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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第53話:命の使い方

第53話:命の使い方 作:

あの頃の僕は、ただ夢中で走っていた。

ある日たまたまテレビで見たデュエルチャンピオンの姿は、幼い僕の心を激しく揺さぶった。
相手を全て見透かしたような読みと、思いもよらぬ方法で相手の盤面を崩すタクティクス。
「こんな人に勝てるわけない」と思わされ、憧れを抱いたのが始まりだった。

デュエルは、ただカッコいいモンスターを召喚して、友達と盛り上がるだけの簡単な"遊び"じゃない。
もっと奥が深くて、最高に面白い"ゲーム"だ。

あの日から毎日、デッキを持ってとにかく走り回った。
デュエリストを見つけては無邪気に勝負を挑み、こてんぱんにされた。

でも、負けるたびにまた、僕は強くなっていった。



「また…負けちゃった」

あれから3年、腕を磨き続けた僕は、地方大会にも挑めるくらいにはなった。
それでも、あのチャンピオンのようにはなれなかった。

「いやー惜しかったね!ドンマイドンマイ!
でも譲、準優勝だよ!銀メダル!」

落ち込む僕とは真逆の明るさで、母さんは僕の背中をばしばしと叩いた。

「いつも準優勝止まりじゃん!あと1歩って感じがするんだけどな…」

「またあちこち駆け回って武者修行しようよ!母さんいくらでも付き合うからさ!」

「…うん!」

母さんはいつでも明るくて前向きだった。
母さんが泣き言を言うところを、僕は見たことがなかった。

僕が落ち込んでいる時も「また次がある」と、常に励ます言葉を僕にくれた。
少しぐらい寄り添ったり共感してくれてもいいじゃないか、と思うこともあった。

それでも母さんの言葉は、まるで炎みたいに、僕の心を明るく照らしてくれた。

ただ無我夢中に、強いデュエリストを求めて遠くまで行きたいと言い出した僕にも、母さんは文句一つ言わずについてきてくれた。
母さんは生まれつき人より体が弱く、船乗りの父さんが家族を養うために海外で働いている。
それもあって、母さんは昔から僕の遊びにいつも付き合ってくれた。


(ただガムシャラにカードを使うだけじゃダメなんだ。
何か、相手が"ビックリ"するような戦術があれば…)

そんな僕に、神様は"贈り物"をくれた。


「その攻撃宣言時、手札のビックリボーの効果発動!
このカードとEXデッキで表側となっているモンスターでシンクロ召喚を行い、そのSモンスターに攻撃対象を変更する!」

そのモンスターが現れると、相手はいつも目を丸くして、心からビックリしてくれるんだ。
それが楽しくてしょうがなかった。

その時、僕はいつもビックリボーの方を見るんだ。
すると、なぜかいつも、ビックリボーも僕の方を見て、意地悪な笑顔を見せてくれる気がする。

なんでだろう、モンスターに意思なんてないはずなのに。

「僕はレベル8『冽灼の宴陽 ソリグナ』に
レベル1の『ビックリボー』をチューニング!」

「いけ、冽灼の赫鎧 バルグレン!返り討ちにしろ!」

鋼鉄の鎧を纏ったモンスターは、炎を纏う両手の打撃武器で相手モンスターを打ち砕いた。


「やったよ母さん!優勝だっ!!」

「あぁっ!凄いじゃないか譲っ!!
ほんとにアンタは…凄い子だよ…」

母さんは強く僕を抱きしめてくれた。
母さんが涙を流しているのを、その時初めて見た。
でもそれは、悲しい涙じゃなくて。

「うん…やったよ!でもこれも、ビックリボーが僕のもとに来てくれたからなんだ!
この子のおかげで、僕のデッキが完成したんだよ!」

「僕、ビックリボーと一緒なら、もっと上に行けると思うんだ!
ビックリボーに、もっと"おもしろい世界"を見せてあげたい!」

僕が明確な夢を口にしたのは、その時が初めてだった。
母さんは心から嬉しそうに顔を綻ばせた。

「もっと…上か。それじゃ、目指すところは1つしかないね!」

「うん!もちろん、ヴェルテクちゅっ…」

「ハハハ!デュエルよりまず滑舌の練習をしたほうがいいね!」

「もぉー!僕は本気なのに!」

いずれあのチャンピオンと同じ場所に立てたら。
その景色を母さんと父さん…ビックリボーが見てくれたら。
あの時、チャンピオンを見てなんとなく描いた夢が、この時はっきりと輪郭を持った。

「もしヴェルテクス・デュエリアに出るなら、"願い"ってヤツがなきゃね」

「願い?それなら、ビックリボーと一緒に、あのスタジアムで戦うことだよ」

「それは優勝できなくても叶うだろう?
優勝した時に叶える願いも考えときなよ」

「うーん…」

「それじゃあ、たっっくさんの、お金かな」

「お金?なかなか現実的な夢だねぇ」

「だって、いっっぱいお金があれば、父さんも海外でお仕事しなくていいでしょ?
そしたら、みんなでずっと一緒に暮らせるよ!」

今思えば、体が弱くて働くのが難しい母さんに言うべき言葉じゃなかったのかもしれない。
それでも母さんは、笑顔で言った。
遠い空を見上げながら。

「…そうだね。叶うといいね」


そして数年後。
いよいよヴェルテクス・デュエリアの予選が始まる前日。


「…ついに明日だね」

夕日が無機質なビル群を照らす頃。
両手に買い物袋を持ちながら、僕は母さんに話しかけた。

「そうだね〜!今日は体あっかくして寝るんだよ!風邪引いたら一巻の終わりだからね」

「ハハ、子供じゃないんだから大丈夫だよ」

何気ないひと時だった。
いつもと同じ。

でも、少しだけ何かが違う。

違う気がした。

横を見ると、隣に並んで歩いていた母さんの肩が、半歩、また半歩と前に出ていく。

(母さん、今日はやけに急いでるな…)

追いつこうとした時、足裏に小さなひっかかりをおぼえた。

なんでだろう、何かがおかしい。
歩調を合わせようとしても、距離はじわじわと開く。

待ってよ、母さん。

右足が上がらない。
膝が固まって、前へ進めない。

母さんの背中がどんどんと遠のいてゆく。

母さん…母さん!!

無理に動かそうと腿に力を入れる。

体が、大きく前に倒れる。
瞬間、突然と視界に映ったのは、アスファルトの地面だった。

顔に激痛が走った。

「…譲っ!!」




「突然足が動かなくなったのは、脊髄の血管が突然塞がり、神経が働かなくなったためです。
正確にはさらに検査をする必要がありますが、進行性閉塞症という病気である可能性が高いです。
今は下肢の麻痺だけですが、いずれは体や臓器にも影響を及ぼす可能性があります」

医師の説明に、母さんは顔を真っ青にしていた。
僕は顔の右半分を包帯で覆われて、車椅子の上でただぼーっと、虚空を眺めていた。

「ど、どうやったら治るんですか!?」

「…残念ですが、まだ治療法は確立されていません。
正確には、研究中、ですが」

「で…でも、治るかもしれないんですよね!?」

母さんの祈るような眼差しと震える唇が、少しだけ医者の言葉を詰まらせた。
でも、それはほんの一瞬だった。

「…この病気は時間と共に進行していきます。それを遅らせることはできますが…」

「譲くんは、長くてもあと5年の命です」

あの瞬間から、僕の世界は灰色に変わった。




「母さん、今日もまた仕事…?」

「そうだよー。あら、なーに心配そうな顔してんの!
大丈夫!母さんも久しぶりに働けて楽しいから!」

母さんには僕が言いたいことがすぐにわかったらしい。
あれから数ヶ月、母さんは毎日、遅くまで働きに出るようになった。
体が弱くて働くのが難しいのに、「大丈夫」だと言って聞かなかった。

それは、この5年の間に研究も終わって、正式に治療を受けられる時が来るかもしれないから。
そうなれば、最新の医療だから、莫大なお金がかかる。

だから母さんは毎日、毎日、毎日、毎日、
毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日…




「ごめんね…ごめん、ゆずる…」

母さんは病床で、青白い顔をしながら、僕にそう言った。
毎日のように体を酷使して働いた結果、母さんは過労で倒れた。

「私が…もっと…強けれ…ば…」
かすれた、かろうじて聞こえる声で、母さんは手を震わせながら言う。

「違うッ!母さん!!そんなこと言うなよ!!」

僕のせいだ。
僕のせいだ。僕のせいだ。僕のせいだ。

こうなるかもしれないって、本当はわかってた。
こんな生活、長くは続かないってわかってたのに。

わかってたのに、僕は本気で止めなかった。

それは、死ぬのが怖いからだ。


5年以内に治療を受けられるようになるかなんてわからない。
どれくらいのお金がかかるのかもわからない。

助かる可能性なんて、1%にも満たなかったはずなのに。

なのに、僕は希望に縋り続けた。

そのせいで、母さんは…。

「ゆず、る…」

母さんの声がどんどんとか細くなってゆくのがわかる。

「母さん!!」

僕は母さんの手を強く握る。
それしかできなかった。

「いき、て――」

耳鳴りのような電子音が、病室に鳴り響いた。

「母さぁあああん!!!」





母さんの葬儀で、久しぶりに父さんと会った。
ひどくやつれてた。

「俺は、いつも大事な時に側にいられない。
…最低の親父だ」

「そんなわけない。父さんが頑張ってくれたから、僕たちは生きてこれたんだよ」

父さんは、母さんのお墓を静かに見つめていた。

「頑張った結果がこれじゃ……なにも、意味がないんだよ……っ」

いつも静かな水面のように冷静だった父さんが、初めて泣いている姿を見た。

「これからは、一緒にいられるよ」

もう、父さんが頑張る必要はない。

どうせ終わるなら、せめて、2人とも、悔いが残らないように。



それから2年。病状はさらに悪化した。
血を吐くことも増えた。
僕はしばらく入院することになった。

病院はやることがない。
いや何かをする気も起きなかった。
ただ、毎日を呆然と過ごすだけだった。


隣を見ると、一人の女の子が、窓の外をずっと見つめていた。

またか。

深紅の髪をツインテールにしている。
歳は僕と同じくらいだろう。

看護師との接し方を見るに、どうやらここに入院して相当長いようだ。
彼女はいつも窓の外を見つめている。
僕と同じで、何もやる気が起きないのだろうか。



夜中、いきなり目が覚めた。

今日は、退院する日だ。
症状もマシにはなって、車椅子ではあるが、日常生活を送れるぐらいにはなった。

でもなぜだか、異様に体が熱い。
体も重い気がする。
外の風に当たろうと、腕だけでベッドを張って、隣に置いてある車椅子に座ろうとした。

体が、動かない。

「うそだ…」

まさか、病状が悪化した?
昨日まで、こんなことなかったのに…!

心臓がバクバクと音を鳴らす。
必死に気持ちを落ち着かせようと、息を吸う。

息ができない。
何かが喉につっかえたみたいに、肺に空気が入らない。

まずい。まずい。まずい…!

苦しい。

ナースコールを押そうとするが、腕が動かない。
体は鉛のように重く、手足も指先もまるで他人のものみたいに動かない。

胸が締め付けられる。
心臓が何度も大きく脈打つ。
それはまるで、カウントダウンのように。

死ぬのか、僕は。

視界が暗く狭まっていく。
耳鳴りだけがどんどん大きくなる。

嫌だ、死にたくない……!

声を出そうとしても、口からは空気が漏れるだけだ。
苦しみが永遠のように続く。

母さんも、こんな気持ちだったのかな。

頭に浮かんだのは、母さんの最期の言葉。

(いき、て――)

そうだ。こんなところで死んでたまるか。

(僕、ビックリボーと一緒なら、もっと上に行けると思うんだ!
ビックリボーに、もっと"おもしろい世界"を見せてあげたい!)

だって僕は、まだ何もしてないじゃないか…!!

鼓動が、どんどんと弱くなっていく。
暗闇だけが目の前に広がっている。

僕は、ここで死ぬんだ。

ごめん、ビックリボー。
ごめんなさい、母さん。

そして完全な闇に呑まれる瞬間――


僕は全身を震わせて目を覚ました。

「ハァ…ハァ…」

涙が頬を伝い、心臓の鼓動が恐ろしいほど速く打っている。
でも、動いている。
辺りを見渡すと、いつもと変わらない病室だった。
すでに日が差し込み、夜が明け始めていた。

「夢…」

涙が止まらなかった。
それが安堵か、それとも恐怖かは、わからない。
体は震え、呼吸はずっと荒いままだ。

夢の中で僕を支配していたのは恐怖と、そして強い後悔だった。
僕はベッドの傍らまで腕を伸ばし、鞄の奥底にしまってあったデュエルディスクの中からデッキを取り出した。

(ビックリボー…)

その一番上のカードを見つめていると、僕は罪悪感に苛まれた。
倒れて以来、僕はデッキにすら触れていなかった。

未来に夢を抱くのは、未来への道が見えているからだ。
でも、今の僕にはもう、道なんてない。

ビックリボーに、面白い世界を見せると約束した。
ヴェルテクス・デュエリアで優勝して、家族みんなで暮らす姿を夢見てきた。
足が動かなくなった後も、いつか治療が受けられるかもしれないと希望を抱いてもみた。
信じようとしてみた。

でもその結果、母さんを失っただけだ。
もがいても意味なんてなかった。
もがけば何かを失うなら、僕はもう何もしたくない。

なのに。

「死にたく…ない…」

手にしたデッキを握りしめて、僕は子供のように泣きじゃくった。

その時。

「みっともない」

隣から、声が聞こえた。
ひどく冷めた声だった。

声の方を見ると、深紅の髪の女の子が、まるで汚いものを見るかのような目でこちらを見ていた。

「…えっ……」

今まで言葉を交わしたこともない彼女からの突然の侮蔑に、僕は困惑した。
顔もはっきりとは見たことがなかった。

異様に白い肌だった。まるで、日の光などほとんど浴びたことがないかのように。

彼女は自分のベッドから立ち上がると、僕の病床の目の前に立った。

「ただみっともなく生に執着して、気持ち悪いって言ってるの」

彼女の言葉は、ゆっくりと僕に突き刺すように、さらに鋭くなった。
窓の外を見つめる儚げな姿と、あまりにもかけ離れた実態だった。

「…なんでそんなことを言われなきゃいけないのかな。
君とは話したこともないし、名前も知らない」

びっくりしすぎたのか、涙が引いた。
それと同時に、久しぶりに僕の中で怒りの感情が湧き上がってきた。

「お前、余命は?」
彼女が僕を見下ろしながら言う。

「"お前"って…。長くても、あと3年ほどらしいけど」

「なんだ、まだまだ生きられるじゃない。
そのくせにいい歳こいて、何をガキみたいに泣いてるの?」

こいつ…いくらなんでもクチが悪すぎる。

「まだまだ…?3年しかないんだよ!それ以下かもしれない!
君に僕の気持ちがわかるのか!?」

「わかるわけないでしょ。私、余命なんかないし」

なんなんだ、こいつは。
僕の中で、どんどんと怒りが募ってくる。

「それに、お前にもわからないでしょ。
外の世界を知らないまま、ただここに閉じ込められて過ごす空っぽの人生なんて」

彼女は無表情のまま言った。

「えっ…」

「重い肺疾患で、外気を吸うだけで寿命が縮むの。
だから、バカな親がずっと私をここに閉じ込めてる」

僕は唖然として、言葉を吐けなかった。

僕より前からこの病室にいたのはわかってた。
でも、それが幼い頃からだなんて想像もしてなかった。

「じゃあ君は、ここから出たことがないのか?」

「ほとんど、ね。でも何回はある。
人が集まるような空気が悪い場所には行けないから、
空気が綺麗な湖とか、山に連れていかれた」

「知ってる?この地球って、とっても美しいの」

その恍惚とした表情に、思わず僕は目を奪われた。
まるで、それだけが彼女の"全て"であるかのように思えた。

でも、彼女はすぐに冷たい表情に戻った。

「だから、お前みたいな奴が一番ムカつくの。
いつまでも惨めに生に執着して、気持ち悪い。
もう散々、飽きるぐらい、美しい世界を見てきたくせに」

彼女の赤い瞳が大きく開く。
そこには、怒り…いや、それよりも強い嫉妬のようなものが滲んでいた。

彼女の言いたいこともわからなくない。
でも、どうしても納得できない。

「じゃあ、大人しく死ぬのを待てと?僕はそんなの御免だ。
死んだ後には何も残らない。生きなくちゃ…意味がないんだ…!!」

彼女は一瞬目を見開いた後、顔を伏せた。

そして、何かが突然切れたように、彼女は僕に掴みかかった。

「残された命をどう使うかすら考えたことないヤツが、生きたいなんて喚くな。
そんな命なら、私によこせッ…!」

大きく開かれた彼女の瞳には、大粒の涙が溜まっていた。
僕を掴む手は小刻みに震えていて、何より、とても弱かった。

「残された、命…」

そんなこと、考えたこともなかった。
どうしたらいいかわからなかったんだ。
何をしても意味がない気がした。
それでも1歩ずつ、1歩ずつ、死神はこっちに向かってくる。
その恐怖に怯えることしかできなかった。

ここでなら、彼女は生きることができる。
でもそんな日々は、彼女にとって何の意味もなかった。
おそらく彼女が外の世界を見た時間は、僕に残された時間よりも遥かに短いはずだ。
だから、ただ何もせず死を待つ僕を許せなかったのだろう。

(そんな命なら、私によこせッ…!)

彼女の言葉が、頭の中で反響する。


ふざけるな。
誰が、くれてやるもんか。

母さんは、僕に生きてほしいと願った。
ビックリボーに、世界を見せてあげると誓った。

僕は、生きなきゃならないんだ。


「悪かったわね、乱暴して」

彼女が僕の胸倉を掴んだ手を離そうとした時、
僕はその腕を掴んだ。

「僕の命は、僕のものだ。
僕の願いが叶うまで、この命はお前にも…死神にも渡さない」

彼女は目を大きくして驚いた。
そしてゆっくりと僕の手を振り払う。

「…あっそ。そこまでみっともなく足掻きたいなら、好きにすれば。
まあ、こんなとこでぼーっとしてるだけのお前じゃ、3年も経たずにくたばるのがオチだろうけど」

「…やってやる。
生きて、生きて…その減らず口を黙らせてやる」

「…あっそ」
女は僕から手を離すと、扉のほうへ向かった。

「どこに行く?」

「ションベン」

こいつ…どこまでも言葉遣いってものを知らないらしい。

だけど、本当にムカつくけど、今の僕は何故だか力が満ち溢れてるみたいだ。
まるで、この女に電気ショックを浴びせられたように。

「君は…君は、考えてるのか。命の使い方ってやつを」

「さあ。世界を救うとか?」
彼女は背中越しに、両手を軽く上げてみせた。

「はぐらかすなよ。まあ、大体は予想がつくけど」

それは多分、外の世界を見ること。
"美しい地球"というやつを。
おそらく彼女は、それ以外の楽しみを知らない。

「でも、私を閉じ込めたバカ親が生きてる限りは無理」

「無理?僕に散々罵声を浴びせておいて、自分のことは棚に上げるのか。
自分の人生ぐらい自分で決めなよ。もう"いい歳"なんだから」

僕は彼女から受けた言葉を返すように煽った。
振り向いた彼女の顔は明らかにイラついていた。
少しだけ気持ちが良かった。

「ここでだってできることは沢山ある。
君が本当に自分の命も顧みず外に出ることを望むなら、まずは両親からの自立だ」

「そんなこと、できるわけない」

「少なくとも、君が大人になれば保護者は不要だよ。
親がどう言おうが、君の人生は君に決める権利がある」

彼女は俯いたまま何も言わなかった。

その気持ちは、よくわかる。
外界から隔離されていたことで、免疫力もないはずだ。
その状態で外に出れば、病状は悪化するだろう。

「フッ、結局、君も怖いんだ?
1人で、知らない世界を彷徨うのが」

「はぁ?」
彼女は僕を睨んでいるが、知ったことじゃない。

「戦えよ。親だろうが世界だろうが、戦って、勝ち取ればいい。
僕はやるぞ。やってやる」

僕は握りしめていたデッキを目の前に突き付ける。
彼女は数秒間それを見つめた後、背を向けた。

「…いいツラになったじゃない。
二度と汚い泣き顔を晒さないことね」

そう言って、彼女は部屋を出た。

あれから、彼女の姿は見ていない。
僕もその日の朝に退院して以来、その病院には行っていない。

信じられないくらいクチが悪くて、明け透けない女。
腹立たしいけど…彼女の言葉が僕の心臓を強く叩いた。

いつまでもみっともなく、生にしがみついてやる。
その先にしか、僕の夢はない。


だから、僕は今、この舞台で戦ってるんだ。


--------------------------------------------------
【譲】
LP5200 手札:4(ネアス、エルダム、ヴォルヴ)

①冽灼の宴陽 ソリグナ ATK2700

EXデッキ(表):ナムリオ、バリウ、イヴォール、メルダ
Pゾーン:冽灼の燐珠 ピオナ
伏せカード:冽灼の噴濫

【遊次】
LP8000 手札:3(儀式の予告状、ナンゴウ)

①妖義賊-快傑ゾロ ATK2800
②妖義賊-怪盗ルパン ATK2100
③妖義賊-美巧のアカホシ ATK3300
④妖義賊-雲龍のリヘイ ATK2300
⑤冽灼の織灘 ルナイラ ATK2400

フィールド魔法:妖義賊の秘密回廊
Pゾーン:妖義賊-誘惑のカルメン、妖義賊-舞蛇のキク
伏せカード:1
--------------------------------------------------

「僕は1人で、這い寄ってくる"死"と闘ってきた。
その恐怖を知らないキミが、簡単に願いを背負うなんて口にしちゃいけないんだよ…!」

(譲の顔つきが変わった…)
譲が目を開いた時、その眼差しに凄まじい闘志が宿っていることに遊次は気付いた。

(譲の罠を踏まなかったのはよかったけど、そのせいで戦力を奪いきれてねえ。
全力のアイツを抑えきれるかどうか…)

遊次は1歩後ろに下がる。
遊次の場には魔法・罠を1度無効にする快傑ゾロと、1枚の罠カードがある。
さらに自分のモンスターを対象とするモンスター効果を1度無効にするフィールド魔法もあるため、
十分バランスの取れた盤面だ。

しかしそれでも、気迫を纏う譲を止められるかはわからなかった。
譲は口元に垂れた血を腕でぬぐい取る。

「僕のターン…ドロー!」
譲がカードを引く。
譲は迷いなく1枚のカードを手に取る。

「『冽灼の環紗 ネアス』Pスケールにセッティング!」


■冽灼の環紗 ネアス
 ペンデュラムモンスター
 レベル4/水/水/攻撃力1500 守備力1600 スケール9
 【P効果】
 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドの「冽灼」カードが破壊された場合、
 相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを持ち主の手札に戻す。
【モンスター効果】
 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分メインフェイズに発動できる。
 手札から炎属性Pモンスター1体を特殊召喚する。
 ②:このカードを手札に戻し、自分のEXデッキに表側で存在する炎属性Pモンスター1体を
 対象として発動できる。そのカードを手札に加える。
 ③:このカードがEXデッキに表側で存在し、
 自分フィールドに炎属性モンスターが存在する場合に発動できる。
 このカードをEXデッキの表側から特殊召喚する。


譲の頭上に藍色の水流が絡まり合って人型を成す、仮面をつけたモンスターが浮かび上がる。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/bd8F0fA
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


(あのP効果…。いや、止めるべきはここじゃねえ)
遊次はそのモンスターを見つめながら、一瞬の逡巡をするが、ゾロの無効効果は使用しなかった。

「魔法カード『冽灼同盟』発動!
EXデッキに炎属性・水属性のPモンスターがそれぞれ2体以上表側で置かれている時、デッキから炎属性・水属性Pモンスターをそれぞれ1体ずつ特殊召喚する!」

その魔法カードを見た遊次は苦い顔をする。

(クソッ…!これが通れば譲のフィールドにモンスターが3体並ぶ。またL召喚させるのはダメだ!)

「『妖義賊-快傑ゾロ』の効果発動!
相手から奪ったカードが俺の場にある時、1ターンに1度、相手の魔法・罠を無効にして破壊する!」

ゾロがサーベルを一振りすると、魔法カードは横一文字に切れ、破壊される。
しかし譲は口角を上げ、対する遊次は追い詰められたような表情をしていた。

「今、僕の魔法カードが破壊されたことで『冽灼の環紗 ネアス』のP効果を発動!
僕のフィールドの「冽灼」カードが破壊された場合、相手フィールドのカードを1枚手札に戻すことができる!」

「手札に戻すのは『妖義賊-快傑ゾロ』だ」

譲が目の前の融合モンスターを指差す。
融合の予告状で召喚されたモンスターと戦闘を行う場合、その相手モンスターの攻撃力は0となる。
譲にとってはここで排除しておきたい対象だ。

「…しょうがねえ!罠カード『妖義賊の影縛り』発動!
相手が発動したカードと同じ種類のカードを俺の場から墓地へ送り、そのカードを無効にして奪う!」


■妖義賊の影縛り
 通常罠
 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:相手がカードの効果を発動した場合、そのカードと同じ種類(モンスター・魔法・罠)の
 このカード以外の自分のカード1枚をフィールドから墓地に送って発動できる。その効果を無効にする。
 その後、そのカードがモンスターカードの場合、そのカードを自分フィールドに特殊召喚し、
 魔法・罠カードの場合、自分フィールドにセットする。
 無効にした魔法カードがPカードだった場合、自分のPゾーンにセットする。


「Pカードは魔法カードとして扱われる。
俺はPゾーンの『妖義賊-舞蛇のキク』を墓地に送って、ネアスの効果を無効にする!
さらに無効にしたカードがPカードだった場合、そいつは俺のPゾーンにセットされる!」

遊次の頭上のキクが消えると、そこから3本の影が伸び、譲の頭上のネアスを縛り上げる。
そしてネアスはそのまま影にひきずられ、遊次の頭上へと移動する。


「おぉーっと神楽選手、早くも2枚の妨害を使ってしまったぁ!
しかし、奪ったネアスのP効果は神楽選手も使用可能!
もし神楽選手の場のルナイラが破壊された場合、
ネアスの効果で相手のカードを1枚手札に戻すこともできます!」

実況の多口は小さな事実も見落とさずに瞬時に観客へ伝える。

「ならば、空いたPゾーンに『冽灼の澪装 エルダム』をセッティング!」


■冽灼の澪装 エルダム
 ペンデュラムモンスター
 レベル3/水/水/攻撃力1400 守備力1800 スケール9
 【P効果】
 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分メインフェイズに発動できる。
 デッキから炎属性Pモンスター1体を手札に加える。
【モンスター効果】
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分のPゾーンの炎属性Pモンスター1体を対象として発動できる。
 そのカードを特殊召喚する。
 ②:自分のPゾーンの炎属性Pモンスター1体を対象として発動できる。
 そのカードをEXデッキに表側で置き、そのカードとは名前の異なる炎属性Pモンスターを、
 EXデッキの表側からPゾーンに置く。

譲の頭上に浮かび上がったのは青白く発光する流水の薄衣を纏った、水のモンスター。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/BAkBEhY
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


「エルダムのP効果発動。
炎属性Pモンスター『冽灼の踊焔 カグシア』を手札に加える」

「さらにフィールドの『冽灼の宴陽 ソリグナ』の効果を発動。
Pゾーンのカードを1枚デッキに戻して、同じ属性のPモンスターをPゾーンにセットできる。
『冽灼の燐珠 ピオナ』をデッキに戻して『冽灼の舞姫 ファリナ』をセットする」


■冽灼の舞姫 ファリナ
 ペンデュラムモンスター
 レベル3/火/炎/攻撃力1800 守備力1400 スケール1
 【P効果】
 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分メインフェイズに発動できる。
 デッキから水属性Pモンスター1体を手札に加える。
【モンスター効果】
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分のPゾーンの水属性Pモンスター1体を対象として発動できる。
 そのカードを特殊召喚する。
 ②:このカードがL・Sモンスターの素材としてEXデッキの表側に加わった場合に発動できる。
 自分はデッキから1枚ドローする。


頭上に現れたモンスターは、上半身が淡く透けた炎のヴェールのような布に覆われ、腰から下には、炎が布のように分かれた状態で垂れ下がっている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/SJNv1es
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


「ファリナのP効果発動。
デッキから水属性Pモンスター『冽灼の流糸 ネリュス』を手札に加える」

「さらに手札から『冽灼の踊焔 カグシア』を召喚!」


■冽灼の踊焔 カグシア
 ペンデュラムモンスター
 レベル4/火/炎/攻撃力1800 守備力1300 スケール1
 【P効果】
 ①:自分のもう片方のPゾーンに水属性Pモンスターカードが存在する限り、
 自分のP召喚は無効にならない。
【モンスター効果】
 このカード名の①②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分のEXデッキの表側の「冽灼」モンスター3体をデッキに戻して発動できる。
 自分はデッキから1枚ドローする。
 ②:このカードがEXデッキの表側に加わった場合に発動できる。
 デッキから「冽灼」モンスター1体を自分のPゾーンに置く。

フィールドには、火焔が帯状に交差して形作られた炎の流動体のモンスターが現れる。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/OxGwGTh
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


「カグシアの効果発動。EXデッキの表側の『冽灼』モンスター3体をデッキに戻し、1枚ドローする。
バリウ、イヴォール、メルダをデッキに戻して1枚ドロー」

譲は大きく両手を広げる。観客達の視線はそこに集中する。

「僕のPスケールは1~9。よって、レベル2~8のモンスターを同時に召喚可能!」

「「紅蓮の猛りは命を灼き、蒼き激流は心を凍らす。
相克の力よ、終焉をもたらすうねりとなれ。
ペンデュラム召喚!おいで、僕のモンスター達!」

頭上の振り子が大きく揺れると、そこから2つの光がフィールドに落ちる。

「EXデッキから『冽灼の深淵 ナムリオ』、
手札から『冽灼の流糸 ネリュス』『冽灼の響輪 ヴォルヴ』!」

ナムリオは身体全体が波のように渦巻いており、頭には天使の輪のように水輪が浮かんでいる。
ネリュスはその身体が全て水の糸で紡がれたような姿をしている。
ヴォルヴは脚部が車輪のように渦巻いている炎のモンスターだ。

ナムリオ:ttps://imgur.com/a/o6Wt5Ua
ネリュス:ttps://imgur.com/a/QJ56SSG
ヴォルヴ:ttps://imgur.com/a/g1eS4QO
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


「ヴォルヴが特殊召喚に成功した時、デッキから『冽灼』魔法カード1枚を手札に加えられる。
手札に加えるのは『冽灼共鳴』」

「さらに『冽灼の響輪 ヴォルヴ』の効果発動。
1ターン1度、自分の水属性Pモンスターを1体リリースして、
デッキからチューナー以外の冽灼モンスターを1体、特殊召喚できる。
ナムリオをリリースして『冽灼の環紗 ネアス』を特殊召喚!」

フィールドに、2体目の藍色の水流が絡まり合って人型を成すモンスターが現れる。

--------------------------------------------------
【譲】
LP5200 手札:3(冽灼共鳴)

①冽灼の宴陽 ソリグナ ATK2700
②冽灼の踊焔 カグシア ATK1800
③冽灼の環紗 ネアス ATK1500
④冽灼の流糸 ネリュス ATK2000
⑤冽灼の響輪 ヴォルヴ ATK2200

EXデッキ(表):ナムリオ
Pゾーン:冽灼の舞姫 ファリナ、冽灼の澪装 エルダム
伏せカード:冽灼の噴濫

【遊次】
LP8000 手札:3(儀式の予告状、ナンゴウ)

①妖義賊-快傑ゾロ ATK2800
②妖義賊-怪盗ルパン ATK2100
③妖義賊-美巧のアカホシ ATK3300
④妖義賊-雲龍のリヘイ ATK2300
⑤冽灼の織灘 ルナイラ ATK2400

フィールド魔法:妖義賊の秘密回廊
Pゾーン:妖義賊-誘惑のカルメン、冽灼の環紗 ネアス
--------------------------------------------------

「両者のフィールドには、それぞれ5体のモンスターが並んでいる!なんという迫力でしょう!」

「こりゃ、本格的にヤベェな…」
譲のフィールドを見つめ、遊次はひきつった笑みを浮かべる、


「気付いてるか?虹野のフィールド」
イーサンは隣の灯に小さな声で話す。

「…うん。レベル4のチューナー以外が2体。
レベル5のチューナーが2体。譲くんは…全力で来る」

灯は緊張の宿る眼差しで、遊次を見つめていた。


「僕は、僕の手で勝ち取って見せる。
デュエリストの頂…チャンピオンとのデュエル。
それを、僕の相棒に見せてあげるんだ。
そのために僕は…生きなきゃならない!」

譲は高く右手を伸ばす。

「レベル4『冽灼の踊焔 カグシア』に、
レベル5『冽灼の響輪 ヴォルヴ』をチューニング!」

ヴォルヴが光の輪へと変わり、カグシアは4つの光の粒へと変わる。

「鈍く滾る熱源が、隣り合う力を束ね脈を打つ。
起動せよ、鉄の心臓よ」

光の粒は輪を通り、やがて一本の大きな光となる。

シンクロ召喚!現れろ!『冽灼の赫鎧 バルグレン』!」


■冽灼の赫鎧 バルグレン
 シンクロモンスター/ペンデュラムモンスター
 レベル9/火/炎/攻撃力3100 守備力2900 スケール1
 チューナー + チューナー以外の炎属性Pモンスター1体以上
 【P効果】
 このカード名の②のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドのP召喚した「冽灼」モンスターの攻撃力は500アップする。
 ②:自分フィールドのチューナーとチューナー以外の炎族性Pモンスターを1体ずつリリースして発動できる。
 このカードをPゾーンからS召喚扱いで特殊召喚する。
 【モンスター効果】
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードの攻撃力は、自分のPゾーンのモンスターの攻撃力分アップする。
 ②:相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを破壊し、破壊したカードと同じ種類の「冽灼」カード1枚を手札に加える。
 ③:このカードが破壊された場合、自分のPゾーンのPカード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを破壊し、このカードを自分のPゾーンに置く。


そのシンクロモンスターは、鋼鉄の装甲を備えた重機構の戦闘体。
節々から噴き出す火焔は装甲を伝い、帯状に交差しながら全身を包んでいる。
頭部上部には直立する火柱が揺れ、周囲の熱気を巻き上げている。
両腕には大型の打撃武器が装着されており、振るうたびに火の粉を散らす。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/kON7qha
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


「バルグレンの攻撃力は、僕のPゾーンのモンスターの攻撃力分、アップする」
冽灼の赫鎧 バルグレン ATK6300

「攻撃力6300…!」
遊次は目の前で燃え滾る機兵から目を離せなかった。

「ついに現れましたぁ!虹野選手の真の切り札!
鉄城選手を敗北へと追いやったSモンスターですッ!」

熱を帯びる実況に、怜央は露骨に顔をしかめた。

「これだけじゃない。わかっているだろう。
炎と水は、いつでも手を取り合うのさ」

譲は掌を合わせ、数秒、祈るように目を瞑る。

「レベル4『冽灼の環紗 ネアス』に、
レベル5『冽灼の流糸 ネリュス』をチューニング!」

2体の水のモンスターは光へと変わる。

「押し寄せる逆波は力を鎮め、剥き出しの敵意は凪へと変わる。高らかにしぶきを上げよ」

「シンクロ召喚!来い!『冽灼の水盾 ナルディエル』!」


■冽灼の水盾 ナルディエル
 シンクロモンスター/ペンデュラムモンスター
 レベル9/水/水/攻撃力3000 守備力3300 スケール9
 チューナー + チューナー以外の水属性Pモンスター1体以上
 【P効果】
 このカード名の①②のP効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの表示形式を変更する。
 ②:自分フィールドのチューナーとチューナー以外の水属性Pモンスターを1体ずつリリースして発動できる。
 このカードをPゾーンからS召喚扱いで特殊召喚する。
 【モンスター効果】
 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分・相手スタンバイフェイズに発動できる。
 このターン、自分のPゾーンの炎属性Pモンスターの攻撃力以上の攻撃力を持つ相手モンスターは攻撃できず、
 自分のPゾーンの水属性Pモンスターの守備力以下の守備力を持つモンスターの効果は無効になる。
 ②:自分のEXデッキの表側の炎属性Pモンスター1体をデッキに戻して発動できる。
 相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する。
 ③:このカードが破壊された場合、自分のPゾーンのPカード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを破壊し、このカードを自分のPゾーンに置く。


そのモンスターは、蒼く光沢を放つ重装甲の機構体。
胸部には分厚い鋼板が幾重にも重なり、肩当ては大きく張り出して鋭い縁取りを備えている。
腕には長大な剣と堅牢な盾を携え、表面には水流が迸っている。
兜は鋭角的な意匠で、額から後頭部へかけて水煙のような蒼光が噴き上がる。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Xe1d1RU
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


「コイツが、水の切り札…!」
立ち並ぶ炎と水のSモンスターの姿に、遊次は圧倒される。

「『冽灼の水盾(すいじゅん) ナルディエル』の効果発動。
EXデッキの表側の炎属性Pモンスター1体をデッキに戻して、相手の魔法・罠カードを全て破壊する」

「なっ…!」
遊次にはフィールド魔法による対象無効と、譲から奪ったネアスのP効果によるバウンスが残っていたが、これで全ては無に帰すこととなる。

「EXデッキのカグシアをデッキに戻して、君の魔法・罠カードを全て破壊する」

ナルディエルが剣を振り下ろす。
その一撃から放たれた大波が遊次の場を呑み込み、遊次頭上のPモンスター、フィールド魔法は全て破壊された。
石畳の床と霧が広がるフィールドは消え、景色はスタジアムへと戻った。

遊次にはもう譲の猛攻に抗う手段はない。

「さらに『冽灼の赫鎧 バルグレン』の効果発動。
相手フィールドのカード1枚を破壊して、そのカードと同じ種類の冽灼カードを手札に加えることができる。
君の『妖義賊-快傑ゾロ』を破壊して、モンスターカード『冽灼の舞姫 ファリナ』を手札に加えるよ」

炎の機兵が武器を振りかざすと紅蓮の炎が奔り、一直線にゾロを呑み込み、破壊する。

--------------------------------------------------
【譲】
LP5200 手札:4(冽灼共鳴、ファリナ)

①冽灼の宴陽 ソリグナ ATK2700
②冽灼の赫鎧 バルグレン ATK6300
③冽灼の水盾 ナルディエル ATK3000

EXデッキ(表):ナムリオ、ヴォルヴ、ネアス×2、ネリュス
Pゾーン:冽灼の舞姫 ファリナ、冽灼の澪装 エルダム
伏せカード:冽灼の噴濫

【遊次】
LP8000 手札:3(儀式の予告状、ナンゴウ)

①妖義賊-怪盗ルパン ATK2100
②妖義賊-美巧のアカホシ ATK3300
③妖義賊-雲龍のリヘイ ATK2300
④冽灼の織灘 ルナイラ ATK2400

EXデッキ(表):カルメン、キク
--------------------------------------------------

「バトル!『冽灼の宴陽 ソリグナ』で、
君の『冽灼の織灘 ルナイラ』に攻撃!」

ソリグナの姿は炎の流動体へと変わり、上空へと上がってゆく。
そしてその直後、頭上から業火の渦がルナイラを襲う。

「ぐっ…!」
遊次 LP8000 → 7700

「『冽灼の水盾 ナルディエル』で『妖義賊-怪盗ルパン』に攻撃!」

ナルディエルは盾を構えつつ踏み込み、剣を大きく振り抜いた。
奔る水流の斬撃が一直線にルパンを呑み込み、その身を切り裂く。

「ぐああっ…!」
遊次 LP7600 → 6800

身を守っていた右腕を下ろし、遊次は目の前の炎のSモンスターを険しい表情で見つめる。

「『冽灼の赫鎧 バルグレン』で、『妖義賊-美巧のアカホシ』を攻撃!」

バルグレンが武器を振り抜く。
その刹那、紅蓮の炎が奔流となり、巨大な火柱が迸る。
渦を巻く炎はアカホシを呑み込み、さらにフィールド全体を灼熱で覆った。
アカホシは炎の渦に呑まれ、破壊される。
そしてその熱波は遊次にまで押し寄せた。

「ぐあああああ!!!」
遊次 LP6700 → 3800

「神楽選手、大ダメージです!!
しかしかろうじて『妖義賊-雲龍のリヘイ』だけはフィールドに残っている!」

ダメージは受けたものの、なんとか次に繋ぐ布石は残った。
しかし、譲が余裕の表情を崩すことはなかった。

「残ったところで意味なんてない。
僕の切り札の力は、こんなものじゃないんだから」

譲は右手を高く伸ばす。

「EXデッキの表側の『冽灼の環紗 ネアス』の効果発動。
僕のフィールドに炎属性がいる時、このモンスターをEXデッキから特殊召喚できる」

藍色の水流が絡まり合って人型を成す、仮面をつけたようなモンスターが再び現れる。


「魔法カード『冽灼共鳴』発動!
Pスケールを2枚デッキに戻して、名前の異なるPモンスターをデッキまたはEXデッキの表側からセッティングする!」


■冽灼共鳴
 通常魔法
 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分のPゾーンに炎属性Pモンスターと水属性Pモンスターが存在する場合に発動できる。
 それらをデッキに戻し、それらとカード名が異なる炎属性Pモンスター・水属性Pモンスターを、デッキまたは自分のEXデッキの表側からそれぞれ1体ずつ選び、自分のPゾーンに置く。

「僕はPゾーンのファリナとエルダムをデッキに戻し、デッキのピオナとEXデッキのネリュスをPゾーンにセットする」

譲の頭上に、炎の環のような小さなモンスターと、身体全体が波のように渦巻いた頭に水輪が浮かぶモンスターが現れる。

「Pゾーンのモンスターが変わったことで、バルグレンの攻撃力も変動する」
冽灼の赫鎧 バルグレン ATK6000

「ターン、エンドだ」

--------------------------------------------------
【譲】
LP5200 手札:3(ファリナ)

①冽灼の宴陽 ソリグナ ATK2700
②冽灼の赫鎧 バルグレン ATK6000
③冽灼の水盾 ナルディエル ATK3000
④冽灼の環紗 ネアス DEF1600

EXデッキ(表):ナムリオ、ヴォルヴ、ネアス
Pゾーン:冽灼の燐珠 ピオナ、冽灼の流糸 ネリュス
伏せカード:冽灼の噴濫

【遊次】
LP3800 手札:3(儀式の予告状、ナンゴウ)

①妖義賊-雲龍のリヘイ ATK2300

EXデッキ(表):カルメン、キク、アカホシ
--------------------------------------------------

「ナルディエルはスタンバイフェイズに、ある効果を発動できる。その効果を発動したターン、Pゾーンの炎属性モンスター以上の攻撃力を持つモンスターは攻撃できず、Pゾーンの水属性モンスター以下の守備力を持つ相手モンスターの効果は、全て無効化される」

「つまり、君は攻撃力900以上では攻撃できず、守備力2400以下のモンスターの効果は全て無効となるのさ」

その圧倒的なまでの性圧力に観客達は驚きの表情を浮かべる。

「さらに、Pゾーンのピオナによって、もう片方のPゾーンに水属性がいる時、僕の冽灼モンスターは効果の対象にならず、ネリュスによって僕のPゾーンは効果の対象にならない」


「ほ、他にも…モンスター効果を無効にするソリグナと、破壊に反応して相手フィールドを墓地送りにする罠カードも健在です!!」

実況者は遊次の置かれた状況を補足する。

まさに盤石。
観客席の灯や怜央達も、絶句する他なかった。

(こんなもん、どうやって突破しろってんだよ…!)

さすがの遊次も苦笑いを浮かべるしかなかった。

(見ていて、母さん。僕は…生きるよ)

破壊と守護。
希望と絶望。
その象徴である炎と水の機士。
その中央に座す青年は、燃える願いと静かなる覚悟を抱き、遊次の前に立ち塞がる。

第53話「命の使い方」 完



譲が創り上げた完璧なフィールドを前に、彼の"生きたい"という願いはただの渇望ではなく、多くの思いの果てに辿り着いたものであると、遊次は理解する。
しかし譲を倒さない限り、彼の願いと自分の願い、両方を叶えることはできない。
遊次が観客席に視線を移した時、目に映ったある人の不安げな表情が、遊次の原点を呼び覚ます。

それは、今の遊次にとって、最初の1ページ。
目を覚ましたら、目の前には機械が支配する空間が広がっていた。
痛みに悶える遊次を心配そうな顔で見つめるのは、オレンジ色の髪と髭の、白衣を着た男だった。

彼は神楽天聖。遊次の父親だ。
遊次は真っ白になった記憶のキャンバスに、父親と共に新たなページを描いてゆく。
しかし、天聖は時と共に、少しずつ、壊れていった。

時間は時に人を癒す。
しかし、時間が人を苦しめることもあると知った。

もしこの戦いに敗れれば、次の大会は4年後だ。
その間も、ドミノタウンの人々は苦しみ続けることになる。
だから、もう待たせるわけにはいかないんだ。

遊次は溢れ出す願いを胸に、突破不可能の盤面へ挑戦する。

「立ち止まったら、失っちまうんだ。
だから、俺は前に進み続けなきゃならねえ…!」


次回 第54話「不可能への挑戦」
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