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第41話:生粋のギャンブラー 作:湯
Nextに舞い込んだのは、違法カジノの元締めを倒し、失った金を取り戻す依頼。
信託会社役員「落合」が会社の損害を補填するために裏カジノへ挑んだが、
惨敗し、更には裏カジノへ出入りしている事実を盾に脅迫され、金銭を要求されている。
それを打破するのがNextの仕事だ。
その成功報酬はなんと3000万サーク。
この破格の依頼を成功させれば、子供達の未来や、Nextの発展に繋がる。
探偵「伊達アキト」が過去、デュエリアの諜報機関「DIEB」に所属していたことも明らかとなり、
その時に使用していたデータを利用する事で、わずか1日で他のカジノ参加者3名の正体を突き止める。
遊次は参加者の1人「ザリフォス」に直接交渉し、彼が失った金も取り戻すことに。
その分、Nextには追加で9000万サークの成功報酬が支払われることとなった。
想像を遥かに超える多額の金の重みに震える遊次だが、意を決して戦う覚悟を決める。
また、裏カジノの元締めが情報収集に利用していたのは
会員制高級サロン「マジシャンズ・スターダスト」であることがほぼ確定。
そしてアキトの名推理により、元締めは標的を自然に酩酊させ、
情報を引き出していることがわかった。
そして現在、灯は、カジノ参加者の1人「雨宿真白」を尾行中だ。
カフェでの打ち合わせを終え、1人で店外へと出た雨宿へ、灯が緊張した面持ちで向かう。
雨宿は角を曲がり、表通りから一本入った生活路へと足を踏み入れた。
道幅は狭く、左右には小さなオフィスや住宅が肩を寄せ合って並んでいる。
通りを歩く人の姿は見当たらない。風の抜ける音と、足音だけが耳に残る。
目の前の雨宿が突然、歩みを止めた。
灯はびくっと体を震わせ、近くの物陰に隠れる。
「出てきなさい。わたくしに用があるんでしょ?」
雨宿が後ろを振り向き、周囲に強い視線を向ける。
それは明らかに、灯に向けて放たれた言葉だった。
一呼吸置き、灯は物陰から雨宿の前に立つ。
「あら、かわいいストーカーさんね。男だったら訴えてたところだけど」
雨宿はかけていたサングラスを外し、余裕の態度で灯を見つめる。
「雨宿さん、あなたにお話があります。裏カジノのことで」
灯が単刀直入に本題に入ると、雨宿は目を丸くした。
まさかそんな話題が飛んでくるとは思っていなかったようだ。
「…驚いたわね。あなたも参加したいなら紹介してあげてもいいけど?」
「それをお願いしにきたんです。
ただし、カジノに参加するためではなく、元締めを倒すために」
数秒間の静寂の後、雨宿が乾いた笑い声をあげる。
「ハハハッ!面白い子ね。
でもそれ、わたくしに何のメリットがあるのかしら?」
「他の参加者達は、自分の会社に大きな損失が出たタイミングで裏カジノに誘われて、
そこで更に多額のお金を取られました。
さらに、裏カジノに出入りしていることを種に、脅迫までされています。
雨宿さんも同じなんじゃないですか?」
雨宿は一瞬考える様子を見せたが、「フフッ」と嘲笑するような笑みを浮かべる。
「あぁ、負け犬はそういう目に遭うのね。知らなかったわ。
でも残念。わたくし、あのカジノで"勝ってる"もの」
「えっ…」
全く予想していない展開だった。
悪質な裏カジノ故、参加者は当然負けているものとばかり思っていたからだ。
「確かに、きっかけはわたくしが投資で"ちょっと"失敗したことを嗅ぎ付けたからでしょうね。
でもそんな損失、とっくに取り戻してるの。むしろプラスよ」
灯は頭が真っ白になった。なんとか頭をフル回転させ、言葉を紡ぎ続ける。
「そんなの、向こうが許すわけない!
他の人みたいに、脅迫されるだけです!」
「脅迫なんてなんにも怖くないわよ。
わたくしは何も背負ってない、孤独の投資家。
会社を持ってるなら社員全員に影響するし、辞任も余儀なくされるでしょうね。
でもわたくし1人が捕まっても、それで終わり。
むしろそのことで裏カジノの存在に警察が気付いちゃうわよね。
向こうはそんなリスク冒さないわ」
会社の重要役職であれば、裏カジノに出入りしていた事実によって、
自分の立場と会社への不信・損害を招くことになる。故に脅迫が成立する。
しかし雨宿のような個人投資家は揺らぐ立場も信用もない。
脅迫にさほど効果はなく、むしろ警察に裏カジノの存在を知らせるデメリットの方が強いだろう。
「で、でも…脅迫だけじゃないかもしれません!
相手は裏社会の人間です。もっと危険な手に出るに決まってます!」
「なんでぇ?大抵の参加者は負けるのだから、カジノ側の収支は圧倒的にプラスよ。
わたくし1人が勝ったところでカジノ側は痛くも痒くもないわ。
そんな危険な真似するわけないじゃない」
灯が捻り出した反論は全て一瞬にして撃ち落とされた。
彼女の理屈の方が正しい。
カジノは当然、勝者がいなければ誰も参加しない。
誰もが一部の勝者になろうと、ギャンブルの荒波に身を投じるのだ。
そして彼女こそがその「一部」だ。そんな彼女に、用意してきた言葉は通用しない。
「協力してくれなければ…あなたが裏カジノに出入りしていた事実を、警察に言います。
それでもいいんですね?」
灯にとっても、少し心苦しい選択だった。
これはつまるところ、脅迫。
しかし、すでに手段を選んでいられない状況だった。
「…あぁそう。どうぞ?」
雨宿は目の前で両手をくっつけ、前に出す。
まるで、手錠をかけてくださいと言うように。
「なっ…」
最後の手段も、あっけなくかわされたことに、またも灯は戸惑いを見せる。
「い、いいんですか?逮捕されちゃうんですよ!?」
「それができるなら、最初からしてるんじゃないかしら?
できない事情があるから、私に交渉しにきたんじゃなくて?」
雨宿は、差し出した両手首をぱたぱたと開いたり閉じたりして、
蝶々が舞うような仕草をしてみせる。
灯は言葉を返すことができなかった。完全なる図星だからだ。
しかし、それでも灯は食い下がるのをやめない。
「…悔しいけど、あなたを頼りにしてるのは事実です。
でも、あなたが要求を拒んだら、どうせ元締めには近づけない。
だったら、警察に突き出した方がマシ。
少なくとも、1人の犯罪者に、裁きを下せるんですから」
灯は無理に口角を上げ、強気の姿勢を見せる。
「逮捕なんかよりも、"奴ら"に逆らう方がよっぽど怖いじゃない。
何千万もする指輪を川に投げ捨てられても、
下を覗いてワニだらけだったら、取りに行かないでしょう?
命こそ最大のチップ。死ぬ以上の損失はないわ」
雨宿は右の中指につけた大きな宝石のついたルビーの指輪を見つめながら、灯の言葉を軽くかわす。
灯の表情から見る見る内に余裕が消えていく。
「投資も、デュエルも、人生も…全部、ギャンブルよ。
もし本当に逮捕されたら、私が"賭け"に負けたってだけのこと」
「…もういいかしら?せいぜい頑張ってね」
言葉が出なくなった灯を見て、雨宿は背を向け、胸元からサングラスを取り出す。
ここを逃せば、もうチャンスはないかもしれない。
これまでの全ての努力が無駄になるかもしれない。
それだけは避けなければならなかった。
「ま、待って…!」
灯は無意識に雨宿の腕を掴む。
雨宿はただ黙って次の灯の言葉を待つ。
「…デュエルで、勝負をつけませんか」
「デュエル?」
「私が勝ったら、潜入に協力してもらいます。
ただし雨宿さんが勝ったら…5000万サークを支払います。
これなら、あなたにも得はありますよね」
灯が雨宿を怯えの混じった眼差しで見つめ、なんとか言葉を捻り出す。
5000万サークのベット。
これはイレギュラーであり、当然、遊次達にも知らせていない。
それでも、この機を逃すわけにはいかなかった。
潜入すらできなければ、成功報酬は得られないのだ。
ならばここで大きく張るしかないという、灯の咄嗟の判断だ。
灯の言葉に、雨宿はにっと口元を緩める。
「…悪くない。でも…」
雨宿が灯に身を寄せ、耳元に顔を近づける。
「5000万程度の"はした金"じゃ、わたくしは動かない」
彼女が選んだのは"フォールド"。希望が打ち砕かれる。
雨宿は掴まれていた腕を優しく離すと、
背を向け、手を振りながら歩いてゆく。
「いいセンいってたわよ、お嬢さん」
立ち去る雨宿の姿を、灯は呆然と見つめるしかなかった。
失敗した。甘かった。
もし現在確定している成功報酬の9000万を全額ベットしていれば、彼女の心は動いたのだろうか。
その答えも今や確かめようがなかった。
視界がぐらつく感覚に襲われながら、灯は虚ろな目で持っていた鞄に手を伸ばす。
電話で結果を報告するためだ。
携帯電話を取り出そうとした時、手に違和感のある感触をおぼえる。
「これ…」
それは、1枚の名刺だった。
そこには「雨宿真白」の名と、電話番号が書かれていた。
先ほど身を寄せた時に鞄に忍ばせたのだろう。
灯はその名刺をじっと見つめる。目に生気が戻り始める。
「…まだ、チャンスはある」
ビルの一階にある屋内駐車場。天井に並ぶ蛍光灯がコンクリートの床を均等に照らしている。
白線で区切られた車室が列を成し、その一角に黒い高級車が止まっている。
綺麗な金髪をたなびかせた男が、颯爽と入口から入ってくる。
ストラトゥス・ミロヴェアン、裏カジノ参加者の1人だ。
ミロヴェアンは車に向かってまっすぐ進み、胸ポケットからキーを取り出す。
ボタンを押すと、黒い高級車のヘッドライトが一瞬だけ点滅する。
彼はそのまま運転席側に立ち、ドアに手をかけた。
「随分いい車乗ってんだな」
ミロヴェアンの背後から、コンクリートの柱に寄りかかり、怜央が声をかける。
ミロヴェアンは意味ありげに怜央を見つめるも、すぐに人当たりのよい顔に切り替える。
「…羨ましいのかな。いつか君も乗れるようになるといいね」
ミロヴェアンは怜央を軽くあしらう。
駐車場に迷い込んだ子供か何かと勘違いしているのだろう。
「羨ましかねえよ。まだそんな車乗る余裕はあるんだなと思っただけだ」
ミロヴェアンの表情から笑みが消える。
目の前の少年が何か知っているであろうことを察知したからだ。
「俺らは元締めをブッ潰すために動いてる。
アンタが参加者だってことはわかってんだ。俺らに協力しろ」
怜央は余計な言葉を挟まず単刀直入に要求を突きつける。
ミロヴェアンは少しの間考えた後、車のドアを開ける。
開けたのは助手席だ。
「乗りなさい。続きは中で聞きましょう」
オフィス街を走る一台の黒い高級車。
怜央はその後部座席の背もたれに悠然と体を預け、足を組んでいる。
「元締めを潰す…というのはどういう意味かな」
ミロヴェアンはハンドルを握りながら落ち着いたトーンで質問する。
「そのままの意味だ。アンタと同じ、裏カジノ参加者からの依頼でな。
大金を使わされた挙句、裏カジノに出入りしてる姿を写真に撮られて脅迫までされてる始末だ。
アンタはどうなんだ?」
ミロヴェアンはミラー越しに怜央の姿を見つめる。
そして数秒間、窓の外を見つめた後、思わせぶりに口を開く。
「君はまさしく…神の遣いだ」
「は?」
予想の斜め上の返答に怜央は思わず気の抜けた声を出す。
「ここ最近、ずっと考えていたんだ。神はどうして私を見捨てたのかと。
私はこれまで、人々に奉仕してきた自負がある。だが、神は私に罰を与えたのだ。
突如発生した多額の損失、そして現れた闇の誘い…。私はその闇にまんまと引き寄せられた。
しかし考えてみれば、あれこそが神からの試練。
あそこで誘惑を断つことこそが私の贖罪だったいうのに…」
「…つまり、アンタも会社の損失を狙って裏カジノに誘われて、
まんまと大損こいたってことでいいんだな?」
「ああっ…!どこから私の道は誤っていたのだろうか…。
学生時代、アルバイトでお客様のお釣りを間違えて多く渡してしまったからか…!
神はそのことをお怒りに…!」
怜央は呆れた顔で瞬きを繰り返すが、話がこじれることはなさそうだと踏み、話を収集させにかかる。
「いいか。神の遣いである俺が、お前の金を取り返してきてやる。
カジノにいくらつぎ込んだ?」
「…5億だ」
「(マジかよ…!!)
じゃあ、他のヤツらからも大体その3割を報酬…下界までの通行料としてもらうことになってる。
だから、1億5000万引かせてもらうぞ。…神は公平だからな」
「あぁ、赦しを得るためならば安いものだ。感謝仕る」
ザリフォスや落合と比べても破格の金額だ。
裏カジノを打倒できた暁には、Nextに合計2億7000万サークの報酬が支払われることになる。
まだカジノの場所すらも突き止めておらず、本番はここからだ。
「アンタをカジノに誘ったのは、坊主で眉の上に傷のある男か?」
怜央は心の内の希望を必死に押さえつけ、聞き込みを続ける。
「あぁ、あの悪魔の遣いか。間違いない、そのような風体だった」
現在確認できている限り、4人中3人は稲垣からの誘いのようだ。
「それとアンタ『マジシャンズ・スターダスト』って会員制サロン入ってねえか?
俺らはそこから元締めに情報が洩れてると踏んでる」
「それなら、つい昨日退会したばかりだ。あそこは悪魔の巣窟なのでな」
「何してんだ!今すぐ戻れ!」
「それはできない。退会者の再入会はルールで認められていないのでね」
簡単に出入りできないことそのものの価値、一度退会したら最後という会員への抑止の意味で、
このようなルールを設けるサロンは存在する。
ザリフォスも出入り禁止になった以上、頼みの綱は現状、雨宿以外にはいなくなった。
「悪いね。せっかく神が手を差し伸べてくれたというのに。
ちなみにだが、どのように元締めを倒すというのだね?」
「裏カジノに潜り込んで証拠を掴み、オースデュエルで要求を突き付ける。
一応、ヴェルテクス・デュエリア2次予選まで上がった人間が3人。
…内1人は本戦まで行ったこともある。まあ、安心しとけ」
怜央は少し不満気な顔でNextの実績を伝える。
「それは心強い。このまま事務所まで送るよ。いいね?」
「…?あぁ」
怜央は少し違和感を覚えたが、それ以上考えることなく車に揺られ、Next事務所へと向かった。
「助かった。アンタの金は必ず取り戻す」
事務所前で車を降りた怜央は、運転席のミロヴェアンに意志を伝える。
「あぁ。期待しているよ、鉄城怜央君」
「…なんだよ、知ってたのか」
怜央は一度も名乗っていないが、ミロヴェアンは彼のことを知っていた。
事務所のことなど話していないにも関わらずNextまで送ることができたのもそのためだった。
「実はヴェルテクス・デュエリアのマニアでね。
各予選までチェックしてるほどさ。
見る者の血を滾らせるような君のデュエルには心躍った。
そう思っていたところに君が現れた。まさに神の遣いのように見えたよ」
どうやら神が遣いをよこしたと本気で思っていたわけではないようだ。
車中で本気で神の遣いを演じていた恥ずかしさが、怜央の中で首をもたげてきた。
「…通行料はしっかりもらうぜ。またなんかあれば連絡する」
怜央は背中越しに手を挙げ、事務所へと入ってゆく。
そこには遊次・灯の姿もあった。
「状況をまとめよう。結局、マジシャンズ・スターダストに潜り込むのは、
雨宿に頼るしかなさそうだ。
彼女はまだ裏カジノに参加するつもりらしいし、それなら会員を辞めたわけではないだろう」
3人の報告を聞いたイーサンは、これからについて話を先導する。
「でも、雨宿さんは裏カジノで勝ち続けててマイナスがないから、俺らに協力する理由がない。
おまけに5000万を条件にしてもダメか…」
腕組みしながら遊次が深刻な表情を浮かべる。
「でも、雨宿さんはこれを私に残していった」
灯は雨宿の名刺を見せる。
「この道が途絶えたら、残るのはハイデンリヒさんからの前金300万だけ。
落合さんも、ザリフォスさんも、ミロヴェアンさんも、報われない。
悪は蔓延ったまま。それで満足できる人はいる?」
灯はテーブルを叩き、かつてない真剣さで全員を見回す。
手を挙げる者は誰もいない。
「なら…私に賭けて」
街のざわめきが緩やかに落ち着きはじめる時刻だった。
通りには灯りが点りはじめ、ガラス張りのビルが夕焼けをわずかに映している。
その一角、いくつもの道が交差する場所に、小さな広場がある。
石畳が敷かれ、中央には低い噴水が据えられている。
Nextの4人は広場の中央で、ある人物を待つ。
風と水の音だけが支配するその場所に、ハイヒールの足音が混ざる。
音のする方を見ると、雨宿真白の姿があった。
「あら、雁首揃えてお出迎えってわけね」
雨宿は変わらぬ余裕の態度だ。
「雨宿さん、あなたともう一度交渉しにきました。
裏カジノの元締めを倒すためには、あなたの協力が必要なんです」
灯の言葉に迷いはなかった。
雨宿も彼女の言葉に固い意志が込められていることをすぐに理解した。
「前も言ったでしょ。わたくしは裏カジノで勝ち越してるの。
よほどのことがなきゃ、掌を返す理由がないわ」
「でも、あなたはその"よほど"を求めてここに来た。そうですよね」
灯の言葉に雨宿は何も返さず、ただ薄く笑みを浮かべるだけだ。
「私達は他のカジノ参加者が失ったお金を取り戻すかわりに、
報酬として合計2億7000万サークを受け取ることになっています。
その上で、あなたと"契約"に来ました」
灯はデュエルディスクを取り出す。
「あなたがデュエルに勝てば、2億7000万、全てあなたのものです。
そして私が勝ったら…あなたの取り分は2億サーク。
これが私から提示する条件です」
「……へぇ。2億は確定ってわけ」
雨宿の言葉を灯は肯定も否定もしない。
沈黙が2人の間を流れる。
これこそが雨宿を繋ぎ止めるための最後の策だ。
5000万で動かなければ、出せるだけ金を出すしかない。
この案を切り出した時、最も反発が大きかったのは怜央だ。
2億7000万サーク…それをメンバーやアキトと事務所などそれぞれの取り分を引いたとしても、
子供達に残る金は十分彼らの将来を支え得る額だ。
しかし雨宿に最低2億を支払うことになれば、灯が勝利してもNextに残るのは7000万。
報酬の4分の1程度しか取り分がなくなってしまう。
それでも十二分に多額であるが、本来得られるはずの額を考えれば、怜央が惜しむのも理解できる。
だが、裏カジノを倒せなければ結局は何も得られない。
そのためには骨を折って肉を断つ覚悟が必要だった。
怜央自身も心の中ではそのことをわかっていた。
そして彼も覚悟を決め、灯の"賭け"に乗ることを決めたのだ。
「2億7000万、全額ベット!これで無理なら無理よ!
さあ、ノるの?オリるの!?」
灯が雨宿に指を突き付ける。
もし断られれば、打つ手はなくなる。
元締めへ辿り着くためのこれまでの調査は振出しに戻る。
「…コールよ。
ノらないわけないじゃない、こんな美味しいゲーム」
雨宿は恍惚の笑みを浮かべ、デュエルディスクを手にする。
契約成立だ。
(やっぱり、雨宿さんは最初からこれを狙ってたんだ。
自分しか頼りがいないことを察して、もっと金額を吊り上げられると踏んで…。
命こそ最大のチップなんて言ってたけど、
そのチップを賭ける価値のあるギャンブルなら、彼女はノる…)
灯は勘づいていた。これは雨宿の思惑通りであることを。
しかし、灯は悔しさを滲ませない。
その瞳は真っ直ぐと雨宿を捉えている。
そしてその眼差しの意味を雨宿は理解していた。
「あなたも食えない女ね。
あなたがオースデュエルに負けた時に払う2億…
これは裏カジノから取り返さなければ成立しないお金。
つまり、勝っても負けても、わたくしは元締め打倒に協力しなきゃいけない。
じゃなきゃ、デュエルに勝っても2億は手に入らないもの」
それこそが灯の思惑であった。
雨宿は勝っても負けても大金を得ることができるが、
その代償に灯は、勝っても負けても雨宿の協力を得ることができる。
「つまりこのデュエルは、残り7000万円を賭けた、純粋な"ギャンブル"。
そういうことになるわね」
雨宿が勝てば彼女に支払う額は成功報酬を合計した全額、2億7000万。
灯が勝てば支払うのは2億。
つまり7000万はNextの手元に残ることになる。
雨宿が勝てば、元締めを倒すことができても、Nextが得られるものは何もない。
その全て雨宿に奪われることとなる。
仮に2億7000万サークを失うとしても、
少なくとも依頼者と他のカジノ参加者の金を取り戻し、彼らの為に尽くすことはできる。
受けた以上はそれを果たさなければならない。
自分達の取り分がなくなるからといって、諦めるという選択肢は頭にない。
しかし、負ければこの依頼で繋がるはずだった子供達の未来やNextの発展への道は、無に帰す事となる。
この戦いは、皆がこれまで積み重ねてきた軌跡を、無駄にしないための戦い。
そして、未来へつなげるための戦いだ。
「私が勝った時は、1か月以内に雨宿さんに2億サークを支払う。
それと、法的な契約として私達に協力してもらう」
灯が敗北した場合も2億7000万サークは裏カジノを倒すことを前提としている以上、
雨宿は協力することになるが、そこに法的拘束力はない。
しかしそれでは、最悪の事態が起きた場合、雨宿は逃げることができるのだ。
そうなれば、灯には2億7000万の支払いの義務だけが残ることになる。
しかしオースデュエルによる契約として雨宿の協力を強制させれば、
協力を拒否すること自体が法律違反となる。
灯でデュエルで勝利することは、より作戦を確実にするためのものでもある。
「ええ、いいわ。私が勝った時には2億7000万サークを約束してもらう。
期限は1ヶ月。それがあれば十分よ」
雨宿もデュエルディスクを腕に装着し、構える。
これにて、灯の最後の賭け…オースデュエルが成立したこととなる。
「オースデュエルの開始が宣言されました。内容確認中…」
デュエルディスクに搭載されたAI「DDAS」が無機質な声を鳴らす。
プレイヤー1:花咲灯
条件①雨宿真白に対して1ヶ月以内に2億サークを支払う
条件②雨宿真白は違法カジノ打倒に協力する
プレイヤー2:雨宿真白
条件①花咲灯は雨宿真白に対して1ヶ月以内に2億7000万サークを支払う
詳細な契約内容は、ソリッドヴィジョンの契約書として両者の前に浮かび上がる。
そこには一切の別の解釈の余地がないほどに徹底された文章が記載されており、
承認した時点で、完全なる両者の意図通りの契約にしかならないようになっている。
灯と雨宿は指でソリッドヴィジョンの契約書にサインを行うと、
DDASがオースデュエルの開始を宣言する。
「契約内容を承認します。
デュエルの敗者は、勝者が提示した契約を履行する事が義務付けられます」
Nextの3人は、自分達や子供達の未来を変えるこのデュエルを、固唾をのんで見守る。
「デュエル!」
灯のデュエルディスクのランプが灯る。先行は灯だ。
「"俺"のターン!
自分フィールドに地属性モンスターがいない時、このモンスターは手札から特殊召喚できる。
来い、ペイントメージ・ショコラ!」
■ペイントメージ・ショコラ
効果モンスター
レベル2/地/魔法使い/攻撃力900 守備力1000
このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドに地属性モンスターが存在しない場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
②:フィールド上のモンスター1体を対象として発動できる。
デッキから地属性モンスター1体を除外し、そのモンスターを地属性に変更する。
フィールドには赤褐色に近い茶色の髪をしたポニーテールの小さな女の子のモンスターが現れる。
もこもことした質感のボンボンのついた服に身を纏い、茶色の絵の具のついた筆を持っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/TKnG29k
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「お、俺…?驚いたわね。でも、たまにいるわよね。
ギャンブルになると人が変わるタイプ」
「ただのクセだ。それにデュエルはギャンブルなんかじゃない」
「あら、7000万も懸けてるのに、ギャンブルじゃないっていうの?
たった一手で人生が変わる極限状態で、いかに冷静かつ大胆な判断ができるか…。
それこそが"ギャンブル"よ。今はまさにそういう状態」
極限状態。まさしくその通りだった。
雨宿に契約を突き付けた時から、灯の鼓動は高速でリズムを刻み、冷や汗が止まらなかった。
かつて遊次が2000万サークを賭けて詐欺師と戦った時、
灯は、なぜそのような決断ができるのかと精神を疑った。
しかし今、自分がその3倍以上の額を賭けて戦っている。
いくら裏カジノ打倒を前提にしているとは言え、
もし灯が負けた場合、雨宿はいつでも行方をくらますことができる。
そうなればただ2億7000万の負債だけがNextに残ることになる。
子供達の未来どころではない。自分達の未来すらも閉ざされてしまう。
その重圧が今、灯の肩にのしかかっている。
(考えすぎちゃダメ…!冷静にならなきゃ…)
しかし、これは自ら背負った戦いだ。決して挫けるわけにはいかない。
遊次はその背中を、苦しい眼差しで見つめている。
灯にとってこの戦いがどれほど心に重圧を与えているか、痛いほどわかった。
しかし、彼女が自ら申し出たこの賭けに、水を差すわけにはいかない。
できることは、ただ彼女を信じることだけだ。
灯は必死に集中状態を保ちながら、手札のカードを手に取る。
「フィールドにペイントメージがいる時、
ペイントメージ・パレットを手札から特殊召喚できる!」
■ペイントメージ・パレット
効果モンスター/チューナー
レベル2/光/魔法使い/攻撃力900 守備力500
このカード名の①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。
①:自分フィールドに「ペイントメージ」モンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
②:このカードをS素材としたモンスターは以下の効果を得る。
●このカードはこのカードと同じ属性のモンスターの効果の対象にならない。
現れたのはパレットの形をしたモンスター。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/23VcX92
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「レベル2『ペイントメージ・ショコラ』に、
レベル2『ペイントメージ・パレット』をチューニング!」
「無邪気な彩が、鮮やかな勝利への道を描く。美しき終わりを飾る作品となれ。
シンクロ召喚!レベル4、シンクロチューナー!
ペイントメージ・カードル!」
■ペイントメージ・カードル
シンクロモンスター/チューナー
レベル4/光/魔法使い/攻撃力1700 守備力2000
チューナー + チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:相手のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。
このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。
②:自分・相手ターンにフィールドの「ペイントメージ」モンスター1体を対象として発動できる。
自分の除外状態の「ペイントメージ」モンスターを任意の数だけデッキに戻し、
その枚数分、ターン終了時までそのモンスターのレベルを上げるか下げる(最小1まで)。
③:このカードをS素材としたモンスターは以下の効果を得る。
●1ターンに1度、このカードと同じ属性を持つ相手フィールドのモンスター1体を
対象として発動できる。そのモンスターを除外する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
現れたのは1.5メートルほどの大きさを持つ額縁のモンスター。
中央には彫りの深い凛々しい目を瞑った女性の顔がついている。
枠は深いマホガニー色をしており、木目の細かい彫刻が丁寧に施されている。
縁には金色の装飾が施され、高級感を漂わせており、角の部分には銀色の飾りがついている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/4dBZhzU
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「さらに手札から『ペイントメージ・ミュール』を召喚!」
■ペイントメージ・ミュール
効果モンスター
レベル2/闇/魔法使い/攻撃力900 守備力500
このカード名の①②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが除外された場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
このターン、そのモンスターは効果を発動できない。
②:フィールド上のモンスター1体を対象として発動できる。
デッキから闇属性モンスター1体を除外し、そのモンスターを闇属性に変更する。
現れたのは、三角帽子を被った、短い紺色の髪をした少年のモンスターだ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/rPOxkSq
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「レベル2闇属性『ペイントメージ・ミュール』に、
レベル4シンクロチューナー『ペイントメージ・カードル』をチューニング!」
「纏わりつく漆黒の闇が、安寧を憂鬱に塗り替える。
シンクロ召喚!『ペイントメージ・ムンク』!」
■ペイントメージ・ムンク
シンクロモンスター
レベル6/闇/魔法使い/攻撃力2400 守備力800
チューナー + チューナー以外の闇属性モンスター1体以上
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:フィールド上のモンスター1体を対象とし、属性を1つ宣言して発動できる。
デッキから宣言した属性のモンスター1体を除外し、選んだモンスターは宣言した属性になる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
②:このカードと同じ属性を持つ相手の墓地のモンスターが効果を発動した場合、
またはこのカードと同じ属性を持つ相手の墓地のモンスターを対象とする効果が発動した場合に発動できる。
その効果を無効にし、対象となった相手の墓地のモンスターを除外する。
現れたモンスターは、真っ黒なロングコートを纏った若い男のモンスターだ。
髪は黒く、前髪が片目を隠している。
鋭い目には黒いアイラインが引かれ、病的な雰囲気を醸し出している。
右手には銃を握っており、まるで筆のようなデザインだ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/hw4EFqv
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「ムンクは、自身と同じ属性のモンスターの墓地効果、
または墓地の同じ属性のモンスターに及ぶ効果を無効にできる。
さらにペイントメージ・カードルを素材にしていることで、
1ターンに1度、同じ属性の相手モンスター1体を除外できる。俺はこれでターンエンド」
--------------------------------------------------
【灯】
LP8000 手札:2
①ペイントメージ・ムンク ATK2400
(カードルを素材にしたことで除外効果を持つ)
【雨宿】
LP8000 手札:5
魔法罠:0
--------------------------------------------------
「わたくしのターン!
『貨神の幸姫 ラクシュメリラ』を召喚!」
■貨神の幸姫 ラクシュメリラ
効果モンスター
レベル3/光/魔法使い/攻撃力1200 守備力800
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分メインフェイズに発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、手札から「貨神」モンスター2体を特殊召喚する。
ハズレの場合、自分のデッキの上からカード10枚を除外する。
②:このカードをリリースして発動できる。
デッキから「貨神」モンスター1体を特殊召喚する。
現れたのは紫色に金のメッシュが入った小さな女の子のモンスターだ。
服にはコインが散りばめられ、額にも一つのコインが輝く。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/4rQ5v4h
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「ラクシュメリラの効果発動。
1ターンに1度、コイントスを行い、
わたくしが裏表を当てたら、手札から『貨神』モンスターを2体特殊召喚できる。
ただし外したら、わたくしはデッキの上から10枚除外しなくてはならない」
「コイントス…デッキまでギャンブルってわけか」
遊次は思わず呟く。
雨宿のデッキはあまりにも彼女の性質を表しすぎていた。
「強力な効果だが、デメリットは大きい。
展開に必要なパーツが除外されれば、それだけで勝敗を揺るがしかねない」
デメリットも小さくない以上、決して使い勝手の良い効果とは言えない。
あまりにも安定性に欠けるカードに、イーサンは疑問符を浮かべる。
「わかってないわね。だから面白いんじゃない。さあ、いくわよ」
デュエルディスクの側面から一つ眼の描かれた金のコインが飛び出すと、
雨宿はそれを右手の親指に乗せる。
「…裏」
雨宿が表裏を宣言する。
50%の確率であるはずだが、灯はどこか確信めいたものを秘めているような声色に思えた。
親指がコインを弾く。
ライトを反射しながら、黄金のコインが空中で表・裏・表…と回転する。
そして重力によって落下したコインは、雨宿の掌に握られる。
掌が開かれると、コインの表面には何も描かれていなかった。
「裏。アタリね。
手札の『貨神』モンスターを2体特殊召喚する。
来なさい『貨神の使者 ギルメス』
『貨神の術士 ミドラス』」
現れたのは黒い鎧を纏った白い翼を持つ、黒髪の男のモンスターと、
ローブを纏った老いた魔術師のモンスターだ。
2体ともコインの意匠を持つ装備を纏っている。
ギルメス:ttps://imgur.com/a/6OaNSvm
ミドラス:ttps://imgur.com/a/cRxw9jH
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「ギルメスが特殊召喚した時、デッキから『貨神』モンスターを1体手札に加えられる。
『貨神の守護者 アルベリッチ』を加えるわ」
■貨神の使者 ギルメス
効果モンスター
レベル3/光/天使/攻撃力1500 守備力1400
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「貨神」モンスター1体を手札に加える。
②:このカードが墓地に存在する場合に発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、墓地のこのカードを特殊召喚し、
デッキから「貨神」モンスター1体を特殊召喚する。
ハズレの場合、墓地のこのカードを除外する。
どうやら雨宿は「貨神(かがみ)」と名のつくデッキを使用するようだ。
フィールドに現れたモンスターは全てレベル3。
そのことに怜央がいち早く気付き、少し眉を上げる。
灯も雨宿のモンスターを見つめ少しの間考える様子を見せるが、何もせずに優先権を渡す。
ムンクはS素材にしたカードルによって除外効果を得ているが、ここでは使わないようだ。
「お前のモンスターはどうやら光属性で統一されてるらしい。
ならば、ここでペイントメージ・ムンクの効果発動!
デッキからモンスターを1体除外することで、
フィールドのモンスターを除外したモンスターの属性に塗り替える!
『ペイントメージ・クレーム』を除外して、自身を光属性に!」
ムンクは銃を高々と上に掲げると、一発、天へ引き金を引く。
天からはキラキラとした光がムンクへと降り注ぎ、ムンクの髪や服は黄色へと変わってゆく。
「さらに除外されたペイントメージ・クレームの効果発動。
このカードが除外された時、デッキから『ペイントメージ』チューナー1体を特殊召喚できる。
来い、ペイントメージ・トワール!」
■ペイントメージ・トワール
効果モンスター/チューナー
レベル2/地/魔法使い/攻撃力500 守備力1000
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが墓地に存在し、自分フィールドに「ペイントメージ」モンスターが存在する場合に発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのモンスターがフィールドを離れた場合、除外される。
②:このカードをS素材としたモンスターは以下の効果を得る。
●このカードの攻撃力はフィールド上のモンスターの属性の数×300ポイントアップする。
真っ白のキャンバスに、くりっとした目と赤い頬が絵の具で描かれたモンスターが守備表示で現れる。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/8mTBAsH
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「(これで雨宿さんの墓地のモンスター効果か、墓地のモンスターを対象とする効果を無効化できる。
さらにフィールドのモンスターも除外できるようになった。あとはそれをいつ使うか…)」
相手に属性を合わせたことで、灯は2妨害を構えたことになる。
肝心なのはその使いどころだ。現在は下級モンスターが3体並んでいるが、
その内の1体を除外したところで恩恵は少ない。使いどころは更に先にあると灯は考える。
「わたくしはラクシュメリラとギルメスでオーバーレイ!
2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」
2体のモンスターがフィールドに現れた黒い渦に飲まれてゆく。
「やっぱエクシーズか…」
怜央の目は鋭さを増す。
「天に選ばれし女神よ、我が手に託された輝きを従え、
定められし因果を跳ね返せ!」
「エクシーズ召喚!おいでなさい!
ランク3『貨神の預言 フォルナリス』!」
■貨神の預言 フォルナリス
エクシーズモンスター
ランク3/光/魔法使い/攻撃力1900 守備力2200
レベル3モンスター×2
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがX召喚した場合に発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、自分はデッキから2枚ドローする。ハズレの場合、自分の手札を2枚捨てる。
②:自分フィールドの「貨神」モンスターが相手の効果の対象になった場合、
このカードのX素材を一つ取り除き、
このカード以外のフィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、その効果を対象のモンスターに移し替える。
ハズレの場合、このカードのX素材を取り除くことで、コイントスをやり直すことができる。
③:自分の「貨神」モンスターが攻撃対象になった場合、
このカードのX素材を一つ取り除いて発動できる。
コイントスを1回行い、裏表を当てる。当たった場合、その攻撃を無効にする。
ハズレの場合、このカードのX素材を取り除くことで、コイントスをやり直すことができる。
現れたのは、金貨のようなドレスを纏った女性の魔法使いだった。
右手には杖を携え、自信に満ちた笑みを浮かべている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/XZADpn3
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「このカードがX召喚した時、効果発動!
コイントスを当てれば2枚ドローし、外せば手札を2枚捨てる」
またもリスクとリターンの釣り合ったコイントス効果だ。
雨宿のデッキはやはりギャンブル性が高いようだ。
雨宿が親指にコインを乗せる。
「表」
裏表の宣言の後、雨宿の親指がコインを弾く。
落下するコインを雨宿が握り、開くとコインは表を指していた。
「フフ、アタリ。わたくしはデッキから2枚ドローする」
「(またアタリ…。いや、たまたまに決まってる。
こんな偶然に動揺しちゃダメ)」
2連続アタリを引かれた灯は、必死に頭の中で言い聞かせる。
しかしそれでも、ただの偶然に自分達の未来が左右されると考えると、もやもやは募る一方だった。
「『貨神の預言 フォルナリス』がいる限り、
『貨神』モンスターを対象とする効果が発動した時、コイントスを当てれば、
その効果を別の対象に移し替えることができる。もちろん、相手モンスターにもね」
「それと、『貨神』モンスターが攻撃された時、コイントス次第でそれを無効にすることもできる。
さらにコイントスをハズしても、X素材を更に取り除けば再チャレンジができる。
つまり、X素材があればあるだけ、わたくしの有利になるってこと」
「それじゃ、ペイントメージ・カードルを素材にしたムンクの除外効果が、
コイントス次第で跳ね返されちまう…」
遊次は腕を組み、厄介な雨宿のモンスター効果に頭を悩ませる。
「俺もアンタと同じギャンブルの席に着かされた…ってわけか」
灯の言葉に雨宿は不敵な笑みを浮かべる。
「さあこの調子でジャンジャンいくわよ。
『貨神の術士 ミドラス』の効果発動!
コイントスを当てれば、わたくしはデッキから2体の『貨神』モンスターを呼び出せる。
ただし外せば自分自身を墓地に送る」
■貨神の術士 ミドラス
効果モンスター
レベル3/光/魔法使い/攻撃力1100 守備力1500
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分メインフェイズに発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、デッキから「貨神」モンスター2体を特殊召喚する。
ハズレの場合、フィールドのこのカードを墓地へ送る。
②:墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「貨神」Xモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
「わたくしは表を宣言」
雨宿がコイントスをする。
空中で回転するコインを、灯は不安の眼差しで見つめる。
雨宿がコインを握り、掌を開くと、面には何も描かれていなかった。
「あら、ハズレね。残念。今日はツイてるかと思ったのに。
『貨神の術士 ミドラス』は墓地に送られるわ」
ミドラスは金色の光の粒となって消えてゆく。
灯は大きく息を一つ吐く。
「(よかった、やっぱり外れることもあるんだ。
結局運任せなら、悩んでもしょうがないよね)」
当然のことではあるが、一つ大きな心配が消えたような気がした。
それはNextの3人も同じだった。
「ゲームはまだこれからよ。フィールドに『貨神』モンスターがいる時、
手札の『貨神の守護者 アルベリッチ』を特殊召喚できる」
■貨神の守護者 アルベリッチ
効果モンスター
レベル3/光/戦士/攻撃力1400 守備力1200
このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドに「貨神」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
②:相手フィールドのモンスター1体と、
自分フィールドの「貨神」Xモンスター1体を対象として発動できる。
コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、対象の相手モンスターを、対象の自分Xモンスターの下に重ね、X素材とする。
ハズレの場合、対象の自分XモンスターのX素材を1つ取り除く。
X素材が1つも存在しない場合、そのXモンスターを墓地へ送る。
現れたのは、小柄ながらも屈強な肉体を持つドワーフのようなモンスターだ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/eelQk6X
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灯はデュエルディスクを通してそのモンスターの効果を見ると、驚愕する。
「(コイントスが成功すれば、私のモンスターをX素材に…!?
もしこれが通れば、ムンクは何もできないまま素材にされる…)」
「(ここでムンクの効果でアルベリッチを除外すれば、最悪は避けられるかも。
でも、雨宿さんのフィールドにはあのXモンスターがいる。
除外効果を跳ね返されれば、結局は同じ…)」
突然突き付けられた選択に、灯の表情は迷いに曇る。
「(…あのXモンスターは素材を取り除いて、コイントスをやり直せる。
つまり、除外効果を使っても、跳ね返される確率は75%。
対してアルベリッチでムンクが素材にされる確率は50%。ここは耐えるしかない…!)」
灯は理性的に答えを出し、雨宿に優先権を渡す。
アルベリッチの効果を恐れて除外効果を使おうものなら、
更に高い確率でもっと恐ろしい結末を招きかねない。
逆にアルベリッチの効果のコイントスを外せば、デメリットによってX素材を1つ失うこととなる。
そうなれば除外効果を反射される確率が下がるという恩恵もある。
灯の選択に間違いないはなかった。
「アルベリッチの効果発動!コイントスを当てれば、
あなたのフィールドのモンスター1体を、わたくしのXモンスターの素材にすることができる。
ただし外せば、わたくしのモンスターのX素材は1つ減る」
「宣言するのは表」
このターン、すでに4度目のコイントスだ。
一同は緊張した面持ちでコインを見つめる。
雨宿がコインを指で打ち上げ、それを掴んで、掌を開く。
「…裏ね。ざぁんねん。その厄介なモンスターを消すチャンスだったのに。
代償として、フォルナリスのX素材を1つ取り除く」
灯達は胸を撫で下ろした。結果的には灯にメリットがもたらされたが、
運否天賦に身を任せ続けることに、じわじわと精神的な疲労が積み重なってゆくのがわかった。
「でもタダじゃ転ばないわ。コイントスを外したターン、
手札から『貨神の金帝 クロイゼルス』を特殊召喚!」
■貨神の金帝 クロイゼルス
効果モンスター
レベル3/光/魔法使い/攻撃力1200 守備力1300
このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:コイントスでハズレが出たターン、このカードは手札から特殊召喚できる。
②:自分の墓地の「貨神」モンスター2体を対象として発動できる。
コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、対象のモンスター2体を特殊召喚する。
ハズレの場合、対象のモンスター2体を除外する。
③:自分の墓地の「貨神」モンスター1体を対象として発動できる。
そのカードを手札に加える。
現れたのは玉座に座る老齢の王。
コインを両手に掲げ、下品な笑みを浮かべている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/S7MGFol
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
フィールドには再びレベル3モンスターが2体揃った。
不安定なコイントスを主軸にここまで展開できるのは、
それはリスクを背負いながら、いとも簡単に賭けに出る雨宿の精神力の成せる技だった。
「『貨神の金帝 クロイゼルス』の効果発動。
1ターンに1度、墓地の『貨神』モンスター1体を手札に加えることができる。
墓地の『貨神の使者 ギルメス』を手札に戻すわ」
(この効果はムンクの効果で無効にできる。
でもクロイゼルスにはコイントス次第で墓地のモンスターを2体蘇らせる効果もある。
なら、無効効果はここで使えない)
灯は冷静に状況を見極める。
「ここからが本番よ。
『貨神の守護者 アルベリッチ』と『貨神の金帝 クロイゼルス』でオーバーレイ!
2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」
2体のモンスターは黒い渦へと呑まれてゆく。
(クロイゼルスの蘇生効果を使わない…!?
不必要な賭けはしないか…!)
クロイゼルスの墓地からモンスターを特殊召喚する効果は、
ムンクで無効にされると踏んで使用しなかったのだろう。
無効にされれば対象になった墓地のモンスターが除外される。それを嫌ったのだ。
「愉悦と痛み、表裏一体の輝きを掌握し、我が道に栄華を授けよ!
エクシーズ召喚!ランク3『貨神の天恵 プルートリオン』!」
■貨神の天恵 プルートリオン
エクシーズモンスター
ランク3/光/魔法使い/攻撃力2000 守備力1000
レベル3モンスター×2
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードのX素材を一つ取り除いて発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、このカードの攻撃力は2000アップする。
ハズレの場合、自分は2000ダメージを受ける。
②:自分メインフェイズに発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、デッキの「貨神」モンスター1体を選び、そのカードをこのカードの下に重ねてX素材とする。
ハズレの場合、手札の「貨神」モンスター1体を選び、そのカードをこのカードの下に重ねてX素材とする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
③:このカードが相手によって破壊された場合に発動できる。
このカードが持っていたX素材1つにつき、相手に1000ダメージを与える。
現れたのは、黄金の鎧に身を包んだ悪魔のような顔を持つモンスター。
不気味な笑みを浮かべ、手には巨大な斧を携えている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/KvyRRXB
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「プルートリオンの効果発動。1ターンに1度コイントスを行い、
当たればデッキから、外れれば手札から、『貨神』モンスターをX素材とすることができる。
宣言するのは…表」
灯はここまでの数多のコイントスに辟易しながら、
またも打ち上げられるコインを見つめる。
「…裏ね。しょうがないわ。手札の『貨神の持世 ヴァスダロス』を素材とする」
プルートリオンの周囲を廻る光球が一つ増える。
「ここからがお楽しみよ。プルートリオンの効果発動!
オーバーレイユニットを1つ使い、コイントスを行う。
当てればこのモンスターの攻撃力は2000アップする。
ただし外せばわたくしは2000のダメージを受けるわ」
雨宿は心底楽しそうな表情でコインを手に取る。
「…宣言するのは裏!」
雨宿の指がコインを弾く。
落ちてきたコインを勢い良く掴み、掌を裏返す。
「…裏ね。よって、プルートリオンの攻撃力は2000アップする!」
貨神の天恵 プルートリオン ATK2000 → 4000
「さらに、プルートリオンのこの効果はX素材がある限り何度でも発動できる!」
「なんだと…!?」
遊次達は目を丸くし、驚きの声を上げる。
「もしあと2回ともコイントスを当てれば攻撃力は8000…」
ただのランク3と侮ることのできないプルートリオンの効果に、イーサンは警戒心を強める。
「さあ、続いていくわよ!プルートリオンの効果発動!
オーバーレイユニットを1つ使い、コイントスを行う!
次も裏よ!裏に決まってる!」
雨宿は狂気的な目でコイントスを宣言する。
それはまさしくギャンブルに精神を囚われた者の目だった。
雨宿の指が先程よりも強くコインを弾く。
乱れた軌道で弧を描くコインを、雨宿は前のめりに掴む。
「…ハハッ!裏裏裏ァッ!!攻撃力はさらに2000アップする!」
貨神の天恵 プルートリオン ATK4000 → 6000
完全にハイになった雨宿は高笑いしている。
(このままじゃマズい…)
雨宿の勢いに飲まれそうになるのをなんとか耐え凌ぎ、灯は戦意を保ち続ける。
「さあ3回目よ。プルートリオンの効果発動!
宣言するのは"表"よ!」
まるで当てるのが当然と言わんばかりに、雨宿の声は自身に満ちていた。
雨宿がコインを弾き、落ちてきたところを強く掴む。
灯は無意識的に、その掌の中には表向きのコインが輝いているような気がした。
そんな嫌な想像を振り払うように首を振り、雨宿の手を凝視する。
掌が開かれる。
「…残念、裏ね。わたくしは2000のダメージを受けるわ」
プルートリオンが振り向き、雨宿の方を向くと、
手にしている斧を雨宿に振り下ろす。
「ッ…!」
雨宿 LP8000 → 6000
予想に反してあっけなくコイントスを外した雨宿に、
一同は拍子抜けした気持ちになる。
「…普通に外すんじゃねえか。勢いに飲まれんな、灯」
雨宿が場を支配しているような錯覚をしていた自分に呆れ、怜央は溜め息を一つつく。
「うん、そうだね。怖がる必要なんてない」
(これなら、無理にムンクの除外効果を使わなくても問題ない)
フォルナリスの効果反射というリスクに挑まずとも、
灯が負うダメージは少ない。ならば無理な勝負を挑む必要はない。
灯も次第に自信を取り戻してゆく。
「…慢心。油断。その感情がギャンブルにおいて最大の敵よ」
雨宿は俯きながら薄ら笑いを浮かべ、低い声で呟く。
「でも、もうプルートリオンのX素材はない。
元手がなきゃ賭けには参加できないだろ」
雨宿に押されぬように灯は強気の言葉で返す。
「…元手がないなら作ればいいじゃない」
雨宿は手札から1枚のカードを取り出し、妖しい笑みを浮かべる。
「永続魔法『貨神の種火』発動!」
■貨神の種火
永続魔法
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの「貨神」Xモンスター1体を対象として発動できる。
手札または自分の墓地から「貨神」モンスター2体を対象のXモンスターの下に重ね、X素材とする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
②:自分メインフェイズに発動できる。
デッキから「貨神」モンスター1体を墓地へ送る。
③:相手が魔法・罠カードの効果を発動した場合に発動できる。
コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、その効果を無効にする。
自分フィールドに「貨神」Xモンスターが存在する場合、その内1体を選び、
無効にしたカードをそのモンスターの下に重ねてX素材とすることができる。
「貨神の種火の効果発動。1ターンに1度、デッキから貨神モンスター1体を墓地へ送る。
『貨神の軍師 コンソリドス』を墓地へ送るわ」
「さらに貨神の種火の効果発動!
貨神Xモンスター1体を対象に、墓地か手札から2枚の貨神モンスターをX素材にすることができる。
墓地のモンスターを対象にしたら、ムンクの効果で無効にされちゃうのよね。
なら、手札の『貨神の鋳導 ヒエロスタテス』と『貨神の使者 ギルメス』を、
プルートリオンの素材とする!」
プルートリオンの周囲を2つの光球が廻り始める。
「手札を2枚削ってまでギャンブル続行か…!」
「賭けるために増やしたんだもの。使わなきゃもったいないじゃない。
プルートリオンの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、コイントスを行う!
宣言するのは裏!」
雨宿はコインを指で弾き、それを空中で掴む。
「…あら残念、表ね」
プルートリオンは再び雨宿に斧で一太刀を浴びせる。
雨宿 LP6000 → 4000
「…こんな大事な戦いを運に任せるなんて、馬鹿げてる。私には理解できない」
灯はまたも自らライフを減らすこととなった雨宿に、冷たい視線を向ける。
「運任せ?それは違うわ。何事にもリスクとリターンがあるの。
今回はただコインの表と裏でそれが決まるというだけ。
言ったでしょう、人生も結局はギャンブルなの」
「勝負とは無縁の世界で、ぬくぬく育ったお嬢さんにはわからないでしょうね。
たった一手で人生が終わるという瞬間を、何度も乗り越えてきた人間の強さを」
雨宿はプルートリオンの下に重ねられた最後の1枚の素材を取り除く。
「プルートリオンの効果発動!コイントスを行う!宣言するのは…表!」
コインが弾かれる。Nextの4人は弧を描いて落下するコインを真剣な目で見つめる。
コインは雨宿の掌に落ちる。
「…表。プルートリオンの攻撃力は2000アップする!」
貨神の天恵 プルートリオン ATK6000 → 8000
「攻撃力8000…!」
--------------------------------------------------
【灯】
LP8000 手札:2
①ペイントメージ・ムンク ATK2400 光属性に変更
(カードルを素材にしたことで除外効果を持つ)
②ペイントメージ・トワール DEF1000
【雨宿】
LP4000 手札:1
①貨神の預言 フォルナリス ATK1900 X素材:1
②貨神の天恵 プルートリオン ATK8000 X素材:0
永続魔法:貨神の種火
--------------------------------------------------
灯は黄金のオーラを纏うプルートリオンの姿を見つめる。
その瞳には焦りが滲んでいた。
「わたくしの墓地の『貨神の軍師 コンソリドス』は、
自分の貨神モンスターが相手モンスターを破壊した時、もう1度攻撃できる効果を持つ。
ただし戦闘ダメージを与えている場合、次の攻撃ではダメージを与えられないけどね。
それでも、このままいけば、あなたは合計7500ものダメージを受けることになる」
プルートリオンでムンクを攻撃し、コンソリドスの墓地効果でトワールを破壊後、
フォルナリスによる直接攻撃で、7500のダメージとなる。
灯のペイントメージ・ムンクは墓地でのモンスター効果を無効にできるが、
コンソリドスはモンスターが破壊された時に発動する効果だ。
つまりムンクが戦闘によって破壊された後に発動されるため、ムンクでは無効にできない。
「さらにプルートリオンは破壊された時、コイントスを行い、
当てれば持っているX素材の数×1000のダメージを相手に、外せば自分に与える効果を持つ。
それにプルートリオン自身の効果と永続魔法によって、相手ターンでもX素材を補給できる。
どういう意味かわかるわよね?」
雨宿は勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべる。
対する灯は眉をひそめ、険しい表情をしている。
「プルートリオンの攻撃を通せば、灯のライフはたった500…。
命を繋ぎとめることはできても、プルートリオンを破壊しようものなら、
50%の確率で灯はダメージを負って、負ける…」
イーサンが灯の置かれた状況を整理する。
「その通りよ。でも、あなたがライフを削られない方法が1つだけあるわよね」
雨宿はいじらしく笑う。
「…あるにはあるけど、それは…」
遊次は灯の心中に思いを馳せ、その背中を見つめる。
「カードルを素材にしたムンクは1ターンに1度、相手モンスターを除外できる。
その効果でプルートリオンを除外できれば、私はダメージを回避できる。
でもその効果は、フォルナリスによって、コイントス次第で私に跳ね返る」
「フォルナリスのX素材は1つ。50%の確率で除外効果は跳ね返される。
もしそれでムンクが除外されれば…
私はプルートリオンの攻撃力8000のダイレクトアタックを受けて、負ける」
これこそが今、灯が置かれた状況だった。
このままでは灯のライフは500まで削られてしまう。
それを回避するためには、50%の運否天賦に賭けるしかない。
だが、もし雨宿がコイントスを当て、ムンクの除外効果が跳ね返されれば、
攻撃力8000のプルートリオンの直接攻撃が灯を襲うこととなる。
「"瀕死"を回避するためには、"死"のリスクを負わなければならない。
さあ、あなたはこの"ギャンブル"にノるのかしら?」
雨宿はいじらしく、そして心底楽しそうな声で灯を煽る。
ギャンブルを理解できないと言った灯自身が、
今まさに、ギャンブルのテーブルに着かされている。
その姿が面白くて仕方ないのだろう。
「このバトルフェイズで、あなたは2億7000万を失うかもしれない。
コール・オア・フォールド。決断するのはあなたよ」
雨宿は人差し指を灯に突き付ける。
「バトル!『貨神の天恵 プルートリオン』で
『ペイントメージ・ムンク』に攻撃!」
プルートリオンが斧を両手で構え、今にも攻撃を放とうとしている。
瀕死か、無傷か、はたまた"死"か。
全ては、灯の選択に懸かっている。
第41話「生粋のギャンブラー」 完
攻撃力8000のプルートリオンの攻撃に対して、灯はとある決断をする。
7000万サークはNextに残るのか、雨宿に奪われるのか。
勝負の行方は、1枚のコインに託される。
「皆は、私に"賭けて"くれた!
だから私も、今ここで全てを賭ける!」
次回 第42話「運命のコイントス」
信託会社役員「落合」が会社の損害を補填するために裏カジノへ挑んだが、
惨敗し、更には裏カジノへ出入りしている事実を盾に脅迫され、金銭を要求されている。
それを打破するのがNextの仕事だ。
その成功報酬はなんと3000万サーク。
この破格の依頼を成功させれば、子供達の未来や、Nextの発展に繋がる。
探偵「伊達アキト」が過去、デュエリアの諜報機関「DIEB」に所属していたことも明らかとなり、
その時に使用していたデータを利用する事で、わずか1日で他のカジノ参加者3名の正体を突き止める。
遊次は参加者の1人「ザリフォス」に直接交渉し、彼が失った金も取り戻すことに。
その分、Nextには追加で9000万サークの成功報酬が支払われることとなった。
想像を遥かに超える多額の金の重みに震える遊次だが、意を決して戦う覚悟を決める。
また、裏カジノの元締めが情報収集に利用していたのは
会員制高級サロン「マジシャンズ・スターダスト」であることがほぼ確定。
そしてアキトの名推理により、元締めは標的を自然に酩酊させ、
情報を引き出していることがわかった。
そして現在、灯は、カジノ参加者の1人「雨宿真白」を尾行中だ。
カフェでの打ち合わせを終え、1人で店外へと出た雨宿へ、灯が緊張した面持ちで向かう。
雨宿は角を曲がり、表通りから一本入った生活路へと足を踏み入れた。
道幅は狭く、左右には小さなオフィスや住宅が肩を寄せ合って並んでいる。
通りを歩く人の姿は見当たらない。風の抜ける音と、足音だけが耳に残る。
目の前の雨宿が突然、歩みを止めた。
灯はびくっと体を震わせ、近くの物陰に隠れる。
「出てきなさい。わたくしに用があるんでしょ?」
雨宿が後ろを振り向き、周囲に強い視線を向ける。
それは明らかに、灯に向けて放たれた言葉だった。
一呼吸置き、灯は物陰から雨宿の前に立つ。
「あら、かわいいストーカーさんね。男だったら訴えてたところだけど」
雨宿はかけていたサングラスを外し、余裕の態度で灯を見つめる。
「雨宿さん、あなたにお話があります。裏カジノのことで」
灯が単刀直入に本題に入ると、雨宿は目を丸くした。
まさかそんな話題が飛んでくるとは思っていなかったようだ。
「…驚いたわね。あなたも参加したいなら紹介してあげてもいいけど?」
「それをお願いしにきたんです。
ただし、カジノに参加するためではなく、元締めを倒すために」
数秒間の静寂の後、雨宿が乾いた笑い声をあげる。
「ハハハッ!面白い子ね。
でもそれ、わたくしに何のメリットがあるのかしら?」
「他の参加者達は、自分の会社に大きな損失が出たタイミングで裏カジノに誘われて、
そこで更に多額のお金を取られました。
さらに、裏カジノに出入りしていることを種に、脅迫までされています。
雨宿さんも同じなんじゃないですか?」
雨宿は一瞬考える様子を見せたが、「フフッ」と嘲笑するような笑みを浮かべる。
「あぁ、負け犬はそういう目に遭うのね。知らなかったわ。
でも残念。わたくし、あのカジノで"勝ってる"もの」
「えっ…」
全く予想していない展開だった。
悪質な裏カジノ故、参加者は当然負けているものとばかり思っていたからだ。
「確かに、きっかけはわたくしが投資で"ちょっと"失敗したことを嗅ぎ付けたからでしょうね。
でもそんな損失、とっくに取り戻してるの。むしろプラスよ」
灯は頭が真っ白になった。なんとか頭をフル回転させ、言葉を紡ぎ続ける。
「そんなの、向こうが許すわけない!
他の人みたいに、脅迫されるだけです!」
「脅迫なんてなんにも怖くないわよ。
わたくしは何も背負ってない、孤独の投資家。
会社を持ってるなら社員全員に影響するし、辞任も余儀なくされるでしょうね。
でもわたくし1人が捕まっても、それで終わり。
むしろそのことで裏カジノの存在に警察が気付いちゃうわよね。
向こうはそんなリスク冒さないわ」
会社の重要役職であれば、裏カジノに出入りしていた事実によって、
自分の立場と会社への不信・損害を招くことになる。故に脅迫が成立する。
しかし雨宿のような個人投資家は揺らぐ立場も信用もない。
脅迫にさほど効果はなく、むしろ警察に裏カジノの存在を知らせるデメリットの方が強いだろう。
「で、でも…脅迫だけじゃないかもしれません!
相手は裏社会の人間です。もっと危険な手に出るに決まってます!」
「なんでぇ?大抵の参加者は負けるのだから、カジノ側の収支は圧倒的にプラスよ。
わたくし1人が勝ったところでカジノ側は痛くも痒くもないわ。
そんな危険な真似するわけないじゃない」
灯が捻り出した反論は全て一瞬にして撃ち落とされた。
彼女の理屈の方が正しい。
カジノは当然、勝者がいなければ誰も参加しない。
誰もが一部の勝者になろうと、ギャンブルの荒波に身を投じるのだ。
そして彼女こそがその「一部」だ。そんな彼女に、用意してきた言葉は通用しない。
「協力してくれなければ…あなたが裏カジノに出入りしていた事実を、警察に言います。
それでもいいんですね?」
灯にとっても、少し心苦しい選択だった。
これはつまるところ、脅迫。
しかし、すでに手段を選んでいられない状況だった。
「…あぁそう。どうぞ?」
雨宿は目の前で両手をくっつけ、前に出す。
まるで、手錠をかけてくださいと言うように。
「なっ…」
最後の手段も、あっけなくかわされたことに、またも灯は戸惑いを見せる。
「い、いいんですか?逮捕されちゃうんですよ!?」
「それができるなら、最初からしてるんじゃないかしら?
できない事情があるから、私に交渉しにきたんじゃなくて?」
雨宿は、差し出した両手首をぱたぱたと開いたり閉じたりして、
蝶々が舞うような仕草をしてみせる。
灯は言葉を返すことができなかった。完全なる図星だからだ。
しかし、それでも灯は食い下がるのをやめない。
「…悔しいけど、あなたを頼りにしてるのは事実です。
でも、あなたが要求を拒んだら、どうせ元締めには近づけない。
だったら、警察に突き出した方がマシ。
少なくとも、1人の犯罪者に、裁きを下せるんですから」
灯は無理に口角を上げ、強気の姿勢を見せる。
「逮捕なんかよりも、"奴ら"に逆らう方がよっぽど怖いじゃない。
何千万もする指輪を川に投げ捨てられても、
下を覗いてワニだらけだったら、取りに行かないでしょう?
命こそ最大のチップ。死ぬ以上の損失はないわ」
雨宿は右の中指につけた大きな宝石のついたルビーの指輪を見つめながら、灯の言葉を軽くかわす。
灯の表情から見る見る内に余裕が消えていく。
「投資も、デュエルも、人生も…全部、ギャンブルよ。
もし本当に逮捕されたら、私が"賭け"に負けたってだけのこと」
「…もういいかしら?せいぜい頑張ってね」
言葉が出なくなった灯を見て、雨宿は背を向け、胸元からサングラスを取り出す。
ここを逃せば、もうチャンスはないかもしれない。
これまでの全ての努力が無駄になるかもしれない。
それだけは避けなければならなかった。
「ま、待って…!」
灯は無意識に雨宿の腕を掴む。
雨宿はただ黙って次の灯の言葉を待つ。
「…デュエルで、勝負をつけませんか」
「デュエル?」
「私が勝ったら、潜入に協力してもらいます。
ただし雨宿さんが勝ったら…5000万サークを支払います。
これなら、あなたにも得はありますよね」
灯が雨宿を怯えの混じった眼差しで見つめ、なんとか言葉を捻り出す。
5000万サークのベット。
これはイレギュラーであり、当然、遊次達にも知らせていない。
それでも、この機を逃すわけにはいかなかった。
潜入すらできなければ、成功報酬は得られないのだ。
ならばここで大きく張るしかないという、灯の咄嗟の判断だ。
灯の言葉に、雨宿はにっと口元を緩める。
「…悪くない。でも…」
雨宿が灯に身を寄せ、耳元に顔を近づける。
「5000万程度の"はした金"じゃ、わたくしは動かない」
彼女が選んだのは"フォールド"。希望が打ち砕かれる。
雨宿は掴まれていた腕を優しく離すと、
背を向け、手を振りながら歩いてゆく。
「いいセンいってたわよ、お嬢さん」
立ち去る雨宿の姿を、灯は呆然と見つめるしかなかった。
失敗した。甘かった。
もし現在確定している成功報酬の9000万を全額ベットしていれば、彼女の心は動いたのだろうか。
その答えも今や確かめようがなかった。
視界がぐらつく感覚に襲われながら、灯は虚ろな目で持っていた鞄に手を伸ばす。
電話で結果を報告するためだ。
携帯電話を取り出そうとした時、手に違和感のある感触をおぼえる。
「これ…」
それは、1枚の名刺だった。
そこには「雨宿真白」の名と、電話番号が書かれていた。
先ほど身を寄せた時に鞄に忍ばせたのだろう。
灯はその名刺をじっと見つめる。目に生気が戻り始める。
「…まだ、チャンスはある」
ビルの一階にある屋内駐車場。天井に並ぶ蛍光灯がコンクリートの床を均等に照らしている。
白線で区切られた車室が列を成し、その一角に黒い高級車が止まっている。
綺麗な金髪をたなびかせた男が、颯爽と入口から入ってくる。
ストラトゥス・ミロヴェアン、裏カジノ参加者の1人だ。
ミロヴェアンは車に向かってまっすぐ進み、胸ポケットからキーを取り出す。
ボタンを押すと、黒い高級車のヘッドライトが一瞬だけ点滅する。
彼はそのまま運転席側に立ち、ドアに手をかけた。
「随分いい車乗ってんだな」
ミロヴェアンの背後から、コンクリートの柱に寄りかかり、怜央が声をかける。
ミロヴェアンは意味ありげに怜央を見つめるも、すぐに人当たりのよい顔に切り替える。
「…羨ましいのかな。いつか君も乗れるようになるといいね」
ミロヴェアンは怜央を軽くあしらう。
駐車場に迷い込んだ子供か何かと勘違いしているのだろう。
「羨ましかねえよ。まだそんな車乗る余裕はあるんだなと思っただけだ」
ミロヴェアンの表情から笑みが消える。
目の前の少年が何か知っているであろうことを察知したからだ。
「俺らは元締めをブッ潰すために動いてる。
アンタが参加者だってことはわかってんだ。俺らに協力しろ」
怜央は余計な言葉を挟まず単刀直入に要求を突きつける。
ミロヴェアンは少しの間考えた後、車のドアを開ける。
開けたのは助手席だ。
「乗りなさい。続きは中で聞きましょう」
オフィス街を走る一台の黒い高級車。
怜央はその後部座席の背もたれに悠然と体を預け、足を組んでいる。
「元締めを潰す…というのはどういう意味かな」
ミロヴェアンはハンドルを握りながら落ち着いたトーンで質問する。
「そのままの意味だ。アンタと同じ、裏カジノ参加者からの依頼でな。
大金を使わされた挙句、裏カジノに出入りしてる姿を写真に撮られて脅迫までされてる始末だ。
アンタはどうなんだ?」
ミロヴェアンはミラー越しに怜央の姿を見つめる。
そして数秒間、窓の外を見つめた後、思わせぶりに口を開く。
「君はまさしく…神の遣いだ」
「は?」
予想の斜め上の返答に怜央は思わず気の抜けた声を出す。
「ここ最近、ずっと考えていたんだ。神はどうして私を見捨てたのかと。
私はこれまで、人々に奉仕してきた自負がある。だが、神は私に罰を与えたのだ。
突如発生した多額の損失、そして現れた闇の誘い…。私はその闇にまんまと引き寄せられた。
しかし考えてみれば、あれこそが神からの試練。
あそこで誘惑を断つことこそが私の贖罪だったいうのに…」
「…つまり、アンタも会社の損失を狙って裏カジノに誘われて、
まんまと大損こいたってことでいいんだな?」
「ああっ…!どこから私の道は誤っていたのだろうか…。
学生時代、アルバイトでお客様のお釣りを間違えて多く渡してしまったからか…!
神はそのことをお怒りに…!」
怜央は呆れた顔で瞬きを繰り返すが、話がこじれることはなさそうだと踏み、話を収集させにかかる。
「いいか。神の遣いである俺が、お前の金を取り返してきてやる。
カジノにいくらつぎ込んだ?」
「…5億だ」
「(マジかよ…!!)
じゃあ、他のヤツらからも大体その3割を報酬…下界までの通行料としてもらうことになってる。
だから、1億5000万引かせてもらうぞ。…神は公平だからな」
「あぁ、赦しを得るためならば安いものだ。感謝仕る」
ザリフォスや落合と比べても破格の金額だ。
裏カジノを打倒できた暁には、Nextに合計2億7000万サークの報酬が支払われることになる。
まだカジノの場所すらも突き止めておらず、本番はここからだ。
「アンタをカジノに誘ったのは、坊主で眉の上に傷のある男か?」
怜央は心の内の希望を必死に押さえつけ、聞き込みを続ける。
「あぁ、あの悪魔の遣いか。間違いない、そのような風体だった」
現在確認できている限り、4人中3人は稲垣からの誘いのようだ。
「それとアンタ『マジシャンズ・スターダスト』って会員制サロン入ってねえか?
俺らはそこから元締めに情報が洩れてると踏んでる」
「それなら、つい昨日退会したばかりだ。あそこは悪魔の巣窟なのでな」
「何してんだ!今すぐ戻れ!」
「それはできない。退会者の再入会はルールで認められていないのでね」
簡単に出入りできないことそのものの価値、一度退会したら最後という会員への抑止の意味で、
このようなルールを設けるサロンは存在する。
ザリフォスも出入り禁止になった以上、頼みの綱は現状、雨宿以外にはいなくなった。
「悪いね。せっかく神が手を差し伸べてくれたというのに。
ちなみにだが、どのように元締めを倒すというのだね?」
「裏カジノに潜り込んで証拠を掴み、オースデュエルで要求を突き付ける。
一応、ヴェルテクス・デュエリア2次予選まで上がった人間が3人。
…内1人は本戦まで行ったこともある。まあ、安心しとけ」
怜央は少し不満気な顔でNextの実績を伝える。
「それは心強い。このまま事務所まで送るよ。いいね?」
「…?あぁ」
怜央は少し違和感を覚えたが、それ以上考えることなく車に揺られ、Next事務所へと向かった。
「助かった。アンタの金は必ず取り戻す」
事務所前で車を降りた怜央は、運転席のミロヴェアンに意志を伝える。
「あぁ。期待しているよ、鉄城怜央君」
「…なんだよ、知ってたのか」
怜央は一度も名乗っていないが、ミロヴェアンは彼のことを知っていた。
事務所のことなど話していないにも関わらずNextまで送ることができたのもそのためだった。
「実はヴェルテクス・デュエリアのマニアでね。
各予選までチェックしてるほどさ。
見る者の血を滾らせるような君のデュエルには心躍った。
そう思っていたところに君が現れた。まさに神の遣いのように見えたよ」
どうやら神が遣いをよこしたと本気で思っていたわけではないようだ。
車中で本気で神の遣いを演じていた恥ずかしさが、怜央の中で首をもたげてきた。
「…通行料はしっかりもらうぜ。またなんかあれば連絡する」
怜央は背中越しに手を挙げ、事務所へと入ってゆく。
そこには遊次・灯の姿もあった。
「状況をまとめよう。結局、マジシャンズ・スターダストに潜り込むのは、
雨宿に頼るしかなさそうだ。
彼女はまだ裏カジノに参加するつもりらしいし、それなら会員を辞めたわけではないだろう」
3人の報告を聞いたイーサンは、これからについて話を先導する。
「でも、雨宿さんは裏カジノで勝ち続けててマイナスがないから、俺らに協力する理由がない。
おまけに5000万を条件にしてもダメか…」
腕組みしながら遊次が深刻な表情を浮かべる。
「でも、雨宿さんはこれを私に残していった」
灯は雨宿の名刺を見せる。
「この道が途絶えたら、残るのはハイデンリヒさんからの前金300万だけ。
落合さんも、ザリフォスさんも、ミロヴェアンさんも、報われない。
悪は蔓延ったまま。それで満足できる人はいる?」
灯はテーブルを叩き、かつてない真剣さで全員を見回す。
手を挙げる者は誰もいない。
「なら…私に賭けて」
街のざわめきが緩やかに落ち着きはじめる時刻だった。
通りには灯りが点りはじめ、ガラス張りのビルが夕焼けをわずかに映している。
その一角、いくつもの道が交差する場所に、小さな広場がある。
石畳が敷かれ、中央には低い噴水が据えられている。
Nextの4人は広場の中央で、ある人物を待つ。
風と水の音だけが支配するその場所に、ハイヒールの足音が混ざる。
音のする方を見ると、雨宿真白の姿があった。
「あら、雁首揃えてお出迎えってわけね」
雨宿は変わらぬ余裕の態度だ。
「雨宿さん、あなたともう一度交渉しにきました。
裏カジノの元締めを倒すためには、あなたの協力が必要なんです」
灯の言葉に迷いはなかった。
雨宿も彼女の言葉に固い意志が込められていることをすぐに理解した。
「前も言ったでしょ。わたくしは裏カジノで勝ち越してるの。
よほどのことがなきゃ、掌を返す理由がないわ」
「でも、あなたはその"よほど"を求めてここに来た。そうですよね」
灯の言葉に雨宿は何も返さず、ただ薄く笑みを浮かべるだけだ。
「私達は他のカジノ参加者が失ったお金を取り戻すかわりに、
報酬として合計2億7000万サークを受け取ることになっています。
その上で、あなたと"契約"に来ました」
灯はデュエルディスクを取り出す。
「あなたがデュエルに勝てば、2億7000万、全てあなたのものです。
そして私が勝ったら…あなたの取り分は2億サーク。
これが私から提示する条件です」
「……へぇ。2億は確定ってわけ」
雨宿の言葉を灯は肯定も否定もしない。
沈黙が2人の間を流れる。
これこそが雨宿を繋ぎ止めるための最後の策だ。
5000万で動かなければ、出せるだけ金を出すしかない。
この案を切り出した時、最も反発が大きかったのは怜央だ。
2億7000万サーク…それをメンバーやアキトと事務所などそれぞれの取り分を引いたとしても、
子供達に残る金は十分彼らの将来を支え得る額だ。
しかし雨宿に最低2億を支払うことになれば、灯が勝利してもNextに残るのは7000万。
報酬の4分の1程度しか取り分がなくなってしまう。
それでも十二分に多額であるが、本来得られるはずの額を考えれば、怜央が惜しむのも理解できる。
だが、裏カジノを倒せなければ結局は何も得られない。
そのためには骨を折って肉を断つ覚悟が必要だった。
怜央自身も心の中ではそのことをわかっていた。
そして彼も覚悟を決め、灯の"賭け"に乗ることを決めたのだ。
「2億7000万、全額ベット!これで無理なら無理よ!
さあ、ノるの?オリるの!?」
灯が雨宿に指を突き付ける。
もし断られれば、打つ手はなくなる。
元締めへ辿り着くためのこれまでの調査は振出しに戻る。
「…コールよ。
ノらないわけないじゃない、こんな美味しいゲーム」
雨宿は恍惚の笑みを浮かべ、デュエルディスクを手にする。
契約成立だ。
(やっぱり、雨宿さんは最初からこれを狙ってたんだ。
自分しか頼りがいないことを察して、もっと金額を吊り上げられると踏んで…。
命こそ最大のチップなんて言ってたけど、
そのチップを賭ける価値のあるギャンブルなら、彼女はノる…)
灯は勘づいていた。これは雨宿の思惑通りであることを。
しかし、灯は悔しさを滲ませない。
その瞳は真っ直ぐと雨宿を捉えている。
そしてその眼差しの意味を雨宿は理解していた。
「あなたも食えない女ね。
あなたがオースデュエルに負けた時に払う2億…
これは裏カジノから取り返さなければ成立しないお金。
つまり、勝っても負けても、わたくしは元締め打倒に協力しなきゃいけない。
じゃなきゃ、デュエルに勝っても2億は手に入らないもの」
それこそが灯の思惑であった。
雨宿は勝っても負けても大金を得ることができるが、
その代償に灯は、勝っても負けても雨宿の協力を得ることができる。
「つまりこのデュエルは、残り7000万円を賭けた、純粋な"ギャンブル"。
そういうことになるわね」
雨宿が勝てば彼女に支払う額は成功報酬を合計した全額、2億7000万。
灯が勝てば支払うのは2億。
つまり7000万はNextの手元に残ることになる。
雨宿が勝てば、元締めを倒すことができても、Nextが得られるものは何もない。
その全て雨宿に奪われることとなる。
仮に2億7000万サークを失うとしても、
少なくとも依頼者と他のカジノ参加者の金を取り戻し、彼らの為に尽くすことはできる。
受けた以上はそれを果たさなければならない。
自分達の取り分がなくなるからといって、諦めるという選択肢は頭にない。
しかし、負ければこの依頼で繋がるはずだった子供達の未来やNextの発展への道は、無に帰す事となる。
この戦いは、皆がこれまで積み重ねてきた軌跡を、無駄にしないための戦い。
そして、未来へつなげるための戦いだ。
「私が勝った時は、1か月以内に雨宿さんに2億サークを支払う。
それと、法的な契約として私達に協力してもらう」
灯が敗北した場合も2億7000万サークは裏カジノを倒すことを前提としている以上、
雨宿は協力することになるが、そこに法的拘束力はない。
しかしそれでは、最悪の事態が起きた場合、雨宿は逃げることができるのだ。
そうなれば、灯には2億7000万の支払いの義務だけが残ることになる。
しかしオースデュエルによる契約として雨宿の協力を強制させれば、
協力を拒否すること自体が法律違反となる。
灯でデュエルで勝利することは、より作戦を確実にするためのものでもある。
「ええ、いいわ。私が勝った時には2億7000万サークを約束してもらう。
期限は1ヶ月。それがあれば十分よ」
雨宿もデュエルディスクを腕に装着し、構える。
これにて、灯の最後の賭け…オースデュエルが成立したこととなる。
「オースデュエルの開始が宣言されました。内容確認中…」
デュエルディスクに搭載されたAI「DDAS」が無機質な声を鳴らす。
プレイヤー1:花咲灯
条件①雨宿真白に対して1ヶ月以内に2億サークを支払う
条件②雨宿真白は違法カジノ打倒に協力する
プレイヤー2:雨宿真白
条件①花咲灯は雨宿真白に対して1ヶ月以内に2億7000万サークを支払う
詳細な契約内容は、ソリッドヴィジョンの契約書として両者の前に浮かび上がる。
そこには一切の別の解釈の余地がないほどに徹底された文章が記載されており、
承認した時点で、完全なる両者の意図通りの契約にしかならないようになっている。
灯と雨宿は指でソリッドヴィジョンの契約書にサインを行うと、
DDASがオースデュエルの開始を宣言する。
「契約内容を承認します。
デュエルの敗者は、勝者が提示した契約を履行する事が義務付けられます」
Nextの3人は、自分達や子供達の未来を変えるこのデュエルを、固唾をのんで見守る。
「デュエル!」
灯のデュエルディスクのランプが灯る。先行は灯だ。
「"俺"のターン!
自分フィールドに地属性モンスターがいない時、このモンスターは手札から特殊召喚できる。
来い、ペイントメージ・ショコラ!」
■ペイントメージ・ショコラ
効果モンスター
レベル2/地/魔法使い/攻撃力900 守備力1000
このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドに地属性モンスターが存在しない場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
②:フィールド上のモンスター1体を対象として発動できる。
デッキから地属性モンスター1体を除外し、そのモンスターを地属性に変更する。
フィールドには赤褐色に近い茶色の髪をしたポニーテールの小さな女の子のモンスターが現れる。
もこもことした質感のボンボンのついた服に身を纏い、茶色の絵の具のついた筆を持っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/TKnG29k
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「お、俺…?驚いたわね。でも、たまにいるわよね。
ギャンブルになると人が変わるタイプ」
「ただのクセだ。それにデュエルはギャンブルなんかじゃない」
「あら、7000万も懸けてるのに、ギャンブルじゃないっていうの?
たった一手で人生が変わる極限状態で、いかに冷静かつ大胆な判断ができるか…。
それこそが"ギャンブル"よ。今はまさにそういう状態」
極限状態。まさしくその通りだった。
雨宿に契約を突き付けた時から、灯の鼓動は高速でリズムを刻み、冷や汗が止まらなかった。
かつて遊次が2000万サークを賭けて詐欺師と戦った時、
灯は、なぜそのような決断ができるのかと精神を疑った。
しかし今、自分がその3倍以上の額を賭けて戦っている。
いくら裏カジノ打倒を前提にしているとは言え、
もし灯が負けた場合、雨宿はいつでも行方をくらますことができる。
そうなればただ2億7000万の負債だけがNextに残ることになる。
子供達の未来どころではない。自分達の未来すらも閉ざされてしまう。
その重圧が今、灯の肩にのしかかっている。
(考えすぎちゃダメ…!冷静にならなきゃ…)
しかし、これは自ら背負った戦いだ。決して挫けるわけにはいかない。
遊次はその背中を、苦しい眼差しで見つめている。
灯にとってこの戦いがどれほど心に重圧を与えているか、痛いほどわかった。
しかし、彼女が自ら申し出たこの賭けに、水を差すわけにはいかない。
できることは、ただ彼女を信じることだけだ。
灯は必死に集中状態を保ちながら、手札のカードを手に取る。
「フィールドにペイントメージがいる時、
ペイントメージ・パレットを手札から特殊召喚できる!」
■ペイントメージ・パレット
効果モンスター/チューナー
レベル2/光/魔法使い/攻撃力900 守備力500
このカード名の①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。
①:自分フィールドに「ペイントメージ」モンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
②:このカードをS素材としたモンスターは以下の効果を得る。
●このカードはこのカードと同じ属性のモンスターの効果の対象にならない。
現れたのはパレットの形をしたモンスター。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/23VcX92
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「レベル2『ペイントメージ・ショコラ』に、
レベル2『ペイントメージ・パレット』をチューニング!」
「無邪気な彩が、鮮やかな勝利への道を描く。美しき終わりを飾る作品となれ。
シンクロ召喚!レベル4、シンクロチューナー!
ペイントメージ・カードル!」
■ペイントメージ・カードル
シンクロモンスター/チューナー
レベル4/光/魔法使い/攻撃力1700 守備力2000
チューナー + チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:相手のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。
このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。
②:自分・相手ターンにフィールドの「ペイントメージ」モンスター1体を対象として発動できる。
自分の除外状態の「ペイントメージ」モンスターを任意の数だけデッキに戻し、
その枚数分、ターン終了時までそのモンスターのレベルを上げるか下げる(最小1まで)。
③:このカードをS素材としたモンスターは以下の効果を得る。
●1ターンに1度、このカードと同じ属性を持つ相手フィールドのモンスター1体を
対象として発動できる。そのモンスターを除外する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
現れたのは1.5メートルほどの大きさを持つ額縁のモンスター。
中央には彫りの深い凛々しい目を瞑った女性の顔がついている。
枠は深いマホガニー色をしており、木目の細かい彫刻が丁寧に施されている。
縁には金色の装飾が施され、高級感を漂わせており、角の部分には銀色の飾りがついている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/4dBZhzU
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「さらに手札から『ペイントメージ・ミュール』を召喚!」
■ペイントメージ・ミュール
効果モンスター
レベル2/闇/魔法使い/攻撃力900 守備力500
このカード名の①②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが除外された場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
このターン、そのモンスターは効果を発動できない。
②:フィールド上のモンスター1体を対象として発動できる。
デッキから闇属性モンスター1体を除外し、そのモンスターを闇属性に変更する。
現れたのは、三角帽子を被った、短い紺色の髪をした少年のモンスターだ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/rPOxkSq
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「レベル2闇属性『ペイントメージ・ミュール』に、
レベル4シンクロチューナー『ペイントメージ・カードル』をチューニング!」
「纏わりつく漆黒の闇が、安寧を憂鬱に塗り替える。
シンクロ召喚!『ペイントメージ・ムンク』!」
■ペイントメージ・ムンク
シンクロモンスター
レベル6/闇/魔法使い/攻撃力2400 守備力800
チューナー + チューナー以外の闇属性モンスター1体以上
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:フィールド上のモンスター1体を対象とし、属性を1つ宣言して発動できる。
デッキから宣言した属性のモンスター1体を除外し、選んだモンスターは宣言した属性になる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
②:このカードと同じ属性を持つ相手の墓地のモンスターが効果を発動した場合、
またはこのカードと同じ属性を持つ相手の墓地のモンスターを対象とする効果が発動した場合に発動できる。
その効果を無効にし、対象となった相手の墓地のモンスターを除外する。
現れたモンスターは、真っ黒なロングコートを纏った若い男のモンスターだ。
髪は黒く、前髪が片目を隠している。
鋭い目には黒いアイラインが引かれ、病的な雰囲気を醸し出している。
右手には銃を握っており、まるで筆のようなデザインだ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/hw4EFqv
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「ムンクは、自身と同じ属性のモンスターの墓地効果、
または墓地の同じ属性のモンスターに及ぶ効果を無効にできる。
さらにペイントメージ・カードルを素材にしていることで、
1ターンに1度、同じ属性の相手モンスター1体を除外できる。俺はこれでターンエンド」
--------------------------------------------------
【灯】
LP8000 手札:2
①ペイントメージ・ムンク ATK2400
(カードルを素材にしたことで除外効果を持つ)
【雨宿】
LP8000 手札:5
魔法罠:0
--------------------------------------------------
「わたくしのターン!
『貨神の幸姫 ラクシュメリラ』を召喚!」
■貨神の幸姫 ラクシュメリラ
効果モンスター
レベル3/光/魔法使い/攻撃力1200 守備力800
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分メインフェイズに発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、手札から「貨神」モンスター2体を特殊召喚する。
ハズレの場合、自分のデッキの上からカード10枚を除外する。
②:このカードをリリースして発動できる。
デッキから「貨神」モンスター1体を特殊召喚する。
現れたのは紫色に金のメッシュが入った小さな女の子のモンスターだ。
服にはコインが散りばめられ、額にも一つのコインが輝く。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/4rQ5v4h
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「ラクシュメリラの効果発動。
1ターンに1度、コイントスを行い、
わたくしが裏表を当てたら、手札から『貨神』モンスターを2体特殊召喚できる。
ただし外したら、わたくしはデッキの上から10枚除外しなくてはならない」
「コイントス…デッキまでギャンブルってわけか」
遊次は思わず呟く。
雨宿のデッキはあまりにも彼女の性質を表しすぎていた。
「強力な効果だが、デメリットは大きい。
展開に必要なパーツが除外されれば、それだけで勝敗を揺るがしかねない」
デメリットも小さくない以上、決して使い勝手の良い効果とは言えない。
あまりにも安定性に欠けるカードに、イーサンは疑問符を浮かべる。
「わかってないわね。だから面白いんじゃない。さあ、いくわよ」
デュエルディスクの側面から一つ眼の描かれた金のコインが飛び出すと、
雨宿はそれを右手の親指に乗せる。
「…裏」
雨宿が表裏を宣言する。
50%の確率であるはずだが、灯はどこか確信めいたものを秘めているような声色に思えた。
親指がコインを弾く。
ライトを反射しながら、黄金のコインが空中で表・裏・表…と回転する。
そして重力によって落下したコインは、雨宿の掌に握られる。
掌が開かれると、コインの表面には何も描かれていなかった。
「裏。アタリね。
手札の『貨神』モンスターを2体特殊召喚する。
来なさい『貨神の使者 ギルメス』
『貨神の術士 ミドラス』」
現れたのは黒い鎧を纏った白い翼を持つ、黒髪の男のモンスターと、
ローブを纏った老いた魔術師のモンスターだ。
2体ともコインの意匠を持つ装備を纏っている。
ギルメス:ttps://imgur.com/a/6OaNSvm
ミドラス:ttps://imgur.com/a/cRxw9jH
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「ギルメスが特殊召喚した時、デッキから『貨神』モンスターを1体手札に加えられる。
『貨神の守護者 アルベリッチ』を加えるわ」
■貨神の使者 ギルメス
効果モンスター
レベル3/光/天使/攻撃力1500 守備力1400
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「貨神」モンスター1体を手札に加える。
②:このカードが墓地に存在する場合に発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、墓地のこのカードを特殊召喚し、
デッキから「貨神」モンスター1体を特殊召喚する。
ハズレの場合、墓地のこのカードを除外する。
どうやら雨宿は「貨神(かがみ)」と名のつくデッキを使用するようだ。
フィールドに現れたモンスターは全てレベル3。
そのことに怜央がいち早く気付き、少し眉を上げる。
灯も雨宿のモンスターを見つめ少しの間考える様子を見せるが、何もせずに優先権を渡す。
ムンクはS素材にしたカードルによって除外効果を得ているが、ここでは使わないようだ。
「お前のモンスターはどうやら光属性で統一されてるらしい。
ならば、ここでペイントメージ・ムンクの効果発動!
デッキからモンスターを1体除外することで、
フィールドのモンスターを除外したモンスターの属性に塗り替える!
『ペイントメージ・クレーム』を除外して、自身を光属性に!」
ムンクは銃を高々と上に掲げると、一発、天へ引き金を引く。
天からはキラキラとした光がムンクへと降り注ぎ、ムンクの髪や服は黄色へと変わってゆく。
「さらに除外されたペイントメージ・クレームの効果発動。
このカードが除外された時、デッキから『ペイントメージ』チューナー1体を特殊召喚できる。
来い、ペイントメージ・トワール!」
■ペイントメージ・トワール
効果モンスター/チューナー
レベル2/地/魔法使い/攻撃力500 守備力1000
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが墓地に存在し、自分フィールドに「ペイントメージ」モンスターが存在する場合に発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのモンスターがフィールドを離れた場合、除外される。
②:このカードをS素材としたモンスターは以下の効果を得る。
●このカードの攻撃力はフィールド上のモンスターの属性の数×300ポイントアップする。
真っ白のキャンバスに、くりっとした目と赤い頬が絵の具で描かれたモンスターが守備表示で現れる。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/8mTBAsH
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「(これで雨宿さんの墓地のモンスター効果か、墓地のモンスターを対象とする効果を無効化できる。
さらにフィールドのモンスターも除外できるようになった。あとはそれをいつ使うか…)」
相手に属性を合わせたことで、灯は2妨害を構えたことになる。
肝心なのはその使いどころだ。現在は下級モンスターが3体並んでいるが、
その内の1体を除外したところで恩恵は少ない。使いどころは更に先にあると灯は考える。
「わたくしはラクシュメリラとギルメスでオーバーレイ!
2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」
2体のモンスターがフィールドに現れた黒い渦に飲まれてゆく。
「やっぱエクシーズか…」
怜央の目は鋭さを増す。
「天に選ばれし女神よ、我が手に託された輝きを従え、
定められし因果を跳ね返せ!」
「エクシーズ召喚!おいでなさい!
ランク3『貨神の預言 フォルナリス』!」
■貨神の預言 フォルナリス
エクシーズモンスター
ランク3/光/魔法使い/攻撃力1900 守備力2200
レベル3モンスター×2
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがX召喚した場合に発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、自分はデッキから2枚ドローする。ハズレの場合、自分の手札を2枚捨てる。
②:自分フィールドの「貨神」モンスターが相手の効果の対象になった場合、
このカードのX素材を一つ取り除き、
このカード以外のフィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、その効果を対象のモンスターに移し替える。
ハズレの場合、このカードのX素材を取り除くことで、コイントスをやり直すことができる。
③:自分の「貨神」モンスターが攻撃対象になった場合、
このカードのX素材を一つ取り除いて発動できる。
コイントスを1回行い、裏表を当てる。当たった場合、その攻撃を無効にする。
ハズレの場合、このカードのX素材を取り除くことで、コイントスをやり直すことができる。
現れたのは、金貨のようなドレスを纏った女性の魔法使いだった。
右手には杖を携え、自信に満ちた笑みを浮かべている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/XZADpn3
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「このカードがX召喚した時、効果発動!
コイントスを当てれば2枚ドローし、外せば手札を2枚捨てる」
またもリスクとリターンの釣り合ったコイントス効果だ。
雨宿のデッキはやはりギャンブル性が高いようだ。
雨宿が親指にコインを乗せる。
「表」
裏表の宣言の後、雨宿の親指がコインを弾く。
落下するコインを雨宿が握り、開くとコインは表を指していた。
「フフ、アタリ。わたくしはデッキから2枚ドローする」
「(またアタリ…。いや、たまたまに決まってる。
こんな偶然に動揺しちゃダメ)」
2連続アタリを引かれた灯は、必死に頭の中で言い聞かせる。
しかしそれでも、ただの偶然に自分達の未来が左右されると考えると、もやもやは募る一方だった。
「『貨神の預言 フォルナリス』がいる限り、
『貨神』モンスターを対象とする効果が発動した時、コイントスを当てれば、
その効果を別の対象に移し替えることができる。もちろん、相手モンスターにもね」
「それと、『貨神』モンスターが攻撃された時、コイントス次第でそれを無効にすることもできる。
さらにコイントスをハズしても、X素材を更に取り除けば再チャレンジができる。
つまり、X素材があればあるだけ、わたくしの有利になるってこと」
「それじゃ、ペイントメージ・カードルを素材にしたムンクの除外効果が、
コイントス次第で跳ね返されちまう…」
遊次は腕を組み、厄介な雨宿のモンスター効果に頭を悩ませる。
「俺もアンタと同じギャンブルの席に着かされた…ってわけか」
灯の言葉に雨宿は不敵な笑みを浮かべる。
「さあこの調子でジャンジャンいくわよ。
『貨神の術士 ミドラス』の効果発動!
コイントスを当てれば、わたくしはデッキから2体の『貨神』モンスターを呼び出せる。
ただし外せば自分自身を墓地に送る」
■貨神の術士 ミドラス
効果モンスター
レベル3/光/魔法使い/攻撃力1100 守備力1500
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分メインフェイズに発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、デッキから「貨神」モンスター2体を特殊召喚する。
ハズレの場合、フィールドのこのカードを墓地へ送る。
②:墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「貨神」Xモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
「わたくしは表を宣言」
雨宿がコイントスをする。
空中で回転するコインを、灯は不安の眼差しで見つめる。
雨宿がコインを握り、掌を開くと、面には何も描かれていなかった。
「あら、ハズレね。残念。今日はツイてるかと思ったのに。
『貨神の術士 ミドラス』は墓地に送られるわ」
ミドラスは金色の光の粒となって消えてゆく。
灯は大きく息を一つ吐く。
「(よかった、やっぱり外れることもあるんだ。
結局運任せなら、悩んでもしょうがないよね)」
当然のことではあるが、一つ大きな心配が消えたような気がした。
それはNextの3人も同じだった。
「ゲームはまだこれからよ。フィールドに『貨神』モンスターがいる時、
手札の『貨神の守護者 アルベリッチ』を特殊召喚できる」
■貨神の守護者 アルベリッチ
効果モンスター
レベル3/光/戦士/攻撃力1400 守備力1200
このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドに「貨神」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
②:相手フィールドのモンスター1体と、
自分フィールドの「貨神」Xモンスター1体を対象として発動できる。
コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、対象の相手モンスターを、対象の自分Xモンスターの下に重ね、X素材とする。
ハズレの場合、対象の自分XモンスターのX素材を1つ取り除く。
X素材が1つも存在しない場合、そのXモンスターを墓地へ送る。
現れたのは、小柄ながらも屈強な肉体を持つドワーフのようなモンスターだ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/eelQk6X
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灯はデュエルディスクを通してそのモンスターの効果を見ると、驚愕する。
「(コイントスが成功すれば、私のモンスターをX素材に…!?
もしこれが通れば、ムンクは何もできないまま素材にされる…)」
「(ここでムンクの効果でアルベリッチを除外すれば、最悪は避けられるかも。
でも、雨宿さんのフィールドにはあのXモンスターがいる。
除外効果を跳ね返されれば、結局は同じ…)」
突然突き付けられた選択に、灯の表情は迷いに曇る。
「(…あのXモンスターは素材を取り除いて、コイントスをやり直せる。
つまり、除外効果を使っても、跳ね返される確率は75%。
対してアルベリッチでムンクが素材にされる確率は50%。ここは耐えるしかない…!)」
灯は理性的に答えを出し、雨宿に優先権を渡す。
アルベリッチの効果を恐れて除外効果を使おうものなら、
更に高い確率でもっと恐ろしい結末を招きかねない。
逆にアルベリッチの効果のコイントスを外せば、デメリットによってX素材を1つ失うこととなる。
そうなれば除外効果を反射される確率が下がるという恩恵もある。
灯の選択に間違いないはなかった。
「アルベリッチの効果発動!コイントスを当てれば、
あなたのフィールドのモンスター1体を、わたくしのXモンスターの素材にすることができる。
ただし外せば、わたくしのモンスターのX素材は1つ減る」
「宣言するのは表」
このターン、すでに4度目のコイントスだ。
一同は緊張した面持ちでコインを見つめる。
雨宿がコインを指で打ち上げ、それを掴んで、掌を開く。
「…裏ね。ざぁんねん。その厄介なモンスターを消すチャンスだったのに。
代償として、フォルナリスのX素材を1つ取り除く」
灯達は胸を撫で下ろした。結果的には灯にメリットがもたらされたが、
運否天賦に身を任せ続けることに、じわじわと精神的な疲労が積み重なってゆくのがわかった。
「でもタダじゃ転ばないわ。コイントスを外したターン、
手札から『貨神の金帝 クロイゼルス』を特殊召喚!」
■貨神の金帝 クロイゼルス
効果モンスター
レベル3/光/魔法使い/攻撃力1200 守備力1300
このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:コイントスでハズレが出たターン、このカードは手札から特殊召喚できる。
②:自分の墓地の「貨神」モンスター2体を対象として発動できる。
コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、対象のモンスター2体を特殊召喚する。
ハズレの場合、対象のモンスター2体を除外する。
③:自分の墓地の「貨神」モンスター1体を対象として発動できる。
そのカードを手札に加える。
現れたのは玉座に座る老齢の王。
コインを両手に掲げ、下品な笑みを浮かべている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/S7MGFol
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フィールドには再びレベル3モンスターが2体揃った。
不安定なコイントスを主軸にここまで展開できるのは、
それはリスクを背負いながら、いとも簡単に賭けに出る雨宿の精神力の成せる技だった。
「『貨神の金帝 クロイゼルス』の効果発動。
1ターンに1度、墓地の『貨神』モンスター1体を手札に加えることができる。
墓地の『貨神の使者 ギルメス』を手札に戻すわ」
(この効果はムンクの効果で無効にできる。
でもクロイゼルスにはコイントス次第で墓地のモンスターを2体蘇らせる効果もある。
なら、無効効果はここで使えない)
灯は冷静に状況を見極める。
「ここからが本番よ。
『貨神の守護者 アルベリッチ』と『貨神の金帝 クロイゼルス』でオーバーレイ!
2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」
2体のモンスターは黒い渦へと呑まれてゆく。
(クロイゼルスの蘇生効果を使わない…!?
不必要な賭けはしないか…!)
クロイゼルスの墓地からモンスターを特殊召喚する効果は、
ムンクで無効にされると踏んで使用しなかったのだろう。
無効にされれば対象になった墓地のモンスターが除外される。それを嫌ったのだ。
「愉悦と痛み、表裏一体の輝きを掌握し、我が道に栄華を授けよ!
エクシーズ召喚!ランク3『貨神の天恵 プルートリオン』!」
■貨神の天恵 プルートリオン
エクシーズモンスター
ランク3/光/魔法使い/攻撃力2000 守備力1000
レベル3モンスター×2
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードのX素材を一つ取り除いて発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、このカードの攻撃力は2000アップする。
ハズレの場合、自分は2000ダメージを受ける。
②:自分メインフェイズに発動できる。コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、デッキの「貨神」モンスター1体を選び、そのカードをこのカードの下に重ねてX素材とする。
ハズレの場合、手札の「貨神」モンスター1体を選び、そのカードをこのカードの下に重ねてX素材とする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
③:このカードが相手によって破壊された場合に発動できる。
このカードが持っていたX素材1つにつき、相手に1000ダメージを与える。
現れたのは、黄金の鎧に身を包んだ悪魔のような顔を持つモンスター。
不気味な笑みを浮かべ、手には巨大な斧を携えている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/KvyRRXB
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「プルートリオンの効果発動。1ターンに1度コイントスを行い、
当たればデッキから、外れれば手札から、『貨神』モンスターをX素材とすることができる。
宣言するのは…表」
灯はここまでの数多のコイントスに辟易しながら、
またも打ち上げられるコインを見つめる。
「…裏ね。しょうがないわ。手札の『貨神の持世 ヴァスダロス』を素材とする」
プルートリオンの周囲を廻る光球が一つ増える。
「ここからがお楽しみよ。プルートリオンの効果発動!
オーバーレイユニットを1つ使い、コイントスを行う。
当てればこのモンスターの攻撃力は2000アップする。
ただし外せばわたくしは2000のダメージを受けるわ」
雨宿は心底楽しそうな表情でコインを手に取る。
「…宣言するのは裏!」
雨宿の指がコインを弾く。
落ちてきたコインを勢い良く掴み、掌を裏返す。
「…裏ね。よって、プルートリオンの攻撃力は2000アップする!」
貨神の天恵 プルートリオン ATK2000 → 4000
「さらに、プルートリオンのこの効果はX素材がある限り何度でも発動できる!」
「なんだと…!?」
遊次達は目を丸くし、驚きの声を上げる。
「もしあと2回ともコイントスを当てれば攻撃力は8000…」
ただのランク3と侮ることのできないプルートリオンの効果に、イーサンは警戒心を強める。
「さあ、続いていくわよ!プルートリオンの効果発動!
オーバーレイユニットを1つ使い、コイントスを行う!
次も裏よ!裏に決まってる!」
雨宿は狂気的な目でコイントスを宣言する。
それはまさしくギャンブルに精神を囚われた者の目だった。
雨宿の指が先程よりも強くコインを弾く。
乱れた軌道で弧を描くコインを、雨宿は前のめりに掴む。
「…ハハッ!裏裏裏ァッ!!攻撃力はさらに2000アップする!」
貨神の天恵 プルートリオン ATK4000 → 6000
完全にハイになった雨宿は高笑いしている。
(このままじゃマズい…)
雨宿の勢いに飲まれそうになるのをなんとか耐え凌ぎ、灯は戦意を保ち続ける。
「さあ3回目よ。プルートリオンの効果発動!
宣言するのは"表"よ!」
まるで当てるのが当然と言わんばかりに、雨宿の声は自身に満ちていた。
雨宿がコインを弾き、落ちてきたところを強く掴む。
灯は無意識的に、その掌の中には表向きのコインが輝いているような気がした。
そんな嫌な想像を振り払うように首を振り、雨宿の手を凝視する。
掌が開かれる。
「…残念、裏ね。わたくしは2000のダメージを受けるわ」
プルートリオンが振り向き、雨宿の方を向くと、
手にしている斧を雨宿に振り下ろす。
「ッ…!」
雨宿 LP8000 → 6000
予想に反してあっけなくコイントスを外した雨宿に、
一同は拍子抜けした気持ちになる。
「…普通に外すんじゃねえか。勢いに飲まれんな、灯」
雨宿が場を支配しているような錯覚をしていた自分に呆れ、怜央は溜め息を一つつく。
「うん、そうだね。怖がる必要なんてない」
(これなら、無理にムンクの除外効果を使わなくても問題ない)
フォルナリスの効果反射というリスクに挑まずとも、
灯が負うダメージは少ない。ならば無理な勝負を挑む必要はない。
灯も次第に自信を取り戻してゆく。
「…慢心。油断。その感情がギャンブルにおいて最大の敵よ」
雨宿は俯きながら薄ら笑いを浮かべ、低い声で呟く。
「でも、もうプルートリオンのX素材はない。
元手がなきゃ賭けには参加できないだろ」
雨宿に押されぬように灯は強気の言葉で返す。
「…元手がないなら作ればいいじゃない」
雨宿は手札から1枚のカードを取り出し、妖しい笑みを浮かべる。
「永続魔法『貨神の種火』発動!」
■貨神の種火
永続魔法
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの「貨神」Xモンスター1体を対象として発動できる。
手札または自分の墓地から「貨神」モンスター2体を対象のXモンスターの下に重ね、X素材とする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
②:自分メインフェイズに発動できる。
デッキから「貨神」モンスター1体を墓地へ送る。
③:相手が魔法・罠カードの効果を発動した場合に発動できる。
コイントスを1回行い、裏表を当てる。
当たった場合、その効果を無効にする。
自分フィールドに「貨神」Xモンスターが存在する場合、その内1体を選び、
無効にしたカードをそのモンスターの下に重ねてX素材とすることができる。
「貨神の種火の効果発動。1ターンに1度、デッキから貨神モンスター1体を墓地へ送る。
『貨神の軍師 コンソリドス』を墓地へ送るわ」
「さらに貨神の種火の効果発動!
貨神Xモンスター1体を対象に、墓地か手札から2枚の貨神モンスターをX素材にすることができる。
墓地のモンスターを対象にしたら、ムンクの効果で無効にされちゃうのよね。
なら、手札の『貨神の鋳導 ヒエロスタテス』と『貨神の使者 ギルメス』を、
プルートリオンの素材とする!」
プルートリオンの周囲を2つの光球が廻り始める。
「手札を2枚削ってまでギャンブル続行か…!」
「賭けるために増やしたんだもの。使わなきゃもったいないじゃない。
プルートリオンの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、コイントスを行う!
宣言するのは裏!」
雨宿はコインを指で弾き、それを空中で掴む。
「…あら残念、表ね」
プルートリオンは再び雨宿に斧で一太刀を浴びせる。
雨宿 LP6000 → 4000
「…こんな大事な戦いを運に任せるなんて、馬鹿げてる。私には理解できない」
灯はまたも自らライフを減らすこととなった雨宿に、冷たい視線を向ける。
「運任せ?それは違うわ。何事にもリスクとリターンがあるの。
今回はただコインの表と裏でそれが決まるというだけ。
言ったでしょう、人生も結局はギャンブルなの」
「勝負とは無縁の世界で、ぬくぬく育ったお嬢さんにはわからないでしょうね。
たった一手で人生が終わるという瞬間を、何度も乗り越えてきた人間の強さを」
雨宿はプルートリオンの下に重ねられた最後の1枚の素材を取り除く。
「プルートリオンの効果発動!コイントスを行う!宣言するのは…表!」
コインが弾かれる。Nextの4人は弧を描いて落下するコインを真剣な目で見つめる。
コインは雨宿の掌に落ちる。
「…表。プルートリオンの攻撃力は2000アップする!」
貨神の天恵 プルートリオン ATK6000 → 8000
「攻撃力8000…!」
--------------------------------------------------
【灯】
LP8000 手札:2
①ペイントメージ・ムンク ATK2400 光属性に変更
(カードルを素材にしたことで除外効果を持つ)
②ペイントメージ・トワール DEF1000
【雨宿】
LP4000 手札:1
①貨神の預言 フォルナリス ATK1900 X素材:1
②貨神の天恵 プルートリオン ATK8000 X素材:0
永続魔法:貨神の種火
--------------------------------------------------
灯は黄金のオーラを纏うプルートリオンの姿を見つめる。
その瞳には焦りが滲んでいた。
「わたくしの墓地の『貨神の軍師 コンソリドス』は、
自分の貨神モンスターが相手モンスターを破壊した時、もう1度攻撃できる効果を持つ。
ただし戦闘ダメージを与えている場合、次の攻撃ではダメージを与えられないけどね。
それでも、このままいけば、あなたは合計7500ものダメージを受けることになる」
プルートリオンでムンクを攻撃し、コンソリドスの墓地効果でトワールを破壊後、
フォルナリスによる直接攻撃で、7500のダメージとなる。
灯のペイントメージ・ムンクは墓地でのモンスター効果を無効にできるが、
コンソリドスはモンスターが破壊された時に発動する効果だ。
つまりムンクが戦闘によって破壊された後に発動されるため、ムンクでは無効にできない。
「さらにプルートリオンは破壊された時、コイントスを行い、
当てれば持っているX素材の数×1000のダメージを相手に、外せば自分に与える効果を持つ。
それにプルートリオン自身の効果と永続魔法によって、相手ターンでもX素材を補給できる。
どういう意味かわかるわよね?」
雨宿は勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべる。
対する灯は眉をひそめ、険しい表情をしている。
「プルートリオンの攻撃を通せば、灯のライフはたった500…。
命を繋ぎとめることはできても、プルートリオンを破壊しようものなら、
50%の確率で灯はダメージを負って、負ける…」
イーサンが灯の置かれた状況を整理する。
「その通りよ。でも、あなたがライフを削られない方法が1つだけあるわよね」
雨宿はいじらしく笑う。
「…あるにはあるけど、それは…」
遊次は灯の心中に思いを馳せ、その背中を見つめる。
「カードルを素材にしたムンクは1ターンに1度、相手モンスターを除外できる。
その効果でプルートリオンを除外できれば、私はダメージを回避できる。
でもその効果は、フォルナリスによって、コイントス次第で私に跳ね返る」
「フォルナリスのX素材は1つ。50%の確率で除外効果は跳ね返される。
もしそれでムンクが除外されれば…
私はプルートリオンの攻撃力8000のダイレクトアタックを受けて、負ける」
これこそが今、灯が置かれた状況だった。
このままでは灯のライフは500まで削られてしまう。
それを回避するためには、50%の運否天賦に賭けるしかない。
だが、もし雨宿がコイントスを当て、ムンクの除外効果が跳ね返されれば、
攻撃力8000のプルートリオンの直接攻撃が灯を襲うこととなる。
「"瀕死"を回避するためには、"死"のリスクを負わなければならない。
さあ、あなたはこの"ギャンブル"にノるのかしら?」
雨宿はいじらしく、そして心底楽しそうな声で灯を煽る。
ギャンブルを理解できないと言った灯自身が、
今まさに、ギャンブルのテーブルに着かされている。
その姿が面白くて仕方ないのだろう。
「このバトルフェイズで、あなたは2億7000万を失うかもしれない。
コール・オア・フォールド。決断するのはあなたよ」
雨宿は人差し指を灯に突き付ける。
「バトル!『貨神の天恵 プルートリオン』で
『ペイントメージ・ムンク』に攻撃!」
プルートリオンが斧を両手で構え、今にも攻撃を放とうとしている。
瀕死か、無傷か、はたまた"死"か。
全ては、灯の選択に懸かっている。
第41話「生粋のギャンブラー」 完
攻撃力8000のプルートリオンの攻撃に対して、灯はとある決断をする。
7000万サークはNextに残るのか、雨宿に奪われるのか。
勝負の行方は、1枚のコインに託される。
「皆は、私に"賭けて"くれた!
だから私も、今ここで全てを賭ける!」
次回 第42話「運命のコイントス」
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34 | 第33話:願いの炎 | 342 | 0 | 2025-05-14 | - | |
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