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第31話:開幕 ヴェルテクス・デュエリア 作:湯
「速報です。ネフカ王国では、ゴルズ・シャマシュ国王が退位し、
新たにアスラナク・バルネフェル氏が国王に就任した模様です。
ただし、これまでもネフカ王国は外国への情報公開をほとんど行っておらず、
この国王交代についても詳細は確認されておりません」
テレビのニュースが速報を告げる。
なんでも屋「Next」のメンバー4人は、
そのニュースを事務所でかじりつくように見ていた。
今日は休業日だが、とある目的のために全員が集まっていた。
「お待たせしました!
間もなく、ヴェルテクス・デュエリア開会式の様子を中継いたします」
「…来たー!」
遊次が待ってましたとばかりに手を叩く。
灯も何度も座り直したりとソワソワしている様子だ。
イーサンと怜央はただ静かにテレビを見つめている。
以前の親子関係を修復する依頼から5カ月が経過した。
今月からついにヴェルテクス・デュエリアの予選が開始する。
今日は本戦会場であるメインシティの真っ赤なドームにて、開会式が行われるのだ。
チケットが高額なため、残念ながら現地では観ることができず、
こうしてテレビでの中継を食い入るように見ている。
テレビに真っ赤な巨大ドームの外観が映し出される。
これこそがヴェルテクス・デュエリア本戦の会場「デュエルドーム」だ。
ドームの天井は開かれており、観客席からも青々とした空を見渡すことができる。
映像はドローンによって映し出される会場内部のものに切り替わる。
そこには数万人の人々が歓声を上げ、この祭典の開催を心から喜んでいる。
会場内で鳴り響いていた荘厳な音楽が止まり、突如として静寂が訪れる。
観客達やテレビの前の遊次達もこれが何かの前触れであると直感し、息を呑む。
すると上空から、会場の中央へ黒く巨大な"何か"が高速で降ってくる。
それは観客席の目の前でぴたっと止まる。
ゴツゴツとした表面に、長い尾のようなものがとぐろを巻き、本体を覆い隠している。
そしてとぐろが下から外れてゆき、その中身が姿を現す。
それは真っ黒なドラゴンだった。瞳は赤く巨大な2本の赤き角を持ち、
10メートル以上はある長い尾を持っている。
翼を大きく広げ、喉から高々と心臓に突き刺さるほどの轟音を鳴り響かせる。
「『ニーズヘッグ』だ!!かっけえ〜!!」
テレビの前の遊次はテンションが上がり、ソファから立ち上がる。
「クッソ…会場で見たかったぜ…!」
怜央も悔しそうに拳を握りながら、悔しさを噛み締めている。
それと同時にテレビの向こう側の観客も歓声と拍手を送っている。
このドラゴンは「ニーズヘッグ」と呼ばれるデュエルモンスターズのシンボルのようなモンスターだ。
これはニーズヘッグ・エンタープライズの創設者「ヘックス・ヴラッドウッド」の
切り札として有名なモンスターであり、
彼が世界にもたらした圧倒的な功績から、その切り札も世界的人気を誇る象徴として名高い。
会場に現れたニーズヘッグはソリッドヴィジョンだが、その迫力はテレビ越しでも伝わってくる。
ニーズヘッグがその翼で大風を起こすと、会場の空中を雄々しく飛び回る。
会場を一周した後、中心にあるステージの後ろに二本足で着地する。
会場中の視線はそこに集中する。
そしてそのステージには大統領「マキシム・ハイド」が手を後ろで組み、威風堂々と立っていた。
会場は何かを待つように静まっている。
マキシムは演説台に両手をつき、会場の中心を真っ直ぐ見据え、視線を一手に引き受ける。
「カードとは心だ!」
マキシムのよく通る低い声が会場中に響き渡る。
「喜び・悲しみ・愛・憎しみ・怒り…
君達の全ての感情がカードとなり、君達に力を与える」
「デッキとは、そんな君達1人1人の心が形作る…君だけの武器だ!」
マキシムは演説台の正面の観客席にいる1人の少年を指差し、
まるでその子に訴えかけているかのように熱く語る。
指を差された子供は突然のことに驚くも、マキシムの言葉を自分の人生に重ね合わせ、頷く。
彼の言葉は、ただの開会式の挨拶ではなく、
何かを伝え、聞いた人の人生を動かそうという意思のあるものだった。
「我々デュエリア政府は40年前、DDASと不可逆的な契約を結んだことによって2つの義務を負った。
この大会を4年に1度開催すること。
そして、優勝者の願いを1つ叶えることだ」
「どんな願いでも叶えよう!金か!夢か!はたまた…復讐か。
思い描くといい!それは、叶う!」
実際は法を破るものやデュエリアの財政を超える願いは叶えられないが、
マキシムはそんな注釈を挟むことはしなかった。
どんな願いでも叶うと言っても差し支えはなく、仮に叶えられぬ願いがあったとしても、
見方を変えれば、大抵は法や財政の範囲内での代替案が存在する。
例えば「恨んでいる相手を殺したい」という願いがあるとして、
それを直接的に叶えることはできないが、
「その者の人生を終わらせるに等しい事」を願いとして叶えれば復讐は果たせる。
「君達の、心の炎を燃やして…掴み取れッ!己の欲望を!願いを!
君達には、それを可能とする"武器"があるッ!」
マキシムは左手の拳を心臓の前で握り、もう片方の拳を高らかに掲げる。
その瞬間、会場から大きな声援が沸き起こる。
「うおおお!熱ィぜちくしょうっ!」
このマキシムの心に直接訴えかけるような語りに、遊次も火が点いたようだ。
「さすが、演説王と呼ばれるだけあるな。伊達に16年も大統領を務めてない」
イーサンもマキシムの人の心を動かす話術に感心する。
「老輩からの言葉はここまでだ。
続いてはこの世界をリードする若き才能にご登場願おう。
ニーズヘッグ・エンタープライズCEO、オスカー・ヴラッドウッド!」
マキシムがその名を呼ぶと、拍手の中、オスカーが壇上へと向かう。
マキシムは壇上から降り、2人はすれ違う。そしてそのすれ違いざま、両者は視線を交わした。
オスカーがマキシムを鋭き眼で刺すように見ると、
マキシムは口元を緩め、余裕そうに視線を返した。
オスカーが登壇し、再び会場は静まり返る。黒いマントが風にたなびいている。
「ヴェルテクス・デュエリア。この大会は、我が祖父ヘックス・ヴラッドウッドが、
デュエルによる世界の発展を願ったことが始まりだ。
我が社が創設されたのもその一心ゆえ。彼は誰よりもデュエルモンスターズを愛した。
今は深き眠りについているが…きっと祖父も、この大会を待ち望んでいるはずだ」
オスカーは一定のトーンで淡々と語る。
「ヘックス・ヴラッドウッドって確か…事故かなんかで植物状態になってるんだっけか」
世相に疎い怜央はわずかな記憶を呼び起こす。
「あぁ。確か10何年前だったか…交通事故に遭ったんだ。
一命を取り留めただけでも幸いだと思うがな…」
イーサンは話しながら、当時ニュースが大騒ぎになったことを思い出した。
オスカーの経営方針は、ヘックスの創業時からの思想を色濃く受け継いでいる。
オスカーが開会式の場で彼の名を挙げたのも、
人々の記憶からヘックスという存在を消さないようにするためだろう。
「この大会は過去9度に渡って開催されてきた。
その度にデュエリスト達は命を削る思いで戦った。己の願いを叶えるために」
「だが…これだけは忘れないでほしい。デュエルは、楽しむものであることを」
「…!」
遊次は彼の発した言葉に驚く。
楽しさという概念を持っていることを、オスカーからあまり想像できなかったからだ。
「デュエルという手段で己が道を切り開く。それも素晴らしい。
我々が創ってきたのはそういう世界だ。
この大会に挑む者達は、まさにその極致に指を掛ける実力者だろう」
「しかしその根底には、楽しいからこそデュエルに没頭し、飽くことなくカードに触れ続けた…
その積み重ねがあるはずだ」
この言葉を聞いた灯は、テレビに夢中になっている遊次の横顔を見る。
オスカーの言葉はまさしく遊次そのものを表していると感じたからだ。
「激闘の果てに道を見失ったなら…そこに立ち返るといい。
そして、戦いを見届ける者達も同じだ。
願いと願いの衝突の熱さに身を任せるのもいいだろう。
だがまずは…楽しめ!」
オスカーが腕を振るうと黒いマントがそれに合わせてたなびく。
マキシムは願いを叶える手段としてのデュエルを、
オスカーは楽しむためのデュエルを軸に語った。
この大会へ熱い思いを持っている両者からは、どこか決定的な思想の違いが見えた。
「(…いずれ真実を世界に明かす必要はあるけど、
今は"楽しませる"ことが最優先、か。兄さんらしい)」
同じく開会式会場の端で見ていたオスカーの弟『ルーカス』は、
兄の背中を見つめ、腕を組んで考える。
「この社長…スカした奴だと思ってたけど、意外といいこと言うじゃねえか!」
遊次は、オスカーの言葉に胸を打たれたようだ。
「言葉にも説得力あったしね~」
灯も遊次に賛同する。
「最後に、この方に登壇していただく。
7代目デュエルチャンピオンであり、現デュエル省長官…『天王寺高貴』」
オスカーがその名を呼んだ途端、会場は大歓声で埋め尽くされる。
オスカーはそのまま降壇し、天王寺が上がる。
「天王寺さんっ!!」
遊次もその名前を聞いた途端、思わず立ち上がる。
「あぁ、ファンだったっけか。聞いたことある気がする」
怜央はかつてイーサンから聞いた話から、
遊次にとって天王寺が憧れのデュエリストであることを思い出す。
遊次が記憶を失って間もない頃、
12年前のヴェルテクス・デュエリア本戦を観戦した遊次が憧れを抱いた人物、それが天王寺高貴だ。
遊次の明るく真っ直ぐな性格も当時の彼の影響によるものが大きい。
壇上に上がったその男は、真っ赤な髪に澄み渡る青の瞳をしていた。
首元を襟が覆うボタン付きの白い服を纏っている。
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イーサンも天王寺をじっと見つめ、何かを考えている。
「いつまでも変わらない若さだねー。30代とは思えないもん。
…あっ」
灯は無意識にイーサンに目線を移してしまい、目が合うと気まずい声を上げる。
「おい、今失礼なこと考えただろ」
イーサンはじっとした目で灯を睨む。
「え?ぜ、全然!イーサンも変わらず、わ、若いなーって…ハハ…」
「その気遣いが逆に辛いよ…」
イーサンは肩を落とす。
天王寺は笑顔で観客に手を振りながら壇上へ上がり演説台の前に立つ。
拍手が止まると落ち着いた様子で話し始める。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。
この大会は世界最大のデュエルの祭典として開催され、今年で40周年を迎えました。
それも、デュエルの腕を磨き続け、この大会に情熱を持って臨んでくださる皆さんあってこそです。
デュエル省長官として、感謝申し上げます」
天王寺は丁寧かつ円滑に言葉を紡ぐ。
「かくいう僕も、ヴェルテクス・デュエリアがきっかけで人生が変わった1人です。
12年前のあの日から…僕の人生は大きく変わりました。…本当に、大きく」
天王寺は噛み締めるように話す。
彼は12年前にチャンピオンとなったことから大きな名声を得て、
その人気も後押しして政治家として成功した。
しかし天王寺の表情の目線は下に向いており、どこか浮かない様子だ。
遊次もその様子を感じ取ってか、さっきまでの明るいテンションから打って変わり、
落ち着いた様子でテレビを見つめている。
「…皆さんを言葉で奮起させる役割は、ハイド大統領とオスカー氏が十分果たしてくれました。
だから…僕から伝えたいことはたった1つです」
「どんな願いでも叶うヴェルテクス・デュエリア。
12年前のこの大会で、俺には叶えられなかった願いがありました」
天王寺の一人称が変わった。
政治家として壇上に立っていたこれまでとは違い、
1デュエリストとして、1人の人間として話すということなのだろう。
ヴェルテクス・デュエリアはどんな願いでも叶う祭典だ。
しかし天王寺は『願いが叶わなかった』と口にした。
大半の観客達は「もう1つ叶えたい願いがある」という意味として頭の中で捉えた。
あくまでも叶えられる願いは1つだけだからだ。
「だから俺は…その願いを叶えるために、この場所にもう1度立つ。
政治家ではなく、デュエリストとして」
観客達はまだ言葉のその意図を掴みきれなかったが、
「もしかしたら」という可能性が頭に浮かび、次第にその喧騒はざわざわと大きくなってゆく。
「俺は…ヴェルテクス・デュエリアに出場する」
瞬間、大歓声が上がった。
「嘘だろぉ!マジかよっ!!」
テレビの前の遊次は勢いよく立ち上がり、興奮を抑えきれず辺りをうろうろしている。
「メインシティ1次予選から参加する。…また12年前みたいに、1歩ずつ上がらせてもらうよ。
以上だ。それではデュエリスト諸君、ぜひ本戦で会おう」
会場の熱気が収まらぬ中、天王寺は壇上を降りてゆく。
無駄に居座らず、すぐに立ち去るその様子はまさにスターだった。
チャンピオンといえど、12年前の大会の優勝者ではシード枠とはいかず、
1次予選から参加することになるようだ。
その後、いくつかのセレモニーが行われた後、開会式は幕を閉じた。
「天王寺さんが出る!信じらんねえ!12年越しだぞ!おい!」
遊次は未だにチャンピオン「天王寺高貴」の出場で頭がいっぱいだった。
興奮を共有するために灯達の方にその熱を向ける。
「うん…びっくりした。すごいね…」
「チャンピオンがまた出場するとはな。
メインシティ予選の奴らは気の毒だぜ。ほとんど予選敗退が決まったようなもんだ」
遊次ほどの熱量はないにしても灯や怜央も十分驚いているようだ。
怜央さえも天王寺が本戦に勝ち上がってくると確信している。
「過去にもチャンピオンが再出場したことは、あるにはある。
でも優勝してから気が抜けるのか、いい結果は残せないのが常だ。
…天王寺はどうかな」
イーサンは冷静に分析している。
「あの天王寺さんが怠けるわけねえ!なんなら前より強くなってるに決まってる!」
遊次は興奮冷めやらぬ様子でイーサンに反論する。
「…まあ、そうかもな」
イーサンもそれ以上口を挟むことはなかった。
何よりこの遊次の喜びに水を差したくなかったのだ。
「ヤベえよ…だって俺が勝ち進んだら、天王寺さんと当たるかもしれないんだぞ!」
「そっか…そういうことになるね。もしかしたら、私も…。
いや、さすがにないかな、アハハ…」
灯は自ら口にした言葉の非現実さに、自らその言葉を否定する。
「なんでだよ、灯だってあるだろ。まだ自信ないのか?あんなに特訓したのに」
「うーん、そういうわけじゃないんだけど…。まださすがにイメージできないっていうか」
灯の言葉は本心だった。自信がないわけではないが、初出場ということもあり、
自分がドームに立つ姿を想像できないのだ。
「お前は想像できてるってのか?チャンピオンと戦うこと」
怜央が遊次に問いかける。
「ったりめぇだろ!どんだけ夢見てきたと思ってんだ!天王寺さんといつかデュエルしたいって!」
あの赤いドームで天王寺とデュエルをする光景を、幼い頃から遊次は何度も思い描いてきた。
もしかしたらそれが叶うかもしれないのだ。
「…凄いね、遊次は。その自信がデュエルにも表れるんだろうね」
自分には到底そんなことは考えられないといった様子で灯は俯く。
「そんな弱気じゃ負けちまうぞ。俺や遊次もぶっ倒す気で来なきゃな」
怜央が灯に喝を入れる。
「怜央…。うん、そうだね。
せっかくAIデュエルも乗り越えて予選に出られるんだから、気合入れていかないと!」
灯は前を向いて立ち上がり、自らを鼓舞する。
ヴェルテクス・デュエリアでは、
参加資格を満たせば誰でも各16都市で行われる予選に申し込むことができるが、
応募者数万人から、まずは事前審査とAIとのデュエルをもって大多数をふるいにかける。
そして残った448人が各予選に出場することとなる。
灯と怜央はすでに事前審査とAIデュエルを楽々突破し予選出場を決めている。
「予選はいよいよ明日だ。
まずは448人がそれぞれランダムにマッチした相手とデュエルを行って勝者が勝ち上がる。
これを5戦繰り返し、14人が2次予選に勝ち残ることになる」
「1日だけで5回も戦うって、けっこうハードだよね」
灯は本戦出場までのハードルの高さに頭を抱える。
「もしそこで俺と灯がぶつかれば、どっちかは1日目で脱落になるな」
怜央は腕を組んであっけらかんと話す。
「うん…そうならないことを祈りたい…。
1次予選はVR空間でのデュエルだしね。どうせなら会場で当たりたいよ」
448人もの人数が同時に戦うフィールドを用意することが難しいため、
1次予選はVR空間にてオンライン上でのデュエルを行うこととなる。
人の移動を行う必要がなくスムーズなマッチングができるため、
このような仕組みが採用されているのだ。
VRでデュエルする装置は予選通過者にあらかじめ配布されており、
インターネット環境さえあれば好きな場所から試合に臨める。
「2次予選からは実際の会場だから観客もいる。おまけに実況付きだしな。
そっちの方が何十倍も楽しいぜ!実質2次予選からが本番みたいなもんだ」
経験者である遊次は力を込めて熱弁する。
「2次予選からシード枠として、前回の予選の1位と2位が参戦ってわけだ。
そこから16人でのトーナメント戦となる。
つまり、前回の予選通過者の遊次と、2位はえっと…誰だっけか」
イーサンは4年前の予選の記憶を呼び起こそうとする。
「珊玲(シャンリン)だ。今回も出んのかな?」
「シャンリンさんって…あのメガネの女の人?」
灯は4年前に見た遊次とその人物とのデュエルを思い出す。
ロングヘアのメガネをかけた女性が騎士のようなモンスターを繰り出し、
遊次と激戦を繰り広げていた。
「あぁ。あいつは強かったなー。モンスターもかっけーし。また戦えねえかなー」
遊次は両腕を頭の後ろに持ち上げ、いかにも浮かれた様子だ。
「ふーん…。まあ、遊次と当たる前に私が倒しちゃうかもしれないけどね」
じとっとした目で灯が少し不機嫌そうに強気な言葉を放つ。
「お、その意気だぞ灯!こりゃ1次予選は心配なさそうだな」
遊次は灯の気持ちなど露知らず、呑気に笑顔を浮かべている。
「明日13時から1次予選が始まる。
俺と遊次は仕事があるが、空いた時間があればオンライン上で観戦するよ」
本番は2次予選からだという認識もあり、明日は遊次とイーサンはNextの仕事を優先することにした。
予選はオンライン上でのVRデュエルだ。
インターネット上から観戦もできるため、空いた時間に観ることができる。
「勝てよ、灯・怜央。2次予選で待ってるぜ!」
本戦出場経験者である遊次は灯と怜央にエールを送る。2人は強く頷いた。
一段ずつ勝ち上がってゆくしかない灯・怜央は、
上で待っているというスタンスの遊次に、確かな実力の壁を感じていた。
しかしこれこそが現状だ。追いつくには、数か月に渡る鍛錬の結果を本番にぶつけるしかない。
「レベル6、ペイントメージ・モネに、レベル2となったペイントメージ・カードルをチューニング!
数多の彩より生まれし華麗なる精霊よ…」
「お、やってるねぇー灯ぃ!」
1次予選のVRデュエル。
灯が自室にて今まさに切り札を召喚しようとしている最中、
一切の遠慮なく娘の扉を開けて父親が話しかけてくる。
「ちょっとお父さん!今大事なところなの!
あと勝手に部屋に入って来ないでっていつも言ってるでしょ!」
VRゴーグルを持ち上げ、灯は怒りの眼で父を睨みつける。
「わ、わりぃわりぃ…どうしても気になったから…。怒らないでくれよ…」
無造作なグレーの短髪をした灯の父親「花咲 明(はなさき あきら)」は
申し訳なさそうに部屋のドアを閉める。
「ほんっともうっ!…ごめんなさい!ちょっと邪魔が入っちゃって!
数多の彩より生まれし華麗なる精霊よ…」
灯は対戦相手に謝りながら再びVRゴーグルを着け、デュエルへと戻っていった。
「フン、確かに俺のエクスプロードは破壊される。…その効果が通れば、な。
永続罠発動!『命取りの重鎧』!
装備カードが装備されたモンスターは効果が無効となり、守備表示となる!」
「さすがだぜ怜央の兄貴ィー!」
「こんなとこでやられる怜央さんじゃないっての!」
「がんばれー!」
アパートのリビングでリアム・星弥・ランランの声援を受けながら、
怜央もVRにて1次予選に臨んでいた。
Unchained Hound Dogsの、家庭に問題のあるメンバーはこのアパートで暮らしている。
Nextが順調なこともあり怜央も以前よりも給料は増え、
少なくとも子供達が普通の暮らしができるほどには生活は安定してきていた。
この平穏を守り、更には子供達に未来を歩んでもらう。
その願いを背負い、怜央は負けるわけにいかないこの戦いを、着々と勝ち抜いていった。
「行けぇぇえええええ!灯ィイイイ!!!
このまま勝てば2人とも1次予選突破だぞ!!」
夕日が辺りを照らす時間。
Next事務所では、遊次はパソコンの画面に唾が飛ぶほどの声援を送っていた。
その隣ではイーサンがデュエルの行く末を真剣な表情で見守っている。
すでに1次予選は5戦目を迎えていた。
怜央はすでに5勝し、2次予選へ進出を決めていた。後は灯の1戦だ。
緊張感が漂う中、今日の仕事を一通りこなした遊次とイーサンは、
仲間の世紀の一戦を手に汗握りながら観戦している。
「バトル!ペイントメージ・ゴッホでダイレクトアタック!」
VR空間上のゴッホが炎を纏った剣で相手プレイヤーに攻撃する。
そして相手プレイヤーのライフは0となった。
「よっしゃああああ!!!」
Next事務所では遊次とイーサンが手を合わせて灯の勝利を喜ぶ。
「灯のねーちゃんも1次予選突破だぁ!」
アパートの一室で試合を見ていたリアムも、飛び上がって喜ぶ。
「フン、当然だ。こんなところで負ける奴じゃねえ。勝負は…これからだ」
腕を組みながら子供達の後ろで試合を見ていた怜央は、
来たる2次予選に思いを馳せ、窓の外の夕日を見つめる。
「やったぁー!」
VRゴーグルを外し、灯は飛び上がって喜びの声を上げる。
その扉の隙間からエプロン姿の父「花咲明」と、
仕事から帰って来たオフィスカジュアルな服装の母「花咲絵美」が娘の勇姿を見守っていた。
「変わったわね、あの子も」
ポニーテールに束ねられた白髪を揺らし、母は静かに娘の成長を実感する。
「あぁ。Nextを始めてから灯はびっくりするほど成長してる。
もう俺達が口を挟む余地はないのかもな」
父もしんみりと語る。
すると部屋から出てきた灯が呆れた目で両親を見つめている。
「…おかえり、お母さん。もう、覗き見してたの?」
「大口叩いて参加しといて、1日目から負けたんじゃ示しがつかないからね。
その心配はなかったみたいだけど」
娘の強い視線にも動じることなく、母は強気に応える。
「…私は大丈夫だよ。もう、逃げないから」
灯は強く母親を見つめそう告げると、外に出て行った。
「…ふぅ。あの子、やっぱりいつまでもあの言葉を引きずってるのね。
私が悪いんだけどさ」
母は少し困った様子でため息をつく。
「…まあ、そのおかげで強くなったと捉えることもできる。
何はともあれ、明日は娘の晴れ姿を見に行かないとな」
父は母を明るく励まし、明日の2次予選に思いを馳せるのだった。
そして翌日。
Nextの4人はドミノタウン予選が行われる会場にいた。
「ドミノ・スタジアム」と呼ばれるドミノタウン唯一のスタジアムだ。
一見通常のスタジアムのように見えるが、全体が白を基調としているのに対して、
一部分だけがまるで継ぎ接ぎされたかのように、黒いコンクリートでできていた。
これはコラプスによって破壊された一部分を、別の素材で補強した結果だ。
あえて継ぎ接ぎをわかりやすくすることで、
コラプスという凄惨な歴史をここに残す目的がある。
「トーナメント発表までもうすぐだね…。緊張してきた…」
これから2次予選のトーナメント表が発表される。
灯が緊張で縮こまった声で呟く。
「大丈夫だ、どっしりしとけ。
俺らは難しい依頼もデュエルで乗り越えてきたし、みっちり特訓もしてきた。
14人に残れてる時点で、ドミノタウンでも有数のデュエリストなのは間違いねえんだ」
遊次は灯の肩を叩いて励ましの言葉を送る。
「うん…ありがとう」
「おーーーい!」
向こうから大人3名と子供7人が手を振って走ってくる。
業務提携をしている探偵「伊達アキト」に、
怜央と同じチームのドモンとダニエラ、そして子供達だ。
「お前ら!観に来てくれたのか!」
応援にかけつけた仲間達の姿に、遊次の顔がぱっと明るくなる。
「当然だろ。皆この時を楽しみにしてたんだ」
アキトが爽やかに答える。
「アタイもドモンも、それにアキトもわざわざ休み取って来てやったんだ。
1回戦で負けたら承知しないよ」
ダニエラが3人を激励する。
ドモンとダニエラは時折アルバイトとしてNextを手伝うことがあり、
その関係でアキトとも交流を持ったのだ。
アキトの探偵事務所でも臨時のバイトとして繰り出すこともある。
「知ってるか?
同じ事務所から3人も予選出場者がいるって、ちょっとばかし話題になってんぞ」
ドモンはどこか誇らしげな様子で伝える。
「マジで!?確かに、よく考えたらすげーことだよな」
「Nextの宣伝になることは間違い無しだな」
イーサンはしめしめと言わんばかりにニヤリと笑う。
「負けないでよ、怜央」
ミオが熊のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、上目遣いで言う。
「ランラン達、おっきな声で応援するからね!」
「…任せとけ」
怜央は堂々とした態度で子供達の応援に応えた。
「あ!見て!トーナメントが発表されるみたいだよ」
トーマスが会場内の大画面が移り変わったことに気が付き、指を差す。
「お、ようやくか!誰と当たるんだろうなぁー!」
遊次は両腕をぴんと伸ばして手を組み、左右に腰を曲げてストレッチをする。
早く戦いたくてうずうずしているようだ。
同じく会場には、他の参加者とおぼしき者達が集っている。
葉っぱが生えたようなデザインの帽子を被った、おどおどとした少年。
大きな数珠を肩から掛けた、僧侶のような男。
車椅子に乗った少し目の虚ろな青年。
そしてメガネをかけたロングヘアの女性。
彼らはそれぞれの思いを胸にトーナメント表を見つめている。
トーナメント表:
ttps://imgur.com/a/7J3ZDXF
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
全員の視線が会場中央の大画面に集まる。
そして次第にざわざわと周囲から声が聞こえ始める。
「お、俺の最初の対戦相手はマルコスって奴か。どんな相手なんだろうなぁー!」
遊次の初戦の相手はマルコス・アルバレスという者だ。
想像を膨らませわくわくしている様子だ。
「お前らはどうだっ……」
遊次が灯と怜央の方を振り向くと、2人はお互いに真剣な眼差しで視線を交わしていた。
2人の様子に遊次が困惑して黙っていると、イーサンが肩を叩き、トーナメント表を指差す。
灯と怜央の名前を探すと、2人の名前は並んで表示されていた。
「なっ…!初戦から…灯と怜央が…」
いきなり想像だにしていなかった展開だ。遊次は再び2人の方を振り返る。
「手加減はしねえぞ、灯。これはどっちが勝ってもいい戦いってわけじゃねえ」
怜央は灯を鋭い眼で睨む。まるで仲間とは思えないほどに。
灯は彼の視線の強さに少し動じているようだ。
「同じ仲間でも…心の根っこの願いは絶対に違ってる。
俺の願いは、ガキ共が大人になってまともな未来を進めるようにすることだ。
お前が優勝したら、何を願う?」
「私の願い…」
怜央の問いにすぐに答える事が出来なかった。
自らの成長や、強くなったことの証明。出場を決めた理由はそれらが大きかった。
しかし、優勝という言葉は自分の中では非現実的で、具体的なイメージができていなかったのだ。
灯は目を瞑り胸に手を当てて考える。
頭に真っ先に思い浮かんだのは、幼い頃、公園で遊次に誓った言葉だ。
「(私の願いは…遊次を守って、支え続けること…。
でもそれは、優勝して捧げるべき願いじゃない)」
「(1つだけ叶えられる願いがあるなら…私は何を願うの…?)」
灯は自分の中で結論を出すことができなかった。
ずっと押し黙っている灯を見て、怜央は痺れを切らす。
「自分から参戦してここまで勝ち上がったのに、まさか何を願うかも決まってねえのか」
怜央の言葉は灯にズキリと突き刺さり、思わず顔を下に向ける。
それを見てすかさず遊次が口を挟む。
「別に、願いを叶えることだけがこの大会の意味じゃねえ。
出ること自体が望みでもおかしくねえんだ。
お前が子供達のために真剣なのはわかるけど、灯を責めたりすんなよ」
遊次は怜央に対して、理解を含んだ声色で冷静に言葉を紡ぐ。
「…別に責めちゃいねえ。だが、これだけは言っとくぞ。
"覚悟"の差でデュエルは決まる」
怜央は灯に真剣な眼差しでそう伝えると、
1人背を向け、観客席のあるゲートへと向かっていった。
「あいつ…ピリピリしてるな」
いつもと違う怜央の様子にドモンは気が付く。
「まあ無理もないさね。最初から仲間同士で戦わなきゃいけないんだ。
変に情けをかけないように、ああいう態度を取ってんのさ」
ダニエラは怜央の去っていった方を見つめながら、彼の思いに思考を巡らせる。
「それに、情けをかけられないようにも…な」
イーサンが怜央の心情を分析し、ダニエラの言葉を補足する。この言葉に灯ははっとする。
「…そっか。私が怜央に同情して判断が鈍ったりしないように…」
灯は前を向く。
「私、ちゃんと戦うよ。
私の中の願いはまだはっきりしないけど…この戦いの中で見つけてみせる」
灯の闘志に火が点いたようだ。これには遊次も安心する。
「頑張れよ、灯!あぁーでも…俺は一体どっちを応援すりゃいいんだっ…!」
遊次が新たに生まれた悩みに頭を抱えていると、イーサンが見かねて声をかける。
「今悩むのはそんなことじゃないだろ。
30分後にはお前のデュエルが始まるんだぞ。そのことだけに集中しろ」
「いけねっ…そっか、俺が第1試合なのか。
…ありがとな!俺、ちょっとデッキの最終調整してくる!」
遊次は選手の控室へと走っていった。
「ねー、今日は何試合やるの?」
リクが他の子供達に話しかける。
「今日は8試合。出場者全員がデュエルを行います。
第1試合から第4試合がそれぞれ別のフィールドで行われ、
それが終わると第5試合から第8試合が同じように行われる。
1週間後に第2回戦の4試合。さらに1週間後に準決勝の2試合。
決勝戦は今日から1か月後ということになります」
治が間髪入れずに大会のスケジュールを説明する。
「そうなんだ!相変わらず凄いね、歩くスケジュール帳だ」
「それ、褒めてるんですか…。まあつまり、
遊次さんのデュエルと、灯さん・怜央さんのデュエルは別の時間帯ですから、
2試合とも観られます」
子供達は純粋にデュエルを観ることを楽しみに来ており、テンションも高い。
出場者は大きなものを懸けて戦っているが、
こうして皆が笑顔になってくれるのはいいことだと灯はポジティブに考える。
「みんな、まずは遊次の応援しなきゃね。観客席に移動しよ!」
約30分後、早々に遊次とマルコス・アルバレスのデュエルが始まる。
灯は気持ちを切り替え、観客席へと向かった。
観客席に向かうと、先に怜央が座っていた。
先ほどまでの空気感も相まって少し気まずい雰囲気が漂うが、
子供達がデュエルを心待ちにしてがやがやと騒いでいることで、その空気は弛緩した。
「…えー、お待たせしました…。
間もなく、第1試合『神楽遊次 VS マルコス・アルバレス』のデュエルが開始されます…。
えー、実況はわたくし『多口伝助』が、お送りいたします…」
多口伝助(たぐちでんすけ)を名乗るその男は、
実況者とは到底思えない程の小さいボリュームで、実況席から会場にアナウンスしている。
ウェーブした黒い髪が目元まで伸び、目の下にはクマがある。
全く覇気を感じられない顔つきだ。
「あの実況の奴、大丈夫なのか?全く元気がないが」
怜央が観客席で、腕を組みながら不機嫌そうにイーサンに問いかける。
彼は4年前にはヴェルテクス・デュエリアなど気にする境遇ではなく、
あまり詳しくないようだ。
「フッ、安心しろ。あの人はドミノタウンの名物実況者でおなじみの『多口伝助』。
今年から本戦の実況もあの人が担当するんだ」
前のドミノタウン予選も知っているイーサンが得意げに語る。
「嘘だろ!?全然声聞こえねーぞ!」
リアムが驚きの声を上げる。
「まあ見てればわかるさ。…お、いよいよ始まるみたいだぞ」
イーサン達が観客席から見下ろすフィールドに、遊次が堂々と現れる。
逆サイドからは対戦相手であるマルコスが緊張した様子で歩いてくる。
マルコスは葉っぱがついたようなデザインの緑色の帽子を被った茶髪の少年だ。
中学生ぐらいの年齢だろう。頬にはそばかすが見られ、オーバーオールを着ている。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/Hki1JG4
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そのおどおどした様子を見て、遊次がマルコスに声をかける。
「どうした?緊張してんのか?」
「ひゃいっ!?」
いきなり声をかけられたことでマルコスは素っ頓狂な声を上げる。
「そ、そりゃ緊張するよ。こんな大舞台だし…。
しかもいきなり相手が前回の予選通過者なんだから…。君は緊張しないの?」
「俺はしないなー。早く戦いたくてしょうがないぜ!」
遊次は左腕のデュエルディスクを掲げ、笑顔で応える。
「そっか…。すごいね。自分の願いが懸ってるっていうのに…」
深刻そうな顔で語るマルコスを見て、遊次は少し複雑な心境になる。
思い返せば、トーナメントが発表される時、周りにいた他の出場者達も、
みな真剣な面持ちだった。ワクワクしていたのは自分だけだったように思える。
「(確かに願いは懸ってるけど…世界一のデュエルの大会なんだぜ。
俺にはワクワクしない方が無理だ)」
「えー両者がフィールドに揃いました…。
これにて、ヴェルテクス・デュエリア ドミノタウン予選第1試合、
神楽遊次 VS マルコス・アルバレスのデュエルを開始いたします…」
試合の開始を告げるアナウンスを聞き、遊次とマルコスは真剣な表情で向かい合う。
すると実況の多口伝助が、座りながらおもむろに実況席の下に顔を潜り込ませる。
そしてその直後、ぱっと勢いよく顔を上げると、
先ほどまで目を覆っていた前髪は全て上にピンと立っており、
覇気のなかった顔つきは別人のように活き活きとしていた。
「デュエル…開始ィーーー!!!!」
多口はこれまでの声量とは圧倒的に異なる大声でデュエルの開始を告げる。
別人のようになった実況者の姿にドモン達は驚くも、すぐにフィールドに目を向けた。
マルコスのデュエルディスクのランプが光る。先行はマルコスだ。
「先行はマルコス・アルバレス!さあ一体どんなデュエルを見せてくれるのかぁー!」
多口は心からデュエルの行く末を楽しみにし、目を輝かせている。
「ぼ…僕のターン!」
マルコスは震える手で手札のカードを見つめる。
「(VR空間の1次予選とは全然違う…。みんなの視線が痛い…!)」
会場中の全員が自分を見つめているという状況にマルコスは慄く。
「マルコスーー!!がんばれーー!!」
マルコスの左後ろの客席から声が聞こえた。
振り向くと、マルコスと同じくらいの歳の5人の少年少女と、
整えられた短髪の若い1人の男性が手を振っていた。
「みんな…」
その姿を見た彼は目を瞑り、深く深呼吸をする。次第に手の震えが治まってくる。
マルコスは前を向き、手札のカードを1枚手に取る。
「フィールド魔法『エニグマトリクス・フラクタルラビリンス』発動!」
■エニグマトリクス・フラクタルラビリンス
フィールド魔法
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードの発動時の処理として、
「エニグマトリクス」モンスター1体をデッキから手札に加えることができる。
②:自分の墓地の「エニグマトリクス」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。
この効果は相手ターンでも発動できる。
フィールド魔法が発動されると、カラフルなパズルピースが組み合わさる新たな空間が出現した。
フィールドは上下に分割された階層構造となり、
遊次の前方向の上方のブロックにマルコスが立っている。
床面はパズルピースは光の反射により赤・青・黄・緑など鮮やかな色調を放っている。
「おっとぉー!いきなりフィールドが幾何学模様のカラフルな空間に変わったぁ!
まるでパズルのようです!」
多口は変化した周囲を見回しながらその状況を説明する。
「このフィールド魔法の発動時、
デッキから『エニグマトリクス』モンスター1体を手札に加えられる。
僕は『エニグマトリクス・モザイク』を手札に加える」
「エニグマトリクス・モザイクはレベル5だけど、リリース無しで召喚できる!」
■エニグマトリクス・モザイク
効果モンスター
レベル5/地/岩石/攻撃力2000 守備力2500
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードはリリースなしで通常召喚できる。
②:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「エニグマトリクス」罠カード1枚を手札に加える。
③:自分メインフェイズに発動できる。
デッキから「エニグマトリクス」カード1枚を墓地に送る。
現れたモンスターの体は多面体が多数組み合わさっており、3メートルほどの巨体を持つ。
顔やボディ・手足…その全てが直線で区切られた正方形のタイル状になっている。
モンスターの表面全体はざらついたテクスチャーで、色調は全体的にグレーで統一されている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/twRJhGp
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「エニグマトリクス・モザイクが召喚された時、
デッキから『エニグマトリクス』罠カード1枚を手札に加えられる。
『エニグマトリクス・スクエア』を手札に加える」
「エニグマトリクス・モザイクの効果発動。
1ターンに1度、デッキから『エニグマトリクス』カード1枚を墓地に送る。
僕は『エニグマトリクス・ゴースト』を墓地に送る」
「さらに罠カード『エニグマトリクス・スクエア』を捨てることで、
手札から『エニグマトリクス・ソーマ』を特殊召喚する!」
■エニグマトリクス・ソーマ
効果モンスター
レベル5/風/岩石/攻撃力2200 守備力2300
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカード以外の手札の「エニグマトリクス」カード1枚を捨てて発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
②:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「エニグマトリクス」魔法カード1枚を手札に加える。
③:このカードが融合素材として墓地に送られた場合に発動できる。
自分はデッキから1枚ドローする。
現れたモンスターはまたも3メートル級の大きさを持つモンスターだ。
互いに組み合わされた六つの直方体がボディを構成し、
形がそれぞれ違った緑系統の六色のブロックが重なり、結果として綺麗な直方体を形成している。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Kv7zapX
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「早くもレベル5モンスターが2体並んだぁー!
どうやらアルバレス選手のデッキは『エニグマトリクス』という
パズルのようなモンスターで構成されているようだぁー!」
マルコスのフィールドには、2体のブロックで構成された無機質なモンスターが並び威圧感を放つ。
遊次は効果を確認しながら、未だ全貌が見えぬマルコスのデッキを探ろうとしている。
「エニグマトリクス・ソーマの効果発動。特殊召喚時、
『エニグマトリクス』魔法カード1枚をデッキから手札に加える。
僕は『エニグマトリクス・フュージョン』を手札に加える」
「融合か…!」
"フュージョン"というカード名を聞き、遊次は少しずつマルコスのデッキの性質を把握してゆく。
「(落ち着け…。いつも通りにプレイするんだ。この"順番"で間違いはないはず…!)」
マルコスは少しの間目を瞑り、脳内に理想のルートを思い描く。
その後、目を開き、手札から魔法カードを1枚取り出す。
「『エニグマトリクス・フュージョン』発動!
フィールドか手札から融合素材を墓地に送り、エニグマトリクス融合モンスターを融合召喚する!
僕はフィールドの『エニグマトリクス・モザイク』、『エニグマトリクス・ソーマ』と、
手札の『エニグマトリクス・アイビー』で融合!」
「断片は符合し、ここに答えは示される。更なる閃きの礎となれ。
融合召喚!現れよ、『エニグマトリクス・トリオミノ』!」
■エニグマトリクス・トリオミノ
融合モンスター
レベル6/炎/岩石/攻撃力2600 守備力3000
「エニグマトリクス」モンスター×3
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが融合召喚した場合に発動できる。
デッキ・墓地・除外状態から「エニグマトリクス」カード1枚を手札に加える。
②:このカードをリリースし、
墓地の「エニグマトリクス」モンスター3体を対象として発動できる。
そのカードを手札に加える。
この効果で手札に加えたモンスターはこのターン、召喚・特殊召喚できない。
③:自分の墓地に同じ属性のモンスターが3体並んでいる場合、
相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを除外する。
さらに除外したカードと同名カードを相手の手札・デッキ・EXデッキから全て除外する。
現れた融合モンスターは高さ約4メートル程の巨体。
ボディは3つの四角形の面で構成され、各面は鋭い直線と角で組み合わされている。
ブロックの表面には炎の模様が描かれている。
眼窩は鋭角な三角形の切れ込みで、口は一線の凹み。
胴体は縦に積まれた3つの四角形が基幹となり、左右に伸びた腕も3つのブロックで形成されている。
全体は鮮やかな赤とオレンジのグラデーションで彩色され、
各三角形の境界線は金色のラインで際立っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/i4vSfUE
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「早速アルバレス選手が融合召喚をキメたぁー!果たしてこれが彼の切り札なのかぁ!」
フィールドに現れたこれまでと異なる存在感を放つ融合モンスターに、
実況者もテンションを上げる。
「エニグマトリクス・トリオミノの効果発動。
融合召喚した場合、デッキ・墓地・除外状態から、
『エニグマトリクス』カード1枚を手札に加えられる。
僕はデッキから罠カード『エニグマトリクス・Tブロック』を手札に加える」
「さらにチェーンしてエニグマトリクス・ソーマの効果発動。
融合素材として墓地に送られた場合、1枚ドローできる」
マルコスは合計2枚のカードを手札に加えた。
「トリオミノをリリースすることで効果発動!
墓地の『エニグマトリクス』モンスター3体を手札に加える!」
その瞬間、トリオミノの姿はたちまち光へと変わり消えてゆく。
「な、なんとぉー!今召喚したばかりの融合モンスターをもうリリースしてしまった!
どうやら切り札ではなかったようです!」
3体もの素材を要求するモンスターをあっさりと手放したことで実況者も困惑している。
観客席のイーサンと灯も顔を見合わせるが、その意図はまだ掴めず、灯は首をかしげている。
「僕は墓地の『エニグマトリクス・アイビー』、『エニグマトリクス・モザイク』、
『エニグマトリクス・ソーマ』を手札に加える。
ただしこの効果で手札に加えたモンスターはこのターン、召喚・特殊召喚できない」
「(せっかく融合召喚したのに、そいつをリリースして融合素材を手札に加えた?
何の意味があるんだ…?)」
不可解なマルコスのプレイに遊次は疑問符を浮かべる。
「さらにフィールド魔法『エニグマトリクス・フラクタルラビリンス』の効果発動。
自分・相手ターンに1度、墓地の『エニグマトリクス』を1体、
攻撃表示で特殊召喚できる!来て、『エニグマトリクス・ゴースト』!」
■エニグマトリクス・ゴースト
効果モンスター
レベル6/闇/岩石/攻撃力2400 守備力2500
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードの両隣にモンスターが存在する限り、
自分フィールドの「エニグマトリクス」カードは相手の効果の対象にならない。
②:自分メインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールドから、
「エニグマトリクス」融合モンスターによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
③:墓地のこのカードを除外し、
相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
幾何学模様が浮かんだ空間の一部が、大きな正四角形に切り取られて回転すると、
そこから高さ約3メートルの黒い巨体が現れる。
角ばった直方体や三角形が互いに接合し、
エッジを持った鋭いパズルのボディをしている。顔の中央に赤い単眼が輝きを放っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/9ziaP7B
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
マルコスは観客席を振り返る。
そこには友人達が真剣な眼差しでデュエルを見つめている。
彼らはマルコスの視線に気づき、視線を送り返す。
そしてマルコスは遊次の方へ向き直る。その表情には闘志が宿っていた。
「(…さっきまでと気迫が違ぇ。アイツも仲間の思いを背負って戦ってるんだ)」
遊次はマルコスの覚悟を肌で感じとった。
「エニグマトリクス・ゴーストの効果発動!手札・フィールドから融合召喚を行う!
僕は先ほど墓地から手札に加えた『エニグマトリクス・アイビー』、
『エニグマトリクス・モザイク』、『エニグマトリクス・ソーマ』と、
手札の『エニグマトリクス・ヴォイド』を融合!」
「4体融合だって…!?」
観客席のイーサンは思わず驚きの声を漏らす。
「解き明かされし不可思議なる謎。その秘められし真理を解放せよ!
融合召喚!出でよ!『エニグマトリクス・ピラミンクス』!」
■エニグマトリクス・ピラミンクス
融合モンスター
レベル9/光/岩石/攻撃力3300 守備力3500
「エニグマトリクス」モンスター×4
このカード名の①③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分の墓地に同じレベルのモンスターが3体並んでいる場合に発動できる。
相手フィールドのモンスターを全て除外する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
②:自分の墓地にカードが上からモンスター・魔法・罠の順番で並んでいる限り、
モンスターゾーンのこのカードは相手の効果で破壊されない。
③:このカードが墓地に存在する場合、
自分の墓地の「エニグマトリクス」カード4枚を除外して発動できる。
このカードを特殊召喚する。
現れたモンスターは5メートル級の巨体。全体的に白と黄土色のブロックがその体を構成している。
胸部にはいくつものブロックが重なりピラミッド型を形成しており、その頂点が前方に向いている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/2vtal1W
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「4体もの素材を要求する融合モンスターが現れたぁ!
これこそが切り札なのでしょうかぁ!」
「このモンスターは、フィールドでは2つの効果を持つんだ。
1つ目は、墓地に同じレベルのエニグマトリクスが3体並んでいる時、
お互いのターンに1度、相手フィールドのモンスターを全て除外できる効果」
「墓地に同じレベルが3体…?…うお、もう並んじまってるじゃねえか」
遊次はデュエルディスクに浮かび上がるソリッドヴィジョンのデータで相手の墓地を確認し、
ピラミンクスの効果発動条件がすでに整っていることに驚く。
マルコスの墓地にはレベル5のソーマ・モザイク・アイビーが連続して並んでいる。
ピラミンクスの融合素材として同時に墓地に送られたためだ。
「さらにピラミンクスは、墓地に上からモンスター・魔法・罠の順番で連続して並んでいる限り、
効果では破壊されない。その条件も、すでに整ってるよ」
「なんだと…!いつの間に…」
遊次がマルコスの墓地を確認すると、
「エニグマトリクス・トリオミノ」の下に
魔法「エニグマトリクス・フュージョン」、
その下に罠「エニグマトリクス・スクエア」が重なっている。
「な、なんとぉー!!アルバレス選手は
4体もの素材を要求する融合モンスターを召喚しながら、
効果発動のための条件を墓地で揃えていたぁ!
カードの順番・連続性を考慮しながら強力なフィールドを作り出す…なんという高度なプレイング!
これこそが、2次予選まで勝ち上がった者の実力だぁ!」
実況の多口の高揚した解説を聞き、観客達もざわつきだす。
「トリオミノを融合召喚した後、すぐにリリースして墓地の融合素材を回収…。
あの一見意味があるのかわからないプレイは、墓地で魔法と罠を並べるためにあったのか…!」
イーサンはマルコスのプレイの真意に気付く。
「え…?全然わかんねえ、どういうことだ?」
リアムは目を瞑って頭をフル回転させるが、理解できないようだ。
「マルコス君は手札の罠カードを捨てて、モンスターを特殊召喚したよね。
その後に魔法カード『エニグマトリクス・フュージョン』を発動した。
その効果で融合素材が墓地に送られた後に、
『エニグマトリクス・フュージョン』が墓地に行くっていう処理になるから、
このままだと墓地の順番は上から、魔法・モンスター×3・罠っていう順番になっちゃうよね」
灯は子供達に説明の言葉を紡ぐ。
「ん、ん…?そ、そうなるのか…?」
「そうなりますね。続けてください」
頭の中で盤面を描けていない様子リアムを無視して、治は話を進める。
「このままだと、墓地が上からモンスター・魔法・罠の順番にならないから、
後に融合召喚するピラミンクスの効果の条件を満たしてない。
だからトリオミノをリリースして、融合素材となったモンスター3体を全部回収したの。
これで魔法・モンスター×3・罠って並んでた墓地は、
間のモンスター3体が抜けて、モンスター・魔法・罠の順番になる。
これでピラミンクスの効果の条件を満たしたってことだね」
「お、おぉ…。よくわかんねーけど、とにかくすげーことしてるってことはわかったぜ!」
リアムは笑顔で親指を立てる。どうやら理解を諦めたようだ。
「カードを特定の条件に並べることで強力な効果を発揮する。まさしくパズルのように。
それがマルコス君の戦い方ってわけだね」
アキトは2次予選の1回戦目からレベルの高さを痛感する。
「僕はカードを2枚伏せてターンエンド。あなたの番だ、神楽遊次さん」
緊張に震えていた時とは違い、マルコスはすでに覚悟を決めた表情に変わっている。
遊次はその表情を静かに見つめている。
--------------------------------------------------
【マルコス】
LP8000 手札:1(エニグマトリクス・ソーマ)
①エニグマトリクス・ゴースト ATK2400
②エニグマトリクス・ピラミンクス ATK3300
フィールド魔法:1
伏せカード:2
墓地(上から):ヴォイド(闇☆6)、ソーマ(風☆5)、モザイク(地☆5)、アイビー(水☆5)、
トリオミノ(炎☆7)、フュージョン(魔法)、スクエア(罠)
【遊次】
LP8000 手札:5
魔法罠:0
--------------------------------------------------
「マルコス、お前からすげえ覚悟を感じるぜ。お前のモンスターからも。
何のためにこの大会で戦ってるんだ?そこに理由があるんだろ」
「…ぼ、僕は…」
遊次から問われた途端、マルコスの表情に再び緊張が浮かぶ。
それほど彼の懸ける願いは彼にとって重いのだろう。
「僕は…学校を守りたい」
「学校?」
「僕の通う中学は…このままだと廃校になっちゃうんだ。
ドミノタウンにある学校なんだけど、年々入学する人数が減って…今は1クラス5人しかいない。
そんな中で、ドミノタウンから直々に廃校の話が学校側に持ち掛けられて…」
マルコスは深刻な表情で語る。
「…なるほどな。学校はそれを受け入れたのか?」
「ううん、受け入れなかった。先生達だって学校を守りたかったから。
でもドミノタウンはどうしても廃校にさせたかったんだ。新しい施設を開発するために」
廃校は行政からの要請であり、それは土地開発のためだという。
マルコスの語りは会場の観客にも届いている。
ドミノタウンにとっては都合の悪い話であり、会場の何人かの大人がこそこそと話し合っている。
「学校は僕達の思い出の場所なんだ。
担任の先生もとっても面白くて、優しくて…みんな大好きだった。
僕達はもうすぐ卒業だけど…今いる生徒達も、これから入ってくる子達にも、
あの学校で学んでほしかった。勉強だけじゃなくて、色んなこと」
「なのに…いくら人が少ないからって大人の勝手な理由でいきなり廃校なんて…あんまりだよ」
マルコスは拳を強く握り、俯く。
彼の言葉に、友人達は怒りや悲しみをその表情に滲ませていた。
「だからこの大会に出たってわけか。学校を廃校から守るために」
自分のデュエルに学校や生徒、教師達の運命が懸かっている。
マルコスはその重圧を感じているのだ。
行政がすでに廃校の方向で進めている以上、それを止めるのは容易ではない。
しかしヴェルテクス・デュエリアで優勝すれば、国家の権限として開発を差し止めることができる。
マルコスはそれに賭けたのだ。
「(あの観客席にいるのは…マルコスの友達と担任の先生か)」
マルコスの後ろの6人に遊次は目を向ける。
「遊次さんはなぜこの大会に出たの?4年前の大会も出てたよね。
それくらい強い願いがあるんでしょ?」
「あぁ。俺は子供の頃からドミノタウンで育って、コラプスの被害に遭った人達を近くで見てきた。
町の人達はなんとか堪えて無理やり笑ってみせるんだけど、その笑顔は本当の笑顔じゃないんだ。
だから…ドミノタウンを完璧に復興させて、みんなを笑顔にしたい。それが俺の願いだ」
「大きい願い…だね。でも、遊次さんは全然プレッシャーを感じてるように見えない。
僕とは大違いだ」
マルコスは俯き気味に上目遣いで遊次の顔を見る。
「俺の場合、緊張よりもワクワクが勝つんだ。
どんな強い相手なんだろう、どんなデュエルをするんだろうって。
今だって、すげー楽しいぜ!お前のデュエル、想像してたよりずっとやべーし!」
遊次はニッと笑って見せる。
「…強いからこそ、余裕があるんだと思う。僕にはそんな風には考えられない…」
「余裕なんてねーよ!今もお前のモンスターをどう攻略しようかマジで悩んでるぜ。
でも、俺は俺のデッキを信じてる。それだけだ。
ただお前の願いをこのデュエルでぶつけろ!そうすりゃ、デッキは応えてくれる!」
「願いをぶつける…」
マルコスは遊次の言葉を反芻する。
その時脳裏に蘇ったのは、今日のために友達で集まって必死にデュエルの腕を磨いたこと。
その1つ1つの積み重ねが今日までの道を作ったのだ。
マルコスは友人達の思いを胸に、真っ直ぐと前を見る。
「…ありがとう、遊次さん。少し勇気が湧いた。
対戦相手の僕を励ましたりなんかして…後悔しないでよ!」
マルコスは凛々しい笑顔でデュエルディスクを構える。
遊次はそんな彼の表情を見て同じく笑って見せる。
「後悔しねーさ!俺が勝つからな!」
マルコスの闘志に応えるように遊次もデュエルディスクを構える。
「俺のターン、ドロー!」
遊次はデッキからカードを勢いよく引く。
「このドローフェイズ、フィールド魔法『エニグマトリクス・フラクタルラビリンス』の効果発動!
お互いのターンに1度、墓地のエニグマトリクスを1体、攻撃表示で特殊召喚できる。
蘇って、『エニグマトリクス・トリオミノ』!」
空間の正四角形が回転し、そこに空いた穴から
再び炎の紋様が描かれたブロックの巨体を持つ融合モンスターが姿を現す。
「今、エニグマトリクス・ゴーストの両隣に2体の融合モンスターがいる。
エニグマトリクス・ゴーストの効果で、両隣にモンスターがいる限り、
自分の『エニグマトリクス』カードは相手の効果の対象にならない!」
--------------------------------------------------
【マルコス】
LP8000 手札:1(エニグマトリクス・ソーマ)
①エニグマトリクス・トリオミノ ATK2600
②エニグマトリクス・ゴースト ATK2400
③エニグマトリクス・ピラミンクス ATK3300
フィールド魔法:1
伏せカード:2
墓地(上から):ヴォイド(闇☆6)、ソーマ(風☆5)、モザイク(地☆5)、アイビー(水☆5)、
フュージョン(魔法)、スクエア(罠)
【遊次】
LP8000 手札:6
魔法罠:0
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「な、なんとアルバレス選手!
墓地だけに留まらず、フィールドでもパズルを完成させ、全体に対象耐性を付与!
なんという盤石なフィールド!これを神楽選手は突破できるのかーー!」
「(マルコスがどう出るのかわかんねーけど…とにかく、やれるだけやってみるしかねえ)」
数秒の思考の後、遊次が動き出す。
「俺のフィールドにモンスターがいない時、
『妖義賊-脱出のシェパード』は手札から特殊召喚できる!」
■妖義賊-脱出のシェパード
効果モンスター
レベル3/地/獣/攻撃力900 守備力1100
このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚する。
②:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター1体をリリースし、
以下の効果から1つを選択して発動できる。
●相手の墓地のモンスター2体を選び、自分フィールドに特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃力・守備力は0となる。
●相手はデッキからモンスター2体を選ぶ。
自分は選んだモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃力・守備力は0となる。
そのモンスターは、シェパード犬の顔を持ちながら、整った二足歩行の姿勢で立っている。
首元にはシルクのスカーフが巻かれ、風になびいて優雅に舞う。
カーキ色のジャケットを羽織り、下からは白いシャツの襟が見える。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/mbD8bgW
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「脱出のシェパードの効果発動!フィールドの妖義賊をリリースし、
相手の墓地からモンスター2体を、効果無効・攻守0にして特殊召喚する!
シェパード自身をリリースして、
お前の墓地の『エニグマトリクス・ソーマ』と『エニグマトリクス・モザイク』をもらうぜ」
シェパードは爪先でトンと飛び上がると、その姿は光へと消える。
「なるほどな。墓地からモンスターを奪っちまえば、
マルコスのパズルを崩せるってわけだ」
観客席のドモンは瞬時に遊次のプレイの意図を掴む。
「そうはさせないよ!罠カード『エニグマトリクス・Tブロック』発動!
このカードの左上、上、右上にカードが存在する場合に発動でき、
相手の発動したカード効果を無効にして破壊する!」
マルコスの罠はカードの配置が発動条件になっているようだ。
罠カードの左上・上・右上にはモンスターが存在し、カードがT字を描いている。
マルコスのフィールドに、オレンジ色のT字のブロックが出現し、
そのブロックが強い光を放つとシェパードの効果は無効となる。
「なんとアルバレス選手!伏せカードを発動するためのパズルもフィールドに揃えていたぁ!
神楽選手の一手はクリティカルだったものの、アルバレス選手が一歩上回ったぁ!」
実況の多口伝助は目を見開いてフィールドを凝視し、その状況を熱を帯びた声で伝える。
「さらに『エニグマトリクス・Tブロック』の効果で
デッキから『エニグマトリクス』モンスター1枚を手札に加える。
僕が手札に加えるのはレベル4の『エニグマトリクス・ミラー』」
「やっぱ一筋縄じゃいかねえか…!」
遊次は悔しさを滲ませながらも笑顔のままだ。
待ち望んでいた強敵とのデュエルへの楽しみの方が勝っているらしい。
「君のデッキは相手のカードを奪うのが特徴…もちろん知ってるよ。
対策しないはずないよね」
マルコスは自身のプレイが着実に遊次を追い詰めている実感を得たことで、
少しずつ自信を持ち始めているようだ。
「へっ、カード1枚で対策できるほど俺のデッキは甘くねえよ。
俺は『妖義賊-駿足のジロキチ』を召喚!」
■妖義賊-駿足のジロキチ
効果モンスター
レベル4/地/獣/攻撃力1600 守備力800
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「ミスティックラン」モンスターを1枚手札に加える。
②:このカードがリリースされた場合、
相手フィールドの表側表示のモンスター1体を対象として発動できる。
その表側表示モンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。
現れたのはほっかむりを被ったねずみ男のモンスターだ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/6MJzyaS
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「ジロキチの召喚時、デッキから『ミスティックラン』モンスターを1体手札に加えられる。
俺は『妖義賊-助太刀のサルバトーレ』を手札に加える」
「(自分のモンスターが破壊された時に特殊召喚されて、
僕の墓地のモンスターを奪う効果か…)」
マルコスは遊次が手札に加えたサルバトーレの効果を瞬時に把握する。
「バトルフェイズだ!駿足のジロキチで『エニグマトリクス・ゴースト』に攻撃!」
遊次はそれ以上モンスターを展開することもなく、
攻撃力1600のモンスターで攻撃を仕掛けた。
「えぇ!?」
観客席のリアム、リク、トーマスは一斉に驚き、つい立ち上がってしまう。
ダニエラは一喝して3人をすぐに座らせる。
「おっと神楽選手、ここでまさかのバトルフェイズ突入!?
ジロキチの方が攻撃力は低いぞ、大丈夫かぁー!」
「(やっぱりそう来るよね…!)」
マルコスにとっては想定内の行動だったようだ。
「この瞬間、『エニグマトリクス・ピラミンクス』の効果発動!
1ターンに1度、相手フィールドのモンスターを全て除外する!」
マルコスの効果発動に遊次は眉をぴくりと動かす。
「な、なんとアルバレス選手!ピラミンクスの強力な全体除外効果を、
下級モンスター1体に使用したぁーー!
両者のプレイは、我々一般人の理解を超えている!!」
実況席から大きく身を乗り出した多口を、他の関係者が一生懸命引き戻している。
「君の手札の『助太刀のサルバトーレ』は、
自分のモンスターが破壊された時に特殊召喚され、
僕の墓地のモンスターを奪う効果を持ってる。
もしこのままジロキチの攻撃を通せば、
ジロキチが破壊されてサルバトーレが特殊召喚される」
「そこで僕の墓地からレベル5モンスターを奪えば、
『同じレベルのモンスターが墓地に3体に並ぶ』という条件を崩して、
ピラミンクスの除外効果を封じられる。だからこの攻撃は止めなきゃいけない!」
この攻撃を通せば、いずれにしても除外効果は封じられるため、
下級モンスター1体しかいないといえど、全体除外効果を使用する他ない。
「さすがだなマルコス…!だがジロキチは除外させねえ。
手札から速攻魔法『妖義賊の即日決行』を発動!
妖義賊1体をリリースして、デッキから『予告状』カードを1枚墓地に送る」
■妖義賊の即日決行
速攻魔法
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:フィールド上の「ミスティックラン」モンスター1体をリリースして発動する。
デッキから「予告状」魔法カードを1枚墓地に送る。
その後、そのカードを墓地から除外する。
この効果の発動後、この効果で除外したカード以外の「予告状」魔法カードの効果は使用できない。
「俺はジロキチをリリースして、デッキから『爆炎の予告状』を墓地に送る。
そしてその後、すぐに除外する!」
ジロキチはリリースされたことで光となって姿を消す。
ピラミンクスが胸部のピラミッドから光を放つが、
フィールドにモンスターがいない遊次には影響はなかった。
ここで一連のチェーン処理が終わる。
ジロキチはリリースされた場合に相手モンスターを奪う効果があるが、
マルコスの「エニグマトリクス・ゴースト」の効果で
「エニグマトリクス」カードは対象に取れないため、奪う対象がいない。
「この時、除外された『爆炎の予告状』の効果発動!
このカードが墓地から除外された場合、相手フィールドのカードを全て破壊する!」
「そんな…!」
これまで冷静に遊次の手に対処してきたマルコスも、これには動揺を隠せない様子だ。
マルコスのフィールドは大きな炎に包まれる。
マルコスは熱さを感じているかのように顔を両腕で覆い隠し、本能的に身を守る。
炎の渦は観客席をかすめるほどまでに大きくなり、体をかがめる者も少なくない。
多口はフィールドから離れた実況席から身を乗り出し、その爛々と燃える炎を見つめる。
炎の渦はどんどんと大きくなり、マルコスのモンスターとフィールド魔法は全て破壊される。
フィールド魔法が破壊されたことで、幾何学的なブロックの空間は消え去り、
スタジアムの景色に戻る。
しかしマルコスのフィールドには、エニグマトリクス・ピラミンクス1体が立ち塞がっていた。
「エニグマトリクス・ピラミンクスは、
墓地にモンスター・魔法・罠の順番でカードが並んでる時、効果で破壊されない。
さらに、墓地の『エニグマトリクス・スクエア』は、墓地の一番下にある時、
伏せカードを破壊から守ることができる」
マルコスはかろうじて切り札と伏せカードを守ったが、表情は苦悶そのものだった。
盤石なフィールドを誇っていたマルコスと遊次の状況は、ほぼイーブンになったと言える。
「なんという攻防だー!!圧倒的不利と思われた神楽選手だったが、
結果的にはピラミンクスの除外効果を使わせた上に、
アルバレス選手のフィールドをほとんど破壊してしまったー!
これぞまさに予測不能のトリックスター!前回の予選通過者の実力は伊達ではなかったァ!」
マルコスの強力な布陣をあっさりと半壊に追い込んだ遊次のプレイに、
熱量を帯びた実況も相まって、会場は大いに湧き上がる。
「遊次、すごい!」
灯が何度も手を叩き拍手を送る。
「手札2枚という最低限のリソースで相手フィールドを崩す…まさに匠の技ですね」
治は手に持ったメモ帳に何かを書き記しながら、遊次のデュエルを解説する。
「噂には聞いてたけど、あの人、あんなに強かったのか…」
遊次の実力を自分の目で見た事のなかった星弥は、初めてそれを目の当たりにする。
「ハハッ!怜央に勝っただけあるねー!」
「あぁ?」
ランランが無邪気に笑っているのを、隣で怜央が鬼の形相で睨みつける。
「なに怒ってんだい、事実じゃないか」
「ハッ、んなもん8ヶ月も前のことだぜ。今戦ったら絶対負けねえ」
ニヤニヤしながら煽るダニエラに怜央は不機嫌そうに言い返し、
腕と足を組んでフィールドに向き直る。
「手札の『妖義賊-美巧のアカホシ』の効果発動!
除外されている予告状を任意の数デッキに戻して、このカードを特殊召喚できる!
爆炎の予告状をデッキに戻し、特殊召喚!」
■妖義賊-美巧のアカホシ
ペンデュラムモンスター
レベル7/風/鳥獣/攻撃力2300 守備力2000 スケール8
【P効果】
このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:元々の持ち主が相手となるモンスター1体を対象とし、
1~7までの任意のレベルを宣言して発動できる。
そのモンスターのレベルはターン終了時まで宣言したレベルになる。
【モンスター効果】
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分の除外されている「予告状」カードを任意の枚数デッキに戻して発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、
攻撃力がこの効果でデッキに戻した「予告状」カードの枚数×500アップし、
このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ相手モンスターの効果を受けない。
②:自分メインフェイズに発動できる。
デッキから「ミスティックラン」Pカード1枚を手札に加える。
自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合、
この効果で手札に加えるカードは2枚になる。
③:このカードがEXデッキに表側で存在し、自分のPゾーンにPカードが存在する場合に発動できる。
このカードを手札に加える。
遊次のフィールドには赤い着物を纏った鳳凰の頭を持つモンスターが現れる。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Beta2kb
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「アカホシはデッキに戻した予告状の数×500、攻撃力がアップする」
妖義賊-美巧のアカホシ 攻撃力2300→2800
遊次がデュエルディスクを掲げると、両端の魔法・罠ゾーンの下から
カードゾーンがスライド式に現れる。
「俺はスケール8の『妖義賊-舞蛇のキク』をペンデュラムスケールにセッティング!」
遊次の頭上に白い蛇の頭を持ち桃色の着物を纏ったモンスターが現れる。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/tsPN11Y
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「舞蛇のキクのP効果発動。
1ターンに1度、デッキから儀式モンスターか儀式魔法1枚を手札に加えられる。
デッキから儀式魔法『儀式の予告状』を手札に加えるぜ。
ただし『妖義賊の即日決行』のデメリットで、このターンは予告状を発動できない」
「さらに自分フィールドに妖義賊がいる時、
このモンスターは手札から特殊召喚できる。来い、『妖義賊-忍びのイルチメ』!」
■妖義賊-忍びのイルチメ
効果モンスター
レベル4/地/戦士/攻撃力1500 守備力1200
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドに「ミスティックラン」モンスターが存在する場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
②:手札から「予告状」カードを1枚捨てて発動できる。
相手の手札を確認し、その中からレベル4以下のモンスター1体を選ぶ。
そのモンスターを効果を無効化し、自分フィールドに特殊召喚する。
現れたのは紫色の忍び装束を身に纏い、長い髪を後ろで束ねたくノ一だ。
右手にはクナイを持っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/xBnMfae
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「イルチメの効果発動!手札の予告状を1枚捨て、
相手の手札の中からレベル4以下のモンスター1体を奪い、俺のフィールドに特殊召喚できる。
儀式の予告状を捨ててこの効果を使用。
さっきレベル4モンスターを手札に加えてたよな?見せてもらうぜ」
「うぅ…」
マルコスは抵抗感を剥き出しに自分の2枚の手札を表向きにする。
マルコスの手札には2体のエニグマトリクスモンスターがあった。
「レベル4以下はコイツだけだな。来い『エニグマトリクス・ミラー』!」
遊次のフィールドに、全長約3メートル程の巨体が姿を現す。
無数の異なる大きさの直方体や立方体が組み合わさり、人型を形成している。
表面は鏡のように光っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/dQUvDyl
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「これぞ神楽選手の真骨頂!相手のカードを利用する妖義賊デッキの本領発揮だぁ!」
「さらに美巧のアカホシの効果発動!
1ターンに1度、デッキから『妖義賊』Pモンスターを手札に加えられる。
相手から奪ったカードが俺のフィールドにある時、手札に加えられる枚数は2枚になる。
俺はデッキから『妖義賊-雲龍のリヘイ』と『妖義賊-誘惑のカルメン』を手札に加える」
「俺はもう片方のPスケールに、スケール2の『妖義賊-誘惑のカルメン』をセッティング!」
遊次の頭上に、紫のローブを纏いヴェールを顔に覆った、妖艶な女モンスターが浮かぶ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/dwkEFaw
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「Pスケールは2~8。よって、レベル3~7のモンスターを同時に召喚可能!」
「ペンデュラム召喚…!」
マルコスは正面頭上に現れた巨大な振り子を見つめる。
「天に弧を描く義の心、その輝きより現れ同胞の声に呼応せよ!
ペンデュラム召喚!来い、俺のモンスター達!」
左右に大きく揺れる振り子。その中心から2つの光がフィールドに降り注ぐ。
「レベル4『妖義賊-助太刀のサルバトーレ』、レベル7『妖義賊-雲龍のリヘイ』!」
現れたのは短刀を携え、胸のあいた毛皮の服を纏った猿のモンスターと、
ひげの生えた紫色の龍の頭を持つ人型のモンスターだ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/iEwZtaH
ttps://imgur.com/a/kl0jjqA
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「助太刀のサルバトーレの効果発動!相手から奪ったカードがフィールドにある時、
デッキから『予告状』カードを1枚手札に加える。
手札に加えるのは『一攫千金の予告状』だ」
「さらに雲龍のリヘイの効果発動!相手から奪ったモンスター1体をリリースして、
デッキから『ミスティックラン』罠カードを1枚手札に加える。
お前から奪った『エニグマトリクス・ミラー』をリリースして、
デッキから『妖義賊の影縛り』を手札に加える」
遊次のフィールドの鏡の巨人はリリースされ、消失する。
「(…モンスター4体・Pスケール2枚・手札が2枚…元より増えてるじゃないか。
回りだせば止まらないデッキか…)」
観客席の車椅子スペースから、車椅子でデュエルを見つめる青年は、
遊次のデュエルを、虚ろな桃色の瞳で見つめている。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/csRlhJV
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「誘惑のカルメンのP効果発動!妖義賊を1体リリースし、
デッキから妖義賊モンスター1体を特殊召喚する。
『雲龍のリヘイ』をリリースし、デッキから『妖義賊-深緑のロビン』を特殊召喚!」
■妖義賊-深緑のロビン
効果モンスター
レベル4/風/戦士/攻撃力1800 守備力500
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合、
自分の墓地のレベル4以下の「ミスティックラン」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
②:手札から「予告状」カード1枚を捨て、
墓地の「ミスティックラン」魔法・罠1枚を対象として発動できる。
そのカードを手札に加える。
③:このカードがリリースされた場合、
相手フィールドの表側モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの効果を無効にする。
現れたのは緑色の外套を纏い弓を持った若い青年のモンスター。
顔は威厳を帯びた鋭い目を持ち、茶髪のセンターパートをしている。
首元にはシンプルなオレンジ色の緑色のマフラーが巻かれている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/PHAQB1t
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「深緑のロビンの召喚・特殊召喚時、
墓地のレベル4以下の妖義賊1体を特殊召喚できる。
復活せよ、『俊足のジロキチ』!」
再びほっかむりを被ったねずみ男のモンスターが現れる。
「深緑のロビンの効果発動!手札の予告状を1枚捨てることで、
墓地の『ミスティックラン』魔法・罠を1枚手札に加えられる。
手札の『一攫千金の予告状』を捨てて、墓地の『妖義賊の即日決行』を手札に戻す」
「さあ行くぜ!こっからが本番だ!
俺は『助太刀のサルバトーレ』、『忍びのイルチメ』、『俊足のジロキチ』を
リンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」
フィールドに現れたサーキットのアローヘッドに、3体のモンスターが飛び込んでゆく。
「権威を穿つ風雲児よ、今こそ逆境を覆す英雄となれ!
リンク召喚!現れろ、リンク3!『妖義賊-神出鬼没のギルトン』!」
■妖義賊-神出鬼没のギルトン
リンクモンスター
リンク3/風/獣戦士/攻撃力2200
【リンクマーカー:左下/下/右下】
モンスター2体以上
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをL素材にしている場合、
このカードは相手の効果で破壊されない。
②:このカードがL召喚した場合、
相手のフィールド・墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターのコントロールを得る。
その後、そのモンスターを含む自分フィールドのモンスターを素材として
融合・S・X・L召喚を行うか、
そのモンスターを含む手札・フィールドのモンスターをリリースして儀式召喚を行う。
③:このカードのリンク先にP召喚された場合に発動できる。
自分はデッキから2枚ドローする。
そのモンスターは、鋭い目つきを持つ豹の顔をした獣戦士。
額には蒼のバンダナが巻かれ、胴体部分には茶色の革のチュニックを着ており、
背中には、鋭利な長剣が一本背負われている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/0seLbZv
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「いつ止まるんだ、君のデッキは…!」
マルコスに顔はどんどん曇ってゆく。
「まだ止まらねえよ。『神出鬼没のギルトン』がL召喚した時、効果発動!
相手のフィールド・墓地からモンスターを1体奪って、
そのモンスターを使って融合・S・X・L・儀式召喚を行う!」
「まだ奪うっていうのか…」
マルコスはデュエルディスクの魔法・罠ゾーンに指をかけ警戒を強める。
「(本当はアイツの墓地に3体並んでるレベル5モンスターを奪って、
パズルを崩しておきたいとこだけど…。
アイツのエニグマトリクス・ゴーストは、
墓地から除外して俺の魔法・罠を破壊する効果を持ってる。
おまけに融合効果もあるから、次のターンを考えたらコイツを奪っといた方がいい)」
遊次は瞬時に頭を回転して答えを出す。
「俺はお前の墓地の『エニグマトリクス・ゴースト』を奪い、
そのモンスターを素材にエクシーズ召喚する!」
遊次のフィールドに漆黒のボディをした単眼のモンスターが現れる。
「エクシーズ召喚…?
エニグマトリクス・ゴーストはレベル6、
君のフィールドには他のレベル6モンスターはいない。
エクシーズ召喚はできないはずだよ」
マルコスから至極真っ当な指摘を受けた遊次は、人差し指を立てて「チッチッチッ」と舌を鳴らす。
「このXモンスターは相手から奪ったモンスターをレベル4として扱ってX召喚できる。
俺はレベル4『深緑のロビン』と、
お前から奪った『エニグマトリクス・ゴースト』でオーバーレイ!
2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」
地面に現れた黒い銀河のような渦に、2体のモンスターが飲み込まれてゆく。
「夜に這い寄る不敵な魔の手、その技巧で勝利を奪い取れ」
口上を唱えると、黒い銀河が逆流し、新たなモンスターが姿を現す。
「エクシーズ召喚!ランク4!『妖義賊-怪盗ルパン』!」
■妖義賊-怪盗ルパン
エクシーズモンスター
ランク4/闇/戦士/攻撃力2100 守備力1500
レベル4モンスター×2
元々の持ち主が相手となるモンスターをこのカードのX召喚の素材とする場合、そのレベルを4として扱う。
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの効果を無効にし、コントロールを得る。
②:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターを素材としている場合、以下の効果を得る。
自分の墓地の「予告状」カード1枚を対象として発動する。そのカードを除外する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
現れたのは、黒いハットを被りマントを纏った怪盗の姿。
手には白い手袋、目元には白い仮面を着けている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/mcoDQUC
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「ペンデュラム・リンク・エクシーズ…なんと華麗な連続召喚でしょうかぁ!」
多口の賞賛と共に、会場の観客は拍手を送る。
会場を味方にする遊次に対して、マルコスの中の不安はどんどんと募ってゆく。
少し丸くなったマルコスの背中を、彼の友人達は心配そうに見つめている。
--------------------------------------------------
【マルコス】
LP8000 手札:1(エニグマトリクス・ソーマ)
①エニグマトリクス・ピラミンクス ATK3300
伏せカード:1
墓地(上から):ミラー(光☆4)、トリオミノ(炎☆6)、フィールド魔法、Tブロック(罠)、
ヴォイド(闇☆6)、ソーマ(風☆5)、モザイク(地☆5)、アイビー(水☆5)、
フュージョン(魔法)、スクエア(罠)
【遊次】
LP8000 手札:2
①妖義賊-神出鬼没のギルトン ATK2200
②妖義賊-美巧のアカホシ ATK2800
③妖義賊-怪盗ルパン ATK2100 エニグマトリクス・ゴーストを素材化
Pゾーン:妖義賊-舞蛇のキク、妖義賊-誘惑のカルメン
--------------------------------------------------
マルコスの強力な布陣を突破し、
前回のドミノタウン予選の通過者として、強者の風格を見せる遊次。
仲間達の応援を背に、このまま勝利を掴むことができるのか。
第31話「開幕 ヴェルテクス・デュエリア」完
遊次の猛攻に、マルコスは予想を超えた一手を見せる。
しかし遊次はその予想すら上回り、マルコスを翻弄する。
マルコスの胸に沸き上がる、夢が潰えることへの絶望感。
だが、ある者の言葉によってマルコスは奇跡の片鱗を見せ、
遊次は過去最大のピンチに陥る。
次回 第32話「究極の難題」
新たにアスラナク・バルネフェル氏が国王に就任した模様です。
ただし、これまでもネフカ王国は外国への情報公開をほとんど行っておらず、
この国王交代についても詳細は確認されておりません」
テレビのニュースが速報を告げる。
なんでも屋「Next」のメンバー4人は、
そのニュースを事務所でかじりつくように見ていた。
今日は休業日だが、とある目的のために全員が集まっていた。
「お待たせしました!
間もなく、ヴェルテクス・デュエリア開会式の様子を中継いたします」
「…来たー!」
遊次が待ってましたとばかりに手を叩く。
灯も何度も座り直したりとソワソワしている様子だ。
イーサンと怜央はただ静かにテレビを見つめている。
以前の親子関係を修復する依頼から5カ月が経過した。
今月からついにヴェルテクス・デュエリアの予選が開始する。
今日は本戦会場であるメインシティの真っ赤なドームにて、開会式が行われるのだ。
チケットが高額なため、残念ながら現地では観ることができず、
こうしてテレビでの中継を食い入るように見ている。
テレビに真っ赤な巨大ドームの外観が映し出される。
これこそがヴェルテクス・デュエリア本戦の会場「デュエルドーム」だ。
ドームの天井は開かれており、観客席からも青々とした空を見渡すことができる。
映像はドローンによって映し出される会場内部のものに切り替わる。
そこには数万人の人々が歓声を上げ、この祭典の開催を心から喜んでいる。
会場内で鳴り響いていた荘厳な音楽が止まり、突如として静寂が訪れる。
観客達やテレビの前の遊次達もこれが何かの前触れであると直感し、息を呑む。
すると上空から、会場の中央へ黒く巨大な"何か"が高速で降ってくる。
それは観客席の目の前でぴたっと止まる。
ゴツゴツとした表面に、長い尾のようなものがとぐろを巻き、本体を覆い隠している。
そしてとぐろが下から外れてゆき、その中身が姿を現す。
それは真っ黒なドラゴンだった。瞳は赤く巨大な2本の赤き角を持ち、
10メートル以上はある長い尾を持っている。
翼を大きく広げ、喉から高々と心臓に突き刺さるほどの轟音を鳴り響かせる。
「『ニーズヘッグ』だ!!かっけえ〜!!」
テレビの前の遊次はテンションが上がり、ソファから立ち上がる。
「クッソ…会場で見たかったぜ…!」
怜央も悔しそうに拳を握りながら、悔しさを噛み締めている。
それと同時にテレビの向こう側の観客も歓声と拍手を送っている。
このドラゴンは「ニーズヘッグ」と呼ばれるデュエルモンスターズのシンボルのようなモンスターだ。
これはニーズヘッグ・エンタープライズの創設者「ヘックス・ヴラッドウッド」の
切り札として有名なモンスターであり、
彼が世界にもたらした圧倒的な功績から、その切り札も世界的人気を誇る象徴として名高い。
会場に現れたニーズヘッグはソリッドヴィジョンだが、その迫力はテレビ越しでも伝わってくる。
ニーズヘッグがその翼で大風を起こすと、会場の空中を雄々しく飛び回る。
会場を一周した後、中心にあるステージの後ろに二本足で着地する。
会場中の視線はそこに集中する。
そしてそのステージには大統領「マキシム・ハイド」が手を後ろで組み、威風堂々と立っていた。
会場は何かを待つように静まっている。
マキシムは演説台に両手をつき、会場の中心を真っ直ぐ見据え、視線を一手に引き受ける。
「カードとは心だ!」
マキシムのよく通る低い声が会場中に響き渡る。
「喜び・悲しみ・愛・憎しみ・怒り…
君達の全ての感情がカードとなり、君達に力を与える」
「デッキとは、そんな君達1人1人の心が形作る…君だけの武器だ!」
マキシムは演説台の正面の観客席にいる1人の少年を指差し、
まるでその子に訴えかけているかのように熱く語る。
指を差された子供は突然のことに驚くも、マキシムの言葉を自分の人生に重ね合わせ、頷く。
彼の言葉は、ただの開会式の挨拶ではなく、
何かを伝え、聞いた人の人生を動かそうという意思のあるものだった。
「我々デュエリア政府は40年前、DDASと不可逆的な契約を結んだことによって2つの義務を負った。
この大会を4年に1度開催すること。
そして、優勝者の願いを1つ叶えることだ」
「どんな願いでも叶えよう!金か!夢か!はたまた…復讐か。
思い描くといい!それは、叶う!」
実際は法を破るものやデュエリアの財政を超える願いは叶えられないが、
マキシムはそんな注釈を挟むことはしなかった。
どんな願いでも叶うと言っても差し支えはなく、仮に叶えられぬ願いがあったとしても、
見方を変えれば、大抵は法や財政の範囲内での代替案が存在する。
例えば「恨んでいる相手を殺したい」という願いがあるとして、
それを直接的に叶えることはできないが、
「その者の人生を終わらせるに等しい事」を願いとして叶えれば復讐は果たせる。
「君達の、心の炎を燃やして…掴み取れッ!己の欲望を!願いを!
君達には、それを可能とする"武器"があるッ!」
マキシムは左手の拳を心臓の前で握り、もう片方の拳を高らかに掲げる。
その瞬間、会場から大きな声援が沸き起こる。
「うおおお!熱ィぜちくしょうっ!」
このマキシムの心に直接訴えかけるような語りに、遊次も火が点いたようだ。
「さすが、演説王と呼ばれるだけあるな。伊達に16年も大統領を務めてない」
イーサンもマキシムの人の心を動かす話術に感心する。
「老輩からの言葉はここまでだ。
続いてはこの世界をリードする若き才能にご登場願おう。
ニーズヘッグ・エンタープライズCEO、オスカー・ヴラッドウッド!」
マキシムがその名を呼ぶと、拍手の中、オスカーが壇上へと向かう。
マキシムは壇上から降り、2人はすれ違う。そしてそのすれ違いざま、両者は視線を交わした。
オスカーがマキシムを鋭き眼で刺すように見ると、
マキシムは口元を緩め、余裕そうに視線を返した。
オスカーが登壇し、再び会場は静まり返る。黒いマントが風にたなびいている。
「ヴェルテクス・デュエリア。この大会は、我が祖父ヘックス・ヴラッドウッドが、
デュエルによる世界の発展を願ったことが始まりだ。
我が社が創設されたのもその一心ゆえ。彼は誰よりもデュエルモンスターズを愛した。
今は深き眠りについているが…きっと祖父も、この大会を待ち望んでいるはずだ」
オスカーは一定のトーンで淡々と語る。
「ヘックス・ヴラッドウッドって確か…事故かなんかで植物状態になってるんだっけか」
世相に疎い怜央はわずかな記憶を呼び起こす。
「あぁ。確か10何年前だったか…交通事故に遭ったんだ。
一命を取り留めただけでも幸いだと思うがな…」
イーサンは話しながら、当時ニュースが大騒ぎになったことを思い出した。
オスカーの経営方針は、ヘックスの創業時からの思想を色濃く受け継いでいる。
オスカーが開会式の場で彼の名を挙げたのも、
人々の記憶からヘックスという存在を消さないようにするためだろう。
「この大会は過去9度に渡って開催されてきた。
その度にデュエリスト達は命を削る思いで戦った。己の願いを叶えるために」
「だが…これだけは忘れないでほしい。デュエルは、楽しむものであることを」
「…!」
遊次は彼の発した言葉に驚く。
楽しさという概念を持っていることを、オスカーからあまり想像できなかったからだ。
「デュエルという手段で己が道を切り開く。それも素晴らしい。
我々が創ってきたのはそういう世界だ。
この大会に挑む者達は、まさにその極致に指を掛ける実力者だろう」
「しかしその根底には、楽しいからこそデュエルに没頭し、飽くことなくカードに触れ続けた…
その積み重ねがあるはずだ」
この言葉を聞いた灯は、テレビに夢中になっている遊次の横顔を見る。
オスカーの言葉はまさしく遊次そのものを表していると感じたからだ。
「激闘の果てに道を見失ったなら…そこに立ち返るといい。
そして、戦いを見届ける者達も同じだ。
願いと願いの衝突の熱さに身を任せるのもいいだろう。
だがまずは…楽しめ!」
オスカーが腕を振るうと黒いマントがそれに合わせてたなびく。
マキシムは願いを叶える手段としてのデュエルを、
オスカーは楽しむためのデュエルを軸に語った。
この大会へ熱い思いを持っている両者からは、どこか決定的な思想の違いが見えた。
「(…いずれ真実を世界に明かす必要はあるけど、
今は"楽しませる"ことが最優先、か。兄さんらしい)」
同じく開会式会場の端で見ていたオスカーの弟『ルーカス』は、
兄の背中を見つめ、腕を組んで考える。
「この社長…スカした奴だと思ってたけど、意外といいこと言うじゃねえか!」
遊次は、オスカーの言葉に胸を打たれたようだ。
「言葉にも説得力あったしね~」
灯も遊次に賛同する。
「最後に、この方に登壇していただく。
7代目デュエルチャンピオンであり、現デュエル省長官…『天王寺高貴』」
オスカーがその名を呼んだ途端、会場は大歓声で埋め尽くされる。
オスカーはそのまま降壇し、天王寺が上がる。
「天王寺さんっ!!」
遊次もその名前を聞いた途端、思わず立ち上がる。
「あぁ、ファンだったっけか。聞いたことある気がする」
怜央はかつてイーサンから聞いた話から、
遊次にとって天王寺が憧れのデュエリストであることを思い出す。
遊次が記憶を失って間もない頃、
12年前のヴェルテクス・デュエリア本戦を観戦した遊次が憧れを抱いた人物、それが天王寺高貴だ。
遊次の明るく真っ直ぐな性格も当時の彼の影響によるものが大きい。
壇上に上がったその男は、真っ赤な髪に澄み渡る青の瞳をしていた。
首元を襟が覆うボタン付きの白い服を纏っている。
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イーサンも天王寺をじっと見つめ、何かを考えている。
「いつまでも変わらない若さだねー。30代とは思えないもん。
…あっ」
灯は無意識にイーサンに目線を移してしまい、目が合うと気まずい声を上げる。
「おい、今失礼なこと考えただろ」
イーサンはじっとした目で灯を睨む。
「え?ぜ、全然!イーサンも変わらず、わ、若いなーって…ハハ…」
「その気遣いが逆に辛いよ…」
イーサンは肩を落とす。
天王寺は笑顔で観客に手を振りながら壇上へ上がり演説台の前に立つ。
拍手が止まると落ち着いた様子で話し始める。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。
この大会は世界最大のデュエルの祭典として開催され、今年で40周年を迎えました。
それも、デュエルの腕を磨き続け、この大会に情熱を持って臨んでくださる皆さんあってこそです。
デュエル省長官として、感謝申し上げます」
天王寺は丁寧かつ円滑に言葉を紡ぐ。
「かくいう僕も、ヴェルテクス・デュエリアがきっかけで人生が変わった1人です。
12年前のあの日から…僕の人生は大きく変わりました。…本当に、大きく」
天王寺は噛み締めるように話す。
彼は12年前にチャンピオンとなったことから大きな名声を得て、
その人気も後押しして政治家として成功した。
しかし天王寺の表情の目線は下に向いており、どこか浮かない様子だ。
遊次もその様子を感じ取ってか、さっきまでの明るいテンションから打って変わり、
落ち着いた様子でテレビを見つめている。
「…皆さんを言葉で奮起させる役割は、ハイド大統領とオスカー氏が十分果たしてくれました。
だから…僕から伝えたいことはたった1つです」
「どんな願いでも叶うヴェルテクス・デュエリア。
12年前のこの大会で、俺には叶えられなかった願いがありました」
天王寺の一人称が変わった。
政治家として壇上に立っていたこれまでとは違い、
1デュエリストとして、1人の人間として話すということなのだろう。
ヴェルテクス・デュエリアはどんな願いでも叶う祭典だ。
しかし天王寺は『願いが叶わなかった』と口にした。
大半の観客達は「もう1つ叶えたい願いがある」という意味として頭の中で捉えた。
あくまでも叶えられる願いは1つだけだからだ。
「だから俺は…その願いを叶えるために、この場所にもう1度立つ。
政治家ではなく、デュエリストとして」
観客達はまだ言葉のその意図を掴みきれなかったが、
「もしかしたら」という可能性が頭に浮かび、次第にその喧騒はざわざわと大きくなってゆく。
「俺は…ヴェルテクス・デュエリアに出場する」
瞬間、大歓声が上がった。
「嘘だろぉ!マジかよっ!!」
テレビの前の遊次は勢いよく立ち上がり、興奮を抑えきれず辺りをうろうろしている。
「メインシティ1次予選から参加する。…また12年前みたいに、1歩ずつ上がらせてもらうよ。
以上だ。それではデュエリスト諸君、ぜひ本戦で会おう」
会場の熱気が収まらぬ中、天王寺は壇上を降りてゆく。
無駄に居座らず、すぐに立ち去るその様子はまさにスターだった。
チャンピオンといえど、12年前の大会の優勝者ではシード枠とはいかず、
1次予選から参加することになるようだ。
その後、いくつかのセレモニーが行われた後、開会式は幕を閉じた。
「天王寺さんが出る!信じらんねえ!12年越しだぞ!おい!」
遊次は未だにチャンピオン「天王寺高貴」の出場で頭がいっぱいだった。
興奮を共有するために灯達の方にその熱を向ける。
「うん…びっくりした。すごいね…」
「チャンピオンがまた出場するとはな。
メインシティ予選の奴らは気の毒だぜ。ほとんど予選敗退が決まったようなもんだ」
遊次ほどの熱量はないにしても灯や怜央も十分驚いているようだ。
怜央さえも天王寺が本戦に勝ち上がってくると確信している。
「過去にもチャンピオンが再出場したことは、あるにはある。
でも優勝してから気が抜けるのか、いい結果は残せないのが常だ。
…天王寺はどうかな」
イーサンは冷静に分析している。
「あの天王寺さんが怠けるわけねえ!なんなら前より強くなってるに決まってる!」
遊次は興奮冷めやらぬ様子でイーサンに反論する。
「…まあ、そうかもな」
イーサンもそれ以上口を挟むことはなかった。
何よりこの遊次の喜びに水を差したくなかったのだ。
「ヤベえよ…だって俺が勝ち進んだら、天王寺さんと当たるかもしれないんだぞ!」
「そっか…そういうことになるね。もしかしたら、私も…。
いや、さすがにないかな、アハハ…」
灯は自ら口にした言葉の非現実さに、自らその言葉を否定する。
「なんでだよ、灯だってあるだろ。まだ自信ないのか?あんなに特訓したのに」
「うーん、そういうわけじゃないんだけど…。まださすがにイメージできないっていうか」
灯の言葉は本心だった。自信がないわけではないが、初出場ということもあり、
自分がドームに立つ姿を想像できないのだ。
「お前は想像できてるってのか?チャンピオンと戦うこと」
怜央が遊次に問いかける。
「ったりめぇだろ!どんだけ夢見てきたと思ってんだ!天王寺さんといつかデュエルしたいって!」
あの赤いドームで天王寺とデュエルをする光景を、幼い頃から遊次は何度も思い描いてきた。
もしかしたらそれが叶うかもしれないのだ。
「…凄いね、遊次は。その自信がデュエルにも表れるんだろうね」
自分には到底そんなことは考えられないといった様子で灯は俯く。
「そんな弱気じゃ負けちまうぞ。俺や遊次もぶっ倒す気で来なきゃな」
怜央が灯に喝を入れる。
「怜央…。うん、そうだね。
せっかくAIデュエルも乗り越えて予選に出られるんだから、気合入れていかないと!」
灯は前を向いて立ち上がり、自らを鼓舞する。
ヴェルテクス・デュエリアでは、
参加資格を満たせば誰でも各16都市で行われる予選に申し込むことができるが、
応募者数万人から、まずは事前審査とAIとのデュエルをもって大多数をふるいにかける。
そして残った448人が各予選に出場することとなる。
灯と怜央はすでに事前審査とAIデュエルを楽々突破し予選出場を決めている。
「予選はいよいよ明日だ。
まずは448人がそれぞれランダムにマッチした相手とデュエルを行って勝者が勝ち上がる。
これを5戦繰り返し、14人が2次予選に勝ち残ることになる」
「1日だけで5回も戦うって、けっこうハードだよね」
灯は本戦出場までのハードルの高さに頭を抱える。
「もしそこで俺と灯がぶつかれば、どっちかは1日目で脱落になるな」
怜央は腕を組んであっけらかんと話す。
「うん…そうならないことを祈りたい…。
1次予選はVR空間でのデュエルだしね。どうせなら会場で当たりたいよ」
448人もの人数が同時に戦うフィールドを用意することが難しいため、
1次予選はVR空間にてオンライン上でのデュエルを行うこととなる。
人の移動を行う必要がなくスムーズなマッチングができるため、
このような仕組みが採用されているのだ。
VRでデュエルする装置は予選通過者にあらかじめ配布されており、
インターネット環境さえあれば好きな場所から試合に臨める。
「2次予選からは実際の会場だから観客もいる。おまけに実況付きだしな。
そっちの方が何十倍も楽しいぜ!実質2次予選からが本番みたいなもんだ」
経験者である遊次は力を込めて熱弁する。
「2次予選からシード枠として、前回の予選の1位と2位が参戦ってわけだ。
そこから16人でのトーナメント戦となる。
つまり、前回の予選通過者の遊次と、2位はえっと…誰だっけか」
イーサンは4年前の予選の記憶を呼び起こそうとする。
「珊玲(シャンリン)だ。今回も出んのかな?」
「シャンリンさんって…あのメガネの女の人?」
灯は4年前に見た遊次とその人物とのデュエルを思い出す。
ロングヘアのメガネをかけた女性が騎士のようなモンスターを繰り出し、
遊次と激戦を繰り広げていた。
「あぁ。あいつは強かったなー。モンスターもかっけーし。また戦えねえかなー」
遊次は両腕を頭の後ろに持ち上げ、いかにも浮かれた様子だ。
「ふーん…。まあ、遊次と当たる前に私が倒しちゃうかもしれないけどね」
じとっとした目で灯が少し不機嫌そうに強気な言葉を放つ。
「お、その意気だぞ灯!こりゃ1次予選は心配なさそうだな」
遊次は灯の気持ちなど露知らず、呑気に笑顔を浮かべている。
「明日13時から1次予選が始まる。
俺と遊次は仕事があるが、空いた時間があればオンライン上で観戦するよ」
本番は2次予選からだという認識もあり、明日は遊次とイーサンはNextの仕事を優先することにした。
予選はオンライン上でのVRデュエルだ。
インターネット上から観戦もできるため、空いた時間に観ることができる。
「勝てよ、灯・怜央。2次予選で待ってるぜ!」
本戦出場経験者である遊次は灯と怜央にエールを送る。2人は強く頷いた。
一段ずつ勝ち上がってゆくしかない灯・怜央は、
上で待っているというスタンスの遊次に、確かな実力の壁を感じていた。
しかしこれこそが現状だ。追いつくには、数か月に渡る鍛錬の結果を本番にぶつけるしかない。
「レベル6、ペイントメージ・モネに、レベル2となったペイントメージ・カードルをチューニング!
数多の彩より生まれし華麗なる精霊よ…」
「お、やってるねぇー灯ぃ!」
1次予選のVRデュエル。
灯が自室にて今まさに切り札を召喚しようとしている最中、
一切の遠慮なく娘の扉を開けて父親が話しかけてくる。
「ちょっとお父さん!今大事なところなの!
あと勝手に部屋に入って来ないでっていつも言ってるでしょ!」
VRゴーグルを持ち上げ、灯は怒りの眼で父を睨みつける。
「わ、わりぃわりぃ…どうしても気になったから…。怒らないでくれよ…」
無造作なグレーの短髪をした灯の父親「花咲 明(はなさき あきら)」は
申し訳なさそうに部屋のドアを閉める。
「ほんっともうっ!…ごめんなさい!ちょっと邪魔が入っちゃって!
数多の彩より生まれし華麗なる精霊よ…」
灯は対戦相手に謝りながら再びVRゴーグルを着け、デュエルへと戻っていった。
「フン、確かに俺のエクスプロードは破壊される。…その効果が通れば、な。
永続罠発動!『命取りの重鎧』!
装備カードが装備されたモンスターは効果が無効となり、守備表示となる!」
「さすがだぜ怜央の兄貴ィー!」
「こんなとこでやられる怜央さんじゃないっての!」
「がんばれー!」
アパートのリビングでリアム・星弥・ランランの声援を受けながら、
怜央もVRにて1次予選に臨んでいた。
Unchained Hound Dogsの、家庭に問題のあるメンバーはこのアパートで暮らしている。
Nextが順調なこともあり怜央も以前よりも給料は増え、
少なくとも子供達が普通の暮らしができるほどには生活は安定してきていた。
この平穏を守り、更には子供達に未来を歩んでもらう。
その願いを背負い、怜央は負けるわけにいかないこの戦いを、着々と勝ち抜いていった。
「行けぇぇえええええ!灯ィイイイ!!!
このまま勝てば2人とも1次予選突破だぞ!!」
夕日が辺りを照らす時間。
Next事務所では、遊次はパソコンの画面に唾が飛ぶほどの声援を送っていた。
その隣ではイーサンがデュエルの行く末を真剣な表情で見守っている。
すでに1次予選は5戦目を迎えていた。
怜央はすでに5勝し、2次予選へ進出を決めていた。後は灯の1戦だ。
緊張感が漂う中、今日の仕事を一通りこなした遊次とイーサンは、
仲間の世紀の一戦を手に汗握りながら観戦している。
「バトル!ペイントメージ・ゴッホでダイレクトアタック!」
VR空間上のゴッホが炎を纏った剣で相手プレイヤーに攻撃する。
そして相手プレイヤーのライフは0となった。
「よっしゃああああ!!!」
Next事務所では遊次とイーサンが手を合わせて灯の勝利を喜ぶ。
「灯のねーちゃんも1次予選突破だぁ!」
アパートの一室で試合を見ていたリアムも、飛び上がって喜ぶ。
「フン、当然だ。こんなところで負ける奴じゃねえ。勝負は…これからだ」
腕を組みながら子供達の後ろで試合を見ていた怜央は、
来たる2次予選に思いを馳せ、窓の外の夕日を見つめる。
「やったぁー!」
VRゴーグルを外し、灯は飛び上がって喜びの声を上げる。
その扉の隙間からエプロン姿の父「花咲明」と、
仕事から帰って来たオフィスカジュアルな服装の母「花咲絵美」が娘の勇姿を見守っていた。
「変わったわね、あの子も」
ポニーテールに束ねられた白髪を揺らし、母は静かに娘の成長を実感する。
「あぁ。Nextを始めてから灯はびっくりするほど成長してる。
もう俺達が口を挟む余地はないのかもな」
父もしんみりと語る。
すると部屋から出てきた灯が呆れた目で両親を見つめている。
「…おかえり、お母さん。もう、覗き見してたの?」
「大口叩いて参加しといて、1日目から負けたんじゃ示しがつかないからね。
その心配はなかったみたいだけど」
娘の強い視線にも動じることなく、母は強気に応える。
「…私は大丈夫だよ。もう、逃げないから」
灯は強く母親を見つめそう告げると、外に出て行った。
「…ふぅ。あの子、やっぱりいつまでもあの言葉を引きずってるのね。
私が悪いんだけどさ」
母は少し困った様子でため息をつく。
「…まあ、そのおかげで強くなったと捉えることもできる。
何はともあれ、明日は娘の晴れ姿を見に行かないとな」
父は母を明るく励まし、明日の2次予選に思いを馳せるのだった。
そして翌日。
Nextの4人はドミノタウン予選が行われる会場にいた。
「ドミノ・スタジアム」と呼ばれるドミノタウン唯一のスタジアムだ。
一見通常のスタジアムのように見えるが、全体が白を基調としているのに対して、
一部分だけがまるで継ぎ接ぎされたかのように、黒いコンクリートでできていた。
これはコラプスによって破壊された一部分を、別の素材で補強した結果だ。
あえて継ぎ接ぎをわかりやすくすることで、
コラプスという凄惨な歴史をここに残す目的がある。
「トーナメント発表までもうすぐだね…。緊張してきた…」
これから2次予選のトーナメント表が発表される。
灯が緊張で縮こまった声で呟く。
「大丈夫だ、どっしりしとけ。
俺らは難しい依頼もデュエルで乗り越えてきたし、みっちり特訓もしてきた。
14人に残れてる時点で、ドミノタウンでも有数のデュエリストなのは間違いねえんだ」
遊次は灯の肩を叩いて励ましの言葉を送る。
「うん…ありがとう」
「おーーーい!」
向こうから大人3名と子供7人が手を振って走ってくる。
業務提携をしている探偵「伊達アキト」に、
怜央と同じチームのドモンとダニエラ、そして子供達だ。
「お前ら!観に来てくれたのか!」
応援にかけつけた仲間達の姿に、遊次の顔がぱっと明るくなる。
「当然だろ。皆この時を楽しみにしてたんだ」
アキトが爽やかに答える。
「アタイもドモンも、それにアキトもわざわざ休み取って来てやったんだ。
1回戦で負けたら承知しないよ」
ダニエラが3人を激励する。
ドモンとダニエラは時折アルバイトとしてNextを手伝うことがあり、
その関係でアキトとも交流を持ったのだ。
アキトの探偵事務所でも臨時のバイトとして繰り出すこともある。
「知ってるか?
同じ事務所から3人も予選出場者がいるって、ちょっとばかし話題になってんぞ」
ドモンはどこか誇らしげな様子で伝える。
「マジで!?確かに、よく考えたらすげーことだよな」
「Nextの宣伝になることは間違い無しだな」
イーサンはしめしめと言わんばかりにニヤリと笑う。
「負けないでよ、怜央」
ミオが熊のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、上目遣いで言う。
「ランラン達、おっきな声で応援するからね!」
「…任せとけ」
怜央は堂々とした態度で子供達の応援に応えた。
「あ!見て!トーナメントが発表されるみたいだよ」
トーマスが会場内の大画面が移り変わったことに気が付き、指を差す。
「お、ようやくか!誰と当たるんだろうなぁー!」
遊次は両腕をぴんと伸ばして手を組み、左右に腰を曲げてストレッチをする。
早く戦いたくてうずうずしているようだ。
同じく会場には、他の参加者とおぼしき者達が集っている。
葉っぱが生えたようなデザインの帽子を被った、おどおどとした少年。
大きな数珠を肩から掛けた、僧侶のような男。
車椅子に乗った少し目の虚ろな青年。
そしてメガネをかけたロングヘアの女性。
彼らはそれぞれの思いを胸にトーナメント表を見つめている。
トーナメント表:
ttps://imgur.com/a/7J3ZDXF
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全員の視線が会場中央の大画面に集まる。
そして次第にざわざわと周囲から声が聞こえ始める。
「お、俺の最初の対戦相手はマルコスって奴か。どんな相手なんだろうなぁー!」
遊次の初戦の相手はマルコス・アルバレスという者だ。
想像を膨らませわくわくしている様子だ。
「お前らはどうだっ……」
遊次が灯と怜央の方を振り向くと、2人はお互いに真剣な眼差しで視線を交わしていた。
2人の様子に遊次が困惑して黙っていると、イーサンが肩を叩き、トーナメント表を指差す。
灯と怜央の名前を探すと、2人の名前は並んで表示されていた。
「なっ…!初戦から…灯と怜央が…」
いきなり想像だにしていなかった展開だ。遊次は再び2人の方を振り返る。
「手加減はしねえぞ、灯。これはどっちが勝ってもいい戦いってわけじゃねえ」
怜央は灯を鋭い眼で睨む。まるで仲間とは思えないほどに。
灯は彼の視線の強さに少し動じているようだ。
「同じ仲間でも…心の根っこの願いは絶対に違ってる。
俺の願いは、ガキ共が大人になってまともな未来を進めるようにすることだ。
お前が優勝したら、何を願う?」
「私の願い…」
怜央の問いにすぐに答える事が出来なかった。
自らの成長や、強くなったことの証明。出場を決めた理由はそれらが大きかった。
しかし、優勝という言葉は自分の中では非現実的で、具体的なイメージができていなかったのだ。
灯は目を瞑り胸に手を当てて考える。
頭に真っ先に思い浮かんだのは、幼い頃、公園で遊次に誓った言葉だ。
「(私の願いは…遊次を守って、支え続けること…。
でもそれは、優勝して捧げるべき願いじゃない)」
「(1つだけ叶えられる願いがあるなら…私は何を願うの…?)」
灯は自分の中で結論を出すことができなかった。
ずっと押し黙っている灯を見て、怜央は痺れを切らす。
「自分から参戦してここまで勝ち上がったのに、まさか何を願うかも決まってねえのか」
怜央の言葉は灯にズキリと突き刺さり、思わず顔を下に向ける。
それを見てすかさず遊次が口を挟む。
「別に、願いを叶えることだけがこの大会の意味じゃねえ。
出ること自体が望みでもおかしくねえんだ。
お前が子供達のために真剣なのはわかるけど、灯を責めたりすんなよ」
遊次は怜央に対して、理解を含んだ声色で冷静に言葉を紡ぐ。
「…別に責めちゃいねえ。だが、これだけは言っとくぞ。
"覚悟"の差でデュエルは決まる」
怜央は灯に真剣な眼差しでそう伝えると、
1人背を向け、観客席のあるゲートへと向かっていった。
「あいつ…ピリピリしてるな」
いつもと違う怜央の様子にドモンは気が付く。
「まあ無理もないさね。最初から仲間同士で戦わなきゃいけないんだ。
変に情けをかけないように、ああいう態度を取ってんのさ」
ダニエラは怜央の去っていった方を見つめながら、彼の思いに思考を巡らせる。
「それに、情けをかけられないようにも…な」
イーサンが怜央の心情を分析し、ダニエラの言葉を補足する。この言葉に灯ははっとする。
「…そっか。私が怜央に同情して判断が鈍ったりしないように…」
灯は前を向く。
「私、ちゃんと戦うよ。
私の中の願いはまだはっきりしないけど…この戦いの中で見つけてみせる」
灯の闘志に火が点いたようだ。これには遊次も安心する。
「頑張れよ、灯!あぁーでも…俺は一体どっちを応援すりゃいいんだっ…!」
遊次が新たに生まれた悩みに頭を抱えていると、イーサンが見かねて声をかける。
「今悩むのはそんなことじゃないだろ。
30分後にはお前のデュエルが始まるんだぞ。そのことだけに集中しろ」
「いけねっ…そっか、俺が第1試合なのか。
…ありがとな!俺、ちょっとデッキの最終調整してくる!」
遊次は選手の控室へと走っていった。
「ねー、今日は何試合やるの?」
リクが他の子供達に話しかける。
「今日は8試合。出場者全員がデュエルを行います。
第1試合から第4試合がそれぞれ別のフィールドで行われ、
それが終わると第5試合から第8試合が同じように行われる。
1週間後に第2回戦の4試合。さらに1週間後に準決勝の2試合。
決勝戦は今日から1か月後ということになります」
治が間髪入れずに大会のスケジュールを説明する。
「そうなんだ!相変わらず凄いね、歩くスケジュール帳だ」
「それ、褒めてるんですか…。まあつまり、
遊次さんのデュエルと、灯さん・怜央さんのデュエルは別の時間帯ですから、
2試合とも観られます」
子供達は純粋にデュエルを観ることを楽しみに来ており、テンションも高い。
出場者は大きなものを懸けて戦っているが、
こうして皆が笑顔になってくれるのはいいことだと灯はポジティブに考える。
「みんな、まずは遊次の応援しなきゃね。観客席に移動しよ!」
約30分後、早々に遊次とマルコス・アルバレスのデュエルが始まる。
灯は気持ちを切り替え、観客席へと向かった。
観客席に向かうと、先に怜央が座っていた。
先ほどまでの空気感も相まって少し気まずい雰囲気が漂うが、
子供達がデュエルを心待ちにしてがやがやと騒いでいることで、その空気は弛緩した。
「…えー、お待たせしました…。
間もなく、第1試合『神楽遊次 VS マルコス・アルバレス』のデュエルが開始されます…。
えー、実況はわたくし『多口伝助』が、お送りいたします…」
多口伝助(たぐちでんすけ)を名乗るその男は、
実況者とは到底思えない程の小さいボリュームで、実況席から会場にアナウンスしている。
ウェーブした黒い髪が目元まで伸び、目の下にはクマがある。
全く覇気を感じられない顔つきだ。
「あの実況の奴、大丈夫なのか?全く元気がないが」
怜央が観客席で、腕を組みながら不機嫌そうにイーサンに問いかける。
彼は4年前にはヴェルテクス・デュエリアなど気にする境遇ではなく、
あまり詳しくないようだ。
「フッ、安心しろ。あの人はドミノタウンの名物実況者でおなじみの『多口伝助』。
今年から本戦の実況もあの人が担当するんだ」
前のドミノタウン予選も知っているイーサンが得意げに語る。
「嘘だろ!?全然声聞こえねーぞ!」
リアムが驚きの声を上げる。
「まあ見てればわかるさ。…お、いよいよ始まるみたいだぞ」
イーサン達が観客席から見下ろすフィールドに、遊次が堂々と現れる。
逆サイドからは対戦相手であるマルコスが緊張した様子で歩いてくる。
マルコスは葉っぱがついたようなデザインの緑色の帽子を被った茶髪の少年だ。
中学生ぐらいの年齢だろう。頬にはそばかすが見られ、オーバーオールを着ている。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/Hki1JG4
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
そのおどおどした様子を見て、遊次がマルコスに声をかける。
「どうした?緊張してんのか?」
「ひゃいっ!?」
いきなり声をかけられたことでマルコスは素っ頓狂な声を上げる。
「そ、そりゃ緊張するよ。こんな大舞台だし…。
しかもいきなり相手が前回の予選通過者なんだから…。君は緊張しないの?」
「俺はしないなー。早く戦いたくてしょうがないぜ!」
遊次は左腕のデュエルディスクを掲げ、笑顔で応える。
「そっか…。すごいね。自分の願いが懸ってるっていうのに…」
深刻そうな顔で語るマルコスを見て、遊次は少し複雑な心境になる。
思い返せば、トーナメントが発表される時、周りにいた他の出場者達も、
みな真剣な面持ちだった。ワクワクしていたのは自分だけだったように思える。
「(確かに願いは懸ってるけど…世界一のデュエルの大会なんだぜ。
俺にはワクワクしない方が無理だ)」
「えー両者がフィールドに揃いました…。
これにて、ヴェルテクス・デュエリア ドミノタウン予選第1試合、
神楽遊次 VS マルコス・アルバレスのデュエルを開始いたします…」
試合の開始を告げるアナウンスを聞き、遊次とマルコスは真剣な表情で向かい合う。
すると実況の多口伝助が、座りながらおもむろに実況席の下に顔を潜り込ませる。
そしてその直後、ぱっと勢いよく顔を上げると、
先ほどまで目を覆っていた前髪は全て上にピンと立っており、
覇気のなかった顔つきは別人のように活き活きとしていた。
「デュエル…開始ィーーー!!!!」
多口はこれまでの声量とは圧倒的に異なる大声でデュエルの開始を告げる。
別人のようになった実況者の姿にドモン達は驚くも、すぐにフィールドに目を向けた。
マルコスのデュエルディスクのランプが光る。先行はマルコスだ。
「先行はマルコス・アルバレス!さあ一体どんなデュエルを見せてくれるのかぁー!」
多口は心からデュエルの行く末を楽しみにし、目を輝かせている。
「ぼ…僕のターン!」
マルコスは震える手で手札のカードを見つめる。
「(VR空間の1次予選とは全然違う…。みんなの視線が痛い…!)」
会場中の全員が自分を見つめているという状況にマルコスは慄く。
「マルコスーー!!がんばれーー!!」
マルコスの左後ろの客席から声が聞こえた。
振り向くと、マルコスと同じくらいの歳の5人の少年少女と、
整えられた短髪の若い1人の男性が手を振っていた。
「みんな…」
その姿を見た彼は目を瞑り、深く深呼吸をする。次第に手の震えが治まってくる。
マルコスは前を向き、手札のカードを1枚手に取る。
「フィールド魔法『エニグマトリクス・フラクタルラビリンス』発動!」
■エニグマトリクス・フラクタルラビリンス
フィールド魔法
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードの発動時の処理として、
「エニグマトリクス」モンスター1体をデッキから手札に加えることができる。
②:自分の墓地の「エニグマトリクス」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。
この効果は相手ターンでも発動できる。
フィールド魔法が発動されると、カラフルなパズルピースが組み合わさる新たな空間が出現した。
フィールドは上下に分割された階層構造となり、
遊次の前方向の上方のブロックにマルコスが立っている。
床面はパズルピースは光の反射により赤・青・黄・緑など鮮やかな色調を放っている。
「おっとぉー!いきなりフィールドが幾何学模様のカラフルな空間に変わったぁ!
まるでパズルのようです!」
多口は変化した周囲を見回しながらその状況を説明する。
「このフィールド魔法の発動時、
デッキから『エニグマトリクス』モンスター1体を手札に加えられる。
僕は『エニグマトリクス・モザイク』を手札に加える」
「エニグマトリクス・モザイクはレベル5だけど、リリース無しで召喚できる!」
■エニグマトリクス・モザイク
効果モンスター
レベル5/地/岩石/攻撃力2000 守備力2500
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードはリリースなしで通常召喚できる。
②:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「エニグマトリクス」罠カード1枚を手札に加える。
③:自分メインフェイズに発動できる。
デッキから「エニグマトリクス」カード1枚を墓地に送る。
現れたモンスターの体は多面体が多数組み合わさっており、3メートルほどの巨体を持つ。
顔やボディ・手足…その全てが直線で区切られた正方形のタイル状になっている。
モンスターの表面全体はざらついたテクスチャーで、色調は全体的にグレーで統一されている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/twRJhGp
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「エニグマトリクス・モザイクが召喚された時、
デッキから『エニグマトリクス』罠カード1枚を手札に加えられる。
『エニグマトリクス・スクエア』を手札に加える」
「エニグマトリクス・モザイクの効果発動。
1ターンに1度、デッキから『エニグマトリクス』カード1枚を墓地に送る。
僕は『エニグマトリクス・ゴースト』を墓地に送る」
「さらに罠カード『エニグマトリクス・スクエア』を捨てることで、
手札から『エニグマトリクス・ソーマ』を特殊召喚する!」
■エニグマトリクス・ソーマ
効果モンスター
レベル5/風/岩石/攻撃力2200 守備力2300
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカード以外の手札の「エニグマトリクス」カード1枚を捨てて発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
②:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「エニグマトリクス」魔法カード1枚を手札に加える。
③:このカードが融合素材として墓地に送られた場合に発動できる。
自分はデッキから1枚ドローする。
現れたモンスターはまたも3メートル級の大きさを持つモンスターだ。
互いに組み合わされた六つの直方体がボディを構成し、
形がそれぞれ違った緑系統の六色のブロックが重なり、結果として綺麗な直方体を形成している。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Kv7zapX
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「早くもレベル5モンスターが2体並んだぁー!
どうやらアルバレス選手のデッキは『エニグマトリクス』という
パズルのようなモンスターで構成されているようだぁー!」
マルコスのフィールドには、2体のブロックで構成された無機質なモンスターが並び威圧感を放つ。
遊次は効果を確認しながら、未だ全貌が見えぬマルコスのデッキを探ろうとしている。
「エニグマトリクス・ソーマの効果発動。特殊召喚時、
『エニグマトリクス』魔法カード1枚をデッキから手札に加える。
僕は『エニグマトリクス・フュージョン』を手札に加える」
「融合か…!」
"フュージョン"というカード名を聞き、遊次は少しずつマルコスのデッキの性質を把握してゆく。
「(落ち着け…。いつも通りにプレイするんだ。この"順番"で間違いはないはず…!)」
マルコスは少しの間目を瞑り、脳内に理想のルートを思い描く。
その後、目を開き、手札から魔法カードを1枚取り出す。
「『エニグマトリクス・フュージョン』発動!
フィールドか手札から融合素材を墓地に送り、エニグマトリクス融合モンスターを融合召喚する!
僕はフィールドの『エニグマトリクス・モザイク』、『エニグマトリクス・ソーマ』と、
手札の『エニグマトリクス・アイビー』で融合!」
「断片は符合し、ここに答えは示される。更なる閃きの礎となれ。
融合召喚!現れよ、『エニグマトリクス・トリオミノ』!」
■エニグマトリクス・トリオミノ
融合モンスター
レベル6/炎/岩石/攻撃力2600 守備力3000
「エニグマトリクス」モンスター×3
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが融合召喚した場合に発動できる。
デッキ・墓地・除外状態から「エニグマトリクス」カード1枚を手札に加える。
②:このカードをリリースし、
墓地の「エニグマトリクス」モンスター3体を対象として発動できる。
そのカードを手札に加える。
この効果で手札に加えたモンスターはこのターン、召喚・特殊召喚できない。
③:自分の墓地に同じ属性のモンスターが3体並んでいる場合、
相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを除外する。
さらに除外したカードと同名カードを相手の手札・デッキ・EXデッキから全て除外する。
現れた融合モンスターは高さ約4メートル程の巨体。
ボディは3つの四角形の面で構成され、各面は鋭い直線と角で組み合わされている。
ブロックの表面には炎の模様が描かれている。
眼窩は鋭角な三角形の切れ込みで、口は一線の凹み。
胴体は縦に積まれた3つの四角形が基幹となり、左右に伸びた腕も3つのブロックで形成されている。
全体は鮮やかな赤とオレンジのグラデーションで彩色され、
各三角形の境界線は金色のラインで際立っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/i4vSfUE
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「早速アルバレス選手が融合召喚をキメたぁー!果たしてこれが彼の切り札なのかぁ!」
フィールドに現れたこれまでと異なる存在感を放つ融合モンスターに、
実況者もテンションを上げる。
「エニグマトリクス・トリオミノの効果発動。
融合召喚した場合、デッキ・墓地・除外状態から、
『エニグマトリクス』カード1枚を手札に加えられる。
僕はデッキから罠カード『エニグマトリクス・Tブロック』を手札に加える」
「さらにチェーンしてエニグマトリクス・ソーマの効果発動。
融合素材として墓地に送られた場合、1枚ドローできる」
マルコスは合計2枚のカードを手札に加えた。
「トリオミノをリリースすることで効果発動!
墓地の『エニグマトリクス』モンスター3体を手札に加える!」
その瞬間、トリオミノの姿はたちまち光へと変わり消えてゆく。
「な、なんとぉー!今召喚したばかりの融合モンスターをもうリリースしてしまった!
どうやら切り札ではなかったようです!」
3体もの素材を要求するモンスターをあっさりと手放したことで実況者も困惑している。
観客席のイーサンと灯も顔を見合わせるが、その意図はまだ掴めず、灯は首をかしげている。
「僕は墓地の『エニグマトリクス・アイビー』、『エニグマトリクス・モザイク』、
『エニグマトリクス・ソーマ』を手札に加える。
ただしこの効果で手札に加えたモンスターはこのターン、召喚・特殊召喚できない」
「(せっかく融合召喚したのに、そいつをリリースして融合素材を手札に加えた?
何の意味があるんだ…?)」
不可解なマルコスのプレイに遊次は疑問符を浮かべる。
「さらにフィールド魔法『エニグマトリクス・フラクタルラビリンス』の効果発動。
自分・相手ターンに1度、墓地の『エニグマトリクス』を1体、
攻撃表示で特殊召喚できる!来て、『エニグマトリクス・ゴースト』!」
■エニグマトリクス・ゴースト
効果モンスター
レベル6/闇/岩石/攻撃力2400 守備力2500
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードの両隣にモンスターが存在する限り、
自分フィールドの「エニグマトリクス」カードは相手の効果の対象にならない。
②:自分メインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールドから、
「エニグマトリクス」融合モンスターによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
③:墓地のこのカードを除外し、
相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
幾何学模様が浮かんだ空間の一部が、大きな正四角形に切り取られて回転すると、
そこから高さ約3メートルの黒い巨体が現れる。
角ばった直方体や三角形が互いに接合し、
エッジを持った鋭いパズルのボディをしている。顔の中央に赤い単眼が輝きを放っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/9ziaP7B
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
マルコスは観客席を振り返る。
そこには友人達が真剣な眼差しでデュエルを見つめている。
彼らはマルコスの視線に気づき、視線を送り返す。
そしてマルコスは遊次の方へ向き直る。その表情には闘志が宿っていた。
「(…さっきまでと気迫が違ぇ。アイツも仲間の思いを背負って戦ってるんだ)」
遊次はマルコスの覚悟を肌で感じとった。
「エニグマトリクス・ゴーストの効果発動!手札・フィールドから融合召喚を行う!
僕は先ほど墓地から手札に加えた『エニグマトリクス・アイビー』、
『エニグマトリクス・モザイク』、『エニグマトリクス・ソーマ』と、
手札の『エニグマトリクス・ヴォイド』を融合!」
「4体融合だって…!?」
観客席のイーサンは思わず驚きの声を漏らす。
「解き明かされし不可思議なる謎。その秘められし真理を解放せよ!
融合召喚!出でよ!『エニグマトリクス・ピラミンクス』!」
■エニグマトリクス・ピラミンクス
融合モンスター
レベル9/光/岩石/攻撃力3300 守備力3500
「エニグマトリクス」モンスター×4
このカード名の①③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分の墓地に同じレベルのモンスターが3体並んでいる場合に発動できる。
相手フィールドのモンスターを全て除外する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
②:自分の墓地にカードが上からモンスター・魔法・罠の順番で並んでいる限り、
モンスターゾーンのこのカードは相手の効果で破壊されない。
③:このカードが墓地に存在する場合、
自分の墓地の「エニグマトリクス」カード4枚を除外して発動できる。
このカードを特殊召喚する。
現れたモンスターは5メートル級の巨体。全体的に白と黄土色のブロックがその体を構成している。
胸部にはいくつものブロックが重なりピラミッド型を形成しており、その頂点が前方に向いている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/2vtal1W
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「4体もの素材を要求する融合モンスターが現れたぁ!
これこそが切り札なのでしょうかぁ!」
「このモンスターは、フィールドでは2つの効果を持つんだ。
1つ目は、墓地に同じレベルのエニグマトリクスが3体並んでいる時、
お互いのターンに1度、相手フィールドのモンスターを全て除外できる効果」
「墓地に同じレベルが3体…?…うお、もう並んじまってるじゃねえか」
遊次はデュエルディスクに浮かび上がるソリッドヴィジョンのデータで相手の墓地を確認し、
ピラミンクスの効果発動条件がすでに整っていることに驚く。
マルコスの墓地にはレベル5のソーマ・モザイク・アイビーが連続して並んでいる。
ピラミンクスの融合素材として同時に墓地に送られたためだ。
「さらにピラミンクスは、墓地に上からモンスター・魔法・罠の順番で連続して並んでいる限り、
効果では破壊されない。その条件も、すでに整ってるよ」
「なんだと…!いつの間に…」
遊次がマルコスの墓地を確認すると、
「エニグマトリクス・トリオミノ」の下に
魔法「エニグマトリクス・フュージョン」、
その下に罠「エニグマトリクス・スクエア」が重なっている。
「な、なんとぉー!!アルバレス選手は
4体もの素材を要求する融合モンスターを召喚しながら、
効果発動のための条件を墓地で揃えていたぁ!
カードの順番・連続性を考慮しながら強力なフィールドを作り出す…なんという高度なプレイング!
これこそが、2次予選まで勝ち上がった者の実力だぁ!」
実況の多口の高揚した解説を聞き、観客達もざわつきだす。
「トリオミノを融合召喚した後、すぐにリリースして墓地の融合素材を回収…。
あの一見意味があるのかわからないプレイは、墓地で魔法と罠を並べるためにあったのか…!」
イーサンはマルコスのプレイの真意に気付く。
「え…?全然わかんねえ、どういうことだ?」
リアムは目を瞑って頭をフル回転させるが、理解できないようだ。
「マルコス君は手札の罠カードを捨てて、モンスターを特殊召喚したよね。
その後に魔法カード『エニグマトリクス・フュージョン』を発動した。
その効果で融合素材が墓地に送られた後に、
『エニグマトリクス・フュージョン』が墓地に行くっていう処理になるから、
このままだと墓地の順番は上から、魔法・モンスター×3・罠っていう順番になっちゃうよね」
灯は子供達に説明の言葉を紡ぐ。
「ん、ん…?そ、そうなるのか…?」
「そうなりますね。続けてください」
頭の中で盤面を描けていない様子リアムを無視して、治は話を進める。
「このままだと、墓地が上からモンスター・魔法・罠の順番にならないから、
後に融合召喚するピラミンクスの効果の条件を満たしてない。
だからトリオミノをリリースして、融合素材となったモンスター3体を全部回収したの。
これで魔法・モンスター×3・罠って並んでた墓地は、
間のモンスター3体が抜けて、モンスター・魔法・罠の順番になる。
これでピラミンクスの効果の条件を満たしたってことだね」
「お、おぉ…。よくわかんねーけど、とにかくすげーことしてるってことはわかったぜ!」
リアムは笑顔で親指を立てる。どうやら理解を諦めたようだ。
「カードを特定の条件に並べることで強力な効果を発揮する。まさしくパズルのように。
それがマルコス君の戦い方ってわけだね」
アキトは2次予選の1回戦目からレベルの高さを痛感する。
「僕はカードを2枚伏せてターンエンド。あなたの番だ、神楽遊次さん」
緊張に震えていた時とは違い、マルコスはすでに覚悟を決めた表情に変わっている。
遊次はその表情を静かに見つめている。
--------------------------------------------------
【マルコス】
LP8000 手札:1(エニグマトリクス・ソーマ)
①エニグマトリクス・ゴースト ATK2400
②エニグマトリクス・ピラミンクス ATK3300
フィールド魔法:1
伏せカード:2
墓地(上から):ヴォイド(闇☆6)、ソーマ(風☆5)、モザイク(地☆5)、アイビー(水☆5)、
トリオミノ(炎☆7)、フュージョン(魔法)、スクエア(罠)
【遊次】
LP8000 手札:5
魔法罠:0
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「マルコス、お前からすげえ覚悟を感じるぜ。お前のモンスターからも。
何のためにこの大会で戦ってるんだ?そこに理由があるんだろ」
「…ぼ、僕は…」
遊次から問われた途端、マルコスの表情に再び緊張が浮かぶ。
それほど彼の懸ける願いは彼にとって重いのだろう。
「僕は…学校を守りたい」
「学校?」
「僕の通う中学は…このままだと廃校になっちゃうんだ。
ドミノタウンにある学校なんだけど、年々入学する人数が減って…今は1クラス5人しかいない。
そんな中で、ドミノタウンから直々に廃校の話が学校側に持ち掛けられて…」
マルコスは深刻な表情で語る。
「…なるほどな。学校はそれを受け入れたのか?」
「ううん、受け入れなかった。先生達だって学校を守りたかったから。
でもドミノタウンはどうしても廃校にさせたかったんだ。新しい施設を開発するために」
廃校は行政からの要請であり、それは土地開発のためだという。
マルコスの語りは会場の観客にも届いている。
ドミノタウンにとっては都合の悪い話であり、会場の何人かの大人がこそこそと話し合っている。
「学校は僕達の思い出の場所なんだ。
担任の先生もとっても面白くて、優しくて…みんな大好きだった。
僕達はもうすぐ卒業だけど…今いる生徒達も、これから入ってくる子達にも、
あの学校で学んでほしかった。勉強だけじゃなくて、色んなこと」
「なのに…いくら人が少ないからって大人の勝手な理由でいきなり廃校なんて…あんまりだよ」
マルコスは拳を強く握り、俯く。
彼の言葉に、友人達は怒りや悲しみをその表情に滲ませていた。
「だからこの大会に出たってわけか。学校を廃校から守るために」
自分のデュエルに学校や生徒、教師達の運命が懸かっている。
マルコスはその重圧を感じているのだ。
行政がすでに廃校の方向で進めている以上、それを止めるのは容易ではない。
しかしヴェルテクス・デュエリアで優勝すれば、国家の権限として開発を差し止めることができる。
マルコスはそれに賭けたのだ。
「(あの観客席にいるのは…マルコスの友達と担任の先生か)」
マルコスの後ろの6人に遊次は目を向ける。
「遊次さんはなぜこの大会に出たの?4年前の大会も出てたよね。
それくらい強い願いがあるんでしょ?」
「あぁ。俺は子供の頃からドミノタウンで育って、コラプスの被害に遭った人達を近くで見てきた。
町の人達はなんとか堪えて無理やり笑ってみせるんだけど、その笑顔は本当の笑顔じゃないんだ。
だから…ドミノタウンを完璧に復興させて、みんなを笑顔にしたい。それが俺の願いだ」
「大きい願い…だね。でも、遊次さんは全然プレッシャーを感じてるように見えない。
僕とは大違いだ」
マルコスは俯き気味に上目遣いで遊次の顔を見る。
「俺の場合、緊張よりもワクワクが勝つんだ。
どんな強い相手なんだろう、どんなデュエルをするんだろうって。
今だって、すげー楽しいぜ!お前のデュエル、想像してたよりずっとやべーし!」
遊次はニッと笑って見せる。
「…強いからこそ、余裕があるんだと思う。僕にはそんな風には考えられない…」
「余裕なんてねーよ!今もお前のモンスターをどう攻略しようかマジで悩んでるぜ。
でも、俺は俺のデッキを信じてる。それだけだ。
ただお前の願いをこのデュエルでぶつけろ!そうすりゃ、デッキは応えてくれる!」
「願いをぶつける…」
マルコスは遊次の言葉を反芻する。
その時脳裏に蘇ったのは、今日のために友達で集まって必死にデュエルの腕を磨いたこと。
その1つ1つの積み重ねが今日までの道を作ったのだ。
マルコスは友人達の思いを胸に、真っ直ぐと前を見る。
「…ありがとう、遊次さん。少し勇気が湧いた。
対戦相手の僕を励ましたりなんかして…後悔しないでよ!」
マルコスは凛々しい笑顔でデュエルディスクを構える。
遊次はそんな彼の表情を見て同じく笑って見せる。
「後悔しねーさ!俺が勝つからな!」
マルコスの闘志に応えるように遊次もデュエルディスクを構える。
「俺のターン、ドロー!」
遊次はデッキからカードを勢いよく引く。
「このドローフェイズ、フィールド魔法『エニグマトリクス・フラクタルラビリンス』の効果発動!
お互いのターンに1度、墓地のエニグマトリクスを1体、攻撃表示で特殊召喚できる。
蘇って、『エニグマトリクス・トリオミノ』!」
空間の正四角形が回転し、そこに空いた穴から
再び炎の紋様が描かれたブロックの巨体を持つ融合モンスターが姿を現す。
「今、エニグマトリクス・ゴーストの両隣に2体の融合モンスターがいる。
エニグマトリクス・ゴーストの効果で、両隣にモンスターがいる限り、
自分の『エニグマトリクス』カードは相手の効果の対象にならない!」
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【マルコス】
LP8000 手札:1(エニグマトリクス・ソーマ)
①エニグマトリクス・トリオミノ ATK2600
②エニグマトリクス・ゴースト ATK2400
③エニグマトリクス・ピラミンクス ATK3300
フィールド魔法:1
伏せカード:2
墓地(上から):ヴォイド(闇☆6)、ソーマ(風☆5)、モザイク(地☆5)、アイビー(水☆5)、
フュージョン(魔法)、スクエア(罠)
【遊次】
LP8000 手札:6
魔法罠:0
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「な、なんとアルバレス選手!
墓地だけに留まらず、フィールドでもパズルを完成させ、全体に対象耐性を付与!
なんという盤石なフィールド!これを神楽選手は突破できるのかーー!」
「(マルコスがどう出るのかわかんねーけど…とにかく、やれるだけやってみるしかねえ)」
数秒の思考の後、遊次が動き出す。
「俺のフィールドにモンスターがいない時、
『妖義賊-脱出のシェパード』は手札から特殊召喚できる!」
■妖義賊-脱出のシェパード
効果モンスター
レベル3/地/獣/攻撃力900 守備力1100
このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚する。
②:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター1体をリリースし、
以下の効果から1つを選択して発動できる。
●相手の墓地のモンスター2体を選び、自分フィールドに特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃力・守備力は0となる。
●相手はデッキからモンスター2体を選ぶ。
自分は選んだモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃力・守備力は0となる。
そのモンスターは、シェパード犬の顔を持ちながら、整った二足歩行の姿勢で立っている。
首元にはシルクのスカーフが巻かれ、風になびいて優雅に舞う。
カーキ色のジャケットを羽織り、下からは白いシャツの襟が見える。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/mbD8bgW
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「脱出のシェパードの効果発動!フィールドの妖義賊をリリースし、
相手の墓地からモンスター2体を、効果無効・攻守0にして特殊召喚する!
シェパード自身をリリースして、
お前の墓地の『エニグマトリクス・ソーマ』と『エニグマトリクス・モザイク』をもらうぜ」
シェパードは爪先でトンと飛び上がると、その姿は光へと消える。
「なるほどな。墓地からモンスターを奪っちまえば、
マルコスのパズルを崩せるってわけだ」
観客席のドモンは瞬時に遊次のプレイの意図を掴む。
「そうはさせないよ!罠カード『エニグマトリクス・Tブロック』発動!
このカードの左上、上、右上にカードが存在する場合に発動でき、
相手の発動したカード効果を無効にして破壊する!」
マルコスの罠はカードの配置が発動条件になっているようだ。
罠カードの左上・上・右上にはモンスターが存在し、カードがT字を描いている。
マルコスのフィールドに、オレンジ色のT字のブロックが出現し、
そのブロックが強い光を放つとシェパードの効果は無効となる。
「なんとアルバレス選手!伏せカードを発動するためのパズルもフィールドに揃えていたぁ!
神楽選手の一手はクリティカルだったものの、アルバレス選手が一歩上回ったぁ!」
実況の多口伝助は目を見開いてフィールドを凝視し、その状況を熱を帯びた声で伝える。
「さらに『エニグマトリクス・Tブロック』の効果で
デッキから『エニグマトリクス』モンスター1枚を手札に加える。
僕が手札に加えるのはレベル4の『エニグマトリクス・ミラー』」
「やっぱ一筋縄じゃいかねえか…!」
遊次は悔しさを滲ませながらも笑顔のままだ。
待ち望んでいた強敵とのデュエルへの楽しみの方が勝っているらしい。
「君のデッキは相手のカードを奪うのが特徴…もちろん知ってるよ。
対策しないはずないよね」
マルコスは自身のプレイが着実に遊次を追い詰めている実感を得たことで、
少しずつ自信を持ち始めているようだ。
「へっ、カード1枚で対策できるほど俺のデッキは甘くねえよ。
俺は『妖義賊-駿足のジロキチ』を召喚!」
■妖義賊-駿足のジロキチ
効果モンスター
レベル4/地/獣/攻撃力1600 守備力800
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「ミスティックラン」モンスターを1枚手札に加える。
②:このカードがリリースされた場合、
相手フィールドの表側表示のモンスター1体を対象として発動できる。
その表側表示モンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。
現れたのはほっかむりを被ったねずみ男のモンスターだ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/6MJzyaS
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「ジロキチの召喚時、デッキから『ミスティックラン』モンスターを1体手札に加えられる。
俺は『妖義賊-助太刀のサルバトーレ』を手札に加える」
「(自分のモンスターが破壊された時に特殊召喚されて、
僕の墓地のモンスターを奪う効果か…)」
マルコスは遊次が手札に加えたサルバトーレの効果を瞬時に把握する。
「バトルフェイズだ!駿足のジロキチで『エニグマトリクス・ゴースト』に攻撃!」
遊次はそれ以上モンスターを展開することもなく、
攻撃力1600のモンスターで攻撃を仕掛けた。
「えぇ!?」
観客席のリアム、リク、トーマスは一斉に驚き、つい立ち上がってしまう。
ダニエラは一喝して3人をすぐに座らせる。
「おっと神楽選手、ここでまさかのバトルフェイズ突入!?
ジロキチの方が攻撃力は低いぞ、大丈夫かぁー!」
「(やっぱりそう来るよね…!)」
マルコスにとっては想定内の行動だったようだ。
「この瞬間、『エニグマトリクス・ピラミンクス』の効果発動!
1ターンに1度、相手フィールドのモンスターを全て除外する!」
マルコスの効果発動に遊次は眉をぴくりと動かす。
「な、なんとアルバレス選手!ピラミンクスの強力な全体除外効果を、
下級モンスター1体に使用したぁーー!
両者のプレイは、我々一般人の理解を超えている!!」
実況席から大きく身を乗り出した多口を、他の関係者が一生懸命引き戻している。
「君の手札の『助太刀のサルバトーレ』は、
自分のモンスターが破壊された時に特殊召喚され、
僕の墓地のモンスターを奪う効果を持ってる。
もしこのままジロキチの攻撃を通せば、
ジロキチが破壊されてサルバトーレが特殊召喚される」
「そこで僕の墓地からレベル5モンスターを奪えば、
『同じレベルのモンスターが墓地に3体に並ぶ』という条件を崩して、
ピラミンクスの除外効果を封じられる。だからこの攻撃は止めなきゃいけない!」
この攻撃を通せば、いずれにしても除外効果は封じられるため、
下級モンスター1体しかいないといえど、全体除外効果を使用する他ない。
「さすがだなマルコス…!だがジロキチは除外させねえ。
手札から速攻魔法『妖義賊の即日決行』を発動!
妖義賊1体をリリースして、デッキから『予告状』カードを1枚墓地に送る」
■妖義賊の即日決行
速攻魔法
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:フィールド上の「ミスティックラン」モンスター1体をリリースして発動する。
デッキから「予告状」魔法カードを1枚墓地に送る。
その後、そのカードを墓地から除外する。
この効果の発動後、この効果で除外したカード以外の「予告状」魔法カードの効果は使用できない。
「俺はジロキチをリリースして、デッキから『爆炎の予告状』を墓地に送る。
そしてその後、すぐに除外する!」
ジロキチはリリースされたことで光となって姿を消す。
ピラミンクスが胸部のピラミッドから光を放つが、
フィールドにモンスターがいない遊次には影響はなかった。
ここで一連のチェーン処理が終わる。
ジロキチはリリースされた場合に相手モンスターを奪う効果があるが、
マルコスの「エニグマトリクス・ゴースト」の効果で
「エニグマトリクス」カードは対象に取れないため、奪う対象がいない。
「この時、除外された『爆炎の予告状』の効果発動!
このカードが墓地から除外された場合、相手フィールドのカードを全て破壊する!」
「そんな…!」
これまで冷静に遊次の手に対処してきたマルコスも、これには動揺を隠せない様子だ。
マルコスのフィールドは大きな炎に包まれる。
マルコスは熱さを感じているかのように顔を両腕で覆い隠し、本能的に身を守る。
炎の渦は観客席をかすめるほどまでに大きくなり、体をかがめる者も少なくない。
多口はフィールドから離れた実況席から身を乗り出し、その爛々と燃える炎を見つめる。
炎の渦はどんどんと大きくなり、マルコスのモンスターとフィールド魔法は全て破壊される。
フィールド魔法が破壊されたことで、幾何学的なブロックの空間は消え去り、
スタジアムの景色に戻る。
しかしマルコスのフィールドには、エニグマトリクス・ピラミンクス1体が立ち塞がっていた。
「エニグマトリクス・ピラミンクスは、
墓地にモンスター・魔法・罠の順番でカードが並んでる時、効果で破壊されない。
さらに、墓地の『エニグマトリクス・スクエア』は、墓地の一番下にある時、
伏せカードを破壊から守ることができる」
マルコスはかろうじて切り札と伏せカードを守ったが、表情は苦悶そのものだった。
盤石なフィールドを誇っていたマルコスと遊次の状況は、ほぼイーブンになったと言える。
「なんという攻防だー!!圧倒的不利と思われた神楽選手だったが、
結果的にはピラミンクスの除外効果を使わせた上に、
アルバレス選手のフィールドをほとんど破壊してしまったー!
これぞまさに予測不能のトリックスター!前回の予選通過者の実力は伊達ではなかったァ!」
マルコスの強力な布陣をあっさりと半壊に追い込んだ遊次のプレイに、
熱量を帯びた実況も相まって、会場は大いに湧き上がる。
「遊次、すごい!」
灯が何度も手を叩き拍手を送る。
「手札2枚という最低限のリソースで相手フィールドを崩す…まさに匠の技ですね」
治は手に持ったメモ帳に何かを書き記しながら、遊次のデュエルを解説する。
「噂には聞いてたけど、あの人、あんなに強かったのか…」
遊次の実力を自分の目で見た事のなかった星弥は、初めてそれを目の当たりにする。
「ハハッ!怜央に勝っただけあるねー!」
「あぁ?」
ランランが無邪気に笑っているのを、隣で怜央が鬼の形相で睨みつける。
「なに怒ってんだい、事実じゃないか」
「ハッ、んなもん8ヶ月も前のことだぜ。今戦ったら絶対負けねえ」
ニヤニヤしながら煽るダニエラに怜央は不機嫌そうに言い返し、
腕と足を組んでフィールドに向き直る。
「手札の『妖義賊-美巧のアカホシ』の効果発動!
除外されている予告状を任意の数デッキに戻して、このカードを特殊召喚できる!
爆炎の予告状をデッキに戻し、特殊召喚!」
■妖義賊-美巧のアカホシ
ペンデュラムモンスター
レベル7/風/鳥獣/攻撃力2300 守備力2000 スケール8
【P効果】
このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:元々の持ち主が相手となるモンスター1体を対象とし、
1~7までの任意のレベルを宣言して発動できる。
そのモンスターのレベルはターン終了時まで宣言したレベルになる。
【モンスター効果】
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分の除外されている「予告状」カードを任意の枚数デッキに戻して発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、
攻撃力がこの効果でデッキに戻した「予告状」カードの枚数×500アップし、
このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ相手モンスターの効果を受けない。
②:自分メインフェイズに発動できる。
デッキから「ミスティックラン」Pカード1枚を手札に加える。
自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合、
この効果で手札に加えるカードは2枚になる。
③:このカードがEXデッキに表側で存在し、自分のPゾーンにPカードが存在する場合に発動できる。
このカードを手札に加える。
遊次のフィールドには赤い着物を纏った鳳凰の頭を持つモンスターが現れる。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Beta2kb
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「アカホシはデッキに戻した予告状の数×500、攻撃力がアップする」
妖義賊-美巧のアカホシ 攻撃力2300→2800
遊次がデュエルディスクを掲げると、両端の魔法・罠ゾーンの下から
カードゾーンがスライド式に現れる。
「俺はスケール8の『妖義賊-舞蛇のキク』をペンデュラムスケールにセッティング!」
遊次の頭上に白い蛇の頭を持ち桃色の着物を纏ったモンスターが現れる。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/tsPN11Y
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「舞蛇のキクのP効果発動。
1ターンに1度、デッキから儀式モンスターか儀式魔法1枚を手札に加えられる。
デッキから儀式魔法『儀式の予告状』を手札に加えるぜ。
ただし『妖義賊の即日決行』のデメリットで、このターンは予告状を発動できない」
「さらに自分フィールドに妖義賊がいる時、
このモンスターは手札から特殊召喚できる。来い、『妖義賊-忍びのイルチメ』!」
■妖義賊-忍びのイルチメ
効果モンスター
レベル4/地/戦士/攻撃力1500 守備力1200
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドに「ミスティックラン」モンスターが存在する場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
②:手札から「予告状」カードを1枚捨てて発動できる。
相手の手札を確認し、その中からレベル4以下のモンスター1体を選ぶ。
そのモンスターを効果を無効化し、自分フィールドに特殊召喚する。
現れたのは紫色の忍び装束を身に纏い、長い髪を後ろで束ねたくノ一だ。
右手にはクナイを持っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/xBnMfae
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「イルチメの効果発動!手札の予告状を1枚捨て、
相手の手札の中からレベル4以下のモンスター1体を奪い、俺のフィールドに特殊召喚できる。
儀式の予告状を捨ててこの効果を使用。
さっきレベル4モンスターを手札に加えてたよな?見せてもらうぜ」
「うぅ…」
マルコスは抵抗感を剥き出しに自分の2枚の手札を表向きにする。
マルコスの手札には2体のエニグマトリクスモンスターがあった。
「レベル4以下はコイツだけだな。来い『エニグマトリクス・ミラー』!」
遊次のフィールドに、全長約3メートル程の巨体が姿を現す。
無数の異なる大きさの直方体や立方体が組み合わさり、人型を形成している。
表面は鏡のように光っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/dQUvDyl
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「これぞ神楽選手の真骨頂!相手のカードを利用する妖義賊デッキの本領発揮だぁ!」
「さらに美巧のアカホシの効果発動!
1ターンに1度、デッキから『妖義賊』Pモンスターを手札に加えられる。
相手から奪ったカードが俺のフィールドにある時、手札に加えられる枚数は2枚になる。
俺はデッキから『妖義賊-雲龍のリヘイ』と『妖義賊-誘惑のカルメン』を手札に加える」
「俺はもう片方のPスケールに、スケール2の『妖義賊-誘惑のカルメン』をセッティング!」
遊次の頭上に、紫のローブを纏いヴェールを顔に覆った、妖艶な女モンスターが浮かぶ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/dwkEFaw
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「Pスケールは2~8。よって、レベル3~7のモンスターを同時に召喚可能!」
「ペンデュラム召喚…!」
マルコスは正面頭上に現れた巨大な振り子を見つめる。
「天に弧を描く義の心、その輝きより現れ同胞の声に呼応せよ!
ペンデュラム召喚!来い、俺のモンスター達!」
左右に大きく揺れる振り子。その中心から2つの光がフィールドに降り注ぐ。
「レベル4『妖義賊-助太刀のサルバトーレ』、レベル7『妖義賊-雲龍のリヘイ』!」
現れたのは短刀を携え、胸のあいた毛皮の服を纏った猿のモンスターと、
ひげの生えた紫色の龍の頭を持つ人型のモンスターだ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/iEwZtaH
ttps://imgur.com/a/kl0jjqA
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「助太刀のサルバトーレの効果発動!相手から奪ったカードがフィールドにある時、
デッキから『予告状』カードを1枚手札に加える。
手札に加えるのは『一攫千金の予告状』だ」
「さらに雲龍のリヘイの効果発動!相手から奪ったモンスター1体をリリースして、
デッキから『ミスティックラン』罠カードを1枚手札に加える。
お前から奪った『エニグマトリクス・ミラー』をリリースして、
デッキから『妖義賊の影縛り』を手札に加える」
遊次のフィールドの鏡の巨人はリリースされ、消失する。
「(…モンスター4体・Pスケール2枚・手札が2枚…元より増えてるじゃないか。
回りだせば止まらないデッキか…)」
観客席の車椅子スペースから、車椅子でデュエルを見つめる青年は、
遊次のデュエルを、虚ろな桃色の瞳で見つめている。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/csRlhJV
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「誘惑のカルメンのP効果発動!妖義賊を1体リリースし、
デッキから妖義賊モンスター1体を特殊召喚する。
『雲龍のリヘイ』をリリースし、デッキから『妖義賊-深緑のロビン』を特殊召喚!」
■妖義賊-深緑のロビン
効果モンスター
レベル4/風/戦士/攻撃力1800 守備力500
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合、
自分の墓地のレベル4以下の「ミスティックラン」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
②:手札から「予告状」カード1枚を捨て、
墓地の「ミスティックラン」魔法・罠1枚を対象として発動できる。
そのカードを手札に加える。
③:このカードがリリースされた場合、
相手フィールドの表側モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの効果を無効にする。
現れたのは緑色の外套を纏い弓を持った若い青年のモンスター。
顔は威厳を帯びた鋭い目を持ち、茶髪のセンターパートをしている。
首元にはシンプルなオレンジ色の緑色のマフラーが巻かれている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/PHAQB1t
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「深緑のロビンの召喚・特殊召喚時、
墓地のレベル4以下の妖義賊1体を特殊召喚できる。
復活せよ、『俊足のジロキチ』!」
再びほっかむりを被ったねずみ男のモンスターが現れる。
「深緑のロビンの効果発動!手札の予告状を1枚捨てることで、
墓地の『ミスティックラン』魔法・罠を1枚手札に加えられる。
手札の『一攫千金の予告状』を捨てて、墓地の『妖義賊の即日決行』を手札に戻す」
「さあ行くぜ!こっからが本番だ!
俺は『助太刀のサルバトーレ』、『忍びのイルチメ』、『俊足のジロキチ』を
リンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」
フィールドに現れたサーキットのアローヘッドに、3体のモンスターが飛び込んでゆく。
「権威を穿つ風雲児よ、今こそ逆境を覆す英雄となれ!
リンク召喚!現れろ、リンク3!『妖義賊-神出鬼没のギルトン』!」
■妖義賊-神出鬼没のギルトン
リンクモンスター
リンク3/風/獣戦士/攻撃力2200
【リンクマーカー:左下/下/右下】
モンスター2体以上
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをL素材にしている場合、
このカードは相手の効果で破壊されない。
②:このカードがL召喚した場合、
相手のフィールド・墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターのコントロールを得る。
その後、そのモンスターを含む自分フィールドのモンスターを素材として
融合・S・X・L召喚を行うか、
そのモンスターを含む手札・フィールドのモンスターをリリースして儀式召喚を行う。
③:このカードのリンク先にP召喚された場合に発動できる。
自分はデッキから2枚ドローする。
そのモンスターは、鋭い目つきを持つ豹の顔をした獣戦士。
額には蒼のバンダナが巻かれ、胴体部分には茶色の革のチュニックを着ており、
背中には、鋭利な長剣が一本背負われている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/0seLbZv
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「いつ止まるんだ、君のデッキは…!」
マルコスに顔はどんどん曇ってゆく。
「まだ止まらねえよ。『神出鬼没のギルトン』がL召喚した時、効果発動!
相手のフィールド・墓地からモンスターを1体奪って、
そのモンスターを使って融合・S・X・L・儀式召喚を行う!」
「まだ奪うっていうのか…」
マルコスはデュエルディスクの魔法・罠ゾーンに指をかけ警戒を強める。
「(本当はアイツの墓地に3体並んでるレベル5モンスターを奪って、
パズルを崩しておきたいとこだけど…。
アイツのエニグマトリクス・ゴーストは、
墓地から除外して俺の魔法・罠を破壊する効果を持ってる。
おまけに融合効果もあるから、次のターンを考えたらコイツを奪っといた方がいい)」
遊次は瞬時に頭を回転して答えを出す。
「俺はお前の墓地の『エニグマトリクス・ゴースト』を奪い、
そのモンスターを素材にエクシーズ召喚する!」
遊次のフィールドに漆黒のボディをした単眼のモンスターが現れる。
「エクシーズ召喚…?
エニグマトリクス・ゴーストはレベル6、
君のフィールドには他のレベル6モンスターはいない。
エクシーズ召喚はできないはずだよ」
マルコスから至極真っ当な指摘を受けた遊次は、人差し指を立てて「チッチッチッ」と舌を鳴らす。
「このXモンスターは相手から奪ったモンスターをレベル4として扱ってX召喚できる。
俺はレベル4『深緑のロビン』と、
お前から奪った『エニグマトリクス・ゴースト』でオーバーレイ!
2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」
地面に現れた黒い銀河のような渦に、2体のモンスターが飲み込まれてゆく。
「夜に這い寄る不敵な魔の手、その技巧で勝利を奪い取れ」
口上を唱えると、黒い銀河が逆流し、新たなモンスターが姿を現す。
「エクシーズ召喚!ランク4!『妖義賊-怪盗ルパン』!」
■妖義賊-怪盗ルパン
エクシーズモンスター
ランク4/闇/戦士/攻撃力2100 守備力1500
レベル4モンスター×2
元々の持ち主が相手となるモンスターをこのカードのX召喚の素材とする場合、そのレベルを4として扱う。
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの効果を無効にし、コントロールを得る。
②:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターを素材としている場合、以下の効果を得る。
自分の墓地の「予告状」カード1枚を対象として発動する。そのカードを除外する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
現れたのは、黒いハットを被りマントを纏った怪盗の姿。
手には白い手袋、目元には白い仮面を着けている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/mcoDQUC
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「ペンデュラム・リンク・エクシーズ…なんと華麗な連続召喚でしょうかぁ!」
多口の賞賛と共に、会場の観客は拍手を送る。
会場を味方にする遊次に対して、マルコスの中の不安はどんどんと募ってゆく。
少し丸くなったマルコスの背中を、彼の友人達は心配そうに見つめている。
--------------------------------------------------
【マルコス】
LP8000 手札:1(エニグマトリクス・ソーマ)
①エニグマトリクス・ピラミンクス ATK3300
伏せカード:1
墓地(上から):ミラー(光☆4)、トリオミノ(炎☆6)、フィールド魔法、Tブロック(罠)、
ヴォイド(闇☆6)、ソーマ(風☆5)、モザイク(地☆5)、アイビー(水☆5)、
フュージョン(魔法)、スクエア(罠)
【遊次】
LP8000 手札:2
①妖義賊-神出鬼没のギルトン ATK2200
②妖義賊-美巧のアカホシ ATK2800
③妖義賊-怪盗ルパン ATK2100 エニグマトリクス・ゴーストを素材化
Pゾーン:妖義賊-舞蛇のキク、妖義賊-誘惑のカルメン
--------------------------------------------------
マルコスの強力な布陣を突破し、
前回のドミノタウン予選の通過者として、強者の風格を見せる遊次。
仲間達の応援を背に、このまま勝利を掴むことができるのか。
第31話「開幕 ヴェルテクス・デュエリア」完
遊次の猛攻に、マルコスは予想を超えた一手を見せる。
しかし遊次はその予想すら上回り、マルコスを翻弄する。
マルコスの胸に沸き上がる、夢が潰えることへの絶望感。
だが、ある者の言葉によってマルコスは奇跡の片鱗を見せ、
遊次は過去最大のピンチに陥る。
次回 第32話「究極の難題」
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