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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第49話:帳が上がる時、帳は下りる

第49話:帳が上がる時、帳は下りる 作:

裏カジノ案内人「稲垣拓海」をイーサンがオースデュエルで下し、見事Next側へ引き込むことに成功した。
そしてカジノ開催の当日、イーサンと雨宿は参加者として扉を潜り、
遊次は稲垣の協力のもと、黒服として小型カメラを仕込んで会場へ潜入した。

怜央は離れたビルの屋上から外を見張り、
灯とアキトはイーサン達の退避のために、車で待機している状況だ。

重い扉が軋む音を立てて開き、7人の参加者たちが一歩ずつ中へ足を踏み入れた。
その中で、イーサンと遊次の視線がわずかに交差する。

ここからが本番だ。
まずは不正なギャンブルが行われている決定的なシーンを撮影する必要がある。
その映像を元締めのボスに突き付けることで、
Nextが関わったカジノ参加者への脅迫を止めさせ、彼らが失った総額9億サークを取り戻す…それが遊次の役目となる。

ウェイターとして潜入した遊次は、客からの注文を受けるため、フロアに綺麗な姿勢で立つ。
その間も視線はフロア中を行き交い、一瞬の隙も見逃さぬように気を張っている。

イーサンと雨宿は同じテーブルに着いたようだ。
椅子を一つ挟んで座っている。
そしてちょうどその真ん中に、いかにも金好きな太った中年の男が、勢いよく座った。

「ご機嫌麗しゅう。ミスターロイド。
今宵もまたカモになりに来たのかしら?」

雨宿は口元を上げながら、その男に話しかけた。
どうやら雨宿はこの男と以前も同席したことがあるようだ。
ロイドと呼ばれた男は瞬間、不機嫌そうに顔をしかめる。

「フン、あんなもの偶然だ。粋がるのも大概にしておけよ、女狐め」

「あら、やる気ね。確か以前の損失は1億だったかしら?
それを取り戻すのにいくら賭けなきゃいけないか、わかってらっしゃる?」

雨宿はさらにあくどい笑みを浮かべてロイドを煽る。
違法賭博の決定的証拠を掴むためには、法の範疇を超えた賭け金をチップに替える瞬間…それを捉えるのがベスト。
雨宿がロイドを煽るのは、まさにその瞬間を引き出すためだ。

「もちろん、その準備はある!」

ロイドは足元のアタッシュケースから、両手いっぱいの札束を勢いよく卓上に置いた。
イーサンは思わず目を大きく見開き驚きを示してしまうも、咄嗟に平静を装う。

その札束を見つめた雨宿は、向かいのイーサンに視線で合図を送る。
すると、イーサンは手を挙げて後方に立つ遊次を見る。

(…来た!)

遊次は銀盆を抱え、静かにテーブルへ歩み出た。
客としてのイーサンと雨宿、その間に座るロイドの姿を視界に収めながら、わずかに目を細める。
札束の匂いがテーブルを支配している。

「お呼びでしょうか?」
遊次は丁寧な所作で膝をつき、注文を伺う。
イーサンの側に跪いているが、遊次は身体の正面にロイドを捉えている。

イーサンはわずかに顎を上げ、冷静を装いながら注文を口にする。
「スコッチを頼む。ストレートで」

「では、私も同じものを」
雨宿は唇に妖艶な笑みを乗せ、ロイドにちらりと視線を流す。

「俺もそれでいい」
ロイドは短く言い捨てるように答え、太い指で札束の端を無造作になぞった。

「かしこまりました」
遊次はわずかに会釈し、背筋を伸ばして静かに身を引く。

「ねえ、ディーラー」
遊次が踵を返そうとした瞬間、雨宿が声を上げた。

「5000万サーク分のチップをお願い」
わざとロイドの目を射抜くように視線を送る。

「これくらいの賭けじゃないと、面白くないでしょう?」

ロイドの口角がピクリと動いた。
「…ほう、女狐め。上等だ」

ロイドは大げさに札束を抱え、卓上に叩きつけるように置く。

「なら、俺も5000万だ!」

その瞬間、遊次のスーツの胸ポケットに仕込んだ小型カメラが、ロイドとディーラーの手元を鮮明に捉えた。
ディーラーが現金をチップへと替える一瞬、赤黒い札が崩れ、光沢のあるチップが積まれていく。
遊次はその決定的瞬間を目に焼き付け、テーブルを離れた。

背を向ける直前、遊次の視線がイーサンと交錯する。
言葉ないが、イーサンは確かにこう告げていた。

"行け"。

遊次の向かう先は厨房…ではなく、VIPルーム。
稲垣曰く、その場所に元締めの"ボス"がいる。


一方、参加者をプレイルームに通した稲垣は、周りを気にしながら、そそくさと会場の外に出た。
街灯の少ない路地を忍のように軽やかに駆けると、突き当りに真っ赤なスポーツカーが止まっていた。
稲垣が車の窓を手の甲で軽く2回叩くと、後部座席のドアが開いた。
稲垣が身を隠すようにその車に乗り込むと、運転席には灯が、後部座席にアキトがいた。

「イーサン達は?」
車に乗り込んできた稲垣に、灯が短く問いかける。

「問題ない。すでに卓に着いている。
客の1人がチップを交換する瞬間を神楽遊次が撮影したのを見た。作戦は順調だろう」

稲垣は息を整えながら答える。

「…わかった。これでいつリッジサイドを呼んでも問題ないね」

リッジサイドの者達を会場に突入させるのは、ボディーガードや黒服をそちらの対応に回させ、隙を作るのが狙いだ。
リッジサイドの本来の狙いは稲垣だが、Nextは彼の身の安全を約束したため、こうして灯の車に退避させている。
灯と2人きりにさせないために、護衛もかねてアキトも車中で待機している。

「遊次に合図を送るよ」
灯が1度頷くのを確認すると、アキトはスマートフォンで遊次にコールをかけた。



遊次は銀盆を部屋の脇のテーブルに置くと、静かにプレイルームの扉を押し開けた。
背後で賭場のざわめきが閉じ込められ、音が消える。
代わりに現れたのは、無機質に長く伸びる廊下。
赤黒い絨毯が足元に引かれ、壁には金の装飾を纏った額縁と仄暗いランプが等間隔に並んでいた。
灯りはオレンジがかっているが、どこか鉄の匂いを伴ったような冷たさが漂う。

遊次は迷いなく早いペースで歩を進める。
廊下は奥へ進むほど静寂が深くなり、空気が張り詰めていく。

やがて、重厚な両開きの扉が姿を現した。
漆黒の塗装に金の装飾が施され、中央には「VIP ROOM」と刻まれた真鍮のプレートが鈍く光っている。
扉の取っ手は分厚い金属製で、触れるだけで冷たさが伝わりそうだった。

遊次は扉の前で一瞬だけ立ち止まる。
中にいるであろう"ボス"の気配を想像し、呼吸を整える。

すると、ポケットの中のスマートフォンが2度震えた。

(…アキトからの合図だ。稲垣の避難は済んだみたいだな。
あとは俺のタイミングで怜央に合図を送るだけだ)

扉を見つめわずかに拳を握り直すと、躊躇を断ち切るように手を掛けた。
遊次は勢いよく扉を押し開ける。

視界に飛び込んできたのは、まるで別世界のような光景だった。
深紅の絨毯が床一面に敷かれ、壁は黒漆に金の唐草が彫り込まれている。
天井から下がるシャンデリアは宝石のように輝き、その光が部屋全体を妖しく照らしていた。

部屋の中央に、黒革のソファがゆったりと据えられていた。
そこに、二人の女を左右に侍らせて座る男のシルエット。
背もたれに片肘を掛けたまま、扉を開けた遊次をじろりと睨む。

「…ノックもねえとは、教育がなってねえな」
低く唸るような声が、部屋の空気を震わせる。

遊次の視線が自然とその男に吸い寄せられた。
張り裂けんばかりに鍛え上げられた筋肉が、濃紺のスーツの下で盛り上がっている。
黒いサングラスが表情を覆い隠し、刈り上げられた左側頭部には、剃り込まれた稲妻のマークが銀色に光っていた。

仁科睦人――イーサンがサロンで撮影した"コンサル"と呼ばれる男の姿がそこにはあった。

「…アンタが、このカジノのボスだな」

遊次は鋭い目でその男を捉える。ただの黒服にしては言動がおかしいことを察知し、
VIPルームにいた屈強なボディーガード2人が同時に遊次の前に立ち塞がるが、遊次は動じることなく真っ直ぐと仁科だけを見つめている。

「まあまあ、待てよ。話ぐらい聞いてやろうじゃねえか」
すぐにでも遊次を摘み出す勢いのボディーガードを、仁科は声だけで制止する。

「見ての通り、俺がボスだ。で、何の用だ?
ただの躾のなってねえ従業員ってわけじゃなさそうだが」

笑みを浮かべているものの、その眼差しには剥き出しの威圧感が宿っている。

「俺は、お前らの悪事を終わらせに来た」
遊次はサングラスを外して胸ポケットにしまい、強い決意の滲んだ瞳で仁科を睨む。

「悪事?なんのことかサッパリだな」
仁科は薄ら笑いのままワイングラスに手を伸ばし、喉を潤す。

「とぼけても無駄だぜ。
人の弱みに付け込んで金を毟り取って、脅迫までしてんだろ」

遊次は懐からスマートフォンを取り出して仁科に突き付けると、ある映像を再生する。
そこには5000万サークの札束をチップに交換するロイドの姿が映し出されていた。

「貴様…!」
映像を目にしたボディーガードは遊次ににじり寄るが、遊次も床を蹴って素早く一歩後ろへ下がる。

「おっと、無闇に近づいたらこの映像が送信されちまうぜ。
このカジノの中身もアンタの姿も、全部な」

遊次は左手に握られたスマートフォンを揺らし、不敵な笑みを浮かべる。

「…おかしいなぁ。よほど歯車が狂ってねえと、こんな鼠が迷い込むわけねえ。
さては……やらかしやがったな、稲垣…」

仁科が怒りを露わにした瞬間、手にしていたグラスがひび割れる。
力は変わらずグラスに込められ、パリンと音を立てて割れる。
仁科の右手から赤いワインが滴り、絨毯に落ちる。
両隣にいた女性2人も「ひっ」と声を上げ、思わず仁科から距離を取る。

「…まぁ、ヘマ踏んだのは俺も同じだな。
やっぱあのネイサンとかいうオッサンがデコイだったか…クックック」

ワインの滴る右手で顔を覆いながら、仁科は肩を震わせて笑う。
数秒思考するだけで真実に辿り着くその洞察力には、狡猾な裏組織のトップたる所以が伺える。

「この映像を警察に流せばお前らは終わりだ。
けどオースデュエルを受けるってんなら、警察へのリークだけは見逃してやる。乗るか?」

遊次は淡々と仁科に条件を突きつける。

「そりゃ内容次第だな」

「俺が提示する契約は2つ。
参加者への脅迫行為をやめることと、9億サークを支払うことだ」

9億サークとは、依頼の元凶となった落合が失った1億と、
協力者達であるザリフォスが失った3億、ミロヴェアンが失った5億を合計した額だ。
この眩暈がするほどの大金の中から、Nextへ支払われる最終的な成功報酬は7000万サークとなる。

一見この場は遊次に主導権があるように思えた。
しかし仁科は未だ余裕の笑みを浮かべている。

「俺を脅してるつもりか?甘ェなぁ…。
お前の裏には確実に参加者がついてる。俺らを警察に突き出すってことは、そいつも道連れってわけだ。
それができねぇから、こんなとこまで出向いて、オースデュエルで金を取り戻そうとしてるんだろ。違うか?」

仁科はサングラスの奥から値踏みするような目で遊次を伺う。
遊次は何も答えない。

(…そろそろか)
遊次はポケットの中で一瞬、スマートフォンを操作する。



月夜が照らすビルの屋上、怜央はポケットで唸る2度のバイブレーションをキャッチした後、
そのままある人物へ着信をかけた。

「…出番だぜ。ターゲットは"VIPルーム"だ。
とびっきりのサプライズをカマしてやれ」



「その映像を警察にリークしても、お前らには一文の得もねぇ。目的は金を取り返すことなんだからな。
つまり、この脅迫はハナから成立してねぇんだよ」

仁科は目の前の遊次に勝ち誇った視線を送る。
彼の言葉にも一理はあった。
遊次達の目的は賭け金を取り戻すこと。依頼者はもちろん、雨宿に2億サークの支払いの義務がある以上、
Nextもこれが達成できなければ破滅の道を辿ることになる。

仁科はオースデュエルを受けないつもりだ。
こちらの土俵には上がらない。
遊次もそれを察していた。


そしてこのことは、遊次達の想像の内側の出来事であった。

遊次はゆっくりと胸ポケットに手を入れる。
仁科の前に立つ2人のボディーガードは警戒を強め、遊次に近づこうとする。
しかし遊次が掲げたのは、数枚の紙切れだった。

「…なんだ?それは」
仁科がサングラスを下げ、目を細める。

「同意書だ。俺らに協力してくれた参加者4人のな」

遊次は4枚の書類をばら撒くように勢いよく宙に投げる。
その内の1枚が空調の風に乗って仁科の足元へふわりと落ちる。
仁科はそれを手に取った。

「これは…!」
仁科は目を見開いた。
そこにはカジノ参加者の1人「レイヴァルト・ザリフォス」のサインが記されていた。

「お前がオースデュエルを受けなかった場合、裏カジノの映像を警察にリークすること…。
その書類にサインした4人は、この条件に同意してくれたんだ」

仁科は書類を見つめたまま奥歯を噛み締めている。言葉が見つからないようだ。

「その人達は、俺らに"賭けて"くれたんだよ!
逃げるなら、テメェらごと地獄に落ちるつもりでな!」


――それは、つい昨日の出来事だった。

依頼者であるハイデンリヒと、役員であり裏カジノ参加者の落合。
そしてザリフォス、ミロヴェアン、雨宿―裏カジノ参加者でありこの作戦の協力者3名は、
Next事務所にて一堂に会した。

元締めとの決戦の日が明日に迫ったその夜、
これまでの報告とこれからの計画について関係者全員に話す機会が設けられた。

「まさかもう元締めの喉元に刃を突きつけることになるとは…。
貴方がたを選んだ私の目に狂いはなかった」

依頼者である大柄な身なりの良い金髪の男性「ハイデンリヒ」は、遊次の両手を強く握り感謝の意を伝えた。

「さすがに直接証拠を押さえられちゃ、元締めのボスもオースデュエルにノらざるを得ないだろうな」

茶髪を無造作に撫でつけたオールバックの男――ザリフォスは、勝利を目前にした確信を胸に、静かに拳を握りしめた。
しかしその後ろで落合は浮かない顔をしていた。

「どうしたんですか?落合さん」
問いかけた灯は、わずかに眉をひそめ、落合の沈んだ顔色を見つめる。

「あ、いえ…。ただ、本当にそううまくいくのかな、と…。
もし元締めがオースデュエルに応じなかったら、その時点でこちらの作戦は破綻してしまう。そんな懸念が過ってしまって」

落合の言葉は確かに芯を食っていた。
場の空気が一瞬重く沈む。
その静けさを破るように、ミロヴェアンが長い金髪をたなびかせ、口を開いた。

「撮った証拠映像を警察に渡す…本当にそうなったら困るのは我々だ。
そこを相手に看破されれば、オースデュエルを受ける必要はないと高を括られる可能性もある」

ミロヴェアンが自分の不安を言語化したことで、落合の瞳がわずかに見開かれた。

「裏カジノのことを警察が知れば俺らも一網打尽だ。
だがなぁ、ここで奴らを逃がして今みてぇに脅迫され続ける方が、檻ン中よりよっぽど気分悪ぃぜ」

ザリフォスは左手で銀色のライターを何度も開閉する。
その瞳は虚空を見つめていた。まるで、何か深く思案するように。
数秒の沈黙の後、ザリフォスが思い切ったように口を開く。

「もし、ここにいるカジノ参加者が"警察への情報提供"を認めるとしたら…話は変わるよな?」

「認めるって?」
理解が及ばず、遊次はザリフォスに問う。

「そうだな…例えば俺らカジノ参加者がサインした"同意書"なんかがあれば、俺らの本気度も元締めに伝わるだろ。
"元締めがオースデュエルに応じない場合は、証拠映像を警察に提供することを認める"…って内容のな」

「同意書…確かに元締めの退路を塞ぐ一手にはなりますが…」

イーサンは腕を組み、目を伏せながら短く唸った。
その表情には慎重な思考の色が滲んでいる。
手段としての有効性は理解しながらも、実際にそれを提示することで参加者たちが受けるリスクの大きさ――それを理解しているからだ。

「そも、罪を犯したのは我々だ。我が身を焼く業火が、悪魔の魂をも焦がすならば本望」
ミロヴェアンもザリフォスと同様、元締めを逃すくらいなら自分ごと逮捕されたほうがよいという考えのようだ。

「…社長」
落合は後ろにいるハイデンリヒに呼びかける。

「君の言いたいことはわかっておる。ここまで来たら、もはや引き返すことは考えるまい」

落合の言葉を待たず、ハイデンリヒは答えを先に提示した。
その声を背に、落合は遊次の方を真っ直ぐと見つめる。

「私も、その同意書にサインします」

遊次は彼ら3人の覚悟を受け止め、強く頷く。

「わかりました。でもこれは、最後の一押しです。
本当に皆さんが捕まるような状態にはさせません。俺が必ずオースデュエルを成立させてみせる!」

遊次がザリフォス、ミロヴェアン、落合と目を合わせ、拳を強く握る。
3人も遊次の視線に応えるように頷く。

「では、これから同意書を3枚作成します」

「いえ、4枚よ」
イーサンが机に向かおうとしたところ、背後からの雨宿の一声が、その足を止めた。

「え、でも…」

灯は声の方を振り返り、目を丸くする。
雨宿はカジノで勝ち越しており脅迫も受けていない。
他の3人と異なり、元締めと心中するような同意書にサインをする必要性は皆無だ。

「オースデュエルが成立しなきゃ、あなたはどこから2億を引っ張ってくるのかしら?
これも"賭け"よ。その紙切れ1枚で相手が降りられなくなるなら、喜んでリスクは飲み込む」

元締めのボスが鋭ければ、Nextと雨宿の繋がりが明らかになる可能性もある。
その際に雨宿が警察へのリークを承服していなければ、その一点で「本気で警察にリークする気はない」と捉えられるかもしれない。
雨宿の同意書1枚で、オースデュエルの成立率が上がるのは確かだ。

「ありがとう、雨宿さん。…皆の覚悟、絶対に無駄にはしねえ!」



――


「…驚いたぜ、まさか奴らが、俺と心中するつもりとはな。」

「お前はオースデュエルを受けるしかねえ。覚悟キメろよ。
それとも、俺に負けんのがこえーのか?」

遊次は臆することなく仁科へ声を張り上げる。
協力者4人の覚悟が、遊次の背中を強く押している。

しかし、仁科の口角は再び釣り上がった。

「俺にとっての"勝ち"は、デュエルに勝つことじゃねぇ。
どこか遠い地で、今と変わらない暮らしをすることだ」

未だ余裕を失わぬ仁科に、遊次の顔はだんだんと曇る。

「…じゃあ、逃げるってのか?俺とのデュエルから」

「逃げる必要はねぇ。お前の方から、土下座して許しを請うことになるからな」

仁科がスマートフォンを手にする。
仁科のアクションに遊次はすぐに反応し、自身もポケットからスマートフォンを取り出す。

「わかってんのか!?余計なことしたら映像を…」

「わかってねえのはお前だぜ。参加者に同意書を書かせてたことは褒めてやる。
だが、別の同意書も用意するべきだったなぁ…」

「『自己の生命を犠牲にすることを承諾する』って同意書をな」

その一言に、遊次の表情が険しさを増す。
仁科は内ポケットから端末を抜き、迷いなく発信した。
冷たいコール音がVIPルームに響く。

乾いたコール音が一度、また一度、間を置いて室内に響く。
三度目が鳴っても応答はなく、沈黙だけが続いた。
一瞬、仁科の目に疑念が宿るが、気に留める必要はないといったようにまた口角を上げる。
その空白を埋めるように、仁科の唇がゆるやかに開かれる。

「こっちがお前のやり方に従ってやる理由はねえ。
プレイルームにいるお仲間の命(タマ)をこっちが握っちまえば、
主導権も俺が握れるってわけだ」

(…イーサン…!)

仁科の狙いは、プレイルームにいるイーサンを人質に取る事に違いない。
そのために、黒服に電話をかけたのだ。
同席している雨宿も人質に取るつもりだろう。

カジノ参加者がサインした同意書を用意することはできても、
仲間が人質に取られれば、構わず映像を警察にリークするような真似はできない。
それこそが仁科の算段だった。
簡単に相手の土俵に乗らず、あくまで狡猾に自分の目的の身を果たそうとする。


コールは8度目にしてようやく止まり、呼び出し音が途切れる。

「オイ、遅ェぞ」
仁科は苛立ち混じりの声を電話口に注ぐ。

「も、申し訳ありません!今、問題が…」
黒服の異様に焦った声が返ってくる。

「あ?言い訳はいらねぇ。
今すぐネイサン・ライノルドと雨宿を捕らえてここまで連れて来い」


「…出来ません!」
黒服は、切羽詰まった声できっぱりと言葉を返した。

「あァ!?」
仁科は青筋を立てて怒りを露にする。

「い、今…謎の集団が乗り込んで…うわあああ!!!」

耳を裂くような断末魔に、仁科は思わず顔を歪め、携帯から顔を離す。
しかし、状況を掴めない仁科は、血相を変えてすぐに電話の向こうの黒服に呼びかける。

「おい!どうなってやがる!!説明しやが…」
言葉を紡いでいる途中で、この騒ぎが誰の仕業か勘づいたようだ。

仁科はハッとして遊次に視線を移す。
その表情は、怒りを帯びた気迫を纏っていた。
仁科は思わず肩を震わせる。

「お前らが強硬手段に出ることなんてわかってんだよ。
だからこっちも、飛び道具を用意させてもらった」

遊次は背後の扉に意識を向けながら、淡々と語る。



「ガキィイィィイイイ!!」
プレイルームに、ローチの殺気だった声が響き渡る。
その背後には数十人の屈強な男が目を血走らせている。
絢爛な部屋には、何人もの黒服が布切れのように転がっていた。

アウトローな男達と黒服が激しく拳を交えている中、
部屋の隅でイーサンはその様子を伺いながら、雨宿にひそひそと話す。

「ここを出よう。俺達の仕事は終わりだ」
「えぇ」

2人は短く言葉を交わすと、開けっ放しになっている扉から逃げるように出る。
停めてある灯の車に向かって、暗い路地を走る。

「ここまでうまくいくとはね。でもアイツら、VIPルームに向かってるんでしょう?
あの子は大丈夫なの?」

「遊次なら平気です。今頃VIPルームはもぬけの殻でしょうしね」

走るイーサンの視界の先に真っ赤なスポーツカーが見えた。
イーサンは助手席側のドアを開け、そのまま滑り込む。
雨宿は後部ドアを引き、アキトと稲垣の隣に腰を下ろした。

「お疲れ様!イーサン、雨宿さん」
灯が無事仕事を終えた2人に笑顔で労いの言葉を送る。

「オイ、早く出してくれ…!」

後部座席から焦った声で稲垣が灯に呼びかける。
怜央からの伝達によって、リッジサイドの者達はVIPルームに稲垣がいると思い込んでいるものの、
自分の命を狙う存在が目と鼻の先にいることに耐えられないようだ。

「はいはい、わかってます…よ!」

灯は右手でシフトレバーを力強く引いた。
エンジン音が低く唸り、車体がわずかに震える。
次の瞬間、スポーツカーは滑るように路地を離れ、暗い街並みの中へと加速していった。






「ガキィィィイイイイ!!出てこいよォオオオオ!!」

VIPルームの扉の向こうから、斬り裂くようなローチの叫び声が聞こえてくる。
遊次は仁科の方に向き直り、真剣な表情で口を開く。

「もうアイツらがここまで来る。場所を移そうぜ」

「チッ…」
有無を言わせぬ状況に、仁科は1つ舌打ちをした後、VIPルーム奥の非常階段の方へ向かう。
遊次もそれに続く。

「テメェら、奴らを通すんじゃねえぞ!」
VIPルームで唖然としている2人のボディーガードに、仁科は怒号に近い指令を下し、非常階段へ続く扉を開ける。

金属階段を駆け降りる足音が、冷たい鉄骨に鈍く響く。
仁科は手すりを握り、靴音を叩きつけるように一段飛ばしで降りる。
その背を追う遊次は、肩越しに上方を振り返り、迫る気配がないかを確かめる。
階下に近づくにつれ、外から差し込む赤や蒼のネオンが壁をかすめ、二人の影を細く揺らした。

最後の踊り場で仁科が鉄扉を押し開ける。
湿った夜気が一気に流れ込み、寂れた繁華街の裏通りが広がった。
看板の光はくすみ、雨に濡れた舗道には人影ひとつない。
かつての賑わいを思わせる色褪せたネオンが、空虚な通りを照らす。
仁科は短く周囲を確認し、足早に裏通りの奥へと歩き出す。

「この辺はゴーストタウンだ。いるのは飢えた野良犬ぐらいだぜ」

薄暗い路地を抜けた先、色褪せたネオンの「BILLIARD」の看板が遊次の視界に飛び込む。
ガラス越しに並ぶ台が、青白いライトの下で静かに沈んでいた。

「ここにしようぜ。デュエル、受けるんだろ」
遊次は薄暗いビリヤード店のガラス扉を開いて、親指で中を指し示し、店の中へと入る。
仁科も黙ってその背についてゆく。

店内には、古びたビリヤード台が間隔を空けて並んでいた。
天井の蛍光灯はところどころ切れ、残る光もくすんだ緑のラシャをぼんやりと照らしている。
壁際には使われなくなったキューラックが埃をかぶり、
床には踏まれたままのチョークの粉が散らばっていた。

その中央、二人はビリヤード台を挟むように距離を取り、向かい合って立った。
互いの視線が真っ直ぐ交差し、静寂の中に緊張の糸が張り詰めていく。

「俺が提示する契約は2つ。
1つ目は、お前らの組織が2度と悪事を働かないこと。これでお前は裏カジノも脅迫もできねえ。
2つ目は、9億サークを支払うことだ」

ようやく、元締めのトップにこの条件を直接突き付ける時が来た。
このオースデュエルに遊次が勝利すれば、
依頼者の落合とザリフォス、ミロヴェアンへの脅迫は止まり、彼らが失った金を取り戻すことができる。
そしてその中から7000万サークはNextへ支払われることになる。

全ての未来は、この戦いで決する。
これまでの歩みを無駄にせぬよう、遊次は握った拳に覚悟を込める。

「こっちも契約は2つだ。俺の組織に関わる一切を口外しないこと。
それと…お前の身柄を俺に明け渡すことだ。ここまでしといてタダで済むと思うなよ」

仁科の瞳は獰猛な虎のようだった。
2つ目の契約により遊次が捕まれば、その果てに何が起きるかは言うまでもない。

「あぁ。デュエルを始めようぜ」

しかし、そんな覚悟はとっくにできていた。
自らの命が懸った闘いを、遊次はすぐに受け入れた。
最初から敗北は許されない戦いだ。遊次にとっては相手が提示する契約など、無いに等しい。

2人は同時にデュエルディスクを掲げる。


「オースデュエルの開始が宣言されました。内容確認中…」

プレイヤー1:神楽遊次
条件①:組織「帳」に対して、法・倫理・規律に違反する行為の一切を禁ずる。
条件②:神楽遊次に対して9億サークを支払う。

プレイヤー2:鷺沼 正
条件①組織「帳」に関係するあらゆる事実の口外を禁ずる。
条件②神楽遊次は、鷺沼正に対してその身柄を譲渡すること。



詳細な契約内容は、ソリッドヴィジョンの契約書として両者の前に浮かび上がる。
そこには一切の別の解釈の余地がないほどに徹底された文章が記載されており、
承認した時点で、完全なる両者の意図通りの契約にしかならないようになっている。

そこには仁科の本名と、彼が統べる組織「帳(とばり)」の名も刻まれていた。
オースデュエルで決する契約な法的拘束力を持ち、それらは個人と紐づけられる。
故に、契約上、明示する必要のある情報は対戦相手にも明かされる。

「…やっぱ"仁科"ってのは偽名か、"鷺沼正"さんよぉ」

「もう何年もこの名前は出したことねェんだがな。
まぁいい。それを知っちまったお前の口は、すぐに塞げるしな」

仁科…もとい鷺沼は、拳の骨をパキパキと鳴らし、不気味な笑みを浮かべる。
しかし遊次は臆することなく、デュエルディスクを掲げ、鷺沼と対峙する。

遊次と鷺沼は指でソリッドヴィジョンの契約書にサインを行うと、
DDASがオースデュエルの開始を宣言する。

「契約内容を承認します。
デュエルの敗者は、勝者が提示した契約を履行する事が義務付けられます」

「デュエル!」
鷺沼のデュエルディスクのランプが灯る。


「俺のターン。フィールド魔法『巡天の帳(とばり)』を発動」


■巡天の帳
 フィールド魔法
 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分メインフェイズに発動できる。手札から「巡天」モンスター1体を特殊召喚する。
 ②:自分フィールドの「巡天」モンスター1体をリリースして発動できる。
 デッキから「巡天」モンスター1体を墓地へ送る。
 ③:このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。
 デッキから「巡天」モンスター1体を特殊召喚する。


発動の瞬間、暗い店内の壁も天井も音もなく消え去った。
そこに現れたのは、満月が高く浮かぶ広大な夜空。
足元の床は黒い大地へと変わり、短い草が風に揺れている。
遠くには連なる山影が月明かりに浮かび、空気はひんやりと澄んでいた。
さっきまでの狭い室内は、果てのない夜の野へと塗り替えられていた。


「手札から『巡天の導き手』を召喚」

■巡天の導き手
 効果モンスター
 レベル4/光/魔法使い/攻撃力1700 守備力1500
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
 デッキから「巡天」モンスター1体を手札に加える。
 ②:このカードが墓地に存在し、「巡天」フィールド魔法が発動された場合に発動できる。
 墓地のこのカードを特殊召喚する。


現れたのは、淡い茶髪の若き魔術師だった。
濃紺に紫を織り交ぜた長衣をまとい、縁には金糸で複雑な文様が走っている。
腰には瑠璃色の宝玉を嵌めた帯を締め、ゆったりと広がる袖が風に揺れる。
右手には真っ直ぐな木杖を携え、左手を前方へ差し伸べて呪を紡ぐ構えを取っている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/09SCMFs
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「『巡天の導き手』の効果発動。召喚時、デッキから巡天モンスターを手札に加えることができる。
『巡天の盟主』を手札に加える」

「フィールド魔法『巡天の帳』の効果発動。
フィールドの『巡天の導き手』をリリースし、デッキから『巡天の渡り鳥』を墓地へ送る」

鷺沼は淡々と処理を進めるが、まだそのデッキの性質は見えない。

「さらにフィールド魔法『巡天の帳』のもう1つの効果を発動。
1ターンに1度、手札の巡天モンスターを特殊召喚できる。『巡天の番狼』を特殊召喚するぜ」


■巡天の番狼
 効果モンスター
 レベル5/闇/獣/攻撃力2200 守備力1000
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
 デッキから「巡天」魔法カード1枚を手札に加える。
 ②:自分のフィールドゾーンに存在するフィールド魔法カードの種類によって、このカードは以下の効果を得る。
 ●巡天の帳:自分フィールドの「巡天」モンスターは戦闘で破壊されない。
 ●巡天の暁:自分フィールドの「巡天」モンスターは相手の効果で破壊されない。

現れたのは、黄金のたてがみを逆立てた魔狼だった。
鋭く光る双眸は獲物を射抜くように輝き、口元からは鋭い牙が覗く。
全身を覆う漆黒の毛並みはしなやかな筋肉を包み、その四肢は力強く大地を踏みしめる。
太く伸びた鉤爪が土を抉り、低く唸る声が空気を震わせていた。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/eJ45AbR
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「『巡天の番狼』が特殊召喚に成功した時、効果発動。
さらにチェーンして墓地の『巡天の渡り鳥』の効果発動。
コイツが墓地にいてフィールドに巡天モンスターが召喚・特殊召喚された時、
墓地からコイツを特殊召喚できる」


■巡天の渡り鳥
 効果モンスター
 レベル2/光/鳥獣/攻撃力900 守備力1000
 このカード名の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがフィールドに存在する限り、自分フィールドの「巡天」フィールド魔法は
 相手の効果の対象にならず、相手の効果で破壊されない。
 ②:このカードが墓地に存在し、自分フィールドに「巡天」モンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動できる。
 墓地のこのカードを特殊召喚する。


現れたのは、蒼と金の羽を広げた小さな鳥だ。
宝石のように澄んだ瞳は輝きを湛え、嘴は細く鋭い。
胸から腹にかけては雪のように白く、しなやかな尾羽が優美な弧を描く。
翼の縁には金色の光が瞬き、舞い散る羽が淡く輝いていた。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/6G9GIK7
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小さな声でさえずる渡り鳥の姿を見て、遊次は眉を少し上げる。

「悪ィ奴のくせに、かわいいモンスター使ってんじゃねえか。
もっと悪魔族とか使うと思ってたぜ」

「そりゃ偏見ってヤツだ。俺にだって純朴な少年時代はある。なぁ?」
鷺沼は巡天の渡り鳥を指で撫でると、モンスターも満足げに喉を鳴らす。

(すげー長いこと使ってるデッキなんだな。
モンスターにも懐かれてるし…アイツは自分のデッキを知り尽くしてるはずだ)

未だ全貌の見えない「巡天」デッキに、遊次は警戒を強める。

「チェーン1の『巡天の番狼』の効果により、デッキから『巡天』魔法カードを手札に加えることができる。
手札に加えるのは『巡天蘇生術』。そしてこのカードをそのまま発動するぜ。
この効果により墓地の『巡天の導き手』を特殊召喚する」


■巡天蘇生術
 通常魔法
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:墓地の「巡天」モンスター1体を対象として発動する。
 そのモンスターを特殊召喚する。
 ②:このカードが墓地に存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。
 このカードを自分フィールドにセットする。
 この効果でセットしたこのカードはフィールドを離れた場合に除外される。

若き魔導士が再びフィールドに姿を現す。

「さらに俺のフィールドに巡天モンスターが2体以上いる場合、『巡天の星将』は手札から特殊召喚できる」

■巡天の星将
 効果モンスター
 レベル7/光/戦士/攻撃力2400 守備力2200
 このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
 ②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドに「巡天」モンスターが2体以上存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚できる。
 ②:手札の「巡天」モンスター1体を捨てて発動できる。
 自分はデッキから2枚ドローする。
 ③:自分のフィールドゾーンに存在するフィールド魔法カードの種類によって、このカードは以下の効果を得る。
 ●巡天の帳:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのプレイヤーは、表側のモンスターが存在しない場合、魔法・罠カードを発動できない。
 ●巡天の暁:このカードの攻撃力・守備力は1500アップし、
 このカードがモンスターゾーンに存在する限り、攻撃可能な相手モンスターはこのカードに攻撃しなければならない。


現れたのは、金の長髪を輝かせる戦士。
深い蒼を基調とした鎧には精緻な金装飾が施され、胸と腰の星章が鋭く輝く。
右手には黄金の穂槍を握り、肩からは厚手のマントが重たげに垂れている。
静かに立つその姿は、見る者に揺るぎない力を感じさせた。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/rSwx2GV
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(最上級モンスター…コイツが切り札か?)

遊次は現れた戦士の姿を見つめた後、デュエルディスクでその効果を確認する。
しかし、ステータスや効果は一定の水準を誇るものの、決定打になるようには見えなかった。


「巡天の星将の効果発動。手札の巡天モンスターを1体捨てて2枚ドローする」
鷺沼は手札のモンスターを1枚墓地へ送ると、デッキトップから2枚のカードを引く。

「この時、手札から捨てられた『巡天の盟主』の効果発動。
このカードが手札から墓地へ送られた場合、特殊召喚できる!」


■巡天の盟主
 効果モンスター
 レベル7/光/戦士/攻撃力2300 守備力2300
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードが手札から墓地へ送られた場合に発動できる。
 このカードを墓地から特殊召喚する。
 ②:自分の墓地の「巡天」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのカードを手札に加える。
 ③:自分のフィールドゾーンに存在するフィールド魔法カードの種類によって、このカードは以下の効果を得る。
 ●巡天の帳:1ターンに1度、相手フィールドにモンスターが召喚された場合に発動できる。
 相手の手札をランダムで1枚確認する。
 そのカードがモンスターカードだった場合、そのモンスターを相手フィールドに特殊召喚する。
 魔法・罠カードだった場合、そのカードを墓地へ送る。
 ●巡天の暁:自分フィールドの「巡天」モンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。


現れたのは、黒鉄の鎧をまとった赤き髪の戦士。
肩と胸を飾る深紅の意匠が鋼の光を際立たせ、全身を覆う板金は隙なく組まれている。
右手には黒い太陽の紋を刻んだ旗槍を握り、背には同じ紋を染め抜いたマントが掛かっていた。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/PEGN2YN
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「俺はさらに、巡天の導き手をリリースして、手札の『巡天の魔聖』を特殊召喚する!」


■巡天の魔聖
 効果モンスター
 レベル7/闇/魔法使い/攻撃力1900 守備力2400
 このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
 ②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードは自分フィールドの「巡天」モンスター1体をリリースすることで、
 手札から特殊召喚できる。
 ②:自分フィールドの「巡天」フィールド魔法1枚を墓地へ送って発動できる。
 そのカードとカード名が異なる「巡天」フィールド魔法1枚をデッキから手札に加える。
 ③:自分のフィールドゾーンに存在するフィールド魔法カードの種類によって、このカードは以下の効果を得る。
 ●巡天の帳:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 相手は相手フィールドにセットされた魔法・罠カードと同じ数しか、
 モンスターを召喚・特殊召喚できない。
 ●巡天の暁:1ターンに1度、相手がモンスターを特殊召喚した場合に発動できる。
 そのカードを持ち主の手札に戻す。


現れたのは、長い翠色の髪と尖った耳を持つ魔導士。
白と深緑を基調とした外套は金の縁取りが施され、胸元には大きな翡翠の宝玉が輝いている。
右手には同じ宝玉を嵌めた長杖を握り、左手は胸の前に添えられている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/SJfQKjS
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「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

--------------------------------------------------
【鷺沼】
LP8000 手札:1

①巡天の番狼 ATK2200
②巡天の渡り鳥 DEF1000
③巡天の星将 ATK2400
④巡天の盟主 ATK2300
⑤巡天の魔聖 DEF2400

フィールド魔法:巡天の帳
伏せカード:1


【遊次】
LP8000 手札:5
魔法罠:0
--------------------------------------------------

「上級モンスターが4体…しかもめんどくさそうな効果を持ってやがる」
遊次が額に人差し指を置き、頭を回しながら目の前に立ち並ぶモンスター群を見つめる。

「だろ?他じゃお目にかかれない俺好みなロックだぜ。
俺のフィールドに『巡天』フィールド魔法がある時のみ、上級モンスターは効果を得る。
『巡天の星将』がいる限り、お前は表側モンスターがいなきゃ、魔法・罠を発動できねえ。
初動で魔法カードを発動したりPカードのセットはできねえってこった。地味に痛ぇよな?」

鷺沼は夜の草原へと変わったフィールドを歩き回り、得意げに解説を始める。

「さらに『巡天の魔聖』がいる限り、セットした魔法・罠カードの数しか、
相手はモンスターを召喚・特殊召喚できねえ。コイツもクールなロックだよなぁ?」

「お前さんはセットした魔法・罠カードの数と同じだけのモンスターしか呼び出せねえ。
もし手札に魔法・罠がなきゃ悲惨だな?ハッハッハ!」
鷺沼は豪快に笑う。

「さらに巡天の盟主がいる限り、お前がモンスターを召喚・特殊召喚する度に、
手札を1枚ランダムで確認して、魔法・罠ならそのカードは墓地へ送られちまう。
確認したカードがモンスターなら、特殊召喚できるってボーナスもあるが…
出せるモンスターが限られてる中で、余計なモンスターが飛び出てきちまうかもな?」

相手によっては手も足も出ずに敗北しかねない強力なロックだ。
これまでもこのデッキで数多の相手を追い詰めてきたのだろう。

遊次は自分の手札に視線を送る。
手札には魔法カードと罠カードが1枚ずつ存在する。
これらを伏せれば、少なくともモンスターを1体も呼び出せないということはない。

(確かに、手札によっちゃ何もできなくなる厄介な効果ではあるけど…俺には打開策はある。
アイツのデッキは十分回ってた。じゃあ、これが本当にアイツの全力なのか…?)

遊次は盤面を一瞥し、眉を寄せた。5体のモンスターの効果が絡みあい、行動を縛っている。だが、胸の奥に微かなざらつきが残る。

(とにかく今は、動いてみなきゃ始まらねえ)
遊次はデッキトップに指をかける。

「俺のターン、ドロー!」
引いたのはモンスターカードだ。

「俺は3枚のカードを伏せる」
巡天の魔聖の効果により、セットカードがなければモンスターを呼び出すことができない。
しかし、これにより3体までモンスターが召喚・特殊召喚可能。

「手札から『妖義賊-忍びのイルチメ』を召喚!」

現れたのは紫色の忍び装束を身に纏い、長い髪を後ろで束ねたくノ一だ。
右手にはクナイを持っている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/xBnMfae
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「相手フィールドにモンスターが召喚された時『巡天の盟主』の効果発動。
お前の手札を1枚ランダムで確認する」

巡天の盟主が左手をかざすと、遊次の手札が1枚、赤い気に包まれる。
遊次はそのカードを表にする。

「選ばれたのは『妖義賊-誘惑のカルメン』…モンスターだ」

「そうか。なら巡天の盟主の効果で、そのモンスターは特殊召喚してもらうぜ」

遊次のフィールドに黒いローブを纏った妖艶な女性のモンスターが現れる。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/dwkEFaw
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遊次の場に現れたモンスターを見つめ、鷺沼は口を開く。

「じゃ、面倒なことされる前に…全部ひっくり返しときますか」

「なに…?」
まるで機を伺っていたかのような鷺沼の言葉。
不穏な気配が遊次の背筋を撫でる。

鷺沼は、伏せていたカードを表にする。

「速攻魔法『巡天融合術』発動!」


■巡天融合術
 速攻魔法
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドに「巡天」フィールド魔法が存在する場合、その種類によって以下の効果を発動する。
 ●巡天の帳:自分の手札・フィールドから、
 闇属性の「巡天」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
 その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
 ●巡天の暁:自分の手札・フィールドから、
 光属性の「巡天」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
 その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
 ②:このカードが墓地に存在し、自分フィールドの「巡天」融合モンスターがフィールドを離れた場合に発動できる。
 このカードを自分フィールドにセットする。


「この融合魔法は、俺の場のフィールド魔法によって、呼び出すモンスターが変わる。
『巡天の帳』がフィールドにある時、闇属性の巡天モンスターを融合召喚可能。
俺は、場の5体のモンスターで融合!」

「5体で融合…!?」
遊次は意表を突かれ、1歩後ずさる。

「月より魔帝が降り立つ時、帳が世界を覆い、暫しの沈黙が訪れる」
鷺沼のフィールドの足元に魔法陣が敷かれ、5体のモンスターは地から湧き出た闇へと呑まれてゆく。

「融合召喚!降臨せよ!『巡天の月帝 ケリュフォス』!」


■巡天の月帝 ケリュフォス
 融合モンスター
 レベル10/闇/魔法使い/攻撃力3500 守備力2200
 「巡天」モンスター5体
 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードが融合召喚した場合に発動できる。
 相手フィールドの表側カードを全て裏側表示にする。
 ②:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いにモンスターを召喚・特殊召喚・反転召喚できず、
 魔法・罠カードを発動できない。
 ③:ターン終了時に発動する。このカードをEXデッキに戻す。
 その後、デッキ・墓地から「巡天の暁」を発動できる。


凝固した空気が弾けるように放出される。
遊次は思わず腕で顔を覆う。

目を開けた時、目の前に存在したのは、濃藍の外套を纏った巨体の魔人だった。
全身を覆う長衣は深い夜空を思わせ、裾や袖には星々と三日月の紋が連なっている。
腰には蒼い宝玉を嵌めた帯を締め、金の縁取りが静かに輝きを返す。
腕からは長く薄い布が流れ、わずかな動きにも宙を漂うように揺れた。
頭部には鋭く反り返る角状の飾りを備えた仮面を着け、その中央に据えられた三日月が冷たく光る。
その存在は、ただ立つだけで周囲を静寂に沈めていた。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/SVWuWYv
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異常に冷えた空気が遊次の頬を撫でる。
遊次は眼前の巨人を見上げる。

「『巡天の月帝 ケリュフォス』の効果発動!
融合召喚に成功した場合、相手フィールドの表側カードを全て裏側にする!」

ケリュフォスが掌から冷たい冷気を放つと、
遊次のフィールドのイルチメとカルメンは裏側守備表示へと変わる。

--------------------------------------------------
【鷺沼】
LP8000 手札:1

①巡天の月帝 ケリュフォス ATK3500

フィールド魔法:巡天の帳

【遊次】
LP8000 手札:1

①妖義賊-忍びのイルチメ(裏側) DEF1200
②妖義賊-誘惑のカルメン(裏側) DEF1400

伏せカード:3
--------------------------------------------------

「さらにケリュフォスが存在する限り、フィールドにはカードをセットすることしかできない。
召喚・特殊召喚・反転召喚、カードの発動…その、全てがこのモンスターの前では許されないってことだ!フハハハ!」

「なんだと…」

鷺沼が両手を広げ高笑いする。
対する遊次はただ戦慄することしかできなかった。


突如現れた、鷺沼の切り札。
そのモンスターの降臨と共に、遊次のフィールドは温度のないカードの裏面が埋め尽くした。
まるで、フィールドに帳を下ろしたかのように。



第49話「帳が上がる時、帳は下りる」 完



鷺沼の呼び出した切り札「巡天の月帝 ケリュフォス」によってモンスターの召喚やカードの発動を封じられた遊次。
一切の抵抗を許さぬその圧倒的な力に遊次は成す術もなかった。
しかしエンドフェイズと共に、ケリュフォスは自身の効果によってEXデッキへと戻ってゆく。

反逆の兆しを見出す遊次だが、まだ鷺沼の「巡天」デッキは半分の力しか見せていなかった。
消えゆくケリュフォスと共に、下りた帳は上がり、眩き日差しがフィールドに差し込む。

その暁こそが、新たな魔帝を戦場に誘う。

「…フ、いかにも自分が光だってツラだな。でもよ、この光景を見てみろ。
俺の背後には輝くお天道様があって、そいつに焼き尽くされる陰がお前なんだ」


第50話「影を焼き尽くす暁光」

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