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HOME > 遊戯王SS一覧 > 35話 妖精の導き

35話 妖精の導き 作:名無しのゴーレム













パールさんが僕を認めてくれたことで、デュエルは終了となった。









「……マジかよ。こんな形でデュエルを終わらせるなんて……おい、鋼! お前は、こうなることが分かってたのか……?」
「……まさか。ただ、これが勇者が勇者たる所以だった……そういうことなのだろう」
「勇者、ねぇ……」












「……さて、それでは行こうか」
「え?」



何の説明もないまま、パールさんは洞窟の奥の方へすたすたと歩き始める。



「あ、あの……」
「なんだ?」
「ええと……行くって、どこに?」
「……行けば分かる」



結局何も分からないまま、僕たちはパールさんについていくこととなってしまった……












「……着いたぞ」
「こ、ここは……」



歩くこと数分、洞窟の最奥部と思われる場所に辿り着いた。そこで、僕たちが見たものは……












「わ、パールだー!」
「でも他にも居るよー? 誰だろー?」
「いち、にい……3人、3人居るよー!」






…………そこには、手のひらに乗せられそうなほど小さな女の子たちが……いや、世間一般的には妖精と言われるであろうものが、数十は存在していた。僕たちを見るやいなや、彼女らはてんでバラバラに散っていく。奥の方へ逃げ出したり、はたまたこちらへ向かって歩いてきたり。



「…………」
「……彼女たちの名はネージュ。彼女たちが、この街に降る雪をある程度制御している」
「彼女、たち……?」



全員が同じ名前ということなのか、彼女たち全てを指してネージュと呼んでいるのか……気になるところではあるが、今はそれどころではない。



「雪を、制御って……」
「へぇ、こいつらがあの雪の元凶ってことか」
「それは少し違う。確かに雪を降らせたのはネージュだが、そうするよう指示したのは俺だ」
「……つまり、彼女たちならこの事態も解決できる。そう考えてもいいのか?」
「ああ。ただ、少しばかり面倒だが……」
「?」



スクアーロさんとの会話を打ちきり、パールさんはネージュたちの元へ歩み寄る。



「ねぇパール、いつまでいっぱい雪降らせるのー?」
「もう疲れたー!」
「この人たちは誰ー?」
「うるさい、話すなら1人づつにしろ。……雪はもう降らせなくていい。こいつらは……ただの旅人だ。雪が邪魔で帰れないと、俺に話をしに来た」



……事実と微妙に違う話をしている。説明するのが面倒なのか……



「えー? でもパール、誰も逃がさないようにって言ってたよねー? それはもういーのー?」
「ああ。あれは俺の勘違いだったらしい……だから、もう雪を降らせる必要はない」
「うん、分かったー!」



……簡単に話がまとまってしまったが、ともかくこれで問題は解決したみたいだ。



「でもさー? 雪を止めただけじゃ、あの森は通れないんじゃないの?」
「……え?」



……そうだ。仮にこれ以上雪が全く降らなくなったとしても、今までに降り積もった雪が全部溶ける訳じゃない。待てばいいだけの話なのかもしれないが、正直どれくらいの時間がかかるのかは想像もつかない。



「そうだな。だが解決策はある……この小僧を見ろ」
「小僧って、この子のことー?」



パールさんの指示に従うように、ネージュたちが僕の方へ近付いてくる……というか、まとわりついてくる。



「え、ちょっ……」
「あれー? この感じってー……」
「これって、アルムの匂いー?」
「ホントだ、アルムとおんなじ感じがするー!」



何人もの妖精が僕の足元にくっつき、口々にアルムの名を叫ぶ。



「……どうやら、ネージュには感覚で分かるようだな」
「か、感覚って……この子たちは、アルムとどんな関係があるんですか?」
「こいつらはアルムの相棒みたいなものだ。彼女が健在だった頃は、彼女がネージュを介しこの一帯の雪をコントロールしていた。それによって、ここは何者にも攻め落とすことのできない鉄壁の要塞となっていたんだ」
「な、なるほど……」
「だから、アルムと共にいるお前なら雪の中であろうと問題なく通ることが可能だ」
「え……どうして? 雪が降らなくなっても、すでに積もっている雪はどうしようもないんじゃあ……」
「……言っただろう、アルムは雪をコントロールしていたと。雪の降る量を変える程度のことをコントロールとは言わない。以前なら、一瞬にして周囲一帯の雪を溶かすことすら可能だった」
「た、確かにそれなら……」



……でも、それはアルムが生きていたときの話のはず。いくらアルムがついているといっても、僕にはそんなこと出来るはずが……



『いいえ、あなたでも可能よ。ネージュは私と格段に相性がいいというだけで、私が何かをしてる訳じゃない。私の力を有しているあなたなら、ネージュの力を借りれば同じようなことができるはずよ』
「そ、そうなんだ……」



アルムの言うことが事実なら、今すぐこの街から出ることも可能になったのか……いや、それには1つだけ前提がある。



「あの……ネージュ。僕たちはこの街から出たいんだけど、力を貸してくれないかな?」
「うん、いーよー!」
「…………え、いいの? しかもこんなにあっさり?」
「だって、あなたの中にはアルムが居るんだよねー? だったら安心だよー!」
「アルムがついてるなら大丈夫だよねー!」
「……アルム、すごい信用されてるんだね」
『この子たちの頭が残念なだけよ。ともかく、これで問題は全て解決ね』



さらっと酷いことを言い放つアルム……一体どんな関係なんだ。



「それでは、行くとするか」
「行くって……」
「もちろん森へ、だ」
「そ、それならプリンセスさんたちと合流しないと……」
「……そうだったな。なら、俺とネージュは先に森へ向かっておく。お前たちは後から来い」
「はい、ありがとうございます!」
「なら、私たちも急いで合流しよう。勇者、行くぞ」
「は、はい! それじゃあパールさん、また後で!」



さっそく洞窟を出ていこうとする鋼さんたちに続き、僕も外へ向かって歩き出す。


















「……おっ。ユージ、鋼!」
「マッハ!」



ひとまず最初に僕たちが別れた場所に戻ると、そこにはマッハ1人が立っていた。



「マッハ、プリンセスさん……他のみんなは?」
「ああ、プリンセスならもう大丈夫だ。ダイス曰く、さっき倒れたのは精神的なものが大きいだろうってな……だから付き添いはあいつらに任せて、俺はお前らを待ってたって訳だ」
「そうなんだ……ありがとう、マッハ」
「おう。それで、さっきの奴はどこ行ったんだ?」
「さっきのって……スクアーロさんのこと?」
「あいつなら別行動だ。それより、早く出発の準備をするぞ」
「出発? ……まさか、あの雪をどうにか出来るのか!?」
「うん。そう、らしいんだけど……」
「らしいって、なぁ……まあ分かった。さっさとプリンセスたちのところへ行くか」
「うん!」









少し歩いた先にあった休憩所に、プリンセスさんとダイス、クロノスさんが居た。横になっていたプリンセスさんは、僕たちの姿を見て身体を起こしてみせる。



「あ、ユージ……」
「プリンセスさん、もう具合は大丈夫ですか?」
「ええ。……心配かけてごめんなさい」
「いやいや、そんな……」
「大丈夫なら出る準備をしてくれよ。なんでも、雪を何とか出来るらしいからな」
「本当なの!? なら、早く支度を……っ」
「……っと。プリンセスさん、やはりまだ具合が優れないのでは……」
「ダイス、大丈夫って言ってるでしょう……今のはただの立ちくらみよ」
「そう、ですか……」



心配するダイスさんと、それを拒絶するプリンセスさん。やっぱり、まだ万全ではないのか……



「……それなら、森を出るまでは僕が支えますよ。それくらいなら構いませんよね?」
「……勝手にしなさい。ただし、変なところを触ったら容赦はしないからね」
「あはは、肝に命じておきます……」
「よし、それじゃあさっそく行くとするか。ほら、手を貸してやるよ」
「……ありがとう」



マッハの手を借りて再び立ち上がるプリンセスさん。……不安は残るけれど、パールさんとの約束がある以上は仕方ない。僕たちは支度を整えて森へ出発した。















「……来たか」
「はい。パールさん、待たせてごめんなさい」
「……どうして、あなたがここに居るの?」



パールさんと合流して早々、プリンセスさんがパールさんに同行していたスクアーロさんへ敵意を込めた視線を向ける。



「何だよ、俺が居て何が悪い? お前たちがここを出られるのは俺の協力があったからだってのに……」
「……出られなくなった原因もお前だがな」
「う、うるせえよ鋼」
「ええと……騒がしくてごめんなさい」
「別にいい。さあ、始めようか」
「ええと……始めるって、僕は具体的に何をすれば……?」
「お前がすることは特にない。ただそこに立っていればいい……ほら、行け」
「へ? ……うわぁぁ!?」



パールさんが指示を出した、その瞬間だった。放たれた何人ものネージュが、僕の元へ飛びこんでくる……!!



「うわぁ……? あれ、ネージュは?」
「彼女たちならお前の中にいる。いや、お前と共にいるというアルムの中、といった方がいいか」
「中って……どういうことなんですか?」
「ネージュは単体だけでは非力だ。いくら数がいるといっても、それだけでは大きな力は発揮できない……だから、他の生き物の力の体内に入ることで、その力を利用するんだ」
「え、ええっと……」



つまり、これからネージュたちは僕たちの力を使って雪を操るってこと……?



「さあ、心の中で念じろ。雪を溶かすことを……」
「念じるって……」



……とりあえず、目を閉じて集中してみよう。雪を溶かす、溶かす……



「…………」
「……おい、あれを見ろよ!」
「え……えぇ!?」



マッハの声で目を開くと、そこに広がっていた風景に思わず驚愕してしまう……さっきまで山のように積もっていた雪が、一瞬にして消え去り地面が見えるまでになっていたのである。



「これが、ネージュの力……」
「正確にはアルムとネージュの力、だがな。他の人間ではこうはいかない」
「そう、なんですか……」
「ともかく、これでこの森を抜けることには支障は出ないだろう。ほら、戻ってこい」



パールさんの言葉に従うように、虚空からネージュたちが姿を表す。



「ねーねー、ホントにアルムが居たよー!」
「久しぶりにアルムに会えたー!」
「分かったから、あまり騒ぐな。……これでいいだろう。俺たちはここまでだ、あとは自分達でどうにかしろ」
「はい。パールさん、それにネージュも……本当に、ありがとうございました」
「礼は要らない。……精々頑張れよ、小僧。お前がアルムと共にある限り、敗北は俺が許さない」
「……分かりました」
「……俺からはそれだけだ。ほら、早く行け」
「はい……それじゃあ、さようなら」



パールさんに別れを告げて、森の中へと歩き出す。















「……もうすぐ森を抜けるな」
「外には馬車を待たせてあるから、それに乗って……」
「どうした? 話を続けろよ」
「あんたが居るのに不用意に情報を漏らすわけないでしょ」
「そりゃ残念。まあ俺も仕事は終わったし、あとは依頼主へ報告に行くだけだ。じゃ、俺は先に行くぜ」
「あ……スクアーロさん、お気をつけてー!」



僕たちに別れを告げたスクアーロさんは、風のように走り去っていってしまった。



「……なら、あいつを追えば依頼主を見つけられるんじゃないか?」
「やめておけ。逃げに徹したあいつを捕まえられる人間は居ない」
「そうか。なら仕方ねぇな……」



そんなことを話ながら歩いていると、ようやく森の出口が見えてきた。



「……あ、あそこに馬車が!」
「じゃあ、さっそく乗るか。目指すはフィアンマ……って。そういえばダイス、お前はこれからどうするんだ?」
「ん? もちろんフォーチュンシティに戻るさ。これからについて考えることも山積みだからな」
「……そうだよな。じゃあクロノスは?」
「え……わ、私は……」
「お前はユージたちと一緒に行け」
「え、えぇ!? どうして!?」
「お前の目的は時空間渡航者の捜索だろ。ならフォーチュンシティに留まるより、色んな街を見て回った方が効率がいい。違うか?」
「そ、それは、そうだけどぉ……」
「なら決まりだな。……プリンセスさん、どうか無理はなさらないでくださいね」
「え、えぇ……ありがとう」
「それじゃあ、僕はここで。……運命が導けば、また会いましょう」









……少し意味深にも聞こえる言葉を残し、ダイスさんは馬車とは別方向へ歩き去って行く。……いや、残したのは言葉だけではなかったけれど。









「ええっと、どうしようか……」
「あ、あの……」



ダイスさんに置いていかれた形となってしまったクロノスさんは、思いきったように言葉を発する。



「あ、改めてですが……これからよろしくお願いします!」
「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」












……こうして、二度目の旅立ちは新たな仲間が加わったことから始まったのであった。







































「……ねーねー、パールー!」
「なんだ、もうすぐ洞窟に着くから静かに……」
「大変なんだよー! 1人、1人足りないのー!」
「……なんだと? 洞窟に置いてきたとかではないのか?」
「それはないってー! だって、外に出かける時は全員揃ってるか、毎回数えてるもん!」
「なら、一体どこで……まさか!?」












キャラクター紹介

ネージュ
モチーフ:【雪精霊】 作者:名無しのゴーレム

小さな少女の姿をした妖精。数十人ほど存在していて、全員少しずつ性格が異なる。
雪を操る力を持っていて、アルムと力を合わせることで数段強力な力を使えるようになる。



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ギガプラント
いっぱいいる妖精的なのは何故か一匹足りなくなるお約束。…まさかまだ入ってるのか?
クロノスちゃんも本格的に仲間になったところで次の冒険へ、RPGなら道が開けて探索できる場所が増えたようなそんか感じがします。 (2019-08-05 19:14)
名無しのゴーレム
ギガプラントさん、コメントありがとうございます。
一匹足りない事件の真相は…今後の展開をお楽しみに。
思わぬ道草を食うことになりましたが、これからようやく新しい旅立ちです。覚悟を決めたユージの活躍をお楽しみに! (2019-08-06 00:15)

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