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第6話 溶けていく手札 作:白金 将
遊乃が寝起きする部屋はアルストロメリア本部のとある一室だった。目を覚ました遊乃はカーテンから漏れて来る朝日を浴び、ぐいーっと身体を伸ばす。ここで暮らしてから大分経った。最初は合わなかったマクラも今は何とか眠れるように慣れていた。
時計を見ると、ちゃんといつも通りの時間になっていた。遊乃はベッドから出ると寝間着から簡単な部屋着に着替え、朝ごはんを食べるために廊下に出た。廊下に出たところで、遊乃の部屋の向かいに部屋を持つ葵が廊下に出てきた。
「葵ちゃん、おはよー」
「……ああ、おはよう」
葵はまだ寝ぼけているようであった。服装も、そのまま眠っていたのだろうか、黒のタンクトップはよれよれになっていて、長い髪はぼさぼさになっている。下に履いているジャージも大分使い古している物だろうか。どちらにしろ、初対面の時のようなきっちりとした彼女の姿はなかった。
「朝は弱くてな」
「そう言う人もいますから大丈夫ですよ」
「そうか……」
葵の意外な姿に遊乃は少し可愛さを感じながらも、二人で談話室まで出てきた。談話室の窓際の椅子では翌檜が本を読んでいた。ちらとこちらの方を向くと、おはようの頷きをしてきた。二人もその挨拶に返す。
「おおっと」
「ひゃっ!?」
葵の身体がグラッと揺れた。そのまま遊乃の方にもたれかかって来て、2人して床にばたんと倒れてしまった。まだ眠気が覚めてないのか、葵はしばらく動く気配を見せない。
「あ、葵ちゃん、大丈夫?」
「う……すまん」
「あらあら、朝からラブラブねぇ~」
いつも通りの口調の伽藍がやってきた。その後ろにはシロの姿もある。
「動けん」
「ええ……」
葵に押し潰されている遊乃は蚊のような声を上げる。葵に潰されていることで苦しいのもそうだが、何より葵の胸が背中に押し付けられていることに意識が向いてしまっている。普段は意識することすらないが、こういう状況になると女性の遊乃でも気にしてしまう。やはり照れくさい事であるのか、遊乃は赤面しながら震えていた。
「あわわ……」
「シロちゃん、一緒に葵さんを助けてあげましょ?」
「う、うん」
伽藍とシロが葵の両肩を持とうとしたが、葵が少し持ち上がった所で、シロの視界に葵のタンクトップの隙間からの胸の谷間が入ってしまった。それに動揺したせいかシロは力を抜いてしまい、葵が落ちたことで下にいる遊乃はふぎゃ、と声をあげる。
奇しくもその衝撃で葵の頭が覚醒したのだろう。しばらくぼうっとした後、下で潰れている遊乃に気が付くと、距離が近い事から恥ずかしさを感じたのかその場をすぐに離れる。
「す、すまん、遊乃」
「だいじょうぶです……ううっ」
「あら、今度は遊乃ちゃんが伸びちゃったのねぇ~」
葵に抱えられて立ち上がった遊乃は談話室のソファに腰を掛ける。そして、伽藍に隠れてしまったシロの様子を見ると、再び葵に目を戻して言う。
「葵ちゃん、シロ君もいるんだから下着はつけた方が」
「それもそうだな」
伽藍は顔を真っ赤にしたシロの頭を撫でていた。窓際にいる翌檜は大きな欠伸をする。
朝食の時間になり、朝の仕事前の準備を終えると、アルストロメリア一階の食堂に遊乃たちは集まっていた。食堂は一般の人たちにも開放されていたが、四階建てのビル全てが本部の管轄下であるため、今の時間帯はアルストロメリアの人たちしかいない。
「この間の〈スターダスト・ドラゴン〉を集めてた人の口を割ってるんだけど……どうやら裏に大きな組織がありそうね」
「だとしたら面倒くさいことになっちゃいますか?」
「そうね」
「金稼ぎかただのコレクションか……まぁ、金稼ぎが妥当な線だろうな」
翌檜は何も言わずにご飯を食べている。伽藍は葵にカードの束を渡した。
「朝の見回りついでに、安値で店に売ってきてもらえないかしら。あの男が持っていた〈スターダスト・ドラゴン〉を巻き上げた物よ」
「わかった……遊乃と行けば良いのか?」
「私たちは他に用事があるからそうしてもらえると助かるわね」
「わかりました」
「……ん」
翌檜は玉子焼きを少し口に含むと固まった。伽藍がシュガースティックを渡すと、袋を開けて中の砂糖を玉子焼きにかける。今日の玉子焼きは甘くなかったのだ。
「道中、不審な動きがあったら伝えること。いいわね?」
「はい」
きちんといつも通りに着替え直していた葵は首をひねる。その凛々しい姿にアルストロメリアの他の団員たちも目を奪われていた。一方の遊乃は、その純粋無垢な笑顔にファンが付いたようである。
新人である遊乃と葵が組になって回るのは初めてであった。本部では何度も交流していたため仲良しではあるが、実際に仕事で一緒になるのはこれが初である。店を回ってカードの金額をチェックし、〈スターダスト・ドラゴン〉を安値で少しずつ売り分けていく。特に支障もなく、仕事が終わった後、2人は伽藍に連絡を取った後、カフェで休憩していた。
ストローを使わずに一気にコーラを飲む葵。遊乃の視線はときたま彼女の方に動いていた。しかし周りの客の視線はどちらかというと遊乃のかわいらしさに引き寄せられているようである。葵もまた、遊乃に興味を抱いているのは事実であった。
「そういえば遊乃」
「どうしましたか?」
葵は遊乃に一枚のカードを差し出す。それは〈スターダスト・ドラゴン〉だった。
「この間私が買っていた物だ。私はもう間に合っているからあげるよ」
「いいの?」
「〈スターライト・ロード〉入れてるのにこれがないのは寂しいだろ」
遊乃はそのカードを受け取ると、しばらくしたのちに輝くような笑顔になった。そして、遊乃の持ってきていたデッキのエクストラデッキに差し込むと、満足そうに笑う。
「私も何かお返ししないとね」
「無理しなくてもいいぞ。強制はしない」
「いつか葵ちゃんにもプレゼントします」
その時、店の外側が突然騒がしくなった。慌てたような人がカフェの中に入ってくる。その人の話を聞くに、どうやら、近くの銀行で強盗が入ったようだ。
「葵ちゃん、行こう」
「ああ」
走りながら伽藍に連絡を付け、銀行へと2人は走る。
銀行は騒がしくなっていた。飾り付けてあった植木鉢が何個か倒れていることから、人々の慌ただしい動きが予想できる。そして、入り口から入ると、強盗団らしき人が3人いた。そのうちの2人は銀行の奥へ進み、1人はこちらへ向かってくる。
「私は2人を追いかける。遊乃はこいつを頼む!」
「あ、葵ちゃん! ……仕方ないなぁ」
デュエルディスクを構えると、強盗は舌打ちをした後にディスクを構えた。
「「デュエル!」」
― ― ― ― ― ― ―
遊乃 8000
強盗 8000
― ― ― ― ― ― ―
「先行は俺だ。モンスターをセットし、カードを2枚伏せてターンを終了する」
「堅実に来ましたか……」
遊乃のターンだ。遊乃はカードを一枚ドローすると、意を決したようにうなずく。
「私は手札の〈星因子 ウヌク〉を通常召喚します! そして、ウヌクの効果発動! デッキから〈星因子 デネブ〉を墓地へと送ります!」
「星因子(テラナイト)か……」
何やら呟いた男に構わず、遊乃は続ける。
「何かありますがやるしかありませんね……バトルフェイズ! その伏せを攻撃!」
「罠カード発動! 〈反転世界〉!」
「〈反転世界〉……!?」
「さらにチェーンして発動! 〈マクロコスモス〉!」
遊乃は愕然とした。嵌められた、と気づいた時にはもう遅い。
― ― ― ― ― ― ―
星因子 ウヌク
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1800/守1000
「星因士ウヌク」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「星因士ウヌク」以外の「テラナイト」カード1枚を墓地へ送る。
※「星因子」は「サテラナイト」と読む。
― ― ― ― ― ― ―
― ― ― ― ― ― ―
反転世界
通常罠
フィールド上に表側表示で存在する全ての効果モンスターの攻撃力・守備力を入れ替える。
※読み方は「リバーサル・ワールド」
― ― ― ― ― ― ―
― ― ― ― ― ― ―
マクロコスモス
永続罠
自分の手札またはデッキから「原始太陽ヘリオス」1体を特殊召喚する事ができる。また、このカードがフィールド上に存在する限り、墓地へ送られるカードは墓地へは行かずゲームから除外される。
― ― ― ― ― ― ―
マクロコスモス――多くのデュエリストにとっては頭が痛くなるカードだ。遊乃にとってもそれは例外ではない。遊乃の使う【テラナイト】は墓地を利用するデッキのため、墓地利用を封じられると展開が鈍くなってしまう。
「攻撃の巻き戻しは起こらない……さあ、バトルだ!」
「しまった……!」
ウヌクの攻撃力は〈反転世界〉の効果で1000。相手モンスターの守備力は……
「俺のモンスター〈首領・ザ・ルーグ〉の守備力は1500。よって、500のダメージを受けてもらう!」
「くっ……だけど、これくらいなら……」
「まだだ! 戦闘ダメージを与えたことにより〈首領・ザ・ルーグ〉の効果発動! 俺はお前の手札をランダムに1枚墓地へ送る! もっとも今の場合は除外だけどな!」
遊乃の手札にあった〈星因子 アルタイル〉がピンポイントで狙われたかのように除外されてしまう。【テラナイト】のキーカードだっただけにそのショックは大きい。
「手札破壊……ちょっとまずいかも……」
― ― ― ― ― ― ―
遊乃 8000 → 7500
強盗 8000
― ― ― ― ― ― ―
― ― ― ― ― ― ―
首領・ザ・ルーグ
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1400/守1500
このカードが相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えた時、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●相手の手札をランダムに1枚選択して捨てる。
●相手のデッキの上から2枚を墓地へ送る。
― ― ― ― ― ― ―
遊乃は仕方なくカードを2枚伏せてターンを終える。彼女の手札は残り2枚だ。次のターン、強盗はカードをドローしたのち、ドローしたカードをすぐさま発動した。
「俺は手札から〈ナイト・ショット〉を発動! その伏せカードを1枚破壊する!」
遊乃の伏せ――〈リビングデッドの呼び声〉が破壊される。もっとも腐りそうなカードではあったが、墓地の〈星因子 デネブ〉の蘇生を考えていた遊乃には頭が痛い。
― ― ― ― ― ― ―
ナイト・ショット
通常魔法
相手フィールド上にセットされた魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。このカードの発動に対して相手は選択されたカードを発動できない。
― ― ― ― ― ― ―
「今の私の場には攻撃力1000のウヌクが一体だけ……どうしよう……」
「俺は〈増援〉を発動! デッキから2体目の〈首領・ザ・ルーグ〉を手札に加え、俺はそれを通常召喚する! 現れろ、〈首領・ザ・ルーグ〉!」
遊乃の場には弱ったウヌクが一体。一方、相手の場には〈〈首領・ザ・ルーグ〉2体。遊乃の場には伏せカードが1枚あるが、彼女の背中のシャツにはジワリと汗が染み着いている。
「俺は〈首領・ザ・ルーグ〉で〈星因子 ウヌク〉を攻撃! さらに、2体目の〈首領・ザ・ルーグ〉でダイレクトアタック!」
「きゃっ……!」
遊乃の身体がソリッドビジョンの戦士によって切り裂かれる。強盗はほくそ笑んだ。
「そして戦闘ダメージを与えたことにより〈首領・ザ・ルーグ〉の効果発動! お前の手札残り2枚を除外する!」
「手札が……」
遊乃は呆然としてしまった。〈首領・ザ・ルーグ〉は月日の経ったカードではあるが、使いようによってはこのような動きを見せる。それを思い知らされていた。そして、遊乃の操る【テラナイト】の弱点である「除外」を見事に突かれ、何も出来なかった。
まだ勝負はついていない。そう分かっていても、勝てる気がしない。相手のモンスターは決して強くはないのに、数が並んでいるだけだと言うのに、勝てる気がしない。
「さあ、お前のターンだ。嬢ちゃんよ」
「どうしたら……」
遊乃の逆転は、伏せている一枚のカードと、次のドローにかかっている。
― ― ― ― ― ― ―
遊乃 7500 → 5700
強盗 8000
― ― ― ― ― ― ―
時計を見ると、ちゃんといつも通りの時間になっていた。遊乃はベッドから出ると寝間着から簡単な部屋着に着替え、朝ごはんを食べるために廊下に出た。廊下に出たところで、遊乃の部屋の向かいに部屋を持つ葵が廊下に出てきた。
「葵ちゃん、おはよー」
「……ああ、おはよう」
葵はまだ寝ぼけているようであった。服装も、そのまま眠っていたのだろうか、黒のタンクトップはよれよれになっていて、長い髪はぼさぼさになっている。下に履いているジャージも大分使い古している物だろうか。どちらにしろ、初対面の時のようなきっちりとした彼女の姿はなかった。
「朝は弱くてな」
「そう言う人もいますから大丈夫ですよ」
「そうか……」
葵の意外な姿に遊乃は少し可愛さを感じながらも、二人で談話室まで出てきた。談話室の窓際の椅子では翌檜が本を読んでいた。ちらとこちらの方を向くと、おはようの頷きをしてきた。二人もその挨拶に返す。
「おおっと」
「ひゃっ!?」
葵の身体がグラッと揺れた。そのまま遊乃の方にもたれかかって来て、2人して床にばたんと倒れてしまった。まだ眠気が覚めてないのか、葵はしばらく動く気配を見せない。
「あ、葵ちゃん、大丈夫?」
「う……すまん」
「あらあら、朝からラブラブねぇ~」
いつも通りの口調の伽藍がやってきた。その後ろにはシロの姿もある。
「動けん」
「ええ……」
葵に押し潰されている遊乃は蚊のような声を上げる。葵に潰されていることで苦しいのもそうだが、何より葵の胸が背中に押し付けられていることに意識が向いてしまっている。普段は意識することすらないが、こういう状況になると女性の遊乃でも気にしてしまう。やはり照れくさい事であるのか、遊乃は赤面しながら震えていた。
「あわわ……」
「シロちゃん、一緒に葵さんを助けてあげましょ?」
「う、うん」
伽藍とシロが葵の両肩を持とうとしたが、葵が少し持ち上がった所で、シロの視界に葵のタンクトップの隙間からの胸の谷間が入ってしまった。それに動揺したせいかシロは力を抜いてしまい、葵が落ちたことで下にいる遊乃はふぎゃ、と声をあげる。
奇しくもその衝撃で葵の頭が覚醒したのだろう。しばらくぼうっとした後、下で潰れている遊乃に気が付くと、距離が近い事から恥ずかしさを感じたのかその場をすぐに離れる。
「す、すまん、遊乃」
「だいじょうぶです……ううっ」
「あら、今度は遊乃ちゃんが伸びちゃったのねぇ~」
葵に抱えられて立ち上がった遊乃は談話室のソファに腰を掛ける。そして、伽藍に隠れてしまったシロの様子を見ると、再び葵に目を戻して言う。
「葵ちゃん、シロ君もいるんだから下着はつけた方が」
「それもそうだな」
伽藍は顔を真っ赤にしたシロの頭を撫でていた。窓際にいる翌檜は大きな欠伸をする。
朝食の時間になり、朝の仕事前の準備を終えると、アルストロメリア一階の食堂に遊乃たちは集まっていた。食堂は一般の人たちにも開放されていたが、四階建てのビル全てが本部の管轄下であるため、今の時間帯はアルストロメリアの人たちしかいない。
「この間の〈スターダスト・ドラゴン〉を集めてた人の口を割ってるんだけど……どうやら裏に大きな組織がありそうね」
「だとしたら面倒くさいことになっちゃいますか?」
「そうね」
「金稼ぎかただのコレクションか……まぁ、金稼ぎが妥当な線だろうな」
翌檜は何も言わずにご飯を食べている。伽藍は葵にカードの束を渡した。
「朝の見回りついでに、安値で店に売ってきてもらえないかしら。あの男が持っていた〈スターダスト・ドラゴン〉を巻き上げた物よ」
「わかった……遊乃と行けば良いのか?」
「私たちは他に用事があるからそうしてもらえると助かるわね」
「わかりました」
「……ん」
翌檜は玉子焼きを少し口に含むと固まった。伽藍がシュガースティックを渡すと、袋を開けて中の砂糖を玉子焼きにかける。今日の玉子焼きは甘くなかったのだ。
「道中、不審な動きがあったら伝えること。いいわね?」
「はい」
きちんといつも通りに着替え直していた葵は首をひねる。その凛々しい姿にアルストロメリアの他の団員たちも目を奪われていた。一方の遊乃は、その純粋無垢な笑顔にファンが付いたようである。
新人である遊乃と葵が組になって回るのは初めてであった。本部では何度も交流していたため仲良しではあるが、実際に仕事で一緒になるのはこれが初である。店を回ってカードの金額をチェックし、〈スターダスト・ドラゴン〉を安値で少しずつ売り分けていく。特に支障もなく、仕事が終わった後、2人は伽藍に連絡を取った後、カフェで休憩していた。
ストローを使わずに一気にコーラを飲む葵。遊乃の視線はときたま彼女の方に動いていた。しかし周りの客の視線はどちらかというと遊乃のかわいらしさに引き寄せられているようである。葵もまた、遊乃に興味を抱いているのは事実であった。
「そういえば遊乃」
「どうしましたか?」
葵は遊乃に一枚のカードを差し出す。それは〈スターダスト・ドラゴン〉だった。
「この間私が買っていた物だ。私はもう間に合っているからあげるよ」
「いいの?」
「〈スターライト・ロード〉入れてるのにこれがないのは寂しいだろ」
遊乃はそのカードを受け取ると、しばらくしたのちに輝くような笑顔になった。そして、遊乃の持ってきていたデッキのエクストラデッキに差し込むと、満足そうに笑う。
「私も何かお返ししないとね」
「無理しなくてもいいぞ。強制はしない」
「いつか葵ちゃんにもプレゼントします」
その時、店の外側が突然騒がしくなった。慌てたような人がカフェの中に入ってくる。その人の話を聞くに、どうやら、近くの銀行で強盗が入ったようだ。
「葵ちゃん、行こう」
「ああ」
走りながら伽藍に連絡を付け、銀行へと2人は走る。
銀行は騒がしくなっていた。飾り付けてあった植木鉢が何個か倒れていることから、人々の慌ただしい動きが予想できる。そして、入り口から入ると、強盗団らしき人が3人いた。そのうちの2人は銀行の奥へ進み、1人はこちらへ向かってくる。
「私は2人を追いかける。遊乃はこいつを頼む!」
「あ、葵ちゃん! ……仕方ないなぁ」
デュエルディスクを構えると、強盗は舌打ちをした後にディスクを構えた。
「「デュエル!」」
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遊乃 8000
強盗 8000
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「先行は俺だ。モンスターをセットし、カードを2枚伏せてターンを終了する」
「堅実に来ましたか……」
遊乃のターンだ。遊乃はカードを一枚ドローすると、意を決したようにうなずく。
「私は手札の〈星因子 ウヌク〉を通常召喚します! そして、ウヌクの効果発動! デッキから〈星因子 デネブ〉を墓地へと送ります!」
「星因子(テラナイト)か……」
何やら呟いた男に構わず、遊乃は続ける。
「何かありますがやるしかありませんね……バトルフェイズ! その伏せを攻撃!」
「罠カード発動! 〈反転世界〉!」
「〈反転世界〉……!?」
「さらにチェーンして発動! 〈マクロコスモス〉!」
遊乃は愕然とした。嵌められた、と気づいた時にはもう遅い。
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星因子 ウヌク
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1800/守1000
「星因士ウヌク」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「星因士ウヌク」以外の「テラナイト」カード1枚を墓地へ送る。
※「星因子」は「サテラナイト」と読む。
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反転世界
通常罠
フィールド上に表側表示で存在する全ての効果モンスターの攻撃力・守備力を入れ替える。
※読み方は「リバーサル・ワールド」
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マクロコスモス
永続罠
自分の手札またはデッキから「原始太陽ヘリオス」1体を特殊召喚する事ができる。また、このカードがフィールド上に存在する限り、墓地へ送られるカードは墓地へは行かずゲームから除外される。
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マクロコスモス――多くのデュエリストにとっては頭が痛くなるカードだ。遊乃にとってもそれは例外ではない。遊乃の使う【テラナイト】は墓地を利用するデッキのため、墓地利用を封じられると展開が鈍くなってしまう。
「攻撃の巻き戻しは起こらない……さあ、バトルだ!」
「しまった……!」
ウヌクの攻撃力は〈反転世界〉の効果で1000。相手モンスターの守備力は……
「俺のモンスター〈首領・ザ・ルーグ〉の守備力は1500。よって、500のダメージを受けてもらう!」
「くっ……だけど、これくらいなら……」
「まだだ! 戦闘ダメージを与えたことにより〈首領・ザ・ルーグ〉の効果発動! 俺はお前の手札をランダムに1枚墓地へ送る! もっとも今の場合は除外だけどな!」
遊乃の手札にあった〈星因子 アルタイル〉がピンポイントで狙われたかのように除外されてしまう。【テラナイト】のキーカードだっただけにそのショックは大きい。
「手札破壊……ちょっとまずいかも……」
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遊乃 8000 → 7500
強盗 8000
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首領・ザ・ルーグ
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1400/守1500
このカードが相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えた時、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●相手の手札をランダムに1枚選択して捨てる。
●相手のデッキの上から2枚を墓地へ送る。
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遊乃は仕方なくカードを2枚伏せてターンを終える。彼女の手札は残り2枚だ。次のターン、強盗はカードをドローしたのち、ドローしたカードをすぐさま発動した。
「俺は手札から〈ナイト・ショット〉を発動! その伏せカードを1枚破壊する!」
遊乃の伏せ――〈リビングデッドの呼び声〉が破壊される。もっとも腐りそうなカードではあったが、墓地の〈星因子 デネブ〉の蘇生を考えていた遊乃には頭が痛い。
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ナイト・ショット
通常魔法
相手フィールド上にセットされた魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。このカードの発動に対して相手は選択されたカードを発動できない。
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「今の私の場には攻撃力1000のウヌクが一体だけ……どうしよう……」
「俺は〈増援〉を発動! デッキから2体目の〈首領・ザ・ルーグ〉を手札に加え、俺はそれを通常召喚する! 現れろ、〈首領・ザ・ルーグ〉!」
遊乃の場には弱ったウヌクが一体。一方、相手の場には〈〈首領・ザ・ルーグ〉2体。遊乃の場には伏せカードが1枚あるが、彼女の背中のシャツにはジワリと汗が染み着いている。
「俺は〈首領・ザ・ルーグ〉で〈星因子 ウヌク〉を攻撃! さらに、2体目の〈首領・ザ・ルーグ〉でダイレクトアタック!」
「きゃっ……!」
遊乃の身体がソリッドビジョンの戦士によって切り裂かれる。強盗はほくそ笑んだ。
「そして戦闘ダメージを与えたことにより〈首領・ザ・ルーグ〉の効果発動! お前の手札残り2枚を除外する!」
「手札が……」
遊乃は呆然としてしまった。〈首領・ザ・ルーグ〉は月日の経ったカードではあるが、使いようによってはこのような動きを見せる。それを思い知らされていた。そして、遊乃の操る【テラナイト】の弱点である「除外」を見事に突かれ、何も出来なかった。
まだ勝負はついていない。そう分かっていても、勝てる気がしない。相手のモンスターは決して強くはないのに、数が並んでいるだけだと言うのに、勝てる気がしない。
「さあ、お前のターンだ。嬢ちゃんよ」
「どうしたら……」
遊乃の逆転は、伏せている一枚のカードと、次のドローにかかっている。
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遊乃 7500 → 5700
強盗 8000
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80 | 伝言板・修正履歴(3/30) | 1161 | 0 | 2016-01-19 | - | |
98 | 第1話 その少女、黄金の龍と共に有り | 1529 | 5 | 2016-01-19 | - | |
86 | 第2話 スターダスト・ドラゴン消失事件 | 1319 | 6 | 2016-01-23 | - | |
85 | 第3話 誇り高き一族 | 1407 | 7 | 2016-01-27 | - | |
96 | 第4話 勝利は一から積み上げる | 1232 | 6 | 2016-01-30 | - | |
80 | 第5話 絶対支配領域 | 1137 | 6 | 2016-01-31 | - | |
83 | 閑話休題:キャラクター紹介 | 1317 | 0 | 2016-01-31 | - | |
62 | 第6話 溶けていく手札 | 1050 | 8 | 2016-02-05 | - | |
62 | 第7話 手札一枚の戦争 | 1202 | 8 | 2016-02-07 | - | |
147 | 第8話 ネコチャン!? | 1142 | 8 | 2016-02-13 | - | |
146 | 第9話 「帝王」の影 | 1139 | 6 | 2016-02-19 | - | |
135 | 第10話 息の合った二人 | 1132 | 4 | 2016-02-21 | - | |
119 | 第11話 たまにはみんなで温泉旅行! | 1157 | 4 | 2016-02-23 | - | |
140 | 第12話 シロちゃんは二度挟まれる | 1070 | 6 | 2016-02-28 | - | |
156 | 第13話 アルストロメリアの門番 | 1200 | 4 | 2016-03-05 | - | |
116 | 第14話 王者の資格 | 1118 | 6 | 2016-03-09 | - | |
110 | 第15話 Execution | 1143 | 6 | 2016-03-13 | - | |
90 | 第16話 ワン・ナイト・カーニバル | 977 | 6 | 2016-03-17 | - | |
136 | 第17話 キャット・アンド・ドッグ | 1090 | 4 | 2016-03-25 | - | |
64 | 第18話 積み込み・スリ替え・橙一色 | 1010 | 6 | 2016-04-02 | - | |
95 | 第19話 孤独への恐怖 | 976 | 2 | 2016-04-10 | - | |
79 | 閑話休題:キャラクター紹介 雑談枠 | 1090 | 4 | 2016-04-19 | - | |
111 | 第20話 アルストロメリアの休日 | 1040 | 6 | 2016-04-29 | - | |
134 | 第21話 「ふつうの女性」になりたくて | 1151 | 4 | 2016-05-01 | - | |
78 | 第22話 翌檜の恋心 | 959 | 4 | 2016-05-03 | - | |
74 | 第23話 シロちゃんぐるぐるハンマー伽藍 | 1004 | 4 | 2016-06-06 | - | |
99 | 第24話 ボクっ娘決闘者、リンちゃん | 984 | 2 | 2016-07-03 | - | |
74 | 第25話 政治部の苦悩 | 914 | 4 | 2016-07-09 | - | |
109 | 第26話 モノクローム・プライド | 1035 | 4 | 2016-07-20 | - | |
79 | 第27話 あなたのそばで | 1105 | 4 | 2016-07-28 | - | |
64 | 第28話 嫉妬 | 1022 | 2 | 2016-08-31 | - | |
113 | 第29話 分かり合いたくて | 1033 | 0 | 2016-09-15 | - | |
143 | 第30話 Dランド:遊乃&葵√その1 | 986 | 2 | 2016-10-06 | - | |
125 | 第31話 Dランド:遊乃&葵√その2 | 1127 | 2 | 2016-10-09 | - | |
78 | 第32話 Dランド:遊乃&葵√その3 | 1023 | 2 | 2016-11-03 | - | |
78 | 第33話 Dランド:遊乃&葵√その4 | 1050 | 4 | 2016-11-08 | - | |
73 | 第34話 Dランド:伽藍&シロ√その1 | 917 | 2 | 2016-11-25 | - | |
113 | 第35話 Dランド:伽藍&シロ√その2 | 933 | 2 | 2016-12-06 | - | |
76 | 第36話 Dランド:伽藍&シロ√その3 | 989 | 2 | 2016-12-14 | - | |
89 | 第37話 Dランド:翌檜√その1 | 843 | 2 | 2016-12-25 | - | |
131 | 第38話 Dランド:翌檜√その2 | 868 | 2 | 2017-01-12 | - | |
83 | フラワリングタウン広報「アイリス」春号 | 1025 | 0 | 2017-01-12 | - | |
146 | 第39話 フンキー フンキー フンキー | 1222 | 3 | 2017-01-18 | - | |
114 | 第40話 もりのようかん | 971 | 2 | 2017-01-25 | - | |
124 | 第41話 狂植物の叛乱 | 912 | 4 | 2017-02-05 | - | |
127 | 第42話 桜姫降臨 | 1004 | 2 | 2017-02-13 | - | |
116 | リンク召喚について ※SSは書き続けます | 1049 | 5 | 2017-02-18 | - | |
143 | 第43話 Dragula | 1056 | 2 | 2017-02-19 | - | |
113 | 閑話休題:キャラクター紹介3 | 1040 | 0 | 2017-02-23 | - | |
145 | 第44話 不穏 | 854 | 4 | 2017-03-19 | - | |
128 | 第45話 BREAK DOWN | 1006 | 2 | 2017-03-21 | - | |
129 | 第46話 その少女、黒紫の竜と共に有り | 982 | 2 | 2017-03-23 | - | |
99 | 第47話 おかえり | 971 | 4 | 2017-03-26 | - | |
135 | 第48話 大切な人 | 998 | 3 | 2017-03-29 | - | |
110 | 第49話 炎 | 797 | 4 | 2017-04-28 | - | |
114 | 第50話 Find Your Way | 928 | 2 | 2017-05-17 | - | |
105 | 第51話 Force Your Way | 1014 | 4 | 2017-06-17 | - | |
120 | 第52話 四人目の姫 | 1067 | 2 | 2017-07-22 | - | |
126 | 第53話 一寸先は闇 | 937 | 4 | 2017-07-25 | - | |
115 | 第54話 月夜に咲く姫 | 870 | 4 | 2017-08-22 | - | |
150 | 第55話 OVERLAP | 1004 | 0 | 2017-09-16 | - | |
132 | 第56話 幽雅に咲かせ、紫毒の華 | 819 | 5 | 2017-09-21 | - | |
110 | 第57話 帰る場所 | 923 | 4 | 2017-10-01 | - | |
143 | 閑話休題:キャラクター紹介4&作者の呟き | 1043 | 0 | 2017-10-01 | - | |
131 | 第58話 前哨戦(△) | 895 | 5 | 2017-11-09 | - | |
135 | 第59話 混沌を制す者(△) | 1085 | 2 | 2017-11-12 | - | |
63 | 第60話 侵略者の領域 | 1015 | 4 | 2018-02-20 | - | |
130 | 【報告】現状と暗い見通し【更新できねぇ】 | 1221 | 0 | 2018-05-31 | - |
更新情報 - NEW -
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- 09/30 11:47 評価 9点 《滅亡龍 ヴェイドス》「名前と出で立ちから《ドラゴン族》っぽく…
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- 09/30 11:37 評価 7点 《灰滅の憤怒》「ほぼ《滅亡龍 ヴェイドス》を墓地に送ってそれを…
- 09/30 11:27 評価 8点 《灰滅せし成れの果て》「素材のゆるさが本体。 《果てなき灰滅》…
- 09/30 11:23 評価 9点 《滅亡き闇 ヴェイドス》「主に《果てなき灰滅》による融合効果で…
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- 09/30 11:14 評価 7点 《終わりなき灰滅》「《滅亡龍 ヴェイドス》でセットできる永続罠…
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- 09/30 11:00 評価 5点 《狂愛の竜娘アイザ》「 自ら相手にくっついた挙げ句に心中してく…
- 09/30 10:58 評価 8点 《果てなき灰滅》「《滅亡龍 ヴェイドス》によってセットできる罠…
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デネブアルタイルベガの大三角形トリオが動けないと一気に不利になりますからなぁ。
くそっ、こんな時にプトレマイオスがいたら...こんな事には...(ノヴァインフィニティを握りしめながら)
相手は手札破壊の『黒蠍』デッキ...最近では月鏡の盾と合わせてガリガリ手札破壊してくるとか。負けるな、遊乃! テラナイトの真の力を見せるんだ!! (2016-02-05 22:19)
とりあえず遊乃のデッキは【テラナイト】です。
マクロコスモスはテラナイト使いにとっては天敵ですからね……
今回の【黒蠍】もそうですが、実際にデッキは一度組んで自分で回してから投稿しております。手札破壊が決まると気持ちいいんですよねコレ。相手はたまったもんじゃないでしょうが……
次回の遊乃の戦いをご期待ください……! (2016-02-05 22:27)
たかが攻撃力1400そこそこが強敵に感じる。こうハマれば強いのに現実でこうはいかないのは何故だろう? (2016-02-05 22:39)
<<ター坊 さん
デッキの要の手札を削りに行きますからかなり嫌らしい動きであることは確かですね……
テラナイトはなにしろ初動が弱いので……ちなみに黒蠍は回った時の強さが半端ないですよ。
現実ではそう簡単に行きませんからね。ああ、私もドローの力が欲しい…… (2016-02-05 22:51)
千年の盾は殴る用の盾だった……?
〈首領・ザ・ルーグ〉さんは忘れてる人も多いんじゃないでしょうか。
遊乃ちゃんのドロー力と戦略に賭けるしかないですねぇ(´・ω・`)
(2016-02-05 23:09)
黒蠍は個々のカードパワーは弱いですが、他のカードと上手く組ませれば中々面白い動きをしますよね……それでいて除外でしっかりとテラナイトをメタってくるあたりこの強盗もそれなりの腕はあるみたいですね。
遊乃はここからどう切り返すか。何となく次に何をドローするか想像できてしまいますが、遊乃の勝利を願っております。 (2016-02-06 19:43)
除外系と合わせれば現在でも通用するコンボの完成です(`・ω・´)
テラナイトは除外が弱点の一つなので相性は最悪でしょうな
遊乃が次にドローするカードは……
一体何なんでしょうねぇ。まだひと悶着ありますぞ……? (2016-02-06 23:32)