逆転の切り札！ 女帝の力を解放せよ！⑥　作：はにわ改

　
「な、なんだ・・・っ！？
俺の中の『何か』が・・・吸われる？！」

ーー眩い光を受けながら透矢が感じる異様な感覚。
それをありのままに感じた事を言葉にしたのが、透矢が思わず口走った内容。
透矢の中にある『何か』が流動的に、『ラグナシア』のカードへと吸われる感覚。

「（俺の体力が・・・吸われているってのか？！）」

その『何か』とは、あるいはラグナシアが分けてほしい、と言った体力ではなかろうか。
何故ならば、徐々に身体の力が抜けていくような感覚も同時に味わっていたからである。

だがそれからすぐ。
不意に光がカードに収束するように消え去った。
同時に刹那、そして観客席にいる久遠とアルフレッドに起きていた異変も収まる。

強い光に視力を奪われていた透矢だが、少しずつ慣らしながら『変貌』を遂げたカードを見据える。

「あ・・・」

カードは『覚醒』した。
そう、ラグナシアの言うように、透矢の体力を、いや魂を吸い取り、封印されていたカードの力を目覚めさせたのである。

「これがあんたの本当の名前・・・姿・・・」

未だ観客が騒然としている中で、透矢はカードを見つめ続ける。
絵柄もテキストもなかったカード。
だが今ではラグナシアの真の姿が描かれ、ラグナシアと書かれていたはずの名前すら変わっている。
現実に起きた『奇跡』を透矢は目に焼き付けていた。

「あれ？でも・・・」

すぐに透矢はおかしな点に気付いた。
それはカードテキスト。
そこには確かに能力が書かれているが、明らかに空欄の部分が大きい。

『それが今の限界だ』

（ラグナシア？
限界ってどういうことだよ？）

『ーー言っただろう、お前にはまだ早い、と。
私の能力の全てを開放するレベルに至ってないのだ』

（レベル・・・？）

『本来なら、お前が時を重ね、経験を積む事で、私がそれを糧とし、やがて本来のカードとして覚醒するはずだった』

（よく分からないけど・・・とにかく今は、この能力しか使えないのか？）

『今、そのカードはお前の魂を吸収し、無理矢理に覚醒させた状態だ。
もっと吸収すれば完全に覚醒させることも可能だが、そんな事をすればお前の身体が持たないからな』

（そうなのか・・・）

『だがこの状況ならば、その能力だけで充分のはず。
さぁ・・・後は我が魂の欠片を束ねるだけだ』

（分かったぜ！）

ラグナシアの言わんとする事、その全てを完璧に理解するのは到底無理だが、
とにかく今の自分にはまだ使いこなせないということ。
だがラグナシアの言う通り、その一端に過ぎない能力だけでも、このデュエルを制する事ができる。

「ーー透矢くん？」

「え？あ、ああ・・・悪いな、刹那。
俺、固まってたよな」

「ううん、でも本当に大丈夫？」

「ああ、大丈夫だ」

刹那の気遣いに笑顔を見せながら応える透矢。
ただ透矢は己の行動が原因で、刹那にも異変が起きていたということは、あの眩い光に視界を奪われていたせいで認識していない。

ただ観客はまだ落ち着きを取り戻せていない。
あの光は一体何だったのか、と皆が皆、同じ様な事を口々にし、その声が重なって一種の騒音となる。
それはデュエル再開の雰囲気の妨げになるほどだ。

「ーーＳＨＵＴ ＵＰ（黙れ）！！」

そんな騒々しさの中、放たれた一喝が一気に場を凍りつかせる。
マイク無しで会場全体を突き抜けるような鬼の怒号。
透矢も思わず耳を塞ぎそうになるが、ただ一人、刹那だけは何が可笑しいのか小さく笑い声を上げる。

ーー声の主はクロエ。
普段の優しい先生、という姿を思い浮かべれば、まさかという声の正体である。

「ーー今のは、デュエルディスクの読み込み異常による一時的な発光現象だ！
何ら不思議な現象ではない、時折起きることだ！」

続けてクロエは観客席を見回しながら、先の現象についてそう断じるように会場に声を轟かせる。

「それにまだデュエルは終わっていない。
デュエルの妨げをするような輩は、即刻この場所から出ていけ！」

普段の英語混じりの片言でない、非常に歯切れよい怒声。
それだけではなく、クロエ本人から放たれる異様な圧力に誰も逆らうことは出来ず、もはや声一つ漏れない静寂を作り上げた。

「ーーさぁ、透矢！
お前がそのカードを握ってから、結構な時間が過ぎている！
流れを止める、これ以上の遅延行為は許さん！」

「は、はい！
すいません！」

「ぐずぐずするなっ！
日本男児ならば、決断よく速やかに行動しろ！」

「はい！
分かりました！」

まるで軍隊のようなクロエの一喝と、鋭い視線で睨まれて、
透矢もわざとらしく背筋を伸ばして姿勢を正しながら返事をする。

（何だよ、ありゃ・・・クロエ先生、普段は猫でも被ってんのか？）

クロエの豹変に戸惑いつつも、とにかく場が静まったことで、透矢は改めてこのデュエルに向き合う。

（よし・・・んじゃ行くぜ、ラグ、ナシア・・・とと）

いよいよラグナシアを召喚、と行きたい透矢だったが、そこへ急激な目眩に襲われる。
加えてまるで睡眠が浅いときに経験するような、身体の重みを感じたのだった。

『・・・大丈夫か、透矢』

（あ、ああ・・・！
それじゃ改めて頼むぜ、ラグナシア！）

心配そうな声に、笑みを作る透矢。
重い右腕を動かし、デュエルディスクへと手を伸ばした。

「俺は、３体の『女帝』でＴ・Ｆ召喚！」

いよいよ、ということで力強い声でそう宣言した透矢。
だがそうやって身体に力を入れる度に、頭を締め付けるような感覚にも襲われていた。

かくして、フィールドに並んだ３体の女帝が太陽のように光輝く球体へと姿を変え、それが一つに交わると巨大な光の柱を生み出す。

それによって呼び出されるのはーー三騎士を束ねる『女帝』の真なる姿。

ーー其の名は。

「ーー『ラグナシス・アレクシア』！！」

デュエルディスクへと納められるそのカード。
遂にその圧倒的たる力を秘めた女帝の力が、開放されようとしていた。