第４３話　Dragula　作：白金　将

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遊乃　　　手札７枚　伏せ０枚　４８００　アルタイル守　デネブ攻
タレイア　手札２枚　伏せ１枚　８０００　ハナミズキ守　カタクリ攻　ツツジ守　アマリリス攻　タレイア攻
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　遊乃のフィールドには守備表示のアルタイルと攻撃表示のデネブ、タレイアのフィールドには彼女の侍女であるハナミズキ、ツツジ、カタクリ、そして攻撃表示のアマリリス、彼女自身である〈桜姫タレイア〉が鎮座していた。
　遊乃のターン、ドローしようとデッキに指を乗せた時、彼女の頭に何か電流のような物が走る。

「え……」
「大丈夫……？」
「う、うん。なんでもない」

　後ろでユーノが心配そうに見つめる中でドローする。ほっとしたような表情に戻った遊乃は手札に目を向けた後、覚悟を決めた顔で一枚のカードを選び出す。

「私は手札から〈星因士　ベガ〉を通常召喚！　そしてベガの効果で手札から〈星因士　ウヌク〉を特殊召喚！」
「素材が４体並んだか……だが無駄な事よ」
「私はウヌクの効果で２枚目の〈星因士　デネブ〉を墓地へ送ります。そしてフィールドのアルタイル、デネブ、ウヌクでオーバーレイネットワークを構築！　エクシーズ召喚！」

　再び３体のテラナイトが光となるが、今度は違う戦士の姿を象っていく。それは彼女のデッキの切り札ともなりえるカードだった。

「大三角のもとに集いし光よ、今ここに合わさりてたゆみない希望となれ！　エクシーズ召喚！　お願いします、〈星輝士　トライヴェール〉！」

　トライヴェールの効果は全体バウンス。非常に強力なモンスターだったが、タレイアは顔色一つ変えない。

「トライヴェールの効果発動！」
「我は〈ブレイクスルー・スキル〉を発動する。トライヴェールの効果は無効だ」
「っ……バトルフェイズ。でも私は何もせずにメインフェイズ２に移行、そして、フィールドのトライヴェールでオーバーレイネットワークを再構築！」

　トライヴェールが一旦沈んだかと思えば、今度はそこからトライヴェールを超える巨体を持つ龍のようなモンスターが現れる。テラナイトで最も高い攻撃力を誇る隠れたエースモンスターの１体が降臨する。だが、それでも壁としての役割しか果たさない現状に遊乃は苦虫を嚙みつぶしたような顔であった。

「星々の光集めし戦士よ、今ここに更なる輝きを持って生まれ変わらん！　エクシーズ召喚！　お願いします、〈星輝士　セイクリッド・ダイヤ〉！」
「ほう……？」
「私は手札から〈星輝士の因子〉を発動！　ダイヤの攻撃を５００上昇させ、３２００にします！　そしてダイヤは相手のカードの効果を受けなくなります！」
「だが攻撃力は我を越えられまい……？」
「うっ……カードを１枚伏せてターンエンド」

　タレイアの言った通り、遊乃のフィールドに立っているダイヤは攻撃力３２００だが、相手のフィールドに鎮座している〈桜姫タレイア〉は自身の強化効果で攻撃力３３００となっている。さらに、ダイヤの隣には攻撃表示で棒立ちしているベガがいるため、次のターンに遊乃は戦闘でダメージを受けるのは必至であった。


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星輝士　セイクリッド・ダイヤ

エクシーズ・効果モンスター
ランク５／光属性／幻竜族／攻２７００／守２０００
光属性レベル５モンスター×３体以上
このカードは自分メインフェイズ２に、「星輝士セイクリッド・ダイヤ」以外の自分フィールドの「テラナイト」Ｘモンスターの上にこのカードを重ねてＸ召喚する事もできる。
(1)：Ｘ素材を持ったこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いにデッキからカードを墓地へ送る事はできず、墓地から手札に戻るカードは手札に戻らず除外される。
(2)：相手の闇属性モンスターの効果が発動した時、このカードのＸ素材を１つ取り除いて発動できる。その発動を無効にし破壊する。

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星輝士の因子

装備魔法
自分フィールドの「テラナイト」モンスターにのみ装備可能。
(1)：装備モンスターの攻撃力・守備力は５００アップする。装備モンスターは相手のカードの効果を受けない。
(2)：自分フィールドに「テラナイト」モンスター以外のモンスターが表側表示で存在する場合にこのカードは破壊される。

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「我のターン、ドロー……ほう」

　タレイアがカードを引いた時、周囲の空気が一変したように遊乃は感じた。まるで時が止まったかのように空気の流れが止まり、タレイアの方から全てをひれ伏させるオーラが溢れてくるのが分かる。嵐の前の静けさ。そう形容しても決して大事ではない。

「貴様にはもう何の希望も残っていない……このターンでそれを証明しよう」
「くっ」
「我は手札から魔法カード〈桜花爛漫〉を発動！」

　その瞬間、今まで止まっていた空気が一気に遊乃とユーノの方へ流れ出した。タレイアの周囲に伸びていた蔦からは桜のような花が咲き乱れ、不気味ながらも華麗なフィールドを作り出す。そして、タレイアから感じられる力が段違いの物に変わっていくのが嫌でも分かった。

「このターン、我の攻撃力は我がフィールド上の植物族モンスター全ての合計値となる！」
「全ての……合計……！？」
「これにより、〈桜姫タレイア〉の攻撃力は６６００だ」


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桜花爛漫　※オリカ

通常魔法
①自分フィールド上の植物族モンスターを１体選択して発動できる。そのモンスターの攻撃力は自分フィールド上の植物族モンスターの攻撃力の合計値となる。エンドフェイズ時、選択したモンスターは破壊される。
②①の効果で選択したモンスターがランク・レベル８以上の植物族モンスターだった場合、エンドフェイズ時の破壊効果は適用されない。この効果は無効化されない。
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「このままバトルフェイズだ。我はセイクリッド・ダイヤに攻撃！　３４００のダメージを食らえ！」
「がっ……！」
「そして〈フェニキシアン・クラスター・アマリリス〉でベガを攻撃！」
「ぁ……私は伏せていた〈天翔ける星因士〉を発動！　ベガをデッキに戻してデッキから〈星因士　アルタイル〉を守備表示で特殊召喚！　そして、ぜぇ、アルタイルで墓地の、デネブを守備表示で蘇生！　デネブで、デッキからベガを手札に……！」
「何度耐えようが無駄だ。アマリリスでアルタイルに攻撃！」

　遊乃のフィールドにはもう守備表示のデネブしか残っていない。そして。

「エンドフェイズ。我が眷属のバーンダメージ、１５００を受けてもらおう」
「いやぁぁぁぁ……！」
「遊乃ちゃん！」


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遊乃　　　４８００　→　１９００　→　４００
タレイア　８０００
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　片膝をついた遊乃をユーノが支える。だが、遊乃の目からはすでに生気が消え去っていた。
　目の前に叩き付けられた現実に、疲弊しきった身体。極限状態を越えた精神に、彼女の何もかもがズタズタに崩れ落ちようとしている。例えもう一人の彼女が支えていたとしてもそれは容易には乗り越えられない。

「勝負あったようだな……だが貴様のライフは残っている。我はターンエンドだ」
「わ……私の、ターン……」

　遊乃の口が動いたが、そこからは既に息のような声しか漏れていない。ちょっと押せばそのまま地面に崩れてしまうだろう。

「無理しないで！　だったら私が引き継ぐから……」
「……その、必要はない」

　遊乃の声色が変わった。先ほどまで切れ切れだったものが、突然はっきりとした物へと変わる。
　そして、彼女のデッキが金色の光を帯び始めた。あの輝きは、かつて遊乃に勝利をもたらした力の証。立ち上がった遊乃は人差し指をデッキの上に乗せ、そのまま一息にカードをドローする。

「遊乃ちゃん……」
「私が引いたカードは――〈RUM 七皇の剣〉」

　それはかつて遊乃が戦友に預けたカード。勿論彼女のデッキには一枚しか入っていなかったが――遊乃はそれを呼び寄せたのだ。時間と空間を超越した龍は主人を救うため、その黄金の輝きと共に顕現する。例えデッキに入っていなくても、遊乃にはそれを引くだけの「力」があった。

「時空を超えし黄金の龍よ、今ここに現れ、永遠を統べる力を表せ！　現れろ〈CNo.107 超銀河眼の時空龍〉！」

　タレイアの前に現れたネオタキオンは彼女に負けないだけの迫力を誇っていた。それは攻撃力の差が生み出すものではない。遊乃の空っぽの身体に残っていた最後の意志が生み出した怪物そのものが具現化したのだ。それを前にしたタレイアには驚愕の表情が浮かんでいる。

「私は手札から〈星因士　ベガ〉を通常召喚、そしてベガの効果で手札から〈星因士　シャム〉を守備表示で特殊召喚。シャムの効果で１０００ダメージ」
「貴様は何をしようと言うのだ……！」
「私は手札から〈左腕の代償〉を発動。手札を全て除外し、デッキから〈巨大化〉を手札に加える。そして〈巨大化〉を発動。対象はギャラクシーアイズ」

　遊乃のフィールドのネオタキオンの輝きが一層増し、洋館の隅から隅までを光で覆いつくさんとばかりに光を放つ。ネオタキオンの攻撃力は９０００。タレイアを上回った。

「私はネオタキオンの効果を発動。ベガとシャムをリリースし、このターン、龍は３回までモンスターに攻撃できるようになる。バトルフェイズ。最初は〈フェニキシアン・クラスター・アマリリス〉！」

　金色の龍の口に溜まった光が太い一本の筋となってアマリリスへと襲い掛かる。〈桜姫の侍女カタクリ〉が封じるのはレベル４以下のモンスターへの攻撃だからこれは防ぐことが出来ない。その超過ダメージは６８００。だが、それでも遊乃のライフを下回ることはない。それ以上の痛みを彼女は受けている。

「次は――〈桜姫タレイア〉」
「そんな……そんなことが……！」

　龍の口に光が溜まっていくのを見てタレイアの表情が絶望に変わっていく。隣で見ていたユーノは口をあんぐりと開けたまま呆然と立っていた。そして、ネオタキオンの一撃がタレイアへ襲い掛かり、周囲が光で真っ白になる。

「ぎゃああああぁぁぁぁ！」


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遊乃　　　４００
タレイア　８０００　→　１２００　→　０
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　光が止んだ時、そこにタレイアの姿はなかった。周囲のツタも姿を消しており、タレイアがいた所には一本の桜の木の枝が落ちている。それに気づいたユーノが木の枝を拾いに行くと、近くにもう一つ何かが落ちていることに気付いた。

「――あっ、このデュエルディスク」

　ユーノはそれが自分の物だとすぐに分かった。
　ディスクに入っていたデッキを見たが、特に変わっている所はない。ユーノのデッキがあった。

「ぁ……」

　近くで遊乃がうめき声をあげたことでユーノは彼女の存在を思い出す。慌てて遊乃の所へ向かうと、そこで彼女が地面に伸びたまま気を失っているようだった。

「遊乃ちゃん……今、部屋に連れてってあげるからね」

　ユーノは倒れている遊乃を背中に背負い、再びあの部屋へと戻る。ぐったりとしていた遊乃は何一つ言葉を発することはなかった。