第５９話　射手の焦燥　作：白金　将

～夕方　図書館～
射手（なんだかんだ言っていっぱい本を借りてたんだし）
射手（返しに行かないと……あれ、賢者さんは奥にいるんだし？）
射手（仕方ないんだし）ﾄｺﾄｺ

？？？「」
？？？「」
射手（……？）



賢者「この古文書……今回のヴェルズ侵攻について書いてあるの」
剣士「一人の戦士が里を訪れ、魔物を撃退する……だが、続きがあるな」
賢者「ええ。問題はこの後……」
射手（……）

賢者「古文書の続きを見ると……その戦士は、ある日を境に記述が無くなってるんです」
剣士「記述がない？」
射手（……？）

賢者「良くて行方不明、悪くて……」
剣士「死んだ、か」
射手（……！）ﾄﾞｻｯ
二人「……！」

射手「あ……」
射手「こ、これ、返すんだし」
射手「」ﾀｯﾀｯﾀｯ
賢者「あ、待って！」

剣士「……無駄だ。今の射手には誰の声も届かない」
賢者「そんな……」
剣士「今の射手にとって女戦士は姉さん同然だ……マズかったな」
剣士「あいつは根は寂しがり屋なんだ」
賢者「……」

賢者「私って、本当に馬鹿」





～夕方　射手の家～
射手「ただいまなんだし」

ｼｰﾝ

射手「……」
射手「そ、そうなんだし。今日は訓練生さんと一緒に外に出たって」

射手「……」



射手（女戦士さんが、いなくなるんだし……？）
射手（一人ぼっちに戻るんだし……？）

射手（一人は慣れてるんだし）
射手（女戦士さんが来るまでずっと一人だったんだし）
射手（生活もほぼ全部一人でやってたし家事だってそれとなく出来るし）


射手（……なんで、こんなに悲しくなるんだし？）
射手（朝起きたら隣に女戦士さんがいて、寝る時もいつも一緒で……）ｸﾞｽ
射手（一緒にご飯食べて、一緒に散歩して、一緒にお話しして……）ｸﾞｽｸﾞｽ

射手「女戦士さんと……離れたくないんだし……」ﾌﾞﾜｯ





～夜　射手の家～
女戦士「遅くなっちゃった」
女戦士「ただいまー」

ｼｰﾝ

女戦士「……？」
女戦士（あ、射手ちゃん、もう寝てるんだ）
射手「ＺＺＺ……」

女戦士（いつもは起きて待ってくれてるんだけどなぁ）
女戦士（寂しいんだぞぉ）ﾓｿﾞﾓｿﾞ

女戦士「……」
女戦士（ヴェルズ……この里、どうなっちゃうんだろ）
女戦士（里が戦場になる、のかな）
女戦士（だとしたら、射手ちゃんや、訓練生ちゃんたちは……）

女戦士（……いやだ）
女戦士（射手ちゃんたちと、離れたくない……！）ｷﾞｭ

女戦士「大好きだよ……」ｷﾞｭｩ
射手「ＺＺＺ……」





～朝　射手の家～
女戦士「ＺＺＺ……」
女戦士「」

女戦士「あれ……射手ちゃん？」

ｼｰﾝ

女戦士「いない……」
女戦士「……」

女戦士「私、何か悪い事しちゃったのかな……」ｳﾙｳﾙ
女戦士「昨日遅く帰ったから……？」



？？？「」ﾃｸﾃｸ
女戦士「……！」

訓練生「あれ、女戦士さん。射手ちゃん見ませんでした？」
女戦士「あっ……」ﾌｷﾌｷ
女戦士「……いないの。さっき起きたんだけど、家にいないの」
訓練生「……！」

訓練生「まずいことになりました」
訓練生「ヴェルズが里にやって来ます」
女戦士「そんな……」

訓練生「広場で女王が皆を集めてます」
訓練生「詳しい話は向かいながら私が伝えます」
女戦士「うん、よろしく」

女戦士（射手ちゃん……一体どうしたの……？）



～朝　森～
射手「……」
射手（ガスタの一族が近くを通って避難してるんだし）
射手（この様子だとヴェルズが来るのも時間の問題……）

射手（女戦士さんには黙って出て来ちゃったけど……）
射手（……ごめんなさい）

ｷｼｬｧｧｧｧ!

射手「……！」
射手（さっきガスタが通ってた道の方なんだし……！）
射手（様子を確認するんだし）




射手（これは……）

？？？「」ｺﾞｺﾞｺﾞ……

射手（本で読んだことがあるんだし）
射手（「ワーム」を取り込んだヴェルズ……アザトホース、なんだし）

アザトホース「キシャァァァァ！」
射手（気づかれたんだし……！）

射手（森を戻れば里にヴェルズがやって来るんだし……）
射手（かと言ってここで待ってると後続のヴェルズが……）

射手（ここは……道沿いに後退しながら戦うしかないんだし……！）



～午前　広場の辺り～
ｷｼｬｧｧｧｧ

女戦士「……！」
女戦士「訓練生ちゃん、あっちに早く行かないと！」
訓練生「でも、向こうにはヴェルズが！」
女戦士「違うの！」

ｷﾞｬｧｧｧｧ

女戦士「もし射手ちゃんが一人で相手してるんだとしたら……」
女戦士「射手ちゃんは強がりだから……私がいなくても一人で出来るんだって」
訓練生「……」

訓練生「私はこのことを女王に報告してきます」
訓練生「女戦士さんは……彼女の事をよろしくお願いします」
女戦士「……うん！」

女戦士（射手ちゃん……待っててね……！）ﾀｯﾀｯﾀｯ