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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第30話:無償の愛

第30話:無償の愛 作:

血の繋がらない親子の心を繋ぐために、
息子テイルの代理として、イーサンは父ハリスンとデュエルを行うこととなった。

テイルの心の壁を表すように、
イーサンは先行で2体のリンクモンスターによって2度の無効効果を敷き、
フィールド魔法によって攻撃力を6000オーバーまで上昇させたが、
テイルの心の叫びの真意に気付いたハリスンは、自らの思いをデュエルにぶつけるため、
L召喚とP召喚を連続で行い圧倒的な展開力を見せる。
そしてイーサンのフィールド魔法が除去され、モンスターは高い攻撃力と破壊耐性を失った。

さらにイーサンは、次の自分のエンドフェイズまで、
モンスターを特殊召喚する時に1度、フィールドのカードを1枚除外しなければならず、
カード効果で手札にカードを加える時に1度、手札を1枚除外しなければならない制約を負う。

また、ハリスンが支払うライフコストはイーサンが支払わなければならない。

ここからがハリスンのバトルフェイズだ。
テイルへ思いを届けようとするハリスンの意思は、その瞳に宿っている。
親子関係は確実に修復へと向かっている。
このバトルを凌ぎ、さらにテイルの思いをハリスンへぶつけることが、イーサンの使命だ。

-----------------------------------------------------------------------------
【イーサン】
LP8000 手札:2(ヴォルタンク・エンジン)

①ヴォルタンク・スパークキャッスル(雷カウンター:4) ATK2300
②ヴォルタンク・チャージリダウト(雷カウンター:7) ATK2200

永続魔法:ヴォルタンク・リファインドサーキット(雷カウンター:12)
伏せカード:1

【ハリスン】
LP5600 手札:2(聖約者の示教)

①調伏の聖約者 エクスオルク ATK2600
②均衡の聖約者 イクイ ATK2200
③至公の聖約者 アネス ATK2100
④格律の聖約者 ミグザム ATK2000

Pゾーン:平定の聖約者 リプレス、和平の聖約者 レコンシレ
-----------------------------------------------------------------------------

「私は『格律の聖約者 ミグザム』で、『ヴォルタンク・スパークキャッスル』に攻撃!」
ハリスンは攻撃宣言に入る。

「だが攻撃力はスパークキャッスルの方が上だ!」
スパークキャッスルの攻撃力2300に対してミグザムは2000だ。

「聖約者モンスターの攻撃宣言時『均衡の聖約者 イクイ』の効果発動。
LPを800払うことで、その聖約者モンスターの攻撃力を1000アップする。
調伏の聖約者 エクスオルクの効果により、あなたのライフからコストを支払う」

イーサン LP8000→7200
格律の聖約者 ミグザム ATK3000

「さあミグザム、スパークキャッスルを破壊しろ」
ミグザムが持つ光線銃にピンク色の光が充填され、光線として射出される。
1本の光線は巨大なスパークキャッスルの頑丈な蒼い壁面に風穴を開けると、
爆発が起き、スパークキャッスルは破壊される。

「ぐっ…!」
イーサン LP7200→6500

スパークキャッスルが破壊されたことで乗っていた雷カウンターも消失する。
雷カウンター23→20

「ずりーぞおじさん!
相手のライフを減らして自分のモンスターの攻撃力を上げるなんて!
そんなのおじさんらしくない!」

1つの効果発動で2つのメリットを得るハリスンに、テイルは大声で異議を呈する。

「君との心の壁を打ち破るために、私も本気で立ち向かう。
本気で勝ちにいかねば、君に真っ向からぶつかることはできない!」
デュエルで語るということの意味を真に理解したハリスンに迷いはない。

「さらにイクイがこの効果を使用した場合、相手エンドフェイズまで、
相手は攻撃宣言する度に800のライフを払わなければならない」
自分がコストを支払った時、相手にもコストを課す聖約者デッキの本領が発揮される。


「『至公の聖約者 アネス』で『ヴォルタンク・チャージリダウト』を攻撃!
イクイの効果は1ターンに何度でも使える!
あなたのライフから800払い、アネスの攻撃力を1000アップ!」

イーサン LP6500→5700

しかしその時、イーサンもデュエルディスクに手をかける。

「罠カード発動!『ヴォルタンク・ブリンクリビルド』!
墓地のリンクモンスターのリンクマーカー分、フィールドから雷カウンターを取り除き、
そのモンスターを復活させる!」


■ヴォルタンク・ブリンクリビルド
 通常罠
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分の墓地の「ヴォルタンク」Lモンスター1体を対象として、
 そのモンスターのリンクマーカーの数だけフィールドの雷カウンターを取り除いて発動できる。
 そのモンスターを特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン、攻撃力が500アップし、
 カードの効果の対象にならず、戦闘・効果で破壊されない。
 ②:このカードを墓地から除外して発動できる。ターン終了時まで、
 相手フィールドの「効果の対象に取られない」効果を持つ表側カードの効果を全て無効にする。


「チャージリダウトから雷カウンターを3つ取り除き、スパークキャッスルを復活!」
雷カウンター20→17

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/FtT734v
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

「だが、私のアネスの効果によって、あなたがモンスターを特殊召喚する場合、
フィールドのカードをコストとして1枚除外しなければならない」

「俺は発動中の罠カード『ヴォルタンク・ブリンクリビルド』を除外!」
効果処理の解決前であるため、罠カードはフィールドに残っている。
それをコストとして除外すれば、ほとんどディスアドバンテージはない。

フィールドに雷が帯のように連なり、バチバチと激しく音を立てている。
その後、一瞬でその雷は消え、フィールドにスパークキャッスルが再び姿を現す。

「ブリンクリビルドの効果で特殊召喚したモンスターは、
このターン攻撃力が500アップし、戦闘効果で破壊されず、効果の対象にならない!」

ヴォルタンク・スパークキャッスル ATK2800

「チェーン1のイクイの効果で、アネスの攻撃力は上がる!」
至公の聖約者 アネス ATK3100

「どうやらこのターンはダイレクトアタックはできないようだ。
ならばアネスでチャージリダウトに攻撃!」

アネスは両手に持っている2つの大きな輪を投げ飛ばす。
それは鮮やかな軌道で目の前に聳え立つチャージリダウトへと向かい、
その大きな塔を真っ二つに切り裂く。その後、爆発が起き、チャージリダウトは破壊される。

「ぐあぁっ…!」
イーサン LP5700→4800
雷カウンター14→11

「うわああっ…!!」
隣にいるテイルも爆発の衝撃を受ける。
なんとかそれを両手で防ぎ、耐え忍んでいる。だがその目は真っ直ぐハリスンを捉えていた。

「私の最大の過ちは…テイル、君の味方になってあげられなかったことだ。
まずは君の実の父親をバカにされたということを許してはいけなかった。
寄り添うべきだった」

ハリスンもテイルを真っ直ぐと見つめ、真摯に言葉を紡ぐ。
そして自らの拳を強く握りそれを見つめると、再び前を向く。

「『均衡の聖約者 イクイ』でスパークキャッスルに攻撃!
800のLPを相手のライフから払い、攻撃力を1000アップする!」

イーサン LP4800→4000
均衡の聖約者 イクイ ATK3200

「子供を立派に育てることも親の役目だ。
しかし…過ちを犯した子供の味方をしてあげられるのも親だけだ!
私はそれを見誤っていた!」

イクイは細長い槍を構え、エネルギーを充填する。
その攻撃に自分の思いを乗せるように、ハリスンもテイルへと思いを語った。
イクイが槍を目の前のスパークキャッスルに高速で投げる。
その槍がスパークキャッスルに突き刺さる直前で、雷の障壁がモンスターを守る。

「罠カード『ヴォルタンク・ブリンクリビルド』によって、
スパークキャッスルは戦闘で破壊されない」

「だがダメージは通る!」
イーサン LP4000→3600

ハリスンの攻撃をなんとか凌いでいるが着実にライフは削られてゆく。

「これが最後の攻撃だ。
『調伏の聖約者 エクスオルク』でスパークキャッスルを攻撃!
イクイの効果で相手のライフを800払い、エクスオルクの攻撃力を1000上げる!」

イーサン LP3600→2800
調伏の聖約者 エクスオルク ATK3600


「言葉には責任が、罪には罰が伴う。これがこの世の理だと思う。
だが…私はそれを自分勝手に押し付けすぎた。
…すまなかった、テイル」

ハリスンはテイルの目を見て、真っ直ぐと言葉を伝える。
あれほど折れることのなかった頑固な男が、自らこの選択をしたのだ。

エクスオルクはテイルの気持ちに呼応するように高く飛び上がり、
自分の周囲を漂っている4つの三角錐から、充填したエネルギーを放つ。
電気の障壁がスパークキャッスルを守るが、ダメージはイーサンへと通る。

イーサン LP2800→2000

「バトルはこれで終了だ。私はカードを1枚伏せてターンエンド。
エンドフェイズ、上がっていたモンスターの攻撃力は元に戻る」

ハリスンとイーサンは共に効果によってモンスターの攻撃力を上げていた。
それが一斉に元の数値へ戻る。

-----------------------------------------------------------------------------
【イーサン】
LP2000 手札:2(ヴォルタンク・エンジン)

①ヴォルタンク・スパークキャッスル(雷カウンター:0) ATK2300

永続魔法:ヴォルタンク・リファインドサーキット(雷カウンター:12)


【ハリスン】
LP5600 手札:1

①調伏の聖約者 エクスオルク ATK2600
②均衡の聖約者 イクイ ATK2200
③至公の聖約者 アネス ATK2100
④格律の聖約者 ミグザム ATK2000

伏せカード:1
Pゾーン:平定の聖約者 リプレス、和平の聖約者 レコンシレ
-----------------------------------------------------------------------------

「…ハリスンさんの気持ちは伝わったか?テイル君」
イーサンは隣で真剣な表情をしているテイルに問いかける。

「…うん。おじさんがあんなこと言うなんて思ってなかった。
だから…嘘じゃないと思う。
おじさんは俺のことを嫌いなわけでも、俺のパパをどうでもいいと思ってるわけでもないって、
ちゃんとわかったよ」

わずか1ターンで親子は思いをぶつけ合い、心の壁はほとんど瓦解したと言っていいだろう。

「よし…!ナイスだぜイーサン!」
遊次は小声で呟き小さくガッツポーズをする。
しかし、イーサンはこれで終わりだとは思っていなかった。

「俺のターンだ。
テイル、君からもお父さんとお母さんに伝えなきゃいけないことがあるんじゃないか?」

「伝えなきゃ、いけないこと…」
テイルはまだ理解できていないようだ。

「あぁ、いっぱいあると思うぞ。よーく考えるんだ」
あくまでテイルに答えを出してほしいイーサンは、ただ静かにその時を待つ。
テイルはしばらく腕を組んで考えると、数秒後にはっとした表情をする。

「…どうやらわかったみたいだな。俺のターン、ドロー!」
テイルが答えを見つけたことを察すると、イーサンはプレイを続ける。
ドローしたのは罠カードだ。

「このドローフェイズ、フィールドのカードを破壊することで、罠カード『聖約者の示教』を発動。
エクスオルクの効果で、1ターンに1度、コストは相手フィールドからも選ぶことができる。
あなたのスパークキャッスルを破壊して、この罠カードの効果を発動!」


■聖約者の示教
 通常罠
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドのカード1枚を破壊して発動できる。
 このターン、相手がフィールドのモンスターの効果を発動した場合、
 1ターンに1度、フィールドのカード1枚を除外しなければならない。
 ②:自分フィールドの「聖約者」モンスターが戦闘を行うダメージ計算時に、
 墓地のこのカードを除外して発動できる。
 その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージを0にする。


この瞬間、スパークキャッスルは一瞬にして破壊される。
イーサンのフィールドにはモンスターが残っていない。

「せっかく復活したおっきなモンスターがやられちゃった…!」
テイルの心は父の本気のデュエルに押され気味だ。


「この罠カードの効果によって、このターン、相手がフィールドのモンスター効果を発動した場合、
1ターンに1度、相手はフィールドのカードを除外しなければならない」
この効果はコストとして除外するのではなく、効果発動後に除外する効果となっているようだ。

「イーサンのモンスターをコストとして破壊しながら、更に効果発動にも制約をつけるってのか。
あのオヤジ、えげつねえことしやがる」
前のターンからイーサンにいくつも伸し掛かるコストに、
怜央はもし自分が食らったらと想像し、苦い表情をする。
しかしイーサンは動じていない。


「テイル君。今、君のお父さんのモンスター達によって、
俺は大きな制約を受けた…つまり何かをするには何かを払わなきゃいけないんだ。
でも、それを乗り越えようとする力に、君の言葉を乗せれば、
きっとお父さんにも届くと思うんだ。お父さんがそうしたように」

ハリスンはイーサンの圧倒的なフィールドを乗り越える力に言葉を乗せ、テイルの心を動かした。
今度は逆に、ハリスンから受けた制約を乗り越える力にテイルの言霊を乗せようという考えだ。

「今、俺のデッキは君の心と一心同体だ。君は思うように、お父さんに想いをぶつけるんだ」
イーサンの言葉に、テイルはその目を見て力強く頷いた。
そして、2人同時に前を向く。

「墓地のヴォルタンク・アームの効果発動。
このカードを墓地から除外し、除外されている『ヴォルタンク』カード1枚をデッキに戻す。
その後、そのカードと同じ種類のカードをデッキから手札に加える。
この効果は墓地からの発動であるため、聖約者の示教の効果の範囲外だ」

「だが、ミグザムの効果によって、デッキからカードを手札に加える場合、
手札を1枚除外してもらう」
ハリスンの指示通り、イーサンは元々手札にあったヴォルタンクモンスターを除外する。

「除外されているフィールド魔法『ヴォルタンク・カレントコレクター』をデッキに戻し、
その後、戻したカードをそのまま手札に加える。そして発動!」
イーサンのフィールドに、再び巨大なアンテナ群が張り巡らされる。

「ヴォルタンク・エンジンを召喚!
召喚時、デッキからヴォルタンクモンスターを1体手札に加える。
『ヴォルタンク・コンデンサ』を手札に加える」
手札に加える時にコストが必要なのは1ターンに1度だ。ここからはコスト無しでサーチ可能となる。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/nb09OhR
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

「この時、シャッフルが発生したことで、ヴォルタンク・エンジンと
フィールド魔法『ヴォルタンク・カレントコレクター』にそれぞれ雷カウンターが乗る」
雷カウンター12→14


「だがモンスター効果を使ったことで、あなたはフィールドのカードを1枚除外しなければならない」
ハリスンに敷いた制約が重く伸し掛かる。

「…俺はヴォルタンク・エンジンを除外」
雷カウンター14→13

ヴォルタンク・エンジンが光に変わって消えてゆく。
これでイーサンのフィールドからは再びモンスターがいなくなった。


「永続魔法『ヴォルタンク・リファインドサーキット』の効果発動。
雷カウンターを2つ取り除き、もう1度ヴォルタンクの通常召喚を可能とする」
雷カウンター13→11

「ヴォルタンク・コンデンサを召喚!」


■ヴォルタンク・コンデンサ
 効果モンスター
 レベル4/光/雷/攻撃力1600 守備力1000
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:フィールドの雷カウンターを2つ取り除き、
 相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動する。そのカードを破壊する。
 ③:このカードが墓地に存在する場合、フィールドの雷カウンターを3つ取り除いて発動できる。
 墓地のこのカードを特殊召喚する。


現れたモンスターは金属感が漂う青い円筒形の胴体を持つ。
胴体の中央から上向きに一直線に伸びる端子がついている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/NOqMzGy
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


「ヴォルタンク・コンデンサの効果発動。雷カウンターを2つ取り除き、
相手の魔法・罠カードを1枚破壊する。
Pカードは魔法として扱われるため、『平定の聖約者 リプレス』を破壊」

雷カウンター11→9

三本の端子から電気が発せられ、ハリスンのPゾーンのリプレスが破壊される。
リプレスは聖約者モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、
1ターンに1度、LPを払って破壊を免れるP効果を持っていた。

「にーちゃんのとーちゃん…フィールドにはモンスターが1体いるだけだ。大丈夫なのか…?」
イーサンは動くたびにコストを支払うことになり、アドバンテージを稼げていない。
明らかに押されているように見えるイーサンを、テイルは不安げに見つめる。

「大丈夫かどうかはテイル君次第だ。俺はカードを1枚伏せる」

「カードを伏せる…?もしかしてもうやれることがねえんじゃ…。
このままだと、イーサンが負けちまうぞ」
怜央は中途半端に依頼が終わってしまうのではないかと案ずる。

「いや、イーサンには考えがあるはずだ」
遊次は凛々しい表情でイーサンを見つめている。

「これで俺の手札は0枚だ。この瞬間、墓地の魔法カード『ヴォルタンク・ブースト』の効果発動。
手札が0枚の時、墓地からこのカードをフィールドにセットできる」
イーサンの魔法罠ゾーンに墓地から魔法カードがセットされる。

「このカードは雷カウンターを4つ取り除き、カードを2枚ドローする効果。
お父さんに勝てるかどうかは、このドローに懸かってる。あとは…君次第だ」

「俺次第…?」

「言ったろ。俺のデッキと君は一心同体。君の思いが強ければ、デッキは必ず応えてくれる」
イーサンは一切の濁りのない目で語る。
まだテイルはぴんと来ていない様子だ。

「本当だ。俺を信じろ」
「…! う、うん!」

イーサンの目は真剣そのものだった。
ただの気休めや迷信ではなく、実感として事実を述べているような、そんな目だった。
テイルもその気迫を感じ、彼を信じることにした。

「…俺、本当はわかってたんだ。俺は言っちゃいけないことを言っちゃったって。
でも…俺ばっかりが責められて、なんでそんなこと言われなきゃいけないんだって…ムキになってた」
テイルはたどたどしく言葉を紡ぎ始める。

「"パパ"と"ママ"が僕を嫌いじゃないってことも…本当はわかってた。
だから、えっと…その…」
テイルの脳裏には、今の両親との記憶が蘇る。

自分と距離を縮めるために、ジュリエッタがあれでもないこれでもないと、
色々なお菓子やおもちゃを買ってくれたこと。

ハリスンがデュエルで遊ぼうと提案したものの、
テイルのためにわざと負けたことに気づき、怒ってしまったこと。

7歳の誕生日に、あまり乗り気ではなかった自分を喜ばせようと
2人が一生懸命お祝いしてくれたこと。

彼らの思いは全てテイルに伝わっていた。
テイルは涙の粒が溜まった目で、大声で叫んだ。

「…ごめんなさぁーーいっ!!」
公園の端にたむろしていた数羽の鳩が、テイルの声に驚き飛び立った。

「テイル…」
テイルが自らの過ちを認め謝ったことに、
ハリスンからは驚きや安心…様々な感情が同時に湧いて出る。
イーサンは隣でただ静かにテイルを見守っている。

「初めて呼んでくれたわね。"パパ"と"ママ"って」
ジュリエッタは安らかに微笑み、喜びを噛み締める。

「あ、それは…その…」
テイルはつい口にしたその言葉にはっとして、照れ臭そうに俯いている。
その姿を見ていた遊次達3人も微笑ましそうにしている。

「いいんだ、テイル君。今の君の正直な思いこそ、この局面を覆すのに必要だ。
セットしていた『ヴォルタンク・ブースト』を発動!
雷カウンターを4つ取り除き、カードを2枚ドローする!
発動後、このカードは除外される」

雷カウンター9→5

イーサンは勢いよくカードを引き、それを確認すると、少し口元を緩める。

「魔法カード『ヴォルタンク・リブート』発動!
墓地のヴォルタンクを1体特殊召喚する。
ヴォルタンク・スパークキャッスルを特殊召喚!」


■ヴォルタンク・リブート
 通常魔法
 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分の墓地の「ヴォルタンク」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを特殊召喚する。
 ②:このカードが墓地に存在する場合に発動できる。
 墓地のこのカードをデッキに加えてシャッフルする。
 その後、自分はデッキから1枚ドローする。


「親子関係は前に進みつつあります。でも、ここまで来たら…
俺はただ、あなたに勝ちたい!」
イーサンは前を向き、対峙するハリスンへ不敵な笑みを浮かべる。

「奇遇ですね。
私も1デュエリストとして、真剣にあなたと勝負をしたいと思っていたところだ」
ハリスンもそれに静かな笑みで応える。

「『至公の聖約者 アネス』の効果により、あなたが特殊召喚する場合、
フィールドのカード1枚を除外しなければならない」

「ならば、発動中のヴォルタンク・リブートを除外だ。
再び現れよ、ヴォルタンク・スパークキャッスル!」

■ヴォルタンク・スパークキャッスル
 リンクモンスター
 リンク3/光/雷/攻2300
 【リンクマーカー:右/左/下】
 雷族モンスター2体以上
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いのデッキがシャッフルされる度に、
 このカードおよびこのカードのリンク先のモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 ②:相手モンスターが効果を発動した時、
 フィールドの雷カウンターを3つ取り除いて発動する。その発動を無効にして破壊する。
 ③:フィールドの雷カウンターを2つ取り除き、墓地の「ヴォルタンク」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターをこのカードのリンク先に特殊召喚する。

イーサンのフィールドに、再び巨大な蒼き要塞が出現する。


「よっしゃぁー!いけー!にーちゃんのとーちゃん!」

「フッ、お父さんを応援しなくていいのか?」
イーサンは少しからかうようにテイルに問う。

「いいんだ。なんか俺も一緒に戦ってるみたいな感じだし!
このままパパをやっつけちゃえよ!」

テイルも完全に元気を取り戻したようだ。
ハリスン自身が過ちを認めたことを皮切りに、テイルもそれに応え、
両者の心の壁は急速に瓦解してゆく。

元々、たったこれだけのことだったのだ。
心から憎み合っているわけではない。
歩み寄るきっかけさえあれば、その捻じれは簡単に元に戻る。
否、さらに綺麗な1つの線にすることもできる。今回はそのきっかけがデュエルだった。


「じゃあいくぞテイル君!お父さんに勝とう!」
「うん!」
"俺のデッキと君は一心同体だ"というイーサンの言葉を体現するように、
テイルはまるで自分も戦っているように感じていた。
それほどまでにイーサンはテイルの心に同調するように、
デュエルでそれを示して来たということだ。


「スパークキャッスルの効果発動!
雷カウンターを2つ取り除き、墓地のヴォルタンクモンスターをリンク先に復活させる。
来い、ヴォルタンク・ライトニングロッド!」

雷カウンター5→3


■ヴォルタンク・ライトニングロッド
 リンクモンスター
 リンク2/光/雷/攻1800
 【リンクマーカー:下/左】
 雷族モンスター2体
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いのデッキがシャッフルされる度に、
 このカードおよびこのカードのリンク先のモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 ②:このカードがリンク素材として墓地に送られた場合、
 墓地の「ヴォルタンク」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのカードをデッキに戻し、自分はデッキから1枚ドローする。
 ③:フィールドの雷カウンターを2つ取り除き、
 フィールドのカード1枚を対象として発動する。
 そのカードを破壊する。


天高く聳える一本の蒼き塔もフィールドに再び現れる。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/bK4xj8i
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


「ヴォルタンク・ライトニングロッドの効果発動!
雷カウンターを2つ取り除き、フィールドのカード1枚を破壊する!
Pゾーンの『和平の聖約者 レコンシレ』を破壊!」

雷カウンター3→1

ライトニングロッドの塔の天辺に雷が集中し、それがハリスンのPゾーンへ放たれる。
これによって、ハリスンのPゾーンのカードは2体とも破壊された。

「私の次のペンデュラム召喚を封じてきたというわけか…。
だが裏を返せば、このターンでは私のライフは削れないと言っているに等しい」
ハリスンは冷静に分析する。
ペンデュラム召喚を封じるということは、次にハリスンへターンが回ることを想定してのことだ。


「私のフィールドには、800のライフを払うことで聖約者モンスターの攻撃力を上げるイクイがいる。
更にそのコストはあなたのライフから支払われる上に、
前のターンのイクイの効果によって、あなたは攻撃宣言する度に800のライフを払う必要がある」

「つまり、あなたは1度の攻撃宣言で1600のライフを失う。
たった2000のライフでは、1度の攻撃宣言が関の山ということだ」
ハリスンは四角い黒縁のメガネを指で上げながら得意げに話す。


「安心するのは早いですよ。俺のデッキはここからだ。
俺はヴォルタンク・コンデンサと、ヴォルタンク・スパークキャッスルをリンクマーカーにセット!
サーキットコンバイン!
リンク3のスパークキャッスルは3体分の素材として使用可能!」

「更なるリンク召喚だと…!」

スパークキャッスルが2体の半透明な分身を作り、
それらは浮かび上がった巨大なサーキットのアローヘッドへと入ってゆく。

「聳え立つ要塞に雷落ちる時、神撃の力が解き放たれる」

「リンク召喚!リンク4『ヴォルタンク・サンダーフォートレス』!」


■ヴォルタンク・サンダーフォートレス
 リンクモンスター
 リンク4/光/雷/攻3000
 【リンクマーカー:上/左/左下/下】
 雷族モンスター2体以上
 このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いのデッキがシャッフルされる度に、
 このカードおよびこのカードのリンク先のモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 ②:このカードがフィールドに存在する限り、
 自分フィールドの雷カウンターの乗ったモンスターは相手の効果の対象にならない。
 ③:フィールドの雷カウンターを3つ取り除き、相手フィールドのカード1枚を対象として発動する。
 そのカードを持ち主のデッキに戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。


今までの要塞をも大きく上回る超巨大な城塞。それがイーサンの切り札。
全身は青色の金属板で覆われ、その表面は固く研ぎ澄まされた鋼鉄の質感と、
錆一つ目立たない均整の取れたデザインが特徴である。
外殻は厚みがあるため、外敵の攻撃をも防ぐ堅牢な装甲となっている。
正面中央には大きな電気扉が設置されている。
城塞型の構造の中核部には、巨大な電磁砲が据え付けられている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/YhifH9K
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


「これが…にーちゃんのとーちゃんの…切り札…!」
ハリスンとジュリエッタ、そしてこのモンスターを最も間近で見ているテイルは、
あまりの巨大さに目を丸くするほかなかった。


「永続魔法『ヴォルタンク・リファインドサーキット』の効果発動。
フィールドのリンクマーカーの数分、フィールドのカード1枚に雷カウンターを置く。
俺のリンクマーカーの合計は6。フィールド魔法に6つカウンターを置く!」

イーサンを取り囲む大きなアンテナに何本もの雷が落ち、その上にエネルギーが充填される。

雷カウンター1→7


「ヴォルタンク・サンダーフォートレスの効果発動。
雷カウンターを3つ取り除き、相手のカード1枚をデッキに戻す。
俺のライフを支払ってモンスターの攻撃力を上げる最も厄介なモンスター…
『均衡の聖約者 イクイ』をデッキに戻す!」

雷カウンター7→4


「なっ…!」
サンダーフォートレスはフィールドの雷を自らに集め、電磁波としてイクイに照射する。
イクイは電磁波により分解され、フィールドから消滅する。
たった2000のイーサンのライフを削るために必要な要が消え去ったことで、
ハリスンの表情はより深刻さを増す。

「そしてデッキがシャッフルされたことで、ヴォルタンクモンスター2体と、
フィールド魔法にそれぞれ雷カウンターが乗る。
サンダーフォートレスのリンク先であるライトニングロッドには更にカウンターが乗る」

雷カウンター4→8

ヴォルタンク・サンダーフォートレス ATK5400
ヴォルタンク・ライトニングロッド ATK4200

「さあバトルだ!『ヴォルタンク・サンダーフォートレス』で
『調伏の聖約者 エクスオルク』を攻撃!
イクイの効果によって攻撃宣言時、800のライフを支払う」

イーサン LP2000→1200

巨大な城塞の大砲に大量の雷エネルギーが溜まり、それが一気の放出される。

「この瞬間、墓地の『聖約者の示教』の効果を発動!
墓地からこのカードを除外し、この戦闘でのダメージを0にする!」

「そ、そっか…そんな罠カードが…!」
完全に勝った気でいたテイルは
すっかり父がターンの最初に発動していた罠カードを忘れていたようだ。

「だがモンスターは破壊される!」
雷の砲撃を受けたエクスオルクは大きな唸り声をあげ、そのまま破壊される。


「まだバトルは続いている!800のライフを払い、
『ヴォルタンク・ライトニングロッド』で『至公の聖約者 アネス』を攻撃!」

イーサン LP1200→400

ライトニングロッドの天辺に雷が集約し、それはアネスへと放たれる。
アネスは破壊され、攻撃力3900のライトニングロッドの一撃はハリスンへダメージを与える。

「ぐあああっ!!」
ハリスン LP5600→3500

「俺のバトルフェイズはこれで終了だ。
サンダーフォートレスの効果によって、
雷カウンターが乗った俺のモンスターは相手の効果の対象にならない。
さらにフィールド魔法の効果で、1ターンに1度戦闘・効果で破壊されない。
俺はこれでターンエンドだ」

-----------------------------------------------------------------------------
【イーサン】
LP400 手札:1

①ヴォルタンク・サンダーフォートレス(雷カウンター:1) ATK5400
②ヴォルタンク・ライトニングロッド(雷カウンター:3) ATK4200

フィールド魔法:1(雷カウンター:4)
永続魔法:ヴォルタンク・リファインドサーキット(雷カウンター:1)
伏せカード:1


【ハリスン】
LP3800 手札:1

①格律の聖約者 ミグザム ATK2000

-----------------------------------------------------------------------------

「イーサンはハリスンさんを倒せなかった。ライフはたったの400…。
もしまたライフコストを肩代わりさせるような効果が使われたりすれば、
その時点でイーサンは負けだ」

2人の真剣勝負に、観客である遊次も一層真剣になる。
まさかイーサンがここまで追い詰められるとは思っていなかったのだ。


「民事裁判ではオースデュエルで決着を着けることもあるのでね。
依頼人のデュエルの代理人にもなることがある。
弁護士にはデュエルの研鑽も欠かせない」


「へへ、パパはほんとにつえーんだ。
何回かデュエルしたことあるけど、俺なんか相手になんないんだ!
だからわざと負けて俺のご機嫌取ろうとしちゃってさ」
テイルは腕を組みながら父親の強さを得意げに語る。

「あれ、俺の応援をしてくれるんじゃなかったのか?」
「あ…!い、いや…もちろんそうだ!」
しどろもどろに取り繕うテイルに、遊次と灯は思わず笑う。


「ハリスンさん、ジュリエッタさん。最後に一つだけ聞いておきたいことがあります。
お二人はなぜテイル君を養子にしようと思ったのですか?」
先ほどまでの楽しい雰囲気から打って変わり、再び硬い空気が漂う。

「…私達は子供に恵まれず、養子として子供を育てることを考え、施設を訪れた。
その時に庭でケガをした鳩を助けている子供を見かけた。それがテイルだ」

「それから何度か施設に訪れたが、テイルの表情はいつも暗かった。
施設に引き取られた経緯は聞いていた。
孤独に苛まれ、未来に展望を持てなかったのだろうと思った」

「孤独…」
ハリスンの言葉を遊次は無意識に繰り返す。
自分にもその気持ちは痛いほどわかる。

「悪を成した者でさえ、その罪を忘れ平然と日常を享受する…。
それなのに優しいあの子が、何故こんな境遇に陥らねばならないのか。
彼が何か悪いことをしたのか。あまりに釣り合っていない…そう感じた」

「その時私は思い出した。自分が弁護士を志した理由を。
この不平等を正し、人を幸せにしたいからだ。それが私の根源的な願いだ」

ハリスンの並々ならぬ正義感、その根源には「人を幸せにしたい」という純粋な願いがあった。
それがテイルにも作用したのだ。
彼の操る「聖約者」デッキも、自分と同等のコストを相手に支払わせる"平等"を体現したもの。
そのような彼の心から、デュエルディスクが同じ性質を持つカードを生み出したのだろう。

「だからこそ、テイル君を幸せにしたいと思ったわけですね」

「あぁ。しかし、テイルが息子となってから間もないはずなのに、
私はすっかりそのことを忘れ、己の正義を押し付けていた。情けないものだ」
ハリスンは自虐的に少し笑ってみせる。

「…情けなくなんかねえよ!!」
テイルがイーサンの隣で、真剣な眼差しで叫ぶ。

「テイル…」

「パパのお仕事…難しくてよくわかんねーけど、困ってる人を助ける仕事なんだろ!
めちゃくちゃすげーよ!」

「そういう、人を助けたい気持ちがあるから、俺のことだって、家族にしてくれたんだろ!
そのおかげで俺は、もう1人じゃない!だから…情けないなんて言うな!」

「…ありがとう、テイル」
ハリスンはただ一言、深い声で口にした。溢れ出る何かをこらえるように。
その後ろではジュリエッタも目元をハンカチで押さえている。

「テイルと面談で初めて会った時…あなたは1人で、私達はそれを見下ろしていて。
私たち親子の関係はまだ、あの時のままだったわ。
でも今はそうじゃない。3人で家族なんだから」

「ママ…」

「親だって間違うことはあるわ。
だから…家族3人で、いっぱい間違いながら進んでいきましょう」
ジュリエッタはテイルに優しい声で語る。

「うん…。…うん!」
テイルは何度も強く頷く。その表情は今までで一番明るかった。



「これで一件落着ってところかな。思ってるよりすっっごく仲直りできたね?」
少し遠くで親子とイーサンのやり取りを見ていた灯は、隣の遊次を見つめて言う。

「あぁ。出しゃばりすぎずに、テイルの気持ちをデュエルで代弁して、
ハリスンさんの全力と、2人の本音を引き出す…すげえぜ、イーサン」
遊次は自分の血の繋がらない父親を心から誇らしく感じた。

「俺にはできねえな。あれが大人のヨユーって奴か」
怜央は少し悔しそうに呟く。

「お前もいつかはああなれるように、今の内に勉強しとけよ」
「なんだと…?偉そうに言いやがって!お前は俺よりも精神年齢低いだろうが!」

「今度はこっちで喧嘩が始まっちゃったよ…」
遊次と怜央の小競り合いを灯は呆れた眼差しで見ていた。
しかし、これも問題が解決した安心感からだろう。


「じゃあ…ここからのデュエルは親子の抱擁ってことでいいですかね?」
イーサンはハリスンに柔らかい笑顔で問いかける。

「…そうなるのかな。
レイノルズさん…私からの感謝を込めて、全力で戦わせていただきます」
ハリスンとイーサンは同時にデュエルディスクを構える。

「私のターン、ドロー!」
ハリスンがドローしたのは魔法カードだ。
その瞬間ハリスンは目を見開く。

「(このカードは『聖約者の来復』…墓地から聖約者を復活させるカードだ。
これがあれば墓地のエクスオルクを蘇らせることができる。
エクスオルクの効果でコストとしてフィールドのミグザムをリリースすれば、
その瞬間、ミグザムがコストとしてフィールドを離れた時の効果が発動。
相手に1000のダメージを与え、私の勝利だ)」

ハリスンはすぐに意識をデュエルに向け、冷静に勝ち筋を探る。

「(問題はレイノルズさんのサンダーフォートレス。
あのモンスターは相手ターンにもフィールドのカードを1枚デッキに戻すことができる。
これでエクスオルクをデッキに戻されればひとたまりもない)」

「(しかし、EXデッキに表側となっている『典常の聖約者 イミュ』は、
800のライフを払ってEXデッキから手札に加えられる。
このモンスターは、聖約者が効果の対象になった場合、
800のライフを払って無効にできるP効果を持つ。これなら…勝てる!)」

ハリスンは勝利へのルートを見つけ出し、迷いなく前を向く。

「EXデッキで表側となっている『典常の聖約者 イミュ』の効果発動!
800のライフを払い、このカードを手札に加える」
ハリスン LP3800→3000

「そして『典常の聖約者 イミュ』をPスケールにセッティング!」
ハリスンの頭上に、鉄の装備を纏った少年のモンスターが浮かび上がる。
頭部の装備には丸いラインが刻まれており、黒い光を放っている。

「このモンスターのP効果は、自分の聖約者モンスターが効果の対象になった時、
800のライフを払って無効にすることができるというものだ」

「さらに手札から魔法カード『聖約者の来復』を発動!
墓地の聖約者を特殊召喚できる!
墓地の『調伏の聖約者 エクスオルク』を対象に選択!」

これが通れば、あとはエクスオルクの効果でミグザムをリリースし、
1000のダメージを与えることで、イーサンは敗北となる。



「永続罠、発動。『ヴォルタンク・パワーフィード』!」


■ヴォルタンク・パワーフィード
 永続罠
 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドに「ヴォルタンク」モンスターが存在する場合に発動できる。
 お互いのプレイヤーは自分フィールドのカード1枚を選び、デッキに戻す。
 ②:自分フィールドに「ヴォルタンク」モンスターが存在する場合に発動できる。
 お互いのプレイヤーは自分の墓地のカード1枚を選び、デッキに戻す。
 ③:自分フィールドに「ヴォルタンク」モンスターが存在する場合に発動できる。
 お互いのプレイヤーは自分の手札のカード1枚を選び、デッキに戻す。


イーサンの背後に、巨大な近未来的な装置が出現する。
装置の外郭は、厚い金属製のプレートで覆われ、その面は幾何学的な格子模様に切り欠かれている。
基盤は複雑な鋼鉄の骨組みが外側にむき出しになっており、
各部位に配した補強材が無数の直線状のラインを形成している。
装置の外部には両側に長い配線が沿って走っている。


「ヴォルタンク・パワーフィールドの効果は3つある。
お互いのフィールドからカード1枚をデッキに戻す効果。
お互いの手札からカード1枚をデッキに戻す効果。
そして…お互いの墓地のカード1枚をデッキに戻す効果だ」

「墓地のカードを…デッキに戻す…」
最後の文言を聞いたハリスンは、その真意に気付く。

「ヴォルタンク・パワーフィールドの効果発動!
お互いの墓地のカードを自分で1枚選び、デッキに戻す。
あなたの墓地に存在するカードは、エクスオルク1枚のみ。
つまり…必然的にエクスオルクはEXデッキに戻り、復活はできない」

「そんな…!」
これには思わずジュリエッタも口を手で塞いで驚く。
ハリスンはPモンスターを主としており、それらは破壊されるとEXデッキに表側で置かれる。
以前に発動した魔法カード「聖約者の献身」は、効果発動のためのコストとして除外された。
罠カード「聖約者の示教」は戦闘ダメージを回避する効果のために除外された。
つまり、ハリスンの墓地にはエクスオルク1枚だけが存在していることになる。


「俺は墓地のヴォルタンク・モーターをデッキに戻す」

「クッ…私はエクスオルクをデッキに戻すしかない。
これによって『聖約者の来復』は復活対象を失う」
ハリスンの勝利の方程式は崩れた。
ハリスンは手札の1枚を見つめるも、それではイーサンの盤面を覆すことは不可能だった。


「さらに、俺のデッキがシャッフルされたことで、雷カウンターは合計4つ置かれる。
ハリスンさんのモンスターはリンクモンスターのためEXデッキに戻り、シャッフルは行われない」


雷カウンター8→12

ヴォルタンク・サンダーフォートレス ATK6600
ヴォルタンク・ライトニングロッド ATK5400


「攻撃力…6600…」
フィールド魔法の効果で上がったヴォルタンクモンスターの攻撃力は、
6600と5400。
さらには1度の対象耐性と破壊耐性を有しており、
サンダーフォートレスの効果でデッキバウンスも可能。
あまりにも絶望的な盤面に、ハリスンは愕然とする。


「さらに、ヴォルタンク・パワーフィードの効果発動。
お互いにフィールドのカード1枚を選んでデッキに戻す。
俺は永続魔法『ヴォルタンク・リファインドサーキット』をデッキに戻す」

この瞬間、リファインドサーキットに乗っていた1つの雷カウンターが消える。
雷カウンター12→11

「まだ止まらぬか…。ならば私は…『格律の聖約者 ミグザム』をデッキに戻す」

「そしてお互いのデッキがシャッフルされたことで、雷カウンターを置く効果は2度起動する。
つまり、俺のフィールドに雷カウンターが8個置かれる」

雷カウンター11→19
ヴォルタンク・サンダーフォートレス ATK8700
ヴォルタンク・ライトニングロッド ATK7500

「攻撃力8700…!すげえ…!」
イーサンの隣のハリスンも、その圧倒的な数値にたじろいでいる。


「最後に1つ…伝えておきたいことがあります」
イーサンは少し考えた後、より真剣なトーンでハリスンへ語り掛ける。
ハリスンはイーサンを静かに見つめている。

「これから家族で生きていくなら…今よりももっとぶつかり合う時がきっと来ると思います。
親子ですから」

「…そうですね。今なんかよりももっと大きなことで衝突するかもしれない」
今回は少しのきっかけで生じた軋轢に過ぎない。
何年も何十年も過ごせば、必ずもっと大きな問題が起きるはずだ。
イーサンはそれを忠告したいのだとハリスンは考える。

そしてイーサンは高く右手を上げる。

「ヴォルタンク・パワーフィードの最後の効果発動。
お互いの手札を1枚、デッキに戻す」

イーサンとハリスンはそれぞれ手札は1枚しかない。
これにて、ハリスンは完全に逆転の一手を失ったことになる。

「お互いのデッキがシャッフルされたことで、雷カウンターを置く効果が2度起動し、
俺のフィールドに雷カウンターが8個置かれる」

雷カウンター19→27

ヴォルタンク・サンダーフォートレス ATK11100
ヴォルタンク・ライトニングロッド ATK9900

「さらにヴォルタンク・サンダーフォートレスの効果発動。
雷カウンターを3つ取り除き、相手フィールドのカードを1枚デッキに戻す。
あなたのフィールドに残った最後のカード『典常の聖約者 イミュ』をデッキに戻す」

雷カウンター27→24

サンダーフォートレスが電磁波を放つと、ハリスンの頭上に浮かぶイミュが分解され消失する。
これにてハリスンのフィールドには一切のカードが残らなくなった。

「デッキがシャッフルされたことで、ヴォルタンクモンスター2体とフィールド魔法、
そしてサンダーフォートレスのリンク先にいるライトニングロッドに雷カウンターが乗る」

雷カウンター24→28

ヴォルタンク・サンダーフォートレス ATK11400
ヴォルタンク・ライトニングロッド ATK10300

「攻撃力1万超えのモンスターが2体…!」
この光景には思わず遊次達も息を呑む他なかった。
この場の全員がただ唖然とした。
柔らかな和解の空気が漂っていた中、
突然、盤面は圧倒的かつ一方的なものに変わった。
辺りに静寂が訪れる。


「…もしかしたら、これから想像もつかないほどの困難が待ち受けているかもしれない。
超えることなどできるはずもない、高い壁が」
イーサンはハリスンを見つめる。そしてその視線は遊次の方にも移る。
遊次はその視線に気づき、お互いが見つめ合う。


「(イーサンは…俺に何を伝えたいんだ…?)」

イーサンは何かを訴えかけている。だが、その何かは掴み切れない。
ただ単に、イーサンからの親としての抽象的な提言にも聞こえる。
だが、彼の目からは確証めいた何かがあるように遊次は感じた。


「高い…壁…」
ハリスンは手札が消え去ったことで空いた両の手を見つめ、
その後、目の前に聳え立つ巨大な要塞を見上げる。

「目の前には攻撃力1万を超えたモンスター。
私にはフィールドのモンスターも、手札もない。
まさに…超えられるはずもない高い壁だ」

「しかし…家族で生きていくには…
きっと、これほどまでの高い壁も、越えねばならない時が来るのでしょう」

ハリスンはイーサンの言葉を解釈し、その答えを述べる。

「ええ。あなた達ならきっと、越えられる。私はそう信じています」
イーサンもハリスンの方に向き直る。そして、その表情は弛緩する。
その様子を見て、遊次も少し安心した。
単純に、ハリスンたち親子にこのことを伝えたかったのだろう。
そしてそれは自分とイーサンにも当てはまることなのだと、遊次は捉えた。


「私はもう何もすることがない。ターンエンドです。
お見事だ、レイノルズさん」
ハリスンは空いた両の手で拍手をしてみせる。

「すげーよ、にーちゃんのとーちゃん!こんなすっげー攻撃力初めて見たよ!
俺、一生忘れねーと思う!」
テイルもめったに見られない光景にテンションが上がっているようだ。
辺りの空気はまた柔らかなものへと戻る。


「あぁ。もし何か挫けそうなことがあったら、このことを思い出したらいい。
確かにハリスンさんにとってこの光景は高い壁かもしれないが、
見方を変えれば、ライフ400からこんなフィールドだって作り上げられるんだ。
つまり、不可能はないってことさ」

イーサンが笑顔でサムズアップをしてみせる。
テイルもそれに応えるようにとびきりの笑顔で親指を立ててみせる。


「さあ、決着を着けよう。俺のターン、ドロー!
ヴォルタンク・サンダーフォートレスでダイレクトアタック!」

イーサンの周囲は28個もの雷によって灯った光によって、眩しいほどに輝いている。
そしてその中央で、かつてないほどの電気を帯びた巨大な城塞が、
その大砲にエネルギーを充填させてゆく。
それはハリスンの視界全てを覆うほどに巨大な雷の球体へと膨れあがる。


「何事にも代償が伴う…それがあなたの理念なのでしょう。
それでも、子供には必要なんです。無償の愛が」



放射音と共に、そのエネルギー体は放たれた。
辺りは眩い光に包まれる。


ハリスン LP3000→0






「皆さん、本当にありがとうございました。これでテイルとも上手くやっていけそうです」
Nextの4人が並び、ジュリエッタが深々とお辞儀をする。

「このような複雑な問題を解決に導いていただき、なんとお礼すればよいか…。
本当に感謝します」
ハリスンも丁寧な態度で感謝の意を述べる。

「お礼ならもちろんコレに決まってるだろ、弁護士さんよ」
怜央はニヤッとしながら、手のひらを上に向け、指で輪っかを作る。
さぞ儲かってるんだろと言わんばかりに、弁護士ということを強調している。

「こら、そういうのやめなさいって言ってるでしょ!本当にすみません」
灯は怜央を叱りつけ、すぐに頭を下げる。
ハリスン達も笑っているため怒ってはいないようだ。

「ありがと、にーちゃんのとーちゃん。みんなも、ありがとう」
テイルはイーサンに向かってお辞儀をする。
他のメンバーに対しても再び礼儀正しく頭を下げた。

「おう。仲良くやれよ」
イーサンがテイルの肩をぽんと叩き笑顔で返す。

「俺、忘れないよ!あの光景!…不可能はない!」
テイルはイーサンにとびきりの笑顔を見せた。

「…あぁ!」
かくして、親子の仲は修復されるどころか、より強固なものとなったのだった。





そしてその夜。
イーサンは事務所のあるビルの屋上にて一人、外を見ながら感慨に浸っていた。
ここ最近、親子関係に触れることが多かったことから、
イーサンは遊次とのかつての記憶を呼び醒ます。



それは父である天聖が死亡したという報告を遊次にしてから、数か月経った時のことだった。
ドミノタウンには、コラプスから1年経っても、まだその爪痕はくっきりと残っていた。
道路傍に片付けられた瓦礫がまだ山積みとなっているところもある。
店の準備をする人や重そうな荷物を運んで行き来する人々。
そんなせわしない商店街をイーサンは見つめていた。


「イーサン!イーサン!」

「……」

「イーサン!おい聞いてんのか!」

「…!あ、お、俺か!?」
自分を呼ぶ声に今ようやく気づいたイーサンが振り返ると、
幼い遊次がふくれっ面で立っていた。

「お前以外に誰がいるんだよ!」

「そうだよな…。悪い、考え事をしてた。
…って、お前ってなんだお前って!」

「しょうがないだろ!大事な話があるのに、イーサンが無視するから!」
叱られても遊次は屈せず食らいつく。

「悪かったよ。で、なんだ?大事な話って」
遊次からこのような話を持ちかけてくるのは珍しい。
どのような話なのか想像もつかなかった。


「俺、この町を元気にしたい」
遊次は真っ直ぐイーサンを見つめ、純粋な眼差しで話す。

「…!」
その偽りのないひたむきな遊次の言葉は、イーサンの心に直接届いた。
それと同時に複雑な感情が湧いてくる。

「…どうしてそう思ったんだ?」
イーサンも真剣な表情で問う。

「コラプスから1年経って、みんな、いっしょーけんめい、前を向いてさ。
歩き出そうとしてるんだよ。諦めずに。それがすげえ伝わってくるんだ!
色んなお店が閉まってたけど、最近また開き始めてさ。
コロッケ屋のおばちゃんとか、俺にコロッケ、タダでくれるんだぜ。
絶対に金が必要な時だってのにさ」

遊次はコラプスの直後、涙を流す人々をたくさん見てきた。
そのたびに胸が痛んだ。もう誰にもそんな顔をさせたくないと感じた。
もう誰にもこんな顔をさせたくない。皆に笑顔でいてほしいと。

「遊次…」

「俺に記憶はないけど…この町は、やっぱり俺の生まれたところなんだって思った。
なんかこう…心で繋がってる?みたいな。記憶を失う前の俺と、繋がってる感じがするんだ」

遊次は拙いながらにも懸命に言葉を紡ぐ。

「そうだな。記憶を失う前と、変わらず接してくれる人は多いと思う」
イーサンもコラプス以前と遊次と天聖の暮らしを詳細に知っているわけではないが、
町の人々からの分別のない思いやりや言葉は普段から存分に感じていた。

「父さんがまだこの町にいた時…今のドミノタウンを見て、すげえ悲しそうな顔してた。
それ見てたら、なんか心が痛くなってさ。このへんがズキズキしたんだ」
遊次はその痛みを思い出したように、辛そうな表情で胸を押さえる。

「天聖さんはずっとこの町で育ってきたと聞いてる。
…きっと、すごく辛かったはずだ。…想像もできないほどに」

「うん。父さんも見たかったと思う。みんなの笑顔。
でも父さんは、元気になったこの町を見る前に別の国に行って…そのあと、天国に行っちまった」
遊次は夕日が赤く輝く空を見上げ、父へ思いを馳せる。
イーサンも静かに頷く。

「だからさ、なんかわかんねーけど、恩返ししたいんだ!
皆の悩みとかをパーっと解決したりさ、なんかこう…とにかく、明るくしてえんだよ!」
遊次は顔を上げ、雲を切り裂くような明るい声で言う。
まだ抽象的ではあるものの、その迷いのない決意にイーサンは目を見開く。

「必死に前向いてさ、明るく振舞ってるけど、でも、心はどこか暗いんだ。
だから、みんなが心から笑えるようにさ、ちょっとでもその手助けしてえんだ!」

「そうか。それが遊次の…夢ってわけか」
イーサンは噛みしめるように何度も頷く。

「夢…か。そう!それが俺の夢!」
遊次は初めて自分が夢を持っているという自覚したようだ。

イーサンはそのどこまでも真っ直ぐな言葉と明るい表情を見つめ、
しばらく考えた後、優しい声色で言葉を返す。

「…あぁ、遊次ならできるさ、絶対。
例えどんなに壊れても…もし町自体がなくなってしまったとしても…人がいればそこが町だ。
皆が力を合わせれば、きっと町は蘇る」

「うん!もちろん、イーサンも手伝うんだよな?」
「…え?」
遊次の問いかけにイーサンは意表を突かれる。

「なんだよ、やんねーのか?」
遊次はイーサンの様子を見て眉をしかめる。

「俺は…」
イーサンはすぐに返事ができずにいた。
自分の中に渦巻く後ろ暗い感情や自らの過去…それらが葛藤となって表れた。
しかし、遊次の目を見つめると、その真っ直ぐな感情が自分へとすっと入ってくる。
人がいればそこは町だ。
自らが口にしたその言葉をイーサンは心に強く留めることに決め、やがて遊次に応える。

「…俺にも遊次の夢、手伝わせてくれるか?」
その言葉を聞いた瞬間、遊次の表情はぱっと明るくなる。

「へへ、あったりめえだろ!俺の部下にしてやる!」

「部下ぁ?なら、遊次は俺を腹いっぱい食わせられるようにしなきゃいけないな」

「え、どういうことだよ!俺、メシなんて作れねーぞ?」
イーサンの言葉の意味を理解できていないようだ。

「腹いっぱいってのはそういうことじゃないさ。
メシを食うには金がいるだろ?
俺が部下である以上、遊次は、俺が飯に困らないぐらい稼いでくれないといけないってことだ」

「えー!そうなのか!?え…どうしよ…」
思わぬ方向に話が転がったことで遊次の笑顔は引きつりだす。

「なに急に不安になってんだ!俺を部下にするって言ったんだから、ちゃんと責任持て!」

「ぐぬぬ…やってやるよ!お前が腹いっぱい飯食えるぐらい、俺が稼いでやる!」
遊次はイーサンに指を突きつけ、高らかに宣言する。

「その心意気だ!だけどお前って言うな!!」
「へへーん!いいんだよー!イーサンは部下だし!」

「まだ部下になってないだろ!お前は俺の…息子だ」

最後の言葉を紡ぐまでに少しだけ間が空いた。
今まで父親代わりとは言っていたが、自分が正式に父親だとは名乗ったことがなかった。
あくまで天聖が父親であり自分はその代理。その一線を引いていたからだ。

しかし天聖が帰ってくることはない。
記憶喪失ながら夢を見つけた遊次の決意を目の当たりにしたイーサンも、
自分が父として彼を育てる覚悟を決めたのだ。

「へへ…息子か…。しょうがねえなぁ~。
今のところは、ただの息子ってことにしといてやる!」
遊次もイーサンを父であるとすんなり受け入れた。
決して天聖を忘れたわけではない。父親が2人いるというだけのことだ。

「なんでお前が上からなんだよ!ったく…。
…いつか一緒に見れたらいいな、元気になったドミノタウンを」

「うん!見せてやるよ!俺が!」
「…そっか」
イーサンは小さな声で呟いた。


「…そうだ、もし会社でも立ち上げるとしたら、灯ちゃんも誘ったらどうだ?」
「灯ぃ?なんでだよ!」
最近転校してきた花咲灯という女の子がいることはイーサンにも伝わっていた。

「お前最近あの子とずっと一緒にいるだろ。誘ってみろって、ホレホレ」

「は、はぁ~~!?意味わかんねーし!そんなんじゃねえし!
バーカバーカ!ワカメ頭ーー!」

「ぶっ飛ばすぞクソガキ!!」
女子と仲がいいことをからかわれたように感じた遊次は、顔を真っ赤にして走り去る。
突然、悪口の散弾を喰らったイーサンはそれを追いかけ回す。





「(…まさか、現実になるとはな。
遊次と灯と俺の3人…おまけにちょっと前までケンカしてた奴も入ってきちまって。
あいつの人を引き付ける力には敵わない)」

屋上の柵に体重を預けながら、夜の冷たい風を浴び、イーサンは感傷に浸る。


「(だからこそ…この繋がりを途絶えさせないように。
遊次の大切なものを…全て守れるようにするんだ)」

イーサンは屋上の柵側に背を向け、ビルの階段へ繋がる扉へと歩いてゆく。
その眼差しは鋭く、覚悟に満ちていた。


【隕石衝突まで…残り460日】


第30話「無償の愛」 完




親子の仲を修復する依頼から約5ヶ月の月日が経過。
ついにヴェルテクス・デュエリア予選が開幕する。
開会式には大統領「マキシム・ハイド」、
ニーズヘッグCEO「オスカー・ヴラッドウッド」、
7代目デュエルチャンピオンであり現デュエル省長官「天王寺高貴」が集い、
彼らの言葉は全てのデュエリストを奮い立たせた。

遊次・灯・怜央…ドミノタウン予選でそれぞれの戦いが始まる。
遊次の初戦の相手「マルコス」は、
フィールド・墓地でパズルのようにカードを組み合わせ、強力な効果を発揮する。
遊次は、デュエリストの頂点を決める戦いのレベルの高さを改めて痛感することとなる。

次回 第31話「開幕 ヴェルテクス・デュエリア」
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42 第15話:爆焔鉄甲(スチームアーミー) 512 2 2025-01-06 -
47 第16話:魂の衝突 500 2 2025-01-13 -
43 第17話:EDEN TO HELL 429 0 2025-01-22 -
54 第18話:憤怒の白煙 510 1 2025-01-29 -
34 第19話:天に弧を描く義の心 366 2 2025-02-05 -
33 第20話:To The Next 403 1 2025-02-12 -
38 【カードリスト】鉄城 怜央 326 0 2025-02-12 -
35 第21話:踏み出す1歩目 345 0 2025-02-19 -
27 第22話:伸し掛かる天井 386 0 2025-02-26 -
34 第23話:壁に非ず 357 0 2025-03-05 -
23 第24話:滅亡へのカウントダウン 440 0 2025-03-12 -
23 セカンド・コラプス編 あらすじ 398 0 2025-03-12 -
36 第25話:アクセラレーション! 424 0 2025-03-19 -
27 第26話:虹色のサーキット 376 3 2025-03-26 -
21 第27話:ふたりの出会い 233 0 2025-04-02 -
32 第28話:親と子 238 0 2025-04-09 -
27 第29話:心の壁 300 0 2025-04-16 -
29 第30話:無償の愛 285 0 2025-04-23 -
33 第31話:開幕 ヴェルテクス・デュエリア 392 0 2025-04-30 -
36 第32話:究極の難題 475 0 2025-05-07 -
34 第33話:願いの炎 342 0 2025-05-14 -
41 第34話:ただそれだけ 381 0 2025-05-21 -
30 第35話:シークレット・ミッション 247 0 2025-05-28 -
32 【カードリスト】七乃瀬 美蘭 362 0 2025-05-28 -
33 第36話:欲なき世界 327 0 2025-06-04 -
37 第37話:禅問答 343 0 2025-06-11 -
27 第38話:紅と蒼の輪舞 191 0 2025-06-18 -
25 第39話:玉座 202 0 2025-06-25 -
30 第40話:"億"が動く裏世界 334 0 2025-07-02 -
24 第41話:生粋のギャンブラー 189 0 2025-07-09 -
30 第42話:運命のコイントス 251 0 2025-07-16 -
30 第43話:王選(レガルバロット) 212 0 2025-07-23 -
27 第44話:願いの芽を摘む覚悟 262 2 2025-07-30 -
24 第45話:答え 196 0 2025-08-06 -
22 第46話:潜入作戦 188 0 2025-08-13 -
27 第47話:心の象徴 193 0 2025-08-20 -
21 第48話:繋ぐ雷電 278 0 2025-08-27 -
23 第49話:帳が上がる時、帳は下りる 245 3 2025-09-03 -
17 第50話:影を焼き尽くす暁光 162 0 2025-09-10 -
3 第51話:夜明け 73 0 2025-09-17 -

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