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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第39話:玉座

第39話:玉座 作:

ヴェルテクス・デュエリア2回戦第3試合。
怜央の対戦相手である虹野譲は、
炎と水の相対する属性を持つ「冽灼」というPデッキを操る。

怜央は連続爆破コンボによって譲の4体のモンスターを同時に破壊するも、
その破壊によってモンスターがEXデッキに表側で置かれ、
次なるP召喚への布石とすることが、譲の狙いであった。

譲はリンクモンスターを呼び出し、
ペンデュラム召喚によって同時に5体ものモンスターを特殊召喚。
まさにペンデュラムを体現する譲に、怜央は追い詰められる。

--------------------------------------------------
【怜央】
LP8000 手札:1

①爆焔鉄甲 炎機公子 ATK2600 X素材:1
②爆焔鉄甲 機動歩兵 ATK1900

フィールド魔法:爆焔鉄甲閉鎖密集地帯
永続罠:爆焔鉄甲地雷原
伏せカード:1

カードの位置:

■■□□□
□②①□□
 ① □
②③④⑤⑥
■□□□■


【譲】
LP6000 手札:2

①冽灼の織灘 ルナイラ ATK2400
②冽灼の爆腕 バリウ ATK2200
③冽灼の舞姫 ファリナ ATK1800
④冽灼の環紗 ネアス ATK1500
⑤冽灼の宴陽 ソリグナ ATK2700
⑥冽灼の深淵 ナムリオ ATK2500

Pゾーン:冽灼の踊焔 カグシア、冽灼の流糸 ネリュス
--------------------------------------------------

「怜央…このままじゃまずいよ…」
観客席のリクが不安を漏らす。

「何言ってんだ!怜央の兄貴がこんなところで負けるわけねーだろ!」
リアムがその言葉を即座に否定し、リクの背中を叩く。

「リアムの言う通りだぜ。ほら見ろよ、怜央の眼。
ここでくたばる奴のガンのつけ方じゃねーだろ」

遊次は笑顔でフィールドの怜央を指差す。
そこには静かに譲を睨みつける怜央がいた。

「…うん、そうだね。怜央はどんなピンチも乗り越えてきたんだもん。
僕達は応援しないとね!」

リクの笑顔も明るくなる。
怜央が希望を失わない限り、その希望は子供達にも伝播する。
決して屈せぬ強さこそが怜央の取り柄だ。


「さあ、バトルフェイズ!
『冽灼の織灘 ルナイラ』で『爆焔鉄甲 機動歩兵(マヌーヴァー・インファントリー)』を攻撃!」


ルナイラは炎と水を掌で錬成し球体へと圧縮する。
それを勢いよく放つと、マヌーヴァー・インファントリーの腹部には一瞬で風穴が空き、その機体は爆ぜる。

「ぐっ…」
怜央 LP8000 → 7500

「だがマヌーヴァー・インファントリーが破壊された時、効果発動!
デッキから爆焔鉄甲を呼び出す!」

譲のソリグナはモンスター効果を無効にできるが、ここには使わないようだ。

「来い、『爆焔鉄甲 溶解兵長(メルト・コーポラル)』!」


爆焔鉄甲 溶解兵長(メルト・コーポラル)
 効果モンスター
 レベル5/炎/機械/攻撃力2100 守備力1900
 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスター以外の自分フィールドの「スチームアーミー」モンスター1体を選び、
 対象のモンスターに装備カード扱いとして装備する。
 この効果は相手ターンでも発動できる。
 ②:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
 デッキから「スチームアーミー」速攻魔法1枚を手札に加える。
 ③:このカード以外の自分フィールドの「スチームアーミー」モンスター2体を対象として発動できる。
 ターン終了時まで、そのモンスターのレベルを1つ上げる。


一つの赤い光を放つ単眼を持つ機兵が守備表示で姿を現す。
片方の腕には巨大な鉤爪が付き、もう片方の腕には溶接トーチが取り付けられている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/D0y8dXa
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


「メルト・コーポラルの特殊召喚時、
デッキから『スチームアーミー』速攻魔法を手札に加えることができる。
『爆焔鉄甲加速纏炎(スチームアーミー・ブーストフレイム)』を手札に加える」

譲はこの効果も止めることはなく、ノータイムで優先権を渡す。
彼の中ではすでに効果を使用するターゲットは定まっているようだ。


「バトルはこれからだよ。
『冽灼の宴陽 ソリグナ』でエクスプロードへ攻撃!」

「この瞬間、墓地のバリケイド・ビルダーを除外して効果発動!
爆焔鉄甲1体を対象に、そのモンスターはこのターン戦闘で破壊されない」

墓地のバリケイド・ビルダーは
最初のターンにアイアン・ドライバーの効果で墓地へ送られたモンスターだ。


「そうはいかないよ。『冽灼の宴陽 ソリグナ』の効果発動。
相手モンスターが効果を発動した時、自分のモンスターを1体リリースして、
その発動を無効にする。
『冽灼の環紗 ネアス』をリリースして、バリケイド・ビルダーの効果を無効にするよ」

リリースされたネアスが炎にて蒸発し、消えてゆく。
ソリグナが3つの目を光らせると、バリケイド・ビルダーの効果は無効となる。

「さあ、このままエクスプロードを破壊だ」

ソリグナの姿は炎の流動体へと変わり、上空へと上がってゆく。
そしてその直後、頭上から業火の渦がエクスプロードを襲う。
ソリグナの攻撃は超高温の機体を持つエクスプロードですら燃やし尽くした。

「ッ…」
怜央 LP 7500 →7400


「続いて『冽灼の爆腕 バリウ』でメルト・コーポラルを攻撃」

バリウは雄々しい演舞のように華麗に拳を構えると、
1ステップでメルト・コーポラルへ近づき、その拳を叩きつける。
守備表示のメルト・コーポラルは一撃で粉砕される。

「この瞬間、バリウの効果発動。バトルでモンスターを破壊した時、
相手の墓地のカードを1枚、除外できる。
除外するのは…君の切り札『爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)』さ」

怜央は墓地から取り出したエクスプロードを1秒ほど見つめ、
何かを考えている様子で除外する。


「これで怜央のフィールドはガラ空き…」
怜央の強力な破壊効果を受けて、なおもこれほどの猛攻を繰り出す譲に、
灯は「信じられない」という感情を抱く。

「おまけに、エクスプロードも除外されちまった。
墓地にいりゃあ復活させてX素材を補給する方法もあったんだがな…」
怜央のデッキを熟知しているドモンは、取れる選択肢が狭まったことに悔しさを滲ませる。


「これで阻むものはなくなった。
『冽灼の深淵 ナムリオ』でダイレクトアタック」

ナムリオが深呼吸するように体全体を広げると、みるみる内にその体は大きな渦へと変わる。
渦は勢いよく怜央を襲う。

「ぐぁあああっ!!」
怜央 LP7400 → 4900


「『冽灼の舞姫 ファリナ』でダイレクトアタック」
ファリナはバレエのような華麗な動きで怜央に近づくと、炎の一蹴をお見舞いする。

「ぐっ…!」
怜央 LP4900 → 3100


「虹野選手の華麗な5連撃が決まったぁー!
鉄城選手もライフを守り切りましたが、
デュエルの天秤は明らかに虹野選手に傾いています!」

全てのモンスターの攻撃が終わり、遊次は大きく息を吐く。


「これでバトルフェイズは終了だ。メインフェイズ2。
先ほどソリグナによってリリースされた『冽灼の環紗 ネアス』の効果発動。
炎属性モンスターがフィールドにいる時、このカードをEXデッキの表側から特殊召喚できる」


仮面をつけたような藍色のモンスターが再び姿を現す。
これによって譲のフィールドはまたも全て埋まったことになる。
そして、ソリグナのモンスター効果を無効にする効果、
そのリリース要因も確保されたことを意味する。

「僕はカードを1枚伏せてターンエンド」


「なかなかしぶといね。でも、この壁は越えられないよ。
モンスター効果を無効にして破壊するソリグナに、
魔法・罠を無効にして破壊するナムリオがいる」

「それに、ソリグナは水属性が場にいると戦闘で破壊されず、
ナムリオは炎属性が場にいると効果で破壊されない。
さらにネリュスのP効果で、僕のPカードは効果の対象にならない」

譲はクールな笑みを浮かべ怜央を煽るように見つめる。

「君とのデュエルの時間も、もうすぐ終わりみたいだね」
譲は名残惜しそうに儚げな表情をする。

「終わるぜ、次の俺のターンでな」
怜央は淡々とした表情で一言だけ返す。
彼はこれほどの猛攻を受けても全く折れていなかった。

譲はその言葉を受けて静かに笑う。


「怜央なら絶対に巻き返してくれるさ。俺らも応援しようぜ」
そんな怜央を見て、遊次達も活気を取り戻してゆく。
彼が諦めない限り、仲間達もまた折れることはない。
これまでもそうして数々の苦難を乗り越えてきたのだ。


「子供達のために戦ってるんだって?
詳しくは知らないけど、それが君の戦う理由なんだろう」
譲は未だ真っ当に言葉を交わしていない怜央に対して、対話を試みる。

「…俺のチームのガキ共は、家にも学校にも居場所がねえ奴らがいる。
そいつらにまともな道を歩ませる…そのためには最低限の生活ができる土台がなきゃ始まらねえ。
だからこの大会に出た」

譲は怜央に敵意を向けるが、それは決して悪意ではない。
怜央にとっても対話を拒否する理由はなかった。
デュエルの中の対話でしか得られない答えはある。
Nextに入ってから、怜央には少なからずそれを知る機会があった。
しかし怜央の場合、相手の心を動かすためではなく、むしろその逆だ。
対話の果てに自らの心に火が点けば、それが勝利への原動力になる。
これまで怒りを力に変えてきたように。


「君の思いは並々ならないものだと思うよ。デュエルからそれを感じる。
でも、本当にその願いは叶えなきゃいけないものなのかな?」
譲は言い聞かせるような声色で問いかける。

「…なんだと?」
怜央の視線は更に鋭くなる。

「他の人を蹴落としてまで、この大会で叶える必要があるのかってことさ」
譲も怯むことなく、まるで日常会話のように淡々と言葉を紡ぐ。

「この大会で勝つことが自分に残された唯一の道…
そんな人の願いを潰す権利が君にあるのかい?」

怜央に呼応するように、譲の面持ちもシリアスさを増す。

「…そういうんなら、お前の願いはさぞ大層なモンなんだろうな」
怜央の言葉を聞くと、譲は車椅子の上で弱々しく腕を広げてみせる。

「…見ての通り、僕はこの体さ。
後天性の病気でね。治らないと言われてた」

「それが近年、デュエリアで新たな治療法が見つかったんだ。
でも、まだまだ初期段階。
治験も終わってないし、民間まで降りて来るのは未来の話さ」

彼の脳裏にある記憶がフラッシュバックする。
真っ白な病床で自分を見つめる、やつれた女性だ。


(ごめんね…ごめん、ゆずる…)

女性はひどく痩せ細った手で、弱々しく譲に手を伸ばす。
譲は車椅子の上でその手を強く握る。

(私が…もっと…強けれ…ば…)
かすれた、かろうじて聞こえる声で、女性は手を震わせながら言う。

(違うッ!母さん!!そんなこと言うなよ!!)
譲は目元に涙を溜めながら叫ぶ。


辛い記憶を呼び醒ましたことで、無意識に譲の拳に力が入る。

「普通じゃ受けられねえ治療を受けることがお前の願いってわけか」
怜央は表情を変えることなく言葉を返す。

「…僕からすれば、キミの願いは戯言にしか聞こえない。
だって、他に叶える手段があるじゃないか…!」

譲の眼差しに敵意がこもる。
それは、この戦いが始まる前に見せたものと同じ、強い意志の表れだった。


怜央は言葉を返さず、伏し目で何かを考えている。
怜央の視線は観客席の子供達へと映る。
その中の、ミオと星弥が並ぶ位置で視線は止まる。


2人の姿と、かつての土砂降りの日の記憶。
それらが怜央の中で瞬間的に交差した。



2年前。
土砂降りの中、逃げるように後ろを確認しながら走る1人の少年と2人の子どもがいた。

怜央を筆頭にし、その後ろに星弥とミオがついてゆく。
彼らが走る度に足元に溜まった水溜りが強く跳ね、足に重く纏わりつく。


「待ちやがれえっ!!」
3人の子供を、叫びながら屈強な男性が追いかけている。
3人の子はパンなどの食料を両手一杯に抱えながら、必死の形相で逃げ続ける。

2年前、Unchained Hound Dogsの3人は、その日も生き抜くために食料を盗んでいた。
それが店主にバレ、この現状となっているのだ。
チームが発足したのは約3年前。
そこから1年ほど経ち、家庭に居場所のない星弥とミオが加入することとなったのだ。
他の子供達はまだメンバーではないようだ。


「うあっ!」
ミオが足を滑らせ、顔面から転ぶ。

「ミオ!」
先を行く怜央と星弥が振り返る。
すぐそこには男が迫ってきている。

ミオは顔を上げて2人を見る。
顔は泥にまみれ、目の横に大きな傷ができていた。
ミオは痛みに顔を歪め、傷跡を手で抑えている。


「星弥、ミオを頼んだ」
怜央は男の前に立ち塞がり、後ろの倒れたミオを庇う。

「怜央さん…。…っ!」
怜央の意図を汲み取り星弥はすぐにミオを抱きかかえて逃げる。


「クソガキが!観念しろ!盗んだもん返しやがれ!」
男が怜央に掴みかかろうとするも、怜央は軽い身のこなしでひらりとかわす。

「テメェ…!」
後ろから男が再び掴みかかろうとするも、怜央はそれをかわし、
積み上がった資材の山を軽くトントンと駆け上がり、男を見下ろす。


「デュエルだ。俺が勝ったら追うのをやめろ。
アンタが勝てば盗んだモンは全部返して、今後二度とこの町で盗みはしねぇ。それでいいだろ」

怜央は男に条件を突きつけながら、
高台から、逃げてゆく星弥とミオを横目で見送る。


「泥棒が上から目線で何言ってやがる!
でもそっちからそう来るってんなら受けて立ってやるよ!」

男はデュエルディスクを手に取り、決闘を受け入れた。




それから30分後。
ある廃ビルの一室に、星弥とミオがいた。
ミオはぼろぼろの茶色い毛布に身を包み、うずくまって体を震わせている。

「もう追手は来ねえ」
そこに怜央が入ってくる。
男とのデュエルに勝利し、逃げ果せたようだ。

「大丈夫か、ミオ」
顔を怪我し、寒さに震えるミオに、怜央は静かに語りかける。


「…いつまで、こんなことしなきゃいけないの」
ミオは小さな声で呟くように言った。
怜央と星弥はすぐに言葉を返すことができなかった。

「私たちはただ、生きたいだけ。盗まなきゃ、死んじゃうから。
なのに…私たちが悪者なの」

「…んなわけねえだろ」
怜央は低くくぐもった声で言葉を返す。

「ただ境遇が悪かっただけで、ガキがこんな目に遭う世の中が正しいわけねえ」
怜央はミオの顔の傷を見つめ、拳を強く握る。


「こんな生活、いつまでも続ける気はねえ。
俺たちをこんな目に遭わせた奴らを全員ブッ潰して…
ようやく"普通"に生きられるようになるんだ」

「ふつう…」
ミオが胸に引っかかった言葉を復唱する。

「私も、みんなみたいに…ふつうにソフトクリーム買ってもらったり、
ふつうにみんなと遊んだりできるのかな」

ミオの弱弱しい声に星弥はすぐに言葉を返す。

「できるさ!絶対にできる!」
その言葉は自分に言い聞かせるものでもあった。
いつか、この境遇から抜け出せる日が来るに違いないと。

「…いつになるのかな。ふつうの、暮らし」
ミオが毛布をぎゅっと掴む。


怜央はただ俯くことしかできなかった。

雨は、変わらず強く地面を打ち付けていた。




「あいつらは、まともに"普通"すら味わったことがねえんだ。
普通の生活を、想像すらできなかった。
でもようやく…ちょっとは笑えるようになったんだ」

怜央はあの日強く握りしめた拳の痛みを今も鮮明に覚えていた。
前を向き、譲との視線は交差する。

「お前がどんな願いを持ってようが、俺は止まらねえ。
お前が負けたんなら、お前の願いがその程度だったってだけの話だ。
その時に恨むのはテメェの弱さだぜ」

病気というバックボーンがある譲に対して、怜央は無遠慮に言葉を吐く。

「叶えてえなら、俺をブッ倒せ。
俺は、全員をブッ潰して上に行く」

怜央は自分の心臓に親指を突き立て、真っ直ぐ宣言する。


「…意志は固いようだね。わかりやすくていいよ。
僕も、ただ君を倒すことだけに専念できる」

譲もそれを受け、デュエルディスクを掲げる。
この決闘は、願いの強さが勝負を分かつ。
2人はそれを確信した。


--------------------------------------------------
【怜央】
LP3100 手札:2(爆焔鉄甲加速纏炎)

フィールド魔法:爆焔鉄甲閉鎖密集地帯
永続罠:爆焔鉄甲地雷原
伏せカード:1

カードの位置:

■■□□□
□□□□□
 ① □
②③④⑤⑥
■□□■■


【譲】
LP6000 手札:2

①冽灼の織灘 ルナイラ ATK2400
②冽灼の爆腕 バリウ ATK2200
③冽灼の舞姫 ファリナ ATK1800
④冽灼の環紗 ネアス ATK1500
⑤冽灼の宴陽 ソリグナ ATK2700
⑥冽灼の深淵 ナムリオ ATK2500

Pゾーン:冽灼の踊焔 カグシア、冽灼の流糸 ネリュス
--------------------------------------------------

譲のフィールドには6体のモンスター。
対して、怜央のフィールドにモンスターはいない。
しかし、その圧倒的不利を思わせぬ気迫を、怜央は纏っていた。


「俺のターン…ドロー!」
怜央は願いを力へと変えるように、力強くカードを引く。


「手札の爆焔鉄甲カードを1枚捨て、このモンスターは手札から特殊召喚できる!
手札の『爆焔鉄甲 点焼鋼弾(ライター・テルミット)』を捨てて、
『爆焔鉄甲 号通信兵(モールス・シグナラー)』を特殊召喚する」


■爆焔鉄甲 号通信兵(モールス・シグナラー)
 効果モンスター
 レベル4/炎/機械/攻撃力1600 守備力1700
 このカード名の、②の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
 ①③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスター以外の自分フィールドの「スチームアーミー」モンスター1体を選び、
 対象のモンスターに装備カード扱いとして装備する。
 この効果は相手ターンでも発動できる。
 ②:このカードは手札の「スチームアーミー」カード1枚を捨てることで、
 手札から特殊召喚できる。
 ③:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
 デッキから装備カード扱いとなった場合の効果を持つ
 「スチームアーミー」モンスター1体を特殊召喚する。


現れたのは、錆びた鋼鉄の装甲をまとった機械の通信兵。
胸のモニターと片目のレンズに波打つ通信波が浮かび、信号を受信している。
右手にはアンテナ付きのドライバー、左手には円形の送信装置を握っている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Phs4Zrr
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「この時、手札から捨てられたライター・テルミットの効果と、モールス・シグナラーの効果発動!
チェーン1のライター・テルミットが手札から捨てられた時、
デッキから『スチームアーミー』通常魔法1枚を手札に加えられる」


■爆焔鉄甲 点焼鋼弾(ライター・テルミット)
 効果モンスター
 レベル4/炎/機械/攻撃力1500 守備力900
 このカード名の①③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 このカードは魔法&罠ゾーンに1枚しか存在できない。
 ①:このカードが手札から墓地に送られた場合に発動できる。
 デッキから「スチームアーミー」通常魔法カード1枚を手札に加える。
 ②:装備カード扱いとして装備されていたこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
 装備モンスターのコントローラーに1000ダメージを与える。
 ③:装備モンスターが破壊される事によってこのカードが墓地へ送られた場合に発動する。
 破壊された装備モンスターと同じ縦列・隣のカードを全て破壊する。


「さらにチェーン2のモールス・シグナラーは特殊召喚時、
デッキから装備カード扱いとなった場合の効果を持つ爆焔鉄甲を1体、特殊召喚できる」

同時に効果が発動したことで、チェーンの順番は怜央が好きに組むことができる。
譲は「冽灼の宴陽 ソリグナ」によってモンスター効果を無効にできるが、
チェーン1として発動した効果は無効とならない。
ライター・テルミットの効果をチェーン1としたということは、
怜央は魔法カードのサーチを優先したということだ。


「『冽灼の宴陽 ソリグナ』の効果発動。
『冽灼の環紗 ネアス』をリリースして、その効果を無効にし破壊する」


「だがこの瞬間、リバースカードオープン!
『爆焔鉄甲甦燻陣(スチームアーミー・スモルダーリバイバル)』!
フィールドの爆焔鉄甲を1体リリースすることで、
墓地の爆焔鉄甲Xモンスターを復活させ、X素材を2つデッキから供給する!
モールス・シグナラーをリリース!」


■爆焔鉄甲甦燻陣(スチームアーミー・スモルダーリバイバル)
 通常罠
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドの「スチームアーミー」モンスター1体をリリースし、
 そのモンスター以外の自分の墓地の「スチームアーミー」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを特殊召喚する。
 その後、デッキから「スチームアーミー」モンスターを2体選び、
 そのモンスターの下に重ねてX素材とする。
 この効果で特殊召喚したモンスターは、1ターンに1度、
 相手モンスターの効果を受ける場合、代わりにX素材を1つ取り除くことができる。
 ②:墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「RUM」魔法カード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを手札に加える。


モールス・シグナラーの効果はソリグナによって無効になるが、
罠カードのコストとしてリリースし次へ繋げる算段だ。
これが通れば怜央のフィールドにX素材を持つエクシーズモンスターが復活することとなる。

「そうはいかないよ。
『冽灼の深淵 ナムリオ』の効果発動。
自分フィールドの表側の魔法カードを1枚破壊して、相手の魔法・罠の効果を無効にする。
Pカードは魔法カードとして扱われる。
Pゾーンの『冽灼の踊焔 カグシア』を破壊して、その罠カードを無効にするよ」


譲の頭上のカグシアは、ろうそくの火を吹き消したように消えてゆき、
ナムリオが腕を振るうと、怜央の罠カードは泡へと変わり、消失する。
これにて、Xモンスターの復活は文字通り泡へと消えたことになる。

「さらにチェーン3のソリグナの効果で、モールス・シグナラーの効果も無効。
デッキからモンスターは特殊召喚できない」

「だが、チェーン1のライター・テルミットの効果により、
デッキから通常魔法『爆焔鉄甲錆処理槽(スチームアーミー・スチールディゾルブ)』を手札に加える」


「先ほどPゾーンで破壊された『冽灼の踊焔 カグシア』の効果発動。
このカードがEXデッキに表側で加わった場合、デッキからPゾーンに「冽灼」Pカードを置く。
『冽灼の響輪 ヴォルヴ』をPゾーンへ!」


頭上に現れたのは、脚部が車輪のように渦巻いている炎のモンスターだ。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/ruQKGWJ
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■冽灼の響輪 ヴォルヴ
 ペンデュラムモンスター/チューナー
 レベル5/火/炎/攻撃力2200 守備力1800 スケール1
 【P効果】
 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドの水属性モンスター1体をリリースし、
 相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを破壊する。
【モンスター効果】
 このカード名の①②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
 デッキから「冽灼」魔法カード1枚を手札に加える。
 ②:自分フィールドの水属性Pモンスター1体をリリースして発動できる。
 デッキからチューナー以外の「冽灼」モンスター1体を特殊召喚する。


「両者、チェーンの応酬!
鉄城選手の手数は多いものの、そのほとんどを虹野選手に潰されてしまったぁ!
しかし、唯一の希望となるのは手札に加えた通常魔法カード!
このカードが鉄城選手に希望をもたらすのだろうかぁ!」

観客達は運命の時を見守る。
怜央は先ほど手札に加えた魔法カード「爆焔鉄甲錆処理槽」を見つめている。


「(ヤツのモンスターは破壊耐性を持ち、
バリウによって、戦闘時に俺のモンスターの攻撃力を下げられる状態だ。
更にはあの伏せカード…)」

譲は見えている妨害を使い切ったが、まだ伏せカードが残っている。
怜央が最も警戒すべきはそのカードだ。

「(今Pゾーンに置かれたモンスターは、アイツのターンに俺のカードを破壊する効果。
次のターンの準備のつもりだろうが…次のターンなんざハナから考えちゃいねえ。
このターンで終わらせる以外ねえんだよ)」

怜央は頭の中で盤面を整理し、何が勝利の鍵になるかを考える。

「(あの伏せカードの中身次第だが…勝てる条件は揃ってる。
全ては…このカードに懸かってる)」

最後に怜央は、観客席の子供達に視線を移す。


「あいつらに見せる背中は…物盗んで逃げ回る姿じゃねえ。
未来へ導く背中だ!」

覚悟と共に、怜央は1枚の魔法カードを発動する。

「魔法カード『爆焔鉄甲錆処理槽(スチームアーミー・スチールディゾルブ)』発動!
自分フィールドの表側の『スチームアーミー』永続魔法・永続罠を1枚墓地へ送り、
2枚ドローすることができる!」


■爆焔鉄甲錆処理槽(スチームアーミー・スチールディゾルブ)
 通常魔法
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分の表側の「スチームアーミー」永続魔法・永続罠1枚を墓地に送って発動できる。
 自分はデッキから2枚ドローする。
 ②:墓地のこのカードを除外し、
 墓地の「スチームアーミー」モンスター3体を対象として発動できる。
 それらのカードをデッキに戻し、
 デッキから「スチームアーミー」魔法・罠カード1枚を墓地へ送る。


「俺は永続罠『爆焔鉄甲地雷原(スチームアーミー・マインフィールド)』を墓地へ送り、
2枚ドローする!」

怜央が勢いよく2枚のカードを引く。
そのカードを裏返すと、怜央の目は大きく見開かれる。


「今墓地へ送った『爆焔鉄甲地雷原』を除外して効果発動!
除外されている爆焔鉄甲を2体、特殊召喚する!
現れろ『爆焔鉄甲 堅鉄建兵(バリケイド・ビルダー)』、
そして『爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)』!」

フィールドには、鋼鉄の盾を持つ機兵と、赤と黒の金属板で覆われた怜央の切り札が同時に現れる。


「やった!エクスプロードだっ!!」
観客席のリアムは立ち上がり拳を突き上げる。

「しかし、今のままでは虹野さんに太刀打ちできません」
治は戦況を冷静に分析し、糠喜びを避けている。

「アイツがエクスプロードを呼び出したってことは、引いてるってことだ。逆転の一手をな」

遊次は治に軽く笑いかけ、希望を与える言葉を投げかける。
その言葉を証明するように、怜央は手札から1枚のカードを取り出す。


「手札から『RUM-エクスプロージョン・フォース』発動!
フィールドの爆焔鉄甲Xモンスターをランクアップさせる!」

その1枚のカードの発動に、観客席の子供達は一斉に笑顔となる。


■RUM-エクスプロージョン・フォース
 速攻魔法
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドの「スチームアーミー」Xモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターよりランクが1つ高い「スチームアーミー」Xモンスター1体を、
 対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いでEXデッキから特殊召喚し、
 このカードをそのX素材とする。
 ②:墓地のこのカードを除外し、フィールドのモンスターを2体まで対象として発動できる。
 対象のモンスターの数だけフィールド・墓地から「スチームアーミー」モンスターを選び、
 対象のフィールドのモンスターに装備カード扱いとして装備する。
 この効果は相手ターンでも発動できる。


「エクスプロードを素材に、1つ上のランクを持つXモンスターを呼び出す!
ランクアップエクシーズチェンジ!」

エクスプロードは黒い渦に飲まれる。

「焼け焦げた鎧は血戦の証。燻る執念を憤怒の白煙へと昇華せよ!
エクシーズ召喚!ランク5!
『爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト)』!」


■爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト)
 エクシーズモンスター
 ランク5/炎/機械/攻撃力2800 守備力2600
 レベル5モンスター×3
 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがX召喚した場合に発動できる。
 相手フィールドの全てのモンスターの効果を無効にする。
 ②:このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを破壊する。
 この効果で破壊したモンスターが「スチームアーミー」モンスターを装備していた場合、
 相手フィールドのカードをもう1枚破壊できる。
 このカードが炎属性モンスターをX素材としている場合、この効果は相手ターンでも発動できる。
 ③:このカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
 自分の墓地の「スチームアーミー」Xモンスター1体を自分フィールドに特殊召喚し、
 その後、墓地の「スチームアーミー」モンスター1体をそのモンスターのX素材とする。


その鋼鉄の将軍は、焼け焦げた鉄の鎧に覆われている。
鎧の各部から絶え間なく蒸気が噴き出し、周囲に熱気を放つ。
肩の部分には大きな歯車、背中には大型の噴射口が装備されている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/RLUlao2
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


譲は蒸気と炎を巻き上げる目の前の機兵の迫力を肌で感じていた。
今まさに、自分を焼き尽くそうとする執念の炎が、燃え上がっていた。

「デトネイトの効果発動!
X召喚時、相手フィールドのモンスターの効果を、全て無効にする!」

白い蒸気がフィールドを覆う。
それが晴れた時には、譲のモンスターは全て機能を停止していた。


「なんとぉ!鉄城選手、ディスティニードローだぁ!!
窮地を救ったのは、切り札デトネイト!
破壊耐性を持っていた虹野選手のモンスター達は、たった一手で全て無力化してしまったァー!!」

観客達は一番の盛り上がりを見せる。

「…やはり君は、超えてくるんだね」
譲は笑みと悲しみが混じったような複雑な表情でフィールドを見つめる。


「墓地の『RUM-エクスプロージョン・フォース』の効果発動!
このカードを除外し、墓地の爆焔鉄甲を2体、お前のモンスターに装備する。
墓地のクロック・ダイナマイトを『冽灼の宴陽 ソリグナ』に、
コンパス・グレネードを『冽灼の舞姫 ファリナ』に装備する」

2体の爆弾型モンスターが長い鎖を、指定されたモンスターに巻き付ける。

--------------------------------------------------
【怜央】
LP3100 手札:1(爆焔鉄甲加速纏炎)

①爆焔鉄甲 蒸機焼軍 ATK2800 X素材:1
②爆焔鉄甲 堅鉄建兵 ATK1200

フィールド魔法:爆焔鉄甲閉鎖密集地帯

カードの位置:
※◎となっているカードは爆焔鉄甲が装備されている

□■□■□
□□①②□
 ① □
②⓷□⓸⑤
■□□■■


【譲】
LP6000 手札:2

①冽灼の織灘 ルナイラ ATK2400
②冽灼の爆腕 バリウ ATK2200
③冽灼の舞姫 ファリナ ATK1800
(爆焔鉄甲 羅針榴弾を装備)
④冽灼の宴陽 ソリグナ ATK2700
(爆焔鉄甲 時計炸弾を装備)
⑤冽灼の深淵 ナムリオ ATK2500

Pゾーン:冽灼の響輪 ヴォルヴ、冽灼の流糸 ネリュス
--------------------------------------------------

「完全に整ったな」
ドモンは口角を軽く上げ、隣のダニエラに話しかける。

「そうだね。いくらモンスターを並べようが、怜央の前には無意味さ」
ダニエラもそれに応えるように笑みを浮かべる。

遊次はフィールドをじっと見つめている。
先ほどまでとは違い、至って真剣な表情だ。
そんな遊次を、灯は隣で伺うように見つめている。


「『爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト)』の効果発動!
オーバーレイユニットを1つ使い、相手フィールドのモンスターを1体破壊する!
クロック・ダイナマイトが装備された『冽灼の宴陽 ソリグナ』を破壊!」

デトネイトが右手を上に掲げると、その腕が炎を纏い、大きな火柱となる。
腕を前に向けると、巨大な炎がソリグナを襲う。
深紅の炎のモンスターは、更に熱く燃える炎によって焼き尽くされ、破壊される。

「さらに、この効果で爆焔鉄甲を装備したモンスターを破壊した時、
もう1枚カードを破壊できる。
コンパス・グレネードを装備した『冽灼の舞姫 ファリナ』を破壊する!」

火柱はU字を描き、ファリナを襲う。
ファリナは悲鳴を上げながら一瞬で焼き尽くされる。


「この瞬間、破壊されたモンスターに装備されていた
クロック・ダイナマイトとコンパス・グレネードの効果を発動!
同じ縦列と隣のカードを全て破壊する!」

破壊されたモンスターの跡に転がった2つの爆弾が、同時に爆ぜる。
その強烈な爆風によって、周囲にいる他のモンスターは破壊される。
譲のモンスターは一瞬にして消え去った。

さらにコンパス・グレネードを装備したソリグナと同じ縦列にある、
譲の伏せカードも爆風に呑まれ破壊される。

破壊される刹那、そのカードが明らかになる。
それは、相手のターンで発動する効果を一切持たないただの通常魔法カードだった。

「(…ブラフだと?
…まぁいい。これで警戒すべきカードは存在しねえ)」

一瞬疑問を抱いたものの、譲のフィールド上には怜央に抵抗できるカードは存在しない。
怜央は手札に残った最後のカードに手を伸ばす。


「君にはあるんだね。僕にトドメを刺す覚悟が」
譲は、まるで戦いの終わりを確信したように、儚げに語り掛ける。

「…当たり前だ」
怜央は真っ直ぐ譲を見つめ答える。その瞳に一切の迷いはない。
自分自身の願いを叶えるためには、真に如何なる犠牲も厭わない。
彼の過去が、彼の背負うものが、彼をそうさせるのだ。

譲は少しだけふっと笑った。


「速攻魔法『爆焔鉄甲加速纏炎(スチームアーミー・ブーストフレイム)』発動!
デトネイトを対象に選択し、このターン2度の攻撃が可能となる!」


■爆焔鉄甲加速纏炎(スチームアーミー・ブーストフレイム)
 速攻魔法
 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドの「スチームアーミー」Xモンスター1体を対象として、
 以下の効果から1つを選択して発動できる。
 ●そのモンスターの攻撃力はそのモンスターのX素材の数×500アップし、
 1度のバトルフェイズに2回攻撃できる。
 また、そのモンスターとの戦闘で破壊されなかった相手モンスターは
 ダメージステップ終了時に破壊される。
 ●そのモンスターはこのターン、戦闘・効果で破壊されず、
 そのモンスターと戦闘を行った相手モンスターはダメージステップ終了時に破壊される。


デトネイトを炎のオーラが包み込む。

--------------------------------------------------
【怜央】
LP3100 手札:0

①爆焔鉄甲 蒸機焼軍 ATK2800 X素材:0 二回攻撃可能
②爆焔鉄甲 堅鉄建兵 ATK1200

フィールド魔法:爆焔鉄甲閉鎖密集地帯

カードの位置:

□■□■□
□□①②□
 □ □
□□□□□
■□□□■

【譲】
LP6000 手札:2

Pゾーン:冽灼の響輪 ヴォルヴ、冽灼の流糸 ネリュス
--------------------------------------------------

「攻撃力2800の2回攻撃に、バリケイド・ビルダーの攻撃力1200。
合計は虹野さんのLP6000を上回ります」

「ってことは、怜央の勝ちってことだね!やったぁー!」
治が瞬時に計算すると、緊張の糸が解けたようにランランが腕を広げて喜びを表す。

「コラ、ちゃんと最後まで見ときな」
ランランはダニエラに咎められながら、怜央にエールを送る。


灯が怜央の勝利に安堵し遊次の方を見ると、
その眼は未だに真剣にフィールドを注視していた。
むしろ先ほどよりも険しくなっているように感じた。


「かかってきなよ、鉄城怜央クン。
君の出した答えの果てに何があっても、後悔がないというのなら」

怜央にとって譲の言葉は、病気である自分自身を盾にした最後の交渉に聞こえた。
自分のせいで譲の病気が治らないという罪悪感を抱かせ、迷いを生じさせるための。

「…俺には脅しも泣き落としも通用しねぇ。
俺には、何を犠牲にしても叶えなきゃなんねえ願いがあるからだ」

怜央は強く拳を握る。その拳には決意が籠っていた。
怜央は指で銃の形を作り、次なる攻撃指令を下す。

譲は俯き、目を伏せていた。

「『爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト)』でダイレクトアタック!」


その瞬間、遊次が、隣にいる灯にしか聞こえない声で、一言だけ呟いた。

「怜央…!」

隣から聞こえた声の方向に灯が目を向ける。

遊次は左手で口元を押さえ、何かに"気付いてしまった"という表情をしていた。
灯はただ、見開いた目で彼を見つめることしかできなかった。


デトネイトの背中から炎が噴き出し、∞の字を描くようにデトネイトを纏う。
デトネイトが拳を強く握り、今にも攻撃を繰り出そうとしたその時。



「手札の『ビックリボー』の効果、発動」

それは、この場の誰にとっても本来、聞こえるはずのない言葉だった。

怜央…そして灯・イーサン。アキトや、チームの者。その他大勢の観客達。
皆が予測不可能な突然の出来事に、ただ目を丸くすることしかできなかった。

ただ1人、遊次だけは別の感情でフィールドを見つめている。
頬には冷や汗が伝う。
まるで"畏怖"の対象であるかのように、
遊次の瞳には、虹野譲が映し出されていた。


怜央は瞬時に譲の顔に目を向ける。
彼の顔は温度を失い、その据わった眼は、ただ敵意だけを怜央に向けていた。


「相手の直接攻撃宣言時、手札のこのカードと、
手札・墓地またはEXデッキの表側のモンスター1体を特殊召喚し、
その2体でシンクロ召喚を行う」

「なん…だと…」
思いもよらぬ展開に、怜央はただ呆然と立ち尽くす。


フィールドに、ビックリ箱から飛び出る小さな悪魔が現れた。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/v7osMuG
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■ビックリボー
 ペンデュラムモンスター/チューナー
 レベル1/光/悪魔/攻撃力100 守備力100 スケール1
 【P効果】
 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドのモンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。
 自分のデッキの上から5枚めくり、その中からモンスター1体を選んでフィールドに特殊召喚する。
 その後、そのモンスターの元々の攻撃力を戦闘を行う自分モンスターの攻撃力に加える。
 【モンスター効果】
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
 手札のこのカードと自分の手札・墓地・EXデッキの表側のモンスター1体を自分フィールドに特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
 その後、このカードと効果で墓地から特殊召喚したモンスターのみを素材としてS召喚を行い、
 そのSモンスターに攻撃対象を移し替える。


「さらにEXデッキの表側から『冽灼の宴陽 ソリグナ』を特殊召喚し、
2体のモンスターでシンクロ召喚を行う」

炎の翼を持つ三つ目のモンスターがフィールドに現れる。
ビックリボーが1つの光の輪へと変わると、その中へソリグナが勢いよく入ってゆく。


「鈍く滾る熱源が、隣り合う力を束ね脈を打つ。
起動せよ、鉄の心臓よ」


「シンクロ召喚。レベル9『冽灼の赫鎧 バルグレン』」


そのシンクロモンスターは、鋼鉄の装甲を備えた重機構の戦闘体。
節々から噴き出す火焔は装甲を伝い、帯状に交差しながら全身を包んでいる。
頭部上部には直立する火柱が揺れ、周囲の熱気を巻き上げている。
両腕には大型の打撃武器が装着されており、振るうたびに火の粉を散らす。


モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/kON7qha
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■冽灼の赫鎧 バルグレン
 シンクロモンスター/ペンデュラムモンスター
 レベル9/火/炎/攻撃力3100 守備力2900 スケール1
 チューナー + チューナー以外の炎属性Pモンスター1体以上
 【P効果】
 このカード名の②のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドのP召喚した「冽灼」モンスターの攻撃力は500アップする。
 ②:自分フィールドのチューナーとチューナー以外の炎族Pモンスターを1体ずつリリースして発動できる。
 このカードをPゾーンからS召喚扱いで特殊召喚する。
 【モンスター効果】
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードの攻撃力は、自分のPゾーンのモンスターの攻撃力分アップする。
 ②:相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを破壊し、破壊したカードと同じ種類の「冽灼」カード1枚を手札に加える。
 ③:このカードが破壊された場合、自分のPゾーンのPカード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを破壊し、このカードを自分のPゾーンに置く。


現れたモンスターの姿に、怜央は悪寒をおぼえた。
鼓動が明らかに速くなっていくのを感じた。

このままではまずい。
しかし、怜央に後戻りする手段はなかった。


「な、なんだこのモンスターはぁ!!
鉄城選手のダイレクトアタックが今にも決まるその刹那に、
強力なシンクロモンスターを呼び出したぁ!!」


「『冽灼の赫鎧 バルグレン』は、Pゾーンのモンスターの攻撃力分、攻撃力が上がる」

頭上にいる2体の炎と水のモンスターが、バルグレンに炎と水のエネルギーを送る。

ATK3100 → 7300

「攻撃力7300…!?」
イーサンが驚嘆の声を上げる。


「さらにビックリボーの効果により、相手の攻撃モンスターは、
このSモンスターと必ずバトルを行わなければならない」

「な…」
観客席の遊次達は、譲の言葉が意味する真実を理解した。


それはすなわち、怜央の敗北だ。


デトネイトは炎を纏った拳でバルグレンへと向かうが、
バルグレンが両手に携えた2本の武器を叩きつけると、デトネイトの機体は一瞬にして崩壊した。

バラバラになったデトネイトの鎧は地面へと落ち、バルグレンはそれを足で踏みつける。
そしてその無機質な顔は真っ直ぐ怜央を向いていた。



怜央は呆然としたまま、デュエル中に感じ取った少しの違和感の正体に気付いた。
そしてそれは全ての点を線で繋ぎ、ある答えへと導いた。


前の譲のターンにP召喚されたモンスターの並び。

あえて作られた"抜け道"。


デトネイトの破壊効果を使用した時、爆弾によって破壊された譲の伏せカード。

ブラフ。
その意図は、爆弾によってPカードを破壊されないための陽動。


譲は全てのモンスターを破壊されたが、Pゾーンは維持された。
そしてその結果、バルグレンがPゾーンのモンスターの攻撃力を集約し、デトネイトを返り討ちにした。


全ては最初から、譲の掌の上だったのだ。

怜央がそれを悟った時には、何もかもが手遅れだった。


「言ったよね。
君の出した答えの果てに何があろうと、後悔しないって」


「君の願いなんて、僕の願いに比べればゴミ同然なんだ」

バルグレンが両手に持った武器を怜央へと振るうと、凄まじき炎熱の衝撃が怜央を襲う。


「ぐあああああああああ!!!!」

怜央 LP3100 → 0



勝負は、決した。

観客も、実況者でさえも、言葉を紡ぐことはできず、会場は静寂に包まれた。

子供達も、遊次達も、まだこの現実を受け入れられず、
時間が止まったかのように、呆然とした表情で静止している。


数秒後、実況者の多口が慌ててマイクに声を吹き込む。


「しょ…勝者、虹野譲!!
ヴェルテクス・デュエリア2回戦第3試合を制したのは、虹野譲ですッ!!」

その声は、一気に観客を現実に引き戻した。

まさかの逆転劇に、会場は歓声と拍手で溢れる。

リアムやミオは、自分達の思いを背負った末に、怜央が敗北したという事実に、涙が止まらずにいた。


灯やイーサン、ドモンとダニエラは、言葉を紡げずにいた。

そんな中、複雑な表情で俯いていた遊次は誰よりも先に顔を上げ、拍手をする。

その姿を見た灯は、今自分がすべきことは何かを理解し、続くように拍手する。
さらにイーサンやアキト…そしてランランや治など数人の子供だけが2人に拍手を送った。

ドモン、ダニエラ、リアム…そして星弥とミオだけは、拍手を送れずにいた。



「ああああああぁあああ!!!」
フィールドに怜央の叫び声が響き渡る。

「クソッ!クソッ!!」
怜央はフィールドに膝をつき、地面を何度も殴りつける。


そして、怜央が恨みが籠った眼差しで見上げると、その姿を譲が静かに見つめていた。

「何をそんなに怒ってるんだ。君には4年後があるじゃないか」
譲の声は侮蔑の感情に満ちていた。

その直後、譲が突如、咳き込み始める。
譲は急いで口元を手で押さえる。

咳が治まると、譲の掌にはべったりと血がついていた。

「お前…」
怜央は目を見開き、彼の病状が想像を上回っていることに気が付く。


「いくらでも挑戦できるのに、ここで終わりみたいな顔してるの…ムカつくんだよ」

地に伏す怜央を車椅子に肘をつき、冷たい目で見降ろす譲の姿は、
さながら、玉座に座す"王"であった。







「クソッ!!」
怜央が選手控え室の壁を思い切り殴りつける。
そこにはNextの3人とチームメンバー、アキトも集まっていた。

「怜央っ!もうやめて!怜央は必死に戦ったでしょ!?」

自分を何度も痛めつける怜央をみかねて、涙ながらにミオが怜央の腕を押さえる。
その腕は怒りの感情に支配され、強く震えていた。


「手札に奥の手があるなんて、誰にもわからないさね。
相手のフィールドがガラ空きなのに、攻撃しない方がおかしいじゃないか」

ダニエラの言葉はただの慰めではなく本音だ。
彼女には怜央の判断が間違っているとは思えなかったからだ。
ただ結果的に、怜央が敗北してしまっただけなのだと、多くの者はそう考えていた。


「違ぇッ!俺は気付けなかったんだ!アイツの仕掛けた罠に!!クソッ…!」

怜央が再び壁を殴ろうとするが、すんでのところで拳を止め、奥歯を噛み締める。

「どういうことだ?」
ドモンが怜央の言葉の真意を問う。


「アイツは最初から、俺がダイレクトアタックする時にビックリボーの効果でS召喚して、
俺をブッ潰す算段を立ててやがったんだ…!
自分の理想の勝利に俺を誘導して、その上で勝利条件を崩さないように…ブラフまで仕掛けてな」

「確かに、譲くんの伏せカードはブラフだったけど…それにそんな深い意味があるのか?」
アキトはまだ怜央の言葉の真意を掴めずにいた。

「もしあのブラフがなきゃ、俺はPゾーンと同じ縦列にいるモンスターに爆弾を巻き付けて爆破してた。
そうなりゃ、アイツのPカードが破壊される。
Pカードが破壊されれば、ダイレクトアタックの時にバルグレンをS召喚しても、
上がる攻撃力は片方のPゾーンにいるモンスターの攻撃力分だけだ。俺を殺すには至らねえ」

バルグレンはPゾーンのモンスターの攻撃力を自身に合算する効果を持つ。
Pゾーンが片方だけであれば、上がる攻撃力も半減することになる。
譲はそれを避けるためにブラフを伏せ、そこに爆弾の破壊を誘導したというのが怜央の見解だ。

「でも、それは結果論だよ!
罠カードとか速攻魔法かもしれない以上、それを破壊するのは間違ってない」
灯は怜央の自責を否定する。

「…それだけじゃねえ。
アイツは2つの爆弾だけで自分のモンスターが全て破壊できるように、
あえてモンスターの並びに"間違い"を仕込んだ」

「間違い?」
治は自前のノートを開き、最終盤面の状況を振り返る。

「これがフィールドを全て破壊される前の、虹野さんのフィールドですね」

「いや、その1つ前だ」
遊次が横からノートの前のページを開く。
彼は怜央の意図を把握しているようだ。

--------------------------------------------------
【譲のフィールド】
 ① □
②③④⑤⑥
■□□■■

①冽灼の織灘 ルナイラ ATK2400
②冽灼の爆腕 バリウ ATK2200
③冽灼の舞姫 ファリナ ATK1800
④冽灼の環紗 ネアス ATK1500
⑤冽灼の宴陽 ソリグナ ATK2700
⑥冽灼の深淵 ナムリオ ATK2500
--------------------------------------------------

「これは…虹野がターンエンドした時の盤面だ。
これの何が間違いなんだ?」
ドモンはノートを凝視するが、怜央の言葉の意味を理解できずにいた。


「ソリグナは自分のモンスターをリリースして、相手のモンスター効果を無効にできる。
譲のターンでも怜央のターンでも、リリースされたのは決まって
『冽灼の環紗 ネアス』だった」

怒りに支配された怜央に全て説明させるのは酷だと判断した遊次が、代わりに言葉を紡ぐ。

「攻撃力も低いし、確かフィールドで使える効果もなかったはずだから、当然だな」
イーサンもノートを見ながら説明を補足する。

「そうだよな。つまり、譲の中でもリリースするとしたらネアスの一択。
それなら、このモンスターの配置には"ミス"がある。
怜央のデッキの特性を知っている譲からすればな」

遊次が説明を続けるが、未だ誰も答えに辿り着けていなかった。


「治、ペン貸してくれるか?
…例えば、もしネアスとファリナを別の位置にしたとして…」

遊次が治のノートの新しいページに、ネアスとファリナを入れ替えた図を描く。

--------------------------------------------------
 ① □
②③④⑤⑥
■□□■■

①冽灼の織灘 ルナイラ ATK2400
②冽灼の爆腕 バリウ ATK2200
③冽灼の環紗 ネアス ATK1500
④冽灼の舞姫 ファリナ ATK1800
⑤冽灼の宴陽 ソリグナ ATK2700
⑥冽灼の深淵 ナムリオ ATK2500
--------------------------------------------------


「この状態でネアスをリリースすると、こうなる。何か気付くことはないか?」
遊次はノートに描かれた盤面のネアスに×印を描く。

--------------------------------------------------
 ① □
②□③④⑤
■□□■■

①冽灼の織灘 ルナイラ ATK2400
②冽灼の爆腕 バリウ ATK2200
③冽灼の舞姫 ファリナ ATK1800
④冽灼の宴陽 ソリグナ ATK2700
⑤冽灼の深淵 ナムリオ ATK2500
--------------------------------------------------

灯はようやく怜央と遊次の言葉の意味を理解した。

「この並びだったら…怜央は2つの爆弾で、譲くんのモンスターを全て破壊できない…」

「もし最後の怜央のプレイ通りに、デトネイトを呼び出した後、
墓地のエクスプロージョン・フォースで相手に爆弾を2つ装備させても、必ず1体は残ることになる。
爆弾は隣り合うカードしか破壊できないからな」

灯とイーサンの解説によって、ドモンとダニエラ、治も合点がいったように頷く。

「あの野郎は、わざと俺の有利になるようにモンスターを並べやがったんだ。
自分のモンスターを全て破壊させて、俺に"確実に"ダイレクトアタックさせるためにな」
怜央の心を、再び怒りが侵食してゆく。

「いくらなんでも、そこまで思いつくかな。ただのミスって可能性も…」

「あれは間違いなく罠だ!
Pカードを破壊させないために、迷いなくブラフを仕込めるヤツだ…そんなヘマはしねえ!」

怜央が感情を露わにしてアキトの言葉を否定する。
仮に怜央の話が真実だとしても、それを瞬時に頭の中で組み立て実行するなど、
アキトには到底不可能に思えた。だが、それが"頂点"に挑む者達のレベルなのだと実感した。


「譲はそれをやってのけたんだ。露骨に隙を作れば罠だと勘づかれるから、
適度に相手を妨害する効果を使ったり、モンスターに耐性を与えながら、
それでも怜央がギリギリこじ開けられるレベルの盤面を作った。
虫が通れる程度の穴だから、それが罠だとは誰も気付かねえ」

遊次は噛み締めるように言葉を紡ぐ。
一同は、これを誰の手助けもなく瞬時に理解できた怜央や遊次のレベルの高さを痛感した。
それと同時に、これを仕組んだ譲の狡猾さと底知れなさも。

「仮に盤面を突破できなきゃ、それはそれでいいってわけかい。
じゃあ…どうしたらよかったのかね」

ダニエラの言葉に、誰も答えることはできなかった。
仮に罠だと気付いたところで、果たして譲に勝つ手段はあったのだろうか。


「…すまねえ、お前ら。
お前らの願いを背負うなんてほざいておいて、俺は…ッ!」

怜央の中で、悔しさが更に湧き上がり、言葉を詰まらせる。
子供達は初めて、自らの弱さを吐露する怜央を見た。

「何言ってんだよ兄貴!!」

リアムは咄嗟に声を上げる。
自分でも頭の中がまとまっていないが、それでも感情に身を任せて言葉を吐き出してゆく。

「ちょっと前まで、まともな家もねーし、飯もなかったのに…
今は皆と当たり前に暮らせてるんだぞ!!誰のおかげだと思ってんだよ!」

「リアム…」

8か月前の遊次と怜央の決闘後、真っ当な道を歩めるように、
怜央はNextで仕事をして、ドモンやダニエラも身を粉にして働いた。
裕福ではないながらも、今や子供達の暮らしは前よりも格段に豊かになっている。

「ランランも、今、すっごく楽しいよ!
ドロボーしなくても、おいしいものって食べれるって、ランラン初めて知ったよ!」

「俺も、ようやく学校に行けるようになったんだ。少し前じゃ考えられなかった。
人生に光が見え始めてきたんだよ、怜央さん」

ランランと星弥も、続いて心の内を吐露する。
彼らは、怜央の敗北に絶望など抱いていなかった。

確かに、この大会は自分達の今後をも左右するものだった。
不安を抱えていたのも事実だ。
しかし、怜央が敗北することで初めてわかったこともある。
それは。


「私、いま、幸せだよ。だから、元気出して。
怜央が笑ってなきゃ、私たちも笑えない」

ミオがまっすぐ怜央の目を見て思いを伝える。

「お前ら…」
怜央は自分の中から湧き上がる様々な感情を、必死に抑えようとした。
いくら子供達が大丈夫だと言おうと、自分の中の怒りや悔しさは消えない。
感情の行き場が見当たらなかった。


「オラ、ミオ様のお達しだ!笑いやがれ!」
突然、ドモンが怜央の頬を無理やり引っ張り始める。

「いっへぇ!!へめえ、はひひやはる!」
怜央は抵抗の意思を見せるが、頬を引っ張られているせいでこの有様だ。

「…ハハハ!怜央、変な顔!」
トーマスが我慢できずに噴き出す。

「へめえ、ほぉまふ!」

「何言ってるかわかんないよ~!」
リクもつられて怜央をからかい始める。

怜央がドモンの手を無理やり振り払い、顔を歪めて自分の両頬を撫でている。
ドモンの思わぬ奇襲によって、敗北の無念にまみれた空気が弛緩した。

遊次と灯、イーサンは顔を見合わせ、笑みを浮かべる。

「怜央、俺がなんのためにお前をNextに誘ったと思ってんだよ。
お前の願いは、俺らと、お前で叶えるんだ!」

遊次は右手を怜央の胸に押し当て、凛とした表情で宣言する。

数秒の間の後、怜央もそれに応えるように、真剣な表情になる。
すでに、迷いは吹っ切れたようだ。

「勝てよ、遊次。テメェまで負けたら承知しねえ」

「…あぁ!」


選手控室を出たその時、目の前に車椅子に乗った青年が通りがかった。虹野譲だ。
一瞬、時が止まったように静寂が訪れる。


「君と当たるのは決勝戦だね、神楽遊次クン」

譲は車椅子から遊次を見上げ、余裕そうな笑みを浮かべる。

「あぁ。必ず勝つぜ」
遊次は毅然と言葉を返す。しかし、譲はゆっくりと首を横に振る。


「君には無理さ。
君はまだ、僕に勝つということがどういう意味か、理解していないだろう。
それとも…無意識に気付かないフリをしてるのかな」

「どういう意味だよ」
譲の意味深な言葉に遊次は苛立ちを見せる。


「君も聞いてたよね。僕は病気で、歩くことができない。
治すためには、一般まで下りてきていない治療を受けるしかない。
だから、この大会で戦ってる」

「…」
遊次は何故かすぐに返事をできずにいた。
気付かないフリをしているという言葉の真意の先に、嫌な予感を覚えたからだ。


「僕はこの病気のせいで、あと1年しか生きられない。
もしこの大会で負ければ…僕は死ぬ」

「なっ…」
遊次は絶句した。後ろでは怜央が目を伏せている。


「君が願いを叶えるためには、僕を殺さなければならない。
君には…その覚悟があるのかな」

遊次は立ち尽くす。
誰も、言葉を発することができなかった。


「…決勝で会えるといいね、神楽遊次クン」

譲は車椅子を転がしながら、建物の外へと向かった。
まもなく、次のトーナメントが発表されるためだ。


「…俺らも行くぞ、遊次」
イーサンが遊次の肩に手を置く。

「……あぁ」
遊次の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
考えを全く整理できないまま、遊次達は広間へと向かった。



「2回戦の全ての試合が終了しました…。
これから、準決勝の組み合わせが発表されます」

実況者の多口は、前髪が目元まで下りた完全にオフの状態へと戻っている。
2回戦の第4試合は、怜央と譲のデュエルとは別のフィールドで行われたため、
これにて2回戦が全て終了したこととなる。

大画面に、次なるトーナメントが映し出される。

トーナメント:ttps://imgur.com/a/rIKAlfM
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


遊次はトーナメントを呆然とした目で眺めている。
やはり未だ心ここにあらずのようだ。


「遊次の相手は…珊玲(シャンリン)さんだね」

「4年前の再演ってわけか」

灯とイーサンの言葉には「やはり上がってきたか」という意味が込められている。
シャンリンは、4年前の大会のドミノタウン予選で、遊次と決勝戦で戦った相手だ。
今回の大会も遊次と同様、シード枠で参戦した選手になる。


「…譲の言う通り、俺は見て見ぬふりしてたんだ。
俺は、どうすれば…」

俯く遊次に、怜央があからさまな苛立ちを見せる。
それを察したイーサンが、すかさず遊次に声をかける。

「考える時間ならいくらでもある。今日は帰るぞ。
まだまだ若いんだ、悩め悩め!」

イーサンは無理に明るい空気を出し、遊次の背中を叩く。

「お、オッサンがオッサンぽいこと言ってるじゃねえか」

「ん?もう1回言ってくれるかな?オジサン耳が遠くてねぇ…」

ドモンの軽口に助けられる形となり、
遊次の精神面に明確な課題を抱えながらも、一同は帰路へつくこととなった。



その後ろ姿を、シャンリンは鋭い目で見つめている。

キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/PcgqjpN
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

「(いまさら気付き始めても遅いのよ。
この4年間、私がどんな思いで過ごしたか…あなたには理解らない)」


遊次の願いの前には、大きな障壁が立ち塞がった。
怜央を罠へと陥れ、圧倒した強敵「虹野譲」。

そして、彼を倒して本戦へ上がることは…
彼の命を奪うに等しいことを、遊次は思い知る。


準決勝は1週間後だ。覇気を失った遊次は、
次なる強敵「シャンリン」を相手に、勝利することができるのだろうか。



【隕石衝突まで…残り286日】



第39話「玉座」 完




譲の言葉について自問自答を続ける遊次だが、未だ答えは見つからない。
そんな中、Nextにある依頼が舞い込む。
それは、とある企業の社長からの依頼だった。

探偵「伊達アキト」の協力を得て、正体不明の裏カジノを突き止めるため、
Nextの4人は力を合わせて奔走する。

報酬額はなんと、数千万サーク規模。
この依頼を成功させれば、チームの子供達を真っ当な道へ導くことができる。

しかし、その果てには狡猾な裏組織との対立が待っていた。

「…君達には、話しておかなければならないな。俺の秘密を」


次回 第40話「"億"が動く裏世界」
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