第五十七話　ひとりで　作：怪盗七夜月

・昨日の夜から有希の姿が見えない事に不信感を抱いた咲夜は「緊急事態」と称し、放課後の校長室へ駆け込む。この事態にヨハンと十代はもう一度探すことにする。

咲夜と十代はレッド寮付近で有希を探していた。

十「咲夜、今日、有希を見たか？」

咲「いいえ。今日一日中欠席していたようです」

十「そうか⋯⋯」
　すると十代の携帯が鳴る。

十「もしもし⋯⋯え！、、わかった。すぐ行く！」
　咲夜は不思議そうに十代の顔を見る。

咲「どうかしたんですか？」

十「ヨハンからだ。咲夜に見てほしい映像があるって」

咲「映像⋯⋯ですか？」
　そう言うと十代と一緒に校長室へ走った。

ヨ「ああ、来てくれたか」
　ヨハンはスクリーンを出す。

ヨ「これを見てくれ」
　移っているのは岬。そこには船が3隻停泊中。

咲「な⋯⋯！」
　岬に3人組が現れた。真ん中に誰かが引きずられていて、両端に黒スーツの2人組が映っている。

咲「先生！ここ拡大してください！」
　ヨハンは言われた通りに拡大した。真ん中の人物の髪の毛は薄紫。明らかに有希だ。

十「誘拐事件か⋯⋯！」
　2人も有希だと断定したみたいだ。

咲「頼みがあります⋯⋯」
　咲夜は物々言った。

咲「この件⋯⋯僕に行かせてください！」
　十代、ヨハン、思わず「えっ⋯⋯！？」という反応。

咲「必ず有希を助けます！」

ヨ「⋯⋯」
　腕を組み考えるヨハン。

十「俺からも頼みます！」
　隣にいた十代までも頼みに来た。これには咲夜も予想だにしなかった。

ヨ「わかった。そのかわり⋯⋯必ず助け出してくるんだ⋯！」
　咲夜の自信満々な表情に押された様だ。

咲「ありがとうございます！あともう一つ、、いや、2つ聞いてもらえませんか？」
　2人は「？？」の表情。

咲「1つは僕一人で行かせてほしい事、もう1つはこの事は口外厳禁でお願いしたい事です。」

十「大丈夫か？相手が複数だと⋯⋯」
　十代が質問する。

咲「1つ目の件は複数だと敵に見つかり易く危険です。十代先生は直ぐに目に付きます。相手もそこまで馬鹿ではないはずです。あの有希を誘拐した位ですから」

ヨ「成程⋯⋯」
　ヨハンは頷く。十代は声には出さないが照れている。顔が赤い。

咲「しかも外に漏れたら他の先生方から生徒にも広がります。イリア、ルカナに聞かれたら絶対付いてきます。
　そうなると先ほど言った通り、人目に付きやすくなります」
　咲夜は必死で説得しようとした。

ヨ「⋯⋯よし、分かった。行動は君に任せる」
　ヨハンは決断した。十代も「ヨハンが言うなら」と頷いた。

十「じゃあこのカードを⋯⋯」
　渡したのは「あの」カードと白紙のカード。

十「白紙のカードは気持ちでカードが決まる。ピンチの時に使いな。そんで俺のカードも、俺も一緒に戦うから！」

咲「ありがとうございます！あと、『ラーイエロー』の蓮とイリアに部屋へ来てもらうように頼めますか？」

ヨ「翔くんに言ってみるよ。あと、必要な物は用意する。授業は何とかしておくから今日はもう休みなさい。」

咲「はい、ありがとうございます。」
　一礼して校長室を去った。

2人部屋に1人だけというのも寂しく感じる。そこに

蓮「お邪魔します」
イ「咲夜～頼みって何？」

呼んだ2人が入ってきた。

イ「有希さんはどこに？」
咲「ちょっと用事で出てった」
　適当に言い訳しておいた。2人共、咲夜より上だからクラスも違う。

咲「ああ、デッキ作りに必要なカード探しを手伝って欲しいんだ。」

蓮「そういう事ですか。分かりました。ただ夜遅くなるとマズいのでそれでも良ければ」

イ「いいわよ。それで材料は？」
　咲夜は「あれ⋯」指さした。そこには段ボール山積み。

蓮「⋯⋯、、、」
イ「こんなに⋯⋯あるの⋯⋯？やっぱ断ってもいいかしら⋯⋯？」
蓮「一度良いと言ったんですからやりましょう？僕もやりますから」

まずは箱を引っ張り出す。丁寧にも咲夜は種類別に分けていたので探しやすそうだ。

咲「もっと強化する方法ないかな⋯⋯？」
蓮「このカードを入れてみてはどうでしょう？」
イ「これもいいんじゃない？」
咲「このカードを入れて欲しいんだけど⋯⋯」
　出したのは十代から受け取った「あの」カード。
蓮「わかりました。何とかやってみましょう。」
咲「あと、EXは14枚でお願いします」
イ「注文が多いわね」

咲夜のデッキ作りは試行錯誤を繰り返し、夜更けまで続いた。

蓮「これでどうでしょうか？」
咲「ありがとう！」
イ「やっと終わった～！」
　時刻は夜9時。満月が輝いている。

蓮「では戻りますね。」
イ「私も戻るわ。疲れたからゆっくり寝よ！」
咲「2人ともありがとう⋯！」
　バタン⋯、とドアが閉まる。それから数時間、咲夜はデッキの一人回しを続けた。


第五十八話へ続く