光と闇 会長・刹那の混沌を操る力！⑫　作：はにわ改

　
「ーー俺のターン、ドロー！」

ーー透矢のターン。
ドローして手札は３枚。

「（ふぅ・・・、何とかミカエルは破壊出来たかー。
『ラグナシア』のおかげだな）」

前の刹那のターン、透矢はカウンターを決めてミカエルを破壊した。
だが代償として女帝が墓地へ送られてしまっている。
女帝はデッキ・墓地からの特殊召喚が不可なため、１度墓地へ行くと再利用が難しい。
故に回収手段などは確保しておかなければならない。

（ーー透矢。
お前の判断は間違っていなかったな。
あの女傑は・・・我を『呼び覚まさなければ』、勝てぬ相手だろう）

（ーーああ）

（だがギリギリまで堪えろ。
あの女傑に単純は通用しない。
じっと『時』を待つのだ）

（そうだな・・・それにまだ準備が整ってねぇ。
それまで何とか耐えないとな）

（心配するな。
お前の戦士を信じるのだ）

最早、表情１つ崩すことなく、女帝と『会話』出来るようになった透矢。
女帝の鼓舞する言葉に合わせて、『アリアス』がふと透矢の方を向いて、小さく微笑みかけてくれる。
ともすれば、刹那のプレッシャーに押されてしまいそうな中で、心強い戦士の存在。

予断の許さない状況に対して、透矢は気持ちを切り替えて向き合う。

「俺はまず、『アリアス』の効果でデッキから『三騎士 蒼き槍迅』を特殊召喚する！」

アリアスの効果。
墓地の『白銀の盾』をデッキに戻す代わりに、デッキから任意の『三騎士』を手札に加えるか、特殊召喚する効果である。
それにより、デッキに眠っていた３枚目の『蒼き槍迅』が姿を現す。

レベルは４、攻撃力は１９００。

「そして、蒼き槍迅の召喚時効果！
手札に蒼き槍迅が２枚存在する時、ライフを１０００ポイント払って、その２枚を特殊召喚できる！」

「（ふむ・・・流れからして当たり前だけど、やはり出てくる、かーー）」

透矢のライフがここにきて、遂に原点を切る事になる。
これで刹那とのライフの差は実に７２００。
絶望的な大差ではあるが、背に腹は変えられない。

だがその出費に見合った能力であり、場に『蒼き槍迅』が勢揃いする。
そして刹那は動かない。
透矢は内心ほっとする。
刹那の場に伏せられた３枚のリバース・カード。
どんな罠、あるいは布石かは分からないが、常に気を配らなくてはならない。

「よし、３体の蒼き槍迅の力を１つにする！
トライ・フォース・ユニオン、『フォーメーション・フィーア』！」

３体の蒼き槍迅が青い球体へと姿を変えて透矢の頭上で融合。
すると弾けるように光が広がって、青い光の柱を生み出す。

「緩やかに、そして力強く波打つ蒼き水のせせらぎーーその永久に絶える事ない心を切っ先に変え、今こそ目覚めろ！」

光の柱の中で浮かび上がる新たな戦士。
強靭な攻撃力で敵を貫く、蒼き槍を携えた戦士がフィールドに降臨する。

「Ｔ・Ｆ召喚！
『蒼迅麗華 リューゼリッド』！」

水が流れる様を表すような青き髪、足元から吹き上げる水飛沫が意思を持つように周りを取り囲む美しき戦士、『リューゼリッド』。

刹那が自分のターンでシンクロ召喚すれば、透矢はＴ・Ｆ召喚。
毎ターンの互いのフィールドに舞い踊る強力モンスターに、観客は歓喜の声を絶やす事はない。

「よっし、頼むぜ、リューゼリッド・・・ってあれ？」

無事に召喚できた頼れる戦士に声を掛けた透矢だったが、ふとその表情を見て異変に気がつく。
顔が赤く染まっており、眉がつり上がったその顔色。
怒っているようでもあり、何かに堪えているようでもある。

「ど、どした、リューゼリット？」

思わず声を掛けてしまった透矢。
するとーー。

『ーー召喚の度に、恥ずかしい口上を垂らすのは止めろ！
お前は格好いいつもりでやってるんだろうが、こっちは恥ずかしいんだ！』

「おぉお？！ リューゼリッドが喋った？！
すげぇ！やべぇ！」

どうやらリューゼリッドは透矢がＴ・Ｆ召喚をする度に口にする、所謂『召喚口上』が恥ずかしくて、怒っているようだ。
ところが透矢は初めて聞くリューゼリッドの声に、思わず喜びの声を上げてしまう。

「と・・・透矢くん？」

これには刹那も驚く。
突然大声を上げたかと思えば、モンスターが喋った、とは何事か。

「あぁ、悪い、悪い。
何でもないよ、気にしないでくれ」

「・・・？」

気にしないでくれ、と言われても気にせずには居られない。

「（危ねぇ、危ねぇ・・・でも、前にラグナシアが言ってたのはこの事だったのか・・・）」

透矢は口を押さえて、自分を制止する。
ラグナシア、即ち女帝は以前言っていた。
ラグナシアのみならず、他の戦士の声もちゃんと耳を傾ければ、聞くことが出来る、と。
それが今日、この時、初めてラグナシア以外の声を聞いたのだ。
透矢は気持ちが高ぶらずには居られない。

（へへ・・・ま、今日も１つ頼むぜ）

『ーーふん、誰がお前の頼みなんか聞くか』

（ええっ、それじゃ困るって）

『私はあくまでラグナシア様の命の元に、お前に付き合ってやってるだけだ。
勘違いするな！』

それだけ口にすると、素っ気なく目を反らしてしまうリューゼリッド。
透矢は困ったように頭をかく。

『ーー心配しないで、透矢』

「へ？」

また別の声。
その方向にはアリアス。
優しい笑顔でこちらを見ていた。

『リューゼは素直じゃないから、こういう風にしか言えないの。
本当は透矢の事、認めてくれてるんだから』

『あ、アリアス！
な、何を世迷い言を！』

『ふふ・・・頑張って、マスター。
私も信じてるから』

アリアスの言葉に、顔を赤くして訴えるリューゼリッド。
そして言葉は少ないがそれだけ告げると、また正面に向き直ってしまう。
いつも何かと透矢を気遣うように視線を送り続けてくれていたアリアス。
その彼女の一言は、透矢に万人の味方を与えたような感覚をもたらした。

「よし・・・改めて頼むぜ、二人とも！」

透矢が声に出して、アリアスとリューゼリッドに語り掛けた。
ーー頼りにする戦士の声。
その声援を受けて、いよいよ、透矢の怒涛の攻撃が始まろうとしていた。