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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第1話 その少女、黄金の龍と共に有り

第1話 その少女、黄金の龍と共に有り 作:白金 将

 町全体が花に覆われている街、フラワリングタウン。街の住民も花が大好きで、あちこちには色とりどりの花が植えられたプランターが道に沿って置いてあった。レンガ造りの家の窓にはかわいい小鉢も置いてあり、町全体が甘い香りに包まれていた。

 そんな町の一角で、朝、一人の少女が三人の男に絡まれていた。彼女の名前は「不如帰 遊乃(ほととぎす ゆうの)」。18歳という年齢にしては背も低く、体型も子供っぽい。彼女はセーラー服を身に纏い、両手に少し大きめの鞄を提げていた。遊乃の子供っぽさを見て、男たちは彼女を中学生だと思っていたようである。

「ねぇねぇ、お兄さんたちと一緒に楽しい事しない?」
「楽しい事……?」
「君が知らないことをいっぱい教えてあげるからさ」

 遊乃は「楽しい事」という言葉に反応すると、にっと笑みを浮かべた。

「楽しい事、いいですよ」
「おっ、物分かりが早くて助かるね。それじゃ、こっちn」
「ここでやりましょうよ」

 遊乃は鞄を開けると、その中からデュエルディスクとデッキを取り出し、それを慣れた手つきで左腕に嵌めた。男たち三人はしばらく固まっていたが、同じようにディスクを装着すると、お互いに目配せをした後に遊乃の方を向く。

「お兄さんたちが勝ったら、お兄さんたちと一緒に遊びに行きますよ」
「こいつ、少し危ない気がしないか……?」
「なあに、三人でかかれば負けるわけがないっつの」
「そうそう。勝ったら女の子と良いことできるんだからさ」

 下種のようなことしか考えていない男たちの会話は遊乃には聞こえていない。だが、雰囲気は感じ取られたはずだ。それでも、遊乃は子供のような無邪気な笑顔を崩さない。それに男らのうちの1人が気が付いたわけであったが、その気付きは生きなかったようだ。
 朝早いためか人の姿は多くはない。春の温かな風が遊乃のスカートをふわりと揺らした。

「「「「 デュエル! 」」」」

― ― ― ― ― ―
遊乃    8000
チンピラ1 8000
チンピラ2 8000
チンピラ3 8000
― ― ― ― ― ―

 男たちにも情けはあったようで、人数的に不利な遊乃は先行をもらう事が出来た。遊乃は初手の五枚を見た後、デッキの一番上に手を当てる。男の一人はそれをドローしようとしている動作だと勘違いしたらしい。

「こらこら、先行はドロー出来ないんだよ」
「違いますよ。こうやってると……感じるんです」

 よくわからない言葉に男たち三人は戸惑いを見せた。遊乃はデッキの上から手を離す。

「それでは……私は〈カップ・オブ・エース〉を発動します!」

 その声と共にどこからともなくコインが現れ、宙を舞った。コインはくるくるくると宙を舞い、そして、あたかも最初から決まっていたかのように正位置に落ちる。その間、遊乃はいつものような笑顔を浮かべてまま動揺する様子を全く見せていない。

「デッキから2枚ドローして、私はカードを2枚セット。次に、〈光の護封剣〉を発動します」

 光の護封剣。デュエリストなら知らない物はいないだろう。カードが場に存在している3ターンの間、敵の攻撃を完封する永続魔法。遊乃は残りの手札二枚を見て、にっこりと嬉しそうな表情をした。

「ターンエンドです」
「よし、それじゃ、俺のターン、ドロー!」

 1人目はドローしたカードを早速使うようであった。

「俺は〈ハーピィの羽根箒〉を発動! これで君の魔法・罠を全て破壊する!」
「残念ですが〈スターライト・ロード〉でその効果を無効化します。そして、もう一つの効果は……エクストラに〈スターダスト・ドラゴン〉がいないので不発です」
「やっぱり何か防御札はあったか……」

 そう簡単に事は運ばない。1人目の男はモンスターを裏側守備表示で伏せてターンを終えた。二人目は〈光の護封剣〉を破壊する手段が見つからなかったらしく、同じようにモンスターを一枚伏せてターンを終える。
 三人目の男はそれを破壊する術を持っていたようだった。

「俺のターン! 手札から〈サイクロン〉を発動! 〈光の護封剣〉を破壊する!」
「やっと破壊してきましたか……」
「そして、俺は手札から〈ブラッド・ヴォルス〉を通常召喚! ダイレクトアタック!」

 デュエルディスクに内蔵されているソリッドビジョンが働き、男の前に武器を持った戦士が現れた。
 ブラッド・ヴォルスの攻撃力は1900。遊乃の場にモンスターは一体もいない。遊乃はもう一枚罠を伏せていたようだったが、特にそれを発動することもなく、攻撃をライフで受けた。遊乃のライフが削られる。他の男2人もやっと笑みを取り戻したようだった。

「ちょっと遅れたけど、これで君のライフを削ることが出来たぞ」
「次のターンできっちり終わらせてあげるからねぇ」

― ― ― ― ― ― ― ― ―
遊乃    8000 → 6100
チンピラ1 8000
チンピラ2 8000
チンピラ3 8000
― ― ― ― ― ― ― ― ―

 男たち三人はどこからやってくるのかよく分からない自信に満ち溢れていた。だが、それに怖気づくこともなく、遊乃はデッキの上に手を置いた。そうしてまた、祈る。



 その時、四人のデュエルの近くに一人の女性が走って来た。彼女は遊乃が男たち三人の相手をしているところを見ると、少し遅かった、とため息をつく。

「あらあら、遅かったみたいね……どうしましょう」

 彼女はフラワリングタウンの治安を維持する民間団体、アルストロメリアのメンバーだった。花の街、ということもあり、女性デュエリストが多いこの街で起きるトラブルを解決するために奔走していた彼女であったが、今回はトラブルを未然に防げなかったようだ。
 それに、3対1はどうみても遊乃の方が不利だ。彼女は自分の遅さを呪う。



 その頃、遊乃は覚悟を決めたようにドローした。そして。

「――私の引いたカード、お兄さんたちに教えてあげるね」
「おおーっ、お嬢ちゃんいい子だねぇ。でも、勝負だからカードを見せちゃ……」
「見せないとダメなんですよ」

 遊乃は男たち三人に良く見えるようにそのカードを向けた。男たちの顔が、そのカードを見た瞬間に血色の良いピンク色からかき氷にかけるブルーハワイシロップのような青になった。

「私が引いたカードは、〈RUM-七皇の剣〉です!」

 それに驚いたのは対戦相手の男三人だけでなく、陰から見ていた彼女もであった。名前だけは聞いたことがある強力なカードを、あのあどけない少女が二ターン目で引き当てたというのだ。そして、それを発動する瞬間を見ることが出来るのだ。

「時空を超えし黄金の龍よ、今ここに現れ、永遠を統べる力を表せ! お願いします、〈CNo.107 超銀河眼の時空龍〉!」

 遊乃のデュエルディスクが黄金色に光ったかと思うと、地面に大穴が現れ、そこから黄金の龍が飛び出してきた。その首は三つあり、町全体を太陽に代わって金色の光で照らす。その圧倒的なフォルムに男たち三人は度肝を抜かれてしまったらしく、声が出ていない。

「私は手札から〈エクシーズ・ユニット〉を発動して、〈CNo.107 超銀河眼の時空龍〉に装備します!」



― ― ― ― ― ― ― ―
CNo.107 超銀河眼の時空龍

エクシーズ・効果モンスター
ランク9/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3000
レベル9モンスター×3
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
このカード以外のフィールド上に表側表示で存在する
全てのカードの効果はターン終了時まで無効になり、
このターン、相手はフィールド上のカードの効果を発動できない。
また、このカードが「No.107 銀河眼の時空龍」を
エクシーズ素材としている場合、以下の効果を得る。
●自分フィールド上のモンスター2体をリリースして発動できる。
このターンこのカードは1度のバトルフェイズ中に3回までモンスターに攻撃できる。
― ― ― ― ― ― ― ―
― ― ― ― ― ― ― ―
エクシーズ・ユニット

装備魔法
エクシーズモンスターにのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は、装備モンスターのランク×200ポイントアップする。
また、自分フィールド上の装備モンスターがエクシーズ素材を取り除いて効果を発動する場合、このカードは取り除くエクシーズ素材の1つとして扱う事が出来る。
― ― ― ― ― ― ― ―



 物陰から見ていた彼女は愕然とした。彼女はそれなりにデュエルの知識はあったが、腕前はまだ一人前には程遠い。だが、そんな彼女でもわかるほどに、男たち三人は押されていた。いや、男たち三人があまりにも弱すぎたのだ。
 〈CNo.107 超銀河眼の時空龍〉のランクは9。遊乃が発動した〈エクシーズ・ユニット〉により、攻撃力は1800増加し、6300になる。そして、遊乃はさらに駄目押しの一手を加えた。

「私は自分のモンスターフィールドに〈トーチトークン〉を2体特殊召喚し、お兄さんのモンスターフィールドに〈トーチ・ゴーレム〉を1体特殊召喚します!」
「攻撃力3000のモンスターを俺にくれるって言うのか!?」



― ― ― ― ― ― ― ―
トーチ・ゴーレム

効果モンスター
星8/闇属性/悪魔族/攻3000/守 300
このカードは通常召喚できない。
このカードを手札から出す場合、自分フィールド上に「トーチトークン」
(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を2体攻撃表示で特殊召喚し、
相手フィールド上にこのカードを特殊召喚しなければならない。
このカードを特殊召喚する場合、このターン通常召喚は出来ない。
― ― ― ― ― ― ― ―



 自分のフィールドに召喚されたゴーレムの姿を見て、男は何が起きたかよくわからないような顔を見せた。このカードに出会うのは初めてだったようだ。やはり初心者である、と遊乃は心の内で直感していた。

「ゴーレムさんのお役目は終わりです。私は自分フィールド上の〈トーチトークン〉を2体リリースして、〈CNo.107 超銀河眼の時空龍〉の効果を発動します!」

 2体のトーチトークンが光となり、遊乃の前に立つ龍に吸収されていく。すると、龍の放つ黄金の光がひときわ強くなった。まだ本調子を出していない太陽に代わり、龍の光が街を明るく照らし始める。あまりのまぶしさに男たちは直視できていないようだった。

「このターン、私はこの龍の効果により3回までモンスターに攻撃が出来ます!」
「インチキ効果も大概にしろ!」
「おい、一体何が起きてるんだよ!」
「知らん、そんなことは俺の管轄外だ……」

 絶望に包まれた三人に、無慈悲な龍は口を開けた。この龍の前では、いくら攻撃力が1900あるブラッド・ヴォルスも消し炭同然である。遊乃は攻撃宣言をする前に、あの子供のような笑顔をもう一度輝かせながら、手札に残った一枚を発動した。

「忘れていました。〈巨大化〉を発動しておきますね」
「……え?」

 物陰で見守っていた彼女は絶句した。これで勝負はついたのだ。彼ら三人の負けが決まってしまったのだ。あまりのあっけなさに、彼女は目をぱちくりさせるのみである。

「バトルフェイズ! 罠発動、〈ディフェンダーズ・クロス〉! これでお兄さんたちの伏せモンスターはみんな表側攻撃表示になります!」
「何だと!?」



― ― ― ― ― ― ― ―
ディフェンダーズ・クロス

通常罠
バトルフェイズ中のみ発動することができる。
相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターは表側攻撃表示になり、
そのモンスターの効果は無効化される。
― ― ― ― ― ― ― ―



 表側攻撃表示になったモンスターは「岩石の巨兵」「ホーリーエルフ」。遊乃はそれを見て首をかしげた。どうやら初心者相手にやりすぎてしまったと思ったようだ。

「それじゃ、お兄さん、楽しいことしようね……!」
「「「うわああああ!」」」



― ― ― ― ― ― ―
銀河龍 攻10800 VS 岩石の巨兵 攻1300
戦闘ダメージ 9500

銀河龍 攻10800 VS ホーリー・エルフ 攻800
戦闘ダメージ 10000

銀河龍 攻10800 VS ブラッド・ヴォルス 攻1900
戦闘ダメージ 8900
― ― ― ― ― ― ―



 龍の吐くブレスを食らった男たち三人は道端で伸びてしまった。所詮はソリッドビジョンであるため気絶で済んだようである。デュエルが終わると同時に、遊乃の近くにいた龍も消えて行ってしまう。遊乃がデッキとディスクを鞄にしまった時、物陰に隠れていた少女は遊乃に近づき、声をかけた。

「ねえ、あなた、名前を聞いてもいい?」
「名前? 私の名前は、『不如帰 遊乃』だよ」
「私の名前は『柊 伽藍(ひいらぎ がらん)』。さっきのデュエル見てて思ったの」

 伽藍、と名乗った女性の言葉に遊乃はいまいちついて行けていないようだった。

「お願い、私たちを助けてくれない?」
「た、助けるって、どうしたら……」
「そのデュエルの腕を使ってほしいの!」

 遊乃は押しに弱いため、なすがままにその伽藍と言う女性に手を貸すことになった。困ったような顔をしていた遊乃には、先程のデュエルの時の圧倒的威圧感は残ってなかった。

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陽炎獣love勢
主人公の可愛らしい見た目に対して相方がネオタキオン...これはいい(確信)
突然現れた柊さんは一体どんなトラブルを抱えているのか。続きが楽しみです (2016-01-19 07:22)
追記
遊乃ちゃんがスタロで帚を無効にした後スタダのssを宣言していますが、ssされたスタダは何処へ消えたのでしょうか(´・ω・`) (2016-01-19 07:27)
白金 将(仮)
<<陽炎獣love勢 さん
スマホからの返信です

スタダの件に関しては完全に忘れてました
家に帰ったら『スターダスト・ドラゴンはエクストラになかった』というように変えておきます
全国の遊星さんファンの皆さん申し訳ございません
非力な私を許してくれ・・・ (2016-01-19 07:50)
ハカラメ
ワンターンスリーキルゥ...
さすが主人公、デュエルタクティクスも半端ないですね~
トーチ・ゴーレムの癖のある効果を使いこなすとは...スゲェ
カード効果も一緒に書いてあって非常に分かりやすかったです!
次回の更新を楽しみに待ってます! (2016-01-19 14:20)
白金 将
<<陽炎獣love勢 さん
家に帰って指摘された箇所を直しておきました
続きを楽しみにしてくださってありがとうございますなのです(`・ω・´)
かわいい見た目に騙されると痛い目に合いますぞぉ

<<ハカラメ さん
正直敵が弱すぎた感が否めないですけどねぇ。でも彼女が強いのは事実です。
トーチ・ゴーレムはヘルテントーチでよくお世話になりましたなぁ。
超重デッキが一瞬で落ちたのはいい思い出……

分かりやすいと言っていただけてありがたいのです(`・ω・´)
のんびりと書き続けるのです (2016-01-19 18:49)

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