8話 運命の賢者　作：名無しのゴーレム

「……ここですよ。」


ダイスさんの案内に従って、僕たちがたどり着いたのは……


「ねぇ、これって……」
「カジノ、だよな？」


目の前の建物、そこには巨大なサイコロやルーレットがあしらわれた、まさに想像通りのカジノといったものだった。


「……どういうつもり？ 私たち、ギャンブルしに来たわけじゃないのよ？」
「もちろん承知していますよ。実はここ、僕が作ったんですよ。」
「……え！？ ダイスさんが！？」


こんな巨大な建物を……？ もしかして、ダイスさんってすごい人なのか？


「ふーん。ちゃんと仕事してるんじゃない。」
「アハハ……まあ、実際のところは僕が遊びたいから作ったんですけど。でも開店初日に思いっきり遊びまわったらついやり過ぎて、それっきりカジノエリアには出入り禁止になっちゃったんですよ。」
「……その光景、簡単に想像できそうね。」


自分が作ったカジノに出入り禁止にされるって……何をどうしたらそうなるんだ。


「まあその話は置いといて、レストランエリアに行きましょう。……そろそろ、空腹も限界では？」
「そうだな。よーし、腹一杯食うぞ！」



「……どうですか？ ここの料理はすべて僕が味を確かめてから販売していますから、少なくとも僕の口には合うようになっているんですが……」
「うまい！ このパスタ、お代わりしてもいいか？」
「もちろん。僕の名前を出せば食事代はただになるから、気にせずにじゃんじゃん食べてくれ。」
「マジで！？ よし、なら次はこれとこれ、ついでに……」
「マッハ、よく食べるね。」
「食べれる時にいっぱい食べるのは旅人の基本だぜ？ ほら、ユージもたくさん食いな。」
「はぁ……2人とも、あまり品を損ねないようにしなさいよ。」
「まあまあ、それほど気にしなくてもいいですよ。」


それからしばらくは、各々食事を楽しんだ。ダイスさんだけはすでに済んでいたようで、ゆっくりとワインを飲んでいた。……こうしてみると、さっきの軽い感じとは大違いだな。


「……さて、そろそろ話を始めましょうか。」
「え？」
「何言ってるのよ。私たちは運命の賢者に会いに来たの。あなたにこれ以上話すことは……」
「ですから、話をしましょうと言ってるんですよ。先ほどはぼかされてしまいましたが、今度はもう少し詳細を教えてくれるとありがたいんですが……」


……なんだか話が噛み合わない。


「……おい、ダイス。お前、まさか……」
「マッハ？ 何か分かったの？」
「……あんまり自分から言うのは好きじゃないんですけどね。これ以上プリンセスさんを苛立たせるのも悪いですから、素直に明かすことにしましょう。」
「明かすって、一体何を……？」


……！ ま、まさか！？


「決まってるじゃないですか。……僕が、運命の賢者なんですよ。」



「…………何ですってぇ！？」







ーー現在の状況。衝撃の事実に僕とマッハは唖然、プリンセスさんは……


「……そんなはずないでしょう！？ 賢者なんて呼ばれているのが、こんなナンパ男なわけが！」
「いやぁ、酷いですねぇ。事実ですけれど。信じてもらえないのもいつものことですしね。」
「……それなら、もう少しそれっぽくしたらどうだ？」
「嫌だ。……それに、分かりやすすぎるのも問題でね。さっきみたいなことも少なくはないんだよ。」


……そう言えば、さっきのフォーチュンモールを占拠した連中も『運命の賢者を連れて来い』とか言ってたっけ……


「……どうしてさっき、ダイスさんは狙われていたんですか？」
「……どうやら、『奴ら』は本格的にこの街に侵攻しようとしているらしい。それには僕が邪魔なんだろうね。」
「奴らって？ メシアが言ってた『外の悪しき者』のことなのか？」
「そう……だと思う。フォーチュンシティはメシアの結界の外部側にあるから、外側からの干渉もそこそこあるんだよ。」
「なるほどなぁ……」



……メシアさんの言う通り、この世界に異常が発生しているんだ。僕は、それと戦うのか……



「……いや、なんであっさり話を進めてるのよ。」
「プリンセスさん？」
「なんでって……ダイスが運命の賢者って分かったんだ、まずは色々聞いておきたいだろ？」
「そこよ！ どうしてダイスの言うことを鵜呑みにしてるのよ！ 疑ってかかるべきでしょ！」
「僕は正真正銘、本物の運命の賢者ですよ？ ほら、これを見てください。」


ダイスさんは懐から何かを取り出した。


「……サイコロ？ それにしては目が多いわね。」
「これは『神のダイス』。『水面写しの鏡』や『時空の戒錠』に並ぶ、この世界における宝なんですよ。」
「これが？ ぱっと見ただのサイコロにしか見えないんだけど……」
「まあ、そう言われてしまえばまったくその通りですが……運命の賢者である証拠なんてこれくらいしかないんですよ。」
「ふーん……」


……僕からしても分かる、あれは疑いの目だ。確かに信じられるかと言われると微妙ではあるけど……


「……どうすれば信じてもらえますか？ 疑われたままも嫌なので、出来る限りのことはやってみせましょう。」
「……なら、私とデュエルしなさい。」
「……え？」


プリンセスさんとダイスさんがデュエル？ ……と言うか、どうして？


「私より強いなら、一応は信じてあげる。どう？」
「プリンセス、無茶苦茶言ってるなぁ……」
「マッハは黙ってて。……ダイス、どうする？」
「……はぁ。分かりました、受けますよ。」


ダイスさんはそう言うと立ち上がり、ある方向を指差した。


「あちらにデュエルスペースがあります。そこでやりましょう。」
「……ええ、分かったわ。」


ダイスさんの案内に従い進んでいくと、そこは巨大な広場のような場所になっていた。


「……へぇ、そこそこ大きいところね。」
「ここ、ギャンブルエリアの次にお金を費やして作ったんですが……それでもそこそこ止まりですか。いやはや、あなたの家が気になりますよ。」
「そんなこと関係ないでしょ？ ……始めるわよ。」



「ねぇマッハ。プリンセスさんってデュエル強いの？」
「うーん……俺よりちょっと強いくらいかな。」


マッハよりも強いんだ……（自称）運命の賢者のダイスさんの実力も気になる。


「……何だか、ワクワクしてきたよ。」
「ユージもか？ ……俺もだ。きっと面白いデュエルになるぜ。」



「……こっちの準備はいいですよ！」
「そう。……なら、さっそく始めましょう。」




「「デュエル！！」」