第５７話 ミネルバの梟は夕暮れに飛び立つ　作：ハカラメ

注）ｓｓ初心者です！　二次設定その他もろもろにご注意ください。
題名の言葉は、社会学で使われる言葉らしいです。気になったら検索検索♪

そして、このお話を読んでモヤっとした方は、最初の方のお話を読み返してみてください。





～～～


私は、椅子に腰かけたまま眠ってしまったらしい。

気が付くと、先ほどまで読んでいた本が床に落ちていた。
床に落ちたせいか、挟んでいた栞は抜け落ち、ページの先が少し曲がっていた。
「どこまで読んだかしら」
ページをパラパラとめくるが、思い出せない。
「まぁ、何度も読んだ本だし、いいか」
私は椅子から立ち上がると、あの人からもらった本を、そっと本棚に戻した。

私があの人と出会って間もないころは、あの人の持つ本をよく読んだものだ。
本を読めば読むほど、この世界のことが分かるような気がした。
何となく、この世界に生きている、と実感させられている気がした。
私はあの人に何度もせがんで、たくさんの本を買ってもらった。
この、私の身長の５倍はあろうかという本棚が、すべてうまるくらいに。

本を読む、ということは、即ち知識を得ることだ。
人は・・・いや、人だけではない。
獣も、悪魔も、天使も、虫も、植物も皆、学習しなければ、この世界を生きることは出来ない。
知識が無ければ、生き物は自らのアイデンティティを保つことが出来なくなる。

自らを律し、正しく生きるためには、知識が必要だ。
あの子も・・・メイも、これからあの場所でたくさんの事を学ぶだろう。
そして、私に負けないくらいたくさんの知識を得ることだろう。
そうすれば、あの子はきっと・・・



『ソンナモノ、何ニナル』


・・・

『壊レテシマエバ、人モ、獣モ、皆一ツノ肉塊ニナルダケダ』

・・・うるさい

『今ノ世界ヲ見テミロ、争イハ絶エルコトナク続キ、タクサンノ命ガ消エテイルダロウ？　オ前ノ言ウ、知識デソレハ終ワルノカ？』

・・・だまれ

『悪ニハ、罰ヲ与エナケレバナラナイ。ソノ死ヲモッテナ』

・・・だまれったら

『殺セ殺セ、奴ラヲ、争イヲ止メヌ蛮族ドモヲ。断罪ノ時ハ来タレリッ！！！』

だまれだまれだまれっ！！！

違う、私は、私は・・・




ホー

「！」

鳴き声のする方に顔を向けると、メイのフクロウがそこにいた。
ホー
足には紙が巻き付いている。私たちがいつも行っている通信手段だ。
私は、小さく丸まった手紙をそっと広げると、ゆっくりと読み始めた...


どうやら、あの子は向こうで楽しくやれているようだった。
私と違って真面目なあの子が、馴染めるかどうか少し不安だったが、取り越し苦労だったようだ。

ホッと胸をなでおろした時、私の中に暖かい感情が流れた。
そうだ。これだ。
私が、あの人に最初にあったときにもこの感情が流れた。
あの人は言った。
それこそが、私が『私』である証明だと...

そうだ。私は『ワタシ』に負けてはいけない。
もう１度、あの時のように、この戦争を止めなければ・・・
私が、私がやらなきゃ・・・


コツ、コツ...

外の階段を、誰かが上る音がした。
私は、胸が躍った。あの人が帰ってきたんだ。

私は、服の身なりをサッっと整えると、あの人を出迎えるために扉の前に立った。

ガチャッ



「おかえりなさい、あなた」


「ただいま、ミネルバ」



私の愛する人が、たくさんのお土産話をもって帰ってきた...





ミネルバの梟は夕暮れに飛び立つ、完

第５８話に続く