理事長現る！　作：はにわ改

　
ーー透矢と刹那の決戦から明けて次の日。
もう体調は万全ではあるものの、真希や千鶴に気遣われながら辿り着いたアカデミア。
やはり王者・刹那を破ったという快挙は強烈な印象であり、すれ違う生徒たち全員が透矢をそれぞれの反応で見送っている。
異端の眼差しを送るもの、尊敬の眼差しを送るもの、レッド生徒風情が何故・・・と呟く者、など様々だが、とにかく視線が痛いのは確かだ。

「すっかり有名になっちゃったね、透矢！」

「あー・・・なんか、居心地悪いな」

「しょうがないよ、お兄ちゃんはあの神楽坂会長さんに勝ったんだから・・・」

透矢の注目、その煽りを受けている真希と千鶴も身を縮めていた。
当の本人、透矢は勝った時は大喜びしていたものの、一夜明ければもう普段通りの佇まいである。
人によっては得意気にもなりそうなものだ。

「ーー先輩！」

「うん？
お、流石じゃん！」

正門まで来ると、そこへ透矢を待っていた凌斗が駆け寄ってきた。

「先輩、昨日はまともにお礼も言えなくて・・・。
本当にありがとうございましたっ！」

釘でも打ち付けるかのような勢いで、頭を下げた凌斗は、声を張り上げるように礼を告げる。

「ははは、止せよ、流石！
こっちも楽しんでやらせてもらったし。
・・・ていうか、本当に大丈夫なんだよな？」

「ああ！
今、生徒会に顔出して・・・正式に退学は取り消しに！」

「そっか！
ま、お前だけでも助かって良かったよ」

「先輩・・・これからもよろしくお願いします！」

「だから止せ、って！
お前にそんな風にされると、何だか照れちまうぜ」

凌斗は助かった。
だが彼の取り巻きだった者たちは恐らく駄目だったのだろう。
彼ら自身にもそうなるような態度を取っていた責任があるとはいえ、透矢は凌斗の笑顔に喜びつつも、思いを馳せてはいた。

「さ、流石くん。
退学・・・取り消してもらえて、その・・・良かったね」

「鳴瀬・・・。
ーーああ、ありがとな」

「う、うん・・・！」

千鶴も前に出て、たどたどしい口調ながらも凌斗を祝福すると、
まだお互いに遠慮はあれども、穏やかに笑いあう。
真希は言葉こそ送らないものの、口で笑みを作りながら頷く。
それに気付いた凌斗も、頷き返したのだった。

「あ、そういえば先輩！
会長が、先輩に会ったら生徒会室に来るように、って」

「呼び出しっ、てか」

「ま、しょうがないね。
あたしも付いてく」

凌斗に言われて、透矢と真希は、千鶴・凌斗と校舎で別れて、生徒会室に向かうこととなる。
呼び出しはもちろん予想の範疇。
生徒会大戦を無事終えて、その事後処理についてであろう、と。


「ーー二年レッド、遊戦名透矢、来ましたーっ！」

生徒会室。
扉をノックし、中にも聞こえるように名乗ってみせる。
すぐに扉は開かれて、いつも通り地影が透矢と真希を出迎えた。

「お早うございます、遊戦名くん、千歳さん」

「よ、朝霧！」

「おはよ、地影」

他の人にはなかなか見せない地影の笑顔。
それでも透矢と会う前よりは、堅物の印象が丸くなったものである。

その後、地影は体調を気遣ってくれて、透矢はわざとらしく元気である事をアピールすると、彼女も安心したように笑顔を見せた。

そうしてから中へと通される二人。

「ーーよ、透矢！
もう、大丈夫なのかい？」

「とうや・・・」

「はい、心配かけました！
よしよし、水花、こっち来な」

快活な炎魅子の挨拶に、透矢も明るく返す。
そしてもう何度もこうして生徒会室に足を運んだり、出掛けたりもしているせいだろうか、
水花の扱いも慣れたもので、自らしゃがんで小さい身体を受け入れてやる。

「ーーおはよう、透矢くん」

「おう、刹那。
昨日は世話かけたーーな？」

そして刹那。
もはや名前が呼びにくい仲ではない二人。
だがふと刹那の方を見ると、彼女はデスクの脇に立っており、
彼女が座っているはずの席には別の誰かが座っている。
その人物は背もたれと共に背を向けており、窓から射し込む光のせいでその正体を知る事が出来ない。

「あ、今日は先生もーーっとと、『理事長先生』も一緒なんだ」

真希がその姿を見て、そう口にする。
真希がわざわざ言い換えたその言葉が指す、席に座る人物の正体。

「『理事長』・・・先生？」

透矢が一度真希を見たあと、再びその方へと視線を戻す。
ーー『理事長』。
このアカデミアに来てからは、聞き慣れていないその言葉。
一体誰を指すのか。
透矢はこちらを向かないその人物に、ただ視線を送り続けた。

「ーー生徒会大戦、制覇おめでとう、遊戦名透矢くん」

「え・・・その声は」

振り向かないまま、ついに開かれた『理事長』の口。
それは聞き覚えある声であった。
何せ、普段の授業やホームルームで聞いている声である。

そして回転する椅子が動き、いよいよその正体が透矢の前で明らかになる。

「や、やっぱり・・・クロエ先生！」

「ーー改めて紹介しておこう。
私がこのアカデミアの理事長。
マナセリア・トゥ・クロエールだ」

初めて出会ったときとはまるで違った雰囲気での自己紹介。
昨日のデュエルで、その真なる語り口を見せていた審判。

このアカデミアの理事長を名乗ったのはーー透矢や真希の担任、クロエであった。