四天王と久遠との再会　作：はにわ改

　
「ーー刹那のやつ・・・あの透矢でさえ手玉にとっちまうか」

「今の遊戦名くんのターン、『アリアス』が出てくるのを、刹那さんは完全に見越してましたね」

「そして刹那はそのアリアスを利用して、この自分のターンの準備を着々と整えた、ってわけね」

ーー観客席。
炎魅子、地影、真希が続けざまに語る。
過去に同じ経験をしたのだろうか、透矢と同調するように表情をしかめていた。

「お兄ちゃん・・・！」

「刹那・・・やっぱり凄い。
でも・・・透矢も頑張って・・・」

真希、炎魅子、地影の口調から既に流れが刹那に傾き始めてる事を悟ったのだろう、千鶴は胸に手を合わせて祈り、
水花は無表情ながらも陰ながら声援を送る。

「ーー見つけた。
もう、こんなに生徒がたくさんいるんですもの、見つけるのに苦労したわ」

「へ・・・？って・・・」

「ふえ？せ、せつ・・・いや、そんなまさかーー」

不意に横から声を掛けられて、その方を向く炎魅子と地影。
続けて真希、千鶴が同じ方向見ると、思わず驚きに声を漏らす。
サングラスを付け、スーツ姿に身を包んだその女性は髪型こそ違え、
今、デュエル場で透矢と向き合ってはずの刹那ーー。

「嘘・・・まさか、久遠・・・っ！？」

「く、おん・・・？」

真希が驚くその表情のままそう口にすると、千鶴が聞きなれないその名前を繰り返した。

「ーー久遠！
久遠じゃないか！」

「炎魅子！」

炎魅子の表情が笑顔に変わり、立ち上がりながら久遠というその女性に駆け寄ると、そのまま二人は久しく会う懐かしさを喜ぶように抱き合う。

「久遠さん、いつ帰って来たんですか！」

「ついさっきよ、地影」

普段冷静な地影も炎魅子と同様に喜びを隠せないらしく、満面の笑顔で立ち上がって久遠を迎えた。

「久遠・・・あたしとは二年振りだよね」

「真希！
去年、どうして『大会』に出なかったの？
てっきりあなたも参加すると思っていたのに」

「うん・・・ま、ちょっとね。
でもまさか今日、会えるなんてーー」

「ふふ、ちょっとしたサプライズ、ってやつよね」

「あはは！」

続けて真希も駆け寄り、炎魅子から離れた久遠と同じく抱き合う。
二年ぶりに会ったという二人。
その様を見れば、離れる前の二人の親しみ深さが感じられる。

「・・・くおん」

「水花っ！
また大きくなったわね！
いらっしゃい、久しぶりにハグしましょ」

そして水花。
真希と抱き合う久遠の足元に歩み寄り、服の裾を指で掴む。
久遠がその存在に気付いて、しゃがんで水花の視線に合わせると、
水花はその胸の中に飛び込んだ。

「あ、あの・・・お姉ちゃん？
くおん、さん？って・・・。
か、神楽坂会長と、その・・・顔がーー？」

千鶴は一人取り残されたように戸惑っている。
無理もない。
何しろ、目の前の久遠という女性はデュエル場で透矢とデュエルしているはずの刹那と顔が全く同じなのだから。
まるでもう一人の刹那が目の前に現れたかのような感覚だろう。

「あ、ごめん、千鶴ちゃん。
この子はーー」

「神楽坂、久遠です。
はじめまして。
真希の知り合いかしら？」

「え、あ、あの・・・は、はい。
な、鳴瀬、千鶴です。
そ、その・・・はじめまして」

「ああ、あなたがあの鳴瀬さん？
真希の幼馴染みの？
会えて嬉しいわ」

紹介しようとした真希と千鶴の間に久遠が水花と手を繋いだまま入る。
人見知りする千鶴は緊張しているようだが、そんな千鶴に穏やかに話しかけながら、そのサングラスを外す。

するとやはりそこには刹那と瓜二つの顔があった。

「ふふ、びっくりしてる。
でも、何となく分かるでしょ？
私は刹那お姉さまの双子の妹なの」

「神楽坂、会長の・・・妹、さん」

「うん、よろしくね。
それと騒ぎになっちゃうから、あまり大声出さないでね」

小さな声で本人より語られた久遠の正体。
それは刹那の一卵性双生児の妹である神楽坂のもう一人の娘、神楽坂久遠。
１度は外したサングラスだが、すぐにまた掛けてしまう。
しかし、炎魅子たちの反応の大きさや、サングラスではその顔を隠しきないことから、既に周りでは久遠に注目が集まっていた。

「んだよ、久遠！
日本に来るならあたしらにも教えといてくれよ！
そしたら盛大に歓迎パーティしてあげられたのにさ！」

「言ったでしょ、サプライズ、ってやつよ。
あ、でもお姉さまには知らせといたのだけど」

「刹那さんからは何も聞いてませんがーー」

「そう。
それじゃお姉さまもサプライズを狙っていたんじゃないかしら？
ねー、水花？」

「水花・・・知らない」

水花が座っていた席に久遠が座り、膝の上に水花を乗せる。
刹那が水花と一緒にいる時によく見る光景であり、その久遠を囲うように炎魅子と地影が座る。

「久遠はね、アメリカのワシントン・アカデミアに留学してたのよ」

「りゅ、留学・・・」

「うん、本当は刹那も行くはずだったらしいんだけど、
どういうわけか、刹那が日本に残って、久遠は予定通り留学したの」

「そ、そうなんだ」

「刹那の両親も今、アメリカにいるから、お陰で刹那とは離ればなれ。
ま、その辺りの事情は刹那もあたしたちに教えてくれないんだけどね」

真希が千鶴に補足している。
初めて知る神楽坂家の事情。
それだけでは全容は知れないが、どこか複雑な事情を感じさせる。

「久遠は一人で帰って来たのかい？」

「ご両親は一緒なんですか？」

「ううん、パパとママはアメリカ。
相変わらず仕事忙しいみたいでね。
あ、でも・・・あ、来た来た！」

炎魅子と地影に応えていると、久遠はこちらに近付いてくる人物に気付いて、その方向に向かって手を上げた。

「フレッド！こっちよ！」

そして声を掛ける久遠。
その方向に皆の視線が向く。

「あ・・・」

その人物は真希のすぐ後ろに来ており、振り替えると高い身長が作り出す影が真希を覆う。

「ーー探したよ、久遠」

偶然とはいえ、限りなく密着した状態の美青年を前にして真希はたじろいだ。
去年、『大会』に出なかった真希が初めて見るその顔。

真希とアルフレッドが初めてそのお互いの存在を知った瞬間であるーー。