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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第20話:To The Next

第20話:To The Next 作:

----------------------------------------------------------------------------------------------------------
【怜央】
LP4400 手札:1

①爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード) ATK3000 X素材:3
②爆焔鉄甲 煙機関車(レイル・エクスプレス) ATK2000 X素材:0
③爆焔鉄甲 溶解兵長(メルト・コーポラル) ATK2100

カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
 ①  
□②③□□

フィールド魔法:1


【遊次】
LP3100 手札:2

①妖義賊-美巧のアカホシ ATK4300
②妖義賊-山嵐のユライ DEF2400
③爆焔鉄甲 炉衛生兵(ファーネス・メディック) ATK1300
④爆焔鉄甲 灼狙撃兵(バーン・スナイパー) ATK1800

カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
 □  
□①②④③
◆□□□▲

Pゾーン:◆妖義賊-雲龍のリヘイ、▲妖義賊-舞蛇のキク
----------------------------------------------------------------------------------------------------------

怜央の真の切り札「爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト)」によって窮地に追い込まれた遊次は、
ペンデュラム召喚によって圧倒的な防御力を誇る盤面を作り上げる。

怜央のターン、遊次のモンスターに爆弾を装備し破壊の連鎖を行おうとした時、
遊次の手札の「妖義賊-悪戯好きのオイレンシュピーゲル」によって、相手モンスターとの位置を入れ替え、
怜央のフィールドで爆発を連鎖させ「蒸機焼軍(デトネイト)」を破壊することに成功する。

しかし復活した「炎機公子(エクスプロード)」は速攻魔法によって攻撃力を上げ2回攻撃を可能とし、
Unchained Hound Dogsは怜央の勝利を確信する。


遊次「…それがお前の全力ってわけか。…かかって来いよ。
お前の怒りをこの町の人達にぶつけることは許さねえ。だから、俺が全部受け止めてやる。
その上でお前を越えて、新しい道を示す」


怜央「…お前を力で捻り潰せなきゃ、腐ったこの町をぶっ壊すことなんてできねえ。よくわかったぜ。
お前を越えて、俺達が正しかったことを証明してやる」

怜央には最初から見えている道が1つしかなかった。そしてその道には高い壁が聳え立っている。
高い壁とは遊次のことだけではなく、この町という存在そのものであった。
この町が怜央達を縛り、足枷となっている。
それを完膚なきまでに叩き潰すことが、怜央にとって壁を壊すということだった。

暫し静寂が訪れる。それは嵐の前の静けさであり、この後の激戦を予感させる。

怜央「…バトル!
『爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)』で『妖義賊-山嵐のユライ』を攻撃!」

ついにバトルが始まる。
相手から奪ったカードがある時、「山嵐のユライ」以外には攻撃できないため、
怜央はまずここを崩しにかかる。


怜央「結局、どこまで行ってもテメェが言ってるのは綺麗事だ!
新しい道だ?『コラプス』が!『エデン』が!俺にこの道を歩かせてるんだろうが!
あんなことが起きなきゃ、好きでこんな道歩いてねえ!」

「炎機公子(エクスプロード)」は激しく燃える炎を纏い、それを拳に集中させる。
怜央はモンスターの攻撃に自らの言霊を乗せる。


遊次「…わかってるよ。過去がお前を縛り付けてるってことは。
だけど、未来から目を背けてたら…お前も、お前の仲間も幸せにはなれねえ!
今のお前は考えるのをやめて、立ち止まってるだけだ!」

遊次は怜央の言葉を真っ向から受け止め、自らの思いをぶつける。
「炎機公子(エクスプロード)」は炎を纏った拳で「山嵐のユライ」を攻撃する。


遊次「『山嵐のユライ』は相手から奪ったカードの数だけ破壊を無効にできる!
お前から奪ったカードは2枚あるため、このターン2回破壊されない!
1度は『蒸機焼軍(デトネイト)』から破壊効果を受けてるが、あと1回破壊を回避できる!」

ユライは襲い掛かる猛攻に巨大な斧で応戦し、なんとかその攻撃を押し返す。
しかし「炎機公子(エクスプロード)」が纏っている巨大な炎のオーラが山嵐のユライに襲い掛かる。

怜央「速攻魔法『爆焔鉄甲加速纏炎(スチームアーミー・ブーストフレイム)』の効果!
戦闘で相手を破壊できなかった時、そのモンスターを破壊する!
これで3度目の破壊だ!」

業火がユライを襲う。幾度と攻撃を耐えてきたが、耐えきれずにその身は焼かれ、ついに破壊される。

ドモン「…来た!『炎機公子(エクスプロード)』にはあと1回攻撃が残ってる!
アイツのフィールドの『炉衛生兵(ファーネス・メディック)』を攻撃すれば、
ダメージは3200…アイツのライフは0だ…!」

誰の目にも明らかな勝利の兆し。Unchained Hound Dogsは完全に勝利を確信する。

怜央「…」
しかし怜央だけは何も言わなかった。ただ遊次を見つめ、次なる行動を何度も思案する。
数秒の間が空いた後、怜央はバトルを続行する。

怜央「『炎機公子(エクスプロード)』は速攻魔法により2回の攻撃が可能!
『炉衛生兵(ファーネス・メディック)』に攻撃!」


灯「遊次っ…!」
イーサン「…」
灯とイーサンにも緊張が走る。
ドミノタウンの皆を元気にするという夢が早くも潰えるかもしれない。
灯は両手の掌を合わせて握りしめ、ただ願うことしかできなかった。

リアム「行けぇええーーー!!」
長きに渡るデュエルもこれで終焉すると確信したリアムは、トドメの一撃を後押しする。

しかし。


遊次「…墓地の『妖義賊-悪戯好きのオイレンシュピーゲル』の効果発動!
ミスティックラン、または相手から奪ったモンスターが攻撃対象となった時、
このカードを墓地から除外することで、攻撃対象を変更できる!

俺は攻撃対象を『妖義賊-美巧のアカホシ』に変更する!」

ダニエラ「……なんだって…!」
ミオ「そんな…!」

何が起きたか把握しきれず、Unchained Hound Dogsの面々はあっけに取られる。
ただし怜央を除いては。
遊次の墓地のカードの効果を知っていた怜央はこうなることをわかっていたのだ。

「炎機公子(エクスプロード)」が「炉衛生兵(ファーネス・メディック)」を攻撃しようと拳に炎を纏って迫るが、
その前にキラキラとした光を纏った「オイレンシュピーゲル」が現れ、掌を前に出す。
すると「炎機公子(エクスプロード)」の攻撃は停止する。
「オイレンシュピーゲル」が右手の人差し指をくるくると回して「美巧のアカホシ」の方向を指し示すと、
「炎機公子(エクスプロード)」はそれに従ってアカホシに攻撃対象を変更する。

アカホシは腰から長刀を抜き「炎機公子(エクスプロード)」の攻撃を受け止めるが、
わずかに攻撃力が上回る「炎機公子(エクスプロード)」の一撃を耐えきれずに破壊される。

遊次 LP3100 → 2900

勝利を確信したにも関わらず予想しない一手によって簡単に攻撃をあしらわれ、遊次は2900ものライフを残している。
まだ状況を掴み切れず辺りには束の間の静寂が訪れる。


イーサン「怜央は攻撃対象がアカホシに変えられることを知ってたはずだ。
だが『炎機公子(エクスプロード)』の効果でアカホシを破壊しようにも、
X素材を1つ使うと攻撃力が200ポイント下がってアカホシと同じになってしまう。それでは意味がない」

灯「アカホシは自分より攻撃力が高いモンスターの効果しか受け付けないから、
『炎機公子(エクスプロード)』の攻撃力がアカホシと同じになっちゃったら破壊できないってことだね」

イーサン「あぁ。たった数百ポイントの差が生死を分けてる。
お互い思いをぶつけあいながら、2人とも脳みそはフル回転してるはずだ。
並のデュエリストならどこかでミスをしててもおかしくない」

2人とも幼い頃からデュエルを研鑽し続けた実力者だからこそ、フィールドを崩されても冷静に立て直し、
勝機を見極め、可能な限り敗北の芽を摘んでいる。
一方的な戦いにならないのは、どちらのデッキもがデュエリストに応えようとしているためだ。
カードに愛されたデュエリストであるからこそ、戦況を変えるカードを引き当てることができるのだ。


リアム「で、でも…まだ怜央の兄貴にはモンスターが2体残ってる!このまま押し切れば勝てるはずだ!」

怜央のフィールドにはまだ攻撃力2000以上のモンスターが2体。
半面、遊次のフィールドには高い壁であったアカホシとユライという2体のモンスターが破壊され、
怜央から奪った下級モンスター2体のみが、攻撃表示で残っているに過ぎない。
1度勝機を逃したとはいえ、盤面的には怜央が圧倒的有利であることには違いなかった。


怜央「『爆焔鉄甲 煙機関車(レイル・エクスプレス)』で、
お前の『炉衛生兵(ファーネス・メディック)』を攻撃!」

鋼鉄の機関車が白煙を噴き上げ大きな車輪を回転させる。
回転は回数が上がるごとに速度を増してゆく。
その姿はまるで、遊次を仕留めきれなかったことでボルテージを上げてゆく怜央の怒りを体現しているようだった。


遊次「奴隷として売られて、でもひたすらデュエルを磨いて、自力で自由を勝ち取った。
同じような境遇の奴らと支え合って…その時には生きていくために盗みも必要だったんだろ。

でも…今のお前は違う。
今まで積み重なってきた怒りに任せて、一方的に力で支配しようとしてるだけだ。
それじゃ…お前を奴隷として支配してたオヤジと何が違ぇんだよ!」

その瞬間、怜央は目を見開き怒りを露にする。

怜央「テメェ、言っちゃいけねえことを言いやがったな…!
ふざけんじゃねえ!! 俺らはこの町に"奪われた"人間だ!
だから奪い返す!ただそれだけだ!
二度と奪われねえように!俺達が生きるためにだ!」

怜央の感情に呼応して、機関車は発進し、高速で遊次のモンスターへと猛進してゆく。
『煙機関車(レイル・エクスプレス)』は速度を落とさぬままモンスターを轢き潰し、一瞬にして破壊する。

遊次「ぐっ…!」
LP 2900 → 2200

そしてターンをして速度を緩めると、再び怜央のフィールドへと停車する。
怜央は止まぬ怒りに身を任せ、一切の間を与えずバトルを続ける。

怜央「『爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)』の効果発動。
1ターンに1度、相手モンスターを破壊できる。
お前のフィールドの『灼狙撃兵(バーン・スナイパー)』を破壊する!」

「炎機公子(エクスプロード)」が右腕のバーナーから炎を噴射し遊次のモンスターを焼き尽くす。
モンスターは破壊され、遊次のフィールドはついにガラ空きとなる。


怜央「…」
遊次「…」
激しい攻防に両者は息を切らしながら視線を交わす。


遊次「本当に大切にすべきものが何か、お前はとっくに気づいてるはずだ。
今のお前の進む道の先に、子供達の…リアムやミオの幸せがあるって本当に思ってんのかよ!」

突然名前を呼ばれたリアムやミオはドキリとする。
怜央は言い返そうとしたが、うまく言葉を紡ぐことができず1秒ほど間ができる。
その間に思わずリアムが遊次に返答をした。

リアム「俺らは好きで怜央の兄貴についていってるんだ!
お前なんかにどうこう言われたって、やめるつもりはねーぞ!」

ミオ「…私たちの居場所は、ここにしかない。ここにいるためなら、私は何だって…」
リアムにつられてミオも本心を打ち明ける。

遊次「お前達にとってチームが唯一の居場所なのはわかるぜ。
俺もお前達の居場所を壊すつもりはねえ。むしろ守りたいと思ってるんだ。
だからこそ怜央を止めなきゃならねえ!」

遊次「お前ら、本当に町に落書きしたり、人から物を奪うのが正しいって思ってんのか!?
怜央に言われるからそうしてるだけじゃねえのか!?
お前達の怒りを背負ってくれたから…お前達にとってそれが初めてのことだったから…
だから怜央を否定したくねえだけなんだろ!」

遊次はリアムとミオに直接問いかける。
このデュエル中に一度、リアムやミオの言葉が怜央の心を動かしたことを遊次はわかっていた。
彼らの心からの言葉こそが怜央に新たな道を示すのに必要だと遊次は感じていた。

リアムとミオは直接自分達に対してこれほど強い思いをぶつけてくる人を知らなかった。
彼が自分達にとって悪意がないということは心ではわかっていた。
そして、彼の言葉が核心を突いているということもどこかで理解していた。
それでも怜央が負けるところを見たくなかった。自分達を心の底から理解してくれるのは彼だけだと思っていたから。
その狭間で心が揺れ動き、どう答えればいいかわからなかったのだ。


遊次「答えろよリアム、ミオ!
お前らは本当にこの町を1度ぶっ壊さなきゃいけないって思ってんのか!?
お前らはただ…居場所がほしいだけなんじゃないのか!?」

リアム「お、俺は…。俺は……ただ…」

怜央「やめろ!!」

リアムが何かを口にしようとした時、怜央が叫びそれを制止する。

怜央「俺とのデュエルはまだ終わってねえぞ…!外野と勝手に喋ってんじゃねえ!」

遊次「……」
怜央の制止によってリアムとミオは言葉を引っ込める。
しかし、リアムが言いかけていたことを怜央も本当は理解しているはずだと遊次は確信していた。
行くべき道の1歩目だけでも見えるようになれば、後は怜央の心に宿る復讐心を別の方向へと向けるだけだ。

怜央「テメェのフィールドはガラ空きだ。
『爆焔鉄甲 溶解兵長(メルト・コーポラル)』でダイレクトアタック…!」

「溶解兵長(メルト・コーポラル)」は左腕の溶接トーチを使い高温の炎で鉤爪を熱する。
鉤爪はオレンジ色に変色し、炎を宿す。
怜央が拳を握り右手を突き出すと『溶解兵長(メルト・コーポラル)』は鉤爪を構え遊次へと向かっていく。
右手を突き出し鉤爪を遊次に突き出すと、それは遊次にダイレクトに刺さる。

灯「遊次っ…!」
灯はその痛々しい光景に思わず叫ぶ。


遊次「ぐっ……っ…!」
LP 2200 → 100


ダニエラ「残りライフ…100…」

敵も味方もその数値に目を丸くするほかなかった。
遊次のライフは死に最も近い数値を叩き出している。
しかし、削り切れなかった。
少ない手札からカードを繋ぎ、圧倒的な攻撃力を擁するフィールドを作り上げた。
遊次のフィールドを壊滅させ、高い攻撃力による直接攻撃も食らわせた。
それでも削り切れなかったのだ。

怜央「………クソッ…!!」
怜央は攻撃の指令を下した右手を下すことができず、そのまま俯き奥歯を噛み締める。
相手のライフは風前の灯火だが、しかし確実に一命を取り留めていた。
全身全霊の攻撃とありったけの怒りをもってしても殺し切れなかった事実に、怜央は悔しさを滲ませる。

ドモン「…圧倒的有利だってのになんてツラしてんだ、怜央。
とっとと前を向きやがれ。お前には次のアイツのターンを完封できる手が十分にあるはずだ」

ドモンが怜央の隣に立ち肩を叩く。
怜央は自分よりも一回り大柄なドモンの顔を見上げ、段々と冷静さを取り戻してゆく。


怜央「完封できる手…か。確かにその通りだ。
負けるはずがねえ…」

怜央は手札の1枚のカードを見つめ考えを巡らせる。

怜央「(『爆焔鉄甲爆裂閃光(スチームアーミー・バーストフラッシュ)』…
相手の魔法・罠カードの効果を無効にするカード…)」

怜央「(俺が一番警戒すべきはアイツの切り札…『妖義賊-ゴエモン』の『味方全員に対象耐性を付与する』効果だ。
あの時は『蒸機焼軍(デトネイト)』の効果無効によって対処できたが、今はそうじゃねえ。
なら、儀式魔法を止めることで『ゴエモン』を召喚させなければいい。
アイツの手札は『ゴエモン』と『儀式の予告状』の1セット…。
つまりどう考えてもゴエモンに頼るしかねえ状況だ。それさえ止めちまえば…あいつに逆転の手はねえ!)」

怜央はライフを削り切れなかった悔しさを振り払い、次のターンの勝ち筋を思案する。

怜央「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

怜央がターン終了を告げたその時、遊次が割って入る。

遊次「ターン終了時、墓地の罠カード『妖義賊の秘技』の効果発動。
自分フィールドにモンスターがいない時、このカードをフィールドにセットできる。
ただし次にフィールドを離れた時には除外される」


遊次がセットしたのは相手フィールドのモンスターを1体奪う罠カード。
遊次のガラ空きのフィールドを救う命綱となるカードだ。


怜央「(アイツのフィールドをガラ空きにすればあの罠カードがセットされるのはわかってた。
次のターンに俺のモンスターが奪われるが、それでもアイツのライフを削る方が優先だ。
アイツのライフはたった100…俺のターンが回って来た時点で勝ちも同然。
それに、少なくとも『炎機公子(エクスプロード)』は対象に取られねえ。
ならリスクを承知でもライフを削る方がいい。肉を切らせて…なんとかって奴だ)」


怜央のターンは終了した。
速攻魔法で攻撃力を上げた「炎機公子(エクスプロード)」は、その攻撃力を保っている。
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【怜央】
LP4400 手札:0

①爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード) ATK4300 X素材:2
②爆焔鉄甲 煙機関車(レイル・エクスプレス) ATK2000 X素材:0
③爆焔鉄甲 溶解兵長(メルト・コーポラル) ATK2100

カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
 ①  
□②③□□

フィールド魔法:1
伏せカード:1

【遊次】
LP100 手札:2

カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
 □  
□□□□□
◆□□★▲

★伏せカード:1
Pゾーン:◆妖義賊-雲龍のリヘイ、▲妖義賊-舞蛇のキク
----------------------------------------------------------------------------------------------------------

遊次「(怜央にターンが回れば残りライフ100じゃ耐えきれねえ。
…このターンで勝負をつける)」

遊次「(ただ倒すだけじゃダメだ。
ここでアイツの…いや、アイツらの人生を変えてみせる)」

チームを変えてみせるという決戦前夜からの決意は未だ揺るがない。
それはあの時から遊次にそう思わせる何かを怜央が持っていたからだった。
ただの倒すべき敵ではなく、デュエルを通して本気でぶつかりたいと遊次自身がそう望んだのだ。


遊次「俺のターン、ドロー!」
必ず勝たなければならない、遊次にとっての最期のターンが始まった。
ドローしたのは「俊足のジロキチ」。
前のターンで「山嵐のユライ」の効果で墓地からデッキトップに戻したカードだ。


遊次「EXデッキで表側となっている『美巧のアカホシ』の効果発動!
自分のPゾーンにカードが存在する時、EXデッキからこのカードを手札に加える」

遊次「手札から『妖義賊-俊足のジロキチ』を召喚!
召喚時効果によりデッキから『妖義賊-助太刀のサルバトーレ』を手札に加える」

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/6MJzyaS
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


遊次「罠カード発動『妖義賊の秘技』。相手モンスター1体を奪う!
俺はお前のフィールドの『溶解兵長(メルト・コーポラル)』を奪うぜ」

遊次は前のターンにセットしていた罠カードを使用する。
怜央の伏せカードは魔法・罠カードを無効にする罠カードであるが、遊次の罠カードにはチェーンしない。
怜央は奪われゆく自分のモンスターを見つめながら考えを巡らせる。

怜央「(ここまでは想定通りだ。
この後、奴は手札の儀式の予告状を使用し、
Pゾーンの『雲龍のリヘイ』の効果で除外することで、儀式召喚を行うはず。
『俊足のジロキチ』と手札の『美巧のアカホシ』をリリースして儀式召喚すれば、
相手のフィールドにはゴエモンと俺から奪った『溶解兵長(メルト・コーポラル)』が並ぶ。
つまり俺から奪ったカードがあることで、ゴエモンの対象に取られない効果の条件を満たし、
俺の爆弾を対策できるってわけだ)」


怜央「(だが…俺の伏せカードは相手の魔法・罠の効果を無効にするカード。
さらに墓地の『爆焔鉄甲地雷原(スチームアーミー・マインフィールド)』を除外することで、
相手ターンに除外されている2体の『スチームアーミー』を特殊召喚すれば、再び爆弾を装備する布陣が整う。
奴の儀式召喚さえ止めれば、そこからどう足掻こうが俺の爆弾の餌食だ…!)」

怜央の伏せカードは前のターンで「煙機関車(レイル・エクスプレス)」の効果で手札に加えたものであり、
その効果は遊次も把握している。
だがそれでも遊次のリソースには限度があるため、儀式召喚に頼らざるを得ないと怜央は考えた。
罠カードと爆弾さえあれば相手の行動は全て潰せるため、遊次は破滅の道を進むしかないというのが怜央の試算である。

遊次は数秒の間無言となり、考えを巡らせているように見える。
そしてその後、意を決したようにプレイを続行する。

遊次「俺は手札の『儀式の予告状』を発動」

予告状カードは発動から2ターン後に除外されることで効果を発揮するため、発動時は何も起きない。
しかし遊次はこの発動後も再び数秒の間を空ける。
予告状カードは墓地から除外されることで真価を発揮するため、発動時点では意味を持たない。
しかしこの間はまるで、
ここで怜央が間違って罠カードの発動をしないかと伺っているようだと、怜央は感じた。
遊次の1つ1つのプレイが重い。
やはりそれは儀式召喚に頼らざるを得ないが、儀式召喚が無効になることをわかっているからこそだと怜央は確信した。

遊次「…Pゾーンの『妖義賊-雲龍のリヘイ』のP効果発動。
手札の『助太刀のサルバトーレ』を捨て、墓地の『儀式の予告状』を除外する」

遊次「そして『儀式の予告状』の効果発動!
このカードが除外された時、儀式召喚を行う!」

怜央「そうはさせねえ!
罠カード『爆焔鉄甲爆裂閃光(スチームアーミー・バーストフラッシュ)』!
『スチームアーミー』がフィールドに存在する時、相手の魔法・罠の効果を無効にする。
『儀式の予告状』を無効化!」


■爆焔鉄甲爆裂閃光(スチームアーミー・バーストフラッシュ)
 通常罠
 このカード名の①②の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
 ①:自分フィールドに「スチームアーミー」モンスターが存在する場合、
 相手が魔法・罠カードの効果を発動した時に発動できる。その効果を無効にし破壊する。
 ②:フィールドの「スチームアーミー」モンスターを装備したモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを破壊する。


儀式の予告状は不発となり、怜央の想定通りの結果となった。
そして怜央はこの後の遊次の動きも推測していた。

遊次「…手札の『美巧のアカホシ』の効果発動。
除外されている『予告状』をデッキに戻してこのカードを特殊召喚し、
戻した予告状の数×500攻撃力をアップする」


再び遊次のフィールドに赤い着物を着た鳳凰の頭を持つモンスターが姿を現す。
先ほど除外された儀式の予告状をデッキに戻して特殊召喚したことで、その攻撃力は2800となる。
------------------------------------------
【遊次のフィールド】
①妖義賊-俊足のジロキチ
②爆焔鉄甲 溶解兵長(メルト・コーポラル)
③妖義賊-美巧のアカホシ

モンスターの位置(□はカードが置かれていない場所):
 □  
□①③□②
------------------------------------------

遊次「Pゾーンの『雲龍のリヘイ』の効果発動。
このカードをデッキに戻し、他の『妖義賊』PモンスターをPゾーンに置く。
俺は『妖義賊-誘惑のカルメン』をPゾーンに置くぜ」


「雲龍のリヘイ」がPゾーンから姿を消し新たなモンスターが頭上に姿を現す。
そのモンスターは紫のローブを羽織り顔をベールで覆っている妖艶な大人の女性のモンスターだ。
黒の口紅を施した唇でニヒルな笑みを浮かべている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/dwkEFaw
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

遊次「『誘惑のカルメン』のP効果を発動。
『ミスティックラン』モンスターをリリースして、デッキから『ミスティックラン』を特殊召喚する」


■妖義賊-誘惑のカルメン
 ペンデュラムモンスター
 レベル5/闇/魔法使い/攻撃力2000 守備力1900 スケール2
 【P効果】
 このカード名の①②のP効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
 ①:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター1体をリリースして発動できる。
 デッキから「ミスティックラン」モンスター1体を特殊召喚する。
 ②:相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを自分の手札に加える。
 【モンスター効果】
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分の墓地のモンスター1体と相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
 対象の自分の墓地の「ミスティックラン」モンスターを相手フィールドに特殊召喚し、
 対象の相手フィールドのモンスターのコントロールを得る。
 ②:このカードが「ミスティックラン」モンスターの融合・S・X・L召喚の素材となった場合、
 または「ミスティックラン」モンスターの儀式召喚のリリースとして使用された場合に発動できる。
 EXデッキの表側表示のこのカードを手札に加える。


遊次「『俊足のジロキチ』をリリースし、デッキから『脱出のシェパード』を特殊召喚!」

遊次「『俊足のジロキチ』がリリースされた時、効果発動。
相手モンスター1体をエンドフェイズまで奪うことができる。
お前の『煙機関車(レイル・エクスプレス)』は奪わせてもらうぜ」


ジロキチがほっかむりをレイル・エクスプレスにかけると、次の瞬間、遊次のフィールドに移動する。
儀式召喚を止められたことでピンチに陥ってるはずの遊次だが、まだ淡々と効果処理を続けている。
そんな様子を見て怜央は考えを巡らせる。


怜央「(この動きは想定外だが…奴ができることは限られてる。P召喚だ。
EXデッキから『剛腕のナンゴウ』をP召喚することで、場に俺から奪ったカードがあれば、
バトルフェイズに自身をリリースして味方の攻撃力を2400アップすることができる。
その効果でアカホシの攻撃力を上げれば俺の『炎機公子(エクスプロード)』を突破できるが、
その前に爆弾で爆破しちまえば関係ねえ)」


怜央「(逆に言やあ『剛腕のナンゴウ』以外に爆弾を使っちゃいけねえってことだ。
モンスターは大量に並んでるが惑わされるな。俺のやるべき事は1つだ)」

怜央は遊次が「剛腕のナンゴウ」をP召喚した時に
墓地の「爆焔鉄甲地雷原(スチームアーミー・マインフィールド)」の効果で
除外されている2体の「スチームアーミー」を特殊召喚し、爆弾を装備させ、
「炎機公子(エクスプロード)」で破壊する魂胆だ。
それによって遊次の勝利の道は完全に閉ざされると怜央は考えている。


遊次「さらに『脱出のシェパード』の効果発動!
自身をリリースし、お前の墓地から2体のモンスターを効果無効・攻守0にして特殊召喚する!
お前の墓地から『時計炸弾(クロック・ダイナマイト)』と『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』を奪うぜ」

遊次のフィールドにはあっという間に5体のモンスターが揃う。
------------------------------------------
【遊次のフィールド】
①爆焔鉄甲 溶解兵長(メルト・コーポラル)
②妖義賊-美巧のアカホシ
③爆焔鉄甲 煙機関車(レイル・エクスプレス)
④爆焔鉄甲 時計炸弾(クロック・ダイナマイト)
⑤爆焔鉄甲 羅針榴弾(コンパス・グレネード)

モンスターの位置(□はカードが置かれていない場所):
 □  
③④⑤②①
------------------------------------------

怜央「(ナンゴウの味方の攻撃力を2400上げる効果は俺から奪ったカードがなきゃ発動できないが、
奴のフィールドには俺から奪ったモンスターが4体もいやがる。全員を破壊はできねえ。
結局、『剛腕のナンゴウ』を破壊しなきゃ俺がやられるってことだ)」

この瞬間に爆弾を装備させ破壊を連鎖させることは可能だが、
それをしてしまえば「剛腕のナンゴウ」がP召喚された後に味方モンスターの攻撃力を2400上げられ、
「炎機公子(エクスプロード)」が破壊されてしまう。


もうすぐ勝負が決まる。怜央も、そして遊次もそれを確信していた。


遊次「…俺も両親がいないんだ。母さんは小さいころに病気で死んだ。
いや、死んだ"らしい"。父さんからそう聞いた」

遊次は怜央に語りかける。
デュエルという名の魂の会話…それができるのはおそらくこのターンが最後だからだ。
遊次の話の脈絡は理解できなかったが、怜央は何も言わず話に耳を傾ける。


遊次「俺はコラプスより以前の記憶が全部消えてる。
医者は精神的ショックって言ってたけど、それにしてもびっくりするぐらい綺麗さっぱり消えてる」

イーサン「…」

遊次「父さんはコラプスから1年ぐらいは記憶を全部失った俺のことを育ててくれた。
父さんの気持ちを考えたら…胸が張り裂けそうになる。
何年も育ててきた息子が、自分のことさえも何もかも忘れちまったんだからな」

遊次は遠い過去を回想する。
灯とイーサンも複雑な表情で彼の言葉に耳を澄ます。
もちろん彼の過去については2人とも知っていたが、彼が今この話を語ることの意味を考え、思いを巡らせる。

遊次「でも…コラプスから1年ぐらい経って、父さんは急に行方不明になっちまった。
理由は詳しくはわからねえけど、父さんが所長をしてた研究所のことで色々問題があって海外に行ったらしい。
そのあとイーサンが俺を引き取ることになって…1年ぐらい後に父さんが死んだってイーサンから聞いた」

イーサンは俯く。
遊次の父「神楽天聖」を知り、彼から遊次を託されたイーサンは最も事情を知る当事者と言える。
そして家族と記憶を失った遊次の痛みを最も近くで感じていたのも彼だった。


遊次「記憶がないからコラプスの地獄を知らない…お前、言ったよな。確かにその通りだ。
コラプスの後、よくわからない施設で目覚めたら何もかも忘れてたからな。
でも、それだけじゃねえ。
自分がどこの誰で、家族が誰で、友達が誰で、どんな環境にいて…全部忘れちまった。
きれいさっぱり。今の俺を形成してるのは、7歳で記憶が消えてからの13年間の経験だけだ」

怜央「…同情でも誘うつもりか?
刑事の泣き落としじゃねえんだ、残念ながらそれで俺がサレンダーすることはねえぜ」

遊次の意図を掴みかねた怜央は痺れを切らして口を挟む。

遊次「そんなつもりはねえよ。でも、なんか話しとかなきゃいけねえと思ったんだ。
コラプスがきっかけで人生が滅茶苦茶になったのは俺も同じだから」

怜央「…同じ、か。
だが俺と違って、手を差し伸べてくれる大人がいたんだろうが、お前には」

幼い頃からたった1人で戦い生きてきた怜央と、すぐに育ての親が見つかった遊次とでは決定的に違う。
怜央は、遊次が自分と同じほどの痛みを味わったと言いたいように感じ、苛つきをおぼえた。

遊次「それはそうかもな。お前よりも環境は恵まれてたかもしれねえ。
でもそれだけじゃ、記憶が全部なくなった人間が前みたいな生活に戻れるわけじゃねえ」

遊次「記憶ってのは人格にも影響してる。
その人がどんなことを考えて、どんな行動をするか…人の性格ってのは経験に基づいてできてんだ。
でも、その"経験"が完全になくなっちまった俺は、コラプスより前の俺と全く別の人間になっちまってた」

怜央「…!」
思いもよらなかった話に怜央は思わず驚きの表情を浮かべる。

遊次「そのせいで記憶がなくなる前に友達だった奴らからも気味悪がられて、俺は孤立した」

灯は思わず胸を抑える。孤立した遊次の痛みを誰よりも知っていたのは灯だった。
ドミノタウン復興のために家族で引っ越して来た灯はこの頃に遊次と出会った。
灯との出会いが荒んだ遊次の心を少しずつ立ち直らせていったのは確かだった。
しかしそれでも記憶を完全になくした幼い少年が生きていくには、苦難が多すぎた。

遊次「なんで俺には記憶がねえんだって何回も、何十回も、何百回も、何千回も思ったさ。
でも、どんなに思い出そうとしても、不思議なぐらい何一つ思い出せねえんだ。
…死んだ母さんのことすら」

怜央「ッ…」
怜央の脳裏にはコラプスで失った自分の家族との記憶がよぎる。
怜央は平凡な人生から最底辺へと転落した。
しかし記憶を失った遊次は、唐突に水面に突き落とされたのと同じだった。
なぜそうなっているのかも理解できず、ただ溺れぬように必死で足掻くしかない。
記憶を失う前の幸せすらも文字通り完全に失い、
ただ来る日も来る日も膨大な情報を必死に小さな頭で処理するしかなかった。
自分がそのような境遇であればどうなっていたか、怜央には想像がつかなかった。


遊次「母さんのことは写真でしか知らない。
俺の記憶が消えてから、父さんが行方不明になる前に、母さんのことをいろいろ聞かされたよ。
本当に優しくて、何よりも家族のことを大事に思ってたって。
父さんはずっと研究で忙しかったからさ、家に帰ってこれない日なんて何度もあった。
それでも母さんはずっと泣き言一つ言わず、ずっと笑顔で俺に接してくれてた。俺を守ってくれた」


遊次「……って"聞いた"んだよ。聞いただけ。でも父さんの顔見てればそれが嘘じゃねえってわかったよ。
俺が記憶をなくした後も父さんは必死に色んなこと教えてくれた。まるで生まれたての赤ちゃんに言葉を教えるみたいにな」


(遊次。デュエルっていうのは、魂と魂の会話なんだ)

(もしケンカしても、デュエルで思いをぶつければわかり合えるんだ。父さんはそう信じてるよ)

オレンジ色の長髪を束ね、鼻の下ともみあげまで繋がった顎髭を生やした痩せ細った男は、かつて笑顔でそう語った。
しかしその笑顔の下の悲しさや虚しさは隠しきれていなかった。


遊次「コラプス以降、父さんはさすがにまいっちまったみたいだ。
日を重ねるごとにひどくなってた。最後の方は笑顔なんてほとんど見たことなかった。
でもな、母さんのことを話す時だけは表情が明るくなるんだ。
記憶がなくてもわかったよ。
父さんがどれほど母さんを愛していたか。俺を愛していたか」

遊次が天を仰ぎ、息を吸い込む。まるで何かを堪えるように。
しばらくした後、遊次は再び話し始める。

遊次「でも俺は…心から俺を愛して育ててくれた父さんのことも、母さんのことも、何一つ思い出せねえ。
……悔しくして仕方ねえさ!どれほどこの境遇を呪ったか!」

遊次が言葉を詰まらせながら、その詰まった言葉を無理やり吐き出すように声を荒げる。

遊次「俺が覚えてねえんだったら、じゃあ母さんはなんのために…俺をッ…!!」
遊次の目には涙が浮かぶ。感情は抑えて話していたつもりだが、
それを留めていたものが崩壊したかのように、奥から溢れて止まらない。

そんな遊次の姿を見て灯の瞳も潤んだ。
いつも笑顔でいる遊次が未だそれほどの悲しみを抱えていたことに気付き、胸が痛んだ。

イーサンは下ろした拳を握り力を込める。
遊次が抱えている悲しみを取り払ってあげたいと本気で考えていた。


遊次「でもな、だからこそ得られたものもある。
大切な仲間と、この町の人達が俺に与えてくれた夢だ。
俺は、失った分の人生を取り戻すように、皆に追いつけるように…これ以上何も失わないように。
前に"進んできた"んだよ!」

遊次は胸に拳を当て怜央に訴えかける。

遊次「俺には振り返っても道はねえ。だから前に進むしかなかった!
でもお前らは違う。振り返るといつでも過去が自分を睨んでるんだ」

遊次「だけどよ…いつまでも環境のせい、境遇のせいにしてたら前に進めねえんだ!
立ち止まったままなんだよ、ずっと!」

これは怜央やドモン、ダニエラに対する言葉だ。
突然自分達を刺しに来た言葉に怜央は思わず反応する。

怜央「何回言わせんだ!好きで立ち止まってるんじゃねえ!
俺達の目の前には…」

遊次「壁なんかねえよ!!お前がそう思い込んでるだけだ!
足を止めてるのはお前自身なんだよ!」

怜央「ッ…!」

怜央の言葉を遮り遊次が更に思いをぶつける。

遊次「お前、もう気付いてんだろ!
リアムやミオ…子供達は、この町への復讐なんか望んじゃいねえ!
ただ居場所が欲しかっただけだって!」

怜央「……」

(お、俺は…。俺は……ただ…)
怜央の脳裏に、リアムが言いかけた言葉がフラッシュバックする。

遊次「お前は子供達のことを大切に思ってるはずだ!
だから子供達を守るために、学校から遠ざけたりしたんだろ。
それはお前らの都合じゃなくて、子供達を想う気持ちがあるからこそのはずだ!」

遊次「でも、今のままお前達が暴走を続けてたら、その先に子供達の幸せはねえよ。
非行を続けた子供がどうなるかなんて言うまでもねえ。
盗みだって、続けてたらいつかは捕まっちまうぜ。
リアムやミオ、トーマス…他のチームの子供達を、そんな目に遭わせてえのかよ」

ドモンとダニエラはただ俯くしかなかった。
本心ではわかっていた。しかし自分達の怒りを止めることができなかった。
怜央は奥歯を噛み締め、遊次を睨んでいた。
しかしその瞳には抵抗の感情と、遊次の言葉を受け止めようとする感情がまだら模様に浮かんでいた。

遊次「それでもお前は自分の怒りに囚われて、この町への復讐を優先した。
じゃねえと過去がいつまでも自分を縛り続けるって思ったからだ」

遊次は怜央に向かい、真っ直ぐに握った拳を向ける。

遊次「でも、"今"が変わる時だ!
未来から目ェ背けんな!
お前らにとってチームの奴らは仲間…いや、家族だろ!」

怜央「…!」
怜央も、そしてリアムやミオも、今が確実に大きな分岐点であると確信した。
目の前の男は、無関係だった自分達のために本気で戦い、叫んだ。
その男も他の誰にも体験することのできなかった痛みの中で、その境地へと辿り着いたのだ。


遊次「道は示したぜ。
家族のために何をすべきか…あとはお前の中で答えを出せよ」

遊次は再びデュエルディスクを構える。
しかし怜央は未だに受け止め切れずにいた。


怜央「何をすべきか…だと…?それが簡単にわかれば苦労しねえよ!
そんな綺麗事だけじゃどうにもなんねえから、この町がこうなってんだ!
言うだけなら誰だってできんだよ!」

怜央の言う通り、居場所を失った子供達を真っ当な方法で導くのはそう簡単でないことは確かだった。
心は動き始めている。しかし未だ過去が、怒りが、その足が掴んで離さない。


遊次「だとしても進むしかねえんだ。1歩1歩、"次"に向かって。
どうにもならねえって諦めて、それが正解になることなんか絶対にねえ」

怜央「ッ…!
いくら大層なことを言ったって、残念ながらこのデュエルは俺の勝ちだ…!
お前だってわかってんだろ!」

怜央「儀式召喚も止められた!
お前が勝つ方法は『剛腕のナンゴウ』をP召喚して、アカホシの攻撃力を上げることだけだ!
だがそいつが破壊されれば、もう俺の『炎機公子(エクスプロード)』を倒せねえ!」

怜央は叫んだ。
これまで燃え続けてきた怒りの残滓を全て遊次にぶつけるかのように。

遊次「…」
遊次は何も言わない。
後は言葉ではなく、デュエルの顛末に全て懸っているからだ。


怜央「モンスターはデュエリストに応えるんだったよな?
じゃあここで俺が勝てば、お前よりも俺の思いの方が強かったってことになる。
俺が正しかったってことになるんだよ!」

怜央もデュエルディスクを構える。
モンスターがデュエリストに応えると言った遊次を、怜央は電波だと笑い飛ばした。
しかし今、怜央はこのデュエルに勝利することこそが最後の希望であるかのように、
そこに縋ろうとしている。


怜央「(俺がこれまで積み重ねてきたモンが…コイツとのデュエル1つでひっくり返されてたまるか…!
力で奪うしかねえ…それが1人で這い上がって来た俺の答えだろうが…!)」


怜央「墓地の罠カード『爆焔鉄甲地雷原(スチームアーミー・マインフィールド)』を除外し効果発動!
除外されている2体の『スチームアーミー』を特殊召喚する!
『火線工兵(ヒート・エンジニア)』と
『時計炸弾(クロック・ダイナマイト)』を守備表示で特殊召喚!」

怜央のフィールドに2体のモンスターが現れる。
「火線工兵(ヒート・エンジニア)」は
相手ターン中に自分フィールドの「スチームアーミー」をモンスターに装備する効果を持ち、
「時計炸弾(クロック・ダイナマイト)」は装備モンスターが破壊された時に周りを巻き込む効果だ。
そして「炎機公子(エクスプロード)」が破壊効果を有しているため、
これで怜央のデッキの万全の耐性が整ったことになる。


怜央「ぶっ壊してやる…全部!
お前のモンスターを破壊すりゃあ、俺の勝ちだ…!
そうすりゃ全部元通りだ!」

怜央は自分が勝利することでまだ引き返すことができると考えている。
遊次の「剛腕のナンゴウ」さえ破壊すれば勝利の芽を摘むことができると。


しかし、その予想は大きく外れることとなる。


遊次「俺は、フィールドの『妖義賊-美巧のアカホシ』と、
お前から奪った『煙機関車(レイル・エクスプレス)』『時計炸弾(クロック・ダイナマイト)』を
リンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」

怜央「…は…?」
怜央には何が起きたか理解できていなかった。

ドモン「リンク…召喚だと…」
ダニエラ「まだそんな召喚法を…!」

ドモンとダニエラも呆気に取られ、ただフィールドの行く末を見守るしかなかった。


遊次のフィールドの3体のモンスターは、フィールドに広がるサーキットに飛び込んでゆく。
飛び込んだ3つのアローヘッドが赤く灯る。


遊次「権威を穿つ風雲児よ、今こそ逆境を覆す英雄となれ!」

遊次「リンク召喚!現れろ、リンク3!
『妖義賊-神出鬼没のギルトン』!」


現れたのは攻撃力2200のリンクモンスター。
そのモンスターは、鋭い目つきを持つ獣戦士。
豹のような小さな顔に灰色がかった毛並み。耳先には小さなピアスがついている。
額には蒼のバンダナが巻かれ、その上には鉄の鍔が施された目立つ額飾りがある。
体は筋肉質でしなやかだ。
胴体部分には茶色の革のチュニックを着ており、銀の刺繍が施されている。
その上に黒いケープを羽織っており、肩には羽のような飾りがついている。
首には細い革の首輪が巻かれており、そこには小さな金色のメダルがぶら下がっている。
彼の背中には、鋭利な長剣が一本背負われており、その柄には複雑な模様が刻まれている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/0seLbZv
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遊次「『神出鬼没のギルトン』の効果発動!
リンク召喚成功時、相手の墓地からモンスターを奪い、
そのモンスターを素材に、融合・S・X・L…または儀式召喚を行うことができる!」


■妖義賊-神出鬼没のギルトン
 リンクモンスター
 リンク3/風/獣戦士/攻撃力2200
 【リンクマーカー:左下/下/右下】
 モンスター2体以上
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをL素材にしている場合、
 このカードは相手の効果で破壊されない。
 ②:このカードがL召喚した場合、相手のフィールド・墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターのコントロールを得る。
 その後、そのモンスターを含む自分フィールドのモンスターを素材として融合・S・X・L召喚を行うか、
 そのモンスターを含む手札・フィールドのモンスターをリリースして儀式召喚を行う。
 ③:このカードのリンク先にP召喚された場合に発動できる。
 自分はデッキから2枚ドローする。



怜央「な…儀式召喚…だと…!」
怜央はこれから何が起きるかを瞬時に理解した。
儀式の予告状さえ止めれば儀式召喚はできないと考えていた。
しかし、リンクモンスターを介することで儀式召喚するという"別の道"があったのだ。


怜央「(俺の墓地から奪われるモンスターは止めようがねえ。
ゴエモンはレベル7だから儀式召喚にはもう1体、アイツのフィールドからリリースが必要…。
それは俺から奪った『溶解兵長(メルト・コーポラル)』か『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』のどっちかだ…。
だが片方を破壊したところでもう片方が残ってりゃ儀式召喚は成立しちまう。
つまりあのリンクモンスターの効果が通っちまった以上、儀式召喚は止められねえ…!)」

怜央が瞬時に頭を回転させ打開策を考えるも、答えは見つからない。

怜央「(あのリンクモンスターは相手の効果で破壊されない効果を持つ…。
ここでどのモンスターを破壊したところで何の意味もねえが、
ここで破壊しなけりゃ、後はゴエモンの対象に取られない効果で俺は何もできねえ…!)」


怜央は俯いたまま奥歯を噛み締める。

結果論として、遊次のフィールドに5体のモンスターが並んでいる状態で、
仮にリンク召喚の前に爆弾で破壊を連鎖させ、3体のモンスターを破壊できたとしても、
その後にナンゴウをP召喚され、その効果で味方のモンスターの攻撃力を上げれば、
「炎機公子(エクスプロード)」が破壊されることは必至であった。
「剛腕のナンゴウ」を破壊することだけに目を向けた怜央の判断は、
「遊次にはP召喚しか手段がなく、ナンゴウさえ破壊すれば打つ手はなくなる」という
前提のもとでは正しかったと言える。

そして意を決したように怜央は前を向く。


怜央「『炎機公子(エクスプロード)』の効果…発動。フィールドのモンスター1体を破壊する。
お前のフィールドの『溶解兵長(メルト・コーポラル)』を破壊だ」

「炎機公子(エクスプロード)」は左腕のバーナーで
遊次のフィールドの「溶解兵長(メルト・コーポラル)」を焼き尽くし破壊する。
チェーン2の「炎機公子(エクスプロード)」の効果が解決し、
チェーン1のギルトンの効果が処理される。

この破壊効果を使った時点で、怜央にはもう遊次の展開を止める手段は存在しなくなった。


遊次「ギルトンの効果でお前の墓地から『時計炸弾(クロック・ダイナマイト)』を奪う。
そして、このモンスターと、俺のフィールドの『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』をリリースし、
儀式召喚を執り行う!」

遊次は手札の「妖義賊-ゴエモン」を高らかと掲げる。

「儀式召喚!再び舞い戻れ!『妖義賊-ゴエモン』!」


桜吹雪と共に遊次のエースカードが再びフィールドに現れる。
怜央にとって必ず止めなければならない存在が眼前で颯爽と剣を構えている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/YnblaqH
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■妖義賊-ゴエモン
 儀式モンスター
 レベル7/地/戦士/攻撃力2500 守備力2000
 「予告状」儀式魔法カードにより降臨。
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:元々の持ち主が相手となるカードが自分フィールドに存在する限り、
 自分フィールドのモンスターは相手の効果の対象にならない。
 ②:相手の墓地のモンスター、または魔法・罠カード1枚を対象として発動する。
 モンスターカードの場合、そのカードを自分フィールドに特殊召喚し、
 魔法・罠カードの場合、自分フィールドにセットする。
 ③:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをリリースして儀式召喚された場合、以下の効果を得る。
 元々の持ち主が相手となる自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動する。
 そのモンスターの元々の攻撃力分、自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力をアップする。


遊次「俺のフィールドにはお前から奪ったカードはないから、
ゴエモンの対象に取られない効果は適用されない。
でも、さっきお前は『炎機公子(エクスプロード)』の破壊効果を使っちまった。
いや、使わざるを得なかった。
そうしなきゃお前から奪ったモンスターがフィールドに残って、
ゴエモンの対象耐性が適用されるからだ。
ギルトンがリンク召喚された時点で、すでに俺を止める手段はなかったんだ」

静寂が戦場を包み込む。
まだデュエルは終わっていないが、すでにどちらが勝利するかは明白だった。

怜央は俯き、握った拳を見つめている。
ドモンとダニエラは全てを悟り、これからどうすべきかについて自然と考えを及ばせた。


("今"が変わる時だ!)

(未来から目ェ背けんな!)


俯く怜央の頭の中で、遊次の叫びがこだまする。


遊次「まだ展開は終わりじゃねえ。
俺はスケール2の『妖義賊-誘惑のカルメン』とスケール8の『妖義賊-舞蛇のキク』で、
ペンデュラム召喚!
EXデッキの表側のモンスターは、リンクモンスターのリンク先に特殊召喚が可能!」


遊次「天に弧を描く義の心、その輝きより現れ同胞の声に呼応せよ!」

遊次「ペンデュラム召喚!来い、俺のモンスター達!」

遊次が口上を唱えると、揺れる振り子の間から2つの光がフィールドに降り注ぎ、
ギルトンのリンク先に2体のモンスターが現れる。

遊次「EXデッキから現れよ。『妖義賊-剛腕のナンゴウ』『妖義賊-美巧のアカホシ』!」

ギルトンの背後に、虎と鳳凰の頭を持つ着物のモンスターが降り立つ。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/l0XP4F1
ttps://imgur.com/a/Beta2kb
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遊次「ギルトンの効果発動。P召喚に成功した時、カードを2枚ドローする」

このドローによって勝敗が左右することはないが、遊次は万全を尽くし怜央に立ち向おうとする。


遊次「ゴエモンの効果発動。お前の墓地からモンスターを奪う。
来い…『爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト)』」

かつて遊次を苦しめた鋼鉄の将軍がフィールドに君臨する。

遊次「ゴエモンの効果発動。相手から奪ったモンスターをリリースして儀式召喚している時、
相手から奪ったモンスターをリリースすることで、
その元々の攻撃力分、俺のフィールドの全てのモンスターの攻撃力を上げる」


「蒸機焼軍(デトネイト)」は姿を消し、赤く、そして白い蒸気がフィールドを包み込む。
それが遊次のモンスターに力を与える。


妖義賊-神出鬼没のギルトン ATK5000
妖義賊-ゴエモン ATK5300
妖義賊-剛腕のナンゴウ ATK5200
妖義賊-美巧のアカホシ ATK5100

これが遊次の最終盤面だ。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------
【怜央】
LP4400 手札:0

①爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード) ATK4100 X素材:1
②爆焔鉄甲 火線工兵(ヒート・エンジニア) DEF1500
③爆焔鉄甲 時計炸弾(クロック・ダイナマイト) DEF1200

カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
 ①  
□②③□□

フィールド魔法:1

【遊次】
LP100 手札:2

①妖義賊-神出鬼没のギルトン ATK5000
②妖義賊-ゴエモン ATK5300
③妖義賊-剛腕のナンゴウ ATK5200
④妖義賊-美巧のアカホシ ATK5100

カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
 ①  
③②④□□
◆□□□▲

Pゾーン:◆妖義賊-誘惑のカルメン、▲妖義賊-舞蛇のキク
----------------------------------------------------------------------------------------------------------

遊次の4体のモンスターの攻撃力が5000以上となる異常な盤面。
ライフポイントわずか100の瀕死の男が、覆しようのない圧倒的な力を誇示している。
リアムとミオはその光景に言葉を失う。

ドモン「…俺らの敗けだ」
ドモンが一言だけ呟く。
リアムは泣きだしそうな表情をし、ミオは強くクマのぬいぐるみを抱きしめる。
ダニエラはそんな子供達の肩を強く抱きしめる。


怜央「…俺が、間違ってたってのかよ。
俺が今までやってきたことは…全部…ッ…!!」

何かがつっかえたように、喉から絞り出すように怜央は声を上げる。


遊次「全部じゃねえよ」

遊次は真剣な眼差しで応える。

怜央「じゃあ…何が…」

何が正しかったのか。怜央はそう返そうとしたが声が出なかった。

遊次は黙って、ただ人差し指を前に突きつける。
その指先は怜央の少し後方を指し示していた。

怜央はその意図に気付き振り返る。
そこにはドモン、ダニエラ、リアム、ミオ…チームの面々がいた。

怜央「…そうか…」

怜央はふっと笑う。
このデュエル中、ほとんど見ることのできなかった怜央の笑みを見て、遊次も表情を和らげる。
怜央は再び前を向き、遊次へと向かう。

怜央「…来いよ、遊次。ケリつけようぜ」

遊次「…あぁ!」


遊次「バトルフェイズ!
『神出鬼没のギルトン』で『炎機公子(エクスプロード)』に攻撃!」

ギルトンは大剣を抜くと、「炎機公子(エクスプロード)」へと向かってゆく。
動きの速さのあまり、その姿は分身しているようにすら見える。
ギルトンは「炎機公子(エクスプロード)」の前の前に突如として現れ、剣を振り下ろす。
「炎機公子(エクスプロード)」は炎を纏った拳で応戦し、その戦いは拮抗する。


怜央「ここでお前に負けたところで、俺の怒りが消えるわけじゃねえ!
結局、お前はただそいつを押さえつけてるに過ぎねえぞ!」

遊次「怒りをなくせって言ってるわけじゃねえ!
お前は怒りを原動力にここまで来たんだろ!
それを、別の方向に…子供達も、お前達も、良い未来に歩けるように使えってことだ!」

怜央と遊次もお互いのモンスターの戦いに共鳴するように、お互いの思いをぶつける。
ギルトンは剣を弾き一度飛び上がると、高速で再び「炎機公子(エクスプロード)」に斬りかかる。
「炎機公子(エクスプロード)」はその一太刀によって破壊され、辺りを爆風が襲う。
怜央もその爆風によって後方へと吹き飛ぶ。

怜央「グッ……ぐあぁっ…!」
LP 4400 → 3500


爆風が収まり怜央は立ち上がる。
怜央のフィールドにはまだ守備表示モンスターが2体存在する。
遊次は次なる攻撃を仕掛ける。

遊次「『剛腕のナンゴウ』で『時計炸弾(クロック・ダイナマイト)』に攻撃!」

ナンゴウは閉じられた唐傘で「時計炸弾(クロック・ダイナマイト)」を一撃で打ちのめす。
その瞬間「時計炸弾(クロック・ダイナマイト)」は一瞬にして爆発し破壊される。
黒い煙が爆風によって流れる中、煙が薄れてゆくと遊次と怜央はぶらさずに視線を交わしていた。


遊次「『美巧のアカホシ』で『火線工兵(ヒート・エンジニア)』に攻撃!」

アカホシは長刀を抜くと真っ直ぐに「火線工兵(ヒート・エンジニア)」へと向かう。

怜央「居場所のねえガキ共を、正しい方法で導く…。んなこと、誰もできてねえんだよ…!
それを後はお前が考えろって丸投げってか!?
楽でいいよなァ!なんでも屋さんはよぉ!」

遊次「……」
遊次は何も答えない。怜央の言葉を受け止め、何か考えている様子だ。

アカホシが刀を「火線工兵(ヒート・エンジニア)」に振るい、その機体は真っ二つに割れ、破壊される。

遊次「…丸投げするつもりはねえよ。
俺もどうしようか考えた。でも、簡単に答えは見つからねえと思う。
大事なのは、居場所を守ることだ。
お前が作った、チームっていう居場所を。

そのために…俺もお前らと一緒に、1歩1歩"次"に進んで行くしかねえんだ」

ついに怜央のフィールドにモンスターはいなくなる。
残るはゴエモンの攻撃を残すのみだ。

この一撃で、Unchained Hound Dogsの復讐の道は閉ざされることとなる。
怜央やチームのメンバーは行き場を失った怒りを背負って生きていくこととなる。
かつてリアムに誓った「大人を全員ぶっ潰す」という約束は果たせなくなるが、
今やリアム本人がそれを望んでいなかった。

チームのメンバーが息を呑む。
灯とイーサンは短くも長かったこの戦いの結末を静かに見届けようとする。

灯「(ただ勝つだけじゃない…。
デュエルで本気でぶつかりって、お互いの心を理解し合う。
その上で、自分も一緒に相手の人生も背負おうとする…)」

灯「(やっぱり、すごいよ遊次。
こんなことできる人、世界にあなただけなんだから)」

灯は遊次を見つめ笑みをこぼす。


遊次が人差し指を怜央に突き付け、勝利の決め台詞を放つ。

遊次「勝利は…俺が頂いた!」


遊次「『妖義賊-ゴエモン』で、怜央にダイレクトアタック!」

ゴエモンの刀が桜吹雪を纏う。ゴエモンは天高く飛び上がり、空中で刀を構える。
怜央は空を見つめ、刃が自身に届くまでのわずかの間、思いを巡らせる。


…わかってたんだ。

お前らはただ、居場所がほしかっただけだって。

お前らは大人達に見捨てられて、許されない仕打ちを受けてきた。

だがその怒りを…俺は俺自身の復讐のために利用した。

お前達を巻き込んだ。


俺が背負った怒りは、消えることはねえ。

俺らが受けてきた屈辱も。


それでも……今は、お前達が笑って過ごせる場所を守ることこそが…

たった一つの…背負った怒りに報いる方法だ。



ゴエモンは刃を振り下ろし、怜央に一閃を放つ。

斬撃音と共に、怜央のライフは尽きる。

怜央はただ静かに、その一撃を受け止めた。


LP3500 → 0



DDAS「勝者、神楽遊次。
オースデュエルにより、
チームUnchained Hound Dogsに対し、法・倫理・規律に違反する行為の一切を禁じます」

デュエルディスクAIがオースデュエルの終結を告げる。
遊次には灯とイーサンが、怜央にはチームメンバーが一斉に駆け寄る。


灯「遊次ーっ!勝ったね!!勝ったよ!!」

灯は緊張感からの解放と大きな戦いを制した喜びからか、感情が溢れ出る。

イーサン「本当にお前って奴は…。とにかく、一安心だ。
ライフ100になった時はどうなることかと…」

遊次「いやーー!あれは俺も死んだかと思ったぜ!ハハハー!」

安心から力が抜けたイーサンの声に対し、当の本人は誰よりも気楽に自身のピンチを笑い飛ばす。


リアム「兄貴ーーー!!」
ミオ「怜央っ!」

勝負が終わると同時に、リアムとミオは怜央に抱き着く。

怜央「…悪ぃな。負けちまった」
怜央は子供達を見つめ、2人の頭に軽く触れる。
その瞬間、今までこのような触れ合いが1度もなかったことに気が付く。


ドモン「お前が負けるのを見るのは初めてだ。こりゃ貴重な体験だな」
ドモンは怜央の肩を叩き、わざとらしい明るい調子で話しかける。

ダニエラ「…正直、いつかこういう時が来るんじゃないかと思ってたよ。
でも、想像してたのはもっと悪い状況さ。
警察に捕まるとか、裏社会の奴らにシメられるとかね。
それに比べたら断然マシさ」

怜央「…そうだな。いつか、限界は来てたかもしれねえ。
だが、そうはならないと思いたかった。
…いや、破滅が待ってたとしても、突き進んでただろうぜ」

Unchained Hound Dogsとしての怜央の復讐の道は閉ざされた。
しかし、どこか清々しい気持ちもあった。何かから解放されたような感覚だった。

ドモン「終わったことをあれこれ悩んでても仕方ねえ。
大事なのは…今後俺達が、ガキ共がどうするかだ」

それこそがUnchaind Hound Dogsにとって最も大きな課題だった。
すると、遊次が怜央に声をかける。


遊次「怜央。お前は子供の居場所を作るため、守るために戦ってきたんだよな。
でも根っこにある大人への怒りや恨みってもんがデカくなりすぎて、暴走した」

遊次はデュエルを通して怜央の内面を理解した。
怜央の過去から来る怒りや怨嗟…そしてその中に居場所を失った子供への思いや優しさも。

怜央「…俺のチームにいるガキ共は、皆汚ねえ大人のせいで人生を狂わされたんだ。
俺がその怒りを背負わなきゃ、こいつらも…俺も報われねえって、そう思ったからだ」

怜央もすでに遊次に対する抵抗感はない。
デュエルで心を全て曝け出しぶつかり合ったことで、わだかまりは全て吐き出したからだ。
初めて会った時、そして決戦を申し込んだ時とは大きく印象が変わっている。
ただの偽善者や邪魔者ではなく、自分達の人生を大きく変える存在なのだと。


遊次「それはすげえことだと思ってるぜ。ただ、やり方は選ばなきゃいけねえ。
怒りの矛先が関係ない奴に向いたり、誰かを理不尽な目に遭わせちゃいけねえんだ。
お前だって、コラプスっていう理不尽から人生が狂っちまったわけだろ」

怜央「……」

奪われないためには奪うしかないと信じてこれまで生きてきた。
他者への理不尽な攻撃や略奪…それらは全て自分達が生きるためだと言い聞かせた。
しかし、心の奥底ではそれが正しくないと理解していたのだろう。
今は遊次とのデュエルによって心の殻が剥がれ、
子供達の未来のためには正しくない行為だったのだと、素直に受け止めることができている。


遊次「居場所のない子供達に居場所を作るってのはいいことだと思うぜ、俺も大賛成だ!
でもよ、正しい方法で、子供たちを正しい未来に導かなきゃならねえんだ」

怜央「俺だって、子供達を正しく導けってお前に言われて…そりゃお前が正しいって思ったぜ。
でも…んなもん、言うだけなら誰だってできんだよ。
無責任なことばっか言うんじゃねえよ」

報われない子供たちの居場所を作り、その子供達を良い未来に導く。
遊次が提示した新たな道は、言葉は単純でもその具体的な方法は簡単には見つからない。
これは遊次にとっても大きな課題だ。


遊次「無責任じゃねえ!さっきも言っただろ。俺もお前らと一緒に歩いていくって。
俺も報われねえ子供達の居場所を守るために、全力を尽くす!
言っちまった以上、俺も引き下がる気はねえ!」


遊次「俺も、お前と一緒にこの街の子供達の未来を守りてえ!
それは、ドミノタウンの皆を笑顔にしたいっていう俺の夢でもあるんだから!」

遊次は胸を張り高らかと宣言する。
不思議とその自信は嘘ではないと怜央にもわかった。


怜央「…じゃあ、どうするんだ。ガキ共の居場所を守るためには」

怜央が頭を掻きながら遊次に問いかける。


すでに日は沈んでいる。

空に浮かぶ満月の光が、廃工場の鉄に反射し、かろうじて辺りが照らされている。

月の光が、遊次と怜央を照らす。
それはまるでスポットライトのようだった。

怜央の問いかけに対し、遊次は一層の笑顔を浮かべ、怜央の胸に拳を突き立てる。


遊次「…Nextに来いよ、怜央!」



怜央「……はぁ!?」



第20話「To The Next」 完




Unchained Hound Dogsには他にも子供達がいる。
電気すら通っていない空き家で暮らす3人の子供達との対面、
トーマスの問題、つけるべきケジメ。
彼らが新たな1歩を踏み出すためには、やらねばねらないことがあった。

そしてNextに舞い込む新たな依頼。
Unchained Hound DogsがNextに敗れた影で、対立していたチームが息を吹き返していた。
男の依頼はそのチームを"1日"でドミノタウンから追い出すこと。
かつてない大金のかかった仕事には、かつてない危険も潜んでいた。

次回 第21話 「踏み出す1歩目」
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コンドル
ついに決着!
遊次が一緒に背負うことで1歩を踏み出せそうな雰囲気。しかしここからどうなるのか、次回が気になります! (2025-02-14 01:32)

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