17話　最速の男　作：名無しのゴーレム

～ユージとプリンセスがアミューズに到着する少し前～












「ここがアミューズか」


バイクを走らせること数十分。あいつらより一足早く、目的地に到着した。


「……観光でもするか」






何故かどの通りも人が多い。事故を防ぐために、スピードを落として街中を走っていく。


「なんだよこれ、イベントでもやってんのか？」
「おい、そこのバイク！ 止まれ！」
「な、なんだぁ？ ……って、本当になんだよあれ！？」


後ろから男がこちらへ走ってくるのが見える……しかしその速度が異常だった。俺のバイクより速いかもしれない。


「逃げるな！」
「いやいや、テメェみたいな化け物に捕まってたまるかよ！ 悪いが振りきらせてもらうぜ……」
「させるかぁ！！」


速度を上げようとしたその瞬間だった。とてつもない加速を行った男は、瞬く間にこちらに追い付き、追い越しては目前に立ちはだかる。


「う、うぉぉぉぉ！！？」
「……よし、確保！ この俺から逃げようだなんていい度胸を……って、あれ？」
「お、お前は……まさか、スプリントか！？」












「しかし、こんなところでスプリントに会うとはな」
「俺も同じ気持ちだ。にしても、今はアミューズ全体で車両の運転を禁止してるのを知らなかったのか？」
「初耳だよ。ったく、バイクより速く走れる時点でアンタだと気づくべきだったぜ……」


スプリントに捕まった俺は、歩きながらこの街の現状を教えてもらっていた。


「今は最大規模の祭り中だからな。もうすぐパレードも始まるから、混雑具合も最高潮だ」
「そういえば、スプリントはどうしてここに？」
「んー、旅人仲間から祭りの話を聞いてな。今は警備のアルバイト中。お前みたいな輩を取り締まるのが仕事だ」
「うへぇ。取り締まるって……なんかペナルティでもあるのか？」
「あるにはあるが、こんなことをいちいち報告してもキリがないからな……よし、じゃあこういうのはどうだ？」
「な、何をさせる気だよ」
「お前には……俺と一緒に街のパトロールをしてもらう。ま、給料は出ないけどな」
「タダ働きってことか。まあいいや。どうせユージたちと合流するまではすることも無いし、パトロールとやらに付き合ってやるよ」
「……ん？ マッハ、お前仲間と一緒に旅してるのか？」


スプリントは急に立ち止まり、驚いたような表情で俺に尋ねる。


「ああ、まあな。今は色々あって別行動だが」
「へぇ。お前がな……こりゃ意外だ。色々ってのは？」
「そ、それは……」


隠しても仕方ない。こいつには全部を話すことにしよう……






「なるほど……まさにガキどうしの喧嘩って感じだな」
「うるせぇ。どう考えてもプリンセスの奴が悪いだろうが！」
「喧嘩両成敗って知ってるか？ 大人になりきれなかったお前も悪いんだよ。ま、ガキには難しい話か」
「……いつまでもガキ扱いするのはやめろよ。俺だって、お前と別れてからずっと旅して来たんだ」
「その結果が今のお前だろ？ 全く成長してねえじゃないか」
「ぐっ……」
「そいつらもそろそろアミューズに来てるんじゃないか？ 見つけたらちゃんと謝るんだぞ」
「なんで俺が謝らなきゃ……」
「意固地になってるんじゃねえ。大切な仲間なんだ、ちっぽけなことでなくすなよ」
「…………」
「……さて、パレードもそろそろ終わった頃かねぇ。一旦本部に戻って、お前の仲間を探すか……ん、なんだあれ？」
「あ……ぁ！？」


スプリントが指を指す先、そこには巨大なスクリーンがあった。先ほどまでパレードの様子を映していたはすだったのだが、今は違う映像が流れている。


「ありゃ……マスクドドラグーンか。もう一人は見たこと無いな。あいつのパフォーマンスか何かか？」
「あれは……ユージ！？」
「なんだ、知り合いか。良かったじゃないか、探す手間が省けたな」
「いや、それどころじゃないだろ！ あれってデュエルだろ？ なんでユージがデュエルを……」
「……ああ、お前は知らないんだったな。十中八九対戦相手……マスクドドラグーンの提案か何かだろうよ。あいつは生粋のエンターテイナーだからな。お前の連れが巻き込まれた理由はさっぱり分からんが」
「エンターテイナー……？ いや、だからそれとデュエルに何の関係が？」
「よく見てな。あれが娯楽としてのデュエルの完成形……アクションデュエルだ」
「アクション、デュエル……？」






スクリーンに映されていたデュエルは、俺の知っているものとは大きく異なっていた。両者がフィールド内を駆け巡りながら激しい攻防を繰り広げていく……確かに、娯楽としてはこれほど盛り上がるものも無いだろう。


「ちなみに今ならこの街で行われるデュエルの全てがアクションデュエルになる。試しに1回やってみるか？」
「……いや、遠慮しとくよ。まずはユージと合流しないと……？ おいスプリント、さっきから周りの様子がおかしくないか？」


スクリーンに夢中になっていたから気付かなかったが、先ほどまで浮かれながら街を歩いていたような群衆が急ぎ足でその場を離れていっている。明らかに何か、それも良くないことが起きている……


「……あっちに何かがあるみたいだな。俺は現場に向かうが、マッハはどうする？」
「当然、行くに決まってるだろ。ユージは大丈夫にしても、他の仲間が巻き込まれてたら大変だからな」
「ハッ、ちゃんと成長してるじゃねえか……全速力で行くぞ！」
「おう！」






現場に到着した俺たちは、思わず言葉を失った……まるで嵐でも過ぎ去ったかのように、その一帯が破壊されていたのだ。街も、人も……


「……正直、ここまでとは思ってなかったな。これ全部、『アイツ』がやったと思うか……？」
「そうとしか考えられねぇだろ。マッハ、注意しろよ。そろそろこっちに気付くぜ……」


スプリントの忠告通り、この惨状の中唯一立っていた少女がゆらりとこちらを向いた……


「……あら、あらら？ おかしいわね、そんなところにまだ人が居たなんて！ まあいいわ、あなたたちも私と遊びたいんでしょう？」
「遊ぶ、だと？ まさか、お前の遊びでこの光景が出来たとでも言うつもりか」
「この光景……？ ああ、ちょっと壊しちゃっただけじゃない。せっかく遊び放題だと聞いたから全力で楽しんでいたのに、結局皆この通り！ もう、玩具が簡単に壊れちゃつまらないじゃないのっ！」
「玩具……なるほどな。全く、今日は二人もガキの相手をしなきゃならんとは」
「おいスプリント、まさか……駄目だ！ あれはどう見てもマトモじゃない、仲間を呼んで……」
「いいや、必要ない。ガキの相手には大人一人で十分だ。お前はそこで見てろ」
「はぁ！？ テメェ、カッコつけてる場合じゃ……」


俺の話も聞かずに、スプリントは少女に向けて歩みを進めていく。


「ようお嬢ちゃん。次は俺と遊ばないか？」
「あなたが？ ふぅん……いいわ！ 簡単には壊れないでよね！」
「そんな心配は必要ないさ。ただ子供の遊びに付き合って、そしてちょっと痛い目を見てもらうだけだ。時間も取らせない、手早く片付けるぜ」
「さっきから聞いてれば、随分な言い様ね？ まさかとは思うけれどあなた、私に勝つつもり？」
「そっちこそまさかとは思うが、俺に勝てるとでも思ってるのか？」
「……へぇ、ちょっと頭に来ちゃった。このイライラ、アンタをぶちのめして晴らさせてもらおうかしら！」
「出来るといいなぁ？ ……俺の名はスプリントだ。もう会わないだろうから覚えなくてもいいがな」
「私はギルティよ。よく覚えておくといいわ……これから完膚なきまでにぶちのめされる相手なんですから！」
「へっ、言ってな。それじゃあ始めるぜ。アクション……」















「「デュエル！！」」



















キャラクター紹介


スプリント
モチーフ：【エクスプリンター】作者：ギガプラント様
世界を駆け巡る兄貴肌の旅人。短距離走なら何にも負けない。
口調は荒っぽいが、意外と世話焼き。
マッハとは以前一緒に旅をしたことがあり、彼の兄のような存在。


ギルティ
モチーフ：【天罪姫】作者：ター坊様
無邪気に周囲を破壊する少女。
彼女のデュエルは普通よりも遥かに大きな被害が発生する。
そのため普段はデュエルをさせてもらえず、本人はそれを不満がっている。


【エクスプリンター】、【天罪姫】の使用許可を下さったギガプラント様、ター坊様、本当にありがとうございます！