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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第33話:願いの炎

第33話:願いの炎 作:

「さあいよいよ始まります…『鉄城怜央 VS 花咲灯』。
実況は引き続き、わたくし多口伝助がお送りします…」

目元までウェーブした前髪が伸びた、目の下にクマのある男は、
ぼそぼそとした声で会場にアナウンスしている。

「あぁ…ハツが飛び出そうだよ…」
灯の父「花咲明」は左胸を押さえながら、何度も深呼吸を繰り返している。

「そんなしょうもないこと言ってる余裕があるなら大丈夫でしょ。
ほら、もう始まるよ」
夫のことなど気にも留めない様子で、灯の母「花咲絵美」は真剣な眼差しでフィールドを見つめる。

それとは離れた観客席ではイーサンと子供達、
そして先ほどまで怜央と灯がいた席に、遊次が座っている。


灯は、フィールドへ向かうトンネルのような通路の壁に寄りかかり、考えを巡らせていた。
脳裏には、メインシティで見た七ノ瀬美蘭の看板が思い浮かぶ。

「(あれを見た瞬間、私も何かやらなきゃって思った。
この大会に出ることにしたのも、ほとんど衝動的)」

次に思い浮かんだのは、先ほどまでフィールドで戦っていた遊次の姿だ。
そして、その姿には4年前のヴェルテクス・デュエリア本戦の会場で見た遊次の姿が重なった。

「(みんな、どんどん上っていく。
それなのに、私だけそれを下から眺めてるなんて…イヤだった。
多分それが、今の私の思い)」

「(それに、私にも叶えたい願いはある。
それは…遊次が願いを叶えること。遊次の願いは私の願いでもあるから。
私にだって、戦う理由はあるんだ)」

怜央に自らの願いを問われた時、灯は答えることができなかった。
願いをデュエルにぶつけることで、最大限の力を発揮できる。
自分の願いが宙に浮いたままでは怜央と戦えないと灯は考え、自問自答を繰り返した。
その結果、「遊次が願いを叶えること」が灯の願いだと、自分の中で結論を出したのだ。


「情報によりますと、この2人は『なんでも屋Next』という事務所に所属しているそうです…。
しかも、この事務所の所長は、先ほど見事な勝利を収めた神楽遊次選手。
これほどデュエルのエリートが揃った事務所がドミノタウンにあったんですね…。
2次予選の1試合目から仲間同士で戦うことになるとは…運命とは皮肉なものです」

実況の多口伝助は、ぼそぼそとした声で補足情報を伝える。

「ラッキー!こりゃいい宣伝になったな」
実況者がNextの名を挙げたことで、遊次は満面の笑みを浮かべる。

「ドミノタウンでも指折りのデュエリストが在籍する事務所なのは間違いないしな。
でもそれは、皆の努力のおかげだ。実績に評判がついてきただけさ」

Nextから3人も2次予選出場者が出たのは、紛れもなく彼ら本人の力だ。
イーサンは着実なNextのステップアップに喜びをおぼえつつも、地に足のついた返答をする。


対面の通路から、怜央がフィールドへ歩いてくる。
それを見て、灯も意を決し、フィールドへ向かう。
2人は向かい合い、真剣な眼差しを交わす。


「わかってると思うが、手加減はしねえ。
俺は俺の願いのために、お前を全力で叩き潰す」
怜央はデュエルディスクを掲げ、冷たい声色で言う。

「私だって負けないよ。
全力で戦った先にしか答えはないから」
怜央の圧に慄くことなく、灯も毅然と応える。



「えー…両者、フィールドに揃いました。
ヴェルテクス・デュエリア ドミノタウン予選第5試合、
鉄城怜央 VS 花咲灯のデュエルを開始いたします…」

多口は実況席の下に顔を潜り込ませ、数秒後に顔を上げる。
目元まで降りていた前髪は全てピンと上に立ち上がり、顔は情熱に満ちていた。
しかし、今や観客達にもその様子を気にする者はいない。


「デュエル…開始ィーー!!!」
多口は声高々にデュエルの開始を宣言する。

灯のデュエルディスクにランプが点く。先行は灯だ。

「"俺"のターン!
手札からペイントメージ・オリーヴを召喚!」
現れたのは、オリーヴ色のマッシュヘアをした男の子のモンスターだ。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/s3zmqCN
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「召喚時、効果発動。手札からペイントメージを特殊召喚できる。
来い、ペイントメージ・リラ!」

現れたのは薄い紫色をしたストレートヘアの若き女性のモンスター。
魔女のようなローブに身を包んでいる。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/fHnFUJk
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「お、おしとやかそうな見た目とは裏腹に男勝りで少し面食らいましたが、
花咲選手、さっそく順調にモンスターを展開しています!」
実況の多口は灯の口調に困惑しつつも、己の役割を全うする。

「リラの特殊召喚時、効果発動。
デッキから『ペイントメージ』モンスター1体を手札に加える。
ペイントメージ・パレットを手札に加える」

「そして、ペイントメージ・パレットはフィールドにペイントメージがいる時、
手札から特殊召喚できる!」

現れたのはパレットの形をしたモンスター。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/23VcX92
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「さらに、フィールドに地属性モンスターがいない時、
手札からペイントメージ・ショコラを特殊召喚できる」

赤褐色に近い茶色の髪をしたポニーテールの小さな女の子のモンスターが現れる。
もこもことした質感のボンボンのついた服に身を纏っている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/TKnG29k
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「魔法カード『ペイントメージ・ポリクローム』発動!
フィールドに存在する属性2種類につき、カードを1枚ドローできる。
俺のフィールドには風・闇・光・地の4種類存在するため、2枚ドロー!
さらに属性が4種類以上の場合、デッキから『ペイントメージ』カード1枚を墓地に送れる。
『ペイントメージ・トワール』を墓地へ」

灯は流れるようにモンスター効果を繋げてゆく。
一連の処理が終わると、怜央の方を真っ直ぐ見据える。

「いくぜ。闇属性レベル4『ペイントメージ・リラ』に、
レベル2『ペイントメージ・パレット』をチューニング!」
パレットは2つの星のような光となり、その光は輪を描く。
そこにリラが飛び込む。


「纏わりつく漆黒の闇が、安寧を憂鬱に塗り替える。
シンクロ召喚!現れよ、『ペイントメージ・ムンク』!」


■ペイントメージ・ムンク
 シンクロモンスター
 レベル6/闇/魔法使い/攻撃力2400 守備力800
 チューナー + チューナー以外の闇属性モンスター1体以上
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:フィールド上のモンスター1体を対象とし、属性を1つ宣言して発動できる。
 デッキから宣言した属性のモンスター1体を除外し、選んだモンスターは宣言した属性になる。
 この効果は相手ターンでも発動できる。
 ②:このカードと同じ属性を持つ相手の墓地のモンスターが効果を発動した場合、
 またはこのカードと同じ属性を持つ相手の墓地のモンスターを
 対象とする効果が発動した場合に発動できる。
 その効果を無効にし、対象となった相手の墓地のモンスターを除外する。


現れたモンスターは、真っ黒なロングコートを纏った若い男のモンスターだ。
髪は黒く、前髪が片目を隠している。
鋭い目には黒いアイラインが引かれ、病的な雰囲気を醸し出している。
右手には銃を握っており、まるで筆のようなデザインだ。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/hw4EFqv
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「ペイントメージ・ムンクの効果発動。フィールドのモンスター1体を好きな属性に塗り替える。
デッキから炎属性の『ペイントメージ・クルヴェット』を除外して、オリーヴを炎属性に変える!」
ムンクが隣にいるをオリーヴへ銃を向ける。
トリガーが引かれた瞬間、オリーヴの髪や服は全て赤色に染まる。

「墓地のペイントメージ・トワールの効果発動。
フィールドにペイントメージがいる時、墓地から特殊召喚できる!
ただしこの効果で特殊召喚したトワールはフィールドを離れた時、除外される」

真っ白のキャンバスに、くりっとした目と赤い頬が絵の具で描かれたモンスターが現れる。


「俺はレベル2『ペイントメージ・ショコラ』に、
レベル2の『ペイントメージ・トワール』をチューニング!」

「無邪気な彩が、鮮やかな勝利への道を描く。美しき終わりを飾る作品となれ!
シンクロ召喚!シンクロチューナー『ペイントメージ・カードル』!」


■ペイントメージ・カードル
 シンクロモンスター/チューナー
 レベル4/光/魔法使い/攻撃力1700 守備力2000
 チューナー + チューナー以外のモンスター1体以上
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:相手のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。
 このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。
 ②:自分・相手ターンにフィールドの「ペイントメージ」モンスター1体を対象として発動できる。
 自分の除外状態の「ペイントメージ」モンスターを任意の数だけデッキに戻し、
 その枚数分、ターン終了時までそのモンスターのレベルを上げるか下げる(最小1まで)。
 ③:このカードをS素材としたモンスターは以下の効果を得る。
 ●1ターンに1度、このカードと同じ属性を持つ相手フィールドのモンスター1体を
 対象として発動できる。そのモンスターを除外する。
 この効果は相手ターンでも発動できる。

現れたのは1.5メートルほどの大きさを持つ額縁のモンスター。
中央には彫りの深い凛々しい目を瞑った女性の顔がついている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/4dBZhzU
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「ペイントメージ・カードルの効果発動。
1ターンに1度、除外されている『ペイントメージ』モンスターを任意の数デッキに戻して、
その数分、フィールドのペイントメージのレベルを上げるか下げる。
除外されてるトワールとクルヴェットを戻して、自身のレベルを2つ下げる」

ペイントメージ・カードル ☆4→2

「炎属性となったレベル4『ペイントメージ・オリーヴ』に、
レベル2となった『ペイントメージ・カードル』をチューニング!」

「燃え盛る灼熱の業火が、恐れを勇気に塗り替える。
シンクロ召喚!『ペイントメージ・ゴッホ』!」

■ペイントメージ・ゴッホ
 シンクロモンスター
 レベル6/炎/魔法使い/攻撃力2100 守備力1500
 チューナー + チューナー以外の炎属性モンスター1体以上
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:フィールド上のモンスター1体を対象とし、属性を1つ宣言して発動できる。
 デッキから宣言した属性のモンスター1体を除外し、そのモンスターは宣言した属性になる。
 この効果は相手ターンでも発動できる。
 ②:相手フィールドのこのカードと同じ属性を持つモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを破壊し、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える。

フィールドに、赤髪の若き戦士が現れる。
筆の形をした剣とパレットの盾を携えている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/ND1RphH
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「ペイントメージ・ムンクは、1ターンに1度、
自分と同じ属性を持つ相手の墓地のモンスターの効果、
またはそのモンスターに効果が及ぶカードの効果を無効にして、
その墓地のモンスターを除外できる。
怜央、お前のデッキは炎属性で統一されてる。なら、やることは1つだ」

灯はペイントメージ・ゴッホに右手をかざす。

「ペイントメージ・ゴッホの効果発動!
デッキから炎属性『ペイントメージ・クルヴェット』を除外して、
ペイントメージ・ムンクを炎属性に変える!」

ゴッホが筆のような剣を高々と掲げると、ムンクの髪や服は見る見る内に紅に染まる。

「ペイントメージ・カードルを素材にしたゴッホは、
1ターンに1度、同じ属性の相手モンスターを除外できる。
さらに、パレットを素材にしたムンクは、
同じ属性のモンスター効果の対象にならない。
俺はこれでターンエンドだ」

灯の声には自らの力を信じる気持ちが宿っていた。


「先行から2体のシンクロモンスターを呼び出した花咲選手!
これにより、1ターンに1度、墓地の炎属性の効果、
またはそのモンスターに効果が及ぶカードの無効化!
そして炎属性モンスターの除外という盤石な布陣が敷かれたァ!
同僚のデッキを知っているが故の、情け容赦ない戦術!
これに対して鉄城選手はどう打って出るのかぁ!」

--------------------------------------------------
【灯】
LP8000 手札:3

①ペイントメージ・ムンク ATK2400
②ペイントメージ・ゴッホ ATK2100

魔法罠:0

カードの位置:

□□□□□
□①□②□
 □ □
□□□□□
□□□□□


【怜央】
LP8000 手札:5
魔法罠:0
--------------------------------------------------

「がっちり炎属性を対策してくるとは、灯も本気だな」
トーナメント発表時は迷いを見せていた灯だが、デュエルの様子からすでに迷いはないとイーサンは判断した。

「フン、でもこんなもんじゃ怜央は止められないよ」
ダニエラは少し敵対心のこもった目でイーサンを見つめながら言う。
怜央の願いは自分自身にも直接的に関係する分、
Unchained Hound Dogsのメンバーの気持ちは完全に怜央に傾いているようだ。

「灯だって怜央にそう簡単にやられたりしねーよ。
なんたって昔から俺が鍛えてるからな!」
遊次は右腕で力こぶを作り、ダニエラに笑顔で返す。

「遊次、灯を応援してる…。びょーどーじゃない」
ミオが上目遣いで遊次を睨む。

「あ、いや……。
そ、そもそも、そっちは全員怜央チームだろ!それこそ平等じゃねえ!」

「子供とマジで張り合うなよ…」
ミオに本気で言い返している遊次にイーサンは呆れはてる。



「(…悪くない盤面だが、灯にしちゃ詰めが甘ェ。
まだ俺との戦いに迷ってるのか?)」

怜央は灯のフィールドを見つめている。
彼女の自信と作り上げられた盤面に、怜央は言葉にできない違和感をおぼえた。
だが灯は怜央を真っ直ぐな瞳で見つめている。

「(いずれにしても、俺は俺のやることをやるだけだ)」

「…俺のターン、ドロー!」
脳裏に浮かんだ違和感を振り切り、怜央はカードを引く。

「『爆焔鉄甲 錬鋼操兵(アイアン・ドライバー)』を召喚!」

現れたのは鋼鉄のロボットのようなモンスター。
鋼のボディには全体的に錆び色が目立ち、両肩の部分には煤けた金色の歯車が付いている。
胸部は少し膨れ上がっており球体に近い丸みを帯びている。
その中央についているガラスの小窓の中は、暖炉のように炎が燃えている。
レンズをはめただけの無機質な両眼をしており、右手には工具であるドライバーを持っている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/G1Rx3tK
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「アイアン・ドライバーの効果発動。手札を1枚捨て、
デッキから『爆焔鉄甲』を1体特殊召喚し、1体墓地へ送る。
『爆焔鉄甲 堅鉄建兵(バリケイド・ビルダー)』を特殊召喚し、
『火線工兵(ヒート・エンジニア)』を墓地へ送る」

フィールドに「堅鉄建兵(バリケイド・ビルダー)」が現れる。
全体的に古びた金属で覆われており、煤けた銀色が特徴的だ。
頭部は円筒形で、前面にはシンプルなバイザーが取り付けられている。
胴体は四角く、腰部には工具を収納するケースが装備されている。
左腕には巨大な真四角の鉄の盾が取り付けられている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/PKfLmeQ
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「この瞬間、ペイントメージ・カードルを素材とした、
ペイントメージ・ゴッホの効果発動!同じ属性の相手モンスター1体を除外する!
バリケイド・ビルダーを素材としたXモンスターは、効果の対象にならない。
なら、ここで除外するしかない!バリケイド・ビルダーを除外!」

灯は迷いなく効果を宣言する。
ゴッホが携えた剣を一振りすると、バリケイド・ビルダーはフィールドから一瞬で消え去った。

「…墓地のヒート・エンジニアの効果発動。
フィールドに『爆焔鉄甲』がいる時、デュエル中に1度、このカードを墓地から特殊召喚できる!」

「ペイントメージ・ムンクの効果発動!
墓地で発動したこのカードと同じ属性のモンスター効果を無効にして、除外する。
ヒート・エンジニアの効果は無効になり、墓地から除外される!」

灯の効果発動宣言から、間髪入れずにムンクは銃弾を1発、怜央に放つ。
銃弾はデュエルディスクの墓地ゾーンに綺麗に命中し、
そこからヒート・エンジニアが弾き出される。
怜央は弾き出されたそのカードを手に取り、除外する。


「花咲選手、いきなり2つの妨害効果を鉄城選手に使用したぁー!
鉄城選手はうまく展開できずにいますが、花咲選手もこれで手の内は全て使ったことになります!
鉄城選手はここから巻き返すことができるのでしょうか!!」


「(灯はモンスターが2体並ばねえように徹底してる。
X召喚させることを拒んでるようだな。
だが逆に言やぁ、X召喚されるのをそれほど嫌がってるってことだ)」
怜央の出鼻を挫くようなプレイングをする灯の心情を、怜央は読み取る。

「いいのかよ、そんなにガンガン貴重な効果を使っちまって。
残念だが、俺は止まらねえぞ。
フィールドに『爆焔鉄甲』がいる時、手札から
『爆焔鉄甲 羅針榴弾(コンパス・グレネード)』を特殊召喚できる!」

現れたモンスターは、表面には方位を示す針がついた羅針盤でありながら、
全体は丸みを帯びており凹凸のある見た目をしている。
頭にはピンが付いており、まさに手榴弾の形だ。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Q5phK61
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怜央のフィールドに2体のモンスターが並んだ。灯は警戒を強める。

「『爆焔鉄甲 錬鋼操兵(アイアン・ドライバー)』と、
『爆焔鉄甲 羅針榴弾(コンパス・グレネード)』でオーバーレイ!
2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」
地面から現れた黒い渦に、2体のモンスターが飲み込まれてゆく。


「猛進する重厚なる鉄塊、その汽笛は激戦の始まりを告げる。
エクシーズ召喚!ランク4!
『爆焔鉄甲 煙機関車(レイル・エクスプレス)』!」


■爆焔鉄甲 煙機関車(レイル・エクスプレス)
 エクシーズモンスター
 ランク4/炎/機械/攻撃力2000 守備力2500
 レベル4モンスター×2
 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがX召喚した場合に発動できる。
 デッキから「スチームアーミー」罠カード1枚を手札に加える。
 ②:このカードのX素材を1つ取り除き、
 このカード以外の自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。
 フィールド・墓地から2体までモンスターを選び、そのモンスターの下に重ねてX素材とする。
 この効果は相手ターンでも発動できる。
 ③:このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
 デッキから「スチームアーミー」モンスター1体を特殊召喚する。
 この効果は相手ターンでも発動できる。


現れたのは漆黒の機関車。
頭部には巨大な煙突がそびえ立ち、そこからは白煙が勢いよく放出されている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/LXkoeMH
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「鉄城選手にはまだ手があったようだぁ!ついにXモンスターを呼び出したぁ!」
灯の一方的なデュエルで終わらないことに、
多口は大会を盛り上げる立場として、安心したように声を張り上げる。

「レイル・エクスプレスの効果発動。X召喚時、
デッキから『スチームアーミー』罠カード1枚を手札に加える。
手札に加えるのは
『爆焔鉄甲地雷原(スチームアーミー・マインフィールド)』だ」


「レイル・エクスプレスの効果発動。
オーバーレイユニットを1つ使い、デッキから爆焔鉄甲1体を特殊召喚できる。
来い、『爆焔鉄甲 炉衛生兵(ファーネス・メディック)』!」

中心に赤い十字が描かれた鉄の帽子を被った細身の機兵が現れる。
全身は銅色で、左腕のスライド式の蓋のようなパーツの中にはオイルの入った注射器がある。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/pdPIdaY
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「ファーネス・メディックの効果発動。
このターン墓地に送られた爆焔鉄甲1体を特殊召喚できる。
X素材として墓地に送られたコンパス・グレネードを特殊召喚!」

再びコンパス型の手榴弾のモンスターが現れる。

「鉄城選手のフィールドには再びレベル4モンスターが2体並んだァ!
これは更なるエクシーズ召喚への布石なのかぁ!?
対する花咲選手はそれを静観するしかないもよう!」

「『爆焔鉄甲 炉衛生兵(ファーネス・メディック)』と、
『爆焔鉄甲 羅針榴弾(コンパス・グレネード)』でオーバーレイ!
2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」

実況者の予想通り、怜央は更なるエクシーズ召喚を行おうとしている。
ドモンやダニエラは、期待通りに灯の布陣を乗り越える怜央に希望を抱き、
それとは逆に、灯の両親の表情は曇ってゆく。


「燃え盛る鋼鉄の機兵よ、爆煙と共に現れ、敵陣を焦土と化せ!
エクシーズ召喚!ランク4!
『爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)』!」


■爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)
 エクシーズモンスター
 ランク4/炎/機械/攻撃力2400 守備力2400
 レベル4モンスター×2
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードの攻撃力はこのカードのX素材の数×200ポイントアップする。
 ②:このカードのX素材を一つ取り除き、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを破壊する。
 このカードが炎属性モンスターをX素材としている場合、この効果は相手ターンでも発動できる。
 ③:このカードのX素材を任意の数取り除き、
 その数だけフィールドのモンスターを対象として発動できる。
 対象のモンスター以外の自分のフィールド・墓地の「スチームアーミー」モンスターを選び、
 対象のモンスターに装備カード扱いとして装備する。


赤と黒の金属板で覆われた炎を纏う鋼鉄の機兵が姿を現す。
背中には大きな燃料タンクとブースターが、左腕にはバーナーが装備されている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/xCmWHEi
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「エクスプロードの攻撃力は自身のオーバーレイユニットの数×200アップする。
よって2800だ」

怜央のフィールドには漆黒の機関車と炎を滾らせる機兵が並ぶ。
灯のフィールドにも2体のシンクロモンスターが立ち並び、
フィールドは拮抗しているように見える。
しかし観客のほとんどは怜央の優勢を疑わなかっただろう。
モンスターが彼の願いに応えるように、強い気迫を纏っていたからだ。

「灯。お前が毎日のようにデュエルを鍛えてんのを見て、
お前には強い願いがあるんだろうと思った。
だが、俺が願いを聞いた時、お前は答えられなかったよな。
驚いたぜ。自分の願いもわかってねえのにここまで来たのかってな」

怜央は普段とは明らかに異なる目をしていた。
敵意とは少し違うが、倒すべき相手を見る目だ。

「叶えたい願いなら、私にもある。
でも確かに、ただそれだけを見つめて戦ってきたわけじゃない。
怜央と違ってね」
灯は灯自身の言葉として、普段の口調で語る。

「なら何のために戦う?」

「…まだ、はっきりとはわからない。でも、それを見つけるために戦ってる」

自問自答を繰り返した結果、灯が今言えることはそれまでだ。
美蘭の看板を見た時に抱いた感情、
そしてヴェルテクス・デュエリア出場を決めた直接のきっかけは、
まだ灯の中で整理がついていなかった。

「そうするのは勝手だが…甘ェよ。
それじゃ、1つの願いだけを見つめてきた奴には届かねえ。
悪ィがな…俺の"願い"の炎は、こんなとこで消えるほど弱くねえんだ」
その瞬間、エクスプロードが纏う炎が一段と強まったように感じた。

「『爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)』の効果発動!
1ターンに1度、相手モンスターを破壊できる!
ムンクはS素材によって対象に取れねえ。ならペイントメージ・ゴッホを破壊だ!」

エクスプロードがゴッホに左腕のバーナーを向ける。


「この効果によってゴッホが破壊され、さらにバトルフェイズでムンクが破壊されれば、
花咲選手のフィールドはガラ空きとなる!
鉄城選手とのリソース差も考慮すると、些か厳しい状況と言わざるを得ない!」

怜央の手札は未だ4枚あり、先ほど手札に加えた罠カードもある以上、
次に灯にターンが回ってきても、怜央に阻まれ、
灯のリソースが尽きる未来が実況の多口には見えた。

バーナーを向けられている灯は、視線を揺らすことなく、怜央を見据えている。

「私が戦う理由は、まだはっきりとはわからない。
でも、今日までそれをずっと考えて…1つわかったことがあるんだ」

先ほどまでの怜央との問答の続きを灯が紡いでゆく。
自身の窮地にも動じることのない灯の様子に、怜央は目を細める。

「私は…遊次にも、怜央にも…誰にも、置いて行かれたくない。
前に進んでいく"皆"に、私も追いつきたい!」
そして手札からゆっくりと1枚のカードを取り出す。

「手札のペイントメージ・フキサチーフの効果を発動!
自分または相手ターンに1度、フィールドの『ペイントメージ』Sモンスターと、
手札のこのカードでシンクロ召喚を行う!」


■ペイントメージ・フキサチーフ
 効果モンスター/チューナー
 レベル1/水/魔法使い/攻撃力100 守備力800
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分・相手ターンに手札から発動できる。
 このカードを含む自分フィールドのSモンスターを素材に
 「ペイントメージ」SモンスターをS召喚する。
 ②:自分の「ペイントメージ」モンスターの効果を無効にする効果が発動した時、
 墓地のこのカードを除外して発動できる。その効果を無効にする。


モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/SA3crQW
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「なっ…この状況から…更なるシンクロ召喚だと…!」
怜央は驚き、目を丸くする。それは観客席のドモンやダニエラ達も同様だ。

「フィールドのSモンスターとそのチューナーの合計レベルは7だ。
俺はお前のデュエルを何度も見てきてるが、レベル7のシンクロなんて見たことがねえ」

「見たことないだろうね、だって見せたことないから」
灯はニヤリと無邪気な笑みを見せる。
その遊次を彷彿とさせる表情に、怜央はまるで狐につままれた感覚に陥った。


「フィールドのレベル6『ペイントメージ・ゴッホ』に、
レベル1『ペイントメージ・フキサチーフ』をチューニング!」

スプレー缶に手足のついたモンスターが現れ、すぐに1つの光の輪へと変わる。
ペイントメージ・ゴッホが高く飛び、輪に中へと入ってゆく。


「勇気携えし烈火の剣が、破滅の未来を塗り替える」

「シンクロ召喚!レベル7!
『ペイントメージ・ゴッホ・ソレイユ』!」


■ペイントメージ・ゴッホ・ソレイユ
 シンクロモンスター
 レベル7/炎/魔法使い/攻撃力2500 守備力2000
 チューナー + 「ペイントメージ・ゴッホ」
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分・相手ターンに発動できる。
 相手フィールドのこのカードと同じ属性を持つモンスター全てを破壊し、
 破壊したモンスターの中で元々の攻撃力が最も高いモンスターの元々の攻撃力分、
 相手にダメージを与える。
 ②:このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合、
 自分の墓地の「ペイントメージ・ゴッホ」1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターは、相手ターンでも効果を発動できる。


それは、ペイントメージ・ゴッホの進化形態とも言うべきモンスター。
剣と盾は一回り大きな形となり、
それらにはひまわりを思わせる黄色い花びらの紋様が描かれている。
銀色の鎧には炎のような赤いペイントが施され、その姿はまさに騎士であった。


モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/aekOx30
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「な、なんとぉー!!
伏せカードもなく、モンスター効果を使い果たしたと思われた花咲選手、
まさか手札に第3の策を隠し持っていたァ!
花咲選手のデッキを知っている鉄城選手でさえも及ばぬ未知の領域!
それがこの新たなるシンクロモンスターですッ!」

予想を大きく裏切られた多口は興奮した様子でマイクにかじりつく。
新たなSモンスターの登場に会場も歓声を上げる。

「…まさか、こんなモンスターを隠し持ってたとはな」
怜央は思わず1歩後ずさりする。
眼前に立つ炎の騎士の気迫に無意識に押されていた。

「切り札はここぞって時に切らなきゃな」
灯はデュエル中に見せる男勝りな口調でにやりと笑う。

「ペイントメージ・ゴッホ・ソレイユの効果発動!
自分・相手ターンに1度、このカードと同じ属性の相手モンスターを全て破壊し、
その中で最も高い攻撃力を持つモンスターの元々の攻撃力分、ダメージを与える!」

ゴッホ・ソレイユが両手で剣を下手に構えると、その剣が巨大な炎を纏う。
その直後、剣を両手で横一文字に振ると、怜央のフィールド中が烈火に包まれる。
業火に包まれ、怜央のフィールドの2体のエクシーズモンスターは一瞬で破壊された。


「元々の攻撃力が最も高いエクスプロードの攻撃力…2400のダメージを受けろ!」

「チクショウ…ッ!」
怜央は苦悶の表情を浮かべる。
LP8000 → 5600


「そんな…怜央さんのモンスターが…!」
観客席の星弥が唖然とした表情でフィールドを見つめている。
他のチームメイト達も同様、言葉にならない様子だ。

「だから言ったろ。灯はそう簡単にやられないって」
遊次はダニエラ達に向かって勝ち誇ったような笑みを見せる。
それをダニエラは悔しそうな目で睨み返す。



「(考えれば、最初から違和感はあったんだ…!
アイツは先行でペイントメージ・ゴッホをS召喚したが、
ゴッホ自身には俺のターンに妨害する効果は持ってねえ。
除外効果はあくまでS素材としたペイントメージ・カードルによって得たもんだ。
それなら、わざわざ先行で呼び出すのはゴッホじゃなく、
俺のターンにも効果を発揮できるようなSモンスターにすべきだ)」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(…悪くない盤面だが、灯にしちゃ詰めが甘ェ。
ぱっと見じゃわからねえが、まだ俺との戦いに迷ってるのか?)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
灯のターンが終了した後、怜央が感じた違和感の正体はこれだった。


「(それなのに、灯はわざわざオリーヴを炎属性に変えてゴッホを呼び出した。
それは…この隠し玉を使うためだったってわけか…!)」

ゴッホ・ソレイユはゴッホを素材に指定したモンスターだ。
ゴッホ・ソレイユの全体破壊効果を怜央のターンに使うために、
灯は先行でゴッホをS召喚する選択をしたのだ。

「私は、本気だよ。本気で、あなたを超えに来た」
灯は手札を掌に収めながら、その手の人差し指で怜央を真っ直ぐと指し、宣言する。

「…よくわかったぜ。お前はヌリぃデュエルをするような奴じゃねえ。
…見くびってたんだ。俺が、お前を…!」
怜央は自分自身に対する怒りを滲ませ、拳を強く握る。


「だがな…これで終わりだと思うな。
言ったよな。俺の願いの炎は、こんなとこで消えやしねえ」
怜央は手札のカードを1枚表にする。


「『RUM-リラプス・フォース』発動!
ライフを半分払い、墓地のXモンスターの1つ上のランクを持つXモンスターを、X召喚する!
墓地のエクスプロードを素材に、ランクアップエクシーズチェンジ!」

怜央 LP 5600 → 2300

怜央もここで終わる男ではない。
激戦を避けられぬことを確信し、灯は身構える。


■RUM-リラプス・フォース
 速攻魔法
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:LPを半分払い、自分の墓地の「スチームアーミー」Xモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターよりランクが1つ高い「スチームアーミー」Xモンスター1体を
 X召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚し、このカード及び対象のモンスターをそのX素材とする。
 ②:このカードが墓地に存在し、自分フィールドに「スチームアーミー」Xモンスターが存在する場合、
 フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
 自分のフィールド・墓地の「スチームアーミー」モンスター1体を
 対象のモンスターに装備カード扱いとして装備する。
 この効果は相手ターンでも発動できる。


「焼け焦げた鎧は血戦の証。燻る執念を憤怒の白煙へと昇華せよ」

「エクシーズ召喚!現れよ、ランク5!
『爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト)』!」


■爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト)
 エクシーズモンスター
 ランク5/炎/機械/攻撃力2800 守備力2600
 レベル5モンスター×3
 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがX召喚した場合に発動できる。
 相手フィールドの全てのモンスターの効果を無効にする。
 ②:このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを破壊する。
 この効果で破壊したモンスターが「スチームアーミー」モンスターを装備していた場合、
 相手フィールドのカードをもう1枚破壊できる。
 このカードが炎属性モンスターをX素材としている場合、この効果は相手ターンでも発動できる。
 ③:このカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
 自分の墓地の「スチームアーミー」Xモンスター1体を自分フィールドに特殊召喚し、
 その後、墓地の「スチームアーミー」モンスター1体をそのモンスターのX素材とする。


その鋼鉄の将軍は、黒く焼け焦げた鉄の鎧覆われている。
鎧の各部から絶え間なく蒸気が噴き出し、周囲に熱気を放つ。
肩の部分には大きな歯車、背中には大型の噴射口が装備されている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/RLUlao2
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

「デトネイトのX召喚時、効果発動。相手モンスターの効果を全て無効にする」
フィールドを白き蒸気が支配する。
それが晴れた時には、灯のモンスターの効果は全て無効化される。

「(墓地のフキサチーフは、ペイントメージの効果を無効にする効果を無効にできる。
でも、今それを発動しても意味がない)」
灯は次に起きる未来を予測し、瞬時に判断を下す。


「なんとぉー!!花咲選手だけでなく、鉄城選手までもが、更なる切り札を呼び出したぁー!
全く先の読めない展開!片時も目が離せません!」


「『RUM-リラプス・フォース』は発動後、デトネイトの素材となる。
素材となったリラプス・フォースを取り除いて効果発動。
相手モンスター1体を破壊する。
さらにそのモンスターが『爆焔鉄甲』を装備していた場合、もう1枚カードを破壊できる。
俺はペイントメージ・ゴッホ・ソレイユを選択!」


「X素材として墓地に送られたリラプス・フォースの効果発動。
フィールドに爆焔鉄甲Xモンスターがいる場合、1ターンに1度、
墓地の『爆焔鉄甲』を1体、相手モンスターに装備できる。
墓地のコンパス・グレネードをゴッホ・ソレイユに装備する」

ゴッホ・ソレイユの身体にコンパス・グレネードが鎖が巻き付きつける。
デトネイトが右手をゴッホ・ソレイユに向けると、
炎が右手に集中し、それは巨大な火球となる。
それは高速でゴッホ・ソレイユへと向かい、ぶつかった瞬間に対象ごと大きく爆ぜる。


「破壊したゴッホ・ソレイユにはコンパス・グレネードが装備されていた。
よってもう1枚カードを破壊できる。
ペイントメージ・ムンクを破壊!」

ゴッホ・ソレイユを襲った火球はUの字を描くように向きを変え、ムンクを背中から襲う。
ムンクは耐えられず、声を上げながら破壊される。

「この時、ゴッホ・ソレイユに装備されていたコンパス・グレネードの強制効果によって、
その上下左右のカードを破壊する。だが今お前のフィールドにカードはない」

「それにチェーンして、破壊されたゴッホ・ソレイユの効果発動!
相手によってこのカードが破壊された場合、
墓地のペイントメージ・ゴッホを特殊召喚できる!」

ゴッホは守備表示で灯のフィールドに蘇る。
チェーン1でコンパス・グレネードの効果が発動しているため、
ゴッホ・ソレイユがいた場所とは離れたモンスターゾーンに特殊召喚された。


怒涛の攻防に観客達は息を呑む。
その空気を察知し、すぐに多口が状況の説明を行う。

「花咲選手の奇襲攻撃によって壊滅した鉄城選手のフィールドには、
今ランク5のXモンスターが存在しています!
その効果によって今度は、花咲選手の2体のSモンスターが同時に破壊されてしまったァ!
しかしなんとか墓地からSモンスターを守備表示で復活させ、場を繋いでいる状況です!
もはやどちらが優勢かという判断は野暮!互角といえる攻防です!」


「…しぶてぇじゃねえか。
だが、そろそろスタミナが切れる頃合いだぜ」

「そっちこそ、もうライフが少ないけど大丈夫?
少し転んだだけで死んじゃうかも」

怜央の口撃に灯は素早く煽り返す。
2人の口角は自然と上がっていた。


「灯の奴、楽しんでるな」
少し前まで心配そうに娘の姿を見ていた灯の父は、娘の成長を肌で感じ、満足そうにしている。

「あぁ。それにすごく堂々としてるよ。昔のあの子なら考えられなかった。
誰かさんのおかげかな」
灯の母はそう言うと、対面の遠くの観客席にいる遊次の姿を見つめる。


「行くぜ。バトルだ!
『爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト)』でゴッホに攻撃!」

デトネイトは拳に炎を纏わせ、背中の噴射口によって加速し、ゴッホへと向かう。


「ゴッホ・ソレイユの効果で復活したゴッホは、相手ターンでも効果を発動できる!
ゴッホの効果発動!
1ターンに1度、同じ属性のモンスター1体を破壊して、その攻撃力分のダメージを与える!
デトネイトを破壊!これで…終わりだッ…!」

デトネイトの攻撃力は2800。怜央のライフは2300。
この効果が通れば、怜央のライフは0となる。
突然の敗北の可能性にチームの子供達は目を丸くし、怜央の名前を叫ぶ。

ゴッホは剣に炎を纏わせ、それをデトネイトへと向けている。
怜央は観客席の子供達の顔を見つめる。
そしてすぐに正面を向くと、その眼差しには更なる闘志が宿っていた。


「ナメんじゃねえ。俺が負けるわけねぇだろ…!
速攻魔法発動!『爆焔鉄甲加速纏炎(スチームアーミー・ブーストフレイム)』!」


■爆焔鉄甲加速纏炎(スチームアーミー・ブーストフレイム)
 速攻魔法
 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドの「スチームアーミー」Xモンスター1体を対象として、
 以下の効果から1つを選択して発動できる。
 ●そのモンスターの攻撃力はそのモンスターのX素材の数×500アップし、
 1度のバトルフェイズに2回攻撃できる。
 また、そのモンスターとの戦闘で破壊されなかった相手モンスターはダメージステップ終了時に破壊される。
 ●そのモンスターはこのターン、戦闘・効果で破壊されず、
 そのモンスターと戦闘を行った相手モンスターはダメージステップ終了時に破壊される。


その速攻魔法の発動と同時に、ゴッホがデトネイトに剣を振るうと、
炎の斬撃がデトネイトへと向かう。
しかし直後、デトネイトを炎のバリアが覆い、ゴッホの斬撃を防いだ。

炎と炎が衝突し、フィールドは熱気に包まれる。
その様はまるで、お互いにぶつかり合う想いの強さの象徴だった。

「ブーストフレイムの効果。
対象となったモンスターはこのターン、戦闘・効果で破壊されない。
破壊できなきゃダメージも受けねえ」
怜央が涼し気に言ってのけると、勝ちを逃した灯は奥歯を噛み締める。

「攻撃は続行だ。デトネイトでゴッホを破壊!」
デトネイトの炎を纏った拳はゴッホを襲い、ゴッホは炎に呑まれ破壊される。

「バトルは終了だ。俺はカードを2枚伏せてターンエンド」


「鉄城選手が3体のSモンスターを破り、花咲選手のフィールドを壊滅させました!
切り札をフィールドに残し、更には1枚の伏せカードもあるため、
花咲選手への牽制は十分と言えます。
しかしこのターン、鉄城選手はあまりにも多くのライフを失いました!
対して花咲選手のライフは未だに満タン!
盤面とライフの状況を加味すると、イーブンな戦いと言えるでしょう!」

怒涛の展開がひと段落し、観客達は息をつく。

--------------------------------------------------
【灯】
LP8000 手札:2
魔法罠:0

カードの位置:

□□□□□
□□□□□
 □ □
□□①□□
■■□□□


【怜央】
LP2300 手札:0

①爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト) ATK2800 X素材1
伏せカード:2
--------------------------------------------------

「今の花咲さんの効果が通れば勝ってたんだけどね…。
土壇場で防いでくるとは、怜央君の執念も並じゃないね」
目まぐるしいデュエルを必死に追っていたアキトが、少し惜しそうに言う。

「怜央の兄貴が1ターンで負けるわけないだろ!
探偵のくせにそんなこともわかんないんだな!」
怜央が負けると思われていたことに腹を立て、リアムは必死に言い返す。

「どっちが勝つかはマジでわからねえ。
でも、1つ確かなのは…お互いが認め合ってるってことだ」

遊次はフィールドに立つ2人の姿を見つめながら、明るい声色で話す。
灯と怜央の瞳には戦う意思が宿っているが、
それと同時に、相手に対する誇らしさも滲み出ていた。

「いくら自分の願いのために戦ってても、2人はNextの仲間同士だ。
どっちも本気で勝ちたいと思ってる。でもお互いに全力を超え合ってさ。
そんなデュエルしてたら、相手に"すげーな"ってどうしても思っちまうぜ。
それが2人の顔に出てる」

遊次は楽しそうに灯と怜央の表情を見つめている。
彼らは自身の願いを懸けた真剣勝負の最中にいるが、
その顔からは楽しさの感情が見て取れた。


「あぁ、そうだな。こんな2人が同じ事務所にいるんだ。
その凄さをこの大舞台で証明できて、俺も誇らしい。
どっちが勝ったとしても、必ず2人の成長に繋がるだろうな」

イーサンも遊次の言葉を咀嚼し、己の考えへと変換する。

「ま、おもしれーデュエルなのは間違いねーよ。
怜央の兄貴が勝つけどな!」
先ほどまでムキになっていたリアムも、2人の言葉で柔らかい表情となる。


「(やっぱデュエルはこういうもんだ。
デカいもんが懸ってても、どうしても楽しんじまう。
今はこの気持ちに素直になりてえ)」

マルコスとのデュエルの後、もやもやとした気持ちが渦巻いていた遊次だったが、
灯と怜央のデュエルを観て、心が晴れていく感覚になった。

フィールドでは、灯がデッキトップに指をかける。
まだ戦いは続いている。

灯にとってここが正念場だ。
怜央のフィールドを崩し、攻め切ることができるのだろうか。

「俺のターン、ドロー!」


第33話「願いの炎」 完



爆焔鉄甲による破壊の連鎖を超え、切り札を呼び出す灯。
怜央の願いの炎も更に燃え上がり、白熱する決闘。

灯は戦いの果てに、自分の本当の願いを知る。

次回 第34話「ただそれだけ」
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