6話 幸運な男　作：名無しのゴーレム

フォーチュンモール8階、高級レストラン街にて……


「……うーん、なんか微妙ね。」


本にはこの街で1番のシェフが作る料理って書いてあったけれど……


「やっぱり、マッハたちも連れて来れば良かったかしら。」
「おやお嬢さん、お1人ですか？」


食事の手を止めて考え事に耽っていると、1人の男が近寄って来た。見た目は品がありそうだけど……


「……何か用でも？」
「いえ、見たことのない綺麗な女性でしたので、つい声を。ご一緒にワインでもいかがですか？」
「私はお酒は飲まないの。」
「それは残念、ならお食事でも……」
「しつこいわよ。私はあなたと一緒に居る気はないわ。分かったらさっさと立ち去りなさい。」
「……はぁ、また駄目だったか。ツイてないなぁ……」


……やっぱり、ただのナンパじゃない。


「……あ、そうだ。あなた、うんめ……」


私が男に運命の賢者について尋ねようとした、まさにその時だった。




「……お前ら、動くなぁ！！ ここは俺たちが占拠した！ 大人しく俺たちの指示に従えぇ！！」


突然、銃で武装した男たちがレストランへと乗り込んで来た。……何が起きているの？


「まずは真ん中に集まれぇ！！ いいか、余計なマネをすれば……」


男の1人がこれ見よがしに何かを取り出す。


「……この、爆破スイッチを押すぞぉ！！ そうなればこのフォーチュンモールは一瞬にして砕け散るんだ！ ハハハハ！！」


……狂ってる。あいつら、自爆する気なの？


「……言う通りにしよう。相手は複数人、しかも全員武装している。僕たちに出来ることはない。」


……驚いた。まさかこいつにそんな聡明な判断が出来るなんて。


「……そうね。」


レストランの中心に集まると、私たちは奴らによって手足を縛られた。


「よし、準備は出来たかぁ！！ ……聞こえているか、フォーチュンシティの住民どもよ！」


どうやらフォーチュンシティ全体に中継をしているらしい。


「我々はフォーチュンモールを占拠した！ 人質たちの命が惜しくば、またこれ以上フォーチュンモールを爆破されたくなければ我々の要求に応えることだな！」
「……要求、か。どうせロクでもないのに決まってる。」
「まずはこの街に居る運命の賢者を連れて来い！ 期限は……1時間だぁ！！」


なっ……こいつらも運命の賢者を！？


「早くすることだなぁ！！ さもねぇと……」


銃が私たちの方に向けられる。


「こいつらの命は無いものと思え！」
「「「キャァァァ！！」」」


客たちが悲鳴をあげる。……くっ、どうすることも出来ないの……？






「……まったく、どこまでも品の無い連中だ。」
「え……？」


気付くと、先ほどのナンパ男が立ち上がり、銃を向ける男の方へと歩いて行く。


「……ッ！？ テメェ、いつの間に縄を解きやがった！」
「解いてなんかいないさ。たまたま縄の縛りが緩かっただけだ。」


『たまたま』……？ そんなこと有り得るの？


「……だが、それがどうした！ お前、今の状況が分かってんのかぁ！！」


男が銃をナンパ男の額に向ける。あの距離じゃ……


「ん？ ああ、ゲームかな？」
「アァ、ゲームだとぉ？」
「そうだ、君が僕に向けて引き金を引く。弾が僕に当たれば君の勝ち、そうじゃなければ僕の勝ちだ。ほら、立派なゲームだろう？」
「……ハハハハ！ 何だこいつ、ただのバカじゃねえか！」


本当に、何を考えているの？ あんな状況で外す訳がない。何か策でもあるの……？


「いいや、そこに両者の勝つ可能性がある限り、ゲームは成立する。ただ僕の勝ち目が薄いだけだ。……さあ、ゲームを始めようじゃないか！」
「……恐怖で気が狂ったか。ならお望み通り、これで終わりだぁ！！」


男が引き金を、今、……




カチッ…………



「……何？」


……嘘、不発？


「僕の、勝ちだねっ！！」


驚きの隠せない男に、ナンパ男の回し蹴りが決まる。それは確実に男の顔面を捉え、男はその勢いで大きく吹き飛んで行った。


「お前、どんな手品を使いやがった！！」
「う、撃てぇ！！」


残る5人の男たちも、その異常さに驚きを見せながらもナンパ男に銃を向ける。


「やれやれ、次は一気に5回連続か。これなら五分五分ってところかな？」


5つの銃から放たれた弾丸が、今度こそナンパ男を貫く、そのはずだった。しかし……


ババァァァン！！


「「「「うわあぁぁぁ！！」」」」


5人のうち4人は、『何故か』銃が暴発して、その衝撃で倒れてしまった。最後の1人、彼が放った弾丸は……


「……な、有り得ない……」


ナンパ男の頬を掠める、こともなく窓ガラスを突き破った。


「……どうやら、今回も僕の勝ちのようだ。」
「……う、動くなぁ！！ 一歩でも動けばこいつらの命は無いものと思え！」


最後の1人が銃を客たちへと向けて叫ぶ。


「……チッ、面倒な真似を……」


……どうやら、ナンパ男にもこの状況はどうしようもないらしい。あと1人だって言うのに……






「させるか！！ 食らえ、正義の鉄槌を！！」


！？ 外から声が聞こえた、まさにその瞬間のことだった。ガラスを突き破り、一筋の光が男へと向かい、そして……


「へ？ …ギャアァァァ！！」


叫び声を上げたあと、男はぱったりと倒れてしまった。


「な……一体、何が起きたの？」
「あれはこの街のヒーロー、ヴァルキリオンですよ。お嬢さん、お怪我はありませんか？」


呆気に取られていると、ナンパ男が私に話しかけてきた。


「……無いわよ。それよりあなた、一体何者なの？」
「何者って……ただの遊び人ですよ。今縄を解きますから、すぐに脱出しましょう。爆破スイッチは取り上げましたが、万が一ということもありますからね。」


いつの間にそんなことまで……こいつ、やっぱりただ者じゃない。


「……おーい、プリンセス！！ 大丈夫か！」
「マッハ、それにユージまで！？ どうしてここに！？」
「ヴァルキリオンに運んでもらったんだ。……おいユージ、いい加減に帰って来〜い。」
「……ああ、お母さん……僕はここまでみたいです……」
「……何があったのよ。」
「いろいろ。それより、屋上にこいつらの頭がいるみたいなんだ。ヴァルキリオンが先に向かっていて、俺たちも合流するつもりだが……」
「私も行くわ。……あなたはどうするの？」
「……はぁ、僕も付いて行きますよ。こんな麗しい女性を残して逃げる訳にもいきませんし。」
「プリンセス、こいつは？」


……そう言えば、名前を聞いてなかったわね。


「ねぇ、あなたの名前は？」
「ああ、まだ名乗っていませんでしたね。僕はダイスと申します。よろしければ、あなたのお名前をうかがっても？」
「……プリンセスよ。」
「プリンセス！ なんと可憐な！ やはり僕はあなたと……」
「行くわよ、マッハ、ユージ。」
「おう！」
「……ハッ！ 僕は今まで何を……」
「ふざけてないでさっさと付いて来なさい。ここの地図は頭に入ってるから。」
「は、はい！」





「……まさか僕、ハブられた！？」




キャラクター紹介

ダイス
モチーフ【サイコロカテゴリ】作者 風鼠様
ナンパが趣味の遊び人。豪運の持ち主で、どんな絶望的な勝負も奇跡を起こして勝利を掴む。女性にはかなり丁寧な態度を取るが、ナンパの成功率はかなり低い。

【サイコロカテゴリ】の使用許可を下さった風鼠様、本当にありがとうございます！