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第43話:王選(レガルバロット) 作:湯
ゆるやかに暖まった空気の中、店先のシャッターがいくつか半ばまで開き、
ドミノタウンの通りには朝の支度を終えた人々の気配が漂っていた。
遊次は、事務所の屋上に立ち、無言のまま街を見下ろしていた。
赤茶けた屋根が並ぶ住宅街、看板の色が少し褪せた雑貨屋。道路には似たようなファミリーカーが走る。
遠くで犬が吠え、誰かが笑っている声が微かに風に乗って届いた。
特別なことは何も起きない、けれど確かに人々の暮らしが流れている。
遊次はポケットに手を入れたまま、物思いにふけっている。
後ろからガチャリとドアの開く音がした。
「んー!いいお天気だね!」
振り返ると灯が気持ちよさそうに伸びをしながら、遊次の方へと近寄ってくる。
「ミロヴェアンさんに聞いたけど、順調だって。
偽の社長をインターネット上に創り上げるってやつ」
「そっか。それじゃあ、早けりゃ来週にはサロンに潜り込めるかな」
「多分ね」
裏カジノ打倒の依頼は着々と進んでいた。
架空の社長を創り上げ、こちらから裏カジノのターゲットとなる計画。
そのためにはその社長が実在すると思わせるための入念な下準備が必要。
そこで裏カジノ参加者でありIT企業社長のミロヴェアンの力を借り、準備を進めているのだ。
「で、何か考えてた様子でしたけど?遊次さん」
灯は少し冗談交じりに軽快に話しかける。
「おう、まあな」
遊次は高くも低くもないテンションで短く返す。
「やっぱり、譲くんから言われたこと?」
「そ。いろいろ考えたけど、やっぱり答えはまだ見つかんねえ。
俺は別に、譲の願いを潰したいわけじゃない。
そりゃ、譲にだって願いを叶えてほしいに決まってる」
遊次は柵に背を向けて腰掛け、上方の空を見つめる。
「高校の頃、事務所開くために一緒にバイトして、お金貯めたよね。
小さい頃の夢をずっと真っ直ぐ追いかけるって、すごいと思う。ほんとに」
灯は屋上から、向こうに見える弁当屋を見つめながら、懐かしい記憶に浸る。
「あん時は大変だったなぁー。毎日のように働いてたし。
でも、灯がついてきてくれるから、俺も頑張れたんだぜ。ありがとな」
「…へへ。だから、簡単に諦められるわけないよ。私も、諦めてほしくない」
小さく照れ笑いしたあと、灯は遊次に真剣なまなざしを向ける。
「…そうだよな。
イーサンはさ、ヴェルテクス・デュエリアだけが手段じゃないって言ってたけど…。
全力で突っ走っても、コラプスで失ったもんは簡単に取り戻せねえよ。
Nextがどんだけでっかくなっても、救えねえ人達の方がはるかに多いんだよ」
遊次の声に力が入る。
灯も、これほどまでに奥底の本音を吐露する遊次はあまり見たことがなかった。
いつも遊次は、ただがむしゃらに、皆を元気にするために奔走していたからだ。
しかし今、それでも救えない人の方が多いと彼は口にした。
彼は大きな夢を描きながらも、現実を見据えているのだ。
「もし魔法みたいに、この町を綺麗さっぱり全部治せたらって…ガキの頃、何回も思ったぜ。
その魔法に近いモンが、ヴェルテクス・デュエリアで手に入るんだよ」
柵を握る手に力が入る。
「…諦められねえ。でもそれと同じぐらい、譲のことだって諦めたくねえ。
だから…結局どうしたらいいかわかんねえ!チクショーー!」
遊次が青空を仰ぎ、目いっぱいに腕を広げて叫ぶ。
灯はその姿を見つめながら、心につっかえているものを言語化しようと、考えを巡らせる。
「私にもはっきりわかんないけど…
とにかく遊次には、遊次がやりたいこと、全部叶えてほしいんだ。
私はそれを……隣で見れたら、満足だから。…ね!」
灯が照れ隠しのように拳を軽く遊次の肩に当てる。
「…へへ。ありがとな、灯!すげー気合入った!」
遊次は満面の笑みで灯の肩に拳を優しく当てる。
そんな遊次の様子に、灯も笑顔で頷く。
「よかった。今日の試合は大丈夫そう?」
今日はヴェルテクス・デュエリア ドミノタウン予選準決勝。珊玲(シャンリン)との試合の日だ。
遊次がもやもやしたままデュエルに臨めば、本来の力を出せないかもしれない。
それを少しでも取り払うために、灯は屋上まで足を運んだのだ。
「あぁ、バッチリだ。まだ答えは見つかんねーけど、
探してるもんはデュエルの中にある…そんな気がするんだ。
だから、安心してくれ!腑抜けた試合には絶対にしねーからさ!」
遊次は大きな笑顔で右手を伸ばす。
「うん!頑張ってね、遊次!」
遊次の右手に、灯は左手を合わせ、ハイタッチをする。
譲の言葉に対してまだ解は見つからないが、まずは目の前の戦いに全力を尽くすこと。
それこそが自分のやるべきことであると遊次は強く自覚する。
「まもなくドミノタウン予選 準決勝第1試合『神楽遊次 VS 珊玲』の試合を開始します。
実況は、わたくし多口伝助がお送りします…」
目元までウェーブした前髪が伸びた、目の下にクマのある男は、
ぼそぼそとした声で会場にアナウンスしている。
観客席にはいつものように、Nextのメンバーと、
Unchained Hound Dogsのメンバー、そして探偵アキトが座っている。
そしてその席とは少し離れた場所には、大きな数珠を肩から提げた僧侶が腕を組んで座っている。
前の試合で遊次に敗れた「空蝉空心(うつせみくうしん)」だ。
遊次はスタジアムの中央にすでに立っている。
その瞳は真っ直ぐと前を向いていた。
その視線の先…ゲートから対戦相手「珊玲(シャンリン)」が、長い髪を揺らし、颯爽と歩いて来る。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/PcgqjpN
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
シャンリンは中央で立ち止まると、鋭い目で遊次を睨むように見つめる。
「4年ぶりだな、シャンリン」
遊次は凛とした表情で話しかける。
「…私を下しておいて初戦で負けた恥知らずと、交わす言葉はない」
シャンリンは目も合わせず、そっけなく答える。
4年前のドミノタウン予選の決勝にて、遊次はシャンリンを倒して本戦へ勝ち上がったものの、
その初戦で敗退した。まだそのことを根に持っているようだ。
「な、なんだよ冷てえな…。傷つくぜ…」
露骨な拒否反応に、遊次は肩を落とす。
「…1週間前は随分迷っているように見えたけど、もう吹っ切れたのね。
やっぱり何も考えてないってことかしら」
交わす言葉はないと言いながらも、シャンリンは遊次に言葉を投げかける。
「なんだよ、見てたのか。確かに前よりは元気になったけど…
めちゃめちゃ考えて、まだ答えが見つかってないだけだ」
「そう。ようやくただのデュエルバカから1歩前進ってところね。
でも、もう悩むだけ無駄よ。君はここで負けるのだから」
シャンリンがデュエルディスクを構える。
「…アンタが俺をどう思ってんのかはわかんないけど、負けるつもりはねえ」
遊次も真剣な面持ちでデュエルディスクを構える。
「両者準備が整いました。それでは準決勝第1試合を開始します…」
多口は実況席の下に顔を潜り込ませ、数秒後に顔を上げる。
目元まで降りていた前髪は全てピンと上に立ち上がっていた。
「デュエル…開始ィーー!!!」
多口は声高々にデュエルの開始を宣言する。
シャンリンのデュエルディスクにランプが点く。
「私のターン。
『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ボエモンド』を召喚」
■王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ボエモンド
効果モンスター
レベル4/地/戦士/攻撃力1700 守備力1500
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「王選の従騎 ボエモンド」以外の
「レガルバロット・ペイジ」モンスター1体を特殊召喚する。
②:自分メインフェイズに発動できる。
相手はデッキからレベル4以下のモンスター1体を選んで特殊召喚する。
その後、自分はデッキから1枚ドローする。
現れたのは、十字の紋を刻んだ鎧を纏う茶髪の若き騎士だった。
鋭い眼差しを向け、片手に剣、もう一方には陽光を象った盾を構えている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/NA5x9vd
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「ボエモンドが召喚に成功した時、デッキから
『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ)』モンスターを特殊召喚できる。
来い、『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ルジェ』」
■王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ルジェ
効果モンスター
レベル4/光/戦士/攻撃力1600 守備力1600
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「王選の従騎 ルジェ」以外の
「レガルバロット」モンスター1体を手札に加える。
②:自分メインフェイズに発動できる。
相手はデッキから魔法・罠カード1枚を選んで魔法&罠ゾーンにセットする。
その後、自分はデッキから1枚ドローする。
現れたのは、銀灰の短髪を持つ若き騎士だ。
蒼い鎧に身を包み、片手に剣、もう一方に百合の紋章が刻まれた盾を持っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/kyGJPbv
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「ルジェが特殊召喚された時、
デッキから『王選(レガルバロット)』モンスター1枚を手札に加える。
『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク』を手札に加える」
「『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ボエモンド』の効果発動。
君はデッキからレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる。
さあ、モンスターを選びなさい」
「…いきなり本調子ってとこか。
なら俺は『妖義賊-駿足のジロキチ』を特殊召喚するぜ」
一見、相手にモンスターを特殊召喚させるリスキーな効果だが、
シャンリンのデッキを知っている遊次は、
それこそがシャンリンにとってメリットを生むことを知っていた。
そして遊次のフィールドにほっかむりを被ったネズミ男が現れる。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/6MJzyaS
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「相手がモンスターを特殊召喚した代わりに、私は1枚ドローできる」
「特殊召喚されたジロキチの効果発動!
デッキから妖義賊モンスターを手札に加えられる。
『妖義賊-美巧のアカホシ』を手札に加えるぜ」
「さらに『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ルジェ』の効果発動。
君はデッキから魔法・罠カードを1枚セットできる。
代わりに私はデッキから1枚ドローできる」
「なら俺は罠カード『妖義賊の羽衣』を伏せるぜ」
そしてシャンリンはデッキから1枚カードをドローする。
「いくら2枚ドローできるとはいえ、
相手にモンスターと罠カードを渡すのは痛いはずだぜ」
ドモンは腕を組みながら、相手にもメリットを与えてしまうシャンリンのデッキに疑問を抱く。
「普通はそう考えるだろうな。
だが、相手にカードを与えること自体に意味があるとしたらどうかな」
4年前に彼女と遊次の戦いを見ているイーサンは、その真意を知っていた。
「私は、フィールドのボエモンドとルジェ、2体のモンスターをリリースし、
手札から『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』を特殊召喚する!」
2体の若き騎士が膝をつき、剣を天へと掲げると、
その身は闇へと飲まれ、フィールドに一本の黒い雷が落ちる。
■王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド
効果モンスター
レベル7/闇/戦士/攻撃力2500 守備力2200
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの「レガルバロット・ペイジ」モンスター2体をリリースして発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
その後、デッキから「レガルバロット」装備魔法カード1枚を選び、このカードに装備する。
②:相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。その後、このカードに勲章カウンターを1つ置く。(最大3つまで)
この効果は相手ターンでも発動できる。
③:EXモンスターゾーンに自分のモンスターが存在せず、
このカードに勲章カウンターが3つ置かれている場合、このカードをリリースして発動できる。
EXデッキから『王選の覇者 ビエザイド』をEXモンスターゾーンに特殊召喚する。
現れたのは、黒い長髪と冷酷な紅い瞳を持つ騎士のモンスター。
全身を漆黒の鎧で覆い、赤く輝く刃を握ったまま、前を睨み据えている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/HeMbnlb
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「そして特殊召喚後、デッキから『王選』と名の付く装備魔法を、このカードに装備する。
『王選器(レガルバロット・アミュレット) スパータ』を装備」
ビエザイドが剣を掲げると、そこに禍々しく赤い紋様が描かれる。
■王選器(レガルバロット・アミュレット) スパータ
装備魔法
「王選の騎士」「王選の覇者」モンスターにのみ装備可能。
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊し、装備モンスターに勲章カウンターを1つ置く(最大3つまで)。
②:装備モンスターがリリースされることでこのカードが墓地へ送られた場合、
相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
その効果を無効にする。
「『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』の効果発動。
自分・相手ターンに1度、相手フィールドのカード1枚を破壊する。
『妖義賊-駿足のジロキチ』を破壊」
ビエザイドが禍々しい光を放つ剣を一振りすると、その斬撃によってジロキチは一瞬で破壊される。
「そしてこの効果でモンスターを破壊した時、ビエザイドに勲章カウンターが1つ置かれる」
ビエザイド 勲章カウンター0→1
「さらに装備魔法『王選器(レガルバロット・アミュレット) スパータ』の効果発動。
1ターンに1度、相手の魔法・罠カードを破壊できる。
セットされている『妖義賊の羽衣』を破壊するわ」
再び剣を振るうと、遊次の伏せカードが破壊される。
「そして装備モンスターに勲章カウンターが置かれる」
ビエザイド 勲章カウンター1→2
「下級モンスターの効果によって相手にわざわざカードを与えたのは、
自らのカード効果で破壊し、勲章カウンターを溜めるため!
そうまでして溜めた勲章カウンターには、どのような役割があるのでしょうか!」
すでに過去の試合の映像から彼女のデッキの性質を知っている実況の多口は、
観客の楽しみを奪わぬよう、必要最低限の解説に留める。
「フィールド魔法『王選の議場(レガルバレット・セナトゥス)発動』」
■王選の議場(レガルバレット・セナトゥス)
フィールド魔法
このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分は通常召喚に加えて1度だけ、
自分メインフェイズに「レガルバロット」モンスター1体を召喚できる。
②:このカードがフィールドゾーンに存在する限り、
自分の「レガルバロット」カードの効果の発動は無効にならない。
③:自分フィールドの「レガルバロット・ナイト」モンスター1体を対象として発動できる。
そのカードに勲章カウンターを1つ置く(最大3つまで)。
発動と同時に、赤と黒が支配する高級感のある空間に変わった。
白い柱に囲まれた広間。壁には黄金の縁取りを持つ赤い旗が等間隔で掛けられ、
天井からは大きな燭台が吊るされている。
「このフィールドがある限り、私は王選モンスターをもう1度召喚できる。
手札から『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ゴドフロワ』を召喚」
■王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ゴドフロワ
効果モンスター
レベル4/風/戦士/攻撃力1800 守備力1300
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合、
自分の墓地の「レガルバロット・ペイジ」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
②:自分の墓地のこのカードを除外し、自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
その後、デッキから「レガルバロット」罠カード1枚を手札に加える。
この効果でカードを破壊できなかった場合、
自分フィールドの「レガルバロット」モンスターの守備力は1000アップする。
現れたのは、赤茶の髪を持つ鋭い眼差しの騎士。
全身に金縁の鎧を纏い、十字を刻んだ盾と長剣を構えている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Zhsh0FH
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「このカードが召喚した時、墓地の『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ)』を1体、特殊召喚できる。
現れよ、『王選の従騎 ルジェ』」
「そしてゴドフロワとルジェ、2体のモンスターをリリースし、
手札から『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク』を守備表示で特殊召喚する!」
2体のモンスターが膝をつき剣を掲げると、光と消え、青い稲妻が走る。
■王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク
効果モンスター
レベル7/光/戦士/攻撃力2000 守備力3000
このカード名の①③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの「レガルバロット・ペイジ」モンスター2体をリリースして発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
その後、デッキから「レガルバロット」装備魔法カード1枚を選び、このカードに装備する。
②:自分フィールドの表側の「レガルバロット」カードが破壊される場合、
代わりにこのカードの守備力を1000下げ、このカードに勲章カウンターを置くことができる。
③:EXモンスターゾーンに自分のモンスターが存在せず、
このカードに勲章カウンターが3つ置かれている場合、このカードをリリースして発動できる。
EXデッキから『王選の覇者 ルイク』をEXモンスターゾーンに特殊召喚する。
現れたのは、金髪に蒼眼の騎士だった。
鋭く尖った意匠の青い鎧には金の縁取りが施され、胸には宝石が埋め込まれている。
右手に長剣、左手に紋章入りの大きな盾を構えている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/oqqawsl
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「さらにこの効果で特殊召喚した時、デッキから『王選』装備魔法を装備する。
ルイクに『王選器(レガルバロット・アミュレット) アンシル』を装備」
ルイクの持つ盾に蒼い紋様が描かれる。
■王選器(レガルバロット・アミュレット) アンシル
装備魔法
「王選の騎士」「王選の覇者」モンスターにのみ装備可能。
このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:装備モンスターの守備力は1000アップする。
②:このカードが装備カードとして装備されている限り、
このカード以外の自分フィールドの「レガルバロット」カードは効果の対象にならない。
③:装備モンスターがリリースされることでこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
相手フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は元々の数値に戻る。
「このカードを装備したルイクは守備力が1000アップする」
王選の騎士 ルイク 守備力3000 → 4000
「墓地の『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ゴドフロワ』を除外して効果発動。
自分フィールドのカード1枚を破壊する。
破壊対象は『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク』」
「えっ…自分のモンスターを破壊しちまうのか!?」
観客席のリアムは思わず驚きの声を上げる。
ルイクの前に、素早くゴドフロワが現れ剣を振り下ろすが、
ルイクの巨大な盾によって防がれる。
「ルイクは自身の守備力を1000下げることで、表側の王選カードの破壊を免れることができる。
そしてこの効果でカードを守った時、勲章カウンターが1つ置かれる」
ルイク 勲章カウンター0→1
「さらにゴドフロワの効果でカードを破壊できなかった場合、
自身の王選モンスターの守備力は1000アップする。
ルイクがカードを守ったことで下がった守備力は元に戻り、再び4000となる」
「フィールド魔法『王選の議場(レガルバレット・セナトゥス)』の効果発動。
1ターンに1度、『王選の騎士(レガルバロット・ナイト)』に勲章カウンターを1つ置く(最大3つまで)。
ルイクに勲章を授ける」
ルイク 勲章カウンター1→2
「装備魔法『王選器 アンシル』が装備されている限り、
自分フィールドの『王選』カードは効果の対象にならない。
さらにこのフィールド魔法がある限り、王選カードの効果の発動は無効にならない」
「私はこれでターンエンド」
シャンリンは円滑にデュエルをすすめ、流れるようにターンを終える。
--------------------------------------------------
【珊玲】
LP8000 手札:3
①王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド ATK2500
勲章カウンター:2
②王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク DEF4000
勲章カウンター:2
フィールド魔法:王選の議場
装備魔法:王選器 スパータ、王選器 アンシル
【遊次】
LP8000 手札:6(アカホシ)
魔法罠:0
--------------------------------------------------
「シャンリン選手、2体の上級モンスターを呼び出しました!
ビエザイドの効果により、1ターンに1度カードを破壊でき、
ルイクの守備力を下げることで、王選カードは破壊されない!
さらには装備魔法によって、王選カードは効果の対象にならない!
なんと盤石なフィールドでしょう!鮮やかなデュエルですッ!
神楽選手、どう乗り切るのでしょうかぁ!」
攻守整ったシャンリンの盤面の強固さを多口が解説する。
「完璧な初動…だな」
イーサンは隣の灯に言葉をかける。
「…うん。遊次が越えなきゃいけない壁は、今見えてるよりも、ぜんぜん高い」
4年前のシャンリンとのデュエルを知っている灯とイーサンは、
このフィールドがどれほど強力なものかということも知っていた。
「あのメガネ女がどんなデッキか俺は知らねえが、遊次は知ってんだろ。
それに、0ターン目からジロキチの効果でほしいカードが手札にある状況だ。
アイツの手札を増やすような真似して、タダで済むわけねえ」
怜央は2人に対して冷静に希望を口にする。
それに、遊次はいつものように、清々しく笑みを浮かべている。
その表情から、まだ心配するようなフェーズではないのだと感じ、灯とイーサンは小さく頷く。
「相変わらず、厄介なフィールド敷いてくれるぜ。
アンタを先行に回すことがどんだけキツいか、俺は知ってる」
「…そっちこそ、相変わらず何も考えてないようなニヤケ面ね。
大人になったはずなのに、子供みたいな顔してる」
シャンリンは笑みを浮かべる遊次を嘲る。
「デュエルしてるんだから、楽しむなって方が無理だぜ。
この戦いの中にいると、どんなに迷ってても、楽しさが湧き上がってきちまう」
遊次は右の掌を見つめながら、噛み締めるように微笑む。
譲のことについて迷っている時でも、遊次から楽しさを奪うことはできなかった。
そんな遊次の姿に、シャンリンは更に苛立ちを募らせていた。
「…ようやく迷いを見せたかと思ったら、デュエルの楽しさでそれも吹っ飛んでしまうか?
ほんと、おめでたい人ね。だから気に食わないのよ、その能天気さが…!」
シャンリンは右手の拳を握り、怒りを露にするも、
必死に自分の中に押さえつけ、冷静さを保とうとする。
(シャンリンが怒ってんのは多分、4年前に俺に負けたことが原因なんだ。
でも、ただ負けただけで恨むような奴じゃねえ。"何か"があるはずだ)
遊次も彼女の感情は間違いなく自分に突き刺さっているものだと感じていた。
しかしそれはデュエルで語るべきことだ。今は聞くべき時ではない。
遊次は静かにデュエルディスクを掲げ、決闘へと意識を戻す。
「俺のターン…ドロー!」
遊次は7枚の手札と相手のフィールドを見つめ、少しの間考える。
そして数秒後、手札から1枚のカードを手に取る。
「フィールド魔法『妖義賊の秘密回廊』を発動!
このカードがある限り、俺の妖義賊または相手から奪ったモンスターを対象とする効果を、
1度無効にできる!」
「…なら、ここで潰すしかなさそうね。
『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』の効果発動!
1ターンに1度、相手のカードを1枚破壊できる!そのフィールド魔法を破壊!」
フィールドに現れかけた石畳の空間は、ビエザイドの一閃によって一瞬にして消え去った。
「ビエザイドの効果でカードを破壊した時、勲章カウンターが1つ置かれる」
ビエザイド 勲章カウンター2→3
(対象を取る効果が無効になるフィールド魔法があれば、俺のモンスターを破壊できない。
それなら、このフィールドを破壊するしかねえ。当たり前の判断だ。問題は…)
遊次はデュエルディスクを見つめる。
ソリッドヴィジョンで表示されたフィールドには、勲章カウンターが3つ置かれたビエザイドがいる。
(まず俺がやるべきことは…)
「手札から『一攫千金の予告状』を発動!」
カードを発動するが、何も起きない。
予告状カードは墓地から除外されて初めて効果を発揮するカード。
これは観客のほとんどが理解していることだ。
「俺のフィールドにモンスターがいない時、コイツは手札から特殊召喚できる。
来い、『妖義賊-脱出のシェパード』!」
■妖義賊-脱出のシェパード
効果モンスター
レベル3/地/獣/攻撃力900 守備力1100
このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚する。
②:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター1体をリリースし、
以下の効果から1つを選択して発動できる。
●相手の墓地のモンスター2体を選び、自分フィールドに特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃力・守備力は0となる。
●相手はデッキからモンスター2体を選ぶ。自分は選んだモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃力・守備力は0となる。
そのモンスターは、シェパード犬の顔を持ちながら、整った二足歩行の姿勢で立っている。
首元にはシルクのスカーフが巻かれ、風になびいて優雅に舞う。
カーキ色のジャケットを羽織り、下からは白いシャツの襟が見える。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/mbD8bgW
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「シェパードの効果発動!
フィールドの妖義賊を1体リリースして、相手の墓地かデッキから2体のモンスターを、
効果を無効・攻守を0にして特殊召喚できる。
シェパードをリリースして、アンタの墓地から
『王選の従騎 ボエモンド』『王選の従騎 ルジェ』を特殊召喚する!」
シェパードが爪先でトンと飛ぶとそのまま光へと変わり、
遊次のフィールドに2人の若い騎士が現れる。
「さらに手札から『妖義賊-士君子のブラックバード』を召喚!」
■妖義賊-士君子のブラックバード
効果モンスター
レベル4/地/鳥獣/攻撃力1500 守備力1400
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。その後、破壊したその魔法・罠カードを自分フィールドにセットする。
②:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、
代わりに墓地の「予告状」カードを除外することができる。
現れたのは紳士服を纏った黒いカラスのモンスターだ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/HvbmmGT
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
ブラックバードの効果に即座に目を通した瞬間、シャンリンの眼鏡が光る。
そして遊次もそれを見逃さなかった。
「この瞬間、ビエザイドの効果発動!
勲章カウンターが3つ乗ったこのカードをリリースすることで、ビエザイドは王となる!」
ビエザイドが剣を地面に突き立てる。
そのオーラはさらに激しさを増し、禍々しくなってゆく。
「王に選ばれしは災禍の騎士。
その剣が振り下ろされし地は、祈りも届かず滅びゆく」
シャンリンはフィールドのビエザイドを墓地へ送ると、
EXデッキから1枚の紫色のカードを取り出す。
「現れよ!
『王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ビエザイド』!」
■王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ビエザイド
融合モンスター
レベル10/闇/戦士/攻撃力3200 守備力2500
このカードは「王選の騎士 ビエザイド」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが特殊召喚した場合、手札を1枚捨てて発動できる。
相手の手札をランダムに1枚選んで破壊する。
②:自分・相手ターンに発動できる。相手フィールドのカードを全て破壊する。
③:このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動できる。
自分フィールドのモンスターの攻撃力はエンドフェイズまで、
破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする。
業火を孕んだ闇の中から現れたのは、禍々しい鎧を纏ったビエザイドだった。
亀裂の走った漆黒の鎧が熱を帯びて脈動し、
その中心に刻まれた紅の紋が、警鐘のように周囲を射抜いていた。
手にした大剣は、ただ構えただけで、空間がひび割れるような圧が押し寄せる。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/WiaFK6K
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「3つの勲章を手にしたビエザイドは、王へと選ばれたぁ!
禍々しい気迫がじんじんと伝わってきますッ!!」
観客達はその姿にただ圧倒されていた。
遊次もその黒き騎士王の姿を真剣な眼差しで見つめる。
「この瞬間、墓地へ送られた装備カード『王選器 スパータ』の効果発動。
装備モンスターがリリースされることでこのカードが墓地へ送られた場合、
相手モンスター1体の効果を無効にできる。
『妖義賊-士君子のブラックバード』を指定!」
「さらに、『王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ビエザイド』の効果発動。
特殊召喚に成功した時、手札を1枚捨てることで、相手の手札をランダムに1枚破壊する」
ビエザイドが剣を地に突き立てたまま、強い眼力を放つと、
遊次の手札が1枚弾き飛ばされる。
破壊されたのは「妖義賊-戴火のプロメテ」だ。
モンスター効果・P効果共に大きなアドバンテージを生むカードだったが、
その真価を発揮することなく破壊されてしまう。
「そしてチェーン1の『王選器 スパータ』によってブラックバードの効果は無効となる」
ブラックバードの周囲に赤い稲妻が走り、その動きを縛る。
「…さすがだぜシャンリン。やっぱ止め所をキッチリわかってやがる。
ここまで正確に合わせられるとビビるぜ」
遊次は苦笑いしながら、どこか嬉しそうに言う。
「ゴミを漁る害獣は嫌いなのでね」
シャンリンはただ一言だけで返す。
言葉を重ねずとも、お互いの意図を理解している証左だ。
「王になったビエザイドは、お互いのターンに1度、
相手のカードを全て破壊する効果があるんだよ。だから…」
灯は隣の席の怜央に、4年前の記憶を遡りながらシャンリンの真意を説明する。
「どうりでブラックバードの効果を無効化したわけだ。
アイツは墓地に予告状がある時、それを除外することで妖義賊の破壊を防げる。
あのモンスター1体だけで、ビエザイドの全体破壊のストッパーになっちまうからな」
「いくら1度戦ったとはいえ、瞬時にそれを理解してノータイムで動くとは…。
やはり相当頭の回転が速い人だ」
イーサンはシャンリンのスキルの高さを改めて思い知る。
ただでさえ準決勝であり、彼女は前回の予選決勝を戦った人物だ。
これまでよりも更に過酷な戦いになることが予想される。
「神楽遊次…今度こそ私が勝利し、その性根を叩き折ってみせる」
シャンリンのメガネの奥の瞳が光る。
王となったビエザイドに共鳴するように、シャンリン自身も強い気迫を放っていた。
それがこの4年間で積み上げられた複雑な感情をはらんでいることを、
遊次はビエザイドから感じ取った。
(4年前に俺が"倒した"シャンリンと、
こうしてまた戦うことになったことに、絶対に意味があるはずだ。
譲への答えだってもしかしたら、このデュエルの先にあるかもしれねえ)
遊次はビエザイドのオーラに負けないよう、1歩力強く地を踏みしめる。
「全力でかかってこいよ。俺は1歩も引かねえ」
遊次は握った右手を前に突き出し、真っ直ぐと宣言する。
(ブラックバードの効果は無効になったが、ビエザイドの破壊効果は飛んでこねえ。
つまり、俺に目一杯カードを使わせたところを潰して、再起不能にしたいってことだ。
相手が嫌がることをやる、対人ゲームの基本。でもそれは、俺にとっても同じなんだよ…!)
遊次は闘志を燃やすようにニヤリと笑うと、1枚のカードを取り出す。
「フィールドに妖義賊がいる時、
手札から『妖義賊-忍びのイルチメ』を特殊召喚できる!」
■妖義賊-忍びのイルチメ
効果モンスター
レベル4/地/戦士/攻撃力1500 守備力1200
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドに「ミスティックラン」モンスターが存在する場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
②:手札から「予告状」カードを1枚捨てて発動できる。
相手の手札を確認し、その中からレベル4以下のモンスター1体を選ぶ。
そのモンスターを効果を無効化し、自分フィールドに特殊召喚する。
現れたのは紫色の忍び装束を身に纏い、長い髪を後ろで束ねたくノ一だ。
右手にはクナイを持っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/xBnMfae
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
フィールドにモンスターが増えたが、シャンリンは動ずることなくすぐに優先権を遊次に明け渡す。
(ここでも破壊は使わねえか。
ってことは、俺のフィールドにモンスターが残ることより、
"俺にできるだけ手を使わせる"ことを優先してるってことだ)
遊次は一瞬にして思考を巡らせる。
彼と、そしてシャンリン以外には、その思考まで到達できる者はいないだろう。
遊次が右手を高く上げる。
「俺はアンタから奪った2体のモンスターと、ブラックバードをリンクマーカーにセット!
サーキットコンバイン!」
フィールドに現れたサーキットのアローヘッドに、3体のモンスターが飛び込んでゆく。
「権威を穿つ風雲児よ、今こそ逆境を覆す英雄となれ!
リンク召喚!現れろ、リンク3!『妖義賊-神出鬼没のギルトン』!」
■妖義賊-神出鬼没のギルトン
リンクモンスター
リンク3/風/獣戦士/攻撃力2200
【リンクマーカー:左下/下/右下】
モンスター2体以上
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをL素材にしている場合、
このカードは相手の効果で破壊されない。
②:このカードがL召喚した場合、
相手のフィールド・墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターのコントロールを得る。
その後、そのモンスターを含む自分フィールドのモンスターを素材として
融合・S・X・L召喚を行うか、
そのモンスターを含む手札・フィールドのモンスターをリリースして儀式召喚を行う。
③:このカードのリンク先にP召喚された場合に発動できる。
自分はデッキから2枚ドローする。
そのモンスターは、鋭い目つきを持つ豹の顔をした獣戦士。
額には蒼のバンダナが巻かれ、胴体部分には茶色の革のチュニックを着ており、
背中には、鋭利な長剣が一本背負われている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/0seLbZv
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「『神出鬼没のギルトン』がL召喚した時、効果発動!
相手のフィールド・墓地からモンスターを1体奪って、
そのモンスターを使って融合・S・X・L・儀式召喚を行う!」
「だが装備魔法『王選器 アンシル』によって、フィールドの王選モンスターは効果の対象にならない」
シャンリンはギルトンが現れたことにも一切動じず、予定通りかのように言い放つ。
「わかってるぜ。俺がもらうのは、アンタの墓地の『王選の従騎 ルジェ』だ。
そして、ルジェとイルチメでオーバーレイネットワークを構築!」
地面に現れた黒い銀河のような渦に、2体のモンスターが飲み込まれてゆく。
「夜に這い寄る不敵な魔の手、その技巧で勝利を奪い取れ」
口上を唱えると、黒い銀河が逆流し、新たなモンスターが姿を現す。
「エクシーズ召喚!ランク4!『妖義賊-怪盗ルパン』!」
■妖義賊-怪盗ルパン
エクシーズモンスター
ランク4/闇/戦士/攻撃力2100 守備力1500
レベル4モンスター×2
元々の持ち主が相手となるモンスターをこのカードのX召喚の素材とする場合、そのレベルを4として扱う。
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの効果を無効にし、コントロールを得る。
②:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターを素材としている場合、以下の効果を得る。
自分の墓地の「予告状」カード1枚を対象として発動する。そのカードを除外する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
現れたのは、黒いハットを被りマントを纏った怪盗の姿。
手には白い手袋、目元には白い仮面を着けている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/mcoDQUC
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「神楽選手、いきなり大展開です!
LモンスターとXモンスターを立て続けに召喚したぁ!
しかしシャンリン選手は未だ動かず!まさか打つ手がないのでしょうか!?」
シャンリンは両足を閉じて凛と立ち、ただ静かに戦況を見つめている。
彼女のデッキをある程度知っている灯やイーサンでさえ、まだその思惑を図りかねていた。
ただ1人、遊次を除いては。
(じゃあ、そろそろ動いてもらおうか。
アンタがホントにあのモンスターを嫌がってるのがよくわかるぜ)
遊次はデュエルディスクの墓地ゾーンに目をやる。
「墓地の『妖義賊の羽衣』を除外して効果発動!
墓地のレベル4以下の妖義賊を特殊召喚できる!
俺が選択するのは『妖義賊-士君子のブラックバード』!」
その瞬間、シャンリンは人差し指を真っ直ぐと前に突き立てる。
「この瞬間、『王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ビエザイド』の効果発動!
お互いのターンに1度、相手フィールドの全てのカードを破壊する!」
ついに動いたシャンリンに観客の視線が集まる。
遊次は予想していたと言うように、真っ直ぐと前を見据えている。
「怪盗ルパンの効果発動!相手から奪ったモンスターを素材にしてる時、
自分・相手ターンに1度、墓地の予告状を除外できる!
『一攫千金の予告状』を除外!」
ルパンが1枚の予告状を手にすると、それを天へと高く投げる。
「チェーン2のビエザイドの効果により、君のフィールドを全て破壊する!」
ビエザイドがその大剣を高く掲げると、空間が禍々しく歪む。
そして剣を振り下ろすと、稲妻のように光る赤黒い斬撃が遊次のモンスター達を襲う。
ルパンは一瞬にして朽ち果てたものの、ギルトンは両腕をクロスして、その衝撃を耐え忍ぶ。
斬撃が途切れると、遊次のフィールドにはギルトンが堂々と立っていた。
「…ギルトンは相手から奪ったモンスターをL素材にしてる時、効果で破壊されねえ。
チェーン1の『妖義賊の羽衣』の効果で、ブラックバードを特殊召喚する!」
再びフィールドに紳士服を纏ったカラスのモンスターが現れる。
「ここで除外された『一攫千金の予告状』の効果を発動!
手札が1枚以下の時、カードを3枚ドローする!」
■一攫千金の予告状
通常魔法
①:このカードは発動後、墓地に送られる。
このカードの発動後2回目の自分メインフェイズに、このカードを墓地から除外できる。
②:自分の手札が1枚以下で、このカードが墓地から除外された場合に発動できる。
自分はデッキから3枚ドローする。
遊次はデッキから勢いよく3枚のカードをドローする。
--------------------------------------------------
【珊玲】
LP8000 手札:2
①王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ビエザイド ATK3200
②王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク DEF4000
勲章カウンター:1
フィールド魔法:王選の議場
装備魔法:王選器 アンシル
【遊次】
LP8000 手札:4(アカホシ)
①妖義賊-神出鬼没のギルトン ATK2200
②妖義賊-士君子のブラックバード ATK1500
魔法罠:0
--------------------------------------------------
「つ…ついに王となったビエザイドが強力な効果を使いましたぁ!
しかし実際に破壊できたのはルパン1体のみ!
さらに神楽選手は予告状によって3枚のカードをドローしました!
満を持して放たれた渾身の一撃は、神楽選手にダメージを与えられなかったように思えます!」
実況は観客の心の声を表していた。
「シャンリンさんは何故あのタイミングで全体破壊効果を使ったのでしょう?
下級モンスターが4体並んでいるタイミングで使うのが、最も効果的だったように思えますが」
治は自前のノートを見つめながら、怜央を見上げる。
「あのメガネ女が重視してたのは破壊する数じゃねえ、遊次に使わせる手数だ」
「手数?」
怜央が治の問いに答える。
「遊次にできる限りのリソースを使わせて、限界が来たら全体破壊を使おうって話さ。
まあ、デュエルの基本と言えば基本だけどな」
イーサンが注釈を付け加える。
「もし下級モンスターが並んでる時点で破壊効果を使えば、効果破壊されねえギルトンと、
いつでも墓地の予告状を除外できるルパンが出る前に、場を破壊できる。
そうすりゃ遊次のフィールドは空だ」
治は強く頷く。
「ギルトンとかルパンの存在を知らなかった可能性もあるけど…
遊次は前の2試合ともその2体を呼んでるし、4年前もデュエルしてるし、多分それはないよね」
灯も頭上を見上げながら腕を組み、一緒に考えようとする。
「もし遊次のフィールドをガラ空きにできても、
墓地の『妖義賊の羽衣』を除外すりゃあ、墓地のレベル4以下の妖義賊を特殊召喚できる。
デッキからモンスターを手札に加えられるジロキチでも特殊召喚すりゃ、
そっからまたある程度立て直せるのは、あのメガネ女もわかってたはずだ」
「墓地の『一攫千金の予告状』を除外すれば3枚のドローもできるし、
場を破壊したとこで、遊次さんが一切立て直せないって状況にはならない…」
星弥にも怜央の言葉の意図がだんだんとわかってきたようだ。
「あぁ。もしギルトンを召喚する前…下級が4体並んでる時に破壊効果を使えば、
その後どうせ立て直されて、そこでギルトンやらルパンやらに好き勝手されるんだ。
考えただけでも最悪だろ」
遊次と直接対峙したことのある怜央にとっても、それは想像すらしたくない光景だった。
「そこで、立て直されるのは前提として、
メガネ女は、遊次に限界までカードを使わせる方向に舵を切ったんだろうぜ。
実際、ギルトン・ルパン・『妖義賊の羽衣』を使わせた上で、
場にはギルトンとブラックバードしか残ってねえんだからな。あれでもマシな方だ」
一攫千金の予告状による3枚ドローを止めることはできないと考えられるため、
その前提の上で可能な限りリソースを使わせるという判断は、一つの正解と言える。
「遊次もそれをわかってたから、効果が無効になったブラックバードをL素材として墓地に送って、
『妖義賊の羽衣』でもう一度、特殊召喚したんだね」
「ブラックバードがフィールドに現れれば、
墓地の予告状を除外することで、破壊を無効にされてしまう。
だからシャンリンは、ブラックバードが特殊召喚される前に、全体破壊効果を使わざるを得ない。
それが遊次にとっても、最もリソースを割かずに破壊効果を使わせる方法だった…」
灯とイーサンの頭の中が整理されてゆき、
フィールドの2人の無言の読み合いについていくことができた。
治やアキト達は理解を深めると共に、
やはりそれを瞬時に推察できる彼らのレベルの高さを改めて痛感した。
「一攫千金の予告状があって助かったぜ。
これがなきゃ、まともに展開できないままターンを渡すことになってた。
だけど…こんだけ手札がありゃ、俺はまだやれる」
遊次は4枚の手札を眼前に掲げる。
「重要なのは展開できるかどうかじゃない。
私にどれだけの傷を与え、次のターンの私の行動を止められるか、だ。
そしておそらく、君はその条件は満たせない」
シャンリンの目的はあくまでも完全制圧ではなく、展開の限界値を下げることだ。
仮に展開できたとしても、次のシャンリンのターンで返される程度であれば、
彼女にとってなんら問題はなかった。
(怒っててもやっぱ冷静だな…。でも、やるだけやってみるしかねえ)
「手札の『妖義賊-美巧のアカホシ』の効果発動!
除外されてる予告状を任意の数デッキに戻して、このカードを特殊召喚できる!
一攫千金の予告状をデッキに戻して、特殊召喚!」
■妖義賊-美巧のアカホシ
ペンデュラムモンスター
レベル7/風/鳥獣/攻撃力2300 守備力2000 スケール8
【P効果】
このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:元々の持ち主が相手となるモンスター1体を対象とし、1~7までの任意のレベルを宣言して発動できる。
そのモンスターのレベルはターン終了時まで宣言したレベルになる。
【モンスター効果】
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分の除外されている「予告状」カードを任意の枚数デッキに戻して発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、
攻撃力がこの効果でデッキに戻した「予告状」カードの枚数×500アップし、
このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ相手モンスターの効果を受けない。
②:自分メインフェイズに発動できる。
デッキから「ミスティックラン」Pカード1枚を手札に加える。
自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合、
この効果で手札に加えるカードは2枚になる。
③:このカードがEXデッキに表側で存在し、自分のPゾーンにPカードが存在する場合に発動できる。
このカードを手札に加える。
現れたのは赤い着物を纏った鳳凰の頭を持つモンスターだ。
腰には長刀を携えている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Beta2kb
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「アカホシはデッキに戻した予告状1枚につき、500攻撃力が上がる」
妖義賊-美巧のアカホシ ATK2800
「アカホシの効果発動!1ターンに1度、デッキから妖義賊Pモンスターを手札に加えられる。
『妖義賊-誘惑のカルメン』を手札に加えるぜ」
「俺はスケール2の『妖義賊-誘惑のカルメン』と、
スケール8の『妖義賊-舞蛇のキク』でPスケールをセッティング!」
頭上には黒いローブを纏った妖艶な魔女と、
桃色の着物を纏う白蛇のモンスターが浮かび上がる。
カルメン:ttps://imgur.com/a/dwkEFaw
キク:ttps://imgur.com/a/tsPN11Y
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「『妖義賊-誘惑のカルメン』のP効果発動!
1ターンに1度、相手の墓地のモンスターを手札に加えられる。
アンタの墓地から『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』をいただくぜ」
シャンリンはしぶしぶ墓地のカードを遊次へと投げる。
それを受け取った遊次は、高レベルモンスターを手にしたからか、少し高揚した様子だ。
「ほんと癪に障る…」
シャンリンはそれを苛立ちと呆れの目で見つめていた。
「俺のスケールは2~8。よってレベル3~7のモンスターが召喚可能!
P召喚!手札から現れろ『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』!」
頭上で大きく揺れる振り子、その輝きより黒い騎士が現れる。
フィールドでは2体のビエザイドが向かい合っている。
「なんとも珍しい光景!王となったビエザイドが、
王になる前のビエザイドを見つめている!自らの過去との対峙です!
しかしせっかく呼び出したビエザイドですが、
シャンリン選手の装備魔法によって王選カードは対象に取れないため、
得意の破壊効果は使えません!」
「『妖義賊-舞蛇のキク』のP効果発動。
1ターンに1度、儀式モンスターか儀式魔法を手札に加えられる。
儀式魔法『儀式の予告状』を手札に加えるぜ。
さらに相手から奪ったカードがある時、追加でカードを1枚ドローできる」
「そして今手札に加えた『儀式の予告状』を発動!
知っての通り、発動しただけじゃ効果は使えない」
「こっからが面白いところだぜ。手札の『妖義賊の大爆破』発動!
フィールドのカードを2枚破壊できる!」
■妖義賊の大爆破
速攻魔法
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合に発動できる。
フィールドのカードを2枚選び、そのカードを破壊する。
「そのカードは対象に取る効果ではなく『王選器 アンシル』では防げないようね。
けど、ルイクがいれば我がモンスターは破壊されないわ」
シャンリンはソリッドヴィジョンで発動されたカードの効果を読み、ある事に気付く。
「いや、俺が破壊するのは『妖義賊-士君子のブラックバード』と『妖義賊-神出鬼没のギルトン』だ」
遊次は自分の方へと向かう爆炎を見つめる。
「ブラックバードは墓地の予告状を除外することで、妖義賊の破壊を回避できる。
除外するのはもちろん…『儀式の予告状』だ」
ブラックバードはその炎を、黒い羽を散らすことで防いだ。
「この時、除外された儀式の予告状の効果発動!
このカードが墓地から除外された時、モンスターを生贄に捧げ、手札・デッキから儀式召喚モンスターを儀式召喚できる!
フィールドのレベル7『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』をリリースして、儀式召喚を執り行う!」
フィールドに1つの灯篭が現れ、ビエザイドが光へと消えると、灯篭に炎が灯る。
「桜吹雪の舞う中に、現れたるは荒野の義賊!
儀式召喚!来い、俺の切り札!『妖義賊-ゴエモン』!」
■妖義賊-ゴエモン
儀式モンスター
レベル7/地/戦士/攻撃力2500 守備力2000
「予告状」儀式魔法カードにより降臨。
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:元々の持ち主が相手となるカードが自分フィールドに存在する限り、
自分フィールドのモンスターは相手の効果の対象にならない。
②:相手の墓地のモンスター、または魔法・罠カード1枚を対象として発動する。
モンスターカードの場合、そのカードを自分フィールドに特殊召喚し、
魔法・罠カードの場合、自分フィールドにセットする。
③:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをリリースして儀式召喚された場合、以下の効果を得る。
元々の持ち主が相手となる自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動する。
そのモンスターの元々の攻撃力分、自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力をアップする。
桜吹雪と共に現れたのは、大剣を携えた戦士のモンスター。
メタリックなボディは鉄の装甲で覆われており、鎧には赤の紋様が描かれている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/YnblaqH
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「ゴエモンの効果発動!1ターンに1度、相手の墓地からカードを拝借できる。
『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』をまたいただくぜ」
ゴエモンの隣に再び黒騎士が現れる。
「さらにゴエモンの効果発動!
相手から奪ったモンスターをリリースして儀式召喚してる時、
相手から奪ったモンスターをリリースすることで、そのモンスターの元々の攻撃力分、
俺の全てのモンスターの攻撃力をアップさせる!
ビエザイドをリリースして、その元々の攻撃力2500、俺のモンスターの攻撃力を上げる!」
ビエザイドがリリースされると、遊次のモンスター達は闇の力を纏う。
妖義賊-神出鬼没のギルトン ATK4700
妖義賊-士君子のブラックバード ATK4000
妖義賊-美巧のアカホシ ATK5300
妖義賊-ゴエモン ATK5000
「な…なんとぉ!!神楽選手の全てのモンスターの攻撃力は、4000以上!圧倒的です!!」
その迫力に観客達は歓声を上げる。
「確かに悪くはない、だが…」
しかしイーサン達は喜びを見せていなかった。
「これが今の俺の全力だ。
たとえ決定打を与えられなくても、俺はアンタに本気でぶつかる。
ゴールは見えなくても、まずはそこに向かって突っ走るしかないからな」
遊次が真っ直ぐとシャンリンを見つめる。まるで彼女に問いかけるように。
「俺はこのデュエルの中で、答えを探してるんだ。
そのために、アンタの声をちゃんと受け止めたい。
だから…アンタも全力でぶつかってこいよ」
シャンリンはその瞳を探るように見つめる。
頭に思い浮かんだのは4年前の予選決勝戦。
ただ無邪気にモンスターを破壊し、笑顔でトドメを刺し、ただ喜びを表すその姿。
それがこの4年間、くっきりと脳裏に焼き付いていた。
あの時も、口では「デュエルで語りたい」などと言っておきながら、
結局は目先のデュエルの楽しさに溺れ、戦いの"本質"を見ようとしなかった。
(またデュエルしようぜ!)
膝をつく私に、君は笑顔で手を差し伸べ、そう言った。
だから、許せなかった。
(だが…)
シャンリンは目の前の遊次を見つめる。
そして、小さく息を吐くと、ゆっくりと口を開く。
「…何も変わっていないと言ったのは間違いだった。訂正しよう」
「シャンリン…」
「君はあの時とは違うようだ。
今の君には、目の前の人間の思いを、願いを…受け止める覚悟と自覚があるのかもしれない」
シャンリンは足を揃え、斜めに立つ。
左腕にデュエルディスクを装着して凛と立つその姿はまるで、剣と盾を携えた騎士のようだった。
「全力で来い。君の切っ先が、私の心臓を貫くことはない」
シャンリンはデュエルディスクを構える。
遊次も覚悟を決め、意識をフィールドへと戻す。
(厄介なのは、守備力を1000下げることでカードの破壊を無効にするルイク。
今の守備力は3000だから、合計4回攻撃しなきゃ、シャンリンのモンスターを破壊できねえ。
つまり、ルイクかビエザイド…どっちかしか倒せないってことだ。
全体破壊効果を持つビエザイドを残すわけにはいかねえ。答えは1つだ)
「バトルフェイズ!『妖義賊-美巧のアカホシ』で
『王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ビエザイド』に攻撃!」
アカホシが長刀を抜刀し、ビエザイドに切りかかる。
ビエザイドも大剣で応戦し、2体の間には痺れるほどの斬撃が拡散する。
その瞬間、ルイクが盾を掲げ、ビエザイドを光の結界で守る。
「『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク』の効果!
守備力を1000下げることで、王選カードは破壊されない!」
ルイク 守備力3000 → 2000
「だがダメージは受けてもらう!」
アカホシが刀を一度弾くと、炎の一閃を再び浴びせる。その斬撃はシャンリンへと届く。
「ぐぁあっ…!」
シャンリン LP8000 → 5900
「だがカードが破壊されなかったことで、ルイクに勲章カウンターが置かれる!」
ルイク 勲章カウンター2→3
「あぁっとぉー!!シャンリン選手、
モンスターの破壊は免れたものの、大ダメージを受けましたぁ!
ルイクの勲章カウンターは3つ溜まりましたが、EXモンスターゾーンが埋まっているため、
ルイクは王にはなれません!」
「アンタが俺に怒ってんのは、4年前俺がアンタに勝ったことだろ!
でもそれは正真正銘、真剣勝負の結果だ!アンタはそれで俺を恨むような奴じゃねえ!
だから、そのもっと奥に"何か"があるんだろ!」
シャンリンの思いを知りたい。それが譲への答えに繋がっているような気がする。
そのために、遊次はモンスターの攻撃に自らの思いをのせる。
「『妖義賊-ゴエモン』で、ビエザイドを攻撃!」
ゴエモンが桜吹雪を纏った刀でビエザイドに切りかかる。
そして、その一閃にビエザイドは、一切の抵抗を見せなかった。剣は降ろしたままだ。
ゴエモンの一太刀がビエザイドを切り裂く。ビエザイドは膝をつき、破壊されてゆく。
「っ…!」
シャンリン LP5900 → 4100
「えっ!破壊できちゃったよ!」
観客席のトーマスが予想外の展開に声をあげる。
当然ルイクによって守られるものと考えていたためだ。
「でも…玉座は空いたよ」
ダニエラの一言によって、トーマス達はシャンリンの狙いを理解した。
空いたのではない、空けたのだ。
「『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク』の効果発動。
EXモンスターゾーンに自分のモンスターがいない時、
勲章カウンターが3つ置かれたこのカードをリリースすることで、王となる!」
ルイクの背後に一本の青い光の柱が出現する。
その光はルイクを飲み込み、フィールドは目を開けられないほどの光に包まれる。
「王に選ばれしは守護の騎士。
光の聖域となりて、ここに絶対なる無血の誓いを立てよ!」
「現れよ!
『王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ルイク』!」
■王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ルイク
シンクロモンスター
レベル10/光/戦士/攻撃力2500 守備力4000
このカードは「王選の騎士 ルイク」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
自分の「レガルバロット」カードは相手の効果の対象にならず、
このカード以外の「レガルバロット」カードは相手によって破壊されない。
②:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はこのカードしか攻撃対象にできない。
③:自分の墓地の「レガルバロット」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
青き光の中から姿を現したのは、王として覚醒したルイクだった。
金色で縁取られた蒼き重厚な鎧を纏い、体と同じ大きさの巨大な盾を携えている。
頭上には王冠が輝き、静けさの中に圧縮された風格と威圧感を放っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/P4a7sTq
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「この時、装備モンスターがリリースされたことで墓地へ送られた『王選器 アンシル』の効果発動!
相手モンスターの攻撃力を全て、元々の数値へ戻す!」
青い波動が遊次のモンスター達へ放たれる。
ゴエモンの効果によって上がっていた攻撃力は、たちまち元に戻る。
妖義賊-神出鬼没のギルトン ATK2200
妖義賊-士君子のブラックバード ATK1500
妖義賊-美巧のアカホシ ATK2300
妖義賊-ゴエモン ATK2500
「ついに2人目の王が君臨したぁー!!そして神楽選手のモンスターの攻撃力がリセットされてしまった!
王となったルイクの守備力は4000!神楽選手のモンスターでは歯が立ちません!
ライフを半分削れたものの、これ以上攻め込むことは不可能だぁー!」
「ここが君の限界だ」
シャンリンの言葉に、遊次は目の前の王となったルイクを見つめる。その表情にはまだ余裕があった。
「このターンはな。でも、デュエルはまだまだこれからだぜ」
少し苦々しい笑みを浮かべながら、遊次は尽きぬ闘志を示す。
「…君は私とのデュエルの果てに答えがあるかもしれないと言ったな。
私も、君に必ず知らしめなければならないと考えていた。
4年前に君が勝利したことが、何を意味するかを」
シャンリンがついに口を開いた。
これまで遊次に向けてきた感情、その意味を知るために、遊次は次の言葉を待つ。
「君は覚えているか。4年前、私が何のためにヴェルテクス・デュエリアに出場したか」
「あぁ、確か…法律を変えるためとかって話だよな」
「そう。あの時、君にはそれ以上のことを教えなかったわね。
それは、同情の余地のない純粋なデュエルで勝負をつけるべきだと思ったから。
でも、今の君は知るべきだ。私の願いと、それが敗れた成れの果てを」
遊次の背筋にぞくっとした冷たさが走った。何故かはわからない。
しかし同時に、これは自分が知るべき事であると直感した。
「4年前、私は運送会社を経営していた。
特に力を入れていたのは、ワクチンの輸送」
「…そうだったのか」
振り返れば、シャンリンのパーソナルについて、遊次はほとんど何も知らなかった。
「言うまでもなく、ワクチンはデリケートな代物で、管理が難しい。
それを適切な管理体制のもと、他社よりも素早く国中に届けられる体制が、我が社にはあった。
種類は多くないけど、数種類のワクチンを、質を落とさず早く届けることには自信があった。
経営は順調だったわ。…ある時まではね」
「ある時まで?」
「シンフォメランを知ってるか。5年前に新しくできたばかりの革新的なワクチンだ。
私の会社でも多く輸送していたし、それが我が社に利益をもたらしていた要因でもあった」
「あぁ…ニュースとかで聞いたことある気がするな」
「一時期、とある事故が起きてニュースはそのことで持ちきりになったからでしょう。
そしてそれが、"諸悪"の根源よ」
シャンリンの目に怒りが滲む。
「5年前、シンフォメランを打った何人もの患者に、痙攣や発熱といった異常反応が起きた。
原因はそのワクチンを輸送していた会社が、適切な温度管理を怠ったからよ」
「それって…」
「言っておくけど、私がそのような事故を起こしたことはない。
事故を起こしたのは、当時政府が懇意にしていた企業よ。
それ故に政府の責任問題だという声も上がり、政府もこの問題に積極的に対処する姿勢を見せた」
「その結果、シンフォメランは−17から−20度で保管しなければならないという法律が、異常な早さで制定された。
しかし、我が社では−2から−8度で管理できるワクチンしか取り扱っておらず、
シンフォメランを−20度で輸送するためには、莫大な設備投資が必要だった」
難しい話ゆえ、遊次は必死で頭を回転させながらついていこうとする。
その中で一つ、引っかかる部分があった。
「事件の後、−20度ぐらいでしか管理しちゃいけない法律ができて、
シャンリンさんはそれについていけなかった。
でも、そのワクチンは今までもアンタの会社で運んでたんだよな?
そんで、今まで事故を起こしたことはなくて…。
やべえ、よくわかんなくなってきた…」
遊次が髪をくしゃくしゃにして小さくパニックを起こす。
「その反応も当然ね。何故なら政府の法改正が間違っているから。
そもそもシンフォメランは、−2から−8度で問題なく管理できるのよ。
だから今までその温度で管理していた私の会社でも、事故は起きなかった」
「しかし、世間は"必要より高い温度で保管した"ことが、事故の原因だと捉えたの。
そして"もっと温度を下げたほうが安全なはずだ"と考え始めた。
政府もそういう世間の声を鎮めるために…安心感を与えるため"だけ"に、−20度での管理を義務付けた」
「世間体のために、必要ない法律を作ったってことか?」
「そう。実際、-20度で管理してもワクチンの質に影響はないわ。
政府が懇意にしてる企業には補助金も出てたし、そういう企業はその法律にすぐ対応できた。
だから輸送自体はほとんど滞らないし、国民にも大きな影響はない。
割を食ったのは…私達のような、政府とコネのない中小企業よ」
「その法律を変えるために、4年前アンタはヴェルテクス・デュエリアに…」
点と点が繋がってきた。
それが何を意味するかということにも気付き始めていた。
「そして、予選決勝で君に敗れた。
法律は変えられず、設備投資に手が回らない。その間にも輸送ルートを他社に奪われた。
結果…我が社は倒産した。何百人もの社員が路頭に迷うこととなった」
遊次は息をのんだ。胸の奥から何かが押し寄せるような感覚をおぼえた。
「4年前に敗北したのは、無力だった私のせいだ。そこを責めるつもりはない。
君の問題は、"無邪気な無自覚さ"だ」
「無邪気な…無自覚…」
心臓を貫かれるようにシャンリンの言葉が刺さる。
「君がこのまま勝ち続ければ、虹野譲という青年が"病気を治す"という願いを叶えられない。
だから悩んでいるのだろう。しかし…」
「君はもうすでに、罪を犯している。
4年前に、何百人もの人生を狂わせているんだ」
遊次は戦慄し、言葉を失う。
願いを叶えるためには、誰かの願いを潰さなければならない。
それこそが虹野譲の言葉によって気付かされた真実だ。
決して願いを潰すことそのものに、遊次は拒否反応を示しているわけではない。
勝負である以上、敗者の願いが叶わぬことは必然。
そこに対して迷いはない。
すでにマルコスに勝利したことで、マルコスの「学校を廃校から守る」という願いは潰えた。
だが、それはマルコスの人生そのものを大きく揺るがせるものではない。
空蝉の願いも、遊次にとっては阻止すべきものだった。そこに後悔はない。
だが虹野譲は、2人とは大きく違った。
ヴェルテクス・デュエリアで彼を倒すことは、彼の死を意味する。
この大会に人の命を左右する重みがあることに、これまでの遊次は気付いていなかったのだ。
否、ほとんどの参加者にその自覚はない。
あったとしても、それを自分の罪とは捉えない。
しかし、譲の言葉によって真実に気付かされ、遊次は迷った。
この大会に勝利し続けることは、間違った道なのかもしれない。
故に、迷う。
それは、これから取り返しのつかない過ちを犯さないためだ。
しかし、振り返った足元に広がる自分の轍が、すでに"過ち"の道を歩んでいたとしたら。
遊次は右手で顔を覆う。肩が重い。
「そんなことが起きてたなんて…俺は思いもしなかった…。
なのに、俺は…」
(君の問題は、"無邪気な無自覚さ"だ)
願いを叶えることは、願いを潰すこと。
早くも遊次は、その命題と向き合うことになる。
彼はこのデュエルの果てに、答えを掴むことができるのか。
第43話「王選(レガルバロット)」 完
遊次の肩に重くのしかかる、4年前の罪。
俯く遊次に構わず、シャンリンはカードという名の剣を抜く。
デュエルはまだ続いている。遊次は迷いにもがきながら、再び前を向く。
最初から感じていたはずだ。この戦いの果てにこそ、答えはあると。
激しさを増す、騎士と義賊の剣戟。
迷っている間にも、デュエルは進んでゆく。
覚悟を、決めなければならない。
「俺が"奪った"色んな人の願い…全部、めちゃくちゃ重ェよ。
でもな…俺が背負った願いだって、簡単に捨てられるもんじゃねえんだ」
次回 第44話「願いの芽を摘む覚悟」
ドミノタウンの通りには朝の支度を終えた人々の気配が漂っていた。
遊次は、事務所の屋上に立ち、無言のまま街を見下ろしていた。
赤茶けた屋根が並ぶ住宅街、看板の色が少し褪せた雑貨屋。道路には似たようなファミリーカーが走る。
遠くで犬が吠え、誰かが笑っている声が微かに風に乗って届いた。
特別なことは何も起きない、けれど確かに人々の暮らしが流れている。
遊次はポケットに手を入れたまま、物思いにふけっている。
後ろからガチャリとドアの開く音がした。
「んー!いいお天気だね!」
振り返ると灯が気持ちよさそうに伸びをしながら、遊次の方へと近寄ってくる。
「ミロヴェアンさんに聞いたけど、順調だって。
偽の社長をインターネット上に創り上げるってやつ」
「そっか。それじゃあ、早けりゃ来週にはサロンに潜り込めるかな」
「多分ね」
裏カジノ打倒の依頼は着々と進んでいた。
架空の社長を創り上げ、こちらから裏カジノのターゲットとなる計画。
そのためにはその社長が実在すると思わせるための入念な下準備が必要。
そこで裏カジノ参加者でありIT企業社長のミロヴェアンの力を借り、準備を進めているのだ。
「で、何か考えてた様子でしたけど?遊次さん」
灯は少し冗談交じりに軽快に話しかける。
「おう、まあな」
遊次は高くも低くもないテンションで短く返す。
「やっぱり、譲くんから言われたこと?」
「そ。いろいろ考えたけど、やっぱり答えはまだ見つかんねえ。
俺は別に、譲の願いを潰したいわけじゃない。
そりゃ、譲にだって願いを叶えてほしいに決まってる」
遊次は柵に背を向けて腰掛け、上方の空を見つめる。
「高校の頃、事務所開くために一緒にバイトして、お金貯めたよね。
小さい頃の夢をずっと真っ直ぐ追いかけるって、すごいと思う。ほんとに」
灯は屋上から、向こうに見える弁当屋を見つめながら、懐かしい記憶に浸る。
「あん時は大変だったなぁー。毎日のように働いてたし。
でも、灯がついてきてくれるから、俺も頑張れたんだぜ。ありがとな」
「…へへ。だから、簡単に諦められるわけないよ。私も、諦めてほしくない」
小さく照れ笑いしたあと、灯は遊次に真剣なまなざしを向ける。
「…そうだよな。
イーサンはさ、ヴェルテクス・デュエリアだけが手段じゃないって言ってたけど…。
全力で突っ走っても、コラプスで失ったもんは簡単に取り戻せねえよ。
Nextがどんだけでっかくなっても、救えねえ人達の方がはるかに多いんだよ」
遊次の声に力が入る。
灯も、これほどまでに奥底の本音を吐露する遊次はあまり見たことがなかった。
いつも遊次は、ただがむしゃらに、皆を元気にするために奔走していたからだ。
しかし今、それでも救えない人の方が多いと彼は口にした。
彼は大きな夢を描きながらも、現実を見据えているのだ。
「もし魔法みたいに、この町を綺麗さっぱり全部治せたらって…ガキの頃、何回も思ったぜ。
その魔法に近いモンが、ヴェルテクス・デュエリアで手に入るんだよ」
柵を握る手に力が入る。
「…諦められねえ。でもそれと同じぐらい、譲のことだって諦めたくねえ。
だから…結局どうしたらいいかわかんねえ!チクショーー!」
遊次が青空を仰ぎ、目いっぱいに腕を広げて叫ぶ。
灯はその姿を見つめながら、心につっかえているものを言語化しようと、考えを巡らせる。
「私にもはっきりわかんないけど…
とにかく遊次には、遊次がやりたいこと、全部叶えてほしいんだ。
私はそれを……隣で見れたら、満足だから。…ね!」
灯が照れ隠しのように拳を軽く遊次の肩に当てる。
「…へへ。ありがとな、灯!すげー気合入った!」
遊次は満面の笑みで灯の肩に拳を優しく当てる。
そんな遊次の様子に、灯も笑顔で頷く。
「よかった。今日の試合は大丈夫そう?」
今日はヴェルテクス・デュエリア ドミノタウン予選準決勝。珊玲(シャンリン)との試合の日だ。
遊次がもやもやしたままデュエルに臨めば、本来の力を出せないかもしれない。
それを少しでも取り払うために、灯は屋上まで足を運んだのだ。
「あぁ、バッチリだ。まだ答えは見つかんねーけど、
探してるもんはデュエルの中にある…そんな気がするんだ。
だから、安心してくれ!腑抜けた試合には絶対にしねーからさ!」
遊次は大きな笑顔で右手を伸ばす。
「うん!頑張ってね、遊次!」
遊次の右手に、灯は左手を合わせ、ハイタッチをする。
譲の言葉に対してまだ解は見つからないが、まずは目の前の戦いに全力を尽くすこと。
それこそが自分のやるべきことであると遊次は強く自覚する。
「まもなくドミノタウン予選 準決勝第1試合『神楽遊次 VS 珊玲』の試合を開始します。
実況は、わたくし多口伝助がお送りします…」
目元までウェーブした前髪が伸びた、目の下にクマのある男は、
ぼそぼそとした声で会場にアナウンスしている。
観客席にはいつものように、Nextのメンバーと、
Unchained Hound Dogsのメンバー、そして探偵アキトが座っている。
そしてその席とは少し離れた場所には、大きな数珠を肩から提げた僧侶が腕を組んで座っている。
前の試合で遊次に敗れた「空蝉空心(うつせみくうしん)」だ。
遊次はスタジアムの中央にすでに立っている。
その瞳は真っ直ぐと前を向いていた。
その視線の先…ゲートから対戦相手「珊玲(シャンリン)」が、長い髪を揺らし、颯爽と歩いて来る。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/PcgqjpN
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シャンリンは中央で立ち止まると、鋭い目で遊次を睨むように見つめる。
「4年ぶりだな、シャンリン」
遊次は凛とした表情で話しかける。
「…私を下しておいて初戦で負けた恥知らずと、交わす言葉はない」
シャンリンは目も合わせず、そっけなく答える。
4年前のドミノタウン予選の決勝にて、遊次はシャンリンを倒して本戦へ勝ち上がったものの、
その初戦で敗退した。まだそのことを根に持っているようだ。
「な、なんだよ冷てえな…。傷つくぜ…」
露骨な拒否反応に、遊次は肩を落とす。
「…1週間前は随分迷っているように見えたけど、もう吹っ切れたのね。
やっぱり何も考えてないってことかしら」
交わす言葉はないと言いながらも、シャンリンは遊次に言葉を投げかける。
「なんだよ、見てたのか。確かに前よりは元気になったけど…
めちゃめちゃ考えて、まだ答えが見つかってないだけだ」
「そう。ようやくただのデュエルバカから1歩前進ってところね。
でも、もう悩むだけ無駄よ。君はここで負けるのだから」
シャンリンがデュエルディスクを構える。
「…アンタが俺をどう思ってんのかはわかんないけど、負けるつもりはねえ」
遊次も真剣な面持ちでデュエルディスクを構える。
「両者準備が整いました。それでは準決勝第1試合を開始します…」
多口は実況席の下に顔を潜り込ませ、数秒後に顔を上げる。
目元まで降りていた前髪は全てピンと上に立ち上がっていた。
「デュエル…開始ィーー!!!」
多口は声高々にデュエルの開始を宣言する。
シャンリンのデュエルディスクにランプが点く。
「私のターン。
『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ボエモンド』を召喚」
■王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ボエモンド
効果モンスター
レベル4/地/戦士/攻撃力1700 守備力1500
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「王選の従騎 ボエモンド」以外の
「レガルバロット・ペイジ」モンスター1体を特殊召喚する。
②:自分メインフェイズに発動できる。
相手はデッキからレベル4以下のモンスター1体を選んで特殊召喚する。
その後、自分はデッキから1枚ドローする。
現れたのは、十字の紋を刻んだ鎧を纏う茶髪の若き騎士だった。
鋭い眼差しを向け、片手に剣、もう一方には陽光を象った盾を構えている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/NA5x9vd
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「ボエモンドが召喚に成功した時、デッキから
『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ)』モンスターを特殊召喚できる。
来い、『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ルジェ』」
■王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ルジェ
効果モンスター
レベル4/光/戦士/攻撃力1600 守備力1600
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「王選の従騎 ルジェ」以外の
「レガルバロット」モンスター1体を手札に加える。
②:自分メインフェイズに発動できる。
相手はデッキから魔法・罠カード1枚を選んで魔法&罠ゾーンにセットする。
その後、自分はデッキから1枚ドローする。
現れたのは、銀灰の短髪を持つ若き騎士だ。
蒼い鎧に身を包み、片手に剣、もう一方に百合の紋章が刻まれた盾を持っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/kyGJPbv
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「ルジェが特殊召喚された時、
デッキから『王選(レガルバロット)』モンスター1枚を手札に加える。
『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク』を手札に加える」
「『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ボエモンド』の効果発動。
君はデッキからレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる。
さあ、モンスターを選びなさい」
「…いきなり本調子ってとこか。
なら俺は『妖義賊-駿足のジロキチ』を特殊召喚するぜ」
一見、相手にモンスターを特殊召喚させるリスキーな効果だが、
シャンリンのデッキを知っている遊次は、
それこそがシャンリンにとってメリットを生むことを知っていた。
そして遊次のフィールドにほっかむりを被ったネズミ男が現れる。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/6MJzyaS
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「相手がモンスターを特殊召喚した代わりに、私は1枚ドローできる」
「特殊召喚されたジロキチの効果発動!
デッキから妖義賊モンスターを手札に加えられる。
『妖義賊-美巧のアカホシ』を手札に加えるぜ」
「さらに『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ルジェ』の効果発動。
君はデッキから魔法・罠カードを1枚セットできる。
代わりに私はデッキから1枚ドローできる」
「なら俺は罠カード『妖義賊の羽衣』を伏せるぜ」
そしてシャンリンはデッキから1枚カードをドローする。
「いくら2枚ドローできるとはいえ、
相手にモンスターと罠カードを渡すのは痛いはずだぜ」
ドモンは腕を組みながら、相手にもメリットを与えてしまうシャンリンのデッキに疑問を抱く。
「普通はそう考えるだろうな。
だが、相手にカードを与えること自体に意味があるとしたらどうかな」
4年前に彼女と遊次の戦いを見ているイーサンは、その真意を知っていた。
「私は、フィールドのボエモンドとルジェ、2体のモンスターをリリースし、
手札から『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』を特殊召喚する!」
2体の若き騎士が膝をつき、剣を天へと掲げると、
その身は闇へと飲まれ、フィールドに一本の黒い雷が落ちる。
■王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド
効果モンスター
レベル7/闇/戦士/攻撃力2500 守備力2200
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの「レガルバロット・ペイジ」モンスター2体をリリースして発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
その後、デッキから「レガルバロット」装備魔法カード1枚を選び、このカードに装備する。
②:相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。その後、このカードに勲章カウンターを1つ置く。(最大3つまで)
この効果は相手ターンでも発動できる。
③:EXモンスターゾーンに自分のモンスターが存在せず、
このカードに勲章カウンターが3つ置かれている場合、このカードをリリースして発動できる。
EXデッキから『王選の覇者 ビエザイド』をEXモンスターゾーンに特殊召喚する。
現れたのは、黒い長髪と冷酷な紅い瞳を持つ騎士のモンスター。
全身を漆黒の鎧で覆い、赤く輝く刃を握ったまま、前を睨み据えている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/HeMbnlb
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「そして特殊召喚後、デッキから『王選』と名の付く装備魔法を、このカードに装備する。
『王選器(レガルバロット・アミュレット) スパータ』を装備」
ビエザイドが剣を掲げると、そこに禍々しく赤い紋様が描かれる。
■王選器(レガルバロット・アミュレット) スパータ
装備魔法
「王選の騎士」「王選の覇者」モンスターにのみ装備可能。
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊し、装備モンスターに勲章カウンターを1つ置く(最大3つまで)。
②:装備モンスターがリリースされることでこのカードが墓地へ送られた場合、
相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
その効果を無効にする。
「『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』の効果発動。
自分・相手ターンに1度、相手フィールドのカード1枚を破壊する。
『妖義賊-駿足のジロキチ』を破壊」
ビエザイドが禍々しい光を放つ剣を一振りすると、その斬撃によってジロキチは一瞬で破壊される。
「そしてこの効果でモンスターを破壊した時、ビエザイドに勲章カウンターが1つ置かれる」
ビエザイド 勲章カウンター0→1
「さらに装備魔法『王選器(レガルバロット・アミュレット) スパータ』の効果発動。
1ターンに1度、相手の魔法・罠カードを破壊できる。
セットされている『妖義賊の羽衣』を破壊するわ」
再び剣を振るうと、遊次の伏せカードが破壊される。
「そして装備モンスターに勲章カウンターが置かれる」
ビエザイド 勲章カウンター1→2
「下級モンスターの効果によって相手にわざわざカードを与えたのは、
自らのカード効果で破壊し、勲章カウンターを溜めるため!
そうまでして溜めた勲章カウンターには、どのような役割があるのでしょうか!」
すでに過去の試合の映像から彼女のデッキの性質を知っている実況の多口は、
観客の楽しみを奪わぬよう、必要最低限の解説に留める。
「フィールド魔法『王選の議場(レガルバレット・セナトゥス)発動』」
■王選の議場(レガルバレット・セナトゥス)
フィールド魔法
このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分は通常召喚に加えて1度だけ、
自分メインフェイズに「レガルバロット」モンスター1体を召喚できる。
②:このカードがフィールドゾーンに存在する限り、
自分の「レガルバロット」カードの効果の発動は無効にならない。
③:自分フィールドの「レガルバロット・ナイト」モンスター1体を対象として発動できる。
そのカードに勲章カウンターを1つ置く(最大3つまで)。
発動と同時に、赤と黒が支配する高級感のある空間に変わった。
白い柱に囲まれた広間。壁には黄金の縁取りを持つ赤い旗が等間隔で掛けられ、
天井からは大きな燭台が吊るされている。
「このフィールドがある限り、私は王選モンスターをもう1度召喚できる。
手札から『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ゴドフロワ』を召喚」
■王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ゴドフロワ
効果モンスター
レベル4/風/戦士/攻撃力1800 守備力1300
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合、
自分の墓地の「レガルバロット・ペイジ」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
②:自分の墓地のこのカードを除外し、自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
その後、デッキから「レガルバロット」罠カード1枚を手札に加える。
この効果でカードを破壊できなかった場合、
自分フィールドの「レガルバロット」モンスターの守備力は1000アップする。
現れたのは、赤茶の髪を持つ鋭い眼差しの騎士。
全身に金縁の鎧を纏い、十字を刻んだ盾と長剣を構えている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Zhsh0FH
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「このカードが召喚した時、墓地の『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ)』を1体、特殊召喚できる。
現れよ、『王選の従騎 ルジェ』」
「そしてゴドフロワとルジェ、2体のモンスターをリリースし、
手札から『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク』を守備表示で特殊召喚する!」
2体のモンスターが膝をつき剣を掲げると、光と消え、青い稲妻が走る。
■王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク
効果モンスター
レベル7/光/戦士/攻撃力2000 守備力3000
このカード名の①③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの「レガルバロット・ペイジ」モンスター2体をリリースして発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
その後、デッキから「レガルバロット」装備魔法カード1枚を選び、このカードに装備する。
②:自分フィールドの表側の「レガルバロット」カードが破壊される場合、
代わりにこのカードの守備力を1000下げ、このカードに勲章カウンターを置くことができる。
③:EXモンスターゾーンに自分のモンスターが存在せず、
このカードに勲章カウンターが3つ置かれている場合、このカードをリリースして発動できる。
EXデッキから『王選の覇者 ルイク』をEXモンスターゾーンに特殊召喚する。
現れたのは、金髪に蒼眼の騎士だった。
鋭く尖った意匠の青い鎧には金の縁取りが施され、胸には宝石が埋め込まれている。
右手に長剣、左手に紋章入りの大きな盾を構えている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/oqqawsl
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「さらにこの効果で特殊召喚した時、デッキから『王選』装備魔法を装備する。
ルイクに『王選器(レガルバロット・アミュレット) アンシル』を装備」
ルイクの持つ盾に蒼い紋様が描かれる。
■王選器(レガルバロット・アミュレット) アンシル
装備魔法
「王選の騎士」「王選の覇者」モンスターにのみ装備可能。
このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:装備モンスターの守備力は1000アップする。
②:このカードが装備カードとして装備されている限り、
このカード以外の自分フィールドの「レガルバロット」カードは効果の対象にならない。
③:装備モンスターがリリースされることでこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
相手フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は元々の数値に戻る。
「このカードを装備したルイクは守備力が1000アップする」
王選の騎士 ルイク 守備力3000 → 4000
「墓地の『王選の従騎(レガルバロット・ペイジ) ゴドフロワ』を除外して効果発動。
自分フィールドのカード1枚を破壊する。
破壊対象は『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク』」
「えっ…自分のモンスターを破壊しちまうのか!?」
観客席のリアムは思わず驚きの声を上げる。
ルイクの前に、素早くゴドフロワが現れ剣を振り下ろすが、
ルイクの巨大な盾によって防がれる。
「ルイクは自身の守備力を1000下げることで、表側の王選カードの破壊を免れることができる。
そしてこの効果でカードを守った時、勲章カウンターが1つ置かれる」
ルイク 勲章カウンター0→1
「さらにゴドフロワの効果でカードを破壊できなかった場合、
自身の王選モンスターの守備力は1000アップする。
ルイクがカードを守ったことで下がった守備力は元に戻り、再び4000となる」
「フィールド魔法『王選の議場(レガルバレット・セナトゥス)』の効果発動。
1ターンに1度、『王選の騎士(レガルバロット・ナイト)』に勲章カウンターを1つ置く(最大3つまで)。
ルイクに勲章を授ける」
ルイク 勲章カウンター1→2
「装備魔法『王選器 アンシル』が装備されている限り、
自分フィールドの『王選』カードは効果の対象にならない。
さらにこのフィールド魔法がある限り、王選カードの効果の発動は無効にならない」
「私はこれでターンエンド」
シャンリンは円滑にデュエルをすすめ、流れるようにターンを終える。
--------------------------------------------------
【珊玲】
LP8000 手札:3
①王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド ATK2500
勲章カウンター:2
②王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク DEF4000
勲章カウンター:2
フィールド魔法:王選の議場
装備魔法:王選器 スパータ、王選器 アンシル
【遊次】
LP8000 手札:6(アカホシ)
魔法罠:0
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「シャンリン選手、2体の上級モンスターを呼び出しました!
ビエザイドの効果により、1ターンに1度カードを破壊でき、
ルイクの守備力を下げることで、王選カードは破壊されない!
さらには装備魔法によって、王選カードは効果の対象にならない!
なんと盤石なフィールドでしょう!鮮やかなデュエルですッ!
神楽選手、どう乗り切るのでしょうかぁ!」
攻守整ったシャンリンの盤面の強固さを多口が解説する。
「完璧な初動…だな」
イーサンは隣の灯に言葉をかける。
「…うん。遊次が越えなきゃいけない壁は、今見えてるよりも、ぜんぜん高い」
4年前のシャンリンとのデュエルを知っている灯とイーサンは、
このフィールドがどれほど強力なものかということも知っていた。
「あのメガネ女がどんなデッキか俺は知らねえが、遊次は知ってんだろ。
それに、0ターン目からジロキチの効果でほしいカードが手札にある状況だ。
アイツの手札を増やすような真似して、タダで済むわけねえ」
怜央は2人に対して冷静に希望を口にする。
それに、遊次はいつものように、清々しく笑みを浮かべている。
その表情から、まだ心配するようなフェーズではないのだと感じ、灯とイーサンは小さく頷く。
「相変わらず、厄介なフィールド敷いてくれるぜ。
アンタを先行に回すことがどんだけキツいか、俺は知ってる」
「…そっちこそ、相変わらず何も考えてないようなニヤケ面ね。
大人になったはずなのに、子供みたいな顔してる」
シャンリンは笑みを浮かべる遊次を嘲る。
「デュエルしてるんだから、楽しむなって方が無理だぜ。
この戦いの中にいると、どんなに迷ってても、楽しさが湧き上がってきちまう」
遊次は右の掌を見つめながら、噛み締めるように微笑む。
譲のことについて迷っている時でも、遊次から楽しさを奪うことはできなかった。
そんな遊次の姿に、シャンリンは更に苛立ちを募らせていた。
「…ようやく迷いを見せたかと思ったら、デュエルの楽しさでそれも吹っ飛んでしまうか?
ほんと、おめでたい人ね。だから気に食わないのよ、その能天気さが…!」
シャンリンは右手の拳を握り、怒りを露にするも、
必死に自分の中に押さえつけ、冷静さを保とうとする。
(シャンリンが怒ってんのは多分、4年前に俺に負けたことが原因なんだ。
でも、ただ負けただけで恨むような奴じゃねえ。"何か"があるはずだ)
遊次も彼女の感情は間違いなく自分に突き刺さっているものだと感じていた。
しかしそれはデュエルで語るべきことだ。今は聞くべき時ではない。
遊次は静かにデュエルディスクを掲げ、決闘へと意識を戻す。
「俺のターン…ドロー!」
遊次は7枚の手札と相手のフィールドを見つめ、少しの間考える。
そして数秒後、手札から1枚のカードを手に取る。
「フィールド魔法『妖義賊の秘密回廊』を発動!
このカードがある限り、俺の妖義賊または相手から奪ったモンスターを対象とする効果を、
1度無効にできる!」
「…なら、ここで潰すしかなさそうね。
『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』の効果発動!
1ターンに1度、相手のカードを1枚破壊できる!そのフィールド魔法を破壊!」
フィールドに現れかけた石畳の空間は、ビエザイドの一閃によって一瞬にして消え去った。
「ビエザイドの効果でカードを破壊した時、勲章カウンターが1つ置かれる」
ビエザイド 勲章カウンター2→3
(対象を取る効果が無効になるフィールド魔法があれば、俺のモンスターを破壊できない。
それなら、このフィールドを破壊するしかねえ。当たり前の判断だ。問題は…)
遊次はデュエルディスクを見つめる。
ソリッドヴィジョンで表示されたフィールドには、勲章カウンターが3つ置かれたビエザイドがいる。
(まず俺がやるべきことは…)
「手札から『一攫千金の予告状』を発動!」
カードを発動するが、何も起きない。
予告状カードは墓地から除外されて初めて効果を発揮するカード。
これは観客のほとんどが理解していることだ。
「俺のフィールドにモンスターがいない時、コイツは手札から特殊召喚できる。
来い、『妖義賊-脱出のシェパード』!」
■妖義賊-脱出のシェパード
効果モンスター
レベル3/地/獣/攻撃力900 守備力1100
このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚する。
②:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター1体をリリースし、
以下の効果から1つを選択して発動できる。
●相手の墓地のモンスター2体を選び、自分フィールドに特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃力・守備力は0となる。
●相手はデッキからモンスター2体を選ぶ。自分は選んだモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃力・守備力は0となる。
そのモンスターは、シェパード犬の顔を持ちながら、整った二足歩行の姿勢で立っている。
首元にはシルクのスカーフが巻かれ、風になびいて優雅に舞う。
カーキ色のジャケットを羽織り、下からは白いシャツの襟が見える。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/mbD8bgW
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「シェパードの効果発動!
フィールドの妖義賊を1体リリースして、相手の墓地かデッキから2体のモンスターを、
効果を無効・攻守を0にして特殊召喚できる。
シェパードをリリースして、アンタの墓地から
『王選の従騎 ボエモンド』『王選の従騎 ルジェ』を特殊召喚する!」
シェパードが爪先でトンと飛ぶとそのまま光へと変わり、
遊次のフィールドに2人の若い騎士が現れる。
「さらに手札から『妖義賊-士君子のブラックバード』を召喚!」
■妖義賊-士君子のブラックバード
効果モンスター
レベル4/地/鳥獣/攻撃力1500 守備力1400
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。その後、破壊したその魔法・罠カードを自分フィールドにセットする。
②:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、
代わりに墓地の「予告状」カードを除外することができる。
現れたのは紳士服を纏った黒いカラスのモンスターだ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/HvbmmGT
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
ブラックバードの効果に即座に目を通した瞬間、シャンリンの眼鏡が光る。
そして遊次もそれを見逃さなかった。
「この瞬間、ビエザイドの効果発動!
勲章カウンターが3つ乗ったこのカードをリリースすることで、ビエザイドは王となる!」
ビエザイドが剣を地面に突き立てる。
そのオーラはさらに激しさを増し、禍々しくなってゆく。
「王に選ばれしは災禍の騎士。
その剣が振り下ろされし地は、祈りも届かず滅びゆく」
シャンリンはフィールドのビエザイドを墓地へ送ると、
EXデッキから1枚の紫色のカードを取り出す。
「現れよ!
『王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ビエザイド』!」
■王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ビエザイド
融合モンスター
レベル10/闇/戦士/攻撃力3200 守備力2500
このカードは「王選の騎士 ビエザイド」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが特殊召喚した場合、手札を1枚捨てて発動できる。
相手の手札をランダムに1枚選んで破壊する。
②:自分・相手ターンに発動できる。相手フィールドのカードを全て破壊する。
③:このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動できる。
自分フィールドのモンスターの攻撃力はエンドフェイズまで、
破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする。
業火を孕んだ闇の中から現れたのは、禍々しい鎧を纏ったビエザイドだった。
亀裂の走った漆黒の鎧が熱を帯びて脈動し、
その中心に刻まれた紅の紋が、警鐘のように周囲を射抜いていた。
手にした大剣は、ただ構えただけで、空間がひび割れるような圧が押し寄せる。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/WiaFK6K
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「3つの勲章を手にしたビエザイドは、王へと選ばれたぁ!
禍々しい気迫がじんじんと伝わってきますッ!!」
観客達はその姿にただ圧倒されていた。
遊次もその黒き騎士王の姿を真剣な眼差しで見つめる。
「この瞬間、墓地へ送られた装備カード『王選器 スパータ』の効果発動。
装備モンスターがリリースされることでこのカードが墓地へ送られた場合、
相手モンスター1体の効果を無効にできる。
『妖義賊-士君子のブラックバード』を指定!」
「さらに、『王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ビエザイド』の効果発動。
特殊召喚に成功した時、手札を1枚捨てることで、相手の手札をランダムに1枚破壊する」
ビエザイドが剣を地に突き立てたまま、強い眼力を放つと、
遊次の手札が1枚弾き飛ばされる。
破壊されたのは「妖義賊-戴火のプロメテ」だ。
モンスター効果・P効果共に大きなアドバンテージを生むカードだったが、
その真価を発揮することなく破壊されてしまう。
「そしてチェーン1の『王選器 スパータ』によってブラックバードの効果は無効となる」
ブラックバードの周囲に赤い稲妻が走り、その動きを縛る。
「…さすがだぜシャンリン。やっぱ止め所をキッチリわかってやがる。
ここまで正確に合わせられるとビビるぜ」
遊次は苦笑いしながら、どこか嬉しそうに言う。
「ゴミを漁る害獣は嫌いなのでね」
シャンリンはただ一言だけで返す。
言葉を重ねずとも、お互いの意図を理解している証左だ。
「王になったビエザイドは、お互いのターンに1度、
相手のカードを全て破壊する効果があるんだよ。だから…」
灯は隣の席の怜央に、4年前の記憶を遡りながらシャンリンの真意を説明する。
「どうりでブラックバードの効果を無効化したわけだ。
アイツは墓地に予告状がある時、それを除外することで妖義賊の破壊を防げる。
あのモンスター1体だけで、ビエザイドの全体破壊のストッパーになっちまうからな」
「いくら1度戦ったとはいえ、瞬時にそれを理解してノータイムで動くとは…。
やはり相当頭の回転が速い人だ」
イーサンはシャンリンのスキルの高さを改めて思い知る。
ただでさえ準決勝であり、彼女は前回の予選決勝を戦った人物だ。
これまでよりも更に過酷な戦いになることが予想される。
「神楽遊次…今度こそ私が勝利し、その性根を叩き折ってみせる」
シャンリンのメガネの奥の瞳が光る。
王となったビエザイドに共鳴するように、シャンリン自身も強い気迫を放っていた。
それがこの4年間で積み上げられた複雑な感情をはらんでいることを、
遊次はビエザイドから感じ取った。
(4年前に俺が"倒した"シャンリンと、
こうしてまた戦うことになったことに、絶対に意味があるはずだ。
譲への答えだってもしかしたら、このデュエルの先にあるかもしれねえ)
遊次はビエザイドのオーラに負けないよう、1歩力強く地を踏みしめる。
「全力でかかってこいよ。俺は1歩も引かねえ」
遊次は握った右手を前に突き出し、真っ直ぐと宣言する。
(ブラックバードの効果は無効になったが、ビエザイドの破壊効果は飛んでこねえ。
つまり、俺に目一杯カードを使わせたところを潰して、再起不能にしたいってことだ。
相手が嫌がることをやる、対人ゲームの基本。でもそれは、俺にとっても同じなんだよ…!)
遊次は闘志を燃やすようにニヤリと笑うと、1枚のカードを取り出す。
「フィールドに妖義賊がいる時、
手札から『妖義賊-忍びのイルチメ』を特殊召喚できる!」
■妖義賊-忍びのイルチメ
効果モンスター
レベル4/地/戦士/攻撃力1500 守備力1200
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドに「ミスティックラン」モンスターが存在する場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
②:手札から「予告状」カードを1枚捨てて発動できる。
相手の手札を確認し、その中からレベル4以下のモンスター1体を選ぶ。
そのモンスターを効果を無効化し、自分フィールドに特殊召喚する。
現れたのは紫色の忍び装束を身に纏い、長い髪を後ろで束ねたくノ一だ。
右手にはクナイを持っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/xBnMfae
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
フィールドにモンスターが増えたが、シャンリンは動ずることなくすぐに優先権を遊次に明け渡す。
(ここでも破壊は使わねえか。
ってことは、俺のフィールドにモンスターが残ることより、
"俺にできるだけ手を使わせる"ことを優先してるってことだ)
遊次は一瞬にして思考を巡らせる。
彼と、そしてシャンリン以外には、その思考まで到達できる者はいないだろう。
遊次が右手を高く上げる。
「俺はアンタから奪った2体のモンスターと、ブラックバードをリンクマーカーにセット!
サーキットコンバイン!」
フィールドに現れたサーキットのアローヘッドに、3体のモンスターが飛び込んでゆく。
「権威を穿つ風雲児よ、今こそ逆境を覆す英雄となれ!
リンク召喚!現れろ、リンク3!『妖義賊-神出鬼没のギルトン』!」
■妖義賊-神出鬼没のギルトン
リンクモンスター
リンク3/風/獣戦士/攻撃力2200
【リンクマーカー:左下/下/右下】
モンスター2体以上
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをL素材にしている場合、
このカードは相手の効果で破壊されない。
②:このカードがL召喚した場合、
相手のフィールド・墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターのコントロールを得る。
その後、そのモンスターを含む自分フィールドのモンスターを素材として
融合・S・X・L召喚を行うか、
そのモンスターを含む手札・フィールドのモンスターをリリースして儀式召喚を行う。
③:このカードのリンク先にP召喚された場合に発動できる。
自分はデッキから2枚ドローする。
そのモンスターは、鋭い目つきを持つ豹の顔をした獣戦士。
額には蒼のバンダナが巻かれ、胴体部分には茶色の革のチュニックを着ており、
背中には、鋭利な長剣が一本背負われている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/0seLbZv
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「『神出鬼没のギルトン』がL召喚した時、効果発動!
相手のフィールド・墓地からモンスターを1体奪って、
そのモンスターを使って融合・S・X・L・儀式召喚を行う!」
「だが装備魔法『王選器 アンシル』によって、フィールドの王選モンスターは効果の対象にならない」
シャンリンはギルトンが現れたことにも一切動じず、予定通りかのように言い放つ。
「わかってるぜ。俺がもらうのは、アンタの墓地の『王選の従騎 ルジェ』だ。
そして、ルジェとイルチメでオーバーレイネットワークを構築!」
地面に現れた黒い銀河のような渦に、2体のモンスターが飲み込まれてゆく。
「夜に這い寄る不敵な魔の手、その技巧で勝利を奪い取れ」
口上を唱えると、黒い銀河が逆流し、新たなモンスターが姿を現す。
「エクシーズ召喚!ランク4!『妖義賊-怪盗ルパン』!」
■妖義賊-怪盗ルパン
エクシーズモンスター
ランク4/闇/戦士/攻撃力2100 守備力1500
レベル4モンスター×2
元々の持ち主が相手となるモンスターをこのカードのX召喚の素材とする場合、そのレベルを4として扱う。
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの効果を無効にし、コントロールを得る。
②:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターを素材としている場合、以下の効果を得る。
自分の墓地の「予告状」カード1枚を対象として発動する。そのカードを除外する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
現れたのは、黒いハットを被りマントを纏った怪盗の姿。
手には白い手袋、目元には白い仮面を着けている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/mcoDQUC
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「神楽選手、いきなり大展開です!
LモンスターとXモンスターを立て続けに召喚したぁ!
しかしシャンリン選手は未だ動かず!まさか打つ手がないのでしょうか!?」
シャンリンは両足を閉じて凛と立ち、ただ静かに戦況を見つめている。
彼女のデッキをある程度知っている灯やイーサンでさえ、まだその思惑を図りかねていた。
ただ1人、遊次を除いては。
(じゃあ、そろそろ動いてもらおうか。
アンタがホントにあのモンスターを嫌がってるのがよくわかるぜ)
遊次はデュエルディスクの墓地ゾーンに目をやる。
「墓地の『妖義賊の羽衣』を除外して効果発動!
墓地のレベル4以下の妖義賊を特殊召喚できる!
俺が選択するのは『妖義賊-士君子のブラックバード』!」
その瞬間、シャンリンは人差し指を真っ直ぐと前に突き立てる。
「この瞬間、『王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ビエザイド』の効果発動!
お互いのターンに1度、相手フィールドの全てのカードを破壊する!」
ついに動いたシャンリンに観客の視線が集まる。
遊次は予想していたと言うように、真っ直ぐと前を見据えている。
「怪盗ルパンの効果発動!相手から奪ったモンスターを素材にしてる時、
自分・相手ターンに1度、墓地の予告状を除外できる!
『一攫千金の予告状』を除外!」
ルパンが1枚の予告状を手にすると、それを天へと高く投げる。
「チェーン2のビエザイドの効果により、君のフィールドを全て破壊する!」
ビエザイドがその大剣を高く掲げると、空間が禍々しく歪む。
そして剣を振り下ろすと、稲妻のように光る赤黒い斬撃が遊次のモンスター達を襲う。
ルパンは一瞬にして朽ち果てたものの、ギルトンは両腕をクロスして、その衝撃を耐え忍ぶ。
斬撃が途切れると、遊次のフィールドにはギルトンが堂々と立っていた。
「…ギルトンは相手から奪ったモンスターをL素材にしてる時、効果で破壊されねえ。
チェーン1の『妖義賊の羽衣』の効果で、ブラックバードを特殊召喚する!」
再びフィールドに紳士服を纏ったカラスのモンスターが現れる。
「ここで除外された『一攫千金の予告状』の効果を発動!
手札が1枚以下の時、カードを3枚ドローする!」
■一攫千金の予告状
通常魔法
①:このカードは発動後、墓地に送られる。
このカードの発動後2回目の自分メインフェイズに、このカードを墓地から除外できる。
②:自分の手札が1枚以下で、このカードが墓地から除外された場合に発動できる。
自分はデッキから3枚ドローする。
遊次はデッキから勢いよく3枚のカードをドローする。
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【珊玲】
LP8000 手札:2
①王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ビエザイド ATK3200
②王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク DEF4000
勲章カウンター:1
フィールド魔法:王選の議場
装備魔法:王選器 アンシル
【遊次】
LP8000 手札:4(アカホシ)
①妖義賊-神出鬼没のギルトン ATK2200
②妖義賊-士君子のブラックバード ATK1500
魔法罠:0
--------------------------------------------------
「つ…ついに王となったビエザイドが強力な効果を使いましたぁ!
しかし実際に破壊できたのはルパン1体のみ!
さらに神楽選手は予告状によって3枚のカードをドローしました!
満を持して放たれた渾身の一撃は、神楽選手にダメージを与えられなかったように思えます!」
実況は観客の心の声を表していた。
「シャンリンさんは何故あのタイミングで全体破壊効果を使ったのでしょう?
下級モンスターが4体並んでいるタイミングで使うのが、最も効果的だったように思えますが」
治は自前のノートを見つめながら、怜央を見上げる。
「あのメガネ女が重視してたのは破壊する数じゃねえ、遊次に使わせる手数だ」
「手数?」
怜央が治の問いに答える。
「遊次にできる限りのリソースを使わせて、限界が来たら全体破壊を使おうって話さ。
まあ、デュエルの基本と言えば基本だけどな」
イーサンが注釈を付け加える。
「もし下級モンスターが並んでる時点で破壊効果を使えば、効果破壊されねえギルトンと、
いつでも墓地の予告状を除外できるルパンが出る前に、場を破壊できる。
そうすりゃ遊次のフィールドは空だ」
治は強く頷く。
「ギルトンとかルパンの存在を知らなかった可能性もあるけど…
遊次は前の2試合ともその2体を呼んでるし、4年前もデュエルしてるし、多分それはないよね」
灯も頭上を見上げながら腕を組み、一緒に考えようとする。
「もし遊次のフィールドをガラ空きにできても、
墓地の『妖義賊の羽衣』を除外すりゃあ、墓地のレベル4以下の妖義賊を特殊召喚できる。
デッキからモンスターを手札に加えられるジロキチでも特殊召喚すりゃ、
そっからまたある程度立て直せるのは、あのメガネ女もわかってたはずだ」
「墓地の『一攫千金の予告状』を除外すれば3枚のドローもできるし、
場を破壊したとこで、遊次さんが一切立て直せないって状況にはならない…」
星弥にも怜央の言葉の意図がだんだんとわかってきたようだ。
「あぁ。もしギルトンを召喚する前…下級が4体並んでる時に破壊効果を使えば、
その後どうせ立て直されて、そこでギルトンやらルパンやらに好き勝手されるんだ。
考えただけでも最悪だろ」
遊次と直接対峙したことのある怜央にとっても、それは想像すらしたくない光景だった。
「そこで、立て直されるのは前提として、
メガネ女は、遊次に限界までカードを使わせる方向に舵を切ったんだろうぜ。
実際、ギルトン・ルパン・『妖義賊の羽衣』を使わせた上で、
場にはギルトンとブラックバードしか残ってねえんだからな。あれでもマシな方だ」
一攫千金の予告状による3枚ドローを止めることはできないと考えられるため、
その前提の上で可能な限りリソースを使わせるという判断は、一つの正解と言える。
「遊次もそれをわかってたから、効果が無効になったブラックバードをL素材として墓地に送って、
『妖義賊の羽衣』でもう一度、特殊召喚したんだね」
「ブラックバードがフィールドに現れれば、
墓地の予告状を除外することで、破壊を無効にされてしまう。
だからシャンリンは、ブラックバードが特殊召喚される前に、全体破壊効果を使わざるを得ない。
それが遊次にとっても、最もリソースを割かずに破壊効果を使わせる方法だった…」
灯とイーサンの頭の中が整理されてゆき、
フィールドの2人の無言の読み合いについていくことができた。
治やアキト達は理解を深めると共に、
やはりそれを瞬時に推察できる彼らのレベルの高さを改めて痛感した。
「一攫千金の予告状があって助かったぜ。
これがなきゃ、まともに展開できないままターンを渡すことになってた。
だけど…こんだけ手札がありゃ、俺はまだやれる」
遊次は4枚の手札を眼前に掲げる。
「重要なのは展開できるかどうかじゃない。
私にどれだけの傷を与え、次のターンの私の行動を止められるか、だ。
そしておそらく、君はその条件は満たせない」
シャンリンの目的はあくまでも完全制圧ではなく、展開の限界値を下げることだ。
仮に展開できたとしても、次のシャンリンのターンで返される程度であれば、
彼女にとってなんら問題はなかった。
(怒っててもやっぱ冷静だな…。でも、やるだけやってみるしかねえ)
「手札の『妖義賊-美巧のアカホシ』の効果発動!
除外されてる予告状を任意の数デッキに戻して、このカードを特殊召喚できる!
一攫千金の予告状をデッキに戻して、特殊召喚!」
■妖義賊-美巧のアカホシ
ペンデュラムモンスター
レベル7/風/鳥獣/攻撃力2300 守備力2000 スケール8
【P効果】
このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:元々の持ち主が相手となるモンスター1体を対象とし、1~7までの任意のレベルを宣言して発動できる。
そのモンスターのレベルはターン終了時まで宣言したレベルになる。
【モンスター効果】
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分の除外されている「予告状」カードを任意の枚数デッキに戻して発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、
攻撃力がこの効果でデッキに戻した「予告状」カードの枚数×500アップし、
このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ相手モンスターの効果を受けない。
②:自分メインフェイズに発動できる。
デッキから「ミスティックラン」Pカード1枚を手札に加える。
自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合、
この効果で手札に加えるカードは2枚になる。
③:このカードがEXデッキに表側で存在し、自分のPゾーンにPカードが存在する場合に発動できる。
このカードを手札に加える。
現れたのは赤い着物を纏った鳳凰の頭を持つモンスターだ。
腰には長刀を携えている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Beta2kb
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「アカホシはデッキに戻した予告状1枚につき、500攻撃力が上がる」
妖義賊-美巧のアカホシ ATK2800
「アカホシの効果発動!1ターンに1度、デッキから妖義賊Pモンスターを手札に加えられる。
『妖義賊-誘惑のカルメン』を手札に加えるぜ」
「俺はスケール2の『妖義賊-誘惑のカルメン』と、
スケール8の『妖義賊-舞蛇のキク』でPスケールをセッティング!」
頭上には黒いローブを纏った妖艶な魔女と、
桃色の着物を纏う白蛇のモンスターが浮かび上がる。
カルメン:ttps://imgur.com/a/dwkEFaw
キク:ttps://imgur.com/a/tsPN11Y
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「『妖義賊-誘惑のカルメン』のP効果発動!
1ターンに1度、相手の墓地のモンスターを手札に加えられる。
アンタの墓地から『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』をいただくぜ」
シャンリンはしぶしぶ墓地のカードを遊次へと投げる。
それを受け取った遊次は、高レベルモンスターを手にしたからか、少し高揚した様子だ。
「ほんと癪に障る…」
シャンリンはそれを苛立ちと呆れの目で見つめていた。
「俺のスケールは2~8。よってレベル3~7のモンスターが召喚可能!
P召喚!手札から現れろ『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』!」
頭上で大きく揺れる振り子、その輝きより黒い騎士が現れる。
フィールドでは2体のビエザイドが向かい合っている。
「なんとも珍しい光景!王となったビエザイドが、
王になる前のビエザイドを見つめている!自らの過去との対峙です!
しかしせっかく呼び出したビエザイドですが、
シャンリン選手の装備魔法によって王選カードは対象に取れないため、
得意の破壊効果は使えません!」
「『妖義賊-舞蛇のキク』のP効果発動。
1ターンに1度、儀式モンスターか儀式魔法を手札に加えられる。
儀式魔法『儀式の予告状』を手札に加えるぜ。
さらに相手から奪ったカードがある時、追加でカードを1枚ドローできる」
「そして今手札に加えた『儀式の予告状』を発動!
知っての通り、発動しただけじゃ効果は使えない」
「こっからが面白いところだぜ。手札の『妖義賊の大爆破』発動!
フィールドのカードを2枚破壊できる!」
■妖義賊の大爆破
速攻魔法
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合に発動できる。
フィールドのカードを2枚選び、そのカードを破壊する。
「そのカードは対象に取る効果ではなく『王選器 アンシル』では防げないようね。
けど、ルイクがいれば我がモンスターは破壊されないわ」
シャンリンはソリッドヴィジョンで発動されたカードの効果を読み、ある事に気付く。
「いや、俺が破壊するのは『妖義賊-士君子のブラックバード』と『妖義賊-神出鬼没のギルトン』だ」
遊次は自分の方へと向かう爆炎を見つめる。
「ブラックバードは墓地の予告状を除外することで、妖義賊の破壊を回避できる。
除外するのはもちろん…『儀式の予告状』だ」
ブラックバードはその炎を、黒い羽を散らすことで防いだ。
「この時、除外された儀式の予告状の効果発動!
このカードが墓地から除外された時、モンスターを生贄に捧げ、手札・デッキから儀式召喚モンスターを儀式召喚できる!
フィールドのレベル7『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』をリリースして、儀式召喚を執り行う!」
フィールドに1つの灯篭が現れ、ビエザイドが光へと消えると、灯篭に炎が灯る。
「桜吹雪の舞う中に、現れたるは荒野の義賊!
儀式召喚!来い、俺の切り札!『妖義賊-ゴエモン』!」
■妖義賊-ゴエモン
儀式モンスター
レベル7/地/戦士/攻撃力2500 守備力2000
「予告状」儀式魔法カードにより降臨。
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:元々の持ち主が相手となるカードが自分フィールドに存在する限り、
自分フィールドのモンスターは相手の効果の対象にならない。
②:相手の墓地のモンスター、または魔法・罠カード1枚を対象として発動する。
モンスターカードの場合、そのカードを自分フィールドに特殊召喚し、
魔法・罠カードの場合、自分フィールドにセットする。
③:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをリリースして儀式召喚された場合、以下の効果を得る。
元々の持ち主が相手となる自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動する。
そのモンスターの元々の攻撃力分、自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力をアップする。
桜吹雪と共に現れたのは、大剣を携えた戦士のモンスター。
メタリックなボディは鉄の装甲で覆われており、鎧には赤の紋様が描かれている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/YnblaqH
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「ゴエモンの効果発動!1ターンに1度、相手の墓地からカードを拝借できる。
『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ビエザイド』をまたいただくぜ」
ゴエモンの隣に再び黒騎士が現れる。
「さらにゴエモンの効果発動!
相手から奪ったモンスターをリリースして儀式召喚してる時、
相手から奪ったモンスターをリリースすることで、そのモンスターの元々の攻撃力分、
俺の全てのモンスターの攻撃力をアップさせる!
ビエザイドをリリースして、その元々の攻撃力2500、俺のモンスターの攻撃力を上げる!」
ビエザイドがリリースされると、遊次のモンスター達は闇の力を纏う。
妖義賊-神出鬼没のギルトン ATK4700
妖義賊-士君子のブラックバード ATK4000
妖義賊-美巧のアカホシ ATK5300
妖義賊-ゴエモン ATK5000
「な…なんとぉ!!神楽選手の全てのモンスターの攻撃力は、4000以上!圧倒的です!!」
その迫力に観客達は歓声を上げる。
「確かに悪くはない、だが…」
しかしイーサン達は喜びを見せていなかった。
「これが今の俺の全力だ。
たとえ決定打を与えられなくても、俺はアンタに本気でぶつかる。
ゴールは見えなくても、まずはそこに向かって突っ走るしかないからな」
遊次が真っ直ぐとシャンリンを見つめる。まるで彼女に問いかけるように。
「俺はこのデュエルの中で、答えを探してるんだ。
そのために、アンタの声をちゃんと受け止めたい。
だから…アンタも全力でぶつかってこいよ」
シャンリンはその瞳を探るように見つめる。
頭に思い浮かんだのは4年前の予選決勝戦。
ただ無邪気にモンスターを破壊し、笑顔でトドメを刺し、ただ喜びを表すその姿。
それがこの4年間、くっきりと脳裏に焼き付いていた。
あの時も、口では「デュエルで語りたい」などと言っておきながら、
結局は目先のデュエルの楽しさに溺れ、戦いの"本質"を見ようとしなかった。
(またデュエルしようぜ!)
膝をつく私に、君は笑顔で手を差し伸べ、そう言った。
だから、許せなかった。
(だが…)
シャンリンは目の前の遊次を見つめる。
そして、小さく息を吐くと、ゆっくりと口を開く。
「…何も変わっていないと言ったのは間違いだった。訂正しよう」
「シャンリン…」
「君はあの時とは違うようだ。
今の君には、目の前の人間の思いを、願いを…受け止める覚悟と自覚があるのかもしれない」
シャンリンは足を揃え、斜めに立つ。
左腕にデュエルディスクを装着して凛と立つその姿はまるで、剣と盾を携えた騎士のようだった。
「全力で来い。君の切っ先が、私の心臓を貫くことはない」
シャンリンはデュエルディスクを構える。
遊次も覚悟を決め、意識をフィールドへと戻す。
(厄介なのは、守備力を1000下げることでカードの破壊を無効にするルイク。
今の守備力は3000だから、合計4回攻撃しなきゃ、シャンリンのモンスターを破壊できねえ。
つまり、ルイクかビエザイド…どっちかしか倒せないってことだ。
全体破壊効果を持つビエザイドを残すわけにはいかねえ。答えは1つだ)
「バトルフェイズ!『妖義賊-美巧のアカホシ』で
『王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ビエザイド』に攻撃!」
アカホシが長刀を抜刀し、ビエザイドに切りかかる。
ビエザイドも大剣で応戦し、2体の間には痺れるほどの斬撃が拡散する。
その瞬間、ルイクが盾を掲げ、ビエザイドを光の結界で守る。
「『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク』の効果!
守備力を1000下げることで、王選カードは破壊されない!」
ルイク 守備力3000 → 2000
「だがダメージは受けてもらう!」
アカホシが刀を一度弾くと、炎の一閃を再び浴びせる。その斬撃はシャンリンへと届く。
「ぐぁあっ…!」
シャンリン LP8000 → 5900
「だがカードが破壊されなかったことで、ルイクに勲章カウンターが置かれる!」
ルイク 勲章カウンター2→3
「あぁっとぉー!!シャンリン選手、
モンスターの破壊は免れたものの、大ダメージを受けましたぁ!
ルイクの勲章カウンターは3つ溜まりましたが、EXモンスターゾーンが埋まっているため、
ルイクは王にはなれません!」
「アンタが俺に怒ってんのは、4年前俺がアンタに勝ったことだろ!
でもそれは正真正銘、真剣勝負の結果だ!アンタはそれで俺を恨むような奴じゃねえ!
だから、そのもっと奥に"何か"があるんだろ!」
シャンリンの思いを知りたい。それが譲への答えに繋がっているような気がする。
そのために、遊次はモンスターの攻撃に自らの思いをのせる。
「『妖義賊-ゴエモン』で、ビエザイドを攻撃!」
ゴエモンが桜吹雪を纏った刀でビエザイドに切りかかる。
そして、その一閃にビエザイドは、一切の抵抗を見せなかった。剣は降ろしたままだ。
ゴエモンの一太刀がビエザイドを切り裂く。ビエザイドは膝をつき、破壊されてゆく。
「っ…!」
シャンリン LP5900 → 4100
「えっ!破壊できちゃったよ!」
観客席のトーマスが予想外の展開に声をあげる。
当然ルイクによって守られるものと考えていたためだ。
「でも…玉座は空いたよ」
ダニエラの一言によって、トーマス達はシャンリンの狙いを理解した。
空いたのではない、空けたのだ。
「『王選の騎士(レガルバロット・ナイト) ルイク』の効果発動。
EXモンスターゾーンに自分のモンスターがいない時、
勲章カウンターが3つ置かれたこのカードをリリースすることで、王となる!」
ルイクの背後に一本の青い光の柱が出現する。
その光はルイクを飲み込み、フィールドは目を開けられないほどの光に包まれる。
「王に選ばれしは守護の騎士。
光の聖域となりて、ここに絶対なる無血の誓いを立てよ!」
「現れよ!
『王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ルイク』!」
■王選の覇者(レガルバロット・グロリア) ルイク
シンクロモンスター
レベル10/光/戦士/攻撃力2500 守備力4000
このカードは「王選の騎士 ルイク」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
自分の「レガルバロット」カードは相手の効果の対象にならず、
このカード以外の「レガルバロット」カードは相手によって破壊されない。
②:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はこのカードしか攻撃対象にできない。
③:自分の墓地の「レガルバロット」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
青き光の中から姿を現したのは、王として覚醒したルイクだった。
金色で縁取られた蒼き重厚な鎧を纏い、体と同じ大きさの巨大な盾を携えている。
頭上には王冠が輝き、静けさの中に圧縮された風格と威圧感を放っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/P4a7sTq
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「この時、装備モンスターがリリースされたことで墓地へ送られた『王選器 アンシル』の効果発動!
相手モンスターの攻撃力を全て、元々の数値へ戻す!」
青い波動が遊次のモンスター達へ放たれる。
ゴエモンの効果によって上がっていた攻撃力は、たちまち元に戻る。
妖義賊-神出鬼没のギルトン ATK2200
妖義賊-士君子のブラックバード ATK1500
妖義賊-美巧のアカホシ ATK2300
妖義賊-ゴエモン ATK2500
「ついに2人目の王が君臨したぁー!!そして神楽選手のモンスターの攻撃力がリセットされてしまった!
王となったルイクの守備力は4000!神楽選手のモンスターでは歯が立ちません!
ライフを半分削れたものの、これ以上攻め込むことは不可能だぁー!」
「ここが君の限界だ」
シャンリンの言葉に、遊次は目の前の王となったルイクを見つめる。その表情にはまだ余裕があった。
「このターンはな。でも、デュエルはまだまだこれからだぜ」
少し苦々しい笑みを浮かべながら、遊次は尽きぬ闘志を示す。
「…君は私とのデュエルの果てに答えがあるかもしれないと言ったな。
私も、君に必ず知らしめなければならないと考えていた。
4年前に君が勝利したことが、何を意味するかを」
シャンリンがついに口を開いた。
これまで遊次に向けてきた感情、その意味を知るために、遊次は次の言葉を待つ。
「君は覚えているか。4年前、私が何のためにヴェルテクス・デュエリアに出場したか」
「あぁ、確か…法律を変えるためとかって話だよな」
「そう。あの時、君にはそれ以上のことを教えなかったわね。
それは、同情の余地のない純粋なデュエルで勝負をつけるべきだと思ったから。
でも、今の君は知るべきだ。私の願いと、それが敗れた成れの果てを」
遊次の背筋にぞくっとした冷たさが走った。何故かはわからない。
しかし同時に、これは自分が知るべき事であると直感した。
「4年前、私は運送会社を経営していた。
特に力を入れていたのは、ワクチンの輸送」
「…そうだったのか」
振り返れば、シャンリンのパーソナルについて、遊次はほとんど何も知らなかった。
「言うまでもなく、ワクチンはデリケートな代物で、管理が難しい。
それを適切な管理体制のもと、他社よりも素早く国中に届けられる体制が、我が社にはあった。
種類は多くないけど、数種類のワクチンを、質を落とさず早く届けることには自信があった。
経営は順調だったわ。…ある時まではね」
「ある時まで?」
「シンフォメランを知ってるか。5年前に新しくできたばかりの革新的なワクチンだ。
私の会社でも多く輸送していたし、それが我が社に利益をもたらしていた要因でもあった」
「あぁ…ニュースとかで聞いたことある気がするな」
「一時期、とある事故が起きてニュースはそのことで持ちきりになったからでしょう。
そしてそれが、"諸悪"の根源よ」
シャンリンの目に怒りが滲む。
「5年前、シンフォメランを打った何人もの患者に、痙攣や発熱といった異常反応が起きた。
原因はそのワクチンを輸送していた会社が、適切な温度管理を怠ったからよ」
「それって…」
「言っておくけど、私がそのような事故を起こしたことはない。
事故を起こしたのは、当時政府が懇意にしていた企業よ。
それ故に政府の責任問題だという声も上がり、政府もこの問題に積極的に対処する姿勢を見せた」
「その結果、シンフォメランは−17から−20度で保管しなければならないという法律が、異常な早さで制定された。
しかし、我が社では−2から−8度で管理できるワクチンしか取り扱っておらず、
シンフォメランを−20度で輸送するためには、莫大な設備投資が必要だった」
難しい話ゆえ、遊次は必死で頭を回転させながらついていこうとする。
その中で一つ、引っかかる部分があった。
「事件の後、−20度ぐらいでしか管理しちゃいけない法律ができて、
シャンリンさんはそれについていけなかった。
でも、そのワクチンは今までもアンタの会社で運んでたんだよな?
そんで、今まで事故を起こしたことはなくて…。
やべえ、よくわかんなくなってきた…」
遊次が髪をくしゃくしゃにして小さくパニックを起こす。
「その反応も当然ね。何故なら政府の法改正が間違っているから。
そもそもシンフォメランは、−2から−8度で問題なく管理できるのよ。
だから今までその温度で管理していた私の会社でも、事故は起きなかった」
「しかし、世間は"必要より高い温度で保管した"ことが、事故の原因だと捉えたの。
そして"もっと温度を下げたほうが安全なはずだ"と考え始めた。
政府もそういう世間の声を鎮めるために…安心感を与えるため"だけ"に、−20度での管理を義務付けた」
「世間体のために、必要ない法律を作ったってことか?」
「そう。実際、-20度で管理してもワクチンの質に影響はないわ。
政府が懇意にしてる企業には補助金も出てたし、そういう企業はその法律にすぐ対応できた。
だから輸送自体はほとんど滞らないし、国民にも大きな影響はない。
割を食ったのは…私達のような、政府とコネのない中小企業よ」
「その法律を変えるために、4年前アンタはヴェルテクス・デュエリアに…」
点と点が繋がってきた。
それが何を意味するかということにも気付き始めていた。
「そして、予選決勝で君に敗れた。
法律は変えられず、設備投資に手が回らない。その間にも輸送ルートを他社に奪われた。
結果…我が社は倒産した。何百人もの社員が路頭に迷うこととなった」
遊次は息をのんだ。胸の奥から何かが押し寄せるような感覚をおぼえた。
「4年前に敗北したのは、無力だった私のせいだ。そこを責めるつもりはない。
君の問題は、"無邪気な無自覚さ"だ」
「無邪気な…無自覚…」
心臓を貫かれるようにシャンリンの言葉が刺さる。
「君がこのまま勝ち続ければ、虹野譲という青年が"病気を治す"という願いを叶えられない。
だから悩んでいるのだろう。しかし…」
「君はもうすでに、罪を犯している。
4年前に、何百人もの人生を狂わせているんだ」
遊次は戦慄し、言葉を失う。
願いを叶えるためには、誰かの願いを潰さなければならない。
それこそが虹野譲の言葉によって気付かされた真実だ。
決して願いを潰すことそのものに、遊次は拒否反応を示しているわけではない。
勝負である以上、敗者の願いが叶わぬことは必然。
そこに対して迷いはない。
すでにマルコスに勝利したことで、マルコスの「学校を廃校から守る」という願いは潰えた。
だが、それはマルコスの人生そのものを大きく揺るがせるものではない。
空蝉の願いも、遊次にとっては阻止すべきものだった。そこに後悔はない。
だが虹野譲は、2人とは大きく違った。
ヴェルテクス・デュエリアで彼を倒すことは、彼の死を意味する。
この大会に人の命を左右する重みがあることに、これまでの遊次は気付いていなかったのだ。
否、ほとんどの参加者にその自覚はない。
あったとしても、それを自分の罪とは捉えない。
しかし、譲の言葉によって真実に気付かされ、遊次は迷った。
この大会に勝利し続けることは、間違った道なのかもしれない。
故に、迷う。
それは、これから取り返しのつかない過ちを犯さないためだ。
しかし、振り返った足元に広がる自分の轍が、すでに"過ち"の道を歩んでいたとしたら。
遊次は右手で顔を覆う。肩が重い。
「そんなことが起きてたなんて…俺は思いもしなかった…。
なのに、俺は…」
(君の問題は、"無邪気な無自覚さ"だ)
願いを叶えることは、願いを潰すこと。
早くも遊次は、その命題と向き合うことになる。
彼はこのデュエルの果てに、答えを掴むことができるのか。
第43話「王選(レガルバロット)」 完
遊次の肩に重くのしかかる、4年前の罪。
俯く遊次に構わず、シャンリンはカードという名の剣を抜く。
デュエルはまだ続いている。遊次は迷いにもがきながら、再び前を向く。
最初から感じていたはずだ。この戦いの果てにこそ、答えはあると。
激しさを増す、騎士と義賊の剣戟。
迷っている間にも、デュエルは進んでゆく。
覚悟を、決めなければならない。
「俺が"奪った"色んな人の願い…全部、めちゃくちゃ重ェよ。
でもな…俺が背負った願いだって、簡単に捨てられるもんじゃねえんだ」
次回 第44話「願いの芽を摘む覚悟」
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