46話　君臨者と反逆者　作：名無しのゴーレム

「……答えて、あなたは何者！？」
「……想定外の流れとなったが、まあいい。私はシザー、傭兵だ。此度はマキナの依頼を受けて参上した」












「マキナさんが、依頼……？」



姿を表した襲撃者……シザーの口から出た言葉に反応するロード。どうやら、彼女の存在は彼にとっても予想外だったらしい。



「……なるほど、お前がロードか」
「ぼ、僕のことを知ってるんですか……？」
「当然だ。お前の保護も、マキナからの依頼の1つだからな」
「僕の、保護……」
「話は、終わってない！！」



会話を始めた2人に、ミトラが強制的に割り込んだ。



「ああ、そうだったな。分かっているとも……とは言え、悠長に話している余裕があるか？」
「っ！！」



……そうだ、こちらには負傷した鋼さんがいる。出血こそ酷くないものの、このままにしておいたらマズイことは明白。しかし……



「ｸﾞﾙﾙ……」



ミトラから発される、まるで獣を思わせるような低い唸り声……敵意剥き出しのその姿を見る限り、逃げる気はなさそうだ。



「……その姿、獣そのものだな。どうする、私を討つか？」
「もちろん……その、つもりっ！！」



挑発に応える形で、ミトラはデュエルディスクを構える。まさか、ここでデュエルを……！？



「デュエルか……いいだろう。その代わり、後悔しないことだな」
「後悔、なんて……！！」



2人がデュエルを始めてしまえば、鋼さんを安全な場所へ移動させることも叶わない。しかし今から止めることも……きっと不可能だろう。それなら……






「……僕も、戦います……！」
「！！？」
「ほう……なるほど、数の利を活かす訳か。合理的な策だな」



……通常、2対1のデュエルなんて行わない。誉められるようなことじゃないっていうことは分かっているけれど、速やかにこの場を収めるためにはやるしかない……！！



「クロノス！！」
「は、はい！」
「……このデュエルが終わるまででいい。鋼さんのことをお願いしてもいいかな」
「……はい、分かりました」
「ありがとう。それじゃあ……」






「ま、待ってください！！ ……シザーさん。1つ、質問してもいいですか……？」



デュエルが始まる……そんな一触即発の空気の中、ロードはおずおずと声を上げた。



「……なんだ」
「さっき、マキナさんの依頼って言ってましたよね……なら、この人たちは、マキナさんの敵ってことなんですか？」
「……少なくとも、奴からはそう聞いている。計画を妨害しようとしている、とな」
「ち、違うんです！ 僕たちはただ、マキナさんと話し合いがしたいだけで……」
「話し合い？ それはつまり、戦いを伴わない方法であいつを止めようとしているだけだろう。なら、何も違うことはない……」
「そ、それは……」
「…………」



考え込む様子を見せたロードは、その後シザーの方へと歩き出し……こちらへと振り返った。



「……ごめんなさい。約束を破ることになってしまいますが……それでも、僕はマキナさんのところに行きたい。そして、あの人が目指すものをこの目で見たいんです。だから……」



言葉を切り、デュエルディスクを構えるロード。



「……これで、2対2か」
「くっ……それでも、僕のやることは変わらない！ ミトラ、やろう！」
「……ｺｸﾘ」












「「「「デュエル！！」」」」









ミトラ＆ユージ　LP8000
ロード＆シザー　LP8000



……2対2、タッグデュエルではお互いのライフは勿論のこと、フィールド・墓地まで共有される。となると、ターンの回し方も重要になるが……



「……先攻はもらう。私のターン。手札から『幻獣の巫女ミトラ』を召喚。ミトラの効果発動。召喚・特殊召喚成功時にデッキ・手札・墓地から聖域の幻獣を特殊召喚する。……デッキから、『聖域の幻獣、神羅』を特殊召喚」



『ミトラ』に『神羅』……名前だけでなく、その姿までそっくりなモンスターだ。



「……カードを1枚セットして、ターンエンド」



ミトラ＆ユージ　LP8000　モンスターゾーン　幻獣の巫女ミトラ、聖域の幻獣、神羅（表側守備表示）　魔法・罠ゾーン　伏せカード1枚
ロード＆シザー　LP8000



ミトラのフィールドにはモンスターが2体。一方は低ステータスの攻撃表示、もう片方は高ステータスの守備表示……これでは、狙ってくださいと言っているようなものだ。



「僕のターン、ドロー。僕は『リーガリアンの暗躍者』を召喚。暗躍者の効果発動、デッキからリーガリアン1体を墓地に送ります。通常魔法『死者蘇生』発動、墓地から『リーガリアンの用心棒』を特殊召喚」
「神羅の効果発動。相手がモンスターを特殊召喚した時、相手ライフに800のダメージを与えて自分のライフを800回復する」
「なっ……！？」


ミトラ＆ユージ　LP8000→8800

ロード＆シザー　LP8000→7200


「くっ……通常魔法『王格の目覚め』を発動します。このカードの効果により、僕のフィールドに存在する用心棒をディグニファイロードとして扱います」



モンスターの名前を、変更した……？



「手札の『リーガリアンの麒麟児』の効果発動。自分フィールドにディグニファイロードが存在するとき、手札のこのカードを捨て、ライフを700払うことで墓地から自身を特殊召喚！」
「神羅の効果発動」


ミトラ＆ユージ　LP8800→9600

ロード＆シザー　LP7200→6500→5700


「そして……レベル5の用心棒に、レベル3の麒麟児をチューニング！ シンクロ召喚、『ディグニファイロード・アルビトリウム』！！」
「……神羅の効果発動」


ミトラ＆ユージ　LP9600→10400

ロード＆シザー　LP5700→4900


「アルビトリウムの効果発動！ このカードの特殊召喚成功時、自分フィールドのディグニファイロードの数だけフィールドのカードを破壊できる！ 僕が破壊するのは、神羅！」
「っ、リバースカードオープン。速攻魔法『神儀、風神息吹』発動。フィールドのミトラと神羅を、融合する……ヒトガタの幻獣よ、高尚なる魂と交じりて一つとなれ。融合召喚、『魂威融合、流水のミトラ』」



相手の除去効果をかわしながらの融合召喚。今のところは完全にミトラのペースで進んでいるが……



「この瞬間、アルビトリウムの効果発動！ 墓地のリーガリアンを除外することで、相手モンスターの特殊召喚を無効にします！」
「！？」



マズイ……これで僕たちのフィールドはがら空きだ！！



「……墓地に送られた流水のミトラの効果発動。自身を除外して、墓地のミトラを手札に加える」
「これで形勢逆転ですね……バトル！ アルビトリウムでダイレクトアタック！」


ミトラ＆ユージ　LP10400→7600


「続けて暗躍者でダイレクトアタック！」


ミトラ＆ユージ　LP7600→6500


「くっ、うぅ……」
「カードを1枚セットして、ターンエンドです」



ミトラ＆ユージ　LP6500
ロード＆シザー　LP4900　モンスターゾーン　ディグニファイロード・アルビトリウム、リーガリアンの暗躍者　魔法・罠ゾーン　伏せカード1枚



……連続攻撃でライフを大きく削られたものの、ロードの手札は残り1枚。普通のデュエルならライフも手札も余裕があるミトラの方がやや有利とも言えるだろう。しかし……これはタッグデュエルだ。自分のターンは4ターンに1度しか回ってこないことを考えると、手札を蓄えたところでそこまで盤面に影響を与えることは出来ない。つまり、如何に素早く展開するかが重要になる。ミトラは気付いていないだろうが……僕は、僕に出来ることをやるしかない。



「……僕のターン、ドロー。『白き地の吟遊詩人ハルカ』を召喚。ハルカの効果発動、手札から『白き地の案内人カザハナ』を特殊召喚。さらに白き地のモンスターが特殊召喚されたことで、手札の『白き地の女官セッカ』を特殊召喚！」



セッカの攻撃力を高めれば、アルビトリウムの攻撃力を上回ることが出来る……



「……アルビトリウムの効果発動！ 墓地のリーガリアンを除外して、セッカの特殊召喚を無効化！」
「っ！？ ……カザハナの効果発動。デッキから『白銀の森 カームボワ』を発動。カームボワの効果で白き地のモンスターの攻撃力を600アップ、カザハナの効果でハルカの攻撃力は300アップする」


白き地の吟遊詩人ハルカ　攻撃力1500→2400

白き地の案内人カザハナ　攻撃力1200→1800


「バトル、ハルカでアルビトリウムを攻撃！」
「攻撃力の低いモンスターで、攻撃……？」
「速攻魔法『白き地の魔除け』発動！ 白き地のモンスターの攻撃力を500アップ！」


白き地の吟遊詩人ハルカ　攻撃力2400→2900

白き地の案内人カザハナ　攻撃力1800→2300


「そんなっ……！！」


ロード＆シザー　LP4900→4800


「カザハナで暗躍者を攻撃！」
「リバースカードオープン！ 通常罠『王格の閃き』！ リーガリアンへの攻撃モンスターを破壊して、攻撃対象のモンスターをディグニファイロードとして扱います！」
「くっ……カザハナが破壊されたことで、ハルカの攻撃力も下がります」


白き地の吟遊詩人ハルカ　攻撃力2900→2600


「僕は、これでターンエンドです」



ミトラ＆ユージ　LP6500　モンスターゾーン　白き地の吟遊詩人ハルカ　フィールド魔法　白銀の森カームボワ
ロード＆シザー　LP4800　モンスターゾーン　リーガリアンの暗躍者



「私のターン、ドロー。このカードは相手フィールドにモンスターが存在するとき、リリースなしで召喚できる。来い、『シザーバンデットの破壊者』。さらに自分フィールドにシザーバンデットモンスターが存在することにより、手札から『シザーバンデットの指導者』を特殊召喚。永続魔法『バンデット・オペレーション』を発動。そして指導者の効果発動。オペレーションを破壊して、自身以外のシザーバンデットの攻撃力・守備力を1000アップする」


シザーバンデットの破壊者　攻撃力2400→3400


「攻撃力、3400……！！」
「破壊されたオペレーションの効果発動。相手の手札を確認し、1枚をデッキに戻したあと1枚ドローさせる。……手札のミトラをデッキに戻してもらおうか」
「っ……」



これまでの動きを見ても、ミトラのデッキの核が『幻獣の巫女ミトラ』であることは明白だ。相手もそれを理解して、次のターンの動きを妨害するために……



「バトル。破壊者でハルカを攻撃」


ミトラ＆ユージ　LP6500→5700


「つっ、うぅ……」
「ダメージステップ終了後、破壊者の効果発動。相手のデッキトップを効果を無効化し、永続魔法扱いとして私の魔法・罠ゾーンに置く。続けて指導者でダイレクトアタック」


ミトラ＆ユージ　LP5700→4100


「指導者の効果発動。相手のデッキトップを魔法・罠ゾーンに置く。暗躍者でダイレクトアタック」


ミトラ＆ユージ　LP4100→3000


「……バトル終了。破壊者の効果発動。自分フィールドの永続魔法2枚を破壊し、相手の手札1枚をランダムに選び墓地に送る。ミトラ、お前の手札を捨ててもらおうか」
「…………」


こちらのカードを奪い、それをコストとして効果を発動……そしてミトラへの執拗な妨害。間違いなく、相手はタッグデュエルの戦術を理解している。



「カードを1枚セットして、ターンエンドだ」



ミトラ＆ユージ　LP3000　フィールド魔法　白銀の森カームボワ
ロード＆シザー　LP4800　モンスターゾーン　リーガリアンの暗躍者、シザーバンデットの破壊者、シザーバンデットの指導者　魔法・罠ゾーン　伏せカード1枚






このライフとフィールド……次のミトラのターン次第では、僕にターンが回ることなく決着がつきかねない。






「ミトラ……！！」
「……私のターン。ドロー」












危機的状況にあるにも関わらず、デュエル開始時から一貫して戦意を崩さないミトラ。……このデュエル中、彼女の視線はずっと自らの手札か相手のみへと向けられている。恐らく彼女はタッグデュエルの定石なんて考えてもいないのだろう……でも、彼らに勝つにはこちらも力を合わせなければならない。仮にミトラが凌いだとしても、このままでは……勝てない。ミトラを守るためにも、この状況を何とかしないと……！！