!」

妖義賊-悪戯好きのオイレンシュピーゲル ATK3100

遊次はオイレンシュピーゲルと同じように指で銃の形を作り、ナルディエルへ向ける。
オイレンシュピーゲルの背後にナンゴウが現れ、オイレンシュピーゲルが指を向ける方向に唐傘を突き付ける。
すると、オイレンシュピーゲルの手に灯る星型の光が次第に大きくなり、ナルディエルの図体を上回る。

「心が折れそうになるような敵にも、皆で力を合わせれば立ち向かえるんだ!
1人で闘う必要なんてねえ!」

譲は遊次の言葉の意味をすぐに理解した。
それは自分のモンスターに対して言った言葉ではない。
病という強大な敵に立ち向かう、自分への言葉だと。

オイレンシュピーゲルが巨大な星形の光を放つと、その閃光はナルディエルに直撃し、その鎧ごと呑み込んだ。
フィールドは、眩き光に包まれる。
眩烈な輝きに覆われながら、ナルディエルは破壊された。

「くっ…!!」
譲 LP4600 → 4500

「だがナルディエルが破壊された瞬間、効果発動!
自分のPゾーンのカードを破壊し、自身をPゾーンへセットする!ネリュスを破壊してナルディエルをPゾーンへ!」

譲の頭上にナルディエルが浮かび上がる。

「なんとぉ!攻撃宣言後に攻撃力を上げるという抜け道を見事に探り当てる慧眼!
この男はどこまで我々を驚かせてみせるのかぁ!
しかしこのままでは攻撃力6000のバルグレンを超えることはできない!
神楽選手に打つ手はあるのでしょうか!?」

実況者の興奮した声と観客達の熱の中、遊次と譲の視線が交差する。
このバトルこそ、お互いの心をぶつける時だ。遊次は直感した。


「認可されてない治療を受ける…それがお前が目指す光なんだろ。
でもそこに辿り着く道は、この大会だけじゃない。
つい最近、俺は確信したぜ。仲間が力を合わせれば、不可能なんてないってな。
だから、俺はお前の願いも、俺の願いも、どっちも叶えるために、お前を倒してみせる」

遊次は真っ直ぐに譲を見つめる。
譲の表情に怒りが込められる。

「言ってることがおかしいな…遊次クン。
不可能はないんだろう?なら君の願いを叶えるすべだって、この大会だけじゃないってことだ。
なのに君は、自分の願いのために僕を倒そうとしている」

「君も、この大会でしか叶えられない願いがあると自覚してるんだろ!
なのに僕には、この大会だけが道じゃないと宣うんだ!」

遊次は何も言わない。ただ静かにその言葉を受け止める。

「…ふざけるな!君の言葉は傲慢・詭弁・嘘・偽善だ!
自分の欲望のために人を蹴落とそうとしているのに、
その罪から逃げようと、メッキで塗り固めた方便を僕に使う!
それが君のやってることだ!違うのか!?」

譲はぜぇぜぇと荒く肩を上下させる。
そして、また強く咳き込み、せり上がる血反吐を掌で押さえた。

遊次はその姿を真っ直ぐ捉え、言葉を紡ぎ始める。

「俺はこの大会がなくても、俺たちだけの力で、願いを叶えられるって信じてる。
ドミノタウンの皆を笑顔にしたいって願いをな。
だから、俺はなんでも屋を始めたんだ」

譲は睨みつけるように遊次を見つめている。

「でも…なんでも屋で町の人達を助けることはできても、すぐに町を復興させることはできねえ。
そのために全力を尽くすことはできても、まだ何年も何年も…時間がかかるんだ。
その間も、誰かがずっと哀しんで、苦しみ続ける」

「俺がこの大会に望むのは、すぐにドミノタウンを復興させること。
これは、魔法みたいにでけえ力がなきゃできないことだ。
それでも、みんなの心が…笑顔が元に戻るわけじゃない」

「みんなの笑顔を取り戻すことは、この大会で優勝したって叶えられない。
だから、なんでも屋があるんだ」

ヴェルテクス・デュエリアに捧げる願いは、町の復興。
遊次の根源的な願いは、ドミノタウンの人々を笑顔にすること。
それは似て非なるものだ。

ヴェルテクス・デュエリアはあくまで、政府によって実現可能な願いを1つ叶えるというもの。
この大会で優勝してドミノタウンが復興しても、コラプスによって傷ついた心が癒えるわけではない。
町は綺麗に戻っても、コラプスで失ったものを取り戻せるとは限らない。

この大会で町を復興させた後にこそ、人々の心に寄り添うために、笑顔を取り戻すために、なんでも屋が必要だ。
ヴェルテクス・デュエリアに捧げる"町の復興"という願いは、遊次の真の願いの前編に過ぎないのだ。

譲も言葉を返すことはできなかった。
遊次の願いがここまで整然としているとは考えていなかったからだ。

「俺がこのデュエルでやるべきことは、1つ。
このデュエルで心をぶつけて、お前に信じてもらうことだ!」

遊次が右手を譲のフィールドへと突き付ける。

「…信じてもらう、か。でもそれは君が勝たなければ意味のない話さ。
君のフィールドにはもう攻撃可能なモンスターはいない。そして僕のフィールドには攻撃力6000のバルグレンがいる」

依然、バルグレンは熱気を放って遊次の前に立ち塞がっている。

「…バトル終了だ」

「おぉーっとぉー!!神楽選手、手札を全て使って突破不可能と思われた盤面を崩したものの、モンスターは破壊しきれず、虹野選手のライフはほとんど削れていない!
幾多のカードを繋ぎ、驚きの戦術を見せてくれましたが、まだまだ勝利には至らないようだッ!」

実況者と観客がざわめき立つ中、灯達だけが遊次に信頼の眼差しを向けていた。

「メインフェイズ2。『妖義賊-山嵐のユライ』の効果発動。
墓地の妖義賊モンスターを5体選んで、その中から1枚を手札に加える。
俺が選ぶのはジロキチ、プロメテ、ゾロ、ルパン、グレイシールだ。
その中から『妖義賊-駿足のジロキチ』を手札に加えて、残りを好きな順番でデッキの一番上に戻す」

「俺はアカホシ、オイレンシュピーゲル、カルメンをリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」

遊次のフィールドの3体のモンスターは、フィールドに広がるサーキットに飛び込んでゆく。
飛び込んだ3つのアローヘッドが赤く灯る。

遊次「権威を穿つ風雲児よ、今こそ逆境を覆す英雄となれ!
リンク召喚!現れろリンク3!『妖義賊-神出鬼没のギルトン』!」


■妖義賊-神出鬼没のギルトン
 リンクモンスター
 リンク3/風/獣戦士/攻撃力2200
 【リンクマーカー:左下/下/右下】
 モンスター2体以上
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをL素材にしている場合、
 このカードは相手の効果で破壊されない。
 ②:このカードがL召喚した場合、相手のフィールド・墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターのコントロールを得る。
 その後、そのモンスターを含む自分フィールドのモンスターを素材として融合・S・X・L召喚を行うか、
 そのモンスターを含む手札・フィールドのモンスターをリリースして儀式召喚を行う。
 ③:このカードのリンク先にP召喚された場合に発動できる。
 自分はデッキから2枚ドローする。


そのモンスターは、鋭い目つきを持つ豹の顔をした獣戦士。
額には蒼のバンダナが巻かれ、胴体部分には茶色の革のチュニックを着ており、背中には鋭利な長剣が一本背負われている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/0seLbZv
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「ギルトンがL召喚した時、効果発動!相手のフィールド・墓地からモンスターを奪って、そいつを素材にさらなる召喚を行う!
チェーンしてL素材になったカルメンの効果発動!このカードをEXデッキから手札に加える!」

「チェーン1のギルトンの効果!奪うのはお前の墓地の『冽灼の織灘 ルナイラ』!」

譲のPゾーンには対象耐性を与えるピオナがいるため、フィールドのモンスターを奪うことはできない。
遊次のフィールドには炎の半身と水の半身を持つ、筋肉質なモンスターが現れる。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Ay63Wat
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「さらにギルトンの効果で、奪ったモンスターを素材に、ギルトンとルナイラで融合召喚を行う!
再び現れろ!『妖義賊-快傑ゾロ』!」


■妖義賊-快傑ゾロ
 融合モンスター
 レベル7/光/獣/攻撃力2800 守備力1800
 「ミスティックラン」モンスター + 元々の持ち主が相手となるモンスター
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動できる。
 そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
 ②:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在し、
 相手が魔法・罠カードの効果を発動した場合に発動できる。
 その発動を無効にして破壊する。


現れたのは、青い二角帽子を被り、目に黒いマスクを着けた狐の戦士だ。
サーベルを携え、貴族のような青いジャケットに白いスカーフを巻き、高貴な姿をしている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/R2ef2Uj
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「神楽選手、ここにきてリンク・融合と立て続けに強力なモンスターを呼び出している!これこそが虹野選手に抗う策となるのであろうかぁ!?」


「Pゾーンの『妖義賊-戴火のプロメテ』の効果発動。
相手から奪ったカードがフィールドにある時、このカードをPゾーンから効果を無効にして特殊召喚できる」

遊次のフィールドに火の玉のモンスターが頭上から降りてくる。

「空いたPゾーンに手札から『妖義賊-誘惑のカルメン』をセット!」
Pゾーンに妖艶な黒いローブを纏った女モンスターが浮かび上がる。

「カルメンのP効果発動!
自分フィールドの妖義賊を1体リリースして、デッキから妖義賊を呼び出す!
プロメテをリリースして、デッキから『妖義賊-深緑のロビン』を特殊召喚!」


■妖義賊-深緑のロビン
 効果モンスター
 レベル4/風/戦士/攻撃力1800 守備力500
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードが召喚・特殊召喚した場合、
 自分の墓地のレベル4以下の「ミスティックラン」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを特殊召喚する。
 ②:手札から「予告状」カード1枚を捨て、
 墓地の「ミスティックラン」魔法・罠1枚を対象として発動できる。
 そのカードを手札に加える。
 ③:このカードがリリースされた場合、
 相手フィールドの表側モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターの効果を無効にする。


現れたのは緑色の外套を纏い弓を持った若い青年のモンスター。
首元にはシンプルなオレンジ色の緑色のマフラーが巻かれている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/PHAQB1t
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「ロビンが特殊召喚した時、墓地の妖義賊を特殊召喚できる!
来い!『妖義賊-士君子のブラックバード』!」


■妖義賊-士君子のブラックバード
 効果モンスター
 レベル4/地/鳥獣/攻撃力1500 守備力1400
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを破壊する。その後、破壊したその魔法・罠カードを自分フィールドにセットする。
 ②:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、
 代わりに墓地の「予告状」カードを除外することができる。


フィールドに紳士服を纏ったカラスのモンスターが現れる。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/HvbmmGT
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「ブラックバードの効果発動!1ターンに1度、相手の魔法・罠カードを破壊して奪うことができる!Pカードは魔法カードとして扱われる!『冽灼の水盾 ナルディエル』を破壊だ!」

そのモンスター効果に譲は苦い顔をする。

(ナルディエルはチューナーとチューナー以外を墓地に送ることでPゾーンから再び復活する効果がある。そこを確実に潰して来たか…)

ブラックバードが黒い羽を飛ばすと、まるでダーツの如く譲の頭上のナルディエルに突き刺さり、破壊される。
ただし魔法・罠カードではないため奪うことはできない。

「まだまだぁ!俺はレベル4のロビンとブラックバードでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!
再び現れよ!ランク4!『妖義賊-怪盗ルパン』!」

■妖義賊-怪盗ルパン
 エクシーズモンスター
 ランク4/闇/戦士/攻撃力2100 守備力1500
 レベル4モンスター×2
 元々の持ち主が相手となるモンスターをこのカードのX召喚の素材とする場合、そのレベルを4として扱う。
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターの効果を無効にし、コントロールを得る。
 ②:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターを素材としている場合、以下の効果を得る。
 自分の墓地の「予告状」カード1枚を対象として発動する。そのカードを除外する。
 この効果は相手ターンでも発動できる。


現れたのは、黒いハットを被りマントを纏った怪盗の姿。
手には白い手袋、目元には白い仮面を着けている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/mcoDQUC
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「永続魔法『妖義賊の連携陣』の効果発動。俺の場の相手から奪ったカードを1枚墓地へ送って、対象とした俺のモンスター1体は、このターン相手の効果を受けない。
『冽灼の噴濫』を墓地に送って、ルパンに"効果を受けない"効果を授ける!」

守備表示で膝を立てるルパンの足元に、三角形の紋様が浮かび上がる。

「『妖義賊-怪盗ルパン』の効果発動!
お前のフィールドのモンスター1体を効果を無効にして奪う!
奪うのは…『冽灼の赫鎧 バルグレン』!」

遊次の逆転劇はまだ終わっていなかった。
観客席のダニエラは驚きの声を上げる。

「そ、そうか…!今のルパンは相手の効果を受けないから、譲のP効果の対象耐性を無視して、モンスターを奪えるってわけかい!」

ルパンがバルグレンに白いマントを被せると、その瞬間、譲のフィールドからバルグレンは消える。
遊次のフィールドに素早く戻ったルパンが再びマントを翻すと、そこにバルグレンが現れる。

ルパンを召喚するにはギルトンを経由する必要があり、そのためには3体のリンク素材が必要。
遊次がアカホシとオイレンシュピーゲルをリンク素材に選んだということは、それ以外のモンスターは残す必要があったということだ。
アカホシとオイレンシュピーゲルは前のバトルに必要不可欠だったため、
メインフェイズ1でこれらのモンスターをL素材にギルトンを呼び出し、そこからルパンに繋げることはできない。
つまり、ルパンでバルグレンを奪うのはメインフェイズ2からということになる。

「まだショーは終わりじゃねえぜ。
『妖義賊-ゴエモン』の効果発動!1ターンに1度、相手の墓地からカードを奪う!
奪うのはお前の墓地の『冽灼の織灘 ルナイラ』!」

遊次のフィールドに再び炎と水の身体を持つ屈強なモンスターが現れる。

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【譲】
LP4500 手札:3(ファリナ)

①冽灼の環紗 ネアス DEF1600

EXデッキ(表):ナムリオ、ヴォルヴ、ネアス、ネリュス、ソリグナ、ナルディエル
Pゾーン:冽灼の燐珠 ピオナ

【遊次】
LP3800 手札:2(ジロキチ)

①妖義賊-ゴエモン ATK2500
②妖義賊-快傑ゾロ ATK2800
③妖義賊-山嵐のユライ DEF4800
④妖義賊-怪盗ルパン DEF3000
⑤冽灼の赫鎧 バルグレン ATK3100
⑥冽灼の織灘 ルナイラ ATK2400

永続魔法:妖義賊の連携陣
Pゾーン:妖義賊-誘惑のカルメン、妖義賊-夜駆けのシチベエ
EXデッキ(表):ナンゴウ、アカホシ、プロメテ
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遊次のデュエルディスクには、水色・紫・黒・白・蒼の色とりどりのカードが並んでいた。

「な…なんと荘厳な光景でしょうかぁ!?
神楽選手のフィールドには、儀式・融合・エクシーズ・シンクロ・リンク・ペンデュラム…あらゆるモンスターが並んでいるぅ!!
対する虹野選手のフィールドには、下級モンスター1体のみ!誰がここまでの逆転を予想できたでしょうかぁーー!!」

「すごい、遊次…!」
遊次のフィールドに所狭しと立ち並ぶモンスター達に、観客も熱狂の声を上げる。

「ゴエモンの効果で、相手から奪ったカードが俺の場にある限り、俺のモンスターは相手の効果の対象にならない。
ユライは相手から奪ったカードがある限り、お前はユライにしか攻撃できねえ。守備力4800のな。
しかもユライは相手から奪ったカードの数まで、戦闘・効果じゃ破壊されない」

遊次のフィールドは強力な対象耐性と戦闘耐性を誇っている。
これをこじ開けるのは至難の業ではない。

「さらにゾロは相手から奪ったカードがある時、相手の魔法・罠を1度無効にできる。俺はこれでターンエンドだ」

譲は遊次の盤面を呆然と見つめた後、掌で顔を押さえ、肩を揺らす。

「フフフ…フハハハハ!ハハハハッ!」
譲は大きく天を仰ぎ、笑い始めた。

観客達は困惑の表情を示している。
だが、目の前の遊次だけは口元を緩めている。

「…こういう戦いを待ち望んでたんだ。
君に対して怒りが湧き上がってたはずなのに…それでも、この気持ちは抑えられない」

「…楽しいね、デュエルって」
譲は闘志と狂気を兼ね備えた笑みで遊次を見つめる。

「あぁ!決勝の相手がお前でよかった!」
遊次もそれに応えるように、晴れたように笑う。


こんな時間が、永遠に続けばいいのに。
譲は心から願った。
しかしその渇望は、余命という現実によってかき消される。

故に、それが譲に力を与える。
この戦いに勝たなければ、もうこんな楽しい時間を、過ごすことはできないのだから。


勝つのは、多くの人の願いを背負い、仲間と歩もうとする遊次か。
それとも、幼い頃に描いた未来のために、孤独に闘ってきた譲か。

この決闘は、もうじき幕を下ろす。

第54話「不可能への挑戦」 完


盤面を覆されてなお、譲は冷静さを失っていなかった。
新たなリンクモンスターを呼び出し、遊次へ猛攻を仕掛ける。
そして次の遊次の行動を操るように、譲は何重にも罠を張る。
狡猾に勝利を掠め取るように。

そしてついに、闘いは決する。
予選を勝ち上がり本選への出場を決めるのは、遊次か、譲か。


「もし失敗しちまったら…俺はまた4年後、出直しだ。
負ければ、俺の大事な人たちを、哀しみの中に突き落としちまう」

「…でもさ。
それでも…俺は何年後も、何十年後も、思うだろうな」

「この一手に、"後悔"はないって」


次回 第55話「たとえ、この命が終わっても」
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