四大天使降臨　作：はにわ改

　
「私のターン、ドローね」

透矢から返された刹那のターン。
カードをドローして手札は４枚となった。
その内の１枚には厄介なチューナーモンスター『混沌天使 リニア』がある。

「（混沌天使の能力を発動するには、光属性か闇属性のモンスターが墓地に必要なんだ。
でも、今、刹那の墓地にはモンスターは１体だけのはずーー）」

強力な起動効果を持つ混沌天使。
だがその効果を使うには墓地から光属性モンスターか、闇属性モンスターを除外しなければならないという、決して安くないコストが必要であるということに、透矢は着目していた。
だからこそ、前の刹那のターンにおいて『女帝の裁き』を発動するタイミングを計っていたのである。
現状は刹那の墓地にモンスターは１体しかいないため、混沌天使の効果をそうおいそれとは発動出来ないはず、と読んでいた。

「ーーうふふ・・・。
リバース・カード、オープン！
『異次元からの埋葬』！」

自分のデュエルディスクを注視する透矢を見て、その考えを読んだのだろうか、
ドローした手札を握ったままの手を前に突き出し、その解答を披露する。

「・・・効果の説明は不要ね？」

「除外されているモンスターを合計３枚まで選択して、墓地に戻す速攻魔法ーー！」

「うん。
私はこの効果で『サミュエル』１枚、『ステルヴィア』２枚を墓地に戻すわ」

にっこり笑う刹那。

ーー『異次元からの埋葬』。

流石凌斗とのデュエルにおいて、透矢に勝利をもたらす要因となったキーカードだ。

墓地にモンスターが足りなくなった場合の刹那の抜かりない戦術。
前のターンでは敢えて発動せず、伏せる事によって罠カードと見せかけるブラフの役割をさせたのも賢しい戦い方である。

「更にリバース・罠カード、オープン！
『カオス・シンクロ・エンゲージ』！」

「な、なんだ？！」

「混沌天使のシンクロ召喚に必要な素材モンスターを墓地から選択、
ゲームから除外する事でそのレベルと同じシンクロモンスターをシンクロ召喚するわ」

「ぼ、墓地から除外して、シンクロ召喚・・・だって！？」

「私はレベル３チューナーモンスターの『サミュエル』と、レベル４モンスターの『ステルヴィア』を除外」

「レベルの合計は・・・７！」

『カオス・シンクロ・エンゲージ』の発動により、墓地に戻されたサミュエルとステルヴィアの魂が再び次元の穴へと吸い込まれていく。
その過程でそれぞれの魂はレベルの数だけ光と闇の球体に分断され、それらが意思を持つように自ら次元の穴へと潜り込む。

「永劫の楽園を夢に見続け、その役割を忘れたる天使ーー。
特異点の彼方に封ぜられしその力を、今ここに！」

３体目となる四大天使ーー。
今、刹那の場へと舞い降りる。

「降臨せよ！混沌天使・・・『ラファエル』！」

銀色の竪琴を携えた光と闇の翼を持つその天使は、刹那の傍らに降り立つと、白く滑らかな両足を斜めに揃えて座り込む。
血のように赤い髪に隠され、項垂れるように俯いたその顔。
まるで眠り続けているのかのように、２つの瞼は閉ざされていた。

レベルは７で、守備力は２８００。
『カオス・シンクロ・エンゲージ』のデメリットにより、このターンは攻撃出来ないため、守備表示で召喚したようである。

「ラファエルの効果、発動。
シンクロ召喚に成功した時、除外されているモンスターを４枚選択して墓地へ戻すの」

「ーーくっ！」

「私は『リニア』、『ステルヴィア』、『サミュエル』、『ソニア』を選択。
墓地へ戻すわね」

ーー透矢はここにきて、自分の認識の甘さ、そして恐るべき混沌天使の能力を改めて痛感する。
今のラファエルの効果により、先の異次元からの埋葬も合わせると、刹那の墓地には５枚の混沌天使が『補充』されて、計６枚となった。
こうなっては最早、混沌天使の力の発動を止める事は出来ない。

「ーー更にラファエルの効果を発動。
墓地から光属性モンスター、『サミュエル』を除外してーー」

新たな四大天使の能力。
透矢は固唾を呑む。

「除外されている混沌天使モンスターを、効果を無効にして特殊召喚する」

「除外されているモンスターを特殊召喚・・・？」

「そう。
ほら、前のターンの最後の方でガブリエルで除外したーー」

「あ、ああっ！？
ま、マジかよ、あいつか！」

そこまで言われてようやく透矢は気付く。
ラファエルが蘇らせようとしている天使をーー。

ラファエルが竪琴を弾きながら、小さく唇を動かしながら何かを口ずさむと、サミュエルの魂が再び次元の穴へと昇華する。
その魂を代償に蘇るのは、地獄の炎を自在に操る裁きの天使（アーク・エンゼル）ーー。

「私のフィールドに舞い戻れ！『ミカエル』！」

前のターンにガブリエルによって除外され、いや在るべき次元の歪みへと回帰していたミカエルが今、再び刹那の場に現れた。

攻撃力は２８００。
原点へと返っているが、それでも高い数値を誇る。

「ミカエル・・・っ！」

悪夢再び。
対象を確定的な滅びに導き、そして圧倒的な攻撃力で抹殺する天使だ。

「安心して。
『今のところ』は、効果は無効にされているから」

その言葉が何を指し示すのか。

このターンの刹那の行動はまだ序奏の段階。
最後の四大天使が次元の歪みの向こうで、その誕生の時を待っていた。