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第40話 もりのようかん 作:白金 将
その日のうちに周辺の調査も終わらせてほしい、とのことで、遊乃と葵は問題の森を訪れていた。街の外れにあるこの森は、そう広くはない物の迷わないと言えばそうではない森であり、一度道を見失えば出るのに少々苦労する場所である。一旦その幽霊屋敷と言う物を見つけて、後日また準備を整えてから行こうという算段だった。
「うー、こんなんだったら着替え持ってきたらよかったー」
「今そんなこと言ったって仕方ないだろ。ほら、そこに根っこあるから」
「葵ちゃんちょっと待って……」
膝の高さ程ある草をかきわけ、道のない森を歩いていく。葵はこういう所に慣れているのかひょいひょいと進んでいたが、一方の遊乃は学校のセーラー服だったことが災いしてその結構後ろを歩く羽目になってしまっていた。たまに葵がこちらを振り向いて待つことはあるが、遊乃はなかなか追いつけない。
「大丈夫か? ……あ、その辺りで」
「あふぅ……!」
遊乃が頑張って追いつこうとした時、何かに足を取られて遊乃は頭から転んでしまった。周りの草で遊乃が見えなくなってしまって葵はため息をついたが、しばらくして反応がないことに気付く。
「……遊乃?」
呼びかけに反応しないことを不審に思った葵はすぐさま来た道を戻って遊乃の転んだ辺りを見る。だが、そこに遊乃の姿はない。文字通り草の根を掻き分けて探してみても彼女のいた痕跡すら見つからなかった。
一方の遊乃というと。
「いてて……むー、葵ちゃん早すぎだよ……!」
そう言って立ち上がった遊乃だったが、その先にいるはずの葵の姿がないことに戸惑いを覚えていた。
「葵ちゃん……?」
頑張って草の間を進んで葵のいた所まで行くが、そこに葵の姿はない。どこかへ行ったような跡も残っていない。まるで、その場から突然消えてしまったかのように。
「葵ちゃん……! 葵ちゃん……!」
全方向に叫んでみたが、返事は来ない。呆然とした遊乃はその場にへたりこんでしまった。しばらくして、遊乃は誰かの声が聞こえてくることに気付く。だが、それが葵の物ではないことは直感的に分かった。
「……フンキー」
その声はどこか遠くから聞こえてきている。遊乃はふらふらと立ち上がると、そちらの方へとゆっくり歩きだした。もしかしたらその声に釣られて葵もそこに行っているかもしれない、という期待を込めて。
だが、そこに葵の姿はなかった。代わりにあったのは、とても年季の入った木造の洋館。鉄柵の門は壊れ、まるで遊乃が入って来るのを待っているかのようだった。
「幽霊屋敷……ここのこと?」
「――フンキーフンキー」
洋館の一室から少女の声が聞こえている。どこか歌っているような声でもあった。入ることを躊躇していた遊乃だったが、徐々に外が暗くなり始めていることに気が付くと、恐怖を押し殺して洋館の門から中に入る。
「……おじゃまします」
錆びたような音を立てて開いた門から敷地内に入り、洋館の戸を開ける。案の定中は閑散としていた。広間のような部屋には一台の机以外には何も置かれていない。壊れかけた窓から入って来る光を頼りに、遊乃はその机の引き出しをそっと開けた。地獄に仏、そこには蠟燭とマッチが入っている。おそらく、ここに以前いた人が使っていた物だろうか。
壁に備え付けてあった燭台のような物を拝借し、ろうそくの火を頼りに洋館内を進んでいく。先程少女の声がしてきた部屋に向かおうとドアノブに手を伸ばした時、何かが遊乃の頭の中で起き上がる。違和感のような物を覚えながらドアを開けた先には、椅子に座った少女の後ろ姿があった。長い髪をポニーテールに結んでおり、背丈は遊乃と同じ程である。
「フンキーフンキー……」
ヘッドフォンのような物を付けて音楽を聴いているのか、その少女は遊乃に気が付いていない様子である。辺りを確認すると、どうやらこの部屋には電気が通っているらしい。明かりもあるため一旦燭台を近くの机に置いた時、部屋の隅にあるテレビに遊乃の視線が動く。年季の入ったブラウン管テレビだった。
(こんな場所にもテレビなんてあるんだ……)
おそらくこの部屋の持ち主であろう少女に一応声はかけてみたが、曲に聴きいってはフンキーフンキー言っているため全くこちらに気付く気配がない。好奇心に駆られてテレビのボタンを押してみるが、何故か電源は入らない。その代わり、少し経ったら砂嵐の音がとぎれとぎれ聞こえるようになった。
「ん……」
「フンキーフンキー……」
後ろから聞こえる少女の声を聴きながらテレビの画面をのぞき込んでいた遊乃だったが、突然画面の砂嵐が人の顔のような形で浮かび上がり、遊乃は驚いて後ろへ飛んでしまう。
「ひゃっ……!」
「フンキー……終わっちゃったか」
そう言って少女がヘッドフォンを外した所、何だか部屋が騒がしいことに気付いたのか、辺りを確認する。そして、床に背を付けていた遊乃と視線が合った。
一瞬の静寂。驚いたのは、何故かずっとこの屋敷にいたであろう少女の方だった。
「きゃあああぁぁぁーーーっ!」
「ええーーーっ!?」
遊乃の様子を見て驚いていた少女は、髪形はポニーテールにしていたものの、顔が遊乃と全く同じだったのである。世界に三人ほど似ている人は存在する、という話のような次元ではなく、本当に遊乃と顔が同じだったのだ。もっとも、髪形や着ている服の雰囲気もあるため全体像は遊乃と違っているのだが。
「あ、ああ、あーっ、本当にびっくりした! いつからそこにいたの?」
「い、いつからって、さっき……」
「そうなんだ……うーっ、会った時はびっくりさせてやろうと思ったのに……!」
まるで友達のように話してくる少女に遊乃は気圧されてしまっていた。いや、幽霊屋敷にいる恐怖が和らぐためなるべく話し相手はいた方が良い、というのはあるが、それでも知らない人とお話をするのは簡単にできることではない。
「な、名前、教えてもらえませんか……?」
「名前? 私の名前は『ユーノ』。あなたと同じはずでしょ?」
「えっ……?」
遊乃は目をぱちくりとさせた。目の前の少女は顔が同じだけでなく、名前も同じだと言ったのだ。しかも、それがいたって普通の事であるかのように認識している。
「どうして……」
「よくわかんないけど、そういうことになってるの。あなたはもう一人の私で、私はもう一人のあなたってこと。あ、そうだ! せっかく来てくれたんだから一つ手伝ってもらえないかな?」
ユーノはそう言って遊乃の手を取るとキラキラした表情になる。そして、きょとんとしている遊乃をぎゅっと抱きしめた。
「私がここから出るために、ちょこっとだけ手伝ってほしいことがあるの」
※
〈子供だけが入ることが出来る場所?〉
「そういうことになるわね~。遊乃ちゃんだから小中学生に間違えられたのかも」
団長室で伽藍は端末越しに葵と会話していた。翌檜の持ってきた書類に目を通している彼女の眼差しはいつになく真剣な物である。自らの組織の人員が一人消えているのもあるが、遊乃一人だけがいないというのも気がかりになっていたためだった。
「申し訳ないけどあと一時間ほどそこに居てくれないかしら? 彼女が出て来られるかもしれないから」
〈分かった〉
「ごめんなさい。今そっちにいる人で頼れるのはあなただけだから」
そうして通信は切れる。その時、団長室にシロが入って来た。シロはため息をついている伽藍の姿を見ると、団長室に備え付けてあった電気ケトルのスイッチを入れ、近くに椅子に座って足をぶらぶらとし始める。
「困ったわねぇ……」
「遊乃さんは帰って来ないかな?」
「しばらくは帰って来られそうにないわね」
その会話中にまた部屋のドアが開き、今度は翌檜が部屋に入ってくる。
「寝る」
「おやすみなさい、翌檜」
それだけを言って翌檜は去っていく。情報収集で体力を消耗したのだろう。しばらく窓から外の様子を窺っていると、先程シロが置いた電気ケトルでお湯が沸いたようで、それでシロはホットココアを二人分作り、片方を伽藍の方に持っていった。
「らん姉、これ」
「あら、ありがとう、シロちゃん」
「なんか疲れてるように見えたから」
そう言ってココアをフーフーと冷ますシロを見ている内、伽藍の険悪だった表情が徐々に和らいでいく。伽藍がそっとシロの頭を撫でると、彼は少しくすぐったそうに目を閉じる。
おまけ:フンキーの秘密
下のURLの動画の二曲目より。ユーノはよくこの曲を歌っていた。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm10553944
次からはデュエルシーンがあるのでおたのしみに
「うー、こんなんだったら着替え持ってきたらよかったー」
「今そんなこと言ったって仕方ないだろ。ほら、そこに根っこあるから」
「葵ちゃんちょっと待って……」
膝の高さ程ある草をかきわけ、道のない森を歩いていく。葵はこういう所に慣れているのかひょいひょいと進んでいたが、一方の遊乃は学校のセーラー服だったことが災いしてその結構後ろを歩く羽目になってしまっていた。たまに葵がこちらを振り向いて待つことはあるが、遊乃はなかなか追いつけない。
「大丈夫か? ……あ、その辺りで」
「あふぅ……!」
遊乃が頑張って追いつこうとした時、何かに足を取られて遊乃は頭から転んでしまった。周りの草で遊乃が見えなくなってしまって葵はため息をついたが、しばらくして反応がないことに気付く。
「……遊乃?」
呼びかけに反応しないことを不審に思った葵はすぐさま来た道を戻って遊乃の転んだ辺りを見る。だが、そこに遊乃の姿はない。文字通り草の根を掻き分けて探してみても彼女のいた痕跡すら見つからなかった。
一方の遊乃というと。
「いてて……むー、葵ちゃん早すぎだよ……!」
そう言って立ち上がった遊乃だったが、その先にいるはずの葵の姿がないことに戸惑いを覚えていた。
「葵ちゃん……?」
頑張って草の間を進んで葵のいた所まで行くが、そこに葵の姿はない。どこかへ行ったような跡も残っていない。まるで、その場から突然消えてしまったかのように。
「葵ちゃん……! 葵ちゃん……!」
全方向に叫んでみたが、返事は来ない。呆然とした遊乃はその場にへたりこんでしまった。しばらくして、遊乃は誰かの声が聞こえてくることに気付く。だが、それが葵の物ではないことは直感的に分かった。
「……フンキー」
その声はどこか遠くから聞こえてきている。遊乃はふらふらと立ち上がると、そちらの方へとゆっくり歩きだした。もしかしたらその声に釣られて葵もそこに行っているかもしれない、という期待を込めて。
だが、そこに葵の姿はなかった。代わりにあったのは、とても年季の入った木造の洋館。鉄柵の門は壊れ、まるで遊乃が入って来るのを待っているかのようだった。
「幽霊屋敷……ここのこと?」
「――フンキーフンキー」
洋館の一室から少女の声が聞こえている。どこか歌っているような声でもあった。入ることを躊躇していた遊乃だったが、徐々に外が暗くなり始めていることに気が付くと、恐怖を押し殺して洋館の門から中に入る。
「……おじゃまします」
錆びたような音を立てて開いた門から敷地内に入り、洋館の戸を開ける。案の定中は閑散としていた。広間のような部屋には一台の机以外には何も置かれていない。壊れかけた窓から入って来る光を頼りに、遊乃はその机の引き出しをそっと開けた。地獄に仏、そこには蠟燭とマッチが入っている。おそらく、ここに以前いた人が使っていた物だろうか。
壁に備え付けてあった燭台のような物を拝借し、ろうそくの火を頼りに洋館内を進んでいく。先程少女の声がしてきた部屋に向かおうとドアノブに手を伸ばした時、何かが遊乃の頭の中で起き上がる。違和感のような物を覚えながらドアを開けた先には、椅子に座った少女の後ろ姿があった。長い髪をポニーテールに結んでおり、背丈は遊乃と同じ程である。
「フンキーフンキー……」
ヘッドフォンのような物を付けて音楽を聴いているのか、その少女は遊乃に気が付いていない様子である。辺りを確認すると、どうやらこの部屋には電気が通っているらしい。明かりもあるため一旦燭台を近くの机に置いた時、部屋の隅にあるテレビに遊乃の視線が動く。年季の入ったブラウン管テレビだった。
(こんな場所にもテレビなんてあるんだ……)
おそらくこの部屋の持ち主であろう少女に一応声はかけてみたが、曲に聴きいってはフンキーフンキー言っているため全くこちらに気付く気配がない。好奇心に駆られてテレビのボタンを押してみるが、何故か電源は入らない。その代わり、少し経ったら砂嵐の音がとぎれとぎれ聞こえるようになった。
「ん……」
「フンキーフンキー……」
後ろから聞こえる少女の声を聴きながらテレビの画面をのぞき込んでいた遊乃だったが、突然画面の砂嵐が人の顔のような形で浮かび上がり、遊乃は驚いて後ろへ飛んでしまう。
「ひゃっ……!」
「フンキー……終わっちゃったか」
そう言って少女がヘッドフォンを外した所、何だか部屋が騒がしいことに気付いたのか、辺りを確認する。そして、床に背を付けていた遊乃と視線が合った。
一瞬の静寂。驚いたのは、何故かずっとこの屋敷にいたであろう少女の方だった。
「きゃあああぁぁぁーーーっ!」
「ええーーーっ!?」
遊乃の様子を見て驚いていた少女は、髪形はポニーテールにしていたものの、顔が遊乃と全く同じだったのである。世界に三人ほど似ている人は存在する、という話のような次元ではなく、本当に遊乃と顔が同じだったのだ。もっとも、髪形や着ている服の雰囲気もあるため全体像は遊乃と違っているのだが。
「あ、ああ、あーっ、本当にびっくりした! いつからそこにいたの?」
「い、いつからって、さっき……」
「そうなんだ……うーっ、会った時はびっくりさせてやろうと思ったのに……!」
まるで友達のように話してくる少女に遊乃は気圧されてしまっていた。いや、幽霊屋敷にいる恐怖が和らぐためなるべく話し相手はいた方が良い、というのはあるが、それでも知らない人とお話をするのは簡単にできることではない。
「な、名前、教えてもらえませんか……?」
「名前? 私の名前は『ユーノ』。あなたと同じはずでしょ?」
「えっ……?」
遊乃は目をぱちくりとさせた。目の前の少女は顔が同じだけでなく、名前も同じだと言ったのだ。しかも、それがいたって普通の事であるかのように認識している。
「どうして……」
「よくわかんないけど、そういうことになってるの。あなたはもう一人の私で、私はもう一人のあなたってこと。あ、そうだ! せっかく来てくれたんだから一つ手伝ってもらえないかな?」
ユーノはそう言って遊乃の手を取るとキラキラした表情になる。そして、きょとんとしている遊乃をぎゅっと抱きしめた。
「私がここから出るために、ちょこっとだけ手伝ってほしいことがあるの」
※
〈子供だけが入ることが出来る場所?〉
「そういうことになるわね~。遊乃ちゃんだから小中学生に間違えられたのかも」
団長室で伽藍は端末越しに葵と会話していた。翌檜の持ってきた書類に目を通している彼女の眼差しはいつになく真剣な物である。自らの組織の人員が一人消えているのもあるが、遊乃一人だけがいないというのも気がかりになっていたためだった。
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そうして通信は切れる。その時、団長室にシロが入って来た。シロはため息をついている伽藍の姿を見ると、団長室に備え付けてあった電気ケトルのスイッチを入れ、近くに椅子に座って足をぶらぶらとし始める。
「困ったわねぇ……」
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「しばらくは帰って来られそうにないわね」
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「あら、ありがとう、シロちゃん」
「なんか疲れてるように見えたから」
そう言ってココアをフーフーと冷ますシロを見ている内、伽藍の険悪だった表情が徐々に和らいでいく。伽藍がそっとシロの頭を撫でると、彼は少しくすぐったそうに目を閉じる。
おまけ:フンキーの秘密
下のURLの動画の二曲目より。ユーノはよくこの曲を歌っていた。
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そしてテレビを付けたら中からはロ○ムが……出てくるわけではありませんでしたね。というかいかにも怪しいユーノの方が驚くって。でも人間とお化け(?)が出会ってお化けの方がビビるっていうのも結構王道な展開だったりしますよね。ただ話を聞く限りユーノの方にも何かしらの事情があるようですが……
あと最後のBGM。何故リンクを貼ったんですか(ゲッソリ
(2017-01-25 10:25)
子供しか入れない、というのも実はちゃんとした理由があったりします。
まぁ遊乃は葵に中学生って間違えられたことがありますから、仕方ないね。
怖がりの遊乃ですが、ユーノと出会ったことで少しは心強くなったかな……?
洋館の中にいたユーノという少女についても今後少しずつ正体が分かっていきますぞ。
実は作業用BGMは結構いろんなのを聞いていたりします。
SIRENのサントラ聞きながらラブコメ書ける人なので音楽の趣味が広く……いつか紹介します。
URLの所を最後まで聞いたならご苦労様です、としかいいようがないです(´・ω・`)ゴメン (2017-01-26 02:25)