そして世界大会へーー　作：はにわ改

　
「刹那の妹・・・久遠ーー？」

「そう。
宜しくね、透矢くんーーで、いいよね？」

呆けている透矢の右手を掴むようにして、無理矢理握手の形を作る久遠。
目の前で笑顔を見せる久遠。
それは刹那が普段見せる表情そのままである。

「ーー透矢くん、前にちょっと話した事があったよね。
私に妹がいる、ってーー覚えてる？」

「あ、そういえばーー」

水花とのデュエルの後、倒れた水花の保健室を運んだ際に、透矢は刹那に水花の過去について聞かされた事があった。
その時、話の流れの中で少し出てきた刹那の妹の存在。

だが今、こうして言われるまでは思い出すこともなかった、ほんの記憶の片隅に置かれていた程度の事。
それが今、形となって透矢の目の前に現れたのだ。

「くす・・・そんなに見つめられたら、恥ずかしいわ」

「あ・・・ごめん」

「ふふ、気にしないで。
別に不快ではないから」

久遠に言われて慌てて目を反らし、握っていた手を離す透矢。
何が可笑しいのか、そんな透矢の反応に久遠はしきりに笑みをこぼしていた。

「双子・・・だったんだな」

「驚かせてばかりでごめんなさい。
本当は昨日、デュエルの後で紹介するつもりだったんだけどーー」

刹那を見る透矢。
瓜二つの顔にまだ違和感のようなものは感じながらも、徐々に気持ちを落ち着かせる。

「ねぇ、透矢くん。
私と刹那お姉さま、こうして並んだら区別つけられる？」

軽い足取りで床を蹴り、刹那の横に並ぶ久遠。
同じ顔が２つ。
確かに顔立ちは区別の付けようがないが、髪型にそれぞれの個性が表れ、また表情の作り方にも微妙な違いがある。
少なくともこの段階では透矢は二人の識別が付けられそうに思えた。

「ーー止めなさい、久遠。
透矢くんが困ってるでしょ。
それと理事長先生の前で、失礼な行いは慎みなさい」

「はーい、お姉さま」

加えてあくまで透矢の印象ではあるが、性格に違いがあるように思えた。
刹那はどちらかと言えばクールであり、喜怒哀楽の感情をストレートに前面に出さないが、
久遠は刹那と比べてどこか幼さが感じてとれる。
さっきの床を跳ねるような足取りも、こういう場では刹那はまずやらないだろう。

だがそんな二人の区別よりも、透矢が気になったのは、刹那の『不機嫌そうな』表情である。
それが何を意味するかは彼にも分からないがーー。

「ーーもう一人、紹介しておきたい。
彼だ」

クロエがそう言うと、そのもう一人が透矢と肩を並べるように傍らに立つ。
ただし身長の差があるため、並んだ肩には高低差が生じているが。

そしてその姿を、またも透矢は異質なものを見るような視線で捉えてしまう。
見上げるほどの高い身長、白い肌に線の細い輪郭。
高い鼻が目立つ甘いマスクに、地色である金色の毛髪。
クロエ同様に、異国の血を引く者だというのはすぐに分かった。

「千歳は昨日会ったそうだが、改めて紹介しておこう。
彼はアメリカのデュエル・アカデミア、ワシントン校から来た、
『アルフレッド・ジェス・ブライアン』だ」

「デュエル・アカデミア、ワシントン校・・・？」

「そう。私もね」

クロエの紹介に、久遠も手を上げる。

デュエル・アカデミア、ワシントン校。
デュエル・アカデミアという組織が今や世界中に普及しているというのは透矢も知っているが、まさか今日その世界の広さをまざまざと見せられようとは思いもしない。

「アルフレッドだ。
よろしく頼む」

「あ、ああ。
ゆ、遊戦名透矢、だ。
よ、よろしくな」

まずアルフレッドから透矢に向き直り、続けて透矢も向かい合い、二人で自然と握手を交わした。
しかしアルフレッド側からはやや強めの力がかかり、
痛いわけではないものの、透矢は小さく声を漏らす。

「えっと・・・アルフレッド、でいいかな？
あたし、千歳真希。
昨日はろくに紹介も出来なかったけど、よろしくね」

「ーーああ。よろしく」

すると透矢の脇から真希もアルフレッドの前に出て、挨拶と握手を交わす。
やや冷たい印象のアルフレッド。
透矢と真希は一度顔を見合わせて、お互いが感じた印象を意志疎通させていた。

「ーーさて、軽く紹介も済ませたところで、本題へと入りたい。
刹那の妹、久遠とアルフレッドはワシントン校のトップデュエリストだ」

「トップ、デュエリスト・・・」

透矢は久遠を、そしてアルフレッドをもう一度見る。
ワシントン校が果たしてどれ程のレベルの高さを持つかは分からないが、トップデュエリストと言われるからにはその実力は凄まじいものだろう。

「二人には次の大会までの１ヶ月間、当校に在留してもらう事がワシントン校との協議で決まった。
その１ヶ月間、二人には当校の生徒の一人として過ごしてもらう事となる」

「大会・・・？」

久遠とアルフレッドが１ヶ月、在留という形でこのアカデミアで学舎を共にする。
それがクロエから伝えられたわけだが、その中に出てきた『大会』という言葉が透矢は気になった。

「その事なんですが、理事長。
あと二人、一週間後に来日する予定です」

「ほう・・・つまり、大会におけるワシントン校のメンバーが全員揃うわけか」

「はい。
機会があれば、こちらの代表選手と親善試合、など如何かと思いまして」

「いいだろう、前向きに考えておくとしよう」

「ありがとうございます」

「当校の生徒たちのいい刺激にもなるだろうからな」

久遠と協議するクロエ。
するとそれを聞いた炎魅子が嬉しそうに騒ぎ、地影もそれを押さえながらも顔を綻ばせている。

「あ、あの・・・クロエ先生。
た、『大会』って？」

一人置いてきぼりの透矢がクロエに尋ねた。
すると顎杖を付いていた手で口元を隠すようにしながら、上目遣いで睨むようにクロエは透矢を見る。

「大会、とは１ヶ月後に開催される全国のアカデミアが集う世界大会のことだ」

「世界・・・大会」

「全国のアカデミアから選りすぐったメンバーを募り、世界一のアカデミアを決めるべく、普段の努力の成果と、身につけた技巧を争わせるーーデュエル大会だ」

「全国のデュエリストと・・・」

「・・・そうだ」

「すげぇ・・・」

クロエの話を聞いて声を震わせる透矢。
全国のアカデミアから選りすぐったメンバーで、大会ーー。
透矢の性格を考えれば、それを聞いて気持ちが昂らないはずがない。
予想通りの反応だからだろうか、クロエも手で口元を隠しながらも、笑みを浮かべている。

「ちなみに前回の大会で決勝に残ったのは当校と久遠が率いるワシントン校だ」

「け、結果はーー？」

「私とアルフレッドの勝ちでしたわ」

久遠が得意気に結果を告げて、クロエは口惜しそうに目を閉じる。

「そこで・・・透矢。
お前に頼みがある。
これは昨日のデュエルの直前で私が言った『条件項目』と受け取ってもらって構わない」

「条件ーー」

昨日のデュエル。
勝った方が生徒会長になるという戦いで、透矢は勝っても辞退するという意志を、条件付きでクロエは認めた。
その時語られなかった内容が今、語られる。

「透矢、お前も大会の代表メンバーに選抜したい」

「お、俺？
俺がその大会に出られるんですか？」

「ああ」

「で、出ます！
是非、出させてください！」

「ふふ、聞くまでもなかったな。
お前なら二つ返事で快諾してくれると思っていたよ」

透矢には願ってもいない話だ。
大会のその内容を聞いて心を奮わせていたというのに、実際に自分が出場出来るのである。
透矢に拒む理由があるはずもない。
透矢の目はたちどころに輝きを増すのだった。