第２２話　夏休みの始まり　作：にしん

　学生なら誰しも喜ぶであろうこの時期。お盆の時期を超えるあたりでいつものコンビニでバイトはしていれど暇すぎてダメになりまくっているこの頃。だけど今日はあの日だ。

というよりさっきからめっちゃインターホン鳴ってる。犯人は丸わかりなのだが、その気持ちは俺にもよくわかる。だけどここまでされるとため息しか出なくなる。これに起こされたからかもしれない。

要「結花、うっさい」
結花「おはよーーー！遊二！今日はプール！遊戯王！」
要「どっちだよ・・・っと、瀬戸さんとマイケルもいるのか」

既にリュックや肩掛けバッグを持ち、キャリーバッグを引いているいかにも準備万端の三人がそこにいた。子供っぽい服装の結花は置いといて、大学生というより大人な服装でほんのり色気を感じる瀬戸さんと、めっちゃサマーボーイといったトロピカルな半袖上下に麦わら帽子にデュエルディスク型の浮き輪を担いだマイケル。らしいなぁ。みんなを見てたら俺も相応の格好をしなくては。

要「着替えてくるからちょっと待ってろ」

ここは“シノビのユージ”らしく忍者の格好・・・うん、普通に行こう。二泊三日の小旅行だし、はっちゃけつつも普段通りで。

要「うし、行くか」
結花「れっつごー！」
静流「プールなんて何年ぶりかしら。それに今回は念願の・・・」
マイケル「水着でデュエルデス！絶対にしまショウ！」
要「・・・一応デッキ持ってくか」

四人で九良駅行きの路線バスに乗る。一駅でコンビニ前なので、俺たちとは世代が違う後輩が乗ってきた。俺たちに気づくとペコリと頭を軽く下げ、少し戸惑ったような表情で最後列に座った。

結花「おはよ、恵那ちゃん」
恵那「お、おはようございます。今日はよろしくお願いします」
要「今日だけじゃないぞー」
マイケル「ＹＥＥＥＹ」
恵那「あっ、二泊三日でしたね・・・えと・・・」

おしゃべりしているとあっという間に九良駅。一応電車でも高島市へ行くことはできるが、今回の行きはプールのチケットを利用してシャトルバス。楽しみにしすぎた俺たちはそのシャトルバスが来る数十分前に到着し、駅内の喫茶店でゆっくり。俺たちといえばもちろん話題は・・・

マイケル「次の環境は絶対に＜サンダー・ドラゴン＞デス！」
静流「確かに＜超雷龍サンダー・ドラゴン＞と＜雷鳥龍サンダー・ドラゴン＞は凶悪だけど、私は＜オルフェゴール＞だと思うなぁ」
要「俺は＜魔術師＞か＜未界域＞だと思う」
結花「あたしは＜影忍＞かなー」
マイケル＆静流「それはないない（デス）」

ガチ勢の会話だ。さっきからずっと環境デッキについて考察している。そしてボケをかます結花。俺はコーヒーを飲みながらさっきから出まくるデッキについてスマホで軽く調べていた。

結花「遊二ー、あたしついていけないから＜オーロライト＞が最強でいいよね？」
要「＜影忍＞に勝ったことないよな？」
結花「ちぇー」

マイケル「あ、でも新しいのが出た＜閃刀姫＞も捨てがたいデスネ・・・」
静流「あれは出張先次第だからねぇ・・・」

そして世代が違うから会話に入りづらそうにしている恵那さんは静かにジュースをちびちびと飲んでいた。

要「恵那さんも結構なガチ勢だけどこの廃人二人が出したデッキ作ってなかったよなぁ、あのレンタルデッキ」
恵那「はわっ！？ご、ごめんなさいっ」

突然話を振られてびっくりして何故か謝る恵那さん。

結花「遊戯王の話題なんだし混ざれば盛り上がるのにー」
恵那「わ、私は気になったカテゴリのデッキだけ作ってるから・・・」
要「むっ、言われてみれば確かにそうだな」
結花「かわいいカードが好きなんだよねー恵那ちゃん」
要「確かに＜マドルチェ＞や＜ウィッチクラフト＞、＜天気＞や＜憑依装着＞だったなレンタルデッキって」
恵那「はう・・・最近は＜ドラゴンメイド＞が気になってますけど、綺麗なのも気になってます」

綺麗なカードか。＜魔術師＞や＜宝玉獣＞とか＜ジェムナイト＞だろうか。


　そんなこんなであっという間にシャトルバスの時間。遊戯王の話題に満足したのか瀬戸さんとマイケルはうっきうきの様子でシャトルバスに乗り込んだ。俺が乗り込もうとした時、結花に肩を叩かれる。振り向くと顔を近づけてきた。

要「おっ？」
結花「恵那ちゃん、あたしたちの輪に入りづらそうにしてるからリードよろしくねー」
要「結花も手伝ってくれよ？」
結花「あーい」

そして結花はバスに乗り込む。一瞬だけどザ・子供な結花が年相応に感じたな。心はちゃんと成長しているということか。

俺も続けて乗り込もうとする時にさっきから後ろで空気になりかけていた恵那さんの方を見ると案の定困ったような表情。キャリーバッグをトランクに入れて空いた両手を胸に当てて縮こまっていた。ここは早速リードするしかない。

要「まぁ、今回の小旅行は一緒に楽しまないとな。行こう」

俺が手を差し出すと、恵那さんはびっくりしたような表情。そして少し顔を赤くして戸惑いながら、片手で俺の手をぎこちなく握ってくれた。

結花「お菓子もあるよー」
要「だってさ」
恵那「は、はい・・・あの、お兄さん」
要「ん？」
恵那「気を使ってくれてありがとうございます」
要「うむ」

そしてプールに到着するまでバスの最後尾で恵那さんを中心としたスピードデュエルがお菓子を食べている小さな音の方が目立つぐらいには静かに行われた。というより案の定みんなデッキを持ってきていたようだ。メインはプールと観光なんだけどなぁ。気が付けば恵那さんはすっかり俺たちの輪に馴染んだようで、緊張や戸惑いはなくなっていた。


要（というか何故俺に任されたんだろうか）