53話　夢見る怪物　作：名無しのゴーレム

「…………」
「……どうしたの、ドリーム。私たちもデュエルを始めるのでしょう？」



隣ではクリムがデュエルを始めている。目の前にいるエリニスを止めるのが私の役目、でも……



「……場所を変えましょう。誰も巻き込まないようなところに」
「なるほど、ね。いいわよ、ついてきなさい」



エリニスは私の提案を承諾し、大通りのある方面へと走り出す。私もそれに続き、隠れ家から離れていった……












「ここならどうかしら」
「いいでしょう。ただ……」
「ここだと警備ロボットに見つかるって？ そんなこと、あなたには関係ないでしょう」
「…………何が、言いたいんですか」
「まさか、まだ隠せているとでも？ とっくに気付いてるわよ……あなたが人智を超えた怪物だってことくらい」
「っ、随分な言い様ですね……」
「事実でしょう？ ……あなた、どうやってこの国に入ったの？」
「…………」
「答えられないなら、私が代わりに答えてあげる。通常、この国に入る方法は2つ。1つはインダストの上層部のみが知る隠し通路、もう1つは幻獣の聖域を経由すること。私たちは前者、勇者一行は後者ね。でも、あなたはそのどちらでもない」



もったいぶったような言い方……いや、言い逃れの余地を残さないようにしているのか。



「3つ目の方法、と言っていいのかは分からないけど……あなたがとったのはこの手段。即ち機銃の嵐を防ぎ切り、対人地雷をものともせず、幻獣でも容易には壊せない壁を破壊して侵入した。こんなことが出来る存在を、果たして人間と言えるかしら？」
「わ、私は……」
「どうやら作戦を練ってきたみたいだけれど、あなたが本気を出せば1人でも目的を達成出来たんじゃないの？ なのに、それを隠して徒党を組むことに何の意味があるとでも？」



最初こそ淡々と事実を確認するような口調だったが、次第にその口振りに感情がこもっていく。この感情は……怒り。



「私はあなたが許せない。それだけの力を持ちながら、何もしてこなかった……あなたを！！」
「…………そう、ですか。やはりあなたは、あの事件のことを……」
「ええそうよ。もう誰も信じない……私は私の力で、全てを成し遂げてみせる！」
「エリニス……！！」
「これ以上の会話に意味なんてないわ。さあ、構えなさい」
「……分かりました」



今の彼女に、私の言葉は届かない。それなら、デュエルで……！！















「「デュエル！！」」









エリニス　LP8000　手札5
ドリー　LP8000　手札5



「先攻は私がもらうわ。通常魔法『闇の誘惑』発動。2枚ドローして、手札の闇属性モンスター1枚を除外する。さらに通常魔法『応戦姫の産声』発動。ライフを800払うことで、デッキから応戦姫モンスター1枚を手札に加える」


エリニス　LP8000→7200


「『闇牙の応戦姫ルリ』を召喚。そして『短牙の応戦姫ダガー』と『鉄斬の応戦姫ライム』をペンデュラムスケールにセット。ダガーのペンデュラム効果発動、ルリを手札に戻してデッキから応戦姫モンスター1枚を手札に加える。……戦火に導かれ集え、冷酷なる復讐者！ ペンデュラム召喚、『闇牙の応戦姫ルリ』！」



手札には確実に2体以上モンスターがいるのにも関わらず、1体のみをペンデュラム召喚……つまり、手札に置いておきたいカードということか。



「カードを1枚セットして、ターンエンドよ」



エリニス　LP7200　手札2　ペンデュラムゾーン　応戦姫ダガー、応戦姫ライム　モンスターゾーン　応戦姫ルリ　魔法・罠ゾーン　伏せカード1枚
ドリー　LP8000　手札5



「私のターン、ドロー」



エリニスのフィールドには下級モンスターが1体。見えている守りが薄いことから、伏せカードか手札に何かがあるのは明白。なら……



「『無双姫 涙目のチュア』を召喚。チュアの効果発動、デッキから無双姫モンスター1枚を手札に加えます」
「手札の『裏切りの女姫士アゲット』の効果発動。このカードを墓地に送り、チュアの効果を無効にする！」
「させません。速攻魔法『墓穴の指名者』発動！ 墓地のアゲットを除外し、その効果を無効にします！」
「くっ……！？」
「続けて速攻魔法『サモン・チェーン』発動！ このターン、私は通常召喚を3回まで行うことができます。私は手札に加えた『無双姫 爆食のニエ』を召喚。ニエの効果発動、デッキから無双姫を手札に加えます」
「サモン・チェーンの効果で召喚権は3回……まさか！？」
「ええ、そのまさかです。『無双姫 魅了のセイ』を召喚。セイの効果でデッキから無双姫を手札に加えます！ さらに永続魔法『無双姫の消失』発動。そしてチュアの効果発動、消失を破壊し、手札から無双姫1体を特殊召喚します。来て、『無双姫 穏健のクリファ』！ クリファの効果発動、デッキから無双姫を手札に加えます」
「モンスターが、4体……それでも、攻撃力はルリの方が上よ」
「そんなこと、関係ありませんよ。クリファの効果発動。ルリを破壊します」
「リバースカードオープン、通常罠『身代わりの闇』！ クリファの効果を無効にするわ！」
「セイの効果発動、相手が発動した罠カードの効果を無効にします」
「っ！？」



これで相手フィールドのモンスターは0。妨害手段も使い尽くさせた今、彼女を守るものはない。



「ニエの効果発動、ペンデュラムゾーンのダガーを破壊します。……バトルです。チュアでダイレクトアタック！」


エリニス　LP7200→5800


「ニエでダイレクトアタック」


エリニス　LP5800→4300


「続けてセイでダイレクトアタック」


エリニス　LP4300→2900


「……クリファで、ダイレクトアタック！」


エリニス　LP2900→1400


「か、ハッ…………！！」



4度のダイレクトアタックが、容赦なくエリニスの身体にダメージを与える……しかし、若干ふらつきながらも彼女は闘志をなくしてはいなかった。



「……エリニス。長年あなたたちのデュエルを見てきた私には、その弱点も分かっています。あなたのデッキはライフコストを必要とするカードが多いことも、ペンデュラム召喚に必要なスケールを維持できなければ戦線を保つことが難しいことも……これ以上、あなたを傷つけたくはありません。早く降参を……」
「ふざけないで……降参なんて、死んでもしない！！」
「っ……本当に、負けず嫌いなところは変わらないんですね」



この強い心があったからこそ、彼女はここまで強くなった。でも、このままでは……



「……カードを1枚セット、これでターンエンドです」



エリニス　LP1400　手札1　ペンデュラムゾーン　応戦姫ライム
ドリー　LP8000　手札2　モンスターゾーン　無双姫 涙目のチュア、無双姫 爆食のニエ、無双姫 魅了のセイ、無双姫 穏健のクリファ　魔法・罠ゾーン　伏せカード1枚



「私のターン、ドロー。『速撃の応戦姫イラ』をペンデュラムスケールにセット。ペンデュラム召喚！ エクストラデッキより舞い戻れ、ダガー、ルリ！ そして速攻魔法『フォース・リリース』発動！ 私のフィールドのデュアルモンスターを、再度召喚状態にするわ。ダガーの効果発動！ 墓地のカードを1枚除外し、デッキから融合またはフュージョンカード1枚を手札に加える。通常魔法『ペンデュラム・フュージョン』発動！ このカードで融合召喚する時、ペンデュラムゾーンにカードが2枚ある場合それらを融合素材とすることができる。ペンデュラムゾーンのライムとイラを融合！ 復讐に駆られる戦士たちよ、その身を交えさらなる戦火を燃やせ！ 融合召喚、 『多弾速撃の応戦姫イラ』！　イラが存在する限り、自身以外の応戦姫の攻撃力を400アップする！」


闇牙の応戦姫ルリ　攻撃力1750→2150


短牙の応戦姫ダガー　攻撃力1450→1850


「ルリの効果発動、融合召喚に成功した時カードを1枚ドローする。バトル、イラでクリファを攻撃！」


ドリーム　LP8000→7100


「イラの効果発動。戦闘で相手モンスターを破壊した時、デッキからレベル4以下のペンデュラムモンスター1枚を手札に加える。続けてルリでセイを攻撃！」


ドリーム　LP7100→6350


「ルリの効果発動。戦闘で相手モンスターを破壊した時、デッキから融合カード1枚を手札に加える。ダガーでチュアを攻撃！」


ドリーム　LP6350→5900


「…………」
「ここまでのダメージを受けても顔色1つ変えないなんてね。一体、どれだけの死線を越えてきたの？」
「……生憎、この程度では痛みを感じられない身体ですので」
「なんだ……やっぱり、化け物じゃない」



……もはや、否定する言葉もない。私がまともではないことは、何よりも私自身が知っていることなのだから。



「……バトル終了。私は手札から『諜報の応戦姫アゲット』を召喚。イラの効果発動。私のフィールドに応戦姫モンスターが召喚・特殊召喚される度自身に応戦姫カウンターを1つ乗せる」


多弾速撃の応戦姫イラ　応戦姫カウンター 0→1


「そして通常魔法『応戦姫融合』発動！ フィールドのアゲット、ダガーを融合する！ 融合召喚、『暗躍の応戦姫アゲット』！ ルリの効果で1枚ドロー、さらにイラに応戦姫カウンターを乗せる！」


多弾速撃の応戦姫イラ　応戦姫カウンター 1→2


暗躍の応戦姫アゲット　攻撃力2500→2900


「アゲットの効果発動！ フィールドの応戦姫カウンターを2つ取り除き、デッキから応戦姫モンスター1体を特殊召喚する。来なさい、『瞬刃の応戦姫シルフ』！ 応戦姫が特殊召喚されたことでイラとアゲットに応戦姫カウンターを乗せる！」


多弾速撃の応戦姫イラ　応戦姫カウンター 2→0→1


暗躍の応戦姫アゲット　応戦姫カウンター 0→1


瞬刃の応戦姫シルフ　攻撃力2200→2600


「私はこれでターンエンド。フォース・リリースの効果を受けたルリは裏守備表示になるわ」



エリニス　LP1400　手札1　モンスターゾーン　多弾速撃の応戦姫イラ、諜報の応戦姫アゲット、瞬刃の応戦姫シルフ、闇牙の応戦姫ルリ（裏側守備表示）
ドリー　LP5900　手札2　モンスターゾーン　無双姫 爆食のニエ　魔法・罠ゾーン　伏せカード1枚



「……ここまでの展開、次のターンにライフを削りきるという意思表示でしょうか？」
「あなたのデッキ、その詳細は掴めていないけれど……さっきのターンにエクストラデッキから展開しなかったのを見るに、そう気軽に攻撃力の高いモンスターを出すことができないデッキということでしょう。この戦力差……そう易々とは覆らないわよ」
「そうですね、あなたの予想は概ね正解です。ただ1つ、間違いがあるとすれば……この程度の盤面、覆すのは容易いということでしょうか」
「っ……言ってくれるわね」
「事実ですから……デュエルを続けましょうか。私のターン、ドロー」



この手札、それにエリニスのフィールド……やはり、この手段しかないのか。



「……儀式魔法、『無想忌の誕生』発動。このカードを用いて儀式召喚をする際、手札・フィールドのモンスターをリリースする代わりに墓地の無双姫モンスター1体を除外することができます。私はフィールドのニエをリリース、墓地のクリファを除外します」
「儀式、召喚……！？」






「清き願いが闇に堕ちる時、大いなる災厄が生誕する。覚めない悪夢に、せめて終焉の救済を……儀式召喚、『無想忌 激昂のスキュラ』！！」




































「…………な、なによそれは……！！？」



ドリームが儀式召喚したモンスター……『それ』が現れた瞬間、周囲の空気が歪むのをはっきりと感じた。この禍々しさ、相対する者の正気を抉ろうとするような……



「スキュラの、効果発動。相手フィールドのカード1枚を選択し、破壊する……私は、イラを選択」
「……ハッ。モンスター1体を破壊したところで、私のフィールドにはまだ3体のモンスターが残る。次のターンになれば、そのモンスターも……」
「ッ、リバースカードオープン……永続罠、『無想忌が引き起こす終末』を発動。このカードの効果で、スキュラの効果を無効化……」
「自分で自分のカードを、無効に……？」



ドリームの戦略が読めない。……それどころか、カードを発動している彼女の様子が明らかにおかしい。まさか、あのカードと何か関係が……！？



「スキュラの、効果発動……ッ。このカードの効果が無効にされたとき、相手フィールドのカードを全て破壊する……」
「そ、そんな！！？」
「エリニス……お願い、逃げて……！！」



ただ存在するだけで威圧感を与えるような怪物が、ズンズンとこちらのフィールドまで接近する。そして……叫び声を上げながら、応戦姫たちを蹂躙していく。



「っ、きゃあぁぁぁ！！！」



怒り、悲しみ、憎しみ……ありとあらゆる負の感情をごちゃまぜにした何かが、私にまで伝わってくる。ダイレクトアタックを受けた訳でもないのに、どうして……









「…………もう、抑えられない…………」






呻くようなドリームの声が聞こえたのと、ほぼ同時。全ての応戦姫を蹴散らしたスキュラが、まっすぐにこちらを睨み付ける。まるで、次の獲物を見つけたとでも言わんばかりに…………



「うぁ、あ…………」



身体が上手く動かない。喉から声が出せず、足が震えて立っていることすら難しい……もはや私に打つ手はなく、目の前の怪物に葬られる瞬間を黙って待つことしかできない。









「……こんな、ところで……っ！！」









フローラ、私は…………！！！
























「…………、え？」



思わず閉じていた目を、そっと開く……すると、私の視界からあの怪物は消え去っていた。



「どういう、こと……！！」



その原因はすぐに明らかとなった。いつの間にか、ドリームが倒れ伏している。対戦相手が意識を失ったことによる、デュエルの中断……私は、それに救われたのか。



「……馬鹿ね。なんで、私を助けるような真似を……」



ドリームの言動、そして彼女の意に反したモンスターの動き。そこから推測するに……彼女は、あのモンスターを止めようとしていた。デュエリストが制御できないモンスターなんて聞いたことがないけれど、目にした以上は信じるしかない。



「……どういう過程であれ、こうなってしまえばあなたの負けよ」



今ならドリームは無防備。剣で刺し貫けば、彼女に勝てる……



「…………」








……これが、私の望んだ勝利？









「私、は…………」