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第39話 フンキー フンキー フンキー 作:白金 将
※一応フラワリングカップ編へのつなぎとして「もりのようかん編」が始まります。
開催は結構後になる予定ですので首を長くしてお待ちくださいな。
真夜中。懐中電灯から伸びる光がゆらゆらと揺れている。少年と少女の小さな集団はある森の中を歩いていた。好奇心を抑えきれないものもいれば、怯えている自分を奮わせながらなんとかついていっている者もいた。
「ねえ……ほんとうに行くの? もう帰ろうよ……」
「この先にあるって話だから、あと少し……!」
「ううっ、なんか怖くなってきたぁ」
「ほんとにおまえは怖がりだなぁ!」
膝まで伸びた草の中を歩いていた一同は少し開けた場所に出る。そこにあったのは、もう建てられてから何十年と経っているように見える古い洋館だった。外観は黒く汚れが目立っており、ツタもあちこちから壁を上っている。窓ガラスもひびが入っており、誰もここに来る人がいないことは明白であった。
目当ての物が見つかった、と興味本位で少年少女らが近づこうとしたその時である。
「フンキー」
どこからともなく、少女の声でそんな言葉が聞こえてきたのである。それを聞いて一団はビクッと震えて立ち止まった。空耳ではない。確実に、少女の声が聞こえてきたのだ。
「わっ……」
「ふ、フンキー?」
「聞こえたか……?」
「誰かいるよぉ……」
そう言って女子たちは下がろうとするが、男子たちは怖いもの見たさでどんどん館の方へと進んでいく。洋館の扉に手をかけた時、男子たちの後ろの方から女子たちが「きゃっ」と叫びかけるような声が飛んできた。
「どうした?」
「お前らも来いよー……ん?」
そう言って振り返った男子たちだったが、そこに女子たちの姿はなかった。さっきまではそこにいたはずなのに、と引き返したその時。
「フンキー」
先ほどまでは半分面白がっていた男子たちの表情から笑顔が消えた。
その声は、すぐ後ろから聞こえてきたのだ。
「あ……」
「こ、これって……」
そう言って振り返ると、そこには、知らない少女の姿が――
「フンキー」
― ― ― ― ―
「むにゃ……」
「ん……」
「すぴー……あれ?」
アルストロメリアの静かな朝。遊乃はもぞもぞと布団の中で目を覚ましていた。フラわリングタウンの春ももうすぐ終わり、夏にさしかかろうとしているためか若干蒸し暑さを感じて遊乃は布団から顔を出す。
「ぷはぁ」
「……ん」
遊乃の隣で何かが動いた。何故か同じベッドで眠っていた葵である。葵は無防備な格好のまま遊乃がいることに気が付くと、何故お前がここにいるんだ、と訝しんだような目をする。
「遊乃……?」
「えへへ……」
ちょっと照れくさそうに遊乃は葵の方を見るが、葵のゆるい黒のキャミソール姿に気が付くと、その視線をひょいと天井の方に逃がしてしまう。
「む……」
「どうした?」
「やっぱり大きいなって……ああ、なんでもないよっ」
「それはそうとしてだな」
葵が遊乃の眼前まで顔を寄せる。あまりの迫力に遊乃は息を止めてしまった。
「なんでお前が私のベッドにいるんだ?」
「うぇ……ええっと」
昨夜の事を思い返しながら遊乃はこめかみを掻く。そのまま適当にはぐらかそうとしたが、葵の貫くような視線からは逃れられず、結局白状することになってしまう。
「テレビでこわい番組見ちゃって」
「……はぁ」
しょぼくれた様子で答える遊乃を前に葵はため息を吐く。そんなことをしていると、葵の部屋のドアがコンコンとノックされた。葵が返事をすると、ドアが開き、そこからシロが覗いてくる。
「あ、あの……葵さんと、遊乃さんに、お仕事が」
「仕事……?」
「むー、お仕事入っちゃったかー」
そうして二人はすぐに着替え、伽藍の待つ団長室へ入る。そこで言い渡されたのは、なんともオカルティックなお仕事の依頼であった。
「今回の依頼は幽霊屋敷の調査よ~」
「幽霊屋敷?」
「おばけ……!?」
不審に思う葵と怖がる遊乃の二人へ、伽藍は少し考えた後に一枚の紙を渡す。そこに書いてあったのはその幽霊屋敷についての顛末であった。
森の中にあるとされている幽霊屋敷には少女の霊が囚われていて、訪れた者に悪戯をするとのことである。ただ、目撃証言の大半が子供に偏っており、何かの悪戯であるという可能性も否定できないとのことだった。
「森の周辺に新しく移り住む人がいるらしいんだけど、その噂についてけりを付けてほしいんですって」
「確かにあるかもわからない幽霊屋敷の近くに住むのは嫌だよな……」
「そういう訳で、二人で周辺の調査をお願い。まずは聞き取り調査ね~」
「むぅ……」
遊乃は一人、ちょっと不安げな顔をしているのであった。
※
フラワリングタウンを二人で回り、人の集まりやすい飲食店や屋台を訪れては幽霊屋敷について聞くが、伽藍から言われていた通り「幽霊屋敷はある」と「幽霊屋敷なんてなかった」という意見に二分してしまった。ここまで意見が食い違うのも珍しく、遊乃と葵は頭を悩ませてしまっていた。
ただ、何の進展もない訳ではなかった。とある情報通の話によると、かつて森の奥深くでは謎の出入りがあったらしい、ということが分かった。その事を伽藍に報告すると、向こうでもいろいろと行動してくれているらしく、あとは適当に戻って来て、と返ってきた。
「うーん、何十件も回ったから疲れたなー」
「現地に行くともっと体力使うんだからな。ここで疲れてはいられないぞ」
「うぇーい……」
とある喫茶店でタピオカドリンクを飲みながら遊乃は机の上で頬杖を突く。その向こうでは葵がコーラを一気に飲み干していた。こうやって二人で喫茶店に入るのももう何度も経験したことであるが、それでも遊乃は葵に対して憧れのような物を抱かずにはいられなかった。
(私も葵ちゃんみたいな大人の女性になりたいなぁ……)
そんな事を考えながらタピオカを噛むお昼前である。
※
遊乃と葵が街で聞き込みをしている間、翌檜はフラワリングタウン政治部を訪れていた。事前に約束した通りの時間に桔梗の部屋に入ると、桔梗が栄養ドリンクを何本も空けながら作業している様子が目に飛び込んでくる。そこだけが重力場が強いかのようにどんよりと沈んでいるのが分かった。
「桔梗……?」
「……あ、翌檜かぁ。ごめんよ、こんな変な状況で」
普段とは違う桔梗の様子に戸惑いながらも翌檜はソファに座る。その向かいに桔梗も座った。うっかりしてしまえば眠ってしまいそうな容貌の桔梗を見て、翌檜は早急に事を済ませるべきだと悟る。
「……森の幽霊屋敷について」
「あー、大丈夫ー、それについてはウチで調べたのがそこにあるよ」
「……?」
桔梗が指差した先にあるのは紙束の山。五十枚は固いだろう。それほどの情報をあらかじめ調べておいてくれたのだ。
「もしかして」
「あ、それもあるけどね……ちょーっと次の議会で絶対に通さないといけない奴があるから、その根回しでいろいろ……ぁ」
そう言いながら徐々に桔梗の声が遠くなっていく。そして、ソファに座ったまま桔梗は眠りに落ちてしまった。このまま彼女を部屋に一人するのもまずいだろうと思い、翌檜は桔梗の部屋で書類に目を通し始める。
「……約十年前?」
そこに書いてあったのは、約十年前、森の奥にあった洋館を謎の団体が使用していたという事であった。長い間何かに利用されていたことは確からしいが、ある日突然、その団体の存在が消えてしまったという。以降、調査をしてもその団体に関する続報は全く見つからないとのことだった。
一応森の洋館について調査をすることも発案されたそうだが、実際に行っても洋館が見つからないことから、洋館自体の存在が否定されている、との話である。
「……」
「くかぁ……」
大口を開けて眠っている桔梗を確認した翌檜は、くすっと笑った後にもらった資料を精読し始めた。森の洋館についての記事、洋館を使っていた団体についての記事、そして周辺の歴史……よくも調べ上げた物である。
開催は結構後になる予定ですので首を長くしてお待ちくださいな。
真夜中。懐中電灯から伸びる光がゆらゆらと揺れている。少年と少女の小さな集団はある森の中を歩いていた。好奇心を抑えきれないものもいれば、怯えている自分を奮わせながらなんとかついていっている者もいた。
「ねえ……ほんとうに行くの? もう帰ろうよ……」
「この先にあるって話だから、あと少し……!」
「ううっ、なんか怖くなってきたぁ」
「ほんとにおまえは怖がりだなぁ!」
膝まで伸びた草の中を歩いていた一同は少し開けた場所に出る。そこにあったのは、もう建てられてから何十年と経っているように見える古い洋館だった。外観は黒く汚れが目立っており、ツタもあちこちから壁を上っている。窓ガラスもひびが入っており、誰もここに来る人がいないことは明白であった。
目当ての物が見つかった、と興味本位で少年少女らが近づこうとしたその時である。
「フンキー」
どこからともなく、少女の声でそんな言葉が聞こえてきたのである。それを聞いて一団はビクッと震えて立ち止まった。空耳ではない。確実に、少女の声が聞こえてきたのだ。
「わっ……」
「ふ、フンキー?」
「聞こえたか……?」
「誰かいるよぉ……」
そう言って女子たちは下がろうとするが、男子たちは怖いもの見たさでどんどん館の方へと進んでいく。洋館の扉に手をかけた時、男子たちの後ろの方から女子たちが「きゃっ」と叫びかけるような声が飛んできた。
「どうした?」
「お前らも来いよー……ん?」
そう言って振り返った男子たちだったが、そこに女子たちの姿はなかった。さっきまではそこにいたはずなのに、と引き返したその時。
「フンキー」
先ほどまでは半分面白がっていた男子たちの表情から笑顔が消えた。
その声は、すぐ後ろから聞こえてきたのだ。
「あ……」
「こ、これって……」
そう言って振り返ると、そこには、知らない少女の姿が――
「フンキー」
― ― ― ― ―
「むにゃ……」
「ん……」
「すぴー……あれ?」
アルストロメリアの静かな朝。遊乃はもぞもぞと布団の中で目を覚ましていた。フラわリングタウンの春ももうすぐ終わり、夏にさしかかろうとしているためか若干蒸し暑さを感じて遊乃は布団から顔を出す。
「ぷはぁ」
「……ん」
遊乃の隣で何かが動いた。何故か同じベッドで眠っていた葵である。葵は無防備な格好のまま遊乃がいることに気が付くと、何故お前がここにいるんだ、と訝しんだような目をする。
「遊乃……?」
「えへへ……」
ちょっと照れくさそうに遊乃は葵の方を見るが、葵のゆるい黒のキャミソール姿に気が付くと、その視線をひょいと天井の方に逃がしてしまう。
「む……」
「どうした?」
「やっぱり大きいなって……ああ、なんでもないよっ」
「それはそうとしてだな」
葵が遊乃の眼前まで顔を寄せる。あまりの迫力に遊乃は息を止めてしまった。
「なんでお前が私のベッドにいるんだ?」
「うぇ……ええっと」
昨夜の事を思い返しながら遊乃はこめかみを掻く。そのまま適当にはぐらかそうとしたが、葵の貫くような視線からは逃れられず、結局白状することになってしまう。
「テレビでこわい番組見ちゃって」
「……はぁ」
しょぼくれた様子で答える遊乃を前に葵はため息を吐く。そんなことをしていると、葵の部屋のドアがコンコンとノックされた。葵が返事をすると、ドアが開き、そこからシロが覗いてくる。
「あ、あの……葵さんと、遊乃さんに、お仕事が」
「仕事……?」
「むー、お仕事入っちゃったかー」
そうして二人はすぐに着替え、伽藍の待つ団長室へ入る。そこで言い渡されたのは、なんともオカルティックなお仕事の依頼であった。
「今回の依頼は幽霊屋敷の調査よ~」
「幽霊屋敷?」
「おばけ……!?」
不審に思う葵と怖がる遊乃の二人へ、伽藍は少し考えた後に一枚の紙を渡す。そこに書いてあったのはその幽霊屋敷についての顛末であった。
森の中にあるとされている幽霊屋敷には少女の霊が囚われていて、訪れた者に悪戯をするとのことである。ただ、目撃証言の大半が子供に偏っており、何かの悪戯であるという可能性も否定できないとのことだった。
「森の周辺に新しく移り住む人がいるらしいんだけど、その噂についてけりを付けてほしいんですって」
「確かにあるかもわからない幽霊屋敷の近くに住むのは嫌だよな……」
「そういう訳で、二人で周辺の調査をお願い。まずは聞き取り調査ね~」
「むぅ……」
遊乃は一人、ちょっと不安げな顔をしているのであった。
※
フラワリングタウンを二人で回り、人の集まりやすい飲食店や屋台を訪れては幽霊屋敷について聞くが、伽藍から言われていた通り「幽霊屋敷はある」と「幽霊屋敷なんてなかった」という意見に二分してしまった。ここまで意見が食い違うのも珍しく、遊乃と葵は頭を悩ませてしまっていた。
ただ、何の進展もない訳ではなかった。とある情報通の話によると、かつて森の奥深くでは謎の出入りがあったらしい、ということが分かった。その事を伽藍に報告すると、向こうでもいろいろと行動してくれているらしく、あとは適当に戻って来て、と返ってきた。
「うーん、何十件も回ったから疲れたなー」
「現地に行くともっと体力使うんだからな。ここで疲れてはいられないぞ」
「うぇーい……」
とある喫茶店でタピオカドリンクを飲みながら遊乃は机の上で頬杖を突く。その向こうでは葵がコーラを一気に飲み干していた。こうやって二人で喫茶店に入るのももう何度も経験したことであるが、それでも遊乃は葵に対して憧れのような物を抱かずにはいられなかった。
(私も葵ちゃんみたいな大人の女性になりたいなぁ……)
そんな事を考えながらタピオカを噛むお昼前である。
※
遊乃と葵が街で聞き込みをしている間、翌檜はフラワリングタウン政治部を訪れていた。事前に約束した通りの時間に桔梗の部屋に入ると、桔梗が栄養ドリンクを何本も空けながら作業している様子が目に飛び込んでくる。そこだけが重力場が強いかのようにどんよりと沈んでいるのが分かった。
「桔梗……?」
「……あ、翌檜かぁ。ごめんよ、こんな変な状況で」
普段とは違う桔梗の様子に戸惑いながらも翌檜はソファに座る。その向かいに桔梗も座った。うっかりしてしまえば眠ってしまいそうな容貌の桔梗を見て、翌檜は早急に事を済ませるべきだと悟る。
「……森の幽霊屋敷について」
「あー、大丈夫ー、それについてはウチで調べたのがそこにあるよ」
「……?」
桔梗が指差した先にあるのは紙束の山。五十枚は固いだろう。それほどの情報をあらかじめ調べておいてくれたのだ。
「もしかして」
「あ、それもあるけどね……ちょーっと次の議会で絶対に通さないといけない奴があるから、その根回しでいろいろ……ぁ」
そう言いながら徐々に桔梗の声が遠くなっていく。そして、ソファに座ったまま桔梗は眠りに落ちてしまった。このまま彼女を部屋に一人するのもまずいだろうと思い、翌檜は桔梗の部屋で書類に目を通し始める。
「……約十年前?」
そこに書いてあったのは、約十年前、森の奥にあった洋館を謎の団体が使用していたという事であった。長い間何かに利用されていたことは確からしいが、ある日突然、その団体の存在が消えてしまったという。以降、調査をしてもその団体に関する続報は全く見つからないとのことだった。
一応森の洋館について調査をすることも発案されたそうだが、実際に行っても洋館が見つからないことから、洋館自体の存在が否定されている、との話である。
「……」
「くかぁ……」
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さてアルストロメリアのような組織がメインになる作品において、必ず一回は舞い込む幽霊屋敷調査の依頼。デュエルで解決できるものならいいですが、デュエルでどうしようもなくなった場合はどうするのか……しかし聞き込みの結果幽霊屋敷の存在自体が賛否あるという結果はだいぶやりにくそうですね。遊乃たちはどう対処するのか。
>遊乃の隣で何かが動いた。何故か同じベッドで眠っていた葵である。葵は無防備な格好のまま遊乃がいることに気が付くと、何故お前がここにいるんだ、と訝しんだような目をする。
この2人はすっかり仲良しですね、いいぞもっとやれ(殴
(2017-01-19 11:17)
それにしてもフンキーって、なんなんでしょうか。そんなカードは確かなかったはずですし…
そういえばファイブディーズで幽霊屋敷に行った回がありましたね。
(2017-01-19 12:15)
子供の頃はなんとも思わなかったんですが今見ると結構怖いんですよねあれ
考えてみると不可解な点が多すぎるってのが本当にもういろいろ心に来ます。
言ってしまえば幽霊屋敷のカギは「子供だけがあると言っている」という点ですかね。
まぁこれだと次の展開も大体予想がつくかもしれませんが……そこはお楽しみに。
一見変わらないように思えますが遊乃、葵はお互い徐々に変わりつつありますぞい(*´ω`)
<<青き眼の凡人 さん
その歌どっかで聞いたことありますね……恥ずかしながら空で歌える程ではないですが。
フンキーの謎に関しては次の更新の際に解明しますぞ。カードではないですが……
幽霊屋敷ってわりとメジャーだったりするんですかね(´・ω・`)? (2017-01-19 23:09)