1話 不思議の世界にこんにちは　作：名無しのゴーレム

少なくとも、その時まで僕はごく普通の学生のはずだった。それなりに真面目に授業を受けて、学校が終われば友達とデュエルを楽しむ。なんてことない、平穏な日常、のはすだ。それが、どうして……


「…………」


周りを見渡す。一面に木々が生い茂っている。こんな場所、僕が住む町にはなかったはすだ。『気づけばこんなところにいた』なんて、冗談もいいところだ。


「……ここ、どこなんだ……」


ガサガサ……


「……！！」


な、なんだ！？ 今、そこの草むらが……


（まさか、熊！？ いや、猪とかかもしれない。ど、どうしよう……）


ガサガサ……ガサガサ……


音は次第に近づいてくる。そして、ついにその姿を……


「……あ、見つけた！ よかった、見間違いじゃなかった！」
「……え？」


現れたのは熊や猪とは程遠い、1人の少年だった。比較的小柄な僕よりも小さいところを見るに、小学生辺りだろうか？ 少年はこちらに駆け寄ってくる。


「なぁお前、名前は？ この世界なら何でもありだと思ってたけど、まさか空から人が降ってくるとは思わなかった！」


少年は興奮しながらまくし立てる。……待てよ、なんか今、変なフレーズが入っていたような……


「……『空から』？ 僕、空から降ってきたの！？」
「何だよ他人事みたいに。まあそれはいいとしてさ。まだ質問に答えてもらってないんだけど？」


いや、よくないんだけど……質問？ 何だったっけか……


「聞いてなかったのか？ 名前！ 名前を聞いてるんだ！」
「ん、ああ、名前か。僕は北條 竜司（ほうじょう りゅうじ）。それで……」
「ホージョーユージ？ 長い名前だな！」
「名前は竜司だよ。だから、どうして僕は……」
「ふーん、ユージか。俺はマッハ、よろしく！」


……微妙に違う。いや、今はそれよりも……


「話を聞いてくれ！ ……ここはどこ？」
「ここ？ 森だよ。見て分からないか？」
「……そういうことをきいてるんじゃなくて、この辺りの地名を……」


「……マッハ！ 1人で突っ走るなとあれほど言ったでしょうが！」


少年―マッハが入ってきた草むらからもう1人、今度は女性が走ってきた。


「あー、悪いなプリン。どうしても気になってさ。」
「……プリン？」


それがこの女性の名前？ 随分美味しそうな名前だなぁ……


「誰がプリンよ！ 私はプリンセス！ マッハ、変な略し方しないで！」
「えー、プリンでいいじゃん。何が不満なのさ。」
「色々と不満よ！ ……ハァ。ところであなたは？」


プリンセスと名乗った女性がこちらを見る。こうして見ると、本当に綺麗な人だな……


「ちょっと、話聞いてる？ 私に同じことを2回言わせるつもり？」
「プリン、そうカリカリすんなって。こいつはユージ。なあユージ、取り敢えずゆっくり話が出来るところに行かないか？」
「プリン言うな！ ……けど、その提案には賛成ね。服も汚れるし、早くこんなところから離れましょう。」


こちらが何も言わない間に話が終わってしまった。……まあ、町へと連れていってもらえるならここがどこかもハッキリするだろう。僕は一先ず、彼らの後を付いていくことにした。




「……ユージ、あなたは本当に空から降ってきたのよね？」
「……らしい、です。僕もよく覚えていないんですが……」
「そう……。マッハはどう思う？」
「どう思うも何も、降ってきたんだからしょうがないだろ。プリンも見ただろ？」
「確かに見たけど……って、プリンじゃなくてプリンセス！ いい加減にしないと本気で怒るわよ！ 」
「もう十分怒ってるじゃんか……じゃあさユージ、降ってくる前はどこで何してたの？ 」


何してた、か……えっと、確か……


「……学校が終わって、家に帰ってから服を着替えて、それで……あ！」
「いきなり大声を上げないで。……何か分かったの？」
「それが……友達のところに遊びに行こうと家を出たら、突然光に包まれて……」
「光に？ それって……」
「もしかして、メシアが関わってるのかしら。」


メシア？ これまた仰々しい名前が……


「あの、メシアって？」
「知らないの？ メシアはこの辺りを統治している神様みたいなものよ。あの人なら空から人を降らせるくらい有り得るけど……」
「ちょっ、神様ぁ！？ そんなのいるわけないでしょう！？」
「……さっきから思ってたけどさ、ユージは俺たちとちょっとずれてる気がするんだよな。」
「ずれてる？ どこが？」
「んーと、さっき言ってた『ガッコー』っての、俺たちは聞いたことがないんだ。それにユージはなんか、考え方が狭いっていうか……」


考え方が狭い？ それはどういう意味で……


「つまりマッハは、ユージは私たちの考え方とは違っていると言いたいのね？」
「そうそう！ プリンが分かってくれて嬉しいよ！」
「…………」


プリンセスさんが自らの腰に手をかける。……あ、あれは！


「……あ。ちょっと待とうよプリン。いくらなんでも真剣を持ち出すのは……」
「……マッハ。今なら許してあげるわよ？」
「すみませんでしたプリンセス様！」
「……今回だけよ。次に言ったら……切るから。」
「ひぃっ！？」


マッハの必死の謝罪を受け入れて、プリンセスさんは腰の鞘にかけた手を戻した。そして鞘は空気に溶けるように消えて……！？


「え！？ 今、剣がいきなり出てきて、消えて……」
「……なるほどね。マッハの言うことは事実みたい。私たちの常識が、ユージのそれとは違うようね。」


ってことは、ここじゃいきなり物が出てきたり消えたりするのが当たり前なの！？ 世界は広いと思ってたけど、そんな場所があるなんて……って、なわけないだろ！


「…………」
「あーあ、固まっちゃったか。プリンセス、どうする？」
「……メシアのところに連れていきましょう。でも、その前に……」


パチン！


プリンセスさんが指を鳴らす。すると……


「お嬢様、探しましたよ！」
「うわ！？ この人、一体どこから！？」
「細かいことは気にしない、それがこの世界の基本よ。セバスチャン、屋敷まで送って。この2人もね。」
「承知いたしました。只今馬車を……」


すると、これまたどこからともなく巨大な馬車が現れた。


「ささ、お乗り下さい。」
「……なあプリンセス、最初からこれに乗って帰れば良かったんじゃないか？」
「何言ってるのよ。馬車があんな入り組んだ森の中を走れるわけないでしょ？」


……だから、森を抜けてから呼んだんだ。疑問は尽きないけれど、今のところはプリンセスさんの助言に従って、あまり考えないようにしよう……






キャラクター紹介

北條 竜司（ほうじょう りゅうじ）
主人公。中学生で趣味はデュエル。突然訳の分からない世界に足を踏み入れる。マッハたちからはユージと呼ばれている。

マッハ
モチーフ：【M・G（マッハ・ガンナー）】作者：名無しのゴーレム
快活な少年で、考えるよりも先に行動するタイプ。猪突猛進でよくプリンセスにとがめられる。

プリンセス
モチーフ：【姫騎士】作者：MTGからの刺客様
少し高飛車なお嬢様。いつでもどこからでもセバスチャンを呼び出すことが出来る。マッハとは『ただの友達』。




こんな風に、スレッド『遊戯王SSの使用デッキの申請』の皆さんに投稿して頂いたオリカカテゴリを登場させていきます。私の想像、趣味が強くなり、イメージからかけ離れているかもしれません。デュエルは今後行われる予定。次回は……厳しいかな。

【姫騎士】の使用許可を下さったMTGからの刺客様、本当にありがとうございます！